始まりは中国で生まれた発光する赤児だと言われている。それを機に、次々と超常的な能力、通称“個性”を持った人が現れ、ついには総人口の約八割が何らかの個性をもつ超人社会になった。
火を吹く者、体の形を変える者、水を操作する者、中には人から大きく外れた姿をした者もいることが当たり前となった世界。超常的な力をオカルトではなく、個性として受け入れた社会。
そんな中、個性を悪用して犯罪を行う者を人々は敵(ヴィラン)と呼び、同じく個性でもってヴィランから市民を守る存在を人々はヒーローと呼んだ。
そう、誰もが一度は憧れた存在、ヒーローは今や身近の存在となり、多くの子供たちが将来の夢にヒーローを掲げ、実際にそれは可能となった時代なのだ。
一方 通行(いちほう とうゆき)も周りと変わらずヒーローを志す少年だ。
ただ彼にはちょっとした秘密があった。友達にも親にも言っていない彼だけの秘密。いわない理由は、それがあまりにも異端だからだ。
すなわち彼の個性に関する記憶。彼は夢の世界だと考えている記憶。
もしかすると前世と考えた方がわかりやすいかもしれない。それでも名前も顔も人間関係すら覚えていないあやふやな記憶を前世と言っていいのかは通行にはわからなかった。
昔見た夢のように現実感はなく、それでいて不思議とはっきりと覚えていることがあった。
その世界にある数ある本の一つ、『とある魔術の禁書目録』というものについての記憶だ。
この本の世界では超能力なんてものが科学的に解明されていて、超能力を後天的に得るための能力開発が行われる学園都市に暮らす少年“上条当麻”が主人公の物語がつづられていた。
この記憶は通行にとっては特に気にするようなものではなかった。なにせ算数について詳しく書いてあるわけでもなければ、未来に起こることを教えてくれるわけでもない。時折内容を頭の中で反芻しては楽しむだけの意味のない記憶。強いて言えば、誰かを助けるために右手を握る主人公の姿をかっこいいと思う程度だ。
しかし、通行の個性の全貌が見えた時、その記憶の価値が変わった。
通行の個性は「触れたものにかかる力の向きを動かす」というものだった。
通行にしてみればどことなく聞いたことがあるものだった。
「あれ?」
それは記憶の中で、超能力者の頂点に位置した少年“一方通行(アクセラレータ)”の能力『ベクトル操作』とよく似ていた。いや、似ているというよりそのものだと通行が考えた。
『ベクトル操作』とはその名の通り、力のベクトル(向き)を操る能力だ。“一方通行”がよく使っていた代表的な使い方は自身への攻撃にかかる向きを逆向きにすること、反射だ。
例えば、拳銃で撃たれたとする。普通は弾丸が体を貫通し、怪我をするだろう。しかしベクトル操作で反射すると、体に弾が触れた瞬間に弾は自身が通った方向に撃ち返される。これにより、“一方通行”に攻撃したものは相手を傷つけることなく、自身にその攻撃が反射して自滅していく。
それだけで無敵のような力だが、それだけで終わらない。
例えば、物に力を加えると当然ながら反作用が生まれる。これのおかげで地面に沈むことなく立っていられるし、壁を押してもそう簡単には壊れない。
ではこの反作用のベクトルを操るとどうなるか。答えは単純。
与える力が瞬間的に倍になる。
これを利用すると、鋼鉄を紙のように苦もなく引き裂ける。人を地面に縛り付ける重力を操れば空をも飛べる。
極めれば世界中の大気の流れを操作して、世界を滅ぼすことすら可能とまで言われる能力。キャッチコピーに核を撃たれても大丈夫と言われる最強の力。
そして最強の能力者と同じ個性。
「なれる……なれるんだ! 世界最強のヒーローに!」
頭で理解した瞬間、胸が高鳴り、体中が興奮で熱をもつのがわかる。
それが不快だとは思うわけがない。あまりの高揚感に意味もなく走り出したくなる。
世間ではNo1.ヒーローのオールマイトこそ最強というが、彼だってベクトル操作の前では霞む。
「ヒーローに……そうだ、“上条当麻”みたいな」
最強であった“一方通行”に勝算もなく立ち向かい、能力の相性もあったが倒したヒーロー“上条当麻”はさらにすごい人間に思えてきた。自分と同じ力を持った“一方通行”が認め、憧れたヒーロー“上条当麻”。それはとても特別な存在にしか見えなかった。
この日から、記憶は個性の教科書であり、“一方通行”は目標に、主人公である“上条当麻”は明確な憧れに変わる。
まあようするに、これは、彼が世界最高のヒーローを目指す物語だ。
「恥ずかしい」
昔の無邪気だったころを思い出して勝手に落ち込む色素の薄い黒髪の少年、通行。
彼がいるのはヒーロー輩出の名門校・雄英の受験会場の入り口だ。彼のように雄英を目指す少年少女が次々と通行の脇をすり抜け、会場へと向かっていく。
通行はついにこの時がやってきたと過去を振り返ったはいいが、子供特有の浅はかな考えというか、身もだえするような黒歴史を思い出してしまった。穴があったら埋めてくれ。
いやだってこどもだったんだからしょうがないじゃないかー。
視界の隅で緑髪の少年がこけかけ、それを側にいた丸顔の少女が助ける(個性だろうか? 少年は不自然に浮いていた)のを眺めながら、会場へと足を進める。
(あの時は慣れると思ったんだよなー、あの物語の主人公たちみたいに)
しかし悲しいかな。成長と共に現実を知ってしまったのだ。
彼らはあまりにも遠い存在だった。
「まさか演算能力でつまずくとは……」
思わずぼやいてしまう。周囲は受験への緊張から通行の独り言を聞き流していたのは、通行にとっては思わぬ幸せだろう。彼だって無暗に変人のレッテルは張られたくないのだ。
かの物語で活躍する能力は、能力の発動のために必要なものに“自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)”と演算能力が存在した。
この“自分だけの現実”というものは能力者の能力を決定するものであり、これ自体は個性で置換できた。しかし、能力発動のためには頭で特殊な計算式を演算する必要があったのだ。これが厄介で、“一方通行”が最強の能力者と呼ばれる所以には、その能力だけでなく、その頭脳にもあったのだ。
端的にいうと、『ベクトル操作』を完全に扱うにはスパコン並みの頭脳が必要だった。
ぶっちゃけてしまうと通行にそんな頭脳は存在しない。
(偏差値79を誇る雄英の模試はA判定を余裕で貰えるのになあ)
あくまで超能力ではなく、個性であるために演算頼りではなかったのは僥倖だった。完璧に演算できなきゃ使えませんだったら、話にならなかっただろう。それこそベクトル操作ではなく、ベクトル干渉にランクダウンしてしまうだろう。
それでも最強になれる個性を持ちながら、その個性を使いきれないというのは、通行にとっては辛い現実だった。彼は“一方通行”には決して届かないとはっきりとわかってしまったのだ。
もしも彼に物語の記憶がなければ悩まないで済んだのだが、それは考えてもしょうがないことだった。
そして個性を使いきれないというだけで不貞腐れた自分にも腹が立った。本当のヒーローである“上条当麻”なら、そんなことで立ち止まったりしないことはわかりきっていたからだ。
そしてヒーローになることを疑問視し始めた時、
気づかされたのだ。ヒーローに成りたいとか言っておきながら、誰かを救いたいなんて考えていなかったことを。
誰かを救いたいなら、最強になんてこだわる必要はない。“一方通行”にかなわないからと言ってヒーローを諦める道理にならない。
即ち、通行はヒーローの素質がなかったのだ。
一時期はこんな奴がヒーローになるのなんて間違っているなんて考えていたくらいだ。ヴィランにこそならなかったが、そうとうにやさぐれていた。
「でもまあ、ヒーローになりたいんだよな」
それでも折れなかったのは、両親のおかげだろう。
たぶん彼らは通行が悩んでいることの半分も理解していない。ただヒーローというものに抱いた憧れに自ら押しつぶされようとしていたことだけは理解していた。だから彼らは通行に言ったのだ。
でもヒーローになりたいんでしょ。
結局はそれが始まりだったのだ。
通行がヒーローに成りたいと思ったのは個性がわかる前の話だ。その思いにあの記憶は、物語の住人は確かに関係していた。けれどもそれは、彼らが強いからではない。
誰かを救いたいからヒーローに憧れたわけではなかったけれど、誰かを救うその姿に憧れたのだ。
だから通行は目指した。こんどこそ間違わずに、誰かを救うヒーローを。
受験番号で指定された席に座る。これから始まる受験は序の口だ。憧れのヒーローへなるための足掛かり。
目標を再確認し思考が熱を帯びていく。緊張というよりも興奮、高揚感に近い。何せヒーローへの道を進んでいる実感がわくのだ。知らず知らずのうちに口角が上がり、いつもは個性を使用している間だけ乱れる口調がついつい漏れ出す。
「だったらなってやろォじゃねェか、ヒーローによォ」
怪物未満のヒーローの卵は獰猛に笑う。
その数秒後、周りが引いているのに気づいて死にたくなるまだまだ子供な中学生がそこにはいた。
ヴィランと戦う必要のあるヒーローを目指すうえで重要なことに、戦闘力がある。
つまり雄英のヒーロー科を受験するにあたり、実技試験があるのだ。
実技試験はいくつかのグループに分かれて行われる。自身に割り当てられた会場に移動した通行は、同じ会場に割り当てられた他の受験生を見渡す。
自信のある顔をしている者は強力な個性を持っているのだろう。ああいった人種の個性の中には火力に優れた者がいるかもしれない。すると面倒だ。
反射を不用意に使って間違って怪我をさせないように注意しなければいけない。
試験は会場内を動き回るロボットをヴィランとみなし、それを撃破することによって得られるポイントで競うという内容だ。ロボットごとに割り当てられた点数も異なるため、ただ数を倒せばいいというわけでもないらしい。
つまり壊せばいいので通行の個性とは相性がいい。
(やっぱりまずはどこにロボットがいるのかを把握することが重要か)
会場の入り口からはビル群が見える。この試験のためだけに街を作ったというのだろうから、さすがは雄英だ。
ビル群であるために試験会場を地上から把握しきるのは建物に視界が遮られて厳しい。だから通行は地上ではなく、上から見ることを考える。
通行が作戦を確認していると、唐突に試験管であるヒーロー・プレゼントマイクが告げた。
「ハイ、スタート!!」
「まじか!?」
唐突に始まる試験。さすがに驚くも、実戦にカウントがないとか色々言っているのを聞き流して、足のベクトルを操作する。
「うぉ!?」
「飛んだのかよ!!」
「何の個性だ!?」
驚く声が後ろから聞こえるが、これは有限である点数を奪い合う競争だ。気にする時間が惜しい。
「あそこにするか」
一気に他の受験生を飛び越し、そのまま体のベクトルを操作して手頃なビルの屋上に着地する。下に落ちようとするベクトルを横に変えればいいだけなので楽なほうだ。
さて、着地してそれで終わりではない。他の受験生たちが来る前が稼ぎ時なのだ。周囲に誰もいなければ、それだけ大々的に個性を使い、一度に多くのポイントがとれる。
“一方通行”なら計算した破壊で周囲に人がいても問題なく戦えるかもしれないが、通行には無理だ。
それに乱戦となったら狙いを外した個性が飛んでくる可能性がある。常時反射を維持できるほどの頭脳を持たない通行にとってそれは致命的なものだ。
考えれば考えるほど“一方通行”の化け物っぷりが際立つ。寝てても反射は維持できるってどういうことだよと思う。
というわけで巻き込む心配がなく、それでいて巻き込まれる心配もない点数を稼げる場所を探す。
「あそこ…いやあっちのほうが多いか?まァあのあたりを中心に壊していけばいいか」
ロボットが密集している場所に目星をつけ、そこに向かって一直線に飛び降りる。ドガン! と落下地点に大きな衝撃が伝わる。自分にかかるベクトルを地面に流したのだ。
それだけで周囲一帯はめくれ上がり、ロボットたちは破壊されていく。無論通行に落下による傷は一つもない。
「あン? 減りすぎじゃねェか?」
想定以上に壊れたロボットが多い。もしかすると火力の無い個性の受験生に配慮して、脆く作られているのかもしれない。
まあそんなことは関係ない。脆かろうが頑丈だろうが等しく無意味。
哀れなロボットたちはプログラムに従い、勝ち目のない化け物を無機質なカメラが捉える。化け物は力を振るえることが楽しくて楽しくて仕方ないといった様子で笑っていた。
「おいおい、久々に全力で個性を使うンだからよォ。もうちょっといいサンドバックになってくれよ」
一歩ずつロボットに近づく。この瞬間をじわりじわりと楽しむように。
「スクラップの時間といこうかァ!」
腕を大きく振りかぶり、風を大きくかき乱す。生みだされた暴風は残っていたロボットを容赦なくなぎ倒していった。
「こんなもンか」
仮想敵であるロボットを軽く撫でる。それだけで自身のベクトルを弄られたロボットは遠くの他のロボット目掛けて飛んでいき、衝突、ともに機能停止に追い込まれる。
何点とったかは60点以降は面倒で数えていないが、そう悪くはないだろう。スタートダッシュで大きく稼げたのは大きいはずだ。
風を大きく乱して暴風を起こしたり、地面を叩いて隆起させたり、壊れたロボットの残骸を蹴り飛ばして砲弾にするなどの周りを考えない破壊活動は、ロボットの分布を所々消滅させていた。
他の受験生が来てからはちまちま近づいてはベクトル操作パンチやキックで壊していたが、さすがにロボットの数が減ってきた。
それどころか通行が手当たり次第に壊していたために他の受験生はまともに点数を稼げた人は少数だった。未だ獲得点数一桁なものも多く、もしかしたら一点も取れなかった人もいるかもしれない。
そんなわけで焦っている受験生が多い中、通行は冷静さを保っていた。それこそ自身の個性の至らなさを把握するくらいには冷静だった。
『一方通行』であればこの乱戦下でも遠慮なく能力を使えただろうが、通行には無理だ。この状況で何も考えずに暴風を生みだせば他の受験生も巻き込んでしまうだろう。計算された精密な破壊は難しい。
正直に言えば物足りないが、時間ももうすぐで終わりだろう。結局受験会場で人に向かって個性を打つような間抜けはそういなかったため、反射を使うこともなかった。反射で予期せぬ誰かを傷つける可能性もあったために、周りには気を配っていたのだが。
とりあえず足のベクトルを操作して高速移動。
「後ろ注意だぜ」
「うぉ! 悪い、助かった」
頭から血を流す(個性の反動だろうか?)紫色のボールを持つ小柄な少年に後ろから体当たりしようとしていたロボットを蹴り飛ばす。
彼の周囲にはその紫ボールが張り付いて動けなくなり、機能停止しているロボットが散見される。紫ボールには異常なまでの粘着力があるようだ。間違えて触れないようにしなければいけない。通行には触れてもベクトル操作でどうにかできる自信はあるが、演算は間違いなくそっちに使ってしまう。
ポイントに余裕があると確信しているからか他の受験生にも目が向く。すると意外にも熱中している受験生は自身を狙う他のロボットに気づかないことが多々あった。
ポイントの横取りともとられかねないため、ぎりぎりまで迷うのだが、糾弾するような奴はいなかった。反対に感謝の言葉もかけられることも少なかったため、もしかしたら単にそんな余裕がないからかもしれないが。
「ン?」
その時、地面が明らかに振動した。
通行は始め、誰かの個性を疑った。振動させる個性、感覚を狂わせる個性、地面を操作する個性など、色々考えられる。個性は種類が多すぎて何があってもおかしくない。
しかし、その答えは間違いだとすぐにわかった。
ドシン、ドシンと衝撃は連続して起き、少しずつ大きくなっていく。そしてその姿を自ら現した。
今までどこに隠していたのだろうと疑問に持つほど大きなロボットが歩いてきた。周りのビルほどもあるその大きさに、一歩踏みしめるごとに伝わる確かな振動。威圧感が大きい。
「あれが0ポイントか!?」
試験前にお邪魔以外の目的がないと説明されていたロボットだとすぐにわかった。たしかにあれだけの巨体は存在そのものが脅威であり、倒すのにも一苦労だ。倒しても得がないのであれば逃げるに越したことはないだろう。
それにあの威圧感は中学生たちには充分な恐怖を与えていた。
実際他の受験生はあのロボットから蜘蛛の子を散らすように逃げている。あれでは誰かが転んでも気づかずに踏んでしまう者もでるかもしれない。そうなれば怪我人がでるだろう。
「おい、逃げようぜ!!」
先ほど助けた紫ボールの少年がわざわざ通行に声を掛けた。足が震え、目からは涙が溢れている。逃げ出したくて堪らないのに、動こうとしない通行を気に掛けてくれたらしい。思わず通行はにやりと笑う。
「……いや、問題ない」
「はぁ!? 何言ってるんだよ!! あれはまじでやばいって!!」
「だからぶっ壊してやるンだよ」
しかし心配は無用だ。
ここにいるのは確かに個性を扱いきれない未熟者だ。個性をフルに扱える時間はほんの僅か。反射なんて3秒しか持たない。それ以上維持しようとすると酷い頭痛に襲われる。
風のベクトルなんて周りで風を操る個性持ちがいたら演算の一つも出来やしない。生体電気を操作してプログラミングの真似事なんてまず出来ない。
きっと『一方通行』の足元にも及ばない存在だ。
でも。
だけど。
それでも怪物と呼ばれた男と同じ力を持つ者だ。
あんなゆっくりと動くだけの木偶の棒の一つや二つは障害足りえない。
個性を全力で使用し、風の流れを読み取る。そして風の渦で作り上げた翼を背中に二対。その推進力を利用してロボットに向かって砲弾のように一気に飛ぶ。空気抵抗から何もかも操れるもの全て利用していく。
みるみるその距離は縮まり、遂に胴体のあたりにたどり着く。
巨大ロボットはその速度に何の反応も示すことが出来なかった。
つまり後はなんてことはない。ただベクトルを収束させた右拳で思いっきり殴りつけた。
ドカンッ!! と轟音を鳴り響かせ、胴体が大きくひしゃげる。他のロボットと違ってそれなりに頑丈に作っていたのだろうがそれで収まることはなく、大穴が空き、衝撃が貫通した。そしてその勢いのまま地面に向かって仰向けに倒れていった。
轟音。
そのあまりの巨体故に小型のロボットを巻き込んでいった。他の受験生こそ巻き込んでいないが、実際の街で行ったら逃げ遅れがいたかもしれない。
「……失敗したなァ」
誰もが逃げた敵を打ち倒したはいいが、もう少しスマートにするべきだった。例えば上から空き缶のように押しつぶせばよかったかもしれない。
もしかしたら通行も久しぶりに個性を全力で使って、ものを壊せたために興奮していたのかもしれない。反省しなければ。
そこで個性の全力発動は時間切れになった。演算しきれなくなった風は拡散していき、翼はあっという間に消えていく。そして通行は重力に身を任せるように地面に落下を始めた。
「いギィッ!?」
というよりも個性が発動できずに落っこちていた。
(調子乗った!? 頭痛い!!)
風のベクトル操作だけならまだしも、利用できるベクトルを次々操作していったのは愚策だった。全力での個性の発動による反動が思った以上に激しい。どうやら全力で個性を発動する前の戦闘、それだけでも疲労が蓄積していたようだ。
落下地点には鋼鉄のロボットの残骸。常人であれば愉快なオブジェが出来上がるだろう。そして今の通行にも同じ未来が待っている。
(うぉぉぉォォーーー!!)
着陸するのには個性を全力で使う必要はない。頭痛に耐え、歯を食いしばり、必死で演算。
落下速度はどんどん上がる。演算。地面までの距離がぐんぐん縮まる。演算。頭が割れるような痛みが走る。演算! 地面までの距離、あと僅か。演算……完了!
(ギリギリ間に合った!!)
通行は自身にかかるベクトルを拡散し、残骸をさらに粉々に砕きながら着地した。少々雑だがしょうがないこととする。
(危なかったァ……)
けれども気は抜けない。
(これで個性を管理しきれていないって思われたらカッコ悪い!!)
そんな思考を涙目でした通行は、それをごまかすために首を鳴らす。
この程度、造作もない。むしろ派手にやりすぎた、と言わんばかりに。
逃げていたはずの受験生が口を大きく開けた間抜け面で通行を見ていた。目の前にいるのが自分たちとはレベルが違うことをどうしようもなく実感させられていた。
通行はそれを当たり前のものとして受け入れる。最強の超能力者と同じものを貰っているのだから出来て当然なことなのだ。やり過ぎたし、頭の突き刺すような痛みがないかのように見栄を張っているが。
試験終了の知らせが届いたのはその時だった。
一方 通行 雄英入学試験 合格。
主人公:一方 通行(いちほう とうゆき)
個性:ベクトル操作(禁書でいえばレベル4)
前世持ちの記憶曖昧な転生者? 『とある魔術の禁書目録』関係の物語を知っている。名前が思いっきり”一方通行”だけど幼少期は漢字がわからなかったので個性を知るまでは繋がりは感じていなかった。
父親が触れたものにかかる力を把握する個性で、母親が念力の個性持ち。いい感じに合わさって力に対して逆算して干渉、操作する個性になった。
演算能力が足りず、色々制限のついた個性となっている。おかげで反射を維持することも困難。これにより髪は白くならなかった。もちろん核を撃たれたら死ぬし、街中の空気を圧縮して巨大プラズマ作成なんて出来ない。”一方通行”が規格外なだけで地に足着いた戦い方でも十分上は狙えるポテンシャルはある。