*100 千の夜を超えて
暖かな朝日が窓から差し込んでいる。
窓辺の寝台に横たわる女性と抱きかかえられた赤子を照らす光は、男にはいつもに増して眩しく見えた。
だからだろうか、健やかな寝息を立てていた赤子は、こそばゆいと言わんばかりにうめき声を上げて身じろぎする。
一方、胸の中で身じろぎする我が子を眺める女性は、心底愛おしそうな視線を注ぎながら口元に笑みを浮かべた。
「ふふっ……」
「……名前……」
「ああ、そうだった」
呆然と我が子を見つめる男に対し、母親である女は溌剌と応答してみせた。
「もう考えてるのか?」
「もちろん」
「……聞かせてくれないか」
赤子の頬を指で撫でながら耳を傾ける。
これからこの子が一生背負っていく名を、一言一句聞き逃すまいと。
「この子の名前は……真……芥火───」
***
厳かな空気が流れている。
それは開けた広場に鎮座する壇上を前に、死覇装に身を包んだ黒の列がこれでもかと出来上がっているからだろうか。
霊王護神大戦───護廷十三隊と見えざる帝国の戦争は、そう呼ばれるようになった。
数え切れぬ建物が壊れ、数え切れぬ命が奪われ、数え切れぬ奇跡が折り重なってから二年と九か月。
日数にして千日に至った今日、壇上の横には、それを祝うかのように絢爛な花がこれでもかと飾り立てられている。
しかし、この場に居る者たちの視線は花なぞより壇上に立っている二人へと注がれていた。
「───それでは、斬魄刀授与を執り行います」
厳粛な雰囲気に相応しい凛とした声を、進行を務める七緒が発する。
すれば、無銘の斬魄刀を抱えていた京楽が跪く院生に向け、感慨深そうな面持ちのままに刀を差し出した。
「……こういう堅苦しいのは苦手なんだけどねぇ」
目の前にいる
「───おめでとう、これでキミも晴れて死神だよ」
「は」
目を引くような金髪を結う美青年が、差し出された斬魄刀をわがものと腰に佩く。
次の瞬間、直前まで堪えていた興奮が爆発するように歓声が沸き立った。途端に厳粛な式典の雰囲気が台無しとなるが、総隊長の京楽や学院長の浮竹が咎めずにこやかに笑うものだから、七緒も『やれやれ』と言わんばかりに眉尻を下げながら微笑む。
「……こほんっ! それでは今一度、今期真央霊術院卒業生代表、ユーグラム・ハッシュヴァルトに大きな拍手を!」
『わああああ!』
七緒の言葉に応じ、歓声はより大きな波となって人々に波及する。
あちらこちらで拍手が巻き起これば、空には巨大な花火が轟音と共に咲き誇り、用意されていた白鳩も一斉に飛び立つ。
終戦から九十九の夜を超えて迎えた式典。
それはかつての敵───滅却師を死神として迎え入れるという、護廷十三隊にとって大きな意味を備えた一歩を踏み出すことに違いなかった。
***
「いやぁ、改めておめでとう。死神になってみた実感とかはどうかい?」
「……実務に携わってない以上、答えかねます」
「生真面目だねぇ。ま、それがキミのいいところなのかな」
無事に式典が終わった後、京楽とハッシュヴァルトは霊術院の一室に座っていた。
ただの教室とは違い、高級感のある革製のソファがあることから、学院長や来賓が来るような特別な部屋であるには違いない。
そこには総隊長と一隊士という上下関係ではなく、あくまで戦争の当事者として対等な立場として言葉を交わす者だけが居た。
「それにしても時が経つのも早いもんだねぇ。もうそろそろ三年経つけれど、あんな状況から考えたら結構復興してきたんじゃないかな?」
「……建物はともかく、人はまだまだ足りないのでは」
「だね。けど、そこはほら! キミらに期待してるさ」
あくまで淡々と答えるハッシュヴァルトに対し、京楽は飄々とした口調だ。
「じゃなきゃ、半ば強引に
「善処します」
「そんなお堅くならなくたっていいよ」
京楽は手を仰いで笑う。
「現にキミらの霊子で建造物を作る技術がなければ、復興もまだまだ進んじゃいなかった。それだけでも友好的な見えざる帝国の人らを引き込めた理由はあるんじゃないかな?」
「……それにしても敵軍だった兵士を邸内の組織に組み込もうとするのは、過去の贖罪にしては浅薄な考えとも捉えかねられませんが」
「もちろん、反対した人はたくさん居たよ。けれど、それ以上にキミたちと手を取ろうって訴えてくれた人がたくさん居たって何度も言ったじゃないか」
からからと笑う京楽は回想する。
終戦直後、投降した見えざる帝国の処遇を如何様にするか、中央四十六室と協議を重ねていた。
当初は賢人の大多数が、死神と滅却師の禍根を残さぬよう、一人残らず処刑すべきだと訴えていた。見えざる帝国の戦力、戦争に至るまでの経緯、そして受けた被害を鑑みれば賢人の言い分も理解できる。
戦争とは厄介なものだ。終わっても残った種火がまた新たな火種を生む。
故に二度と滅却師との戦争を起こさない為には、滅却師の種を絶滅すべき───その言い分自体は一理ある。
しかし、死神が滅却師を絶滅しようとするには双方が歩み寄りすぎてしまっていた。
一度、四十六室が滅却師の処刑を決定しようとしているという噂が流布された途端、数多くの嘆願書が賢人の下へと届いたのである。それは彼らが鎮座する地下議事堂を埋め尽くすくらいには、だ。
一度争った事実は消えない。だが逆もまた然り。助け合った事実も消えはせず、互いに情を覚えていた死神に、滅却師を根絶するという決定は認めがたいものであった。
ある者は情状酌量を謳い、ある者は過去の清算を唱え、ある者は裁判の公正を説いた。
そうしている内に声は広がり、瀞霊廷のみならず流魂街までをも巻き込む一大運動が巻き起こったのである。
いくら尸魂界の法を司る中央四十六室とはいえ、ここまで巨大になった声は到底無視できるものではない。組織としての威厳を守るべく、強権を発動させて強引にでも不安の芽を摘むことはできる。
だがしかし、そうすれば四十六室への不信が一気に高まり、司法機関としての公正さを疑われた挙句、藍染の大逆の二の舞を演じる羽目になるかもしれない。
そうして老いさらばえた賢人が何人も怯える中、いの一番に滅却師の処遇を決める合議に乗り出したのが、賢人の中でも一際若い才女こと阿万門ナユラであった。
『正義などと謳うが、戦争なぞ所詮身内の利益を獲得する為の闘争……何よりも必要なのは上手い落としどころぞ』
幼い顔で憮然と言い放ったナユラの姿に、当時同席していた京楽は噴き出してしまったものだ。
そうして中央四十六、護廷十三隊、見えざる帝国のトップが一堂に会し、何日もかけて決定した内容が“欠員が著しい護廷十三隊を補う人員として、見えざる帝国麾下の滅却師を死神として育成・採用する”というもの。
当然、瀞霊廷側から反論もあった。
一方でこうした最大限の譲歩を受けながらも、断固として受け入れない滅却師も少なくはない。
それでも戦争で与えた被害を考慮すれば、命の保証をし、衣食住を確約する提案に、死神との融和の道を選び取った者たちはかなりの数に上った。
「生き返った人も居るから、見立てよりはずっと被害は少なかったけれど……それでも無視できる数じゃあなかったからね」
「……我々が共に護った世界の平和を維持できぬとなれば、それこそ逝かれた陛下に顔向けはできませんので」
「義理堅くて助かるよ」
さて、と茶の入った湯飲みが置かれれば、護廷十三隊総隊長の顔が現れる。
「復興を手伝ってもらって数年……それは事実だけれども、まだまだ護廷隊と滅却師の溝は深い。これからキミにはそのあたりを気にかけてほしいんだ。構わないかい?」
「はっ」
「そんなに畏まらなくていいんだよぉ」
総隊長としての威厳を出そうにも、それ以上に堅苦しい部下が居ると途端に弛んでしまうものだ。堪らず京楽は自嘲する。
実力主義のきらいがある護廷十三隊だ。そう遠くない未来にもハッシュヴァルトをはじめ、有力な元星十字騎士団の滅却師などは高位の席次を与るだろう。
ゆくゆくは護廷隊の上位席官に滅却師が大勢いる───などという未来もない話ではない。
だからこそ、早めに不安の種は摘んでおきたい。
いくら滅却師への偏見が減ったとはいえ、まだまだ大戦の傷は根深い。少し耳を傾ければ、大なり小なりの諍いは聞こえてくるものだ。
「もちろんボクもそういう喧嘩の仲裁には入るけれど、やっぱり滅却師の人たちにはキミの声の方が届くだろうからね」
「私はすでに最高位の座から退いておりますが」
「それでもキミが適任さ」
「……そこまで仰られるのであれば」
そう言ってハッシュヴァルトは深々と頭を下げる。
ユーハバッハが戦死した今、実質的な見えざる帝国のトップは彼だ。見えざる帝国ほほとんどが護廷十三隊に編入した今でも、滅却師のリーダーとして彼を持ち上げる者は大勢居る。
だからこそ、これからも長い付き合いになる死神と滅却師の間を取り持つ架け橋として、ハッシュヴァルトには死神として成熟してもらいたい───心から京楽は思うのであった。
「さてと、真面目な話はここまでだ。ここからは肩の力を抜ける話といこう」
「まだ何かおありで?」
「……案外キミって口調が強いって言われないかい?」
「不快にさせたのであれば矯正致しますが」
「いんや、いいよぉ。七緒ちゃんも似たようなものだしね」
さいですか、と頷くハッシュヴァルトに、京楽は徐に柏手をたたいた。
すれば、小気味よい乾いた音が鳴り響くと同時に、締め切られていた扉が開いて副官である七緒が颯爽と現れた。総隊長の補佐としての居住まいも板についてきた彼女は、質素ながらも高級感の漂う箱を抱えてきたかと思えば、そのまま中身を開いて見せる。
「どうぞ、お手に取ってください」
「これは……」
「どうだい? 気に入ってくれたかな?」
悪戯を仕掛けた子供のように微笑む京楽は、
見る者によれば、滅却師の一張羅ともいえるマントに似ていなくもない。
しかし、このサプライズの仕掛け人である京楽は『それだけじゃない』と言わんばかりに口を開いた。
「前の一番隊副隊長にね、雀部長次郎って人が居たんだよ。その人に倣って、死覇装にも合うようボクがプロデュースしたってワケ♪」
「余程でない限り、死覇装の改造については認められております」
京楽が言えば遊び人の道楽とも捉えかねない言葉が、七緒のフォローも入ることで、滅却師が死神になじめるようにとの精力的な取り組みだと汲んで取れた。
ハッシュヴァルト自身、雀部という死神を知らない訳ではない。
同時に、彼が他ならぬ見えざる帝国の宣戦布告の犠牲になった事実についても───。
「───これを」
「うん?」
「これを私が纏い……故人の侮辱にはならないでしょうか?」
純粋な疑問。
故人を忘れぬようにとの計らいが見て取れるも、それを手にかけた側が携わるとなれば、途端にデリケートな話になりかねない。
仮に雀部を尊敬していた者がマントを身に纏う滅却師を見れば、どの面を下げてと憤慨するかもしれないだろう。
だからこその憂慮を表情に滲ませつつ問いかけたハッシュヴァルトに、
「いいんだよ」
にべもなく京楽は答えた。
「キミの言いたいことも分かる。遠慮も、懸念も。けどね、大事なのは忘れないことさ」
「忘れないこと……ですか」
「うん。ボクもキミも彼のことを忘れない。彼もまた護廷十三隊を……世界を支えてきた死神の一人だってことを思い出すきっかけになればいいと思ってね」
「……苦い思い出です」
「まったくだよ。この歳になって弱い人間だって思い知らされるほど堪えるモンはないね。だから意味がある。弱い自分と過去の罪……これからは一緒に背負って頑張っていこう」
そう言い放って京楽は手を差し伸べる。
一度は殺し合う為の剣を握った手。
それを今度はただ固く繋ぐ為だけに。
「……そこまで仰られてまで受け取らない訳にはいきません。故人の遺志を継ぎ、過去の罪を清算する為にも……より一層精進してまいる所存です」
「はははっ、一応喜んでもらえた……ってコトでいいかな?」
「ええ、本当に」
深々と下げた頭を上げた時、京楽に向けられる表情は仄かに柔らかくなっていた。
あの堅物な青年がこうも分かりやすく表情に出したのだから、行動に出た甲斐はあったか───感慨深そうに顎鬚をなぞる京楽は、隣に立つ副官へ視線を注いだ。
「よかったね、七緒ちゃん。喜んでもらえて」
「なっ……どういう意味か汲みかねますが」
「……もしや彼女が?」
一瞬の動揺から平静を取り繕うも、敏い目の前の青年を誤魔化すことはできなかった。
「わ、私はただこの大事な立て直しの時期に、組織内の不和で問題が生じぬようにと提言しただけです!」
「そうか……感謝の言葉もありません」
「こほんっ。それは兎も角として、未だ死神と滅却師の軋轢が深いことは否定できません。なればこそ、こちら側も協力は惜しみませんので、ハッシュヴァルトさんからも提案をしていただけると助かります」
「無論」
「心強い返答、ありがとうございます」
柔和な雰囲気のままに微笑み合う両者に、京楽は『あれ?』と置いてけぼりにされた感を否めぬように首を傾げた。
「ちょっとちょっと、七緒ちゃ~ん? その言い方だと、ボクが普段頼りないみたいに聞こえるけど……」
「否定は……断固として致しません」
「そこは否定してくれないかな!? って、断固として!? ボク、そんなに頼りないの!?」
「自覚がないんですか?」
「その冷たい視線未だかつて向けられたことなかったよ! あっ、でもそんな七緒ちゃんもカワイイよぉ~♡」
「こんなのが総隊長ですので、もう何名か責任感の強い方が補佐としてついて頂けたら最適ですね」
「
と、気の置けないやり取りを披露する二人。
しかしながら、単純な上下関係以上の信頼感を感じさせる一幕に、ハッシュヴァルトはあるべき上の者と下の者の姿を脳裏に焼き付ける。
───それにしても、ここまで軽薄なのもどうだが。
苦笑を禁じ得ない光景を前に、失礼な態度を見せまいと青年は面を伏せた。
だが、耳を心地よく揺らすやり取りが、瞑った瞼の裏に一つの幻を視せる。殺伐としていない、理不尽に命が奪われることのない和やかな未来───紛れもなくハッシュヴァルトが視た夢に他ならない。
静穏な心境のハッシュヴァルトは、今一度手に取ったマントを眺める。
悪くない。眺めれば眺めるほど、不思議と愛着が湧いてくるようだった。
『おい、ユーゴー! どこに居やがる!』
「おんやァ。キミの友達がお迎えに来たみたいだね」
不意に廊下から響き渡ってくる友の声に、もう暫し感慨に耽りたかったハッシュヴァルトは短く溜め息を吐いた。
「……申し訳ございません、お騒がせして」
「構わないよ。ちなみになんだけれど、これから卒業記念にご飯にでも行くのかい?」
「おそらくは」
「それならボクも混ぜてくんないかなァ? ホラ、卒業祝いとして一杯おごってあげるから……」
「総隊長、祝いにかこつけて業務怠慢など言語道断です」
「……ダメ?」
「駄目です」
副官としての断固たる態度に、とほほ、と京楽は肩を落とす。
「やれやれ、いつになっても総隊長の忙しなさには慣れないよ……」
「私がお支え致しますので、どうぞご心配なく」
「……いずれは私も、ですか」
一見揶揄った口振りで答える七緒に乗っかるハッシュヴァルトに、今度こそ京楽は苦笑いを禁じ得なくなった。
「ホント……心強いねぇ」
新・護廷十三隊は、今も尚、手を取り合った大勢の滅却師と共に道を模索する途中だ。
互いに逸れた道を戻すのは容易い真似でもなければ、それこそ気の遠くなるような時間をかけなければ成せぬ未来。
しかしながら、遥か遠くの光景を目にできると疑わぬ者こそ、今を生きる彼らであった。
***
「だ~う」
「お~、よしよし。抱っこしてほしいのね。ママに任せなさい」
短い両腕を精一杯伸ばす幼子を抱き上げる母親。
実に仲睦まじい親子の姿を切り取った光景であるが、今まさに傍から見ている当事者にとってはその限りではない様子だ。
不服。その二文字を顔に張り付けた少年は、怜悧な印象を漂わせる眼光に呆れを滲ませ、幼子をあやしている部下へと喋りかける。
「おい、松本……」
「はい? なんです、隊長」
「休隊中のお前がどうして執務室に居る」
「だってェ、ここなら万が一あたしが
「ここは! 託児所じゃ! ねえんだよ!」
けたたましい雷が落ちる。
思わずビクリと肩とたわわな胸を揺らす乱菊。そのような彼女とは裏腹に、抱き上げられた幼子は何食わぬ顔を浮かべたままだった。
隊長に怒鳴られても尚、この平静さ。幼いながら中々の胆力だ……と感心するのはさておき。
「あ~、びっくりした。急に大声出さないでくださいよぉ。菊理が泣いたらどう責任取ってくれるんですか?」
「せめて泣いてからそのセリフを吐け! というか、それもこれもお前が子供を隊舎に連れて来てるのが問題なんだろうが!」
「別に連れてきちゃダメって決まりもないじゃないですか」
「連れてきてもいいっていう決まりもねえよ!」
ああ言えばこう言う副官に怒り心頭な日番谷冬獅郎。彼の気苦労も今に始まった訳ではないが、副官が出産・育児を理由に休隊してからは心労が加速してきたきらいがある。
「聞ききなさいよ、菊理。あんた、隊長に面倒看てもらえないって」
「ぶー」
「ほら、菊理も文句言ってますよ」
「それはお前の解釈の仕方だろうが……!」
子供を盾に抗議する副官へ、蟀谷に浮かぶ青筋の痙攣は止まらない。
しかし、いつまでも苛立ったとしても休隊中の彼女が仕事を手伝ってくれるはずもなく、仕方ないと言わんばかりに机上の書類に手を付ける。
「はぁ……いっそのこと、本当に隊舎に託児所を用意してやろうか」
「あっ、いいですねー! 護廷隊の育児改革……『女性死神も働きやすい職場!』みたいな議題で女性死神協会に提案でもしてみますか」
「おい、冗談だぞ」
「朽木隊長辺りに朽木を引き合いに相談すれば……」
「……冗談じゃ済まなくなるぞ」
四大貴族当主の協力を得れば、突飛な発案も夢ではなくなる。
近い未来に彼の身内が結婚して子供を設けた場合を思えば、本当に託児所を建ててもおかしくはないだろう。それを納得できてしまうだけの財力はあるのだから性質が悪い。
閑話休題。
あの普段だらしない乱菊が。
あの男性人気の高い乱菊が。
あの高嶺の花っぽい乱菊が。
昔の彼女からは想像もできぬ慈愛に満ちた表情で抱きかかえている金髪の幼子は、彼女の実娘に他ならない。
名は、松本菊理。
幼いながら母の血を色濃く感じさせる髪色と端正な顔立ち、そして碧い瞳が特徴的な女の子である。性格としては乱菊に似て胆が据わっており、時折執務室に鳴り響く怒鳴り声を聞いてもピクリともしない。
もしもこの子が十番隊に入れば、母親以上の大物になることは間違いない───ある種日番谷の胃を痛ませる原因たる少女は、母親と周囲の人間の愛情を一身に浴びてすくすく成長していた。
「ったく……早く菊理がデカくなってくれりゃあ、お前も現場復帰できるのに」
「まだまだですよ。だって、まだ二歳になる前ですし。むしろ子育てはこれからが本番ですって」
「……気が長ぇ話だな」
「ホントご迷惑おかけしてまっす」
「心にも思ってねえような口調をやめろ」
てへっ、と自分で頭を小突く乱菊に、日番谷の心労は留まるところを知らない。
彼女とは長い付き合いだ。この程度、今更……と流す程度訳はない。むしろ、信頼を寄せている副官が子宝に恵まれた件には素直に祝福している。
しかし、だからこそ湧き上がってくる不安もあった。
「……なあ、松本」
「はぃ?」
「菊理が大きくなったらどう説明するんだ?」
「どうって……何の話です?」
「父親だ」
単刀直入に訊く。
仕事上で最も近しい日番谷や、プライベートでも仲のいい同僚すらも知らない事柄───それは菊理の父親について。
一見口が軽そうな彼女が頑なに言いふらさないことから、他言しない方がいい身の上であるのは察せる。故に一人思い浮かぶ人物が見えてくるが、彼女が他言しない以上、それも憶測に過ぎない。
「正直、俺は誰が父親なんて興味はねえ。けど、菊理はいずれ知りたがるだろ」
日番谷が懸念するのは、成長した菊理にどう説明するか───その一点のみ。
死んだとだけ説明するか、一から十まで洗いざらい説明するか。どちらにせよ子供の成長に大いに関与するのは間違いない。
「どう説明するったって……」
「お前が話を合わせてくれってんなら、俺はそいつを尊重する」
「隊長……いえ、そんな気遣い必要ありませんよ」
フッと微笑みを零した乱菊は、何の憂いもない表情の我が子を抱きしめる。離すまいと力強く、それでいて苦しくないように優しく。絶妙な力加減で抱かれる菊理は、そのまま数秒もしない内に穏やかな寝息を立てながら眠りに落ちた。
それから一段声のトーンを落とした乱菊は語る。
「この子にはなーんも隠し事はしません。あたし、嘘は嫌いですから」
「……そうか」
「だから、あんたのパパはお空に上ったって……そう話すつもりなんです」
「松本……」
窓から吹き込んでくる清涼な風が頬を撫で、室内が湿った空気に包まれていたと二人は知る。
一拍置いて、ゆっくりと深呼吸した日番谷が口を開く。
「……それだと死んだっていう風に思われねえか?」
「え? でも事実ですし」
「誤解招く言い方は嘘より性質が悪いだろうが!」
ダンッ! と机に拳を叩きつける日番谷。
次の瞬間、夢の世界に誘われていた菊理の瞳はパチリと見開かれた。
「……ぶー」
「ほら、隊長がうるさくしたから菊理が起きちゃいましたよ~」
「とーしろー」
「呼び捨てにするんじゃねえ! 日番谷隊長だ」
「二歳児に何を求めてるんですか」
上司を呼び捨てにする娘に笑いを禁じられない乱菊。
そのニヤケ面に我慢ならなくなった日番谷の雷は、もう一度十番隊舎中に響き渡り、『またやってる……』と隊士に日常の空気を味わわせるのであった。
***
「おー、やだやだ」
と、鬱屈を隠しもしない伊達男と他数名は、技術開発局のとある一室を目指していた。
「な~んで毎週接種するんだか……こういうのってもうちょい間隔開けるもんなんじゃないの?」
「オレが知るかよ。それこそあの顔面ハロウィンに訊いてみろよ」
「ヤダヤダ。口答えして変な毒薬飲まされんのはご勘弁だね」
「お前にゃ大した問題にならないだろ、ナックルヴァール」
ぐちぐちと文句を垂れていたナックルヴァールへ歯に衣着せぬ物言いで答える金髪の少女・リルトットは、早速改造された死覇装を風に揺らしていた。
袖なしの上衣にミニスカートと、最早原型は色合い程度しか残っていない。それは後ろに続く取り巻きも同様だ。
「ワクチン接種だかなんだか知らないけど、メンド臭いったらありゃしねえっての」
「でも、ちゃんと言う事聞かないと後が怖いと思うの……」
「あの変態科学者に何されるか分かったもんじゃないしねー」
ガシガシと髪を搔き乱すキャンディスに続き、ミニーニャ、ジゼルといった滅却師たちが揃いも揃って愚痴を零す。
あの大戦中、戦死した星十字騎士団は数多く存在する。
しかしながら、存命した者は勿論の事、死体の損壊が少なかった為に聖別によって生き返った者も何名か居た。それが霊王宮でマユリらに倒されたナックルヴァールや、瀞霊廷で隊長格に討たれたバンビーズの面々などだ。
それはさておき、彼らが集まった理由だ。
滅却師は生まれつき虚の毒性に対する免疫がない。故に滅却十字を使わず死神のように戦い、毒に侵されようものならば死に直結してしまう危険と隣り合わせにあった。
死神と滅却師の融和にあたり挙がった問題点だが、これは尸魂界が誇る二人の天才により解決策がもたらされたのである。
すなわち、虚の毒性への免疫をつける───ワクチン接種に帰結した。
現在、瀞霊廷に住まう滅却師は毎週技術開発局にて接種が義務付けられている。これは彼らの生命の安全を保障する為……となってはいるが、接種の度にあの濃い化粧を施した狂人に対面する可能性があると思うと、足が重くなってくる感覚を覚えるようだ。
「そういやバンビは? 一緒じゃねえのか」
「あいつなら、ほら」
バンビーズの面子が一人足りないと気付いたナックルヴァールの問いに、リルトットは後ろを指差す。
指先を視線で辿っていけば、これまた改造した死覇装に身を包んでいる少女が、ズルズルと足を引き摺りながら付いてきている姿が見えた。
見るからに足取りが重い。
これから注射……と思えば、若干分からなくもない気もするが、いくらなんでも回数をこなしてきた今ならば痛みなど屁のようなものだ。
だとするならば、理由は他にあるだろう。
「どうしちゃったの、バンビの奴?」
「気にすんな。
「……あー。
遠回しに存在を示唆するも、バンビエッタの地獄耳はそれを捉えた。
するや、即座に面を上げた彼女が癇癪を起こすように黄色い声を上げ始める。
「ちょっと! 何話そうとしてんの!? まさか、あの気狂い科学者についてじゃないでしょうね!」
「何か問題でも?」
「やめなさいよね! あいつのことを思い出すと……」
「私が何かネ?」
「きゃあああ!!?」
噂をすればなんとやら。
音もなく背後に現れたマユリに、バンビエッタは今にも失神しそうな反応を見せつつ、キャンディスとミニーニャを盾にするよう後ろへ回り込んだ。
びくびくと涙目で震える姿はまさしく小鹿。過剰に怯えているようにも見て取れるが、子細を知らないナックルヴァールは何かあったのかと勘繰り、恐る恐ると質問を投げかけた。
「えーっと……ウチのバンビが何かやらかしたんで?」
「第一に身内の不始末を疑うとは、その小娘への信頼のなさを窺わせるようだネ。まあ、まさしくその通りなのだが」
「あー……つまり?」
「なに。ただ、万が一にも叛逆して蛮行を働こうものなら肉爆弾になるよう仕込んでおいたんだが……どうやら先日正常に起動したみたいでネ」
マユリの長い爪は、まずはバンビエッタへ。次にジゼルを差し示す。
「そこのゾンビ娘の協力でわざわざ肉を寄せ集めて蘇生してやったんだが、以前の飼い主のしつけが悪かったと見える。このように命の恩人たる私に反抗的な態度をとっているんだヨ」
「ホントありえない! 人のこと爆弾にするなんて!」
「何か問題でも?」
「ひぃ!?」
ギョロリと見開かれる瞳にねめつけられ、懐から取り出される手動の起爆スイッチを見せつけられるや、バンビエッタは萎縮して小さく縮こまる。
自業自得と言えばその通りなのだが、その代償として蘇生にあたってのゾンビ化解除で寿命を大きく削られたのと、爆死する恐怖を植え付けられた点については、僅かながら同情を禁じ得ない部分もあった。
しかし、バンビーズの面々のほとんどは彼女の日ごろの行いだと、爆死した件については流している。むしろ『自分らを巻き込んでくれるな』と呆れた視線を投げつけるばかりだ。
と、このように滅却師の中でも素行に問題があると判断された者については、特例としてマユリの監視用の菌と共に反抗時の予防措置が図られている。
ワクチン接種もその一環だ。
「君達も一山いくらの肉団子になりたくなければ、大人しく言う事は聞いておく事だネ」
「……肝に銘じておきます、っと」
「イヤァー! あたしは楽して稼げるって聞いたから死神共に付いたっていうのに、爆死するなんて聞いてないィー!」
恥も外聞もなく喚き立てるバンビエッタ。爆発四散したのが相当堪えたのだろう。
涙目で情に訴えようとしているものの、そもそもマユリに情が通用するはずもなく、彼女の内面を知る身内からも擁護されるはずもなかった。
「五月蠅い小娘だネ。ネム、連れていけ」
「畏まりました、マユリ様」
「ちょ、放しなさいよこの能面女ァ! あたしにこんなことしてただで済むと思ってるわけ!?」
「貴方の処遇につきましては、私ではなく全てマユリ様の裁量にかかっておりますので」
「怖いこと言うんじゃないわよ!」
一度頭が爆散した手前、ネムの言葉が脅しでないのは事実。
打ちひしがれる間もなく引き摺られていくバンビエッタは、冷たい視線を浴びせかけてくるバンビーズの面々に『黙って見てるんじゃないわよ!』と上から目線で助けを求めるばかり。
だが、それで動く者は当然居らず、
「再三言っても姦しい小娘だネ。ネム、ワクチンの代わりに霊蟲の卵でも投与しておけ」
「はい、畏まりました」
「畏まるんじゃないわよ! なに、えっ、蟲!? 蟲の卵なんか体に入れてどうする訳!?」
「『どう』とは……孵化すればキミの空っぽな脳みそが内部から蟲に食い散らされるだけだが?」
「だけだが? じゃないわよ! リル! キャンディ! ミニー! ジジ! あたしを助けなさいよ!」
助けてってばァ~! と、バンビエッタの悲鳴が響き渡るも虚しく、その細腕に似合わぬ怪力を有するネムに研究室へ勢いよく放り込まれた。
ドンガラガッシャンと器材が倒れる音が豪快に鳴り響くが、それを上回るバンビエッタの癇癪がある以上、大した音とは言えない。
『きゃあああ!』
「……傍若無人なバンビも、
「みたいだな。ま、あのクソみたいな性格の矯正にはちょうどいいだろ」
「……かもしれねえなぁ」
『ちょ……何よそのサイズ!? やめて、そんなの入らないから! わ、分かったってば! 大人しくするから! せめて優しく……痛くしな───ひぎびゃあああ!?!?!?』
三度、劈くような悲鳴が辺りに響き渡った。
「……ちょうどいいか、あれ?」
「ああ、ちょうどいい薬だ」
淡々とリルトットは言い切った。
我儘
毒を克服するには、相応の苦難が必要だ───尊い犠牲を目の当たりにした滅却師らは、そう強く感じているのだった。
***
『───ひぎびゃあああ……』
「あれ?」
「どうしました、勇音」
「今、誰かの悲鳴が聞こえたような……」
「そうですか? 私には聞こえませんでしたが」
復興の真っ只中にある瀞霊廷。
その一角に建て直された茶屋で一服していたのは、四番隊の母こと卯ノ花烈ともう一人。以前までのツンツンとした髪形とは打って変わって、髪の艶で光の輪が描かれるようなショートボブにイメージチェンジを果たした副官、虎徹勇音である。
だがしかし、それは卯ノ花も同じ。腰まで長かった濡れ羽色の髪は、今や肩にかかるか否かという長さまでバッサリと切り揃えられていた。
傍目からすれば、卯ノ花と勇音のペアルック。そう捉えられなくもない見た目へと変貌した二人は、爽やかな快晴の下で昼休憩を謳歌していた。
「卯ノ花隊長がそう仰るのであれば……ですね! きっと空耳です」
「ええ。そういうことにしておきましょう」
大切な副官との時間に水を差されまいと気を回した卯ノ花。
一度は剣八との死闘で初代剣八としての務めを終え、最強の座を真の意味で次世代に譲り渡した彼女だが、紆余曲折を経て生き返り今に至る。
こうして生き永らえた結果には、まだ今生で果たすべき務めが残っているに違いない。そう受け止めた彼女は、護廷十三隊開闢以来最も大きな変革を迎えている歴史の立会人として日々を過ごしていた。
戦争から二年の時も流れ、緩やかではあるが傷も癒えてきた兆候が各地で見受けられる。
しかしながら、此度の戦争で刻まれた傷は余りにも根深い。それこそ一朝一夕───ともすれば、死神と滅却師がいがみ合った千年をゆうに超える時を要するかもしれないだろう。
(それでも……)
卯ノ花は長い髪を切り落とすにあたり、人前で隠せぬようになった胸の傷をなぞる。
一度目は千年前に。
二度目はそれから千年後に。
その間、延々と疼き続けた傷跡は、今や嘘のように静まり返っている。
歪な願いの象徴。飽くなき戦いへの情欲の印だったそれも、無きものとして扱えるようになっている自分が嘘に思えた。
「傷はいずれ癒えるもの……それは時であり人であり。癒し方も千差万別という訳ですね」
「はい! 私は卯ノ花隊長とのお茶で癒されております……なんちゃって」
「うふふ、恥じらわなくて結構ですよ。私も勇音の努める姿にはいつも励まされております」
赤面する副官に微笑みながら、卯ノ花は故人を想う。
十と三つあまりの願いを添えた組織を立ち上げ、千年の間、瀞霊廷を守ってきた戦友───元柳斎を。
(私がそちらに赴くのは、もう少し先の話になりそうです)
土産話には困るまい。
これからを想う卯ノ花の口元には、自然と三日月が浮かんでいた。
そこには“死剣”の姿はない。
まして“八千流”の姿もない。
佇むは、傷ついた者を癒す四番隊の母のみ。
今日も今日とて、四番隊は皆を癒すべく奮闘する……一服茶を入れてから。
***
瀞霊廷に近い流魂街の一角に、閑散とした風景に似合わぬ喫茶店が立っていた。
ここ最近まで志波邸が建っていた跡地を再利用したかのような趣だ。ここ最近、復興のついでに浦原が現世の技術を尸魂界に持ち込んでいるが、まさしくその風潮に乗ったかのような外観である。
確かに落ち着きはありそうだ。
しかしながら、そこへ目指す足取りはいささかやかましい。
「おーう、邪魔するで」
「いらっしゃいませ」
静かなジャズミュージックが台無しになる関西弁を吐いて現れた客にも、カウンターの向こう側で食器の手入れをしている眼帯の店主は丁寧に迎え入れる。
「儲かってまっか……っちゅう冗談も言えんほどにガラガラやんか」
「こちらは
歯に衣着せず失礼とも捉えられる挨拶をする平子にも、この喫茶店の店主を務めているギリコは淡々と答える。
事実、アンティークな家具で揃えられた店内に客は見受けられない。閑散とし過ぎていて、一見には入店が躊躇われるほどだ。
しかしながら、ギリコが口にした通り喫茶店とはあくまで表の顔。
カウンター席から振り返れば、そこには右から左まで見渡すような本棚が並んでいるではないか。どれも喫茶店に似合いそうな小説……かと思えば、現世の本屋と遜色ないラインナップだ。漫画や雑誌、果てには写真集などと種類は様々。
目移りする品揃えを一頻り眺めた平子であったが、自分の求めていたブツがないとわかるや息を吐く。
「注文していた本なら取りおいてあるよ」
そこへ本棚の裏から声が響いてきた。
陰から覗けば、テーブル席の一つを優雅に占領する青年が、紅茶を嗜みながら小説に目を向けていた。
一枚の絵を切り抜いた風情のある光景だが、その中にお目当ての品が置いてあるのを見るや、平子は月島から代金を渡して雑誌を取り上げた。
「おお、おおきにな」
「毎度。それにしても死神がファッション誌を好んで読むなんて……
「アホ言え。オレほどファッションにうるさい男は居らんで」
「へぇ」
「ちゅうか、他人ん趣味につべこべゆーなや。プライバシーの侵害や」
この喫茶店の裏の顔───もとい、前身である会社『YDM書籍販売』を縁あって引き継いだ月島は、死神に書籍・CDなどを尸魂界に調達し、販売する余生を過ごしていた。
以前は立ち上げた創設者の趣向も相まって、男性死神に強い支持を得ていたYDMであるが、現在では瀞霊廷通信の目録に載るのみならず、月島の趣向や彼の友人の経営手腕により、女性死神や流魂街の住民といった顧客も得るに至っている。
ともあれ、古参の顧客である平子には伝手もあり、予約していたブツが届かないといった問題は発生しない。
こうして目当てのブツを手に入れられるのであれば、店舗の外観などどうでもいい訳だが、
「……にしても、流石に本のラインナップと店のレイアウトが合っとらんやろ。なんでこない堂々エロ本置いてあるんや」
「うちの主力商品に文句言いなや」
「うぉおう!? 居ったんかい、リサ!」
本棚の奥から聞きなれた声が聞こえてくれば、羽織を靡かせながら、艶やかな女性の裸体が赤裸々に写った本を片手に持つ同志が現れた。
元仮面の軍勢・矢胴丸リサ。今では元鞘の八番隊、その隊長の座に就いている身だ。
しかし、隊長になったとはいえ趣向が落ち着く道理もなく、白昼堂々とエロ本を立ち読みしている。
「別に取締役が店に居っても不思議やないやろ」
「取締役て……お前隊長ンなったんやろ」
「あくまでこいつには“委託”や。ちゃんと売り上げはあたしン懐にも入ってるで」
そんなん初耳や! と、ちゃっかりしているリサへの驚愕を口にする平子。
確かに死神との兼業は禁止されてはいない……されてはいないのだが、長年苦楽を共にした同族として、どこか腑に落ちない部分がある。
「儲かっとる癖して俺に奢らせよって! 労いの意味も込めて、今度はオレに奢れってくれや」
「嫌や。アンタに奢っても旨味ないわ」
「こんの守銭奴が……」
「あーっ! その関西弁とおかっぱ頭はっ!」
突如、店内の空気を一変させる大声が平子の鼓膜を殴りつける。
「な、なんや一体……?」
「どーもっス! 五番隊隊長、平子真子さん!」
と、またしても本棚の裏側から現れた人物を目の当たりにし、度肝を抜かれた。
、まずリサに負けず劣らずの改造を施したへそチラの死覇装。奇抜な色に染められたサイドテールに、ゴテゴテのネイル。極めつけは、それら以上に目を引く日焼けした肌。そう……俗にいうガングロギャルが目の前に現れたのだ。
「おおおぉぉ……誰やアンタ!? 今時現世でも見んようなコテコテの恰好しおって!」
「この度八番隊副隊長に任命された
「副た、い……?! ちょお、リサお前!」
あからさまに狼狽する平子に近寄られ、リサの顔も面倒そうに歪む。
「なんやねん。やかましい」
「やかましい言っとる場合か! 隊長権限使うて自分の趣味ゴリゴリに押し出した奴副官にするのは流石にどうなんや」
「別に趣味とちゃうわ。ただあたしの本貸しとったら熊如が勝手に真似しただけや」
それはつまり確信犯なのでは?
他の常識的な面子が居れば口に出しそうな考えを頭に浮かべていれば、待ち切れない様子の熊如が伝令神機を片手に平子へ迫る。
「いやー、現世って瀞霊廷で見ないファッションがたくさんあって、ゆゆビックリっス! あ、ってかメアドの交換いっスか? 瀞霊廷のファッションリーダーこと真子さんにはぜひファッションのご教示をいただきたくて!」
「誰が瀞霊廷のファッションリーダーや。ま、ええわ。折角やしメアド交換したるさかい」
「やったー! 流石、隊長はウツワパねーっスね!」
「若い女に鼻ん下伸ばしよって」
「聞こえとるで」
ごく自然な流れで女と連絡先を交換しようとしたものの、百年来の付き合いであるリサにはまんまと下心を看破される───されたところで堪える平子でもないが。
はしゃぐ熊如との伝手を得た平子は、そのまま改めて店内を見渡す。
どことなく物寂しい空気の正体を探せば、案外すぐに答えは見つかった。
「せや。銀城はどないしたん?」
「ああ、出かけてるよ」
「女ンところかいな」
「さあね、そこまでは知らないよ。ただまあ最近はよく学院長に呼ばれているらしいけれど」
「学院長……あー、浮竹先生か。せやけど、その二人が一緒に居る光景なんてあんまし想像つかんわ」
平子も護廷隊に復帰してから浮竹と銀城の因縁を聞き及んだが、だからこそわざわざ二人で共に行動している場面が思い浮かばないというのもある。
確かに初代死神代行の仲間であった完現術者の虐殺事件───これ自体は大戦から半年後、綱彌代時灘により引き起こされた大乱により、真犯人が判明した。
つまり、表向きには彼ら二人の蟠りも解消した訳ではあるが、だからといって殺された仲間が戻ってくる訳でもない。
余程のお人好しでもなければ、叛意を抱いた相手と再び歩み寄ろうとは思わないだろうが……。
「仕方ないよ。断っても向こうの方から食事に誘ってくるんだから」
「……浮竹先生らしいわ」
歩み寄る側が浮竹であるならば道理も通る。
銀城をしつこく誘う浮竹の姿が容易に想像できた平子は、感心半分呆れ半分といった面持ちで溜め息を吐いた。片や月島は『付いていく銀城も銀城だけどね』と言葉を漏らす。
どうやらお人好しはお互い様らしい。
「しかし、一緒にメシ食う言うても話に華咲かなそうやな……」
「話なんて変わらないよ」
紅茶を一口含んだ月島は、栞を挟んだ本を閉じながら続ける。
「どうせ『死神にならないかい』って勧誘さ」
───“代行”としてではなく、真の死神と認めているからこそ。
「……そら、長い話になりそうやで」
「全くだよ」
瀞霊廷はどこもかしこも人材不足。
余らせていい人材は一人も居ないと、亡き元柳斎の創った真央霊術院を継ぐ浮竹は、盛んに気炎を上げ、人材収集に勤しんでいたのであった。
***
所変わって、真央霊術院。
「───以上で講義を終了します。ご清聴ありがとうございました」
壇上に立つは可憐な少女。だがしかし、堂々と存在感を示す左腕の副官章を見れば、向けられる視線には羨望や尊敬の念が込もっていく。
物腰柔らかに腰を折るのは、定期的に卒業生として講師を務めている雛森であった。
直後、盛大な拍手が上がると共に生徒が殺到すれば、講義が終わったばかりだというのに多数の質問攻めに遭う。
「ふぅ、大変だったぁ~……」
「お疲れ様。お茶飲むかい?」
「あ、うん! ありがとう、吉良くん」
迎えた講師の待合室でもある応接間。
そこに雛森よりも前に戻ってきていた吉良が、タイミングよく注いでいた緑茶を差し出す。
香り立つ湯気に心を和ませながら一口。
質問攻めという嬉しい悲鳴に疲弊していた喉を潤す水分に、思わず口からは『ほっ』と声が上がってしまう。
「随分遅かったけれど、やっぱり雛森くんは人気者だね」
「そうかなぁ? 自分じゃよく分からないけれど……」
「護廷十三隊の副隊長だなんて、院生だった頃の僕達を思い出せば、雲の上みたいな存在だったろう。会える機会もそうそうないし、訊きたいことなんて山ほどあるさ」
「授業中に聞いてくれると助かるんだけれどね……」
ははは、と困ったように眉尻を下げて笑う雛森。
しかしながら、講義中大勢の目の前では緊張して質問できない気持ちも分からなくない事から、終了した後でも質問が来てもいいようにあらかじめ時間の余裕は取っている。
その結果が現状なのだから、覚悟していた想定していたと言えばその通りであるが……。
「講義に関係ない質問には慣れないなぁ……いっつも返事に困っちゃうよ」
「ははっ、それは言えているね」
いつの時代、どこの国でも存在するであろう教師と先生とのコミュニケーション。
授業や講義に関係ない質問───特に色恋沙汰に関するものについては、毎度のように投げかけられる。
あしらうのは簡単だ。
しかし、変に答えに詰まって噂を広げられるのも困ったものだ。
「今日なんか『同じ副隊長の中なら誰がタイプですか?』なんて質問されて……」
「ぶっ!?」
「吉良くん!?」
「あ、あぁ……平気だから気にしないでくれ」
「そ……そう?」
突如として啜っていた茶を噴き出した吉良に面食らったものの、それとなく続きを促されるがまま言葉を紡ぐ。
「こういうのって誰って答えても角が立っちゃうし……」
「ごほんっ。それなら素直に『居ない』って答えるのが一番なんじゃないかな?」
咳払いの後、淡々と解決策を提案する吉良。
差異はあれど副隊長の関係に険悪な組み合わせはない。空席となった十一番隊副隊長に就いた一角も、三席だった頃からのちょくちょく顔を合わせていた為、全く交友がない訳でもない。
なればこそ、副隊長男性陣は仮に噂が広がっても、その場限りの応答と捉え、大なり小なり心に傷は負わないだろう───一部を除けば。
だが、雛森は吉良の提案についてバツが悪そうな顔を浮かべる。
「それはちょっと……」
「? 居るって答えるよりは角が立たないと思ったんだけれど」
「その……はっきり居ないって答えるのもあれかなって」
「……!」
釈然としない同期の様子に小首を傾げる吉良であったが、ふとした瞬間に悟った。
(まさか雛森くん……懇意にしている人が居るのかい!?)
副隊長の中に、心に決めた者が居ればこそ嘘でも居ないとは口にできない。
ともすれば、なんともいじらしい乙女心だろう。淡い青春時代を勝手に呼び起こされている吉良は、うんうんと頷いた後、湯飲みに残っていた茶を飲み干した。
「そ、そういうことなら仕方ないね」
「? う、うん」
「……ああ、そう言えばちょっと前に芥火くんから電子書簡が届いたんだけれど」
「う゛んっ!? げほっ、ごほっ!」
「どうしたんだい!?」
「な、なんでそこで焰真くんの名前が出てくるの!?」
「いや、ただ雛森くんも届いてるのかと……はっ!」
意図して出した訳ではない焰真の名を耳にするや、先ほどの吉良同様に茶を噴き出す雛森が激しく咳き込んでいる。
最初は噴き出した理由が分からず困惑したものの、事の流れを整理する吉良はとうとう察するに至った。
「……」
「えーっと……き、吉良くん?」
「いや、なんでもないよ」
徐に上を向いたままになる吉良に、頬を赤らめたままの雛森が動揺した口振りで呼びかけるも、どこか空虚な生返事が返ってくるのみ。
院生時代の淡い恋の思い出がガラガラと崩れゆく。そんな幻聴が吉良の頭の中で音を立てる。
いくら初心な頃の恋慕とは言え、今になっても脈がないと知るのは心に来るものだ。
とほほ、と遣り切れない想いを抱えれば、不意に脳裏を過る隊長が掻き鳴らすヴァイオリンの悲しいメロディーが流れるのであった。
***
七番隊舎。
何かと犬に関わりがあり、隊長が人狼族、隊舎裏で犬を飼っているなど、一日に一度はもふもふな存在を目の当たりにする場所である。百年も前は仁義に厚い漢の隊とも呼ばれていたが、今では情に厚いイメージはそのままに、どことなく親しみ安い隊風が馴染んできていた。
しかし、今日に限っては毛玉が二つ増えている。
縁側に座る狛村の両脇には、薄墨色と象牙色の毛玉が居座っていた。興奮するようにメトロノームと化す物体は、よくよく見れば尻尾と分かる。
通りがかる隊士(特に女性)が挨拶と共に黄色い声を上げてしまう物体の正体は、それはそれは愛くるしい見目のぬいぐるみ……。
「でね! ショウマったら、鬼道に失敗して煤だらけになったんだよ!」
「それを言うなら兄ちゃんも斬術の授業の時、自分の尻尾を踏んで転んでたじゃないか!」
「こらこら、喧嘩はするな」
「「はーい!」」
もとい、人狼族の兄弟、兄の『うるい』と弟の『ショウマ』が元気よく返事する。
もこもことした物体が手を上げる姿に口元を緩める狛村は、時代は変わったものだとしみじみしていた。
(こうして受け入れてくれるとは……いい時代になったものだ)
人狼族とは畜生の身に堕ち、人里離れた穴倉で暮らしていた一族。人とはかけ離れた容姿から、迫害とは切っても切り離せぬ時期は長かった。しかしながら、今ではそれらが払拭される兆しが見え始めている。
事実、両隣に座るうるいとショウマは、霊術院では人気者。特に女性から可愛がられているようだ。
(これも時代の流れ……いや、元柳斎殿が儂を拾ってくれたからこそだろう)
人とは前例を尊ぶ生き物だ。
元柳斎が人狼族であった狛村を受け入れたからこそ、うるいやショウマといった後進に道を作ることが叶った。滅却師の死神への転向案も、当時本人が与り知らなかったとは言え焰真が滅却師であったからこそ叶った法案だ。
しかし、人狼の兄弟が受け入れられた事情には、七番隊を率いる狛村左陣という漢の背中が多大な影響をもたらしていることを狛村当人は夢にも思っていない。
と、和やかな空気が流れる縁側へ足音が近づいてくる───二人分。
「隊長ォ! お疲れ様です!」
「……」
角から現れた途端、ビシッと礼をする人影。
一人は兎も角として、もう一人の青年は口パクのように口を動かしながら腰を折った。
「鉄左衛門と
「あ、テツさん!」
「与ウ兄ちゃん! こんにちは!」
ご苦労と狛村が二人を労う一方、見慣れた顔を見た途端、うるいとショウマは尻尾を振りながら駆け寄っていく。
「おぉー、うるい! ショウマ! 来ちょったんか!」
「うん! おれたち、見習で七番隊に振り分けられたんだよ!」
「……!」
「びっくりしたでしょ! ぼくたち、これからも左陣様やテツさんみたいに立派な死神になるのに頑張るよ!」
親戚の子供を可愛がるように頭を撫でる射場の傍ら、無口な───というよりも口をきけない青年・
『そりゃあ良かったのぅ!』と豪快に笑う鉄左衛門や、持ち歩いていたお菓子を差し出す与ウ。彼らを前にしたうるいとショウマは笑顔を絶やさない。
そんな光景を目の当たりにし、目頭が熱くなる狛村は瞼を閉じた。
想うは、恩義を報いるべき大恩ある元柳斎。
そして、今は遠く離れてしまった友の事だった。
(見よ、東仙……貴公が一度は醜いと断じたこの世の中も、少しずつ良い方向へと向かっている)
変化の大半は緩やかなものだ。
加えて、取るに足らない微々たる変化ばかりだからこそ、短い一生を忙しなく生き急ぐ人は、身の回りの変化を見逃してしまう。
そして、後になって気が付く───“昔とは変わった”と。
(世界はまだ捨てたものではない。今ならば、信じて疑わず貴公に伝えられる)
見上げる先は、空の涯。
背負う罪は重く、一生をかけて償わなければならないものかもしれない。それこそ人狼族のように、子々孫々に受け継がれる可能性だってある。
それでも誠心誠意償う道を辿れば、いずれは外れた道から戻れるのだと。
狛村は、静穏な様相を呈する空へ、そう念じるのだった。
***
六番区・朽木邸。
周囲に貴族の邸宅が並ぶ中でも、一際広大で荘厳な雰囲気を漂わせる立派な外観であることは、朽木家が四大貴族であるのも相まって既知の事実。
しかしながら、玉砂利が敷き詰められた庭から聞こえてくる声は、品格などという言葉から大きくかけ離れた凡庸で楽し気な声であった。
「ルキア姉さま!」
「ほうれ、六花!」
溌剌とした掛け声とともに、ルキアがポーンッと蹴鞠を蹴り上げる。
すれば、向かい側に構えていた幼女が、緩やかな放物線を描いて落ちてくる鞠に狙いを済ませた。
そして、短い脚を振り上げる。
しかし、傍から見ればあからさまに脚の長さが足りておらず、案の定鞠は地面に落ちた。それでも幼女は諦めず、一度は地面に落ちた鞠を拾い上げ、今度こそと狙いを済ませて蹴り上げる。
「おおっ! 上手だぞ!」
「えへへっ!」
飛距離は足らず、届くまでにコロコロと転がる鞠であるが、姪との遊びに興じているルキアは破顔して褒めちぎる。
対して姪───六花はと言えば、手放しに褒められて嬉しそうにはにかんだ。
そうやってルキアと六花の蹴鞠を眺めていたのは、奥座敷に座る緋真と都、そして志波夫妻の子供である双子であった。
朽木夫妻の子供・六花と志波夫妻の子供・天鵺と地鵆は一歳違いだ。
志波家が没落したとは言え、朽木家とは貴族のよしみ。子供の歳が近いこともあり、今後の子供たちの交友関係を広げる意味も込め、海燕や都は時折こうして朽木家を訪れていた。
「六花ちゃんも大きくなりましたね」
「ええ、本当に。体の弱い私に似てしまったらどうしようかと思いましたが……」
杞憂だったようです、と緋真は心の底から安堵するように息を吐いた。
「ふふっ。どちらかと言えば妹さんの方に似られたのかもですね」
「やはりそう思いますか? 元気が良すぎて、時折白哉様にも手に負えない時があります」
「朽木隊長が振り回されている光景なんて想像がつきませんね」
「当主と父親とでは、身の振る舞い方が違うのでしょう……ですが、六花とお戯れになられている時の白哉様は、この上なく幸せそう……。それだけで私も幸せです」
「うちと似たようなものですね」
微笑ましい育児あるあるに共感し、鈴を転がしたような笑い声が響く。
すると、都の膝枕に預かって眠りに落ちていた双子の兄妹が『うーん』と声を上げる。起こしてしまったかと都が寝顔を覗き込んでみれば、すぐに幼い双子は健やかな寝息を立て始めた。
何の憂いもないような、安堵に満ちた表情。
日々成長し、時に親を喜ばせ、時に親の肝を冷やす子供たちは、平穏で代り映えのない日常に刺激をもたらす無邪気な変革者のようなものだ。
そして、本当に愛おしい宝物。
自分を傷つけられる以上に、子供の傷は親の心を抉るものだと───緋真は強く実感していた。
だからこそ、と。
「……時折、思うのです」
「?」
「一つでも……過去の出来事に、ほんの一つでも些細な掛け違いがあって、この子が生まれてこなかったら、私はどうしていたのだろうと」
現世で妹と共に夭折し、余りの息苦しさに妹を捨てて逃げた過去は変えられない。
しかし、それでも白哉と夫婦となり、実妹とは再会を遂げ、果てには愛しい我が子すらも設けられた。辿った未来にいくつもの結末があるとはいえ、今ある日常こそが至高の幸福である───緋真は心の底から言い切れると疑わない。
故に、こんなにも愛おしい娘と出会えなかった可能性を想像する度に、背筋が凍り、肌が粟立つような恐怖に襲われる。
妹を捨てた罪悪感に延々と苛まれ、白哉のように支えてくれる夫も居らず、孤独のままに流魂街を彷徨う……そうあった可能性を否定し切れないからこそ。
「緋真さん……」
「……いえ、申し訳ございません。このような暗い話を」
「構いませんよ。子供が生まれると、今まで気にしていなかった些事にも不安になるものですから」
でも、と都は続ける。
「こうして過去を振り返られるのも、今が幸せであればこそ……でしょう?」
「……都様」
「不安になる気持ちは分かります。私だって、この子達が生まれてこなかった未来も、海燕と出会えなかった未来も想像したくない。けれど出会えた。家族になった。緋真さん……貴方が抱える大きな不安は、きっと家族への強い愛情の裏返しです」
だから恥じる必要はない、と。
暗い話を投げかけた自分を慰める都に、緋真は感極まったように熱くなる胸に手を当て、この上ない満面の笑みを咲かせた。
「……ええ。私は皆を愛しております。白哉様も、ルキアも、六花も。家族全員を心の底より愛しております」
「母さまぁー!」
「っとと……六花?」
突如、庭から駆け寄ってくる六花が緋真の懐へ飛び込んできた。
その勢いに思わず仰け反ってしまう緋真であったが、次の瞬間に向けられる太陽のような笑顔に、叱ろうとする思考も瞬く間に失せた。
「どうかしましたか?」
「六花、母さまのこと大好き!」
「……うふふっ。母様も六花のことが大好きですよ」
「えへへっ!」
「むっ! ずるいぞ、六花! 私も姉様のことが大好きだ!」
そこへ負けじとやってきたルキアが、屈託ない笑みのまま六花ごと緋真を抱き寄せた。
すれば、母と姉のように慕う叔母に挟まれた六花が、二人の着物をギュッと握りしめては引き寄せて言う。
「ルキア姉さまも大好き!」
「おおっ……なんと嬉しいことを! 勿論六花のことも大好きだぞ!」
「えっとね! 母さま、ルキア姉さまも! けど! 父さま、大好き! あと、のぶつね、ちよ、大好き!」
朽木家の従者の名前も口にする六花は、指折り数えて知っている者の名を紡いでいく。
「遊んでくれる、えんま兄さま、好き! れんじ兄さま、好き! かいえんおじさん、みやこおばさん、好き! あと……きょうらくおじさん! うきたけおじさん、好き!」
物心ついてから、大勢の者が遊びに来てくれたものだ。
見知らぬ人間が訪ねてきても、父母や叔母が親し気に話している姿を見れば、自然と警戒心は解れていく。向こうから優し気な眦を向けられ、穏やかな声音を投げかけられれば、最早恐れる必要はないと疑わなかった。
そうして六花の好きな人は、両手の指では足りないほどに増えていったのだ。
顔つきは父親似であるものの、性格に至っては真逆の社交性に溢れた人懐っこく育った娘を前に、緋真の憂いはみるみるうちに消え入る。
“六”と“花”を冠する我が子。
古き言葉で“花”とは“桜”を意味し、“六花”となれば雪の結晶の異称となる。
白哉とルキアを髣髴とさせる言葉を名付けたことには、家族としての繋がりを確固たるものにせんとしたい緋真の望みの現れでもあった。
(いつかはこの子が、皆を繋げられるように)
大勢の人と関わり、手を取り合い、絆の輪を広げられる。
そんな子に育ってほしいと、緋真はただ一人の弟を思い浮かべつつ、我が子をひしりと抱きしめるのであった。
***
「またお越しくださーい!」
快活な見送りを背に、食事処の暖簾を二人の男が潜る。
「はー、食った食った」
「お前なぁ……俺の奢りだからって、もうちょい遠慮とかねえのか?」
ポンポンと腹を叩く恋次の横で、焰真が恨めしそうに財布の中身を覗いている。
昼食時、たまたま同じ食事処にやってきた二人は流れで同席。その後にどちらが奢るかの話となってジャンケンをした結果、焰真の財布の中身が寂しくなったという訳だ。
「別に大した額じゃねえだろ」
「だからってこれみよがしに単品頼みまくりやがって……」
「オメーも一緒につまんでたろうが」
「……それもそうか。ったく、あー、損した」
言葉ほど肩を落とした様子を見せぬ焰真は、大勢の隊士が行き交う通りを見渡した。
「……ここらも随分復興してきたな」
「まあな。飯屋がなきゃあ、復興するどころじゃねえだろう」
「言われてみりゃあその通りだ」
恋次の答えに、焰真が噴き出す。
大戦直後は見るも無残な様相を呈していた瀞霊廷。
そこから建て直す施設に優先順位をつけ、復興に取り掛かったのも随分昔の話だ。以前は残骸しなかった通りも、新たな店や住居に溢れ、活気を取り戻している。
「もうすぐ三年か……長かったような、短かったような……」
「馬鹿言え。俺らにしてみりゃあ、三年なんてあっという間だろ」
「そりゃあそうだけど、霊術院ならちょうど折り返しだろ」
死神になって半世紀。
それと比べれば格段に短いものの、霊術院で死神について学んだ期間の半分と考えれば長いようにも思える。
これには恋次も得心がいったように『それもそうだな』とかぶりを振った。
「けど、まだまだこれからだ。見習制度もそうだし、滅却師の死神への転向も始まったばっかだ」
「問題が起こらなきゃいいんだが、まあ、最初の内は色々あるだろうな」
「でもなんだろうな。不思議と不安はないんだ」
は? と振り向く恋次に、焰真は告げる。
「変えるってのは、大抵始めに思ってるより大変なことが多いだろうよ。それこそ今回はたくさんの犠牲が出た大戦だ……変えなきゃならないってのもあるだろうけど、何も後ろ向きな理由ばかりじゃないんだからな」
二百年前、止むを得ず滅却師との対話を諦め、殲滅作戦を実施した時とは違う。
今度は互いに歩み寄り、共存を模索していくのだ。
双方を思い遣り、支え合うのであれば、長く苦しい道であっても、その過程で掛け替えのないものを得られるだろう───焰真の直感はそう告げている。
何よりも
だからこそ、繋げたい。
「あと十年もすれば、きっと『これで良かった』って実感できるさ」
「……そうだといいな」
夢を語るように温和な空気を纏う焰真に、恋次も穏やかな面持ちで同意してみせた。
しかし、そんな雰囲気も一変。
悪戯を仕掛ける悪ガキのような笑みを浮かべ、話題を変える。
「んで? 結局んとこ、贈り物は決まったのかよ!」
「! い、いやぁ……まだ悩んでる……途中だ」
「っかぁー! 今んなってうじうじしやがって! 男ならビシっと決めろぉ!」
頬を紅潮させる焰真の肩を殴る恋次。
揶揄うような口調でありながら、そこにはどことなく激励するような雰囲気を纏っていた。
というのも、
「し、仕方ねえだろ! こ、こんっ……婚約の贈り物なんて考えたことないんだから……」
耳まで真っ赤になる焰真。
ともすれば、顔面から火が吹き出そうな青少年は、いつまでも抜ける青さのままに幸せな悩みを抱え、毎晩眠れぬ夜を過ごしていた。
新たな関係を築くのは、何も死神と滅却師という種族だけの話ではない。
男女として───新たな家族として過ごしていくことを決めた者たちは、大戦後、数多く現れた。おかげで人別録管理局は、普段の管理業務と相まっておめでたい悲鳴を上げていた。
そして今回、隣にいる親友もそこにあやかる一人になるかもしれない。
個人的には是非とも結ばれてほしいと考える恋次であるが、当の本人はと言えば、そっち方面ではずぶの素人同然。
他人の事を言える身分ではないが、普段通り居られないものか……甲斐甲斐しい姿を知っているからこそ、より強く思ってしまうものだ。
しかしながら、こうやって素で居られるのも夫婦としてやっていく上で大切な要素なのかもしれない。
「付き合って一年経つんだ。誠心誠意選んだものなら、よほどのモンじゃない限り喜んでくれるだろ」
「そ、そうか?」
「オメーのセンス次第だがな」
そういうのが一番怖いんだよ……と、悶々悩む焰真の姿に、恋次のニヤケ面は収まらない。
そうしていれば『こっちは真面目に考えてるんだよ!』と怒鳴られる。だがしかし、十一番隊時代からの気安い関係であるゆえに、逆に恋次の笑いを煽る結果となった。
「はははっ! どんどん悩んどけ! もしも結婚できりゃあ、そのことを酒の肴にできるしな」
「……はあ、やっぱお前に相談したのが馬鹿だった」
「おう、参考になったろ?」
「ああ……ちゃんと自分で悩んで決めることにするよ」
開き直り、清々しい面持ちとなった焰真が言う。
「なんだかんだ、どうしたら相手が喜んでくれるのか考えるの……滅茶苦茶幸せだなぁ、って思うしな」
「……惚気やがって、このォ!」
「痛ァ!!? おまっ、今本気で殴りやがったろ!!」
蒼天に響き渡る程の威力で殴られる焰真。
一頻り悶絶した後は、恋次に食って掛かり反撃の肩パンを見舞わせた。
今度は恋次の苦悶の声が響くが、一拍置いて、次には二人の笑い声が空を揺らす。
青空はどこまでも澄み渡り、日の下に生きる命を明るく照らす。
彼らの護った世界は、今も尚、廻り廻っている。
***
霊王宮、霊王大内裏。
尸魂界が生まれ落ちた時より霊王が収められていた本殿は、一度は大戦により崩落する運命を辿った。
しかし終息の後、直ちに復旧が進められ、今では以前と全く同じ外観へと元通りになっている。
霊王の玉座とも言える場所。
そこには王を守護する二人の神兵が佇んでいた。
「いやぁ、しかし。毎日暇でしゃーないなぁ」
「口を慎め、市丸」
「でもなぁ。東仙サンも同じ気持ちやろ?」
神兵の恰好に包まれた二人。
彼らはかつて、藍染惣右介と共に尸魂界に叛逆し、果てには霊王宮まで攻め入ろうとした大罪人だ。
市丸ギンと東仙要。彼らがこの場に居る理由は、至極単純。犯した罪の清算であった。
「いくら殛刑やったのを勘弁してもろたとは言え、千年単位で霊王サマのお守りなんて首が長くなる話やわぁ」
「私は構わない。世界の変化とは、それほどまでに永い時間をかけなければ知覚できないものだからな」
「さいですか」
堅物の東仙との暇つぶしにもならない会話を終え、市丸は霊王が収められている結晶に眼を遣った。
「貴方はどない思います?」
───
***
ユーハバッハが息絶え、霊王の悪意も浄化され、一先ずは窮地を逸した。
しかしながら、それで世界が救われた訳ではない。
三界を繋ぎとめる“楔”を失い、世界は再び崩壊の危機を迎えようとしていた。そこへ現れたのは、このような事態に備え、着々と準備を進めていた零番隊───もとい、兵主部一兵衛であった。
彼は言った。
世界を繋ぎとめる“楔”になるには、強大な霊圧と特別な素養が必要であると。
あらかじめ、
だが、それだけでは足りないと。
そこで選ばれたのは、二万年以上もの刑期を残し、何者も比肩しえぬ超絶した霊圧を持ち、あらゆる種族の壁を取り崩す崩玉を取り込んだ大罪人───そう、藍染惣右介であった。
(霊王を殺そうとした私が霊王になるとは、面白い運命もあるものだ)
封じ込められた結晶の中で、藍染は独白する。
悲観はしていない。
諦観もしていない。
身動きが取れない以上、無間で椅子に括り付けられるのも、霊王として楔にされるのも大した違いはないのだから。
(これより変革を迎える世界を見物するにはこの上ない席だ。精々、見届けさせてもらうとするよ)
崩玉と霊王の心臓、そして他ならぬ藍染によって繋ぎ取れられた世界は、今も尚滞りなく廻っている。
───世界が、そういうものであると言わんばかりに。
昔は唾棄すべきシステムと───否、今も変わらぬ考えを持つ藍染は、変革を迎えているとはいえ根底が覆った訳ではない世界を見渡しながら、悠久に近い時を迎えるにあたり、一つの議題を世界に投げかける。
(さて……これからは君が“世界をどうあるべきか”と抗う姿を見物させてもらおう)
万年の時の流れの中で、世界は変わらぬままか。それとも自分の理想に少しでも近くなっていくか。
どちらにせよ、その結末を見届けるに十分過ぎる時はある。
これは物語の序章になるか、終章になるか解らない。
しかし、それすらも一興だと藍染は心の中で綴る。
───ユーハバッハ。
───貴方の望んだその世界には、確かに恐怖は無いだろう。
───だが、死の恐怖の無い世界では人は、
───それを退けて希望を探す事をしないだろう。
───人はただ生きるだけでも歩み続けるが、
───それは恐怖を退けて歩み続ける事とはまるで違う。
───だから人はその歩みに特別な名前をつけるのだ。
───“勇気”と。
───そしてあらゆる危険を伴おうとも、
───恐怖を受け入れて歩み続ける事。
───恐怖に
───人は、“愛”と呼ぶのだ。
***
声が、鮮明に聞こえてくる。
『この子の名前は
愛おしそうに、母は赤子に名を贈る。
『真の縁が、この子を守り、愛してくれますようにって……素敵な名前でしょう?』
『───ああ。それと……お前の……“黒崎”じゃなくていいのか?』
『いいの、苗字なんてどっちでも』
ばっさりと切り捨てる母親に、父親の方は思わず面食らう。
その様子にクスクスと笑みを零す母親は、あやすように子供へ告げる。
『……特別な才能なんか無くったっていい。偉くなくっても、お金持ちにならなくってもいい。ただね、信頼できるお友達を何人か作って……それで───幸せに生きてくれれば、それだけでいい』
ね、えんま───と。
命と共に授けられた名前は、魂に強く焼き付いていた。
***
廻転している。
「───だれ?」
運命が歯車だと言うのなら、我々はそれを廻す理。
「まな……
無欠であると、信じて進む。
「ぼくは……
嚙み合う力の、行く先へ。
「ぼくも死神だよ!」
これは“漂白”───“浄罪”の物語だ。
*あとがき*
これにてBLESS A CHAIN完結でございます……!
皆さま、大変お待たせ致しました。作者の柴猫侍です。
章ずつ区切り、おおよそ二年かけて完結させた作品『BLESS A CHAIN』……如何だったでしょう?
知っている方はご存じかもしれませんが、本作は本来破面篇で完結とさせていただいておりました。当時、千年血戦篇のプロットはおぼろげにしか思い浮かんでおらず、自分の力量も考慮し、作品としては一端終わらせました。
しかしながら、こうして時間を経て千年血戦篇まで書き切れたのは読者の方々から寄せられた応援の声、何よりBLEACHという作品があったからこそ!
本作では芥火焰真という主人公の下、仲間との絆や愛、それから紡がれる力で未来をよいものへと切り開いていこう……というテーマの下、執筆させていただいておりました。
原作では死亡していたキャラや、さらには生存したからこそ生まれてきた原作には居ないキャラなども居りますが、これもまたBLESS A CHAINという世界の結末と受け取っていただければ幸いです。
長々とした挨拶になってしまいましたが、改めて読者の皆様には感謝しかございません。
また他の作品でお会いできることを心待ちにし、これにて、締めのご挨拶とさせていただきます。
皆さま、本当にありがとうございました!
そして、BLEACHという作品に最大の感謝を!
*オマケ 霊王護神大戦後、それぞれの近況*
【死神】
・芥火焰真
霊王護神大戦後、『業魔』を発動した代償として一時的に霊力を喪失したものの、霊王を浄化した際に瀞霊廷中へ振りまかれた霊王の力の本流により、徐々に霊力を取り戻して復隊。十三番隊副隊長として、今なお隊を支える死神として活動中。滅却師である出自については周知の事実となったが、当人の人柄も相まって周りからは気にされていない。大戦から二年後を目安にとある人物と交際を始めたらしいが……?
十年後には『真愛』という娘を設けた。
↓芥火焰真(卍解)
画:にぼしみそ様(@tamagosobo)
【挿絵表示】
・京楽春水
亡き元柳斎の後を継ぎ、忙しない総隊長業務を務めており、たびたび七緒に尻を叩かれている。滅却師の死神への転向に関する法案についても携わっており、ゆくゆくはハッシュヴァルトにその陣頭指揮を執ってもらいたいと考えている。
・伊勢七緒
女好きな総隊長の尻を叩くしっかり者の一番隊副隊長として奮闘している。前一番隊副隊長、雀部長次郎を忘れぬ為にも、彼が愛用していたマントと滅却師のマントを参考に、新しい副隊長の装束を模索中。死覇装の改造も、大抵のものについては容認するようにしている。
・砕蜂
いつまで経っても夜一を敬愛する二番隊隊長。時折、夜一に現世のパン屋まで使いっ走りにされているのも目撃されたが、本人はいたって幸せそうだったとのこと。
・大前田希千代
何年経っても隊長に雑に扱われている。自宅と隊舎に浦原が開発した『転移杭・ワープのすけ』を設置したりなど、金にものを言わせた横着した部分は相変わらず。
・鳳橋楼十郎
音楽をこよなく愛しているのは変わらず。大戦後、傷心の瀞霊廷各所でコンサートを開催したりと、精力的に活動していた。密かに雅楽隊を結成したいという夢は変わらず、自隊のみならず他の隊、果てには霊術院へ講師として招かれた際にも募集している。
・吉良イヅル
一時は戦死したものの、マユリの肉体改造手術により復活。大戦中、終ぞ市丸と再会を果たしはしなかったものの、彼の存在は知覚しており、生きていることに人知れず安堵していた。
・卯ノ花烈
剣八との死合いに負け、満足しつつ死亡したものの、一護らが謀った聖別により蘇生を果たした一人。依然四番隊隊長を務めており、傷ついた者を癒す母として、そして時折死神と滅却師のいざこざの途中に現れては鬼の形相を浮かべ鎮圧させると恐れられている。髪は肩までばっさりと切り、隠さなくなった胸の傷跡は、『八千流は死んだ』という彼女なりのけじめだろうか……。
・虎徹勇音
変わらず四番隊副隊長を務めている。髪は卯ノ花とお揃いにし、本人的には大変満足とのこと。実はと言えば、卯ノ花が剣八との死闘で死した後は浮竹が四番隊隊長を務めると思い、さらにはその彼も死したことから、内心『自分には隊長は務まらない』と気が気ではなかったらしい。
・平子真子
大戦後も変わらず隊長を務めている。最初の内は雛森を励まし、適度に肩の力を抜かせる役回りを演じていたが、最近では自分のだらしない部分を副官に窘められるなど、上下関係が逆転してきたような気がしてならなくなっている。
・雛森桃
色々と吹っ切れ、いい意味で藍染に似てきた可憐な副隊長。隊費で個人的な書籍を購入しようとする隊長や、そんな隊長相手に商売を働く別の隊長を窘めたりと、一部の人間からは大いに恐れられている。大戦から二年後に至っても、焰真への恋心は変わらぬままのようだが……?
・朽木白哉
健やかに成長する我が子を見守る父として、順風満帆な日々を過ごしている。隊士の談では『よく笑うようになった』とのことだが、我が子的にはまだまだ表情の変化が乏しいと捉えられ、朽木家ではよく六花に顔をいじられる白哉の姿が散見されるようになっているとの噂だ。
・阿散井恋次
六番隊の頼れる兄貴分として腕を揮っている。時折、焰真やルキアから六花についての話をされては、少しずつ結婚願望が高まってきている。結婚するなら……と心に決めている人間はいるものの、友人の相手次第では身を引くことも辞さないと考えている。
・狛村左陣
紛れもない七番隊の顔。当初、自分が危惧していたほど人狼族への偏見がなくなってきたこともあり、子供の人狼兄弟である『うるい』と『ショウマ』の身元を引き受けるに至った。一部の隊士からは実子だと勘違いされてはいるものの、父親のような身の振るいになったと射場は語っている。
・射場鉄左衛門
最近ではガッチリと固めたリーゼントがトレードマークになり、強面が加速した。しかしながら、よく周りにうるいとショウマを連れていることもあり、怖さが中和されて話しかけられやすくなった。
・輪堂与ウ
大戦後、頭角を現し始めた七番隊の隊士。言葉を話せない反面、他者の気持ちを感じ取る能力に優れており、よく動物には懐かれている。最近では、死神見習となったうるいとショウマの面倒をよく看ている。
・矢胴丸リサ
京楽が総隊長となり、空いた八番隊隊長の座に就いた。流魂街の空鶴邸に構えていたYDM書籍販売は月島に委託し、当人は瀞霊廷内での事業拡大に努めている。
・八々原熊如
リサに任官された新八番隊副隊長。見た目は一世代前黒ギャルそのものであるが、リサが挙げた『自分がサボりまくれるような、仕事ができてうるさいこと言わない子』という条件に符合する有能なギャル……かもしれない。
・六車拳西
瀞霊廷通信の業務は檜佐木に丸投げし、代わりに副隊長業務の方も引き受けているスタンスは変わらず。卍解を会得した檜佐木を認めてはいるものの、やはりどことなく腑抜けている彼には時々呆れている。
・檜佐木修平
地味に卍解を会得したものの、隊長格以外には周知されていない可哀そうな副隊長。乱菊に好意を持っていたものの、人知れず子供を設けていた事実にショックを受け、ひと月は引き摺っていたらしい。
・久南白
URSEとして、現世と尸魂界を股にかける記者として活躍中(?)。一方で、人知れず虚から整を守る謎の仮面ヒーロー(という設定)として、各地で気ままに戦っている。同じ虚化できる者として、帰面の面々とはシンパシーを覚え、よく虚白やリリネットと遊んでいたりもする。
・日番谷冬獅郎
数年経っても身長がほとんど伸びず、完全体までには程遠い。乱菊が育児休暇を取り、副隊長業務も兼任しているが、余り以前と変わらぬ業務量には納得していない。よく菊理のお守りも任されており、常々『松本(母親の方)みたいにはなるなよ……』と言い聞かせている。
・松本乱菊
娘・菊理を一人設け、絶賛育児中のシングルマザー。父親の素性については秘匿しているものの、親しい人間には何となく察されている為、半ば開き直っている部分もある。特に『いつそんな暇があった』という質問に対し、『酒に薬を盛って搾り取った』との談には、日番谷を戦慄させ、百年以上置いてけぼりにされた女の執念の凄まじさを分からせたという。
・更木剣八
やちるが居なくなったものの、傍目からすればさほど気にしていない様子をしているとの談。だが、よく斬魄刀を抱えながら居眠り(?)する時間が増えたらしい。強者を求めている点は変わらず、時折卯ノ花の下まで試合を申し込みに行っている。
・斑目一角
やちるの代わりに副隊長となった。うるさいガキが居なくなり、これで静かになる……と安堵したものの、十年後にはそんな喧噪が恋しくなり、知り合いの子供の剣術指南を請け負うようになったのはまた別の話。
・綾瀬川弓親
念願の三席になり、ますます自分なりの美に拍車がかかったと自負している。時折買い物先で出会うクールホーンやジゼルとは犬猿の仲であり、大抵口論になった後、卯ノ花などに黙らせられている。
・涅マユリ
先にも後にも真似できる者の居ない最先端ファッションは変わらず。よく尸魂界へ発明品を持ち込むようになった浦原に対抗意識を燃やし、負けじとあらゆる発明品を開発している。死神へ転向を望む滅却師への虚化ワクチンの管理も請け負っているが、万が一に反乱を起こされないようにと勝手に爆弾を仕込んだりしているが、今のところ功を奏したケースしか発生していない。
・涅ネム
マユリの最高傑作は、今も変わらず成長中。以前に比べ自我が発達し、マユリに先んじて行動を起こすよう進化したものの、逆にそれが危ういと評価され、万が一にも制御が利かず消失した時のバックアップにと妹の八號が製造中と聞かされ、形容しがたい胸のざわめきに苛まれているという。
・浮竹十四郎
肺の病気は癒え、ミミハギ様も体から消えていなくなったことから、体調は人生で一番良いとの本人談。霊術院の学園長や、四番隊の救護詰所顧問として活躍し、後進の死神を支える役回りとあらゆる場所から頼りにされている。最近では人材不足に悩まされる護廷十三隊の為に、死神としての才能を持った魂魄のスカウトにも励んでいる。
・志波海燕
十三番隊隊長として、そして二児の父親として活躍中。元気な双子に振り回されることも多々あるが、かねがね順風満帆な日々を妻と送っている。子供が成長すれば、現世の一心の下へ連れていき、顔を拝ませたいとも考えているらしい。
・朽木ルキア
元々かわいいものには目がなかったが、最近では特に姪がかわいくて仕方がないらしい。暇があれば姪と遊びに興じ、当の六花からは『姉』と呼び慕われている。かわいさ余って六花に近寄る男共に警戒し、特に六花に慕われている焰真とは度々取り合いになったりもしている。緋真からは、そんな焰真と結ばれでもすればと言われたこともあるが……?
【元星十字騎士団】
・ユーグラム・ハッシュヴァルト
・アスキン・ナックルヴァール
・バズビー
・バンビエッタ・バスターバイン
・リルトット・ランパード
・ミニーニャ・マカロン
・キャンディス・キャットニップ
・ナナナ・ナジャークープ
・ジゼル・ジュエル
戦死した者が数多く居た星十字騎士団であるが、辛うじて生き延びた者や死体の損壊が少なかった者は、一護らが仕込んだ聖別により復活を果たした。戦争には敗北したが、現在では戦死した死神として受け入れようとする法案の下、試験的に死神見習として各隊に配属されるに至った。大半の人間が和装に慣れていないこともあり、改造された死覇装を身に纏い、それが死覇装の改造化を進める一端を担っている。滅却師への虚の霊圧に対する抗体問題を解決する策として、十三番隊副隊長・芥火焰真の霊圧を解析。今では浦原喜助と涅マユリの共同研究により、定期的なワクチン接種により、虚の毒を受けても魂魄自殺が発生しないようになっている。時折、元騎士団と死神との間でトラブルが発生したりもするが、その場合は大抵マユリが仕込んだ爆発が作動した後、爆散した肉体を下に蘇生されるという荒療治な解決策が図られているが、現時点ではバンビエッタ以外に使われたケースは存在しない。
【帰面勢力】
・虚白
・リリネット・ジンジャーバック
・シャルロッテ・クールホーン
・ルピ・アンテノール
・エミルー・アパッチ
・フランチェスカ・ミラ・ローズ
・シィアン・スンスン
・ワンダーワイス・マルジェラ
・ティア・ハリベル
・コヨーテ・スターク
流魂街の外れにある空座町の模造品を根城にしつつ、自由気ままに暮らしている。現世や虚圏、瀞霊廷へも出かけることもある為、各地で交友関係を広げている。特に浦原とは懇意にしている件もあり、緊急時には招集されるケースもなくないとか……?
↓虚白(卍解)
画:ようぐそうとほうとふ様(@Yoglathotep)
【挿絵表示】
【虚圏勢力】
・ウルキオラ・シファー
・ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク
・グリムジョー・ジャガージャック
・ヤミー・リヤルゴ
・ロカ・パラミア
グリムジョーがウルキオラやヤミーに喧嘩を仕掛ける以外、静かな日々が続いている。綱彌代の大乱後、とある完現術者が虚夜宮の住民へ加わったものの、虚夜宮の管理者であるウルキオラは特に関与しないスタンスを取っている。あくまで玉座は空いたまま、虚圏の静かな闇は続く。
【現世】
・黒崎一護
最後の月牙天衝の代償に、また一時的に霊力を失ったものの、自身が斬り伏せた霊王の力の奔流から霊力を受け取り、大戦後も死神代行として活動できるようになった。
10年後には織姫との間に一人息子の一勇をもうけ、順風満帆な生活を送っている。ただ、息子を過剰に可愛がる一心と真咲には飽きれている模様。
・井上織姫
上述の通り、10年後には一護との間に一勇をもうけ幸せな日々を送っている。
義母である真咲との関係は良好であり、織姫もまた真咲を本当の母親のように慕い、頼っている。
大戦後、兄である昊とも再会を果たした。
・茶渡泰虎
10年後にはプロボクサーとして活躍。見事ヘビー級チャンピオンとして栄光を勝ち取った。
・石田雨竜
10年後には医者となり、空座町の医療を支えるようになった。大戦直後、祖父の宗弦や母の叶絵と言葉を交わしたという。その後の父親との関係は改善したとか。
・浦原喜助
・四楓院夜一
浦原商店はあいも変わらず。夜一は気ままに暮らし、浦原は尸魂界向けの発明品をどんどん出荷しているとのこと。売れ行きは好調であり、その為慢性的な人員不足を伴い、現世に留まる仮面の軍勢や流魂街の帰面に手伝ってもらったりもするらしい。