超次元ロマン海域アズールねぷーん   作:アメリカ兎

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雨降って地固まる?ほんとに?ぬかるんでない?

 

 ノワールとプリンツ・オイゲンによる補佐官争奪模擬戦闘は、当人のブチギレ砲撃によって幕を閉じた。指揮官はめちゃクソ怒られてすっかりしょぼくれていた。顔がしわくちゃになるくらいにはえらい怒られた模様。なんだその顔。どうやってんだ。

 そして、補佐官の砲撃の破壊力たるや凄まじく。駆逐艦からは恐れられ、戦艦にはドン引きされ、空母に至っては心なしか距離を置かれていた。毎度のことなのでエヌラスも慣れてしまっている。

 

 そんなわけで。

 例の如く工廠にて補佐官は明石のお手伝い。

 当然、ツァーリボンバ抱え込む羽目になった明石は戦々恐々としながら整備していた。

 

「明石ー」

「ふにゃあ!? な、なんですかにゃ!?」

「いや、そんな驚かんでも……そこの工具取ってもらえるか?」

「はいにゃあ!」

「ありがとよ」

 ……やりにくい。非常にやりづらい。仕事が。

 こちらの一挙動にビクビクしながら仕事をしている明石も中々仕事が進んでいない。他人の足を引っ張っているようで気が引ける。

 

「……明石ー」

「ほびゃあ!? 今度は何ですかニャ! 明石悪いことまだしてないニャア!」

「まだ!? あー、いいや……大した事じゃないんだが。倉庫整理の木箱、どれぐらい片付いたんだ?」

 いつぞやボイコットした日には工廠から脱出不可能なくらい積み上げられていた。最早そこまで来ると一種の刑罰である。

 しかし、エヌラスが工廠に来てみればその木箱が見当たらない。全て片付けたとは考えにくいのでどこかに保管されているのだろう。

 

「それはちょっと言えないにゃ」

「いいじゃねぇか。減るものでもないし」

「秘密だにゃ」

「ははは。俺が笑っているうちに尻尾もがれたくなかったら素直に話せ?」

「工廠の地下整備室に運び込んだにゃあ!! 命ばかりは勘弁してくれにゃあぁぁ、明石まだ死にたくないんだにゃあぁぁぁん!!」

「地下?」

 そんな場所があったのか。確かに雑多な工廠に置けるスペースがあるとは考えにくいが、それにしても地下とは。

 

「地下室、何に使うんだ? 秘密の仕事か?」

「それは……ちょっと、言えないにゃ」

「なら深くは聞かないが……程々にな? こっちはそろそろひと段落つくし、気晴らしに倉庫整理の続きでもしてくるかー」

「気をつけてにゃ」

 エヌラスが工具を片付け、工具箱にしまい込んで元の場所に戻す。工廠から去っていく姿を見て、余らせた袖を振りながら明石は姿が見えなくなると額を拭った。

 

「……生きた心地がしないにゃ」

 

 

 

 日帰り傾きつつある母港。昼間の喧騒も静まり返り、夜の訪れと共に眠りに就くのを待つだけ。しかしエヌラスだけは一人で倉庫整理に勤しんでいた。何故なら暴れ足りないから。何なら暴れたいから。ここ最近、戦闘らしい事も破壊活動もしていないから鬱憤が溜まっている。晴らせるものなら晴らしたい。何かこう、都合よくセイレーンとか攻めてこないだろうか。来たら喜んで打ちのめすのに。

 物騒なことを考えながらもエヌラスは埃と汚れにまみれながら倉庫を片付ける。灯りを頼りに設計図をまとめて置いて、分類出来ない物は空いた木箱にポイ。

 

「……終わらねぇなおい! いつになったら片付くんだこの倉庫!!」

 着任して以来、必要のないものばかりを詰め込んで幾星霜。一昼夜では片付け切れない指揮官の努力の賜物であるがはた迷惑である。絶対に片付けるということを知らないだろう、あの指揮官め。

 文句と不満をぶつくさと呟きながらも、ようやく折返し。

 煙草を一服、休憩していたエヌラスのもとへ近づいてくる人影があった。母港に設置されている街灯に照らされているのは、ノワールとプリンツ・オイゲンの二人だ。

 

「よ。どうした、こんな遅くまで出歩いて。巡回か?」

「こっちの台詞よ。昼間の砲撃ですっかり艦隊が萎縮しちゃってるじゃない」

 なんなら「補佐官を飼い慣らしている女神様、ヤバたにえん?」的な話によってあらぬ風評被害のそしりを受けているまである。

 

「んなこと言われても、ああでもしなかったらお前ら止まりそうになかったし」

「うぐ……まぁ、それはそうかもしれないけれど……」

「で? 二人仲良くどうしたんだ?」

「アンタを探し回って母港中歩き回ってたのよ。指揮官は今まで見たこと無いくらい落ち込んでたし、明日は暇そうね」

 身体を伸ばしながら、プリンツ・オイゲンはエヌラスが腰を下ろしている木箱の隣に座り込んだ。

 

「ロイヤルの大規模演習なんてのも、どうなるかしらね?」

「予定通りやってもらう。でもなきゃ指揮官をしばく」

「おぉ、こわいこわい。頼りになる補佐官様であたしも嬉しいわ」

「……そのー。今回は結局の所、私がムキになって騒ぎになったわけだし。あ、謝っておこうと思って……エヌラスってそういうところはちゃんとしてるし?」

「珍しく素直だな、ノワール。いつものツンはどうした」

「昼間にあんなブチギレ方されたら反省くらいするわよ。ネプテューヌじゃあるまいし」

 それもそうだ。

 

「ほら。アナタも謝りなさいよ」

「アタシも? どうして? 女神様が妬いたのが原因でしょう?」

「それはそうだけど、プリンツ・オイゲンだってからかい過ぎたってさっきはちょっと反省してたじゃないのよ!」

「そうねー。でもそれは、アンタに対してよ。補佐官に謝るようなことしてないじゃない?」

「いや、おもっっくそ迷惑掛けてたからな? 謝罪はよう」

「はいはい、ごめんなさいね。でもそれを言ったら、アンタも悪いのよ?」

「俺? なんでだよ。なんもしてないぞ」

 エヌラスの鼻をつつきながら、プリンツ・オイゲンがからかうように微笑む。

 

「アンタが。そんなふうに魅力的で、女を弄ぶのが悪いのよ。色男さん♪」

「そういうお前もそんな風に男をからかうのが悪いんだぞ。この色女」

「あはは。言ってくれるじゃない。でも本当のことよ。アタシは少なくとも、あの昼行灯の指揮官なんかよりアンタの方が好みだもの」

 腕を組んで身体を押しつけ、ノワールにこれ見よがしと見せつける。

 むっとした顔で反論しようとするが――、落ち着いて肩をすくめた。

 

「あら、なにか言いたげにしてるけど?」

「そうね。言いたいことはたくさんあるけれども、それじゃ昼間と一緒だもの。好きにしたらいいじゃない」

「……へぇ。いいの? 本当に好き放題にしちゃうわよ」

「ええ。出来るものならね」

 今度は逆に、ノワールが挑発する。エヌラスに目配せすると、呆れていた。

 

「わたしは部屋に戻って寝るわ。今日は疲れたもの」

「あー……ノワール」

「なに?」

「……まぁ、なんだ。俺も昼間はつい、やり過ぎた。そのー、なんというか……暴れられなくて苛々してたから」

「はぁ……ガス抜き、必要みたいね。最近向こうにずっと戻ってないみたいだけど、大丈夫?」

「俺のこと置いて帰った女神とは思えない気遣いありがとうよ」

 トゲのある言い方に、流石にちょっと悪いと思っているのかノワールが顔を逸らす。

 

「それは本当に悪かったわよ……謝ってるじゃない」

「今度、近い内に俺も一旦帰るからな」

「そうしてちょうだい。アナタの国がどうなってるかなんてあんまり考えたくないけど」

「……国?」

 プリンツ・オイゲンが目を丸くしていた。

 

「あれ。言ってなかったかしら? 仮にもそれ、一国の主よ?」

「…………王様?」

「信じられないでしょうけれども、王位継承者」

 エヌラスの顔をジッと見つめて――やがて、プリンツ・オイゲンが吹き出す。

 

「ぷっ……あっはっはっは、あっはっはっはっはっは! ちょっと、ほんと! そういう冗談は顔だけにしてよね!」

「無理もないでしょうけどね。私が知ってる限り最低の治安の国よ」

「俺もそう思う」

「じゃあなに? アタシがもしもコレと結婚したら私王女様ってわけ? あはははははは!」

 バシバシと、何がツボに入ったのか抱腹絶倒。腹を抱えてプリンツ・オイゲンが大笑いしている。ひとしきり笑うと、出てきた涙を拭って息を整えていた。

 

「本当に王様だって言うなら、その時はちゃんとした指輪のひとつでも贈って貰わないと」

「別にそんなん、頼まれたらいくらでも作るぞ? 時間はかかるが」

「ほんとに? ならお願いしようかしら、もちろんペアルックで」

「…………ちょっと。流石にそれは私も止めるわよ」

「あら? よいこの女神様はもうおねむの時間でしょ?」

「なんで婚約する流れになってるのよ! そんなの認めないからね!」

「ですって。残念ね、補佐官」

「そりゃまあ、そーだろな。で? ノワール」

「なによ!」

「そのー……いいのか? コレ借りて」

 プリンツ・オイゲンを指差しながらエヌラスが念の為確認を取る。頬を膨らませてはいるが、それだけに留めていた。

 

「もういいわよ。好きにしたら?」

 踵を返して立ち去ろうとしたノワールが思い出したように立ち止まる。それから、プリンツ・オイゲンに耳打ちした。

 

(言い忘れていたけど。夜のエヌラスは“スゴイ”んだから、明日歩けなくなっても知らないわよ?)

「…………面白そうじゃない」

「ま、せいぜい後悔することね。おやすみ、エヌラス。プリンツも」

「ああ。おやすみ、ノワール」

「Gute Nacht.女神様♪ じゃ、補佐官。部屋に行きましょ?」

「お前な……。ここ片付けてからだ。手伝え」

「はいはい。変に真面目なんだから」

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