──無事に大鳳とエセックスの歓迎会が終わり、後片付けを始めるベルファスト達。その姿を眺めながら、エヌラスは残っていた料理を食べていた。まだ食うのかと驚かれているが女神たちにしてみれば見慣れた光景なのでスルーしている。
残飯処理じみた食事をしていると、イラストリアスが歩み寄ってきた。ユニコーンは指揮官が寝室に連れていったらしい。
「あの、補佐官様」
「もぐ?」
「先程はありがとうございました」
「もぐもぐもーぐ」
「……えっ、と?」
気にするな、と言ったつもりだったが口の中のパスタが遮っている。一通り飲み込んでから片手を振った。
「気にすんなって」
「はい。それにしても……よく食べますね」
「その気になれば全部平らげるぞ」
テーブルの上には中途半端に残された料理が所狭しと並べられている。だが恐ろしいのは空になった皿がすでに五枚ほど重ねられているということだ。サフォークがドン引きしながら空の皿を運んでいく。空いた場所にケントが追加の皿を置いた。
「Hey! 補佐官、追加のオーダーだよ! ガブッといっちゃって!」
「任せよ! もぐー!」
運ばれてきたミートボールスパゲティがあっという間に消える。まるで手品だ。どこにその栄養が消えているのか、というよりも体積以上の質量が胃袋に収められていく様は不思議でならない。
その皿をすぐに下げて、今度は揚げ物の盛り合わせが載せられた。重桜お手製の天ぷらである。唐揚げやらナゲットやらひしめき合っているが、エヌラスはつまみながら食べていた。
「補佐官様は気持ちのいい食べ方をしますね」
「ひょうか? 俺の食事なんて見てても楽しくないと思うけどな」
「どこに消えてるんですか?」
「…………体内の火力発電所? まぁちょっと色々あるんだ」
左胸をフォークで指しながらエヌラスは唐揚げを頬張る。くすくすと笑いながら、イラストリアスはテーブルのナプキンで口周りに付いたケチャップソースを拭った。
「補佐官様、まるで子供みたいですね」
「むぐ……ありがとよ」
「それでは、私はこれで。今日はありがとうございました」
「ああ。おやすみ、イラストリアス」
お辞儀をしてから、会場を後にする姿を見送って再び食べる。気がつけばテーブルには追加で山盛りのポテトサラダが載せられていた。
「うーし、食うぞー」
──え、まだ食べるの!? ロイヤルメイド隊がざわつく。会場に残っていたユニオン艦隊も驚いていた。
「補佐官の胃袋は化物か……!?」
エンタープライズが思わず固唾を飲む。確かに体格は良い。だがそれにしても食い過ぎだ。焼きそばも丸めて口に入れている。エビフライも消えていく。ソーセージマルメターノも消える。誰が注文したのかも定かではない豚の角煮も飲み込んでから水に手を伸ばしていた。その食べっぷりは少々理解し難い。
「な、なぁ補佐官……そんなに食べて、太らないのか?」
「もぐむぐはぐはぐもぐむぎゅぐっ? もっきゅもっきゅ……」
「…………」
「ごくん……ぷはぁ。太らないな。いくらでも食える」
「どこに消えているんだ……いや本当に、どこに消えているんだ……」
エンタープライズも軽く食事はしていたが、唐揚げを数個つまむ。やはり胃に重い。
「今の俺は人間火力発電所だ。はっはっは、こんな食うの久しぶりだな」
「何を発電してるんだ」
「……魔力?」
「いや、疑問符を浮かべられても困るぞ……」
実際のところ、全て魔力貯蔵庫に消えている。消化を促して全て体内で魔力に還元しているので食っても食っても足りない。そのせいで暴食暴飲悪食と、強欲の限り無し。ただそれを緩めれば腹も膨れる話だが、あまりにロイヤルメイドが手がけた料理が美味しいので手が止まらない。過食症ではない、むしろこれが本来あるべき光景なのだ。普段は限りなく稼働率を低下させているからこそ少食で済んでいる。
そんなフードファイター補佐官のもとへ指揮官が戻ってくると驚いていた。
「まだ食べてたんですか!?」
「馬鹿野郎お前食うぞお前俺は馬鹿野郎」
「うわぁ、こわぁい」
指揮官もドン引きである。だがそんな食べっぷりが好評を博しているのか、他の子達も集まってきていた。
「指揮官様ぁ。本日は私達の為にこのような歓迎会を開いていただきありがとうございますぅ」
「喜んでもらえたのなら何よりだよ。今日はもう遅いからね、大鳳もエセックスもゆっくり休んだ方が良い」
「はい。それでは、お先に失礼します。指揮官」
エセックスが会場を後にする。だが、大鳳は指揮官に身体を寄りかからせた。豊満な胸を押しつけるようにして、大胆に開いた胸元から零れ落ちそうになっている。
「────大鳳?」
「私、少々酔ってしまったみたいでぇ~……指揮官様ぁ? お部屋まで、よろしいですかぁ?」
「あー……えーと……」
バリッ、バリバリ、ボキャ、ゴリッ──。聞き慣れない咀嚼音に指揮官が顔を向けると、エヌラスが殻ごとカニを食べていた。
「……あの、補佐官。普通は丸ごと食べませんからね?」
「もぎゃごがっ!?」
煎餅のように噛み砕かれていくカニは既にハサミから両足まで全部無くなっている。だが、そのまま頭から丸かじりされていった。汚れた手を綺麗に拭き取り、カニを飲み込む。
「マジか。カニって丸ごと食うもんだと思ってた」
「えぇ……? 殻ぐらい剥きましょうよ、こうやって」
指揮官がもう一匹のカニの足をもぎ、その中身だけをしゃぶるように食べる。エヌラスはそれを真似してみるが、綺麗に足だけへし折れるだけだった。
「めんどくせぇ、食えりゃいいんだよもぎゃー!」
「ああ、やっぱり殻ごといった!? どんだけ咬筋強いんですか! あと頑丈ですね!?」
「俺は空腹のあまり小石で飢えを凌ぐ男だぞ! なにが甲殻類だ、殻ごと食えばいいんだよ! 身を守るための栄養がこっちに固まってるなら殻ごと食った方が良いに決まってんだろうが!」
「ものすごく腑に落ちない説得力かまされましても! もしかしてジュラ紀から生きてたりしません!?」
「ちなみにちゃんと小石は吐き出したからな」
「あなたダチョウですか」
「なんだそれ、食えんのか」
判断基準はそこなのか。
──指揮官説明中。画像検索中……。
「……イケる!」
「えっ!?」
結論、食糧判定。
自分の誘惑を振り切らせた補佐官に対し、恨めしげな視線を向けながらも大鳳は何か思いついたように笑みを浮かべる。
(ふふふ……私と指揮官様の邪魔をするだけかもしれないけれど、考え方次第じゃ使える人かもしれないわぁ。補佐官様も)
翌日。いつものように指揮官は朝食を早めに摂って業務に取り掛かった。それから少し遅れて補佐官が執務室に入室してくる。今日の打ち合わせをしてから解散、というのが日課だ。
「そうだ。なぁ指揮官。ちょっと気になった事があるんだが、いいか?」
「はい。なんでしょうか?」
「俺やネプテューヌ達がこっちに来たように、こっちの艦隊を向こうに連れて行くことってできねぇのか?」
「…………その発想はちょっとなかったですね。検討してみます」
「向こうで学べる海戦とかあると思うし、小旅行みたいなものでリフレッシュもできると思うんだがどうだ?」
「全然アリだと思います。ただ、そちらの都合がどうなるかですね。女神様達にその話はしたんですか?」
「いや? いま思いついたんだが」
しかし、それは確かに面白そうだと指揮官は考える。ただ問題は──それを上層部にどう報告するべきだろうか。休暇を申請してそれで済ませてしまうという手がある。行き先まではともかくとしてそれが一番手っ取り早いだろう。
「ネプテューヌ達に話して、許可が降りればという形だな」
「じゃあ、その確認はエヌラスさんにお任せしますね。ボクはこの通り」
「ああ、わかった。ところで今日の秘書艦は」
「大鳳ですね。昨日の今日でだいぶやる気があるみたいでして」
「そりゃよかった。それじゃ、またあとでな」
エヌラスが執務室を後にすると、しばらくしてから大鳳が入室してきた。部屋に入るとすぐに頭を下げて、扉を閉める。
「失礼します。大鳳、本日の秘書艦を務めさせていただきますねぇ~♪」
「よろしくねー」
「補佐官様はぁ……」
「ああ、あの人はちょっと別行動。気になる?」
「いえいえ~」
大鳳と本日の業務開始。初めての秘書艦ということで、張り切っているようだ。
エヌラスはこちらの艦隊をゲイムギョウ界に連れて行ってみてはどうか、という話をネプテューヌ達に話す。目を白黒させてから、すぐにネプテューヌとベールは乗り気になった。しかし、ノワールだけは少し渋った表情をしている。ブランも考え込んでいた。
「悪くないかもしれないわね。指揮官ならなんとかしてくれるでしょうし」
「ちょっと、ブランまでそんな事を言うの?」
「ならノワールはなにか問題でもあるの?」
「それは、その……人選的なものよ。誰を連れて行くのかってこと」
「各陣営から数人引き抜いて、という形でいいんじゃないか。それなら艦隊運営にも支障はないだろうし、立候補なり指揮官からの推薦でもいいだろうし」
そんな問題児ばかり誰が選ぶか。
「はーい。それじゃプラネテューヌにはジャベリンと綾波とラフィーとニーミがいいな!」
「勝手に決めるな。メモするからちょっと待ってろ」
「では、リーンボックスにはロイヤル艦隊がよろしいかと」
「そうね……こちらのニッポンという国では四季折々があるのよね? 寒さに慣れているなら重桜艦隊が無難かしら。問題児多そうだけど」
「……、残ってるのユニオンか鉄血じゃない」
「色が似てるからいいんじゃないか?」
「よくないわよ!」
ノワールに怒られるが、エヌラスは首を傾げていた。一体なにが不満だと言うのか。疑問の浮かぶエヌラスにこっそりとベールが耳打ちする。
(最近エヌラスが鉄血と仲良くしてるから嫉妬してるだけですわよ♪)
「なんだ、そんなことか」
「ちょっとベール、余計なこと言わないで!」
「うふふ、わたくしは何も言っておりませんわよ~」
「嘘言わないでよ。あ、ちょっとどこに行くのよ! まだ話決まってないんだから!」
「わたくしは出撃の準備をしてまいりますわ。それではごきげんよう」
ベールはそそくさと女神部屋から出ていってしまった。
「でもでも、きっとすっごく楽しいと思うなー。ネプギアやあいちゃんやコンパも紹介したいし」
「イストワールが何を言うかわからないわよ」
「そ、そこはなんとかしてくれるよ。だっていーすんだよ?」
「イストワールに対する信頼があるのはいいけど、あなたの信頼は落ちそうね……」
「だいじょーぶ! 多分そんなに信頼されてないから落ちないと思うんだ!」
「自分で言ってて悲しくないのかしら……」
「ネプテューヌだもの、気にしたら負けよ……」
「それもそうね」
「ま、とりあえずそういう話だけ出たから耳に入れておいてくれ。誰が来るかまではまだこれからだから、こっちの希望も伝えておく」
「ええ、わかったわ」
エヌラスも部屋を後にすると、本日の補佐官業務に取り掛かる。今日も工廠で明石の手伝いだ。