超次元ロマン海域アズールねぷーん   作:アメリカ兎

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母港は快晴。本日の天候、艦載機時々指揮官

 

 本日も快晴なり。補佐官生活にも慣れてきた。赤城にだけはどうしても慣れない。なんだあの殺意と敵意。人をクマか何かと勘違いしているんじゃなかろうか。その赤城も狐の耳と尻尾が生えているのだが、美人だけに何も言えない。ちくしょう男に生まれて悔しい。でも美少女に生まれたいとは思わない。

 片付けの出来ない指揮官に代わって倉庫整理をすること一ヶ月。どうにかこうにかスッキリしてきた。気がつけば補佐官よりも倉庫番という評判が広がっているがあながち間違いじゃないのがとても困る。

 ネプテューヌ達は一度ゲイムギョウ界に戻った。しかも人に何の断りもなく。置いてけぼりを食らった俺をレーベが大爆笑したのは忘れない。あの野郎いつか泣かす。

 「KAN-SEN」との交流は大半は好意的なもので非常に円滑に仕事が進む。赤城を除いて。

 指揮官と艦隊を観察してわかってきた事がある。この母港で一番敵にしてはいけないのは重桜艦隊だ。要注意人物が一人や二人で済まない事が判明。筆頭、赤城。次いで、愛宕。そして密かに綾波も危険だったりする。意外に思われるかも知れないが、戦闘の活躍を聞くと非常に恐ろしい。単艦で敵陣深く切り込んで沈めて回る姿は「鬼神」の名に恥じない奮闘ぶりだ。ただ本人が感情を抑えているのが幸い。

 ユニオンは個性的だが、それだけに留まる。これといって危険人物は──居た。妹絡みになると誰彼構わず威嚇するポートランド。何度か他の子と口論している姿が見かけられた。妹のインディアナポリスが世界で一番と信じて疑わないのは分かるがサンディエゴに噛みつくな。話が噛み合っているようで噛み合わない会話が六時間続いた時は頭がどうにかなりそうだった。それはそれとしても妹は可愛い。俺の妹も可愛いけどな。なっ!!!

 ロイヤルネイビーは王家艦隊と自負するだけあって気品のある振る舞いをする子が多い。特にロイヤルメイド隊。ロングスカートは良い文明。ミニスカートなのもいたりするが、それはそれで。

 鉄血艦隊が一番良く分からん。なんなんだアイツ等。人を玩具か何かと勘違いしていないだろうな。お前のことだぞプリンツ・オイゲン。暇があれば人の事をからかいやがって。いつも意味ありげに微笑んでいるが勘違いするだろう、ちくしょーめぇ。かわいいのが腹立つ。あとデカイ。何がとは敢えて言わないでおくが、色々とデカイ。とても揺れる。それで思い出したが、全体的に艦隊の発育が良い。健全な青少年の何かが危ぶまれる。

 

 ──しかし一番の謎は指揮官だ。名前は教えてくれそうにないが、別に問題はない。

 関係は良好。むしろそのせいで赤城に目を付けられている。お前指揮官に近づくなら男でも女でも見境なしかこんちきしょう。ただ指揮官が牽制しているからか、まだ直接的な戦闘は行われていない。

 陣頭指揮は優秀な部類だ。仕事も出来る。ただ残業だけは絶対に何があろうと譲らないので定時キッカリ。時間に厳しいかと思えば遅刻には笑顔で許す。

 「みんな仲良く」が母港のルール。いつもニコニコと笑っている。多少のやんちゃも笑って許す姿はまるで仏様。仕事の邪魔をされても笑顔で許すが俺ならキレる。

 時々電話をかけている姿が見られるが、どうも相手は知り合いらしい。友達いたのか指揮官、等と失礼な事を考える。

 過去の話から整理すると、平凡な小中学生時代。甘酸っぱいごく普通の高校生活。バイト先の先輩に恋したりフラレたり、趣味のゲームをやりこんでいたりと特徴無し。何事もなく学校卒業、それからあちこちで仕事をしていたが特にやりがいが感じられなかったので、提督業に就いた。とのこと。今では毎日楽しいと笑顔で言っていたが本心からだろう。いやお前そりゃ楽しいだろうよ、こんな美少女だらけの生活。

 ふと気になって、誰か気にかけている子はいるかと聞いてみた。気恥ずかしそうにしながら言葉を濁されたのでコブラツイストで聞き出した。なんでも生まれ故郷の艦船ということもあってか重桜艦隊は気にかけているらしい。

 しかし、結局みんなが大事とのことなのでパロスペシャルで絞めといた。あとやたらこの指揮官はエンターテイメントに対する理解がある。ゲームにアニメに漫画に小説と、幅広い。だからか、ネプテューヌやベール、ブランとも関係良好な模様。ノワールも仕事の敏腕ぶりは評価していた。

 

 そんなわけで──本日も元気に朝から補佐官としてのお仕事が始まる。最近指揮官の仕事の補佐よりも明石の手伝いが多いのだが誰か説明してくれ。

 

 

 

「よぉ補佐官」

「なんだ、レーベ」

「ここでの生活には慣れたか?」

「一月も居たら流石に慣れる」

 朝一番に顔を見せてくれたレーベと並んで歩く。挨拶も程々に。

 本日のお仕事は、まぁ大体代わり映えのしない作業。レンジャー先生の授業は数日前に卒業してしまった。知識の吸収速度がおかしいと泣いていたような気がするが多分見間違い。

 

 平和だなー、とか思っていたのも束の間。

 目の前を駆け抜ける艦載機。走り抜ける太刀筋。咲いては散りゆく火花。早起きは三文の得とか考えたやつはどこの誰だ。朝から地獄の六文銭要求されるところだった。

 誰かと思えば、愛宕が日本刀を抜いている。飛び回る艦載機を切り落としながらその場から飛び退いた。

 こんなことをする相手といえば一人しか思い浮かばない。レーベと二人で視線を向けた先に、やはりいた。

 重桜艦隊最強の航空戦力、一航戦が赤城。いつにも増してメラメラと嫉妬の狐火が燃えている。

 

「ふふ、うふふふふ……! 獅子身中の虫とはこのことかしらぁ……」

「あらあら、ふふふ。何のことかしら~?」

 にっかり笑う愛宕と赤城。通れないので他所でやれ。

 

「レーベ。どっちか止められるか」

「駆逐艦には荷が重すぎる仕事だ……」

「だろうな、すまんかった」

「補佐官、なんとかしてくれよ」

「すまんが関わり合いになりたくない」

 エヌラスとレーベのことなどアウトオブ眼中。二人がどうするか考えていると、レーベの頭に柔らかくも重量感のある二つのお山が乗せられた。誰かと思えばプリンツ・オイゲンが眠そうにしている。

 

「おはよう。何の騒ぎ?」

「朝から重桜がハッスル中」

「俺の頭に胸を乗せるな。重たいだろ、プリンツ」

「ごめんなさいね、肩が凝るの」

 ブランが聞いたら暴走しそうな言葉に、今この場に居合わせなくてよかったとエヌラスは心底思った。

 目の前で繰り広げられる激戦に、姉妹艦である高雄と加賀も遅れて合流する。

 

「すまない、拙者の妹が……」

「姉さまが迷惑をかけて、本当に申し訳ない」

「謝罪するならどうにかしてくれ、アレ」

 とても楽しそうに笑い合いながらにらみ合う愛宕と赤城を指すが、二人は言い淀みながら顔を背けた。頼むから現実を見てくれ。お前の姉妹だぞ。

 

「補佐官、貴方が止めたらいいじゃない。できるでしょ? それとも何? 女に手は上げられないとか言っちゃう口?」

「暴れるなって女神から釘刺されてるので無理」

「今はいないでしょ。ちょっとくらい」

「告げ口されたら俺は最悪死に至る」

「変なところで真面目なのね」

「やかましいわ。お前がどうにかしろ、プリンツ」

 んー。と悩む素振りを見せているが何も考えていない。しかし、何か思いついたのかエヌラスに向けて微笑む。

 

「そうねぇ。それじゃあ……貸し、一つよ?」

 結んだ髪を指で梳きながら、プリンツ・オイゲンが無造作に踏み出すと艤装を展開した。

 衝突する二人の間に割って入り、堅牢な装甲で愛宕の日本刀を受け止める。赤城には機銃を突きつけて、主砲を左右に向けていた。

 無言でエヌラスとレーベ、高雄と加賀は耳を塞ぐ。

 

「drei.zwei.eins──Feuer!」

 よりによって実弾で。プリンツ・オイゲンは愛宕と赤城に向けて主砲を撃った。

 咄嗟に艤装を展開したことで防御した愛宕が砲煙から飛び出す。赤城もまた艦載機を犠牲にして直撃は免れていた。水を差された二人の厳しい視線を受けながらも、涼しい顔で展開していた艤装を収納する。

 

「朝から盛んなのね、重桜は」

「……言ってくれる……!」

「困っちゃうわねぇ。ええ、本当に──」

 二人の手が止まっている隙に、エヌラスは一拍。それに気づいた愛宕と赤城が艤装と艦載機を収納した。

 

「なんで喧嘩してんだ、お前ら」

「あらぁ、補佐官。おはようございます」

「ごきげんよう補佐官。加賀も一緒だなんて奇遇」

「いや、姉さま。私はさっきからいたよ……」

「事と次第によっては指揮官に報告しなきゃならないんだが──」

 サッと顔が青ざめる愛宕と赤城が顔を見合わせる。

 

「えっと、それは……」

「いやほら、補佐官だし。報告義務あるし。俺も迷惑したし、場合によっちゃ目を瞑ってもいいんだけど」

「この雌犬が」

「犬……? それは拙者達のことか、聞き捨てならないな」

「この女狐が」

「姉さまの事と分かっているが、言われると腹が立つな」

 

「うろたえるな小娘共ぉ!!」

 エヌラスが殺気立つ高雄と加賀の胸ぐらを掴んでぶん投げた。愛宕と赤城が受け止めるが、バランスを崩している。

 

「ええいなんだテメェ等、朝からそんな血の気が多くて結構だな! 低血圧気味な俺もファッキンホットだわ、眠気も冴えるわアホか! 寝起きドッキリってレベルじゃねぇぞ、うっかりしてたら巻き込まれて寝起きぽっくりだよ! そんなうまい具合に死んだら死んでも死にきれねぇよ! 地獄で同情されるレベルだっつうの! それで喧嘩の原因言ってみろ!!」

 一息にまくし立てる姿に、愛宕がポケットを探る。

 取り出したのは、一枚の男性用下着。それを見て赤城が飛びつこうとしているが、ぐっと堪えて我慢していた。

 

「指揮官の下着」

「すぅー……───しきかぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!!!」

 あらん限りの声でエヌラスは叫んだ。

 

 

 

 あえなく御用となった愛宕と赤城を指揮官の前に突き出して事情説明。

 

「あ、ボクの下着。いやーなんか一枚足りないと思ってたんですよねー」

「言いたいことはそれだけかお前は!? 他に、なんか、こう、言うことあるよな!? いっぱいあるよな!? なんで下着盗まれてたとか色々あるだろうお前!?」

「えっ、欲しかったから盗んだんじゃないんですか?」

「お前、おまえぇぇぇえええっ!! 指揮官おまえぇぇぇあああっ!!! そうじゃないだろうよぉなんかさぁこうさぁ違うよなぁ!?」

「だって正面から「下着ください」なんて言えないじゃないですか! じゃあ盗むしか無いですよね、だって欲しいんですから!」

「アホかお前は、そんなん欲しかったらそういう関係になるまで我慢すりゃいいだろうがアプローチの仕方色々あるだろうがその過程を端折って盗み働いたらそれこそ犯罪に走ってダメだろうがちなみに言っておくと俺はそういう趣味はないからちょっと理解しがたい壁が今お前との間にできたことを報告しておくからな指揮官!!! あとお前ら二人はこの場で脱ごうとするんじゃねぇぇぇぇぇっ!!!!」

 スカートに手を入れる愛宕と赤城を止めてからエヌラスは深く息を吸い込み、四つ数えてから吐き出した。

 

「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。下着くらい」

「いいか指揮官。こういう奴らは甘やかすとダメだ。とことんつけあがる。下着くらいならーとか言ってると身ぐるみ剥がされるどころか合意と見て事に及ぶ可能性があるから絶対に甘やかすな」

「ボクはどちらかというと甘えたい方ですねー」

「はっはっはっはっはっはっは、俺の話を聞きやがれぇぇぇぇぇっ!!!」

「アァァァァァッ!?」

 肩に手を置いて。それから一瞬でエヌラスは指揮官の腕をロックした。ギブアップサインに拘束を解く。

 

「お、折れるかと思った……!」

「二百本あるんだから一本くらいいいだろ」

「アレ!? えっ、あっ、はい!? アレ!? 腑に落ちない言葉が今聞こえた気がする!」

「で? どうすんだ、コレの処分」

「うーん、そうですねぇ。二人とも反省してるみたいですし、今回は厳重注意ってことで」

「はぁ~……。お前がそう言うなら、今回はそういう事にしとくか……」

「ダメだよー二人とも。迷惑かけちゃ。言うことあるんじゃない?」

『すいませんでした……』

「うん、よろしい。補佐官殿もこれで許してあげてください」

「……ああわかったよ。次から他所でやってくれ、頼むから」

 指揮官の寛大過ぎる心に愛宕と赤城が感動しながら頭を下げる。

 しかし、その直後に同時に挙手した。

 

「指揮官様! 一航戦赤城、一生のお願いがございます!」

「指揮官、お姉さんの頼みを聞いてくれない?」

「うん、いいよー。何かな?」

『下着くださいっ!!!』

「テメェ等ぶれねぇなっ!?」

「え、流石に二着はダメだけど……穿くのが無くなるし」

「お前も一着だけならいいのかよっ!? あと余分に用意しとけ!」

「流石のボクもノーパンで仕事はしたくないです。なんか目覚めそうで」

「その時は一生寝かしつけてやるから安心してノーパンで仕事しろ指揮官。そんでそこの二人は真剣な顔で「指揮官がノーパン。いやしかしそれはそれで」みたいな表情するんじゃねぇよ反省してねぇじゃねぇか! 重桜は頭の中まで春満開かよ!」

「あ、いいですねそれ。年中青春したいですねー」

「あっはっはっはっはっはっ」

「あっはっはっはっはっはっ」

「テメェも!!! 俺の!!! 話を!!! 聞ぃけぇぇぇぇぇっ!!!」

 指揮官が空高く投げ飛ばされて執務室の開いた窓に見事放るインワン。愛宕と赤城が慌てて指揮官の無事を確かめるべく執務室に向けて駆け出していた。

 肩で息を整えていると、一部始終を見守っていたプリンツ・オイゲンがやる気のない拍手をしている。レーベレヒト・マースは腹を抱えて笑っていた。

 

「お見事。すごいのね」

「ぜー、ぜぇー。つ、疲れた……!! もう俺は今日なにもしたくないくらいに疲れた……! えーと何だっけ、お前たちの言葉でありがとうって」

Danke(ダンケ)、よ」

「あーそうか、ありがとよ。ダンケダンケ。余計な体力使ったわチクショウが」

Bitte schÖn(ビッテシェーン).私も面白い物が観られたから気にしなくていいわよ」

「何が、面白いんだよ。そんでレーベはいつまで笑ってんだ……」

「アッハッハッハッハ、だ、だって指揮官、アハハハハハ! ロケットみたいに飛んでったぜ、ハハハハハ!!」

「あんまり笑ってると貴方も投げられるわよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……ふふ、あはははは、だめ、だめだ、腹いた、あはははは!」

 底抜けた明るい笑い声を聞き流しながら、エヌラスは関係者の高雄と加賀の申し訳ない気分でいっぱいな顔にこれ以上何か言う気も失せる。その気持ちは痛いほど分かるからだ。お前のことだぞネプテューヌ。どれだけこちらが振り回されたと思っている。

 顔を上げたエヌラスに、プリンツ・オイゲンが腕を組んできた。

 

「そ・れ・で。ちゃんと貸しは返してくれるのよね?」

「借りたからには返す。それで、何をしてほしいんだよ」

「今夜、付き合って」

「…………」

「お酒よ?」

「紛らわしいんだよっ!!!」

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