超次元ロマン海域アズールねぷーん   作:アメリカ兎

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いつもねぷねぷ笑顔の女神様

 母港近海。指揮官から演習許可をもらったネプテューヌとノワールがアズールレーン仕様の装備を装着して波飛沫を上げながら海面を滑るように走っていた。

 

「きゃっほーい♪ 青い空! 白い雲! 大海原にわたし! 天が呼ぶ海が呼ぶ誰が呼んだか、主人公オブ主人公、ネプテューヌ様のお通りだー!」

「ちょっとネプテューヌ! あんまり勝手に動かないでよ! まだ感覚掴めてないんでしょ」

「だーいじょうぶだいじょうぶ! ノリと勢いで何とかなるっていーすんも言ってた!」

「そう思うならそうなんでしょうね。貴方の中では。だけど、あのイストワールがそんなこと言うわけないでしょ」

 真面目で堅物、苦労人。プラネテューヌの教祖、イストワールがまさかそんなネプテューヌみたいなことを言うはずがない。

 

「前より重く感じるけれども、その分推進力も上がってるみたいね」

「ねー、ノワール。早速演習しない? ほら、十分母港からも離れたしさー」

「まずは準備体操で身体を慣らさないと何が起きるかわからないわよ」

「そんな固いこと言わないでさ。ねね、いいでしょー?」

「あーもう、いっつもそうなんだから。こっちの迷惑も考えなさいよ」

 今回はペイント弾による演習。だがまずは勝手に強化と調整されていた艤装の慣らし運転から。念の為、監視役としてジャベリンと綾波も同伴している。

 明石は宿直室増築工事のため、工廠から席を外していた。指揮官は母港の見回りついでにネプテューヌ達の演習の様子を双眼鏡で眺める。エンタープライズも索敵機を飛ばして近隣の警戒を怠らない。

 

「どうだろうか、指揮官」

「うん。ばっちり見えてる。そっちは?」

「付近に敵影は無い。砲撃も届かない距離だ。そろそろ始めてもいいんじゃないだろうか?」

「よし。じゃあ──あー、聞こえるかい、綾波。うん、演習開始だ。流れ弾に気をつけてね、こっちでエンタープライズと一緒に周囲の警戒はしてるから」

 指揮官からの無線に、綾波は相槌を打つとネプテューヌとノワールに演習開始の合図を送る。

 まずは基礎的な航行。海面で絶え間なく揺れ動く波に足を取られつつも、徐々に感覚を取り戻しつつあるのか、波をかき分けながらスムーズに航行していた。

 

「よーし、戦場の勘も取り戻した事だし! いざ尋常に砲雷撃戦、よーいっ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? まだこっちの準備が」

「問答無用ー! 先手必勝、てやー!」

「のわぁぁぁ! やったわね、ネプテューヌ! だったらこっちも容赦しないんだから! 喰らいなさい!」

「へっへーん、当たらないもんねー!」

「あーもう、なんで避けるのよ!」

「当たらなければどうということはないもんねー! 装填完了、第二射、うてーい!」

 ネプテューヌの動きに合わせて艤装の主砲が動き、ノワールに照準を合わせて砲煙と共に発射したペイント弾は海中に没する。ノワールが身体を屈めて重心を安定させながら重巡洋艦とは思えない小回りで回り込んで魚雷を投射。

 

「んもー、避けないで当たりなさいよ!」

「そんな無茶なこと言われても避けるに決まってるじゃんかー!」

「とか言ってる間に装填完了、撃てっ!」

「ねぷー!? タンマ、ストップ、ザ・ワールドだってばー! まだこっちの装填終わってないのにノワールのせっかちさん!」

「待ったを聞かなかった貴方に言われたくないわよ!」

 身体を左右に振ってノワールの主砲からのらりくらりと避けていたネプテューヌが面舵いっぱいから魚雷を発射する。進行方向から弾道を割り出して難なく避けると、再び二人の主砲からペイント弾が発射された。

 ジャベリンと綾波もその様子を眺め、エンタープライズの艦載機が上空からその様子を観察して指揮官に状況を報告する。双眼鏡で見ているが、別視点からの動きも合わせることでより立体的に戦況を読み取ることが出来るからだ。

 

「二人共悪くない動きだ。あれなら今日にでも実戦に戻れそうだが」

「そうだねぇ。でもまぁ単独行動だし、足並みを合わせて動けるかはまた別な話だと思うけど」

「協調性も問題無いと思うが、どうだろうか。無茶な動きをしているわけでもない」

「そうだねぇ」

「……指揮官、私の話を聞いているだろうか?」

「そうだねぇ」

「聞いているのか、指揮官」

「\そーですねっ/」

「…………」

「いふぇふぇふぇふぇ、ごめん、ごめんってばエンタープライズ。ちゃんと聞いてるよ」

 双眼鏡をずっと覗いていた指揮官の頬を軽くつねる。反省した様子の指揮官から手を離してエンタープライズも双眼鏡を借りて二人の様子を眺めていた。

 

「ふっふーん、無駄無駄ぁ! ノワールは重巡! わたしは軽巡! つまりわたしの方が軽くて速い! よってそんなウスノロな主砲に当たりは、ねぷーーーっ!? あっぶなっ!? 今ちょっと軽く脳天直撃コースだったよ!?」

「当たり前でしょ、狙ったんだから!」

「わたしよりも動きが良いなんて、さてはこっそりぼっちで訓練してたなー!?」

「そんなわけないでしょ! アズールレーン世界から戻った時にラステイション海軍から教わったのよ!」

「ずるーい! そんなの反則だよー! わたしにもハンデちょうだいってばー!」

「同じことを戦場で言えるのかしら! 魚雷装填、撃てー!」

 二人の動きはまるでフィギュアスケートのように円を描いてぐるぐると動いている。しかし今まであまり気にしていなかったが──エンタープライズの覗く双眼鏡からは、パーカーワンピから時々ネプテューヌの縞模様パンツが見えていた。ノワールに至っては純白のパンツがほとんど丸見えだった。静かに双眼鏡を下ろして、指揮官を睨む。

 

「……指揮官、まさかとは思うが彼女たちの下着を見ていたわけではあるまいな?」

「そんなつもりは無いんだけど、見えちゃうものは仕方ないよね。ヒドイな、エンタープライズ。ボクは決してそんな不純な動機で女神様達のことを見てたわけじゃないのに疑うのかい?」

「私もそうではないことを祈るよ。これは補佐官に報告すべきか」

「いやぁ勘弁してほしいなぁ。補佐官殿に目を抉られそうだ」

「そこまではされないと思うぞ……」

「やりそうな顔してますもん」

「いや失礼だな、指揮官」

 しかし、と。エンタープライズも補佐官の顔を思い浮かべていた。

 左目に刀傷と鋭い目つき、だけでなく黒スーツ。女神のボディーガードにしても少々雰囲気が違う。明るく天真爛漫、見ているだけで笑顔になるような雰囲気に比べて──少々血生臭い雰囲気が感じられる。確かにそういうのは手慣れてそうだが……いや、やっぱり失礼だぞ指揮官?

 

「とにかく、後はジャベリン達に任せておけばいいだろう。私達は残りの任務を片付けよう。覗きをしている暇はないはずだぞ、指揮官」

「そうだねぇ」

「真面目に話を聞いてくれ」

「なんか怒ってない、エンタープライズ?」

「怒ってない」

「そう? ほんとにー? ほんとかなー、ボクには嫉妬してるように見え──」

「……いーぐるちゃん、行け!」

「キーッ!」

「ほらーやっぱり怒ってるー、おーよしよし。いーぐるちゃんは良い子だなー」

 バサバサと翼をはばたかせながら指揮官に襲いかかるいーぐるちゃんだったが、手慣れた様子であしらわれていた。腕を差し出すと羽を休めて、クチバシを突き出してくる。そんないーぐるちゃんの頭を指で撫でると、目を細めて大人しくなった。

 顔を赤くしながらそっぽを向くエンタープライズの軍帽を目深に下げながら、指揮官は残る任務に取り掛かり始める。

 

 

 

 ──その一方で、エヌラス。

 黒板の前で腰に手を当てて立つレンジャーが教本を片手に指揮棒で指すのは、四大陣営。

 

「はい、それでは! 教えてレンジャー先生のお時間です」

(なんかベールと同じニオイがするな、この先生)

「では補佐官君。まずは私達の世界のことからお勉強しましょうね」

「へーい」

「返事はちゃんとしてください」

「はい」

 机に頬杖をつきながら、ぶっきらぼうに返事をする。

 

『アズールレーン陣営:ユニオン・ロイヤル』

『レッドアクシズ陣営:重桜・鉄血』

『セイレーン』

「ここまでは恐らく指揮官君から聞いてると思います」

「基礎中の基礎ということで、一応は」

「じゃあそれぞれの特徴とかは?」

「いやまったくノータッチです、レンジャー先生」

「艦種については?」

「あー……まぁ、ある程度の知識は」

「うーん、じゃあそれぞれの陣営の特徴でも。わかりやすいのはレッドアクシズ陣営の重桜、鉄血ね。重桜っていうのは、極東の艦艇ね。外見の特徴として、獣の特徴や角が生えてたりするわ。例えば、朝に図書室で出会った蒼龍」

「ああ。うさ耳の。そういえば赤城もモフモフだったな。尻尾」

「そうそう。次に鉄血。艤装が特徴的ね。有機的、といえばわかりやすいかな」

「ふむふむ」

 レンジャーが説明しながら黒板に書き足していく。

 まーる描いてウサギの耳をぴょこんと生やして前髪くるりん、デフォルメ蒼龍。

 鉄血の誰かはわからないが、口を開けた艤装を描いて『←危険』とだけ注釈をつける。

 

「はーい、レンジャーせんせー。質問いいですか」

「はい、補佐官君。どうぞ?」

「なんでそんなファンシーな絵柄なんでしょうか?」

「わ、私の絵心は授業に関係がないでしょ!? 授業に集中してください、もう!」

「あっはい」

 怒られたのでおとなしく授業を受けることにした。

 

 ──大体の事情は把握できた。

 謎がまだまだ多いが、必要な情報だけノートにまとめて記入していく。

 エヌラスは三ページほどみっちりと文字で埋めて、こめかみを押さえた。

 

「書いたかなー?」

「覚えることが多すぎて頭が痛くなってくる……」

「最初だけだからがんばって。ほら先生も応援してあげるから」

「これ全部指揮官も覚えたのか……?」

「うーん、どうだろう。指揮官君にも教えてあげたけど、覚えてるかな……? あ、でも指揮官として着任するより前にちゃんと試験は合格してると思うし」

「成績はともかく」

「失礼ですね、補佐官君は。ああ見えて指揮官君は優秀なんですよ」

 レンジャーが手を伸ばして黒板の文字を消していく。そりゃあ艦隊を率いる指揮官が無能では話にならない。それ相応のテストをクリアしてきているのだろう。

 

「指揮官の過去とかは」

「過去の経歴? 先生にも教えてくれないのよね。それどころか知ってる子は一人もいないんじゃない?」

「ははぁ、過去の経歴一切不明?」

「指揮官君が言うには、特に何の面白みもない過去だって」

「そういうことを言う奴は大抵ワケありだと思うんだが」

「まさかぁ、あの指揮官君よ? いつもニコニコ笑って、てきぱき任務を片付けて、仕事は定時できっかり、残業は絶対にノゥ! 誰がなんと言おうと絶対にノゥ! 前なんて──」

 

『やーだー! 絶対にいーやーでーすー、残業とか時間の割に合わないですしー、ボクの勤務時間は始業開始五分前と終業五分前って決めてるんですー、アルバイト時代からずっとそーなんでーすー。誰がなんと言おうと契約外労働はやりたくなーいーんーでーすーよー』

 

「──って、すごい勢いでダダこねてたんだから」

「指揮官としてあるまじき姿なんだがいいのか? そん時の秘書艦誰だったんだ」

「その、かわいかったし、いいかなって……」

「ア ン タ か 先生!」

「もうね、全身で徹底抗議してたの。執務机に着かせようとしたら逆に私が抱っこされてそのまま……──ち、違うからね!? 別に想像してるような変なことは何もないからね! ホントなんだから!?」

「いや別に聞いてないし、聞く気もないんで」

 エヌラスはレンジャーの話を聞き流しつつ、ノートにペンを走らせた。何度かペン先で書面を叩き、考え込む。

 

「……レンジャー先生、ちょい質問」

「はいどうぞ」

「鉄血の子とか、紹介できるか? ちょっと興味があるんだ」

「……不純異性交遊は先生許しませんからね?」

「別にそういう意味で聞いてないんだよなぁ俺はよぉ!? 純粋に艤装に興味があるからなんですけどぉ!?」

「そ、そんな怖い顔で怒らなくても

「顔が怖くて申し訳ありませんでしたね……生まれつきだっての……」

「その、左目のも? 駆逐艦の子達とかの教育にあまり良くない気がするんだけど」

「男の子だから怪我のひとつやふたつしますー!」

「……君、男の子って年齢なの?」

「そこ突っ込むところかよぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 

 午前中の授業はここまで──続きは後日に。

 エヌラスはレンジャーの案内で鉄血の待機所に向かっている道中で、指揮官とエンタープライズに会った。

 

「やあ、レンジャー先生。補佐官殿の授業はどんな調子ですか」

「あら指揮官君。順調よ。鉄血の艤装に興味があるみたいだから、案内してあげようと」

「なるほど。それなら午後からプリンツ達に出撃を頼もうかな」

 出撃艦隊の編成を考える指揮官から視線を外し、エンタープライズが思い出したようにエヌラスに視線を合わせる。

 

「ああ、補佐官。ひとつ耳に入れたいことが」

「ん?」

「先程、ネプテューヌ達の演習をしていたのだが。指揮官が下着を覗いていた」

「!?」

「あー……見えるもんな」

「この事について何か思うところはないか?」

「そうだな、まぁ男だし。見えたら見ちゃうよな」

「そうでしょう? ほらー、エンタープライズ。言ったじゃないか、エヌラスさんは理解してくれるって、なんたって男同士ですからね」

 エンタープライズから指揮官に向けられる視線が冷たい。しかし、肩を組んでいたエヌラスが指揮官の首を捕らえると指を二本立てた。

 

「ただし、次見たらテメェの目玉えぐるからそのつもりでな」

「ほらー! エヌラスさんこういうこと言う人じゃないですかやだー! ボクの言った通りじゃないかエンタープライズ!」

「ほほう? 指揮官、つまりなんだ。そうかそうか。つまりお前はそういうことを言うやつだったんだな?」

「──あ、やっべ。墓穴掘った」

 割と本気で指揮官が焦りを見せ、初めて笑顔が崩れて視線を泳がせる。何とかエヌラスの拘束から抜け出そうとするが、まったくビクともしない。まるで生きた彫像、サイボーグにでも捕まった気分で指揮官は腕と顔を交互に見比べていた。

 

「力強ッ!? ふぬぬぬぬぬ……!」

「悪いなぁ指揮官。その気になれば俺は戦艦の装甲すら拳でぶち抜くぞ」

「エヌラスさん、左腕がサイコガンだったりしません!?」

「んなわけねぇだろ! なんだサイコガンって!?」

「ご存知ないんですか!?」

「ご存知ねぇんだよ!! テメェには昼飯食いながらたっぷり話を聞かせてもらおうじゃねえか」

「たっけてーエンタープライズー」

「……さて、私達も昼食の時間だ。行こうか、レンジャー先生」

「そうですね。いい時間ですし」

「あーれー」

 エンタープライズとレンジャーに見捨てられた指揮官は、エヌラスに片腕で拘束されたまま引きずられて大食堂で緊張感漂う昼休みを過ごす事になった。

 ──味がわからなかった、とは指揮官談。


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