BYAKUYA-the Withered Lilac-   作:綾田宗

4 / 6
紅騎士、業火の戦い

Chapter10 紅騎士、業火の戦い

 ビャクヤとツクヨミは、日々『夜』へと踏み込んでいた。

 二人の行く手を阻む虚無や『偽誕者(インヴァース))』は、ビャクヤの鉤爪の餌食とし、二人は『夜』の奥、更に奥へと進んでいた。

 彼らは、闇雲に『夜』を歩んでいたわけではない。

 ツクヨミの指導の元、ビャクヤは彼女の護衛、そして顕現を喰らうために突き進んでいたのだった。

 ツクヨミの全ての目的は、彼女のかつての親友であるゾハルを見つけ出すこと。

 そして顕現求めて暴走するゾハルの『器』を割る。これがツクヨミの、己が身を賭してでも危険な『夜』へ赴く理由であった。

 そして、奴隷とその主人といった関係の姉弟は、今宵もまた『夜』へと来ていた。

「いやいや。これはこれは……」

 ビャクヤは、辺りの気配を感じ取りながら微笑する。

「素晴らしいね。辺り一帯。旨そうな匂いだ。これはさぞかし楽しめそうだねぇ」

 これから捕食できるであろう顕現に、嬉々とするビャクヤの隣で、ツクヨミは、『器割れ』して鈍くなってしまった感覚をどうにか研ぎ澄まし、辺りの顕現の量を探っていた。

「…………」

 ツクヨミは、ゾハルを探すという最終目標の過程として、また別の目的を持っていた。

 こうして毎日のようにやって来る『夜』は、実は厳密には『虚ろの夜』とは異なるものだった。

 迷い込んだ人間を喰らう虚無が存在し、それらから運良く生き延びた能力者のみが、自ら入り込めるという点においては同じである。しかし、こうした擬似的な『虚ろの夜』と真のそれとは、あるものの存在にて区別される。

 虚無やビャクヤのような『偽誕者』の求めるものは、顕現である。それは、普通の人間は一切持ち合わせないものであり、虚無と『偽誕者』のみが持つ力の源である。

 そうした性質であるために、虚無は共食いを辞さず、虚無同士で顕現を奪い合うのである。人間を襲うのは、顕現という食事にありつく事が保証されていないために、人間の肉を喰らう事で飢えを一時的にしのぐためなのだ。

 共食いまでなされているが、『夜』に虚無が消え失せることは有り得ない。というのも、『虚ろの夜』には、辺りを強い顕現で満たし、時として人さえも虚無に変えてしまうことのある、顕現の奔流たるものが存在しているためだった。

 能力者の中でも、とりわけ『虚ろの夜』に精通した者しか知らないが、そうした者たちにはその奔流をこう呼んでいた。『深淵』と。

 その『深淵』とは、『虚ろの夜』の中核をなすものでもあるが、大々的に存在するものではない。

 無作為に、『虚ろの夜』のある一点にのみ出現するもので、見た目の大きさは、大人が一人両手を広げた位しかない。

 しかし、この人一人ぶんほどしかないオブジェのような物体には、『虚ろの夜』を発生させられるだけの顕現が、無尽蔵に存在するのだ。

 そして、その『深淵』から放出される顕現は恐ろしいほどの量である。

 強い上に、多大なる顕現を帯びているために、顕現の扱いに慣れていない『偽誕者』が無闇に近付くと、虚無にされることがある。『偽誕者』の間ではこの事故を『虚無落ち』と呼ばれ、実際に落ちた人間も存在する。

 こうした経緯から虚無が生まれる事もあるが、虚無とは基本的に、『深淵』から溢れる強い顕現が生き物のようになって出現する場合がほとんどである。故に、『深淵』が『虚ろの夜』を作り出し、虚無を生み出すという、全ての根源と言える。

 人間や『偽誕者』にとっては危険の塊である『深淵』であるが、それは同時に、『偽誕者』へ更なる進化を与えうるものでもあった。

 この『夜』や『虚ろの夜』を創造するほどの強い顕現を宿す『深淵』の顕現を受容はしうるだけの『器』があれば、『偽誕者』は圧倒的な力を持つ存在へと至るのである。

 当然の事ながら、虚無にとっては『深淵』の顕現は、自身の力を遥かに高められる最高のご馳走となる。

 進化を求める『偽誕者』、そして極上の食事を求める虚無それぞれが『深淵』を目指して『虚ろの夜』を進んでいく。

 もしも彼女も進化を求めているのなら、必ずや『深淵』に姿を見せるであろう。

 ゾハルと再び会うための近道となるのは、『虚ろの夜』の『深淵』を見つけ、そこで待ち受けること。これしかなかった。

 しかし、今宵もまた、『深淵』の現れる『虚ろの夜』ではない。たが、このような突発的な『夜』であっても、『深淵』ほどでないにしろ、それのようなものは存在する。

「……ビャクヤ、ここは違うわ。場所を変えましょう」

 ツクヨミは、だいぶ利きにくくなった感覚を研ぎ澄まして、この日の『夜』に出現している顕現の奔流を探しだしていた。

「えー。もう動いちゃうの? せめて少しくらい食べさせてよ……」

 ビャクヤは口を尖らせる。

「安心なさい。私の言う通りにすれば、嫌になるほど虚無を貪れるわ。大人しく付いてきなさい」

 ツクヨミの願いは、ビャクヤにとって絶対に応じなければならない事だった。

「仕方ないなぁ。本当にご馳走があるんだろうね? 姉さんを疑うわけじゃないけど。腹ペコのまま帰ることになるのだけは勘弁だよ?」

「それは大丈夫、いいから付いてきなさい」

 ツクヨミが歩き出すと、ビャクヤはしぶしぶ後を付いて行った。

 そしてビャクヤは、感嘆することになる。

「これは……!?」

 普段のビャクヤの狩り場は、自宅から程近く、街にも近いため『偽誕者』の数も多い川沿いの広場であった。

 しかし、ツクヨミに引き連れられてやって来たのは、街から反対方向に行った先にある児童公園である。

 公園内は、至るところに虚無が存在していた。大小様々であるが、ビャクヤにとってはご馳走の山であった。

「すごい。すごいよ姉さん! どいつもこいつも旨そうだ!」

 ビャクヤは、はしゃいでいる。

ーーどうやら、ここで合っていたようね。私の勘は、それほど鈍ってはいないということ……ーー

 じっくりと探りに探って見つけ出したこの『夜』の『深淵もどき』であるが、実際にここに来るまで、ツクヨミは自分の感覚に確信が持てなかった。

 しかし、こうして正しい位置へと来られた。ここにいる限り、顕現求める虚無らとビャクヤが戦うことになろう。

 そして、『偽誕者』も姿を見せるだろう。その中に、もしかすると、ゾハルがいる可能性があった。

「ビャクヤ、ちょっと待って」

 ツクヨミは、背中に八本の鉤爪を顕現させ、今にも狩りをしようとしているビャクヤを呼び止める。

「なんだい姉さん? まさか。ここも違うとか言わないよね?」

「そうじゃないわ。相手が虚無だろうがなんだろうと、私を守るために喰らいなさい。けど、あまり満腹になられても困るのよ」

「ああ。それなら大丈夫さ。片っ端から喰いつくしてたら。獲物がいなくなっちゃうだろう? それにさ。腹八分が体にいいって言うじゃないか。まっ。顕現に栄養とかあるのか知らないけどね。あははは……」

「そう、それなら安心したわ」

「もしかして。僕の健康を気遣ってくれてるのかな? あはは。さすがは僕の姉さん。お優しい。あははは……!」

 ビャクヤは、本気なのか冗談なのか、なかなか判断の付かない笑みを見せる。

「そ、そんなんじゃないわよ。ただ、満腹になりすぎて、いざというとき私を守れないようじゃ困るってだけよ」

 あながち外れているわけではないものの、ツクヨミの言葉は言い逃れをしているかのように聞こえる。

「素直じゃないなぁ。まあいいや。僕は何があっても貴女を守る。安心してよ。姉さん」

 ツクヨミは一瞬ドキリとする。それは二重の理由からだった。

「あっ。姉さん。そこ危ないよ」

 ビャクヤは、鉤爪を一本伸ばし、ツクヨミの背後に迫っていた虚無を仕留めた。

「ちょっとビャクヤ、驚かさないでちょうだい!?」

「しょうがないだろ。これだけ虚無だらけなんだから。さすがの僕でも。姉さんを守りながら戦うのは辛い。とりあえず。安全そうなあの辺に座っててよ」

 ビャクヤは、一口に虚無を捕食し、ツクヨミに避難を促した。

「……そうさせてもらうわ。ビャクヤ、さっき言ったこと、くれぐれも忘れないようにね」

「分かってるって。ほら。早く行った行った」

 空腹で気が立っているのか、ビャクヤは、犬や猫を追い払うように、ツクヨミに手を振った。

「まったく……あとはお願いね、ビャクヤ」

 ツクヨミは、そそくさとその場から離れた。そしてブランコの前の柵に腰掛ける。

「任せてよ。姉さん……さて。料理の時間だね……!」

 ビャクヤは両手を広げる。そして、顕現を喰らう糸を手に纏い空中に向けて放った。

「この辺に……ここにも……」

 ビャクヤの手から放たれた糸は、一瞬にして蜘蛛の巣の形となり、街灯を反射していかにも鋭いものらしく光る。

 糸は、空中を漂う虚無、地を練り歩く虚無どちらにも巻き付き、拘束する。

「いっぱい引っ掛かったね。さて。どう料理しよう?」

 ビャクヤは、糸に絡めた虚無に向けて、八裂の八脚 (プレデター)を振るう。

 八本の鉤爪は、ビャクヤの身の丈をも超える長さにまで伸縮し、鞭のようなしなりを持ちつつ、虚無の群れを切り刻んでいった。

「ハハハハ! みんな切り刻んであげるね!」

 ビャクヤは、高笑いを上げて虚無を細かく刻むと、再び糸に一纏めにし、口元へとそれらを近付けていった。

「うん。どいつもこいつも旨い。最高の食材だ。さすがは姉さん。いい所に案内してくれる」

 ビャクヤは、捕らえて切り刻んだ虚無を次々に喰らう。

 ツクヨミは、ビャクヤの戦い、もとい捕食の様子を見ながら、虚無が一匹空を飛んで行くのを見つけた。

 真っ黒な鳥のような姿をした虚無であり、さながらカラスが飛んでいるかのようだった。

 そんな虚無が、この公園の中心付近にある遊具、回旋塔の天辺に止まった。そして虚無は、青白い光を帯び始めた。

ーーあそこが今日の『夜』の『深淵』にあたる場所……ーー

 ツクヨミは、改めて自分の予測が当たっていた事を実感する。完全一致とまではいかないにしても、これだけ距離が近ければ、『器』の割れている状態においても十分たりえる結果であろう。

 回旋塔の上で光に包まれた虚無は、その体を増大させた。『深淵もどき』の顕現を吸ったために巨大化したのである。

 あの程度の虚無に喰い尽くされるような事はないだが、『深淵もどき』が消えれば今日の『夜』は終わる。そうなってはツクヨミの計画が頓挫してしまう。

「ビャクヤ!」

 ツクヨミは、群がる虚無を料理し、捕食するビャクヤに呼びかける。

「なーに。姉さん?」

「あれを見てちょうだい」

「あれって……」

 ビャクヤは、糸でぐるぐる巻きにした虚無を放り、ツクヨミの元へ寄った。

 そしてツクヨミが指差すと、ビャクヤはその先に目を向ける。

「なんだい? あれは。虚無が光ってるじゃないか」

「あれこそがこの『夜』の源よ。あの遊具に『深淵』が顕現している。顕現を求める虚無にとっては、あれが顕現の供給元よ」

「ふーん。ということは。やつらにとって格好のエサ場ってことかな。なるほどね。あの辺で張ってれば。動かなくても食事が運ばれてくるってわけか。それは楽でいい。しかも。あそこからはなかなか上質な顕現を感じるね。さながら。真っ赤に熟れた果物の木って所かな?」

 詳しく聞かずとも、ビャクヤはほとんどを理解した。

「察しがいいわね、その通りよ。けれど、『深淵』の顕現を喰らっては駄目よ。あなたはあれに群がる虚無(害虫)を喰らえばいいわ」

 ビャクヤは不服のある顔をする。

「そんなぁ……最高の食事を目の前にちらつかせながら。そりゃないよ。僕にも食べさせてくれたっていいじゃないか」

「それだけはダメ。何を言ったって覆らないわ」

 この『夜』の『深淵』たる顕現の源は、果樹であり、ビャクヤは、それに群がる虚無という害虫を捕食する、蜘蛛、つまり益虫のような扱いであった。

「あなたまで『深淵』に手を出すのなら、その時点であなたも私にとって害になる。仇なすものは何であれ駆除する。つまり、あなたとはお別れよ」

 ビャクヤにとって、ツクヨミとの別れはこの上ない恐怖である。故に黙って従うより他はない。

「はあ……分かったよ。分かりましたとも。お姉様の言うことは聞きますよ。まったく……」

 ビャクヤは、しぶしぶツクヨミの言うことを聞く。

「物わかりがいいわね。それじゃあ、引き続きお願い」

 ツクヨミは微笑む。

「まったく。ずるいよ姉さんは。そんな顔をされちゃあ。従わずにはいられないじゃないか。仕方ない。愛するお姉様ために頑張るとしようかな」

「それでこそ我が弟よ、ビャクヤ……」

 今宵の『深淵』である回旋塔に向かっていくビャクヤを見送りながら、ツクヨミは呟くのだった。

 その後も、ビャクヤの狩りは続いた。

 農作物を蝕む害虫、害獣のごとく『深淵もどき』に集う大小様々な虚無を相手にしながらも、ビャクヤは一匹たりとも逃さずに捕らえ喰らった。

 やがて虚無の数は減り、ビャクヤの腹もだいぶ満たされた。

「ふう……あらかた喰い尽くしたかな。残るのは。あの『深淵』とかいうものだけど。手を出すなって言われてるし。ここらで打ち止めかな?」

 ビャクヤは、背中の鉤爪を消し去った。

「ビャクヤ、まだ気を緩めないで。まだ……」

 ツクヨミは、辺りを見回した。

 顕現を求めて害虫のごとく『深淵』を狙う虚無の群れは、ビャクヤの鉤爪の前に狩り尽くされた。

 あれほどいやな気配だらけだったこの場所が、今や日常となんら変わりない穏やかな公園に戻った。

「……姉さん。もうなんにもいないじゃないか。ここでこれ以上張っててもしょうがないんじゃない? 僕のお腹もだいぶ落ち着いたし。今日はもう帰ろうよ」

「…………」

 ツクヨミは考える。

 ここに、それ以前に、この『夜』に入ってから数時間は経過している。そんな中、ビャクヤは、能力を総動員させて虚無を狩っていた。

 たとえ『深淵』が狙いではないとしても『偽誕者』であれば、一地点で虚無の気配が連続して消えていくのは感じとることができる。

 もしもゾハルがこの近くにおり、『深淵』を目指しているのなら、間違いなく現れているはずだった。

ーーあの子は現れなかった。こんな『深淵もどき』には興味がないのか、それとも、あの時、ビャクヤの力に恐れをなして接触を断とうとしているのか……分からないわねーー

 あの時、ツクヨミがビャクヤと喧嘩別れした日、窮地に陥ったツクヨミを、ビャクヤは救った。その時、不意打ちとはいえ、自我をほとんど失っていたゾハルは、糸で捕らえられ、大きな痛手を負わされた。

 その後ゾハルは、更に逆上してビャクヤに襲いかかるのではなく、一目散に逃げていった。彼女が恐れを覚えた可能性も否定できない。

「ふあー……あ……姉さん。どうするんだい? 僕は満腹で眠いんだけど……」

 ビャクヤは、いかにも眠たげなあくびをし、大きく背伸びした。

ーービャクヤを疲弊させるのもよくないわね。この子には、ゾハルを倒すという大役がある。普段のビャクヤなら、『偽誕者』相手に遅れを取るようなことはないでしょうけど、今のような状態なら、その限りではないでしょうねーー

「そう、ね。帰りましょう。あなたに疲れられては困るから」

「おや?」

 ビャクヤは少し、驚いたような顔をする。

「さっきといい。僕の体を気遣ってくれるなんて。ハハハ。最近の姉さんは優しいねぇ」

「勘違いしないで。あなたは私を守る剣であり盾。さっきも言ったけど、いざというとき役に立たないようじゃ困るの。心しておきなさい」

「なんにしたって。姉さんが僕を想ってくれているなら。それだけで僕は嬉しいよ。姉さんが素直じゃないからさ。僕はそのぶん素直でいようと思うんだ」

 普段からどこか遠くを見るような、虚ろな眼をしているビャクヤであるが、人並みな笑顔になることはできる。笑顔になれるということは、必然的にその疲れたような眼は細くなる。

 見ている方まで憂鬱な気分になりそうな瞳が閉ざされる事で、ビャクヤの生来の、よい意味でほっそりしており、色白な顔が、儚げながらも綺麗に見える。

 ツクヨミにとって、彼のその表情は、長く見るに堪えないものだった。

「バカな事を言ってないで帰るわよ! 帰ったら私の夕食の準備とお風呂の用意をするのよ。いいわね?」

「あっはは。まるで亭主関白だね。でもこれじゃ。僕の方がお嫁さんだけどね。あははは……!」

「……っ!」

 ツクヨミは言い返すことができないのだった。

 それからも二人は、『夜』に出現する『深淵もどき』を見つけては、作物を食い荒らすように集る虚無を狩った。

 どんな相手であっても、ビャクヤの鉤爪の前には無力であり、ビャクヤの腹を満たす餌食となっていた。

 毎夜『深淵もどき』を探し出しては、集まる虚無を倒す。そんな『夜』を続けて過ごすものの、ツクヨミの目的の彼女は現れなかった。

 ツクヨミはもちろん、そうすぐにはゾハルに会えないであろう事は覚悟していた。

 そのはずであったが、こうも外れが続くようでは、さすがにあらぬ不安を抱いてしまう。

 一度目の邂逅から、まだそれほど日にちは過ぎていない。この辺り、少なくとも、この街の外には出ていないであろう事は予想できる。

 ゾハルは今や、力を得るために顕現を手当たり次第喰らう、虚無とほとんど変わりない存在となっている。

 そんな状態の彼女が、たとえ本物ではないとはいえ、顕現の溢れ出す『深淵』を放っておくとは思えない。

 しかし、姿を見せない理由もまた考えられる。ビャクヤに恐れを抱いている事である。

 不意打ちに近かったとはいえ、ゾハルがビャクヤの罠にかかった時、ゾハルはかなりの深傷を負い、その怒りに任せて襲いかかるかと思いきや、一目散に逃げていった。

 本能のままに暴れるゾハルが選んだ行動というのが、命の危機を察知して逃げることだったのだ。本能に訴えかけるほどの恐怖を与えてしまった以上、ビャクヤの気配を察知すると同時に逃げるという状態にあると考えられた。

 もしもこの状態が考えられるならば、ツクヨミの策は成就し得ない。

ーーゾハル。あなたは今、どこに……?ーー

 今宵もまた出現しているであろう、『深淵もどき』を探し、ビャクヤとツクヨミは『夜』を進む。

 しかし今宵は、いつもと『夜』の雰囲気が異なっていた。

「うーん。何だか今日は暑くないかい。姉さん……?」

 ビャクヤは、はだけたシャツの胸元をはたはたと扇ぐ。

 この『夜』の環境は特殊であり、いつ来ようとも、全く苦に感じない気候であった。

 雨などが降ることもほとんどなく、日中が猛暑であった日でも、その『夜』はともすれば、肌寒く感じるほどに気温が低く保たれているのである。

 そのはずが、今宵は辺りが熱気に包まれていた。それも、異質な力を感じられる熱気であった。

「これは……確かにおかしいわね。ただならぬものを感じる。今夜の『深淵』の方向ね。ビャクヤ、気を付けて進みましょう」

「はーい。僕から離れちゃダメだよ。姉さん」

 二人は、異常な熱気に包まれた『夜』を進んでいく。

 今夜に出現した『深淵もどき』は、前に出現していた児童公園とは反対方向に位置する、雰囲気も逆の長閑な公園であった。

 その公園は、街から離れたところに位置するため、騒音とは無縁であった。そしてどういうわけか、『夜』においても虚無の出現が極端に少なく『偽誕者』たちの間で『静寂の公園』と呼ばれていた。

 そんな場所が今夜は、その名前とは全く異なった空間と化していた。

 この『夜』の中核たる顕現の『深淵もどき』は、『静寂の公園』に現れており、そこから溢れ出る顕現を求めた虚無が、群を成していた。

 『深淵もどき』を背に、少女が一人、虚無の群れの前に立ち塞がっている。

 少女は、赤と白を基調とした洋風の装束に身を包み、緋色に金の縁取がされたマントを羽織り、左腕には丸い盾を装着している。

 毛先をくるくる巻いた純粋な金髪で、すぐ傍まで迫った虚無の群れを見据える眼は、深紅の輝きを放っていた。

 少女は、大小様々で途轍もない数の虚無を前にしながらも、その表情は余裕そのものだった。それどころか、見下しているかのような傲慢さも窺える。

 少女は徐に、空いている右手を宙に翳した。

「いでよ、我が顕現たる火剣、『ファイアブランド』!」

 少女の翳した手のひらに炎が立ち上った。その炎の中には、朱色の刀身を持った小剣が浮かんでいる。

 少女はその剣の柄を握り、一振した。刃の通った軌跡に炎が上る。

「来い、犬ども! 一瞬で片付けてやる!」

 今なお鍛刀の過程にあるのか、と思えてしまうほどに真っ赤になった切っ先を向け、少女は発した。

 先陣を切ったのは、宙を浮遊する小型の蝙蝠のような姿をした虚無であった。

 それは、本物の蝙蝠と同じように素早く空を飛び、甲高い鳴き声を発しながら少女に襲いかかった。

「ふんっ!」

 空間に剣閃と共に炎が舞った。少女に襲いかかった虚無は、まさしく、飛んで火に入る夏の虫の如く燃え尽きた。しかし、虫とは違い、その身は消し炭も残すことなく消えてなくなった。

 少女は再び、切っ先を虚無の群れへと向ける。

「さあ、次に灰になりたいやつはどいつだ!?」

 意思を持った存在ではないが、虚無の群れは一体では敵わないと考えたかのように、今度は複数でかかっていく。

 数は五体である。空を飛ぶもの、地を這い回るものと約半々に分かれている。

 速さは僅かに、空を行く虚無の方が速い。

「剣よっ! ローエンシュナイデ!」

 少女は剣に炎を纏わせた。燃焼する刃はその輝きを増す。

「舞い上がれっ!」

 少女は高く跳躍し、炎を宿した剣を上空で扇状に振るった。

 炎と斬撃は空飛ぶ虚無を両断し、塵も残さず焼きつくした。

 少女が着地した瞬間を狙い、地を這う虚無が二体、挟み撃ちをしかけてきた。

「甘いっ!」

 少女は、前から来る虚無に向けて剣を突き刺した。

「弾くっ!」

 そして背後から来る虚無には、左腕の盾で薙ぎ払い攻撃をする。盾にも炎の力が宿っており、殴打された虚無は火に巻かれ、動きを止めた。

 少女は、斬撃で止めを指した。残ったのは人型をした虚無が一体、そしてそれを取り巻く大小様々な軍勢である。

 少女は、盾を前にして炎を纏い、人型の虚無に向かって地を蹴った。

「シュトルムブレハ!」

 それは、嵐の名を持つ、弾丸のごとき体当たりであった。その威力は一撃にして虚無を粉砕するものであった。

 まるで群れを統率していたかのような大物がやられた瞬間、とりまいていた虚無の集団は、たがが外れたように一気に少女へとなだれ込んだ。

 少女は、その場から一歩も動くことなく、また構えることもせず、自らの顕現を高めるべく精神を集中させる。

 顕現が最も高まった瞬間、少女は発した。

「紅蓮の炎よ!」

 少女を中心として、巨大な火柱が立ち上った。

 火柱の勢いはすさまじく、虚無の大群を一度に焼き尽くした。

 炎は止まるところを知らず、周囲の生け垣や木にまで火の手が回った。

 少女が放った炎によって、静寂に包まれた公園は一転、火の粉の飛び交う火の海と化してしまった。

「……ふん」

 少女は、辺りの惨状には目もくれず、マントを翻して向きを変える。

「弱すぎるな、この国の虚無は。我が国の虚無の方がまだ手応えがあったというもの……」

 文句を言いながら、少女は眼前の芝生に立つ低木へと歩み寄る。辺りの木々は悉く炎に包まれているというのに、この低木だけは焼けていなかった。

「これが今夜の『深淵』を宿す媒体か。ふん、我が炎にも耐えるか。偽物とは言え、曲がりなりにも顕現の源、と言うわけか」

 火の海と化し、辺りは真っ赤な光に包まれているというのに、今宵の『深淵もどき』は青い輝きを宿していた。

「待ちなさい」

 少女がそれを破壊しようとした瞬間であった。振り向くとそこには、古風なセーラー服姿で、頭に百合の髪飾りを着けた少女と、詰襟の制服の前を閉めず、中に着たシャツをもはだけさせた、色白で細身の中性的な少年が立っていた。

「うっわー。こりゃすごいね……暑いなんてどころじゃないわけだ。完全に火事じゃないか」

 少年、ビャクヤは辺りの惨状を見回していた。

ーーあの刺繍……ーー

 少女、ツクヨミは、この惨状を作り出した元凶たる少女のマントに施された紋章に見覚えがあった。

 突き立てた剣のような形をし、鍔にあたる部分に開帳した鳥の翼のような意匠が成されている。剣の刃の部分、もしくは鳥の尾と思われる所には三本の輪が描かれていた。

ーー『光輪(リヒトクライス)』の紋章、緋色の騎士服……ーー

 ツクヨミは、少女の正体をほとんど把握した。しかし、まだ確証を得るには至らない。

「何だ、お前たちは? こんな所に来られるからには、『偽誕者』に違いはないだろうがな」

 少女は、ツクヨミたちを見た。同時に、炎に包まれる剣と盾を目にすることで、ツクヨミは確信した。

「ええ、そうよ。私たちは能力者。とは言っても、私には顕現を扱えない。あなたのことは知っているわ。『光輪』の『執行官(イグゼクター)』の第四位。『紅騎士』さんでしょ?」

「ちょっとちょっと。姉さん。なんだいその横文字のオンパレードは。間違ってたら痛々しいって思われちゃうよ?」

 ビャクヤの言葉は、双方ともに無視する。

「ふん、そこまで知っているとはな。いかにも、私は『紅騎士』と呼ばれる者だ」

 少女は、自らを『紅騎士』と言うことを認めた。

「ええっ! 本当なの!? 姉さん最近すごい発言が多いんだけど。君も大概だよ?」

 能力者の力を統治する『光輪』の存在を知らないビャクヤにとっては、『紅騎士』を名乗る少女の姿格好も相まって、彼女がその手の病にあるように思えてしまった。

「ビャクヤ、少し黙ってなさい。あなたは私を守るための剣でしょ。剣が勝手に発言する事は許さないわよ」

「姉さん……分かったよ。それじゃあ僕はその辺で休んでるよ。とは言っても。快適とはとても言えないねぇ……あー。暑い暑い……」

 ビャクヤは、シャツのボタンを更に開け、ぱたぱたと扇ぎながら下がっていった。

ーーあの男……ーー

 紅騎士は、ビャクヤから目を離さなかった。『夜』の事も、それにまつわる組織の事もまるで知らない辺り、能力に目覚めたのはごく最近の事と思われたが、その力の強さにはただならぬものを感じた為であった。

「私の弟に興味があるのかしら? でも残念ね。あの子は私にぞっこんなようだから、相手にもされないでしょうね」

「くだらん。用がないのなら失せろ」

「ええ、あなたに用はないわ。私たちは、そこの『深淵もどき』に用がある……と言っても、それそのものに用があるわけでは無いのだけれど……」

 ツクヨミは、頬に伝った汗を指でぬぐった。

「……それにしても、ずいぶんと散らかしたものね。いくら『夜』で起きたことが、現実になんの痕跡も残らないとは言え、これはやり過ぎというものではなくて?」

 顕現が関連して起きた事象には、一切の証拠が残らない。故に、『偽誕者』同士の争いによって死者が出たとしても、その者の死因は不明で、殺害者を特定することは、『偽誕者』でない限り不可能である。

 しかし、物に対しては少し特殊な事が起こる。『虚ろの夜』という非日常、異世界とも呼べる空間で破壊された現実世界の物は、『夜』が過ぎれば元の世界へと戻るべく再生されるのである。

 しかし、これにも例外はあり、あまりに顕現による影響が大きすぎると、現実世界の物であった物質が、顕現を持って『虚ろの夜』の物となることがある。それはちょうど、現実世界の人間が何らかの原因で顕現を身に宿し、『偽誕者』となる事と同じことだった。

 今回の例であれば、『夜』の核が近くに出現したのみならず、紅騎士による顕現で焼かれたために、今炎に包まれている木々は『夜』の物となり、現実に戻ることは叶わなくなっているのだ。一夜にして、公園の一部分が焼けた状態で発見され、事件になることは避けられないであろう。

「……もしもここが現実だったら、あなたは放火の罪に問われるでしょうね。それも公園という公のもの。人が巻き添えになることだって考えれば、間違いなく重罪ね。極刑は免れない」

 紅騎士は、悪びれる様子もなく、鼻で笑う。

「何が言いたい? 要領を得られんな」

「これは呆れたわね。まさか自覚が無いのかしら? あなたたち『光輪』は顕現の悪用を無くすためにあるのでしょう。その『執行官』たる者、しかも第四位にいるあなたが、こんな現実にも影響しそうな事をしていていいのかしら?」

 紅騎士は、やはり嘲笑うだけだった。

「ふんっ、なんだそんなことか。お前は何か勘違いをしていないか? 我ら『光輪』の成すべき事は一つ。お前の言う通り、顕現の悪用を防ぎ、統治することだ。その為に手段は選ばん。それだけのことだ」

 目的の為ならば多少の犠牲は厭わないというのが、紅騎士の言い分であった。

「大層な心意気ね。けれど、顕現を統治しようとして、現実に悪影響をもたらすのは本末転倒ではなくて? あなたたちの目的は、虚無による現実への影響も無くすことも含まれているはずよ」

「ふん……あの優等生のような事を……お前に私をどうにかする権利は無かろう? そもそも、虚無を根絶するためには、『虚ろの夜』そのものを消す必要がある。そのような大義を成すのにちまちま事を進めていては、いつまでたっても成し得ない。現実に影響が及ぼうとも、いずれは全て無くなるのだ。同じことであろう」

 紅騎士は後ろを向き、再び『深淵もどき』を破壊しようとする。

「私には無能力者をいたぶる趣味はない。腹立たしい態度だが見逃してやる。さっさと失せるがいい」

 紅騎士が剣を振り上げた瞬間だった。

 空中に一筋の光が走ったかと思うと、紅騎士の腕を縛った。

「まあ。待ちなよ」

 ビャクヤは、手から糸を放っていた。

 紅騎士は、自らの腕を縛る糸を通して顕現を吸い取られるのを感じた。

「離せ!」

 紅騎士は、剣に炎を纏わせる要領で火を放ち、ビャクヤの糸を焼き切った。

「……お前は能力が使えるようだな。私の邪魔をするつもりか?」

 ビャクヤは、微笑を浮かべる。

「邪魔ねえ。別にキミが何をしようが。僕にはどうだっていいことさ。火事でもなんでも起こしなよ。ただし。僕の家以外でね」

 たった二言話しただけであるが、紅騎士は、目の前の少年に不気味さを感じる。

「だったら邪魔をするな。私は忙しいのだ。さっさとこの『深淵』を壊さねばならん」

「それは困るね。この辺の虚無を倒したのはキミだろ? まあ。それだけなら。別に構わない。けどその『深淵』とやらを壊されるのは困る。僕だって姉さんに止められているんだ。そこの顕現を食べちゃだめだってね」

「顕現を喰らう、だと……?」

 顕現を糧とするのは、紅騎士の知る限りでは虚無だけである。その為、ビャクヤの言っている意味が分からなかった。

「そう。顕現は僕にとっては主食だよ。食べなきゃ力が出ない。キミがこの辺の虚無を倒したせいで。今日のご飯はまた別なところに行かなきゃ食べられない。どうしてくれるのかな?」

 ビャクヤは、怒っているような口振りだが、態度は極めて冷静である。

ーーこの男、人の身でありながら虚無を喰らうのか? 虚無食いの人間など……ーー

 紅騎士は、前例の無い事に内心戸惑っていた。

「まあ。別に他の所に行けば。虚無の一匹くらいいるだろうから。そこは追求しないよ。けれど。僕が一番困るのは。『虚ろの夜』そのものを消されちゃうことさ。僕に飢え死にしろって言うのかな?」

「ふん、お前の都合など知ったことではない。全ては顕現の悪用を防ぐため。ならば元となる『夜』を消すしかあるまい」

「なるほど。それがキミの。いや。リヒトなんとか……の正義ってやつかい? 今は暑いけど。寒気のする話だよ。痛々しすぎて。ね」

「なんだと……?」

「リヒトなんとかもそうだけど。紅騎士とか第四位とかさ。僕からしたら何を言っちゃってるの。って感じなんだけど」

 ビャクヤは更に畳み掛ける。

「その格好もどうかと思うよ。コスプレかい? もしかして自前? うわー。もっと痛々しいや。『偽誕者』なのは確かに特別なことだけど。だからって格好まで特殊なのにしちゃう?」

 ビャクヤはため息をついた。

「そんな事より気になるんだけど。イグゼクター……だっけ? それの第四位らしいけどさ。全部で何人いる中の四位なのか知らないけど。キミの上には普通に考えて三人いるんだろ? それなのに四位で意気がっちゃって。しかもやることはこんな火事を起こすこと。三下もいいところじゃないかな?」

 ビャクヤは、言いたい事を全て言い終えて、大きく一息ついた。

「貴様……黙って聞いていれば、好き放題を……! 『光輪』の名、そしてこの私、名門ワーグナー家のエリカ・ワーグナーまでも愚弄するか!?」

 紅騎士、ワーグナーは憤る。

ーーワーグナー家……『光輪』創始から代々繋がりのあると言われる……ーー

 ツクヨミには聞き覚えのある名であった。

「ちょっとちょっと。なんだいそのいかにもな名前? そんな設定まで作り込んでるの?」

「……彼女の言うことは本当よ、ビャクヤ。ワーグナー家という名家も、『光輪』という組織も実在する。もっとも、『光輪』の本部は北欧にあるのだけど」

 ツクヨミは、ワーグナーを擁護するわけではなかったが、このままでは埒が明かないと思い、差し挟んだ。

「何で姉さんがそんなの知ってるのさ?」

「私は『虚ろの夜』に来るようになってそこそこだから。『夜』を行く者にとってみれば、『光輪』と『忘却の螺旋(アムネジア)』の名前は自然と入るものよ」

「ん? 待てよ……アムネジアは聞き覚えがあるような……ああ。そうだ。『偽誕者』の集まりの! そういうことかーなるほどなるほど……」

 ビャクヤは納得する。

「キミも奴らと同じ。能力で騒ぎ立てるチンピラってわけだ。どうりでやることが三下なわけだよ!」

 ワーグナーの堪忍袋の緒が、今切れた。

「貴様……! もう我慢ならん、貴様から始末してくれる!」

 ビャクヤは、両手を突き出し、ワーグナーを制止する。

「ちょっと待ってて。姉さんと相談するから」

「今更逃げられると思うなよ!」

「まあまあ。落ち着きなよ。って事で姉さん。あの人と戦っていいよね?」

 ビャクヤはツクヨミの方を見る。

「構わないわ。あれを壊されては、私の目的の邪魔になる。けど、一つだけ条件がある。彼女を殺しては駄目よ」

 いつもならば、邪魔する者ならば殺すことも厭わないツクヨミであったが、今回は命は残すようにビャクヤに命じた。

「珍しいね。もしかして。痛々しい趣味を持つ者同士だから。情でもわいたのかな?」

「誰が痛々しい趣味を持っているですって? 勘違いしないでちょうだい。ただ彼女に訊きたい事がある、それだけよ」

 ツクヨミは、重ねて趣味について否定した。

「はいはい。分かったよ。手加減すればいいんだね? というわけだ。キミは運がいい。精々退屈させないでよ?」

「ぬかせっ!」

 ワーグナーは素早く斬りかかった。

 ビャクヤは、背中に八本の鉤爪を顕現させ、左半分の四本でワーグナーの刃を防いだ。

「焦らないの。姉さんがまだ近くにいるだろう? 無能力者をいたぶる趣味は無かったんじゃないかい?」

 ビャクヤは、右半分でワーグナーを押し返した。

「というわけだ姉さん。危ないから少し離れていてくれるかい?」

「あの程度なら遅れを取るような事はないでしょうけど、気を付けるのよ。約束も忘れないように……」

 ツクヨミは下がっていった。

「もちろんだよ。姉さん。さて。どう料理しようかな?」

 ビャクヤは鉤爪を威嚇するように広げた。

「焼き殺してやる!」

 ワーグナーは、剣に炎を纏わせ斬りかかる。

「ダメだねぇ……」

 ビャクヤは、鉤爪二本で攻撃を防ぎ、六本を使って反撃に移った。

 鉤爪は、ワーグナーを左右から襲いかかった。

「ふっ、こんなもの……!」

 ワーグナーは、左からの攻撃を盾で防ぎ、右からの攻撃は剣で弾いた。

「よっ」

「っ!?」

 ビャクヤは、鉤爪を更に一本突き出した。その先端がワーグナーの顔面へと迫る。

 ワーグナーは首を曲げ、後ろに下がって突き刺しをかわそうとした。

「逃さないよ!」

 ビャクヤは、鉤爪を二本伸ばし、ワーグナーの背後へと回り込ませた。

「うっ!」

 避けきれなかった鉤爪が、ワーグナーの頬を掠めた。浅い切り傷であるが、鋭い痛みでワーグナーは固まってしまう。

 その瞬間を逃すこと無く、ビャクヤは最後の一本をワーグナーの鼻先に突き付けた。

「ふふふ……いいねぇ。その顔。信じられないって感じだ」

 ビャクヤは恐ろしい笑みを向ける。

「この八本から成る手であり脚は。どこからでもキミを狙うんだ。手足が二本ずつの生き物に。捌ききれるものじゃあない……」

 ビャクヤは、ワーグナーの鼻先に突き付けた鉤爪の先で顎を撫で、頬に伝っている血を掬い、それを舐めた。

「名前からして。キミは外国人なんだろ? けど。血の味は誰も同じみたいだね。ああ。勘違いしないでくれ。別に僕はヒトの血肉には興味ないから」

「……離れろっ!」

 ワーグナーは、大きく剣をなぎ払った。

 ビャクヤは、ワーグナーの背後に回していた鉤爪を引き戻し、剣を防いだ。

 ワーグナーは、背後が開いたのを確認すると、素早くビャクヤから距離を置く。

 ビャクヤは、全ての鉤爪を引き戻し、背中に八本置いた。

 ワーグナーは、頬のひりつく痛みを手で押さえながら、ビャクヤを睨む。

 ビャクヤの言うことは誇張でも何でもなかった。

 全ての鉤爪は別々の動きをし、彼の言う通りどこからでもワーグナーを襲うことができた。伸縮も自在であり、少しの間合いがあいているくらいでは、攻撃が余裕で届いてしまう。

ーー見た目以上に厄介だ。だが、引き戻すのに僅かな隙がある。その瞬間を狙えば……!ーー

 ワーグナーは、ビャクヤに隙を作らせるべく、目は離さずにビャクヤから飛び退いて距離を取る。

「逃げ回るつもりかい? ふふ……ムダムダ。言ったろ。こいつはどこからでもキミを狙うって!」

 ビャクヤは、背中の鉤爪を自らの前に置き、その付け根部分を握ると、投げ付けた。

「風穴空けてあげるよ!」

「なんだとっ!?」

 ワーグナーは、油断はしていないつもりであったが、さすがにこれは想定外であった。何とか当たる直前に盾を構えることができたものの、連続的であり、狂いなく飛ぶ鉤爪はワーグナーを切り刻んだ。

「ぐう……」

 飛んでくる鉤爪を防いだつもりであったが、いくつかはワーグナーの盾を抜けて、彼女の肩口を切り裂いていた。

 投げた鉤爪は自らビャクヤへと戻っていく。

「へえ。完全ではないものの。今のを防ぐなんてやるじゃない。決まったと思ったんだけどなぁ」

 ビャクヤは笑みを浮かべていた。年相応な無邪気な笑顔であるが、それがかえって、見る者には不気味に見えてしまう。

「逃げられるなんて思わないことだよ? キミはすでに僕の獲物なんだからさ!」

 ビャクヤは再び、ワーグナーに向かって鉤爪を投げつける。

「味わいなよ!」

 間合いの外から襲い来る鉤爪の投擲であったが、さすがに届く距離には限度があった。

「見切ったぞ!」

 ワーグナーは、僅かに届かない距離を見破り、鉤爪をかわした。

「制盾アンキレー!」

 ワーグナーは、炎の力を盾に纏わせた。

 ビャクヤの鉤爪を引き戻す際に発生する僅かな隙を突くべく、ワーグナーは盾を前に、剣を後ろにして突進する。

「シュトルムブレハ!」

 盾を前に置いて突進することにより、攻撃を防ぎながら前進することができる。そして、盾で相手の攻撃を受け流し、崩れた相手に向けて剣での一突きで相手に止めを刺す。この技は非常に合理的にできていた。

 鉤爪を引き戻してすぐに反撃に転じようとも、ビャクヤの攻撃はワーグナーに届かないであろう。ビャクヤの鉤爪は、見たところそう小回りの利く武器にも見えない。

 素早くビャクヤの懐へと入り込み、剣での突きを決めることができる。ワーグナーは確信していた。

 しかし、ビャクヤは慌てる様子なく、不敵な笑みを浮かべていた。

「なんだと……!?」

 逆にワーグナーの方が驚かされてしまった。

「仕込んでおこうかな」

 ビャクヤは、ワーグナーに手を向けた。そして掌から鉄線のような糸を、投網のように放つ。

 地を蹴って突進しているワーグナーに、止まる術はなかった。ビャクヤが放った罠に吸い寄せられるようにぶつかり、糸がワーグナーの全身に巻き付いた。

「あーあ。かかっちゃった……」

 ビャクヤは、ワーグナーが罠にかかることを確信していながら、さもまさかのことであるかのように驚いた素振りをする。

「……ぐっ! くそっ……がああ!」

 ワーグナーは、どうにか逃れようと身をよじるが、動くほどに糸が食い込み、傷を増やしていく。

 ビャクヤはつかつかと歩み寄る。

「あまり無理すると。体が千切れちゃうよ? 首が千切れたら大変だ。姉さんに殺すなって。言われてるからね」

 ビャクヤは、ワーグナーに、互いの息づかいが分かるほど顔を近づけた。

「いい顔だ。食べられないのが残念だよ。さて。勝負は決まった。大人しく降参してくれないかな?」

「ローエン……!」

 ワーグナーの声は、降参を意味するものではなかった。

 ワーグナーは自身に宿る顕現を炎に変え、自らを中心に一気に燃え上がらせた。

「おっとと……」

 ビャクヤは後退した。

 ワーグナーは、起こした炎で身に纏わりつく糸を全て焼き切り、拘束から逃れた。しかし、ピアノ線のように鋭利な糸に切られた傷は思いの外深い。

「はあ……はあ……」

 ワーグナーは、ボタボタと大量の血を滴らせながら、肩で息をする。

「あーらら。逃げられちゃったよ。けど。その傷じゃあもう戦えないだろ? そろそろ大人しくしてくれるかい」

「……侮るなよこの犬が! 貴様ごとき、我が力で焼き尽くしてくれる!」

「まったく……殺さないように手加減するの大変なんだよ? これ以上どう手加減しろと……」

 深傷を負いながらも、まだ降伏しようとしないワーグナーの様子に、ビャクヤは面倒そうに両手を広げる。

 ワーグナーの言葉もハッタリであろうと、まともに取り合わなかった。

 しかしワーグナーは、本当にまだ力を隠していた。

 その身に残る顕現を集中させ、一気に放った。

「見せてやる!」

 集められた顕現の量は大きく、ワーグナーを中心に爆発を起こした。

「まさか……!?」

 ビャクヤは驚く。

「これで終わりだ……!」

 ワーグナーは、爆発を起こすほどの顕現を全て炎に変えた。そしてその炎を全身に纏ってビャクヤめがけて突進した。

「ヒッツェフォーゲル!」

 ワーグナーの突撃は速く、広範囲に及び、ビャクヤはかわすことができない。

「燃え尽きろ!」

 ワーグナーは文字通り炎となり、ビャクヤを焼き尽くさんとした。炎を当てる以上、防御も無駄なものとなる。そのはずだった。

 ビャクヤは、口元を大きく吊り上げた。そして鉤爪を全て自身の前で交差させ、その中心に顕現を集中させた。

「おいでよ……」

 間を置かずその顕現の盾に、ワーグナーの炎がぶつかる。

「かかった……!」

 ビャクヤが作り出した顕現の盾とぶつかると、ワーグナーの炎は一瞬にして勢いを失っていった。

「バカな!? こんな事が……!」

 ビャクヤは、炎を消したのではない。盾を通して、炎を起こすワーグナーの顕現を吸い取って自らのものとしたのである。

 爆発的な顕現を消費し、ワーグナーにはもう、僅かしか顕現が残されてはいなかった。

「くっ……! はあ……はあ……」

 先に負った深傷も相まって、ワーグナーは急激な目眩を感じ、息を切らしてその場に膝を付いた。

 そこへビャクヤが、靴音を響かせながら歩み寄った。

「キミの顕現はすごいね。ちょっと取り込んだだけなのに。下手な虚無を喰らうよりも力がわくよ。最期に僕の顕現。味わわせてあげよう……!」

 ビャクヤは、奪った顕現、そして自らの顕現を一点集中し、一気に解き放った。

「ちょっと本気で行くよ!」

 ワーグナーがやったように、ビャクヤも顕現を爆発させた。

「さあ。僕の一部に……!」

 ビャクヤがワーグナーを切り裂こうとした。

「そこまでよ、ビャクヤ!」

 鉤爪がワーグナーに最も迫った瞬間、後に控えていたツクヨミが大声を上げた。

 ツクヨミの声に反応し、ビャクヤは伸ばした鉤爪を止める。

「ええ……もう終わりなの?」

 ビャクヤは、いかにも不服そうに口を尖らせた。

「言ったはずよ、彼女を殺しては駄目と。下がりなさい、ビャクヤ。私はこの紅騎士に、少し話があるの……」

「ちぇー……」

 ビャクヤは、仕方なさそうにツクヨミに道を譲った。

 ツクヨミは、息も絶え絶えで満身創痍のワーグナーを見下ろす。

「……『光輪』の紅騎士といえどその程度なのね。けれど、一つだけフォローをしてあげるわ」

「貴様……!」

 実際に戦ったわけではないというのに偉ぶるツクヨミに、ワーグナーは静かな憤りを見せる。

「顕現には相関性がある。ビャクヤのそれは誰に対しても相性最悪なの。この子自身の力は決して強くはない。だから落ち込む必要はないわ」

 もっとも、とツクヨミは続けた。

「……顕現の相関性がなかったとしても、あなた程度にビャクヤが遅れを取るような事はないでしょうけどね……ふふふ……!」

 ツクヨミは、最高の嘲笑をした。ビャクヤの力の強さを誰よりも理解しているが故の余裕であった。

「姉さん。確かにそいつは弱いけど。そんなにいじめちゃ可哀想だよ。あははは」

 ビャクヤも笑って便乗する。ワーグナーは屈辱の極みである。

「……さて、訊きたいことがあるのだけど、いいかしら?」

「…………」

 ワーグナーは答えないが、ツクヨミは話し始めた。

「"Ich denke Sie Vissen nie die Antwort auf meine Frage,die ich Sie sicher frage.Zohar das Piarcing Heart Doppel-Genger. Kennst du diesen Namen und wo ist sie jetzt?"(あなた程度が知ってるとは思えないけど、一応訊いておく。探抗う深杭(ピアッシングハート)、『二重身(ドッペルゲンガー)』のゾハル。この名と所在に、心当たりはない?)」

「えっ!?」

 突如として、ツクヨミの口からまるで呪文のような言葉が続いたため、ビャクヤは驚いてしまった。

 ツクヨミが話したのはドイツ語である。それもかなり流暢で、それが母国語であるかのようだった。

 ワーグナーにとっては馴染み深い言語であるはずだった。『光輪』のある国では、最も良く使われている言葉である。

 ワーグナーはやや間をあけた後に答える。

「……"Es weiss nie ich!"(知らんな!)」

 思った通り、ワーグナーからはドイツ語での返答があった。

「そう、残念だわ」

 ツクヨミは踵を返した。

「帰るわよ、ビャクヤ。火の手がだいぶ回った。長居は無用よ」

「待ってよ姉さん! 二人してなんて喋ってたんだい!?」

「あなたに知る必要はない。服が煤臭くなっちゃうでしょ。行くわよ」

 ツクヨミは歩き始めてしまった。ビャクヤは仕方なく後に続く。

「そうだ、これだけは伝えておく……」

 ツクヨミは振り返らず、顔を少しだけワーグナーに向けた。

「今日は生き延びられたけど、あなたは近々、ある男に命を狙われるわ」

「"Was meinen"……どういう事だ?」

 ワーグナーは、ドイツ語が出そうになるが、ツクヨミの言葉に合わせた。

「『強欲』のゴルドー。この名に覚えはないかしら? 彼の親友を斬ったそうね、あなた」

「ふん……あれか……私は役目を果たしたまで。恨まれようが私には関係無い事だ」

「これからの生き方を考え直すつもりはないようね……けど、一応忠告はしておく。命が惜しいのなら、『虚無落ち』を片っ端から斬らない事ね。たとえその者が、完全に落ちていようとなかろうと……ね」

 ツクヨミは言い終わると、ワーグナーの返答を待つことなく、ビャクヤと共に去っていった。

 パキパキと音を立てながら、燃え盛る木がワーグナーとツクヨミの間に倒れた。

 燃え盛る倒木の向こうでワーグナーがどのような顔をしていたのか、それはツクヨミには知る由もなかった。

    ※※※

 『光輪』の紅騎士、ワーグナーとの戦いから一夜が明けた。

 ツクヨミは、ダイニングテーブルに着き、スマートフォンを眺めていた。

 昨夜のワーグナーが起こした火事についての記事が、既にインターネットに挙げられていた。

 一夜にして公園の木々が全焼、しかし、火災発生の目撃者なし、という見出しである。

 今日未明、『夜』の終わった瞬間、焼け跡となった公園が巡回中の警察によって発見された。

 その警察によると、ほんの一時間前までは普通の姿をしていた公園が、巡回の帰りに寄ると、辺り一帯が焼け焦げていた、とのことだった。

 警察では、不審火事件として捜査しているが、『夜』の存在を知らぬ者に手がかりなど掴めるはずもなかった。

 しかし、一つだけ一般人でも分かることがあった。

 火災の現場には焼けた血痕があった。この事からこの火災は不審火のみならず傷害事件としても捜査されるとの事だった。

 一般人にも見つけられた血痕とは、ビャクヤとワーグナーの戦いで、ワーグナーが流した血の跡に間違いはなかった。

 しかし、付近に変死体のようなものは残っていなかったらしい。

ーーどうやら、彼女も逃げおおせたようね。まあ、あの程度で死ぬようなこともなかったでしょうけどーー

 ツクヨミは、今回の出来事を厄介だと思う。

 現実とは違う『夜』で起きた事は一般人に知れ渡ることはあり得ない。しかし、これほどまでに現実に痕跡を残してしまうような事をしていては、『夜』そのものの存在を知られることはなかろうとも、なんらかの因果関係を掴まれ、自分たちのやって来たことに足がつく可能性があった。

 ビャクヤは以前から、『偽誕者』を何人も手にかけ、ツクヨミも邪魔者の殺害を命じたこともある。

 『夜』で死んだ者の遺体は現実に変死体として発見される。故に何者かが、なんらかの方法で殺害に及んでいる、とは現実の人々にも知れ渡っていた。

ーー……足がつく可能性を考えると、当分の間『夜』の『深淵もどき』を張ってゾハルを待つ、って事はできなそうね。あの紅騎士もしばらくは動きを見せないでしょうけど、これに懲りるような性分には見えない……ーー

 やはりあの場は見逃さず、止めを刺しておくべきだったか、という考えがツクヨミの頭を過る。

 しかし、殺していたらそれはそれで、余計な敵を増やす要因になり得た。

 顕現の統治をせんとする『光輪』の幹部格を手にかけることがあれば、間違いなく『光輪』に危険視され、処分の対象になる。

 そして『忘却の螺旋』のかつての幹部、紅騎士ワーグナーを友の仇とする『強欲』のゴルドーの恨みを買う可能性もあった。

 長い目で見れば、やはり昨夜ワーグナーを殺さなかった事は益となるものだった。

ーーこうなれば、狙いを確実に定める必要があるわね。あの子も動くと思われる瞬間……ーー

 考え付く先は一つしかなかった。

 ツクヨミは、読んでいた記事のページを閉じて、ある言葉を検索する。

 月齢、ツクヨミが打ち込んだのはこれだった。表示された検索結果のトップのページを開くと、そこには月齢の表記されたカレンダーがあった。

 今日から十日後、月は満月となる。そしてそれから七日間その『夜』は真の姿となる。

ーー目指すは、『虚ろの夜』の『深淵』。そこでならきっとゾハルも……ーー

 七日間に及ぶ、『深淵』の発する顕現に満ちる『虚ろの夜』、『永劫の七日間(Seven Days Immortal)』。

 ツクヨミは、その最後の夜を狙いとするのだった。

 

Chapter Break Time UNIあるある

 

 ①ちょっと強者扱い?

ビャクヤ「さて。今日もランクマやろうかな」

 数十戦後。

ビャクヤ「ありゃりゃ。ここで負けたかー。しょうがない。今日はこの変にしておこうかな……」

 ランクマメニューを閉じて、なんとなくランキングを見る。

ビャクヤ「あれ? リプレイボードが更新されてるね。僕とフォノン? さっき戦ったような……ちょっと見てみようか」

 プレイヤーネームが一致する。

ビャクヤ「ふふふ……」

ツクヨミ「自分が討ち取られた試合がアップされたから優越感に浸っているようね。強い人だと思われてるみたい、よね?」

    ※※※

 ②誰か止めて!

ビャクヤ「今日なんだか調子がいいねぇ。負ける気がしないよ。アハハ!」

 十連勝突破、十五連勝突破。

ビャクヤ「まーた勝っちゃった。誰か僕を止めてくれよ。なーんてね。アハハハ!」

 二十連勝突破。

ビャクヤ「ちょっと待ってよ。ここまで来ると怖くなってくるんだけど?」

 二十二連勝突破。

ビャクヤ「ほんとに誰か止めて!」

ツクヨミ「連勝を重ねると、冗談抜きで止めてほしくなるわよね。でも負けたくない。こんな気分になることはないかしら?」

    ※※※

 ③勝ったと思ったら十割持っていかれる。

ビャクヤ「おっ。マッチングした。どれどれ……」

 Byakuya vs Byakuya。

ビャクヤ「同キャラだね。実は僕同キャラ苦手なんだよねー」

 開幕コンボが決まり、ビャクヤ側が有利。相手の体力は残り十パーセント以下。

ビャクヤ「これは決まったね。僕の勝ちだ」

 暴れを通されて形勢逆転。

ビャクヤ「いやいや。まだ体力差あるし。勝てる勝てる」

 その後、起き攻めを通され続ける。

ビャクヤ「こうなったらC料理ぶっぱだ!」

 普通にガードされ、逆にC料理で止めを刺される。

ビャクヤ「嘘だ! こんなの嘘だ!」

ツクヨミ「ビャクヤの性能的に、切り返しが弱いから、端に追い込まれて罠で固められると辛いのよね。VOでもなぜか罠にかかることもあるし、最大の敵は己自身、ってとこかしら?」

    ※※※

 ④僕が出られない理由

ビャクヤ「姉さん。僕思ったことがあるんだけど……」

ツクヨミ「何かしら?」

ビャクヤ「ついこの間BBTAGが大型アップデートしたでしょ? けど。僕に声はかかってないし。そもそもUNIからは一人しか参戦できてないよね?」

ツクヨミ「そうね、もっと参戦しても良かったかもね」

ビャクヤ「アカツキは。まあ。UNIのキャラ扱いでも言いかもしれないけど。あの人は原作から参戦ってことになってるよね? しかも。人の形をしてない。電光戦車と一緒にさ」

ツクヨミ「あれは確かに驚きよね。メルカヴァやワレンシュタイン、アイアン・テイガーやスサノオが可愛く見えるくらいのイロモノっぷりね」

ビャクヤ「もっとすごいのは。明らかに格ゲーのキャラじゃない人が参戦してる事だよ。それなのに僕は出られてない。姉さんは何でだと思う?」

ツクヨミ「色んな作品から参戦させる事で、幅広い層に手に取ってもらうためじゃないかしら? そもそもこの作品自体、BBの外伝作品であってUNIはその他作品の一部として参戦してるわけだし」

ビャクヤ「甘いね。姉さん。確かに売り文句としてはそうかもしれない。だけど。僕は。いや。僕らは致命的な。それでいて前提としての間違いを犯しているんだよ」

ツクヨミ「……何が言いたいのかしら? はっきり言いなさい」

ビャクヤ「まだ分からないのかい? ちょっと考えてみてよ。BBTAGのルールをさ……」

ツクヨミ「ルールって……そんな今更な。二人でタッグを組んで二対二で戦う、でしょう? それが何だと……あっ!?」

ビャクヤ「……やっと気付いたようだね。姉さん。そう。僕は姉さんと一緒じゃなきゃ戦う意味がない。つまり。誰かと組んだら。僕らは三人チーム。参戦する以前にルールを破っているのさ。そんなの最初から失格になるに決まってるじゃないか!」

ツクヨミ「そんな……私は戦う力が無いのに、そんな事でビャクヤが参戦できないって言うの!?」

ビャクヤ「その気持ちは嬉しいよ。姉さん。でも。もう僕はいいんだ。きっとクレアで強化されているはずだし。この世界で姉さんの為だけに戦うよ!」

ツクヨミ「ビャクヤ……」

ビャクヤ「……なーんてね。本当は出たいに決まってるじゃないか! 次のアップデートでは頼むよアークさん!」

ツクヨミ「…………(感動して損したわ……)」

 

おまけコンボレシピ、戦術

 

5A<2C<5C<3C<jc<JB<J2C<C罠<dlA派生<DB<A料理<A罠<A派生<A料理二段<C食べ頃

 以前に紹介したコンボの改訂版。以前のやり方だと、ゴルドーやワレンシュタインのような大きめなキャラに当たらないことがある。ビャクヤの罠派生の受付猶予はかなり長く、落下し始めた後からでも派生が出せる。ディレイA派生のディレイはかなりかける必要があり、ビャクヤが相手に最も接近した時に出す必要がある。

 なお、DBの代わりに2Cでも拾えるが、同技補正で若干ダメージが減る。

 

アサルトJC<5A<2C<5C<3C<jc<JB<J2C<C罠<dlA派生<DB<A料理全段<C食べ頃

 アサルト版。補正がかなりきつめ。

 

2B<5C<2C<B料理二段<A罠<5C<5B<jc<JB<J2C<JC<2C<A料理一段<A罠<A派生<DB<A料理全段<C食べ頃

 固めにも使える連携からのコンボ。これを基本のコンボとしたい。開幕の距離から画面端まで運ぶことが可能。2Bは発生が9フレームの下段で、意外と横にリーチがある。開幕くらいの距離からちょっとダッシュすると端がヒットする。しかし、距離がありすぎると2Cが外れる事があるので、距離感を覚えて使おう。

 

DB>A料理二段>A罠>A派生>5C>5B>jc>JB>J2C>JC>2C>A料理一段>A罠>A派生>DB>A料理全段>C食べ頃

 このゲームにも同技補正はあり、同じ技をコンボに使うとダメージ補正やコンボ補正がかかるが、DB始動は補正がかからず、A料理を連続してもB料理を入れた時とダメージが変わらない。どちらも発生は12フレームだが、A料理のガード硬直はマイナス6フレームである(B版はマイナス7)。たった1フレームの違いと思うかもしれないが、それ以上に、B料理は前に進みすぎる為、めり込ませてしまうことがある。そうなると手痛い反撃を貰うことになる。DBは技の性質上、必殺技でしかキャンセルが効かないので、DB自体の推進力も相まってめり込みやすい。なので、DBの後はA料理を使うようにしたい。

 

2C>5C>2C>B料理二段>A罠>5C>dl5B>jc>JB>J2C>dlC罠>C派生>DC>C罠>A派生>(C食べ頃)

 とてつもなく運べるコンボ。どれ程運べるかというと、端を背負った状態から相手の背中側の端まで運べる。端を背負った状態ならば入れ替わった方がいいが、どちらに運ぶにも微妙な位置にいた時に真価を発揮する。しかし、最後の食べ頃のタイミングがだいぶシビアなので、運びを目的とする場合は食べ頃まで出さないという手もあるので囲っておいた。

 

DC>C罠>B派生スカ>IJ2C>2C>5B>B罠A派生>DB>A料理一段>A派生<A料理二段>C食べ頃

 遠距離の相手に刺さった時に使える。IJ2Cのタイミングが早すぎると2Cが当たらない。また、A派生からA料理拾いが少し難しいので要練習。どうしても難しいようであれば、この部分を除いてもダメージは一応3000を超えるので省いてもいいかもしれない。

 

5A>2C>B料理二段>A罠>5B>JB>JC>2B>A料理一段>A罠>A派生>DB>A料理全段>C食べ頃

 立ち回りや暴れに有効な5A始動コンボ。ビャクヤの5Aは発生6フレームであり、リーチも長く判定もいいので、2Bと同じくらいに立ち回りの主力となりえる。小技からの始動にも関わらず、ダメージは3800を超える。

 前述のコンボとの差別化点は、こちらは5Aの先端を当てた時、あちらは密着で当てた時に別れる。

 手軽な割にダメージが高いので、これも基本コンボとして練習しよう。

 

 戦術①不利フレームを背負わせる

 ビャクヤの技には、基本的にガードさせて有利、というものはないが、罠をガードさせると二桁単位での有利フレームが発生する。IJ2Cは例外的にガードさせても攻め継続ができる。これのすごいところは、シールドを取られてもガードが間に合う所である。なかなか近寄れない時、アサルトでこれを出すと強力である。

 また、ちょっと変わった所だと、C派生もガード後攻め継続ができる。B料理をガードされてしまったとき、空中A罠 D派生で誤魔化しがちだが、これの対処法は簡単で、ダッシュすると罠にかからず、着地硬直中のビャクヤに確反を入れられる。なので、C派生をしたほうが状況は悪くなりにくい。罠派生なので、当然場には罠があるので、ガードされても罠で連続ガードになり、結果的にターンはビャクヤ側にやってくる。もしも当たっていれば、相手を吹き飛ばせ、その状態で罠に当たるとかなり補正の緩い状態でコンボができる(ダメージは4100を超える)。

 ただし、派生技全てに言えることだが、シールドを取られると着地までCS以外の行動が全て不可能になる。特に最悪の事態になりやすいのはB派生である。これは派生技唯一の中段だが、横に判定はなく、更に、ビャクヤの手軽な中段なので対処法は知れ渡っている。縦にしか判定が無い以上、ビャクヤ側としてはできるだけ高い位置から打ちたくなるが、それが仇になる。シールドを取られるとかなり手痛いダメージを受けることになるので、安易なB派生はしないようにしたい。C派生は、位置や罠によっては反撃を受けないこともあるが、やはり着地まで硬直するので、反撃されやすいと言える。

 しかし、罠はシールドを取っても不利なので、不利フレームを背負わせる事ができる。罠をガードさせたのが見えたら攻めに転じるようにしよう。

 

 戦術②ガードシールドを割る

 固められている時にシールドを取ろうとすると、先にガードシールドが出る。これはゲームシステムであり、全キャラに共通することである。ガードシールドの直後は長い硬直時間が発生し、その硬直中に対応するガードを行うとシールドが取れる。しかし、硬直中に攻撃されなかった場合、グリッドが消費されるうえ、CSも発動できない(例外としてガードスラストは出せる)。

JC等の強めの中段をシールドしようとして失敗し、ガードシールドを出してしまうと、相手は自由に動けるが、自分は行動不能な状態になる。アサルトJCでも同じことが起こり、この瞬間に投げをしかけると、抜けられない金投げとなり、投げられた側はブレイク状態になる。

 他にも相手のガードシールドを確認する手段はあり、そこに投げをしかければガードシールドを割ることができる。

 その手段の一つは、CSである。相手を固めている時に、相手がシールドしようとした瞬間にCSを発動し、近寄って投げるのである。難しそうに思えるかもしれないが、相手から黄緑の光が出た瞬間にDボタンを連打すれば簡単にできる。トレーニングモードにて、ガードシールドを発動させる項目があるので、それを三ヒットか四ヒット目かに設定した後固めれば、設定したタイミングでガードシールドをしてくるので、光ったと思ったらDボタン連打する。これで練習ができる。

 もう一つの手段としては、Aボタン攻撃を刻むことである。これは暴れ潰しにもなる。注意すべき点は、連打ではなく、少し間を開けて押すことである。連打するとスマートステアになってしまう。2Aでもできるが、ビャクヤの2Aはリーチが狭く判定も弱い上に下段ではなく、更に発生も5Aと変わらないためあまり有用な技ではない。パッシングリンクの隙消しと割り切るべきだろう。話を戻すが、Aボタン攻撃は唯一通常投げにキャンセルが効く攻撃である。相手が光った瞬間、もしくはシールドが出ている瞬間を見計らって投げを入力することでブレイクさせる事ができる。

 もう一つ手段として、ビャクヤの派生技は全て、シールドに失敗すると硬直の長いガードシールドになって隙を晒させる事ができるため、その隙に投げをしかけるのである。先ほどの話と重なるが、C派生は通常ガード硬直が意外と長めで、相手の暴れを抜けられない金投げで潰せることがある。覚えておこう。

 また、アサルトをシールドしても、意外と反撃が確定しない事があるので、無理に狙わない方がいいかもしれない。透かし投げなどもあり得るので尚更である。相手がアサルトを連発しているようなら、5Aを出した方が落とせることが多いのでアサルトに対して無理にシールドはしないようにしたい。

 

 戦術③エリアルパーツを決めておく

 コンボに組み込むエリアルパーツだが、実はそれほど数があるわけではない。ミッションモードのコンボレシピをよく見たら分かるように、大体始動技によって決まっている。

 ビャクヤを使う上で覚えておくべきパーツは三つもあれば十分である。以下に例を挙げる。

・5C>5B>jc>JB>J2C>JC>2C

・5B>jc>JB>J2C>JC>2B

・2B>jc>J2C>JC>2C

 これらを覚えておけば自らコンボを組み立てやすい。上から順にどの始動なら入るかというと、一番目は2B、2C、5C、3C、DB。二番目は5A、5B。

最後は攻撃を四ヒット以上刻んだ時、画面端でB料理二段>C罠>D派生した後に使う。

 例外的なものは一つのコンボレシピとして覚えておこう。

 

 戦術④中央でも強力な起き攻めをする

 ビャクヤといえば、画面端まで運んで拘束し、相手の頭上、足下、前の三つ罠を張って強力な起き攻めをしかけるキャラクターだとこのゲームをやって長い人に認知されているが、強力なだけあって対処法も色々と考えられている。

 確かに、端を背負わせるのはアドバンテージの一つであるが、画面端が戦闘の中心部となっていることは、裏を返すと、ビャクヤ側もなんらかの方法で端を背負わされるリスクもある。

 そこで、画面端起き攻めの対策が完璧な相手のために、中央で相手の動きを制限するという手段がある。

 ビャクヤには、ヒルダやバティスタ、セトには及ばないまでも、罠による空間制圧能力はあると言える。罠は時間経過で消滅しないため、お互いに忘れていた罠がヒットしてビャクヤにターンが回ってくるということはあり得る。特にもセトやユズリハ、ナナセのような空間を飛び回る動きをするキャラクターに対して起こりやすい。そこで中央でのC食べ頃後の罠の張り方を紹介する。

・低空A罠>dlD派生>A罠

・A罠>JC罠>D派生

・A罠>JC罠>攻撃派生無し

 他にも有用なものはあるが、ひとまずこの三種類を覚えておこう。

 まず一つ目の張り方だが、このようにすると、相手の後方、足下、目の前に罠が置かれる。その後の攻め方として、2B>5C>微タメ3C>2C>FFが強力。特にもFFが強力で、ガードされても相手の後ろの罠がカバーしてくれるので、CSせずとも攻め継続になる。FFまで凌ぎきった相手はひとまず安心するのか、その後にDB>A料理が当たりやすい。

 二つ目は低空コマンドの苦手な人向け。三つ目は確実にしゃがみガードさせたい時用。中央起き攻めをしかけるのに必要なのは相手の前後に罠がある事なので、必ずしも足下にも罠がある必要はない。

 ただし、起き上がりに技を重ねるのは、ハイドのブリンガー、ビャクヤのC料理、オリエのセイクリッドスパイアのような前に出るタイプの無敵技に弱いので、相手のゲージ状況も見つつ、様子見も混ぜるようにしよう。




 どうも、作者の綾田です。
 前回、できるだけ早く投稿すると言っておきながら半年以上経ち、年が明けてしまってから投稿するという遅さに、自分でも嫌気がさしています。ですが、この半年の間に普通免許を取ったり、転職活動していたりと決してサボっていたわけではないと言い訳させてください。
 このように多忙だったわけですが、UNIではripが160万を超え、つい最近初のネットワークカラー最上のSランク、紫になることができました(^-^)vこのゲームをPS4で始めてまだ千戦行っていませんが、VITAから始めたのを合わせれば三千戦以上はしました。なのでついになれた、といった感じですね。エクセレイトクレア発売前になれてよかったと心の底から思ってます(^o^)
 上級者の端くれくらいにはなったつもりでいるので、キャラ対策について考えるようになり、とりあえずミッションモードで全キャラさわってみたのですが、バティスタとセトが難しくてこの二人は挫折しました。私はパッド勢なので、バティスタのボタンホールド入力に物理的な不可能さを感じています。バティスタをパッドで使えている人が本当にいるんでしょうか(?_?)
 それから、BBTAGも大型アップデートされましたね。システム周りも一新されてて、今から入った人でも初期からやっている人にも追い付けそうですね(勝てるとは言ってない)。アップデート前は中の人つながりでハザマとオリエ、略してハザモリエなる組み合わせでやっていましたが、ある新登場キャラに一目惚れしました。どうせ閃乱カグラの雪泉だろうと思ったそこのあなた。……残念、答えはRWBYのニオ・ポリタンでした!(だからどうしたと)
 私はRWBYの原作を全く知らないので、そのキャラを一人も使うことがなかったのですが、ニオは対戦して一瞬で心奪われました。見た目的にルビーたちの仲間かなー、なんて思ってたらまさかの逆の敵キャラで、しかも無口なところに惹かれました。何より惹き付けられたのは喋らないけど、六千超えダメージで笑う、ダメージを受けていると小さく悲鳴を上げるという、無口だけど声は発する所と、アストラルヒートの最後のあの顔はどこかビャクヤと通じる部分があった所です。もしこれで普通に喋るキャラだったら使わなかったですね(^_^;)(どんだけ喋らせたくないんだ……)
 今回のアップデートで足立が参戦して、一応前回の願いは叶ったのですが、ニオ使うようになってから結構勝てるようになったので、足立は全然使ってないですf(^^;ハザマとの組み合わせで掛け合いがあるのもいいですね(ニオ。足立もだけど)。
 今回ちょっとビャクヤとツクヨミの茶番を入れましたが、最後のビャクヤの台詞は私の願望そのものです。是非とも次回はビャクヤとシャルラッハロートとついでにイザナミの参戦を! 余談ですが、イザナミのJ2Cがどう見てもビャクヤのアハハハ……もっと余談ですが、オリエの4Cがどう見ても蛇翼崩天刃……
 さて、本編お構い無くBBTAGの話ばかりになってしまいましたので最後に小説のお話を。今回はエクセレイトクレア発売直前なので、一度私のコンボや戦術の集大成をあげておこうかと本編は一章だけになりました。人によってはおまけが本編……なのかも知れないですね(^^;四部構成と言いつつ五部構成に、そして今回六部構成にすることをお許しくださいm(_ _)mもうちびっとだけ続くんじゃってやつです(^o^;)すみません。ですが、本当に後二回で終わりにするつもりです。(終わる終わる詐欺じゃないです。ホントに)
 今回もまたツクヨミが主人公っぽい物語になりましたが、次回はビャクヤがちゃんと主人公してます。たぶん……嘘です、必ずしてます! クレアに対応したコンボや立ち回りものせる予定です。後二回、どうかお付き合いくださいませ。
 それでは次回、またお会いしましょう!(クレアでもBBTAGでも対戦お願いします(^o^)/)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。