超次元ロマン海域アズールねぷーん   作:アメリカ兎

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言っていいことと悪いことがある

 

 ──ロイヤル主催、大火力合同演習はつつがなく終了。エヌラスは相変わらず倉庫整理の日々、それもやっと終わりに差し掛かろうとしていた。

 ひとまず目の前の大きな山場を無事乗り越えた指揮官も峠を越えたような心地で胸を撫で下ろす。この数週間、補佐官が鬼のような目で仕事を監視していたからだ。

 

「終わった……」

「おら腑抜けてんな指揮官、まだ仕事残ってんだよ。残業嫌いだろうがお前」

「ふえぇ……」

「コブラツイスト」

「ぐえぇぇぇ……!!」

 体罰上等。気に食わないやつはぶっ飛ばす。文句があるならかかってこい。肉体言語だけなら誰にも負けない。エヌラスは指揮官に対する指導がエスカレートしていた。なにせ事あるごとに手を抜く。やれば出来るをやらない模範的艦隊指揮者に代わって雑務をまとめていた。

 

「指揮官、テメェ今度は副砲をよぉ!!」

「すいませんでしたごめんなさいお兄さん許して!」

「三回だぞ三回わかるかテメェこの罪の重さが! ヤーポン法は滅べ!!」

 何度目かになるお説教。指揮官の隣、ベルファストは静かに佇んでいた。

 

「ひんひん……補佐官こわい……」

「申し訳ありません、指揮官様。かける言葉がございません」

「……もしかしてベルファストも同じ感想を?」

「コメントを控えさせていただきます」

 どうやらみんな思っても言わなかったらしい。それを考えると、真正面から(暴力……もとい体罰込みとはいえ)再三注意してくれるエヌラスは優しい……のかもしれない……?

 

「とりあえず設計図の仕分けは工廠に全部ぶん投げてるからまだ良いとして、倉庫にどんだけ溜め込んでんだよ。使わないなら解体しろ、他に資源回せ。母港の広さも限度があるんだから」

「仰る通りで何も言い返せないです……」

 とにかく壊滅的に指揮官は片付けが出来ない。そのくせ資材管理は出来ている。問題はそれを把握しているのが指揮官のみという点だ。エヌラスが叱りつけているのはそこである。

 

「『報連相』っての知ってるか。コイツは大事だ。めちゃくちゃ大事だ。俺がフライパンで頭ぶん殴られながらどんだけ大切か叩き込まれたことだ」

「フライパンのくだり気になるんですけど!?」

「まず報告しろ。連絡事項は周知しろ。相談はダメ元でやれ。職場で使う道具は公共の道具なんだから丁寧に扱え。使ったら元の場所に戻せ。道具増やす前に連絡しろ、増えたら伝達しろ。書類もまとめろ。控えは必ず保管しろ」

「わ、わァ……」

「ご主人様、泣かないでください」

「とにかくお前ほんっとに片付けだけは出来てねぇの何とかしろ。な? そこだけだ。まず最優先で叩き直す」

「……直せなかった場合は?」

 はっはっは、エヌラスが笑った。目だけ笑っていない。

 

「自慢じゃねぇが俺の諦めの悪さは神様が匙を投げる筋金入りだ。

 叩 き 直 す」

 指揮官は死を覚悟した。殺される。金玉が縮み上がる思いで身体が震えた。隣で佇むベルファストも同意するようにしきりに頷いている。

 

「確かに。補佐官様のような方は珍しいですね。とても貴重なご意見です。ご主人様も身に染みていると思います。少々暴力的なのはいただけませんが」

「暴力に関しては、まぁなんだ。俺も常々悪い癖だと思っているが身体に染みついてるとなると中々治せねぇんだこれがまた」

 ただそれが有効的であると判断した場合、暴力行使に躊躇はない。エヌラスが腕を組んで鼻を鳴らす。さながらバイソン。

 小言をひとつふたつ残してから、残る倉庫整理を早々に終わらせようと立ち去る後ろ姿を見送ってから指揮官は肩を落とした。落としすぎて五体投地しかねない勢いで。

 

「……とりあえず。今回の合同演習の報告書をまとめようか」

 指揮官は重い足取りで執務室へ戻る道を歩き始めた。背筋を伸ばせとベルファストに注意されてから、大きく息を吸い込んで空を仰ぐ。

 泣いてなんかないやい。

 

 

 

 ──エヌラスが不意に悪寒を覚えて振り返れば、倉庫の物陰から赤城。恨めしそうな。それでいて怒りを滲ませているようで、そこはかとなく妬みのこもった複雑怪奇な乙女の粘ついた炎を宿らせて睨みつけてきていた。実際コワイ!

 

「うおぉ……」

 その威圧感に流石のエヌラスもたじろいだ。言葉をかけようものなら歯ぎしりでも返されそうなほど犬歯をむき出しに睨みつけてくる。しかし気づいた手前、放っておくわけにもいかなかった。実際めちゃくちゃコワイ!

 

「……その、赤城。俺になんか用か?」

「……ギリィ……!」

「歯噛みで返事すんなこえーんだよお前!!!」

 唇の端を噛んで血が垂れている。眉を寄せて睨みながらもエヌラスに歩み寄ると、目尻に涙を溜めた。

 

「どうし──」

「指揮官様とあのような絡みを見せられて落ち着けるとでも!?」

「コブラツイストでそこまで恨まれなきゃなんねぇのか俺!?」

「私ですら指揮官様とはまだ手を繋いだことさえないというのに!」

「両奥手で仲が進展するわけねぇだろどっちか歩み寄れや!」

「そ、そんな……指揮官様に赤城の方からだなんて……いえ、むしろこれは補佐官から与えられた赤城千載一遇の好機……! 許可さえいただければ軟着陸も不可能ではないと!?」

 エヌラスは肩を回し始める。準備体操は大事だ。

 

「ふふ、そういうことでしたら早速今からでも」

「フロントネックロックブレーンバスター!」

「アパラチア!」

 正面から赤城の首を固め、力任せに持ち上げると地面に脳天から叩きつける。無論、まともな人間が相手なら即死級だが相手はこの程度で死にはしないが非常に痛い。赤城が頭を抱えて地面で悶絶していた。

 

「落ち着け」

「クッソ痛いですわ!」

「打ち所悪かったのかなんか微妙にキャラ崩壊してんぞ!?」

 頭を押さえる赤城は涙目になりながら立ち上がる。

 

「指揮官様にさえこんな仕打ちされたことないというのに……おのれ……かくなる上は重桜の伝統ある呪術で呪い殺して差し上げます……!」

「呪うのはいいけどよ……やる相手に知られちゃいけないんじゃねぇのか?」

「……赤城、一生の不覚!」

 打ち所悪かっただろうか。エヌラスは割と本気で不安になった。なにか話題を面舵いっぱい逸らさなければと思い立ち、母港について素朴な疑問を振る。

 

「なぁ、赤城。ちょっと聞いてもいいか?」

「指揮官様のことなら何なりと。歯ブラシを盗んだのは私ではありませんので悪しからず」

「よーし後で報告だ。それはそれとして、この母港って色んな勢力の奴らごった返してるけどお前達の拠点って別にあるんだよな?」

 目を白黒させる赤城だが、意外なことにすんなりと疑問に答えてくれた。聞けば、あくまでもこの母港という存在は「打倒セイレーン」を掲げる艦船が集まる場所。勢力や派閥などを問わず、一致団結した者たちの集まり。思惑や名目はともかくとして。

 

「それがどうかしましたか?」

「いや。どんなとこなんだろなー、と思って」

 はて、と。赤城が訝しむ。

 

「そういえば、思い返すと補佐官は母港から一歩も外に出たことがありませんわね」

「俺、海、嫌い」

「…………はい?」

 赤城がものすごい形相で聞き返した。

 

「海、嫌い?」

「別に泳げないわけじゃない。ただ俺は海が大嫌いだ。ろくな思い出がねぇんだ」

「……だから母港から一歩も外に出なかったと?」

「いや、単に倉庫整理が終わらねぇだけ」

 珍しく本気で同情された。どうして母港の中でも誰も触れなかった指揮官の闇に触れてしまったのか。だがそれ以上に倉庫整理が終わりの兆しを見せている。あれほど乱雑に詰め込まれたゴミ倉庫が今や人が通れるスペースができていた。

 不屈の精神の賜物を評価する艦船は少なくない。

 

「そろそろ終わりそうだしな。ちょっとくらい母港の外も見てみようと思ってよ。その方が補佐の幅も広がるし」

「なるほど。補佐官なりに考えがある、と」

「ま、そういうこと。それに……艤装の件もあるしな」

「もしや補佐官も戦闘に参加するおつもりですか?」

「大人しくしてる、ってのが性に合わなくてよ……」

 なんだかんだお人好しなところがある。ただ参戦するにしても女神たちから許可が降りなければならない。

 赤城は頬に手を当てて首を傾げていた。補佐官はどういうわけか、女神たちから制限を設けられている。一度だけ見せた砲撃は、確かに戦艦どころかセイレーンに匹敵していた。だからこそ重桜の駆逐艦隊は補佐官に警戒心を抱いている。

 

(確かに補佐官のあの力は見過ごせませんわね……指揮官様のためにも)

「なんだその野獣の眼光は。指揮官はともかく、女神様達の許可が降りなきゃ出撃しねぇよ」

 補佐官の手綱を握っているのは異世界からの来訪者である女神達に間違いない。だが、互いに干渉している様子はそれほど見受けられなかった。

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。赤城は不敵に笑みを形作る。

 

(補佐官攻略の要は女神様、と。覚えておきませんと)

「なんか良からぬことを考えてないか、赤城?」

「ふふ、まさかそのようなことは。では私はこれにて」

 エヌラスが引き止める暇もなく赤城は思い出したように走り去っていった。

 

「……変なこと考えてねぇといいんだけどよ」

 

 

 

 ──いつもの倉庫整理に足を運ぶと、プリンツ・オイゲンが木箱に座り込んでいた。片付けを終えた倉庫にはラベルが貼られた木箱が饅頭達の手で運び込まれていく。

 

「あら。随分と来るのが遅かったじゃない」

「……この饅頭どもは何なんだ?」

「お手伝いよ。アンタ毎回殺気立った顔で片付けてたものだからこの子達も怖くて近寄れなかったみたい」

「仕方ねぇだろ、こんな雑だとは思わなかったんだから」

 立ち上がるなりエヌラスの顔を覗き込み、プリンツ・オイゲンはじっと見上げてくる。

 

「ねぇ。倉庫整理終わったらどうするの?」

「工廠に引きこもって解体と仕分け」

「……地味ねぇ」

「暴れてぇ……」

「アンタのストレス発散方法それしかないの?」

「一番手っ取り早いんだよこれが」

「ふぅん……?」

 身体を擦り寄せてくるなり、腕を組む。

 

「当ててんのか?」

「あら、当たってたかしら」

「この会話をブランが聞いてたらぶっ飛ばされるな俺……」

「ユニオンの合同演習が終わって一段落したんだからちょっとくらい気を緩めてもいいじゃない」

 エヌラスは少しだけ悩む素振りを見せ、空を仰いでから──プリンツ・オイゲンに頭を預ける。

 

「ワンちゃんみたいね」

「……わん」

 冗談のつもりで鳴き真似をしたが、思いのほか効果てきめんだったらしい。

 

「っすぅー……、購買部に首輪って売ってたかしら? あるわよね?」

「やめろや、何する気だテメェ」

「なにって──ふふ、なぁに? なにか期待してるの? いやらしいんだから」

「……人の部屋で漏らしたくせに。いぃってぇえええっ!!!」

 腰の入った回し蹴りがエヌラスの背中を強打した。

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