超次元ロマン海域アズールねぷーん   作:アメリカ兎

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ゴミ倉庫は宝の山?

 

 補佐官として大事な基礎知識の勉強、二日目──レンジャー先生が涙目になっていた。

 

「…………」

「…………えーと、それじゃあ。補佐官君、次のページなんですけどー」

「予習済みです」

「うわーん! これじゃ教え甲斐がないじゃないー! 昨日みっちり私が用意した宿題もこれじゃ意味がー!」

 眠そうにしているエヌラスだが、それもそうだ。徹夜で教本を丸暗記してきた。その上自分で借りてきた艤装に関する技術書も頭に叩き込んである。主砲から副砲、機銃に追加装甲や燃料フィルターと魚雷に至るまで全部一通りの予習を済ませていた。

 教壇に突っ伏して泣きつくレンジャーに悪い事をしたと思いながらも、エヌラスは眠気を必死に堪えている。今日の朝食なに食べたっけ? あまりの眠さに覚えていない。

 うつらうつらと頭を揺らしていた補佐官が、頬杖から頭を滑らせて机に叩きつけた。ゴンッと鈍い打撃音にレンジャーも驚いている。

 

「…………」

「……あのー、大丈夫? いますごい痛そうな音が聞こえたけど」

「……っす、だいじょうぶです。くっそねみぃだけで痛みとか全然」

「と、とりあえず今日のところは自習にしておくね。先生も教材変えないと……」

「お疲れ様っしたー……くあー、ねみぃー……」

 身体を伸ばして教室を後にしたエヌラスは早くも工廠へ足を向けていた。

 

 そこでは、明石が指揮官に泣きついている。夕張も困った様子だ。一体何事だろうか。

 

「ふにゃー、指揮官の嘘つきー! 明石が頑張れば豪華なご褒美って言ったにゃ! 二言はないって言ってたにゃー! 明石が一晩頑張ったのにお預けだなんて酷いにゃあんまりにゃ工作艦に対する虐待にゃあぁぁぁ!」

「おや、補佐官。おはようございます、眠そうですね」

「クソ眠い頭にブサ猫の悲鳴が超うるせぇ」

「明石ブサ猫じゃないにゃ! 超絶美少女天才子猫ちゃんにゃ!」

「三味線にしてやろうか、いい声で鳴け」

「補佐官、眠気でなんかリミッター外れてません?」

 話によれば、指揮官が明石に報酬を支払わないのが喧嘩の原因らしい。鼻水と涙で顔を濡らしながら裾を掴んで離す様子がなかった。

 

「ちゃんと支払えよ。明石めっちゃ頑張ったんだから」

「いやぁ、それなんですけどね。ボクも昨日の夕方に用意したんですけれども、配送業者の方でトラブルが起きたらしくて、到着が遅れるらしいんですよ」

「それで明石がゴネてるってわけか……」

「はい。いやぁ困ったなー。艤装の修理も弾薬の補給もまだ終わってないのに作業中断されたら」

「明石は明石は報酬が支払われるまでボイコットするって思ってるにゃ! 夕張だって賛同してくれるはずにゃ!」

「え? 巻き込まれても困るんだけど」

「こぉの裏切り者ぉぉぉぉぉ!! にゃおぉぉぉぉっ!!」

 袖の中から無数の工具を見せて明石が夕張に襲いかかる。それを眺めながら顎に手をやり、指揮官は困った表情を浮かべていた。

 

「うーん、これは困ったなぁ。こうなっちゃうと明石は何をしても絶対に働いてくれないから」

「ようはなんだ。その配送業者から明石への報酬だけ受け取ってくればいいのか?」

「まぁそうなっちゃいますね」

「んで? そのトラブルってなんだ」

「民間軍事会社グリフィンの戦術人形に護衛を頼んでいたトラックが敵から襲撃を受けて撃退したものの積み荷の一部を奪われたらしいんですよねー」

「グリフィンドォォォルッ!!!」

「アズカバンッ!!」

 エヌラスが指揮官をジャーマンスープレックスで投げて、工廠の床に叩きつける。もちろん手加減してあるが、それでも人間の指揮官には十分なダメージなのかうめき声を出していた。良い子のみんなは真似しないように。

 

「冗談だよな? そういう面倒な話、俺は一切聞いてなかったんだが?」

「いぃってぇぇぇ……真面目に、痛いんですけど……!?」

「骨の一本や二本で文句言うな」

「命に関わりますからね!? とはいえ、冗談です。まぁ知り合いなんですけど。コネを使ってちょっと取り寄せようとした商品の配送が遅れてるのは事実です」

「そうか」

「あ、でも何とかなりそうなのでエヌラスさんは何もしなくて大丈夫ですよ」

「で? 明石はどうすんだ。目の前でキャットファイトなわけだが」

「どうしましょうねー、あっはっはっは」

 笑い事で済ませるな指揮官。夕張が明石に押し倒されていたが、何とか引き離すと逃げ出した。しかし工作艦がボイコットというのは艦隊運用に支障が出る。

 

「まぁ到着までのんびりボクは書類仕事でも片付けますよ。補佐官も眠そうですし、今日もゆっくりされては?」

「んー、そうするわ。とりあえず借りてきた本を返してこないとな……」

「それにしても一晩徹夜でそんな状態なんて、よっぽど慣れてないんですね」

「ひっさしぶりにやったからな。前は三日三晩寝なくても作業に没頭できたんだが、燃料切れるとダメだな……」

 勉強している間はいいが、教材が無くなった途端に糸が切れたように集中力が眠気に敗北するのは少々ツライ。内容を覚えるのは一夜漬けでできるが、それを実践しようとするだけの体力が残っていない。

 

 そんなわけで、指揮官と補佐官が仲良く工廠を後にすると明石が扉を閉めて中から鍵を掛けた。アレは本気だ。絶対に誰も入れないようにしている。この調子では購買部も今日は利用できないだろう。困ったものだ。一番の困り者は指揮官だが。

 

「指揮官しきかん、しっきっかーん! ビリー・カーン!」

「殿様殿様ー!」

「ご主人様ー!」

「お館様あああぁぁぁぁっ!!」

「おい今の真田の六文銭誰だ」

 サンディエゴ、山城、サフォークの三人が突然指揮官に向かって駆け寄ってきたかと思えば抱きついた。笑顔で頷きながら話を聞いている指揮官から目を離せば、木陰に赤城。相変わらず凄い形相をしている。般若も泣いて逃げ出す顔だ。

 

「ふ、ふふふふふ……指揮官様の周りには害虫が絶えないことですことで……やはり一度ならず二度でも三度でも「ソウジ」をする必要があるようですわ……!」

「やぁ赤城ー。そんな木陰から見てないでこっちに来たらどうかなー」

「はぁい指揮官様ー!」

 変わり身のあまりの早さに本当に同一人物か疑わしくなる。赤城が近づいてくるとサンディエゴを除いた二人がササッと指揮官の後ろに隠れた。

 

「ひえぇぇ……」

「はわわわ……」

「やっほー赤城ー☆ 怖い顔してどうしたの?」

「本日も晴天なり、良い天気ですわねぇ指揮官様。こう天気が良いと、さぞ害虫の「ソウジ」も捗ると思いませんことぉ? ええ、指揮官様が望むのであればこの赤城は今すぐにでも……!」

「掃除かぁ……良いかもね。ありがとう赤城」

「!!」

 パッと顔を輝かせて赤城が指揮官の手を取る。

 

「し、しし指揮官様? それは、本当に、良いんですか? この赤城が、指揮官様の身の回りにいる害虫を一匹残らず駆除することに許可を出されるということで!?」

「補佐官殿ー、ちょうど頼みたい仕事が出来ました。赤城のおかげで」

「なんだ?」

「倉庫の整理とか、掃除とかお願いしたいと思います。武器庫とかも設計図放置したままなのが多いんです。いやーよかった、赤城のおかげで思い出せたよ。ありがとう、赤城。流石はうちの航空戦力の要の一人だ。ここぞという時は頼りになるなぁ」

「……あの、指揮官様? あ、赤城の「ソウジ」に許可は」

「出すと思う? そんなに掃除したいならトイレ掃除でもする? 赤城はキレイ好きだからね」

 歓喜に震えていた狐耳と尻尾が萎びていく。しかし、指揮官は掴まれた手を離さない。

 

「それとも何かな? 赤城はボクの艦隊に何か不満でもあるかい。そっかぁそれに気付けなくてごめんね、ちゃんと言ってもらえればボクも配慮するよ。それで? 何か()()に言いたいことがあるか? 一航戦」

「…………ありませんですわ」

「こうして触ってみると分かるんだけど、赤城って肌キレイだね。すべすべしてる。へー、やっぱり女の子なんだなぁ。なんかボクもドキドキしてくるよ。あ、ごめん。つい」

 パッと手を離し、もはや泣き出す寸前の赤城が頭を下げて立ち去っていく。指揮官は相変わらずニコニコと笑顔を向けていた。

 

「というわけで、補佐官殿。倉庫整理と諸々、お願いします」

「んー、わかった」

「わー補佐官もねむそー。そんな顔してちゃダメだよ♪ ほらほら、遊ぼうよー! テンションガン下げ萎えぽよな顔してないでさ、笑顔でピース☆」

「エヘ顔ダブルピースとかウザ可愛いなこんちくしょう」

「当然だよーっ。なんたって私はぁぁぁ……サンディエゴ!」

 よく意味がわからないが多分眠いからだ。なんか指揮官と赤城が話をしていた気がするが眠くてよく聞いていなかった。今日の業務は倉庫整理らしいので、始める前に眠気覚ましをしておかなければ。

 

 

 

「あら、補佐官様」

「んいー」

「とても眠そうですね、どうかなさいましたか?」

 上からの便箋だろう。大事そうに封筒を持ったフッドと食堂前の廊下ですれ違う。エヌラスは欠伸をこらえて、茶色の封筒に視線を向ける。『関係者以外開封ヲ禁ズ』と赤い判の押された封筒は指揮官宛てだろう。指揮官以外に手紙が届くのかはともかく。もしかすると艦船に向けてラブレターとか感謝の手紙とか送られてくるかもしれない。

 

「指揮官から倉庫整理の仕事を頼まれたんだが、眠気に負けそうなんだ……そこで眠気覚ましにコーヒーでも貰おうかと」

「まぁ、そうでしたか。しかしコーヒーなどよりも熱い紅茶の方がお口に合うかと」

「こういう時に一番効くのはドス黒いコーヒーなんだよ……」

「はぁ……そういうものですか?」

「そういうものなんです」

 眠さのあまり口調すら安定していなかった。食堂に入ると、非番の艦船がちらほらと。その中に混じってノワールがいた。ちょうどいい。

 

「あら、エヌラス。どうしたのよ、眠そうだとは思ってたけど本当に眠そうね」

「ノワール。コーヒー淹れてくれないか……」

「自分で……と、思ったけど貴方コーヒーも自分で用意できないのよね。まったくもう、しょうがないわね。座って待ってなさい、すぐ準備するから」

「ブラックー」

「はいはい、わかってるわよ」

「あーるえっくすー」

「そんな銘柄無いんだけど!?」

 厨房に入るノワールがクイーン・エリザベスに茶菓子の用意をしていたベルファストと気さくに挨拶を交わす。

 椅子に座って天井を眺めていると、プリンツ・オイゲンが顔を覗き込んだ。垂れた髪が頬に触れてくすぐったい。

 

「…………」

「ヒドい顔。貴方見てて飽きないわ」

「俺の顔見て言うことがそれだけかプリケツ」

「あら。見たいの?」

「……悪い、名前なんだっけ?」

「プリンツ・オイゲン」

 隣の席に座ると、まじまじと見つめてくる。眠そうな人の顔の何が面白いのか、微笑を浮かべたまま崩さない。

 

「何か用か、プリンツ」

「……別に」

「そうか」

「面白そうだから、見てるだけよ」

「そっかー」

「ここで上手くやっていけそう?」

「そうだなー」

 うつらうつらと眠そうに頭を揺らすエヌラスが、目頭を押さえた。

 

「四つ数える。息を吸う」

「…………すー」

「四つ数える。息を吐く」

「…………はー」

「どう? 眠気は覚めた?」

「……腹が減った」

 ──ぐぅ~きゅるるいあふたぐぅん。

 

「…………ぷっ。何今の? お腹の音?」

「うるせ。あー、ノワール。俺、朝飯食ったっけ?」

「そんなの私が知るわけないでしょ。何言ってるのよ。はいコーヒー。熱いから気をつけてね」

 厨房から戻ってきたノワールが湯気を立たせるコーヒーを置く。砂糖もガムシロップもない黒い液体をプリンツ・オイゲンが覗いた。顔をしかめている。

 

「これ飲んで頑張れるの?」

「本人に聞いてよ」

「……ふぅん。それならいいのがあるけど、飲む?」

「んー?」

 冷ましながら口に運ぶエヌラスが横目で隣のプリンツ・オイゲンに視線を向けていると、脇の辺りのスリットを指で広げながら胸を見せる。重巡洋艦らしく大きな胸に、ホクロが目に留まった。

 

「私のミ・ル・ク♪」

「ごぶぉっぽあぁ!?」

「のわぁっ!? 大丈夫!? っていうか貴方もなに変なこと言ってるのよ!」

「ふふ、冗談よ。眠気は覚めた?」

 すぐに席を立ち、後手を振って食堂を後にする足取りは軽い。

 飲もうとした瞬間に逆流して変なところに入ったブラックコーヒーでむせる。

 母港で飲むコーヒーは、苦い。多分胃液で。

 ハンカチで顔を拭ったエヌラスは咳き込む。

 

「し、死ぬかと思った……!」

「あーもう、ほら。襟元までびしょ濡れじゃない、動かないの」

「おう……」

「まったく、プリンツ・オイゲンにからかわれたくらいで取り乱さないの。そんなのでこの先ここでやっていけるの? というか、貴方。なんで取り乱したのよ。鼻の下伸ばしてないでしょうね」

「誰でも取り乱すわここでやっけるかどうかなんて分からんしなんでって聞かれたら当たり前だよなぁ!? 鼻の下伸ばすなってのも誠心誠意努力させていただきますよちくしょーめぇ!」

 朝から食堂でイチャつく二人に、生暖かい視線が投げられていた。

 

「大体ね、あの子はちょっと苦手なの。いっつも笑ってるし、何考えてるかわからないし」

「ノワールは苦手なのか?」

「仲良くできたらいいんだけど……まさか、エヌラス。好みとか言わないわよね」

「嫌いじゃないが」

「ほら見なさい! もう知らないわよ、スーツくらい自分でどうにかしなさいよ。ふんっ」

「……いや、嫌いじゃないって言っただけでそんな怒らなくても……」

 ネクタイとボタンを外し、首元を緩めてノワールから投げつけられたハンカチで入り込んだコーヒーを拭き取る。後で洗って返そう。

 

「おーい、プリンツはいるかー?」

「ん? さっき出ていったぞ」

「なんだ。ツェッペリンが呼んでるから来たってのに、入れ違いか。ちぇ。補佐官はどうしたんだ? そんなコーヒーまみれで、寝ぼけてこぼしたのか?」

「尋ね人のジョークで自爆した結果だ」

「はっはっは、なんてザマだ」

 レーベレヒト・マースはケラケラと笑いながらエヌラスの姿を笑うが、それが身内によるものと知って一応の謝罪を挟んだ。

 

「でもアイツも悪気はないんだ。このレーベ様に免じて許してやってくれないか?」

「そこまで怒ってねぇよ、おかげで眠気もどっか吹っ飛んだし」

 しかしスーツは一張羅だ。洗濯するにしても替えの服もない。背丈が近いと言えば指揮官だが、それでも一回り小さい、かといってコーヒー臭いまま仕事もできない。

 

「まぁいいか。どうせ倉庫整理で汚れるしな……」

「……えっ」

 倉庫整理──そう呟いた瞬間、食堂の空気がざわつく。レーベが笑顔で固まった。

 

「そ、倉庫整理って言ったのか今?」

「ん? ああ、指揮官から頼まれたんだが……なんかあるのか?」

「指揮官に恨まれるようなことでもしたのか」

「いや、ジャーマンスープレックスでぶん投げたくらいしか心当たりがない。そんな、その、アレなのか。倉庫整理」

「ああ。俺達の指揮官は有能な部類だが──」

 

 

 

 レーベレヒト・マースに案内してもらった倉庫の惨状を見て、エヌラスは言葉の意味を理解した。なるほど酷い有様だ。なんだこれは。なんなのだこれは。どうすればいいのだ。どこから手を付けるべきなんだこの倉庫は。整理しろ? バカを言うな。こんなもの整理出来たら表彰物だ!

 

「……言っただろ? 見ての通りだ」

「片付けが出来ないね、はいはいはいなるほどな。ゴミ倉庫じゃねぇんだぞ!?」

 山積みにされた木箱から覗く作戦資料。戦術教科書。投げっぱなしにされた機銃に乱雑に積み上げられた主砲に絡み合った砲座。艤装だけではなく何か戦術的な何から何まで、装備設計図も丸めて突っ込まれたまま放置されている。

 

「マジかー、これ片付けんのかー。でもここだけなら何とかなりそうだしな」

「番号、見てみろ」

「番号?」

 レーベレヒト・マースに言われてエヌラスが指された番号を確認した。

 第三物資倉庫。

 

「……」

 一歩外に出て、隣の倉庫に視線を向ける。

 第二物資倉庫。

 さらに隣。第一物資倉庫。

 

 ──エヌラスは天を仰ぐ。本日も晴天なり。いやー青い空、白い雲。隣に可愛い女の子、言うことない職場だな! なんて言うと思ったかバカめ指揮官! 山程言うことあるわ!

 

「よーしわかった、何も言うなレーベ」

「何も言ってないぞー俺様」

「そうかそうか、倉庫整理って一種の罰ゲームか。ははは、あの野郎ぜってぇ許さねぇ。そのうち倉庫にぶち込んでやる」

「片付かないのは指揮官のせいだからな? 間違っても俺達のせいにしないでくれよ。これでも片付けようとしてたんだ。ただ、指揮官があんな調子で誰も近寄らないから結局こうなっちまってたってだけで」

「もういい、俺が頑張る……しばらく一人にしてくれ……」

「メシの時間になったら呼びに来るからがんばれよ、補佐官。俺は味方だぜ」

「ありがとうレーベ……とりあえず指揮官に伝言頼む」

「それぐらいなら任せな。なんて言えばいいんだ?」

「テメェの部屋見せろとだけ伝えてくれ」

Jawohl(ヤヴォール)。それじゃまた後でな!」

 コートの裾を翻しながら駆け足で去っていくレーベレヒト・マースの健康的な白い太ももが眩しい。少しだけそれに癒やしを求めつつ、エヌラスは息を吐いた。

 第三倉庫、ということは他の惨状はまだマシなはずだ。そう希望を抱いて、隣の倉庫を覗いた。

 神は死んだ。神は死んだ。おおブッダよ寝ているのですか。第三倉庫はまだマシな方だった。

 残り二つは地獄のような有様だった。倉庫に立ち入ることすら出来ないほど敷き詰められた使われるかどうかもわからない資料や艤装の山に思わず崩れ落ちてしまう。

 

「ちっくしょう誰が諦めるか! やってやろうじゃねぇかよこの野郎!!!」

 こうして補佐官(研修生)エヌラスの地獄のような耐久倉庫整理訓練が始まった。


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