超次元ロマン海域アズールねぷーん   作:アメリカ兎

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仲良しこよしの連携プレイ

 

 昼食の時間になり、大食堂には艦船たちが大挙して押し寄せてくる。そこには指揮官の姿もあった。重桜艦隊も大規模演習(無許可)の戦果報告書を手にして自分が一番だと言い争って止む気配がない。

 一番に詰め寄ろうとする赤城をすり抜けて、指揮官は綾波の手から報告書を受け取って頭を撫でた。

 

「重桜のみんなお疲れ様ー。午後からの秘書艦は綾波にお願いしようかな」

「私、ですか……?」

「よろしくねー」

「はい」

 赤城がすっごい顔をしている。眼力だけで人を三回は呪えそうな表情だ。手にしている報告書を握りしめている。

 

「し、指揮官様? 赤城などは……」

「みんな頑張ったのは見てたよ? でも、もう少し早く決めてほしかった。ので! ここはボクと付き合いの長い綾波を選ぶ! まぁ色々言いたいことはあるかもしれないけれども、戦績上位者には何か用意しておくよ」

「ですが」

「次の機会まで我慢出来るよね? 赤城は出来る空母だから」

「もちろんです、指揮官様」

 条件反射で答えてしまったことを後悔する赤城だったが、指揮官に頭を撫でられて尻尾を振っていた。とてもわかりやすい感情表現をしながら二人のもとを離れると、入れ替わるようにエヌラスが食堂に駆け込んできてテーブルを飛び越えながら指揮官に向けて飛び蹴り(ライダーキック)を放つ。

 綾波の頭を撫でていた無防備な指揮官の側頭部を直撃するが、加減したらしくその場で倒れただけに留まる。

 

「いったぁ!? えぇ!? いったぁ!? なんで!?」

「ははははははなんでだろうなぁなんでだと思う、なんでか分かるかぁ指揮官!」

「すいませんごめんなさい全く心当たり無いです」

「お前倉庫整理って、なんだよあの惨状は! 片付けるってレベルじゃねーぞ!」

「あ、やっぱそうなりますー?」

「おんどりゃああああっ!!」

「コブラァァァッ……!」

 引き上げた指揮官がエヌラスによるコブラツイストで関節を極められて悶絶していた。しかし、すぐに解放されて席につく。綾波がポンポンと頭を叩いていた。

 

「指揮官、大丈夫ですか?」

「いたたた……補佐官殿、ちょっとは手加減してくださいよ」

「アホ言うな、本気で蹴ってたら首の骨へし折れてる」

 遅れて入ってきたノワールとプリンツ・オイゲンも何事かと食堂に入ってくるが、騒ぎが落ち着くとエヌラスと指揮官、綾波と同じテーブルについた。

 大食堂と呼ばれるだけあり、学園内には艦隊全員が座れるだけの席が用意されている。本日の食事の用意もロイヤルメイド隊が腕を振るっていた。なんでも母港の雑用は大半引き受けているらしい。

 

「いただきまーす」

「いただきます。っと、レーベか。おーい」

「なんだ、補佐官も指揮官と一緒か。俺もいいか?」

「もちろんだよ。ね、綾波」

「指揮官が良いなら、綾波も構いません」

 トレイを持ったレーベレヒト・マースが指揮官の隣に腰を下ろす。エヌラスの左右はノワールとプリンツ・オイゲンに挟まれていた。気のせいかあまり顔色がよろしくない。

 

「あーそうだ、指揮官。補佐官殿はかなり怒ってるみたいだぜ? 倉庫整理」

「知ってる」

「部屋を見せてみろー、だとさ」

「えぇ~? ボクの部屋なんて面白くもなんともないよ?」

「片付けの出来ないテメェの部屋を見せてみろこんにゃろう。今夜」

「夜這いですか。ヤバイですね」

「テメェの頭がな! とにかく、倉庫整理なんだがどれが要らない物なのか分からんから手のつけようが無いんだよ。ゴキブリ出てきたし」

「ぶっ! ゲホッゲホッ、ちょっとぉ、ご飯食べてる時に思い出させないでよ!」

 ノワールが飲み込もうとしていたスープを噴き出す。エヌラスは謝りながら布巾を手元に寄せてテーブルを拭いた。プリンツ・オイゲンは淡々とスプーンを動かしている。

 

「えぇ、マジですか。フナムシとかじゃなく?」

「ああ。黒くて速くて大勢いた」

「ちなみにどうなりました?」

「全部焼いた」

「焼いた」

「こんがりと」

「こんがりと」

 オウム返しをする指揮官だったが、流石に害虫は無視できないのか唸っていた。それについては今後対策するとして。

 

「とりあえず、武装の設計図はまとめて明石に渡しておいてください。使っていない主砲とかについては、そうですねぇ~……ランクの低い物は解体しちゃっていいです」

「ランク?」

「ええ。どこかに印字されてると思うので。それも工廠で夕張に任せちゃいます。後は補佐官の判断にお任せしますよ」

「了解。午後も倉庫整理に取り掛かる」

「あ、そういえば明石はまだ工廠で閉じこもり中?」

 レーベレヒト・マースが先割れスプーンで指した方角。重桜艦隊に混じって何やらやけ食い中の明石が昼食をかき込んでいた。お前普通に出てくるんかい、子供か。

 それを見た指揮官が頷くと思い出したように綾波に視線を向けた。

 

「綾波。重桜艦隊の新しい装甲空母の配属がうちに決まったんだけど、どんな艦船か知ってる?」

「綾波も詳しく知らないです。でも、それは良いことだと思います」

「そっか。あとで赤城にでも聞いてみようかな」

「指揮官って、あの空母に付きまとわれて大変そうなのによく付き合えるわね」

 プリンツ・オイゲンは一通り食事を終えて、口元を拭いながらようやく口を開く。そういえば赤城に殺されかけたと言っていたが、とてもそんな風には見えない。関係は良好なようだが。

 

「それはそれ、これはこれ。昔のことは水に流してポイ。ちょっと愛情表現が独特で過激だけど赤城はああ見えていい子だよ?」

「目でも腐ってんのか指揮官。正気か。正気度チェックでダイスロールどうぞ」

「ファンブルー」

「ダメじゃねぇか」

「あっはっはっは、でもほら、今じゃうちにすっかり馴染んでますし」

 ホントかぁ? 疑問に思いながらエヌラスは背もたれに体重を預けて重桜艦隊のテーブルに視線を向ける。二航戦と五航戦が席を共にしているが、静かな食事風景だ。心なしか赤城の機嫌が悪そうに見えるのは、本日の秘書艦を綾波にかすめ取られたせいか。それだけでないだろうが、重桜の航空戦隊の戦績はユニオンと僅差で劣る。というのもユニオンの古株であるエンタープライズとは少なからず因縁があるらしい。

 

「ねぇ、指揮官。今日は出撃予定はないの?」

「予定してないかな。明石がボイコットしちゃってね」

「…………」

「プリンツ、言いたいことは分かる。あそこで明石がご飯食べてるのは黙っておけ」

「でも指揮官。重桜艦隊の弾薬補充は……しなくていいです?」

「無許可でやられた演習だからねー。ま、なんとかするよ。それでプリンツ、どうかした?」

「非番なら、補佐官の手伝いでもしようかと思っただけよ。おチビちゃんもどう?」

「ん、俺か? そうだな、面白そうだし俺も手伝うぜ。なんならツェッペリンも呼ぶか、それとも鉄血艦隊総動員してやってもいい」

「そこまでしなくていいぞレーベ!」

 ノワールが横目でエヌラスの顔を盗み見る。どうやら艦隊との交流は良好なようだ。特に鉄血とは。その中でもプリンツ・オイゲンとは。何か胸のあたりで少しモヤモヤするというか、気にかかるというか、引っかかるものがあるというか、とにかくスッキリしないが、補佐官としての仕事に注力しているようなら問題はない。問題ない。支障はない。特に自分が気にするようなことはないはずだが、ノワールの中で何かモヤッとした物があった。

 

「ごちそうさま」

「あ、おい。ノワール」

「なによ?」

「米粒、ついてる」

 手を伸ばして口元についた米粒を取ると、何のためらいもなく自分の口に運ぶ。それに呆気に取られていた指揮官達だが、少し経ってからノワールが顔を赤くして頬を押さえた。

 

「ちょ、ちょっとなにしてるのよ!?」

「なにが」

「だ、だって今、食べ……」

「それが? なんだよ、別に騒ぐほどじゃないだろ」

「~~~~、ごちそうさま! それじゃあね!」

「あ、おーい。……行っちまった。手伝ってくれないか頼もうと思ったのにな、ゴキブリで騒いでたから無理もないか」

 エヌラスがエビフライを頬張ると指揮官達からの生暖かい視線に眉を寄せる。

 

「……なんだ、やらねぇぞ。エビフライ」

「いやぁ、ふふふ。補佐官殿は本当に、ふふふ」

「甘ったるいです……」

「アレだな。補佐官殿は天然の“女たらし”ってやつか」

「罪深い人ね」

「うるせぇテメェ等エビフライぶつけんぞ」

「ボク尻尾食べない派なのでちょっと、あイタッ、ちょっと衣ぶつけないでください」

 

 

 

 午後からも倉庫整理の続きだが、流石に一張羅のスーツで続けるわけにもいかないので何か着替えはないかと相談。すると、指揮官が着ていた作業服があるらしい。しかし身長差からか少しだけ短く感じられた。

 

「指揮官、このサイズしか無いのか?」

「残念ながら」

「分かった」

 宿直室でツナギに着替えようとハウンドスーツのボタンを外していく。既に廊下ではベルファストが控えていた。流石仕事が早い。

 ネクタイを緩め、袖のボタンも外すと上着とベストを指揮官に投げ渡す。ワイシャツに手を掛けて素肌を見せると指揮官が驚いていた。

 

「ん、どうした?」

「……あー、いえ。すごいですね、その……身体」

「ああ。傷跡か。気にすんな、人よりちょっと“やんちゃ”なだけだ」

 胸元から腕に掛けて切り傷や裂傷など、様々な怪我の痕跡が全身に刻まれている身体だが、痛ましいというよりも勇ましさが勝る。それに比べれば指揮官の身体は小奇麗だ。目立つ怪我などは残っていない。

 ズボンを脱いでからツナギに袖を通したエヌラスは着心地を確かめるが、少しキツかった。へその辺りでファスナーを留めてから半脱ぎにして腕を結ぶ。しかし、腕の傷跡が少し見苦しいと思ったのか少しだけ考えていた。

 

「んー、どうにか出来ねえかな……」

「あまり気にするような物でもないのでは? ほら、名誉の負傷と言いますし」

「質問攻めされるのが嫌なだけだ」

 今度長袖を持ってこよう。ひとまず今日はこれで我慢だ。

 ベルファストにスーツの洗濯を頼んでから二人は別れる。倉庫整理に向かう補佐官と、綾波と一緒に雑務を片付ける指揮官。

 ──案の定、補佐官の傷跡を見て何やら悪評が広まった模様。ええい風評被害などに屈したりはしないぞ。誤解を解くのは少々難儀しそうだが。

 

「ほう。卿にますます興味が湧いてきた」

「なんだその怪我?」

「へぇ、いい身体してるのね」

「うわぁ、すごい傷跡ですね。どういう生き方してたらそうなるんですか?」

「…………」

 そして倉庫前で鉄血艦隊にとっ捕まって頭を悩ませた。いちいち質問に答えるのが面倒なので全部無視した。

 グラーフ・ツェッペリン。レーベレヒト・マース。プリンツ・オイゲン。ニーミ。以上四名。他は戦術学園や他の用事があるようで席を外していた。

 

「ええいうるせぇ、とにかく手伝ってくれるって言うなら今日中にここは片付けるぞ」

「えぇ、この量を?」

「心底嫌そうな顔をするなプリンツ。手分けするぞ」

 まず武装の廃棄班。レーベとニーミ。工廠に運ぶだけの簡単なお仕事。

 次に設計図の仕分け。ツェッペリン。番号と紐づけて整理するだけの簡単なお仕事。

 最後。倉庫から木箱を運び出す力仕事。プリンツ。本人が不服そうな顔をするが、重巡洋艦らしく馬力があるなら手伝ってくれ、という補佐官の言葉に渋々了承していた。

 

「よーし。んじゃあ、ちゃちゃっと片付けるぞ。通りがかりの艦船がいたら引っ張ってきてくれ、人手は多い方がいい」

「はい、補佐官。よろしいでしょうか」

「どうぞ、ニーミ」

「指定の艦種などはありますか?」

「とりあえず常識人枠で頼む」

「わかりました!」

 仕事を妨害しそうな相手は避けてくれると助かる。お前のことだぞサンディエゴ&ネプテューヌのはっちゃけ軽巡コンビ。一度手を組んだらノンストップでアクセル全開シンクロニシティなトロッコばりの暴走ぶりを見せるお前ら。

 倉庫整理再開。台車で駆逐の二人が木箱を工廠へ向けて運んでいる間、ツェッペリンは腰を下ろして束にした設計図の種類と番号を見ながら仕分けていく。大雑把に仕分け、それから揃った物をクリップで留めて別に木箱へ投げ入れる。

 エヌラスが山積みにされた木箱を担いでプリンツに渡し、それを入り口近くまで持っていく。

 最初は五人でやっていた作業だったが、途中からインディアナポリスと付属品の姉、ポートランドが連れて来られた。

 

「……お手伝いに来たんだけど、何をしたらいいの……?」

「インディちゃんのお手伝いに来ました~♪」

「あら、ユニオンの仲良し姉妹。そうねぇ、それじゃそこの木箱を工廠に持っていってもらえる? 廃棄品なの」

「うん、わかった……」

「は~い」

 流石に戦艦クラスの主砲は荷が重いと判断したのか、プリンツはそれを二人に任せる。補佐官の様子を見ると、倉庫の奥の方で何やら片付けている様子。

 次に連れてこられたのは重桜艦隊所属の高雄と愛宕、そしてクリーブランドとデンバーの四人。

 

「おー、なんだなんだ。補佐官は頑張ってるな」

「拙者達も手を貸そう」

「そうねぇ……補佐官、何かあるー?」

 プリンツが木箱の山に埋もれてから出てこないエヌラス補佐官に呼びかけると、少ししてから出てきた。

 

「何か装備箱とかいうやつ見つけたんだが開けられねぇんだけど! 任せていいか!」

「……あー」

「地味な仕事になりそうだね、クリーブ姉貴……」

「重桜の二人は設計図の仕分けを手伝ってやってくれ。まだまだ出てくるぞこれ」

「承知」

「お姉さんに任せて。どうも、鉄血の空母さん」

「ああ。艦載機と対空機銃の設計図はこちらで受けよう。そちらには」

「主砲に魚雷に、その他。大変よ~これは」

「指揮官が出不精でなければこのような苦労もせずに済むというのに……いざ、参る」

 高雄は真剣な表情で雑用に取り掛かり、愛宕も手早く仕分けていく。それを傍らで黙々と片付けるツェッペリンは設計図をまとめると木箱へ入れた。

 

 大人数で取り掛かったにも関わらず、その日の倉庫整理の進展は四割程度に留まる。どれだけ溜め込んでいるんだ指揮官め。エヌラスは少しだけ恨めしく思いながらその日の作業を切り上げた。

 ボイコットを満喫していた明石が工廠の扉を開けた途端に悲鳴を上げたのは言うまでもない。

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