超次元ロマン海域アズールねぷーん   作:アメリカ兎

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恋の艦載機テイクオフ?

 

 夜の母港では指揮官は仕事を放り投げてすっかり気を抜いていた。執務室の片付けは本日の秘書艦に任せて、見回りに歩く。

 もうじき装甲空母の着任とロイヤルネイビーのクイーン・エリザベス主催のロイヤルメイド隊による演習の開催が控えている。

 

「いやー楽しみだなー、楽しみだなぁ。新しい子。重桜ってのがちょっと気に掛かるけど楽しみだなー、ふふふ」

 上機嫌な指揮官が曲がり角で補佐官の姿を見かけ、肩を叩いた。

 

「こんばんは、補佐官殿」

「よ、指揮官。機嫌良さそうだな?」

「ええ。近い内に重桜の新しい子が着任するので」

「まともなんだろうな?」

「多分。きっと、多分」

「不安でしか無いんだが?」

「これからどちらへ」

「ああ。プリンツに酒に誘われたんだ。指揮官は酒、強いのか?」

「いやぁ、ははは。残念なことにボクはお酒弱いので。一杯だけで十分です──え、プリンツに誘われたんですか? 鉄血の子たちはお酒強いので気をつけてくださいよ、ホント」

「任せろ、潰れるまで飲む」

「わぁ頼もしい」

 自信満々に親指を立てるエヌラスに、指揮官は小さく拍手する。

 

「何か欲しいものがあれば用意させますので」

「お気遣いどうも。ところで下着は大丈夫か」

「ええ。追加分買ってきたので」

「それは大丈夫じゃねぇよ!?」

「赤城と愛宕の二人にも困ったものです。ボクにはちょっと荷が重いと言いますか」

「直接言えよ」

「え、泣かれたりしたら困るので」

「ヘタレか貴様!」

「はい!」

 うーん、元気良い返事! とりあえず一発叩いておいた。時間までもう少々ある。せっかくなので指揮官とそれまで雑談でもすることにした。

 

「指揮官。彼女とかいたことは?」

「無いです」

「こう、女性の知り合いとか」

「友達以上になったこと一度も無いです」

「……いい人止まり?」

「はい」

「なんかすまんかった……」

 無性に申し訳ない気分になったエヌラスは謝るが、指揮官は気にしないでくれと手を振る。

 

「でも補佐官はすごいですね。みんなとあっという間に打ち解けて」

「そりゃお前、早々にあんな紹介されたらな……」

 こちらに対する警戒心も薄れるってものだ。

 

「女性に興味とかないのか?」

「ありますよ。滅茶苦茶ありますよ。男の子ですから。でも見慣れちゃったっていうか、そういう目で見るの失礼かなーとか思っちゃって」

「くそ真面目かお前」

「それを言ったらエヌラスさんは女神様とどうなんですか」

「………………どうって、そりゃお前、そりゃあ……ねぇ? どうということはない関係だよ?」

「あ、絶対なんか複雑な事情と情事とやんごとない関係ですね? 大丈夫です? 処されたり刺されたりしません?」

「殺される前に殺すからなぁ」

「シンプルに怖いんですけど」

 女神様の戒厳令につき母港では極力暴れないようにしているが、考えてもみれば指揮官を片腕で投げたりと身体能力は女神に匹敵する。魔人とは女神様から耳にしている指揮官だが、見れば見るほど何ら人間と変わらないように思えて仕方なかった。

 

「大体お前、好きな人は一人だけって誰が決めたんだ?」

「えっ、いや、倫理的なアレやコレでは?」

「うるせぇ宗教上の理由だ文句あっか、おぉん!?」

「すいませんでしたありませんですごめんなさいお金持ってないです!!」

 片手で胸ぐらを掴み上げる補佐官に、思わず謝ってしまったがすぐに下ろされる。

 

「好きなやつと全員付き合って何が悪いんだ」

「えーと、それをボクに言われましても」

「いいか指揮官。一夫多妻制とか一夫一妻とか色々あるだろうが、結局本人たちが幸せな形に収まって世間に迷惑かけなきゃ全部丸く収まるんだよ。世間体とか知るか。いいな?」

「いやぁでもほら」

「何か言われたら、俺に言え。この星から消し飛ばしてやるから。任せとけ」

「満面の笑みで言うことじゃあありませんよねぇ!? 指先一つでほあたぁみたいな!?」

「物理的に蒸発させる」

「予想の斜め上」

 確かに人体の七割ぐらい水分だが、それにしても言い方。

 

「もうちょっとお前から歩み寄ってもいいんじゃないか? 触れ合うのも交流だ」

「迷惑じゃないですかね」

「一言断ってからでいいだろ。拒否されたらすぐに身を引けばいいし。それにお前何考えてるかちょっと分からん」

「ひどいですね……ボクは正真正銘、みんなと仲良くなることしか考えてませんよ」

「仲良くって、どれぐらい」

「えっ。えーっと……日常会話レベル?」

「その、先ぃ!! 大事なのその先ぃ!!」

「そんなこと言われましてもボクとしてはよりどりみどりで誰が一番とかとても選び難い境遇でしてそのような鬼も泣き出す顔をされましても財布の中に三千円しか入ってません!!!」

「俺なんて財布すら持ってきてねぇんだよ一文無しだ文句あるかおりゃあー! あと金持ってるじゃねぇか嘘つきめがぁ!!」

 補佐官の持ち物リスト。携帯。替えの下着。以上。

 

「踏み込んだ話になるが、ボディタッチとかしないのか?」

「軽く手を叩いたりとかはしますけど……その、おっぱいとかは流石に」

「いやお前、そりゃお前……」

「上に報告されても怖いですし」

「現実的で草生えるわ」

「本当に大丈夫ですかね。SNSで晒されたり影で笑われたりしませんかね?」

「お前女性に恐怖感でも持ってるのか……? 心配するな指揮官、普段お前がゲラゲラ笑って眺めている顔も知らない相手がお前になるだけだ。何なら俺に言え。この惑星から消してやる」

「補佐官、段々ボクの中で貴方の評価が超サイ○人になってきたんですけど本当に大丈夫ですか」

「なんだ超サ○ヤ人って」

「ご存知、ないんですか超サイ○人!? あとでDVD貸すので観てくださいよ!」

「マジで? ありがとう」

「家具倉庫からBlue-rayプレイヤー引っ張り出すので。あ、そうだ薄型モニターも確か入ってたはずですのでソレも一緒に。何ならボクが以前使ってたパソコンもあるのでそっちで動画見てからでも全然構いませんけれどどうですか補佐官」

「すまんごめんノーセンキュー。モニターとプレイヤーだけでいい」

「あ、はい。すいません。お詫びにスペースコ○ラも一緒に貸しますね」

「ああ、左腕がサイ○ガンの」

「原作コミックもありますが読みます?」

「……一巻だけ」

 思わぬ会話で指揮官と盛り上がってしまったが、エヌラスは時間を確認してすっかり予定時間を過ぎている事に気づいて慌てて窓を開けた。

 

「じゃ、指揮官! また明日!」

 二階とはいえ何のためらいも無く飛び降りる姿を追いかけて、無事に着地して駆け出す姿を見て指揮官は窓を閉める。

 

「うーん、補佐官。ますます謎な人だ……良い人だけど」

 腕を組み、艦隊との付き合い方を改めてみようと考える指揮官の前にちょうど良く綾波が歩いていた。どうやら戦術学園での授業が終わってこちらを探していたようだ。

 

「やぁ、綾波」

「あ、指揮官……これからどちらへ?」

「特に行く宛は無いかな。強いて言えば母港の見回りくらい」

「そうですか……」

「……綾波もどう?」

「いいんですか」

「えーと、ほら。せっかくだし。たまには誰かと一緒もいいかなー、と思って」

「綾波で、よければ……ご一緒したい、です……」

 顔を赤らめながらそっぽを向く愛くるしい姿に癒やされながら、指揮官は綾波の頭を撫でてみる。驚いた表情を見せるが、頭を預けてきた。

 

「なんだか、今日の指揮官……いつもより優しいです」

「イヤじゃない?」

「もっと撫でてほしいくらいです」

「そっかー」

 平気なフリをしているが実は指揮官もいっぱいいっぱいである。言葉少なになって、やめるタイミングが見つけられず困っていた。しかし頭を撫でる手は止めない。

 

「……むぅ。指揮官、いつまで撫でてるんですか……?」

「いやぁ、あははは。中々やめられなくて、ごめんごめん」

「綾波は頭以外も撫でてほしいです……」

「……なんて?」

「なんでもないです。母港の見回り、行きましょう」

「そだねー、れっつごー」

「ゴー、です」

 いつもより少しだけギクシャクとした二人が賑やかな夜の母港の見回りへと向かう。

 

 

 

 ──その頃、鉄血艦隊の待機している一室では酒盛りが始まっていた。

 

「あーっはっはっはッ!!」

 ガチャン、とジョッキを鳴らしてレーベとニーミの二人が一気にグラスを空にしてテーブルに勢いよく叩きつける。

 

『ジュースだコレ!!!』

 その横でグビグビと飲んでいるフィーゼはりんごジュース。

 

 酒盛りとは聞いた。お酒に付き合え、とも聞いた。エヌラスは言われた通りに飲み場に来たのだが、まさか──ワインを樽で用意しているとは思わなかった。

 ウイスキーにバーボン、スコッチにブランデーと豊富な酒類だけでなくツマミもそれに合わせて大量に用意されており、軽い宴会状態となっている。

 プリンツ・オイゲンとグラーフ・ツェッペリンの双璧。酒が回っているのか、ジョッキを空にしてテーブルに置くなり次の酒に手を伸ばしていた。

 そんな二人に挟まれて、エヌラスはグラスのウイスキーを氷で冷やしながら一口含むと飲み込んだ。

 

「ね~ぇ~、手が進んでないみたいよぉ~?」

「ほ~、卿は酒に弱いと見えるが、いかがなものか……?」

「ええい酒の勢いで絡んでくるんじゃねぇ! いいだろ別に、自分のペースで酒くらい飲ませてくれたって!」

「そぉんな飲み方しなくてもいいでしょお?」

 身体を寄せてくるプリンツのふくよかな胸に意識を奪われつつも、逆側を見れば胸元が大きく開いたグラーフ・ツェッペリン。結果、天井を仰ぐか正面しか見れないわけで。後ろでは駆逐艦達のやんちゃな声が聞こえてくる。

 

「おいおーい、補佐官。もうちょっと楽しそうに飲んでもいいだろー」

「指揮官はお酒に弱くて、こうして飲む機会が無いんですよ」

「お前らジュースだろうが! 飲みゃあいいんだろ飲みゃあ!」

「あ」

 未開封のウイスキーボトルを開けて、エヌラスは一呼吸置いてから喉を鳴らしながら一気に飲み干した。

 

「っだぁー!! おらぁ、これでいいかチクショウ! 水!」

 一本丸ごと空にしてボトルを置く。グラスに残っていた分も追加で空にすると水を注いで飲み始めた。急速に酔いが回って軽い目眩を覚えるが、深く息を吸い込んで吐き出して分解されるのを静かに待つ。

 

「そんな乱暴に飲まなくても」

「やかまし」

「なに怒ってるの? もしかしてぇ、二人きりでお酒が飲めるとでも思ってたの?」

「お前……ほんっと大概にしろよ……!」

「残念ね、ヒック……さすがの私も、ちょっと酔いが回ってきたわ」

 グラーフ・ツェッペリンはグラスを手にしたまま固まっている。どこか目の焦点が定まっていないようにも見えるが、大丈夫だろうか。心配になったエヌラスが声を掛けると、ハッとした様子で顔を上げた。

 

「……憎んでいる、全てを」

「突然どうした、俺はそんなこと聞いていないぞ」

「ああ、だがこの甘美な宴が我を狂わせる……」

「酔っ払ってるだけでは?」

「おかわりいただこうか……」

「はいどうぞ!?」

 差し出されたグラスの中身は殆ど空になっている。どれが飲みたいのか分からないのでプリンツに聞いてみた。ツェッペリンはどれが好みなのか。

 

「そうねぇ……キッツイお酒でいいんじゃない?」

「いや完全に酔っ払ってるだろコレ……もうビールでも飲んでろよ」

 ビールサーバーからジョッキに注いでグラーフ・ツェッペリンの前に置くと、瞬きを繰り返していた。

 

「……これは卿の心遣いか? 我が目に映るのはジョッキでは? いやグラスだろうな……ではいただこう」

「完全に酔っ払ってるな」

「ぐび……ぐび……ふぅ……」

「こぼれてるぞ……?」

 ジョッキを静かに置いてテーブルの左右を見渡すと、飲みかけのグラスを見つけて手を伸ばす。そしてその中身を一気に飲み干した。

 エヌラスが飲みかけていた水に、何度も頷く。

 

「キンキンに冷えているではないか……ふふ、なんと温かい気遣いか……」

「俺のグラスなんだけどな……」

「もう一杯いただこう」

「あ、はい」

 もうダメだ、この空母手がつけられねぇ。自分のグラスが無いのに人のグラスを空にして差し出してきやがる。しかもこぼれたビールそのまんまだ。大丈夫か鉄血艦隊。助けてレーベくん。

 エヌラスが振り返るが、見慣れた光景らしく、とても暖かい視線と笑顔で三人が親指を立てていた。誰も俺を助けない。ならばとプリンツを見てみるが、唇に指を当てて小悪魔スマイル。チクショウ敵しかいねぇ。

 仕方ないのでグラス二つに水を注いで席に戻る。タオルをツェッペリンに差し出すと怪訝な顔をしていた。完全に目が据わっている。

 

「ほら、タオル。胸元の拭いたらどうだ?」

「……???」

「だから、ビールこぼれてるんだっつうの」

「我が器は此処にあるぞ……?」

「そうじゃねぇよなぁおぃぃ? プリンツも笑いこらえてんじゃねぇよぉ!! あーもー、拭いてやるからジッとしてろ」

 仕方ないのでタオルで胸元に垂れた滴を拭ってやると、何が面白いのかグラーフ・ツェッペリンは口元を弛めていた。

 

「ふふ、軟派な指揮官とは違い卿の豪胆さは気に入った……ああ、いいぞ。そのまま我が肢体を」

「テメェはもう水飲んで寝てろぉ!!!」

「へぶぅ」

 エヌラスは力の限りタオルを投げつける。ぺしんと顔にぶつけられて眉を寄せていたが、やがて指でつまむと深く匂いを嗅いで顔を拭き始めた。

 

「汗も拭えとは、その慈悲深さは感嘆に値する……」

「俺はお前の面倒臭さに涙が禁じ得ないんだけどぉグラーフ・ツェッペリン?」

「む、ビールの香り……よもや雑巾では」

「寝てくれ頼むからぁぁぁぁっ!」

「……卿がどうしてもとせがむのであれば、我は応えても良い……」

 エヌラスは顔を覆う。もうダメだ勝てねぇ。どう寝かしつけてやろうかこの空母。いっそ力づくでベッドまで運んでやろうか。

 

「すまん、プリンツ。ちょっとコイツ寝かせてくる……」

「私も交ぜてよ、誘ったのはこっちなんだから」

「さてはテメェも酔ってんなははははどちくしょぉぉぉっ!!」

 予想以上にグラーフ・ツェッペリンが重い。色々と重い。力も強く、部屋まで運び終えた後に一晩ベッドに拘束されるところだったが何とか脱したエヌラスは再び宴会場へ戻ってきた。

 

「あれ、戻ってきたのね」

「お前は俺を何だと思っていやがりますのかこんちきしょう?」

「大丈夫? 人間として軸がぶれてない?」

「振り切れとるわチクショーメェ! もういい、飲む。付き合え!」

「そうこなくちゃ♪」

 その後、プリンツ・オイゲンが酔い潰れるまで煽りに煽り、酒を飲んで泥酔させる。あとはグラーフ・ツェッペリンと同じように鉄血の控室まで運んでベッドに放り投げた。

 宿直室に戻り、シャワーを浴びてからエヌラスは朝まで眠る。

 

 夢見最悪で朝から気分はブルーだった。その日も快晴で空は青々としていたが、太陽が恨めしいと思ったのは久しぶりである。

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