BYAKUYA-the Withered Lilac-   作:綾田宗

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月の因縁の終止符

 Chapter11 執拗に付き纏う虚影

 

 宙を浮遊する虚無が、鋭利な輝きを持つ糸で出来た網にかかった。

 巣網の主たる少年、ビャクヤは、罠にかかった虚無に鉤爪を突き刺し、口元に引き寄せて顕現を喰らう。

 今や、ビャクヤにとっては当たり前となった、顕現を宿すものの捕食である。しかし近頃は、一人で『夜』へと赴き、こうして虚無を喰らっている。

 先日、『光輪』(リヒトクライス)の紅騎士ワーグナーと戦ってから、ビャクヤとツクヨミは、別行動をするようにしていた。

 紅騎士ワーグナーが、現実への干渉などお構いなしに、能力で公園を焼いたため、現実世界に公園が焼け跡として出てしまった。

 普通の人間に『夜』を認識することはできないものの、これほどまで現実に痕跡を残してしまってはまずい事がたくさんあった。

 故にツクヨミは、あの夜以来『夜』へと出向かなくなり、顕現の捕食をしなければならないビャクヤだけが、こうして食事のために『夜』へ来ていた。

「ふう……」

 ビャクヤは一息つき、携帯を取り出した。取り出すと同時に点灯するディスプレイには、現在時刻が表示されている。

「二十一時五十分……やれやれ。そろそろ帰らなくちゃ……」

 ビャクヤは、時間を見てため息をついた。

 顕現の捕食は、ビャクヤにとって常人の食事に近いものである。そのため、どうしても摂らなければ腹が満たされないのだが、ツクヨミから一つ命令されていた。

 これまで『偽誕者』を殺害してきた事の因果関係を警察に掴まれないために、補導されるような時間まで『夜』を出歩くべからず、というものだった。

 相手は異能力を持った『偽誕者』であるが、人を何人も殺してきた。ビャクヤは、この事実は受け止めているつもりだが、殺人犯として捕まって投獄されるつもりはない。それ故にツクヨミの言うことはもっともだと思うのだが、『夜』に行動できる時間が減ってしまったのは辛いものがあった。

「あーあ。まだ食べ足りないんだけどなぁ……今日も。虚無二匹しかいなかったし……」

 ビャクヤの腹を十分に満たすほどの顕現を持つ虚無に、なかなか出くわさないのである。

 紅騎士ワーグナーとビャクヤの戦いが現実世界に影響をもたらしたためか、『偽誕者』の活動も減ってしまっている。尤も、ツクヨミによって、『偽誕者』との戦いも禁じられているのだが。

 ふと、ビャクヤの携帯が振動した。『LINENNE(ラインネ)』がメッセージを受信したのである。

 受信したのは、ツクヨミからのメッセージだった。

「なになに。『そろそろ時間よ、帰ってきなさい』? まったく。そんなに急かさなくてもいいのに」

 ビャクヤは、一言『はーい』とだけ返信をし、携帯をポケットにしまった。

「……さて。姉さんもお腹をすかせてるだろうし。早く帰ってご飯を作ってあげないとね」

 家事のほとんどは、ビャクヤが行っていた。

 ツクヨミが怠惰なため、家事をやらないわけではなく、彼女は彼女で、在宅の仕事をしているために家事にまで手が回らないのである。

 ツクヨミは、ビャクヤと姉弟を演じつつも、近所にはビャクヤの保護者として認識されているので、生活費を稼いでいる様子を見せるために、そのような仕事をしていた。

 家の外に出ているのはビャクヤであるため、立場としては逆ではあるが、ツクヨミが生活を支える旦那であり、ビャクヤはそれを助ける妻のようなものになっていた。

「最近姉さん野菜不足だからなぁ。今日は野菜たっぷりのスープでも作ってあげようかな? 姉さんセロリが嫌いだって言ってたけど。ちゃんと食べてもらえるように味付けを……」

 ビャクヤが、独り言と共に今晩の献立を考えていると、何かの影が街路樹の間を飛んだ。

 それは、ビャクヤの視界ギリギリに写っていた。

ーー今何か飛んでいったね。虚無? それとも……ーー

 ビャクヤは、周囲の気配を探った。

 空を飛べる能力を持つ『偽誕者』など今までに見たことも聞いたことも無いため、ビャクヤは、飛んでいたのは虚無であろうと思っていた。

 案の定、感じた気配は虚無に近いものだったが、虚無にしては妙な顕現を持っていた。

ーーこの感じ……いや。匂いだね。虚無に違いないんだけど。どうしてだろう? 『偽誕者』ともよく似てるーー

 虚無であれば、ビャクヤを狙ってすぐにでも襲ってくるはずだが、一向に攻撃をしてくる気配がなかった。

 まさか、意思を持った虚無が存在するのか、ビャクヤの脳裏にそのような考えが過るが、有り得ないと首を振る。

「なーんか見えたなぁ?」

 ビャクヤは、定かではない相手を暴くべく、わざと大きな声を出して後ろを振り返った。もしも相手が『偽誕者』であれば、隠れているのがバレたと思い、何らかの動きを見せるだろうと思われた。

 しかし、その何者かは、動きを全く見せなかった。

 ビャクヤは、街路樹の葉の中に潜む何かを見つけた。全容は定かではないものの、眼と思われる二つのものが、赤く、妖しく光っていた。

「ねえ。そこにいるんだろ? 出ておいでよ」

 ビャクヤは呼びかけるものの、やはりその何者かは動かない。目が合っているにも関わらず、うまく隠れているつもりのように見える。

「おーい。隠れてるのは分かってるんだ。大人しく出てきなよ」

 ビャクヤは、再度呼びかけるが、やはり赤い輝きは、ビャクヤを見据えたまま微動だにしない。

ーー虚無の気配に間違いないんだけど。それにしては変だね。虚無なら。人間を見つければすぐに食らい付いてくるのにーー

 虚無と思われる何かは、相変わらずビャクヤに眼光を向け続けている。

「おっかしいなー。見間違いだったのかな?」

 ビャクヤは、このままでは埒が明かないと思い、別の策に出た。

 これまたわざと大きな声で意思表示し、ビャクヤは眼光に背を向けた。もしも相手が、隠れて襲いかかるチャンスを窺っているのだとしたら、まさにこの瞬間に襲いかかるだろうと考えたのだ。

ーーさて。どう出るかな?ーー

 ビャクヤは、鉤爪に反射する敵の眼光を探る。しかし、樹上に隠れる何者かは、全く襲いかかる気配を見せなかった。

ーー一体何なんだろう?ーー

 ビャクヤは、鉤爪に写る眼光から目を逸らさず、そのまま歩き出してみる。それでもそれは動こうとしなかった。

 そのままビャクヤは、振り返ることなく歩き続け、やがて鉤爪に眼光が写らない位置までたどり着いた。

 それまでずっと、虚無と思われる謎の者は、一度たりともビャクヤに襲いかかる様子を見せなかった。ただひたすら、ビャクヤの姿を真っ赤な眼で見ているだけであった。

 それからビャクヤは、『夜』の外へと出た。

ーー何だったんだろう? 襲われるなら倒すからいいけど。ただ見ていられるだけっていうのは気味が悪いね……ーー

 こうして『夜』を抜けることで、辺りにはもう虚無の気配はなくなった。

「まあいいか。さっさと帰って姉さんのご飯を作らなきゃね」

 ビャクヤは、鉤爪を消し、帰路に着いた。

 その背後には、暗闇に蠢く何かがいた。『夜』の外に出てもなお存在し続けるそれは、漆黒の身体を真っ暗な空に溶け込ませ、空を進んでいく。

 ビャクヤは、全く気が付いていなかった。虚無の身にありながら、ビャクヤほどの虚無喰いに気付かれないような気配、匂いの消し方を持っていた。

 しかし、それはまるでビャクヤを襲う素振りを見せない。ただゆっくりと、ビャクヤの後を追うだけだった。

 やがてビャクヤは、自宅へと帰り着く。帰宅してすぐに向かったのは、ツクヨミの部屋である。

「ただいまー。姉さん。ご飯まだだよね? 今夜は野菜スープに……て。あれ?」

 ツクヨミの部屋は暗かった。彼女が仕事に使っているノートパソコンのディスプレイの明かりしか、部屋を照らすものはなかった。

 部屋の主であるツクヨミは、机に突っ伏して眠っていた。書類を机のあちこちに散らし、携帯も放られていた。

「まったく。こんなところで寝ちゃって……おーい。姉さーん」

 ビャクヤは、ツクヨミの肩を揺さぶった。

「……ん、んん……」

 ツクヨミは、起きる気配がなかった。

「やれやれ……しょうがないなぁ」

 ビャクヤは、机の上に散らばった書類をまとめるついでに眺めてみた。

 夜目の効くビャクヤは、書類の文字を見ることはできるものの、意味はまるで理解できなかった。

「ダイ? ディ? 一体何語なんだいこりゃ?」

 ツクヨミがしていた在宅の仕事は、翻訳である。ドイツ語で書かれた記事や小説、エッセイ等を日本語へと翻訳する、または逆に、日本語の作品をドイツ語にするという仕事である。

 まだ中学生であり、英語もまともに勉強できないビャクヤに、読めるはずがなかった。

 しかし、書類の右端に書かれている数字だけは理解できた。それはどうやら、年月日を示す数字のようだった。

 それを見るに、〆切の日のようで、その日にちはもう明日に迫っていた。

「だから最近パソコンに付きっきりだったのか。まったく。無計画な姉さんだね。こういうのは計画的にやらないと」

 怠惰で宿題を溜めがちだったビャクヤは、姉によく言われてきた。姉とは、ツクヨミの事ではなく、死別した姉さんの事である。

ーー姉さん。か……ーー

 あの日の事故で、ビャクヤは最愛の姉を亡くした。

 ツクヨミは、姉さんと生き写しとまではいかないがよく似ている。姉さんが生前に着ていた制服を着てくれるようになってから、ツクヨミはより姉さんに似るようになった。

 しかし、ビャクヤは最近、ツクヨミと姉さんの違いを思い知らされるようになっていた。姿形こそ似ているが、やはり姉さんとの差はあった。

 ツクヨミは、姉さんに比べれば言葉遣いがきつく、ビャクヤにべったりということはない。

 こうして、翻訳の仕事をしているところを見ると、頭の良さは同じである。しかし、当然ながら姉さんはドイツ語は使えなかった。

 いつぞや、『光輪』の紅騎士を名乗る『偽誕者』ワーグナーと戦い、彼女を下した後、ツクヨミは流暢なドイツ語を話していた。まるでそれが生まれもって親しんできた言葉であるかのようだった。

ーー姉さんは何者なんだろう? 会ってから一度も。本当の名前を教えてくれたことはないし。いや。何を考えているんだ僕は。姉さんは姉さんじゃないか。僕の好きな。世界で一番愛している人じゃないかーー

 ビャクヤは、自らに言い聞かせる。しかし、ツクヨミは姿形が似ていても、姉さんとはやはり違う。

ーーStrix von Schwarzkeit(ストリクス・フォン・シュヴァルツカイト)ーー

 ふと、ビャクヤの脳裏に、彼にとっては呪文のように聞こえる言葉が過った。

「なんだい。これは……?」

 同時にビャクヤは、めまいを感じる。

ーーZohar Shnee Darland(ゾハル・シュネー・ダーラント)ーー

 畳み掛けるように謎の言葉はビャクヤを惑わす。

ーーOhga Zweid(オーガ・ツヴァイト)ーー

「やめてくれ!」

 ビャクヤは、思わず声を上げてしまった。すると、ビャクヤを苦しめていた言葉はすぐに止んだ。

「おっとと……」

 ビャクヤは、口に手を当て、ツクヨミを見た。思わず大声を上げてしまい、ツクヨミを起こしてしまったかと思った。

 しかし、ツクヨミは、変わらず安らかな寝息を立てていた。それを見てビャクヤはひと安心する。

ーーさっきのは何だったんだろう? ストリクスなんとか。とか。ゾハル。オーガ。なんか前にも聞いたことがあるような……ーー

 ビャクヤは、曖昧な記憶をたどるが、思い出せない。だが、ゾハルという言葉は妙に引っ掛かっていた。

「ゾハル……ゾハル……はっ……!?」

 ビャクヤの脳裏に、少し前にあった出来事が浮かんだ。

 ツクヨミと一度、喧嘩別れした時の日の夜、悪夢を、予知夢を見て、『夜』へとツクヨミを探しにいった。

 そしてツクヨミを見つけた時、彼女は真っ白な頭で、眼鏡姿の女に襲われかけていた。

 ビャクヤは、顕現の糸を放ち、その女を拘束した。その後は、女の金切り声のせいで辺りの声がよく聞こえなかったが、ツクヨミは確かに叫んでいた。

ーー思い出した! あの時のセミ……!ーー

 非常に耳障りな金切り声を上げ、身をよじる度に糸が体に食い込み、血を流す様を見て、ビャクヤは、蜘蛛の巣に引っ掛かった蝉のようだと思っていた。

 その時に、ツクヨミは、『ゾハル』と叫んでいた。

ーーということは。ゾハルっていうのは。あのセミ女の名前かな? すると。さっき浮かんだのは。人の名前?ーー

 ビャクヤは、一つの考えにたどり着いた。もしも先ほど頭に響いた言葉が、ツクヨミに関する人物の名前であるのなら、ツクヨミの本当の名はどちらか、ということになるのではないか。

 オーガ、というのは違う気がした。となれば残るは一つ。

ーーストリクスーー

 ビャクヤは答えにたどり着いた。

「……これが姉さんの。本当の名前?」

 確信を得るにはまだ弱い気がするが、流暢なドイツ語を操れることを考えると、ツクヨミは外国の生まれである可能性が高い。

「だけど。どうして急に……」

 ツクヨミの本当の名と思われるものが、何故、何の前ぶりもなく浮かんだのか。その問いの答えには至れない。

「ん。これは……!?」

 ビャクヤは不意に、顕現の気配を感じた。それと同時に、強烈な視線も感じる。

 それらを感じるのは、窓の外、数件離れた所にある家の屋根の上。闇夜にその身を溶け込ませてビャクヤを凝視していた。

 この顕現の気配には十分覚えがあった。ほんの少し前、いつものように虚無を捕らえ、顕現を食していた時に現れたあの気配であった。

ーーバカな。ここは『夜』の外のはずじゃないか。どうして虚無がこんな所まで来ているんだい?ーー

 虚無が自らの意思によって『夜』の外に出るなど、『夜』の存在を知って日の浅いビャクヤであったが、あるはずはないと思っていた。

 更に挙げれば、『夜』の入口となり得るのはほとんど決まった場所であり、どこでも『夜』となることもない。故に、ビャクヤの自宅付近が『夜』になったわけではない。

 いよいよ相手が、ただの虚無ではないと思われるようになってきた。自ら『夜』から抜け出し、現実へとやって来た虚無は、最早『偽誕者』とそう違いはない。

 しかし、『夜』を抜け、わざわざビャクヤの住居の近くにやって来た謎の虚無は、やはり襲いかかる様子はなく、その真っ赤な眼光をビャクヤに向けるだけである。

「う。うぐっ……!」

 突如としてビャクヤは、体に異変を感じた。全身が熱くなり、鼓動が速くなった。

 胸を打つ鼓動は、速さのみならず強さも高まり、まるで胸から心臓が飛び出そうとしているかのようだった。

ーー暴れ……ている? 僕に。宿る。顕現の獣が……ーー

 虚無を捕食するための鉤爪が、ビャクヤの意思に反して顕現した。

ーー捕、不逃、食ーー

 言葉に表れない意思が、ビャクヤの中を駆け巡った。

「……ぐっ! 体が。勝手に……!」

 飛び出しそうなほどの激しい鼓動を感じ、身動きの取れないビャクヤであったが、いつも自分の手足として扱っている鉤爪に、逆に操られるように引き摺られた。

 鉤爪が独立して意思を持っているかのように、外にいる特異な虚無に向かって伸びた。

 虚無は、しばらくそのまま静観していた。そして翼を広げて飛翔し、夜空へと溶け込んでいった。

ーー逃亡ーー

 声無き意思がビャクヤに伝わると、全ての異常事態は終息した。

 ビャクヤは気絶していた。彼の体は、余りに突然の顕現の暴走に対応できず、酸欠状態になったのだった。

    ※※※

 目蓋を射す日の光に、ツクヨミは目覚めた。

「……んん、あれ、私ったら、いつの間に寝て……?」

 次第にはっきりしていく意識の中で、昨晩の事を思い出す。

 次の日に、もう今朝がそうであるが、迫った原稿の提出期限に向けて、急いで原稿を仕上げた。データは完成と同時に編集担当者に送信してある。

 この数日間徹夜続きであったため、原稿データの送信が完了すると同時に、ツクヨミはそのまま、眠り込んでしまったのだった。

 机に突っ伏して寝ていたため、ツクヨミは少し肩凝りを感じていた。

「やだ、顔に寝あとが……」

 ツクヨミは、机の上の鏡を覗き込む。そして鏡に写る自分以外の姿が、床に転がっているのを見つける。

「ビャクヤ!?」

 ツクヨミは、椅子から立ち上がって振り返った。

 ツクヨミは、どうしてビャクヤが自分の部屋にいるのか、という疑問もあったが、尋常ではない様子で倒れている彼に驚いた。

「ビャクヤ、ビャクヤ! しっかり……!」

 ツクヨミは、ビャクヤを揺さぶった。

「……ん。うーん」

 ビャクヤに息はあった。

「……なんだ。まだ朝じゃないか。もう少し寝かせて……」

「起きなさい! 人の部屋で何を二度寝しようとしているの?」

「……姉さんの部屋? あれ。どうして僕こんなとこで寝てたんだろ?」

 ビャクヤは、むくっ、と体を起こし、辺りを見回した。

「あいたたたた……床で寝てたからかな。体が痛くなっちゃったよ」

 ビャクヤは、肩に手を当てて首を回した。

「……体に異常はないようね。何があったのか教えてくれるかしら?」

 ビャクヤが無事であったことに、ツクヨミはひとまず安心する。

「うーん。なんだっけなー。なんかすごいことがあったような気がするんだけど……」

 ビャクヤは、昨晩の記憶が少し抜け落ちていた。そんな中、残っていた事が一つだけあった。

「んー。ストリクス? ストリクスなんたらかんたらって。何かから聞いたような?」

「えっ……!?」

 ツクヨミは、不意に名を呼ばれたように驚いてしまった。

「んー? 姉さん。何をそんなに驚いてるんだい?」

「……いえ。何でもないわ。あなたの口から外国人の、それも女性の名前が出たものだから、つい驚いてしまったわ……」

「え。これ人の名前なのかい? 僕が夢で聞いた。呪文のような言葉なんだけど」

 ツクヨミは、しまったと思った。自分にとって、非常に馴染み深い名前であるために、余計なことを口走ってしまった。

「そ、そうね。たまたま今回の仕事の原文に、ストリクスという名前の人がいたから……」

 ツクヨミは、外国の文献を扱う仕事を盾に、上手く話をはぐらかした。

「それよりも、眠る寸前の事が思い出せないのなら、その夜の事くらいは覚えているはず。ビャクヤ、昨日も『夜』に入っていたでしょう?」

 ツクヨミはその後も、半ば強引に話題を変えた。

「うーん。そうだね。変わったことか。変わったこと……」

 ビャクヤは、『夜』に行っていた時の記憶も朧気であった。しかし、落ち着いて考えていると、記憶がだんだんとはっきりしていった。

「そうだそうだ。思い出したよ。すっごく変な奴に会った。いや。目を付けられたって所かな?」

「変なやつ?」

「うん。とんでもなく変な奴だよ。姉さん。気配は虚無そのものなんだけど。どこかおかしい感じなんだ」

 ビャクヤの言葉は抽象的すぎて、ツクヨミは要領を得られない。その様子を察したビャクヤは、実際に何があったのかを語る。

「奴は木の上にいたんだ。いや。隠れてるつもりだったのかな? あまりにもバレバレなものだったから。僕の方から声をかけたんだ。けど。ちっとも動くようすがなくてね。ただの虚無だったら。声なんてかけるまでもなく襲ってくるよね? けど。奴は襲ってはこなかった。何をしても。ずっと僕を見てるだけだった」

 ビャクヤは、隠れて様子を見ているらしい虚無に、わざと背を向けたりもした。しかし、虚無は一切の手出しをしなかった。

「それから。もう一つ変なところがあったよ。虚無に違いないんだけど。『偽誕者』の感じもあったんだ」

 ビャクヤの話を聞いていて、ツクヨミはもしや、と考えていたが、虚無の気配をしながら『偽誕者』の感じもするという彼の言葉から、確信に近い考えにたどり着いた。

ーーまさかゾハルが? いえ、でも……ーー

 『虚ろの夜』の核である顕現の泉、『深淵』のもたらす強い顕現にあてられたゾハルは、虚無に落ちることはなかったものの、その体はほとんど虚無のものになっている。

 ひたすらに顕現を求め、暴れまわる内に虚無化が進んでいるのだとしたら、ビャクヤの言うような状態になっている可能性はあった。

 しかし、ビャクヤを付け狙っていたのがゾハルだとして、不可解な事がある。ビャクヤの姿を見るだけで、襲いかかる様子がまるでなかったという事である。

 ゾハルは、ビャクヤと対峙した時、致命傷に近い深傷を負い、自我がほとんど欠落している状態にありながら、本能的に逃走することを選んだ。

 今もまだ生き残っていたとして、虚無落ちが進んだ状態でビャクヤの様子を窺うだけに止まっているのが不可解である。もしも虚無に等しいまでに変貌していたのであれば、ビャクヤを見つけ次第襲いかかるものだと思われた。

「おーい。姉さん? どうしたんだい。急に黙りこくってさ?」

 ビャクヤの問いには答えず、ツクヨミ、パソコンで調べものを始めた。

 検索エンジンを通して、ツクヨミは月齢表を開いた。今日より二日後の夜、満月を迎える。

ーー満月より七日間、『虚ろの夜』はやってくる。『夜』の核たる『深淵』が現れれば、必ず『眩き闇』も動くはず。ゾハルはあの女の命を狙っている。あの女が動くのならーー

「姉さーん。聞いてる?」

「ビャクヤ、これからあなたに大仕事をお願いするわ。いいわね?」

 ビャクヤは、少し面食らった様子を見せる。

「なんだい? 急に黙ったり。かと思えばパソコンを見たりしてさ。一体何を考えてるのさ?」

「……これから頼むのは、私たちの契約の遂行よ。私はあの子を探す。そしてあなたはその過程で、私に仇なすもの全てを排除する」

「何を今さら。そんなの。これまでの『夜』でやって来たじゃないか」

 ビャクヤは、ツクヨミの意図が掴めずにいた。

「これまで行っていた『夜』と全く同じだと思ったら大間違いよ、ビャクヤ。あなたほどの力の持ち主でも、足を掬われる事は大いにあり得るわ」

 顕現が満ち溢れる『深淵』の出現する『虚ろの夜』は、様々な強者の入り乱れる場所となる。

「あなたに頼みたい大仕事。それは『忘却の螺旋(アムネジア)』の総帥、『眩き闇(パラドクス)』の討伐よ」

「アムネジアなら知ってるけど。パラドクス? っていうのはなんだい?」

「深く知る必要はない。あなたはあの女をその爪で殺せばいい、それだけよ」

 紅騎士ワーグナーとの戦いから、ビャクヤと手を組んで行ってきた殺生の足が付かないように、これまで慎重に動いてきたツクヨミにしては、急であり過激な発言であった。

「ふーん。まあ。そのパラドクスとかっていうのを殺すのは構わないけど。それが姉さんの目的とどう繋がるのかな?」

「全ては、『眩き闇』を倒せば分かること。確実とは言えないのだけど。ビャクヤ、二日後、明後日の夜に『虚ろの夜』がやって来る。その時まで『夜』に行くことを禁止するわ」

 ビャクヤは驚愕する。

「ちょっと。それって顕現の食事をするなってこと!? 飢え死にしちゃうよ!」

「たかだか二日我慢すればいいだけのことでしょう? それに、あなたの顕現の捕食は、直接生命活動に関わる類いのものではないはず」

「そ。それはそうだけど……」

 ビャクヤにとっての顕現を喰らうことは、ツクヨミの言う通り生命活動を維持するためのものではなかった。

 彼にとっての捕食とは、言うなれば、アルコールやニコチンを摂取するようなものであり、生きていくのに必須のものではなかった。

 しかし、性質もそうした嗜好品と同じであるかのように、ビャクヤは、顕現が長期間摂取されないと体に不調をきたすようになっていた。

 これは、ビャクヤの能力の元となる、顕現の獣が、顕現を欲するためであった。

「どうしたの。何か問題があるのかしら?」

「……いや。確かに飢え死にしちゃうのは言い過ぎだ。けど。顕現の欲求を満たせないと。別の欲求として。満たさずにはいられなくなるんだ」

「別の欲求? まさか……」

 ツクヨミは、ふと考える。

 生き物を生き物たらしめる欲求は三つあるが、この場合を考えるに、実質二つしかない。

 食欲が満たされないということは、生存本能として性欲が強く出る事がある。

ーーまさか私を……?ーー

 ツクヨミは、ドキドキし始めていた。

「姉さん……」

「な、なにかしら……!?」

 物欲しそうな顔で迫ってくるビャクヤに、ツクヨミは驚きを隠せなかった。

 ビャクヤは、そのままツクヨミの肩を掴んだ。

「っ!?」

 ツクヨミは、そのまま押し倒されるかと固く目を瞑る。

「……顕現を喰らえないと思ったら。すごくお腹が減ってきちゃったよ。言いつけは守るから。ご飯を作ってくれるかい? 超大盛でね」

 顕現を捕食しない事による、ビャクヤに表れる不調とは、異常な食欲であった。

 生来、食の細いビャクヤであったが、『虚ろの夜』にて虚無に襲われ、『偽誕者』となった途端、いくら食べてもなかなか満たされないほどの食欲がわくようになっていた。

「それ、だけ……?」

 ツクヨミは、このままビャクヤに襲われる覚悟をしてしまっていたため、拍子抜けしたように言う。

「それ以外に何があるって言うんだい? ほら。早く。お腹と背中がくっついちゃうよ」

 ビャクヤは、ツクヨミの肩から手を離し、待ちきれないとばかりに部屋を出てキッチンに向かっていった。

 その後、ビャクヤはおおよそ少年の、いや、大人の男の一日の食事量と比べても標準とは思えないほどの食事をした。

 買い置きしてあった食材は全て食べつくし、十キログラムの米も平らげてしまった。

「ふうー。やっと半分くらいかなー」

 ビャクヤは、皿に米粒一つも残さず食べきると、匙を置いた。

「これで半分……?」

 ツクヨミは、食器を洗いながら、最早言葉が出なかった。

 一週間分の食事の料理を一気にさせられ、疲れと呆気にとらわれていた。

「さてと。それじゃあデザートの時間だね。姉さーん!」

「……もう何もないわよ。まだ足りないと言うのなら、後は自分で何とかなさい」

「えー。しょうがないなぁ……」

 時間は既に夕暮れ時であった。

 なかなか満たされる事の無い飢えを凌ぐための食事であったが、ビャクヤは、ツクヨミの用意してくれる料理一品一品を味わって食していた。

 故に、食事の時間だけでこのような時間になってしまっていた。

「うーん。この時間なら。あっちのスーパーで安売りが始まる頃かな? よし。行ってこよう! 姉さん。何か欲しいものはあるかい?」

「いいえ、私は結構よ……」

「そうかい? それじゃあ僕は行ってくるよ」

 ビャクヤは、更なる食事を求めて出かけていった。

 ツクヨミは、ビャクヤが食べ終えた料理の食器をシンクに放り込むと、ダイニングテーブルを前に、倒れ込むように座った。

 今日、この時の食事を作るのに、かかった費用は、およそツクヨミの仕事一回当たりに貰える給料の三割に達するほどだった。

 もしもビャクヤが、普段からこれほどの異常な食欲を持っていたら、とツクヨミはふと考えてしまう。

ーー家計が火の車、などとは生ぬるいわね。家計が火達磨、いえ、真っ白。すぐに燃え尽きて灰になるわ……ーー

 ツクヨミは、まだまだシンクに溜まった食器の山を一瞥すると、テーブルに突っ伏すのだった。

 両手にお菓子のたくさん入った買い物袋を提げ、ビャクヤはスーパーから出てきた。

「いやー。ちょうどタイムセールがやっててよかった。おかげで今日の夜のおやつにも困らないね」

 ビャクヤは、さっそく袋から菓子パンを出して咥えた。

「やっぱり。姉さんの料理に比べたら。味は劣るね。まあいいか」

 買い物をするために家を出て、スーパーで買い物を終えて帰路に着くまでに、日はすっかり傾き、辺りは宵闇に包まれていた。

 今からであれば、『夜』へと赴き、虚無を狩ることはできた。

 普通の食事では、なかなか飢えを満たせないビャクヤは、近くに迫る『夜』、顕現の気配に引き付けられそうになるが、我慢した。

ーー姉さんとの約束を破ったら。姉さん怒るだろうな。食事の用意だってしてくれたじゃないか。今日のところは我慢だ。我慢……ーー

 顕現の誘惑を、咥えた菓子パンの味で振り払い、ビャクヤは家路を急いだ。

 すると次の瞬間、ビャクヤはものすごい虚無の気配を感じ取った。

「この気配……この匂いは……!?」

 ビャクヤにとって、忘れられるはずがなかった。

 ビャクヤに迫り来る気配、それは昨夜、ビャクヤを付け回し、ついにはビャクヤの中の顕現の獣を暴れさせるに至った虚無のものであった。

 ビャクヤは辺りを見渡す。ビャクヤの周辺に人はいないものの、少し離れた場所に位置する、さっきまで買い物をしていたスーパーの周りには人だかりがあった。

 ここがもし『夜』の中であれば、人の気配はなくなるはずである。それにビャクヤは、『夜』に入った瞬間に感じる衝撃も受けていない。

ーー僕ともあろう者が。知らないうちに『夜』に入るなんてあり得ない。ということは。奴はやっぱり。自分から『夜』から出てくるって事みたいだね……ーー

 ビャクヤは、更に周囲を探ってみた。強烈な顕現の気配を辿り、それの位置を突き止めた。

「いた……」

 それは、漆黒の体を夜空に溶け込ませ、赤く光る眼光らしきものをビャクヤに向けていた。

 ビャクヤは、眼光を向ける謎の存在と相対した。最早それは、隠れるつもりがないのか、ビャクヤが完全に正面に捉えても動きを見せなかった。

「ねえ。一体何のつもりなんだい? こそこそと。まあ。隠れられてないけど。付け回してくれちゃってさ」

 相手が虚無であるならば、このような問答をしたところで返事があるはずがない。しかし、ビャクヤの眼前にいる存在は、虚無に違いない匂いを放っているが、やはり、『偽誕者』と似た気配を携えている。

『…………』

 異形の存在は、一声も発しない。唸り声すら発せず、ただ静かにビャクヤに眼光を向けるだけである。

「……姉さんに虚無を狩るな。って言われてるけど。もう我慢ならないね。虚無がどうやって『夜』の外に出てきてるのか知らないけど。そうまでして僕を喰らいたいって事なんだろ? あいにく。僕も大人しく喰われてやるつもりはない。それに……」

 ビャクヤは、買い物袋をその場に放り、背中に鉤爪を顕現させた。

「……やっぱり。食事は顕現に限るんでね!」

 ビャクヤは手を広げ、投網のような顕現の糸を放った。

 異形の影は、翼を広げて空を飛び、ビャクヤの糸をかわした。そしてそのまま空を滑るように進み、ビャクヤに向かってきた。

「やっとその気になったようだね。すぐに喰らってあげるよ」

 ビャクヤは、飛びかかって来る虚無を串刺しにするべく、鉤爪の先を全て上に向けた。

「貫け!」

 鉤爪は一瞬にして倍以上に伸長し、上空の虚無を突き刺して落とそうとした。

 しかし異形の虚無は、ビャクヤに襲いかかってくるかと思いきや、そのまま上空を飛び去っていった。

「逃さないよ!?」

 ビャクヤは、糸を放って虚無を捕まえようとした。しかし、糸は僅かに虚無へとは届かず、虚無は闇夜の中に消え去っていった。

「逃したか……」

 ビャクヤは、小さく舌打ちした。

 一度ならず二度までも、『偽誕者』のような雰囲気を纏う虚無はビャクヤの前に姿を現し、そしてやはり、襲い来る事なくどこかへと消えていった。

 ビャクヤは、いよいよ虚無の目的が分からなくなっていた。

 虚無は顕現を求め、本能の赴くままにそれを喰らう。それだけの存在のはずであるのに、例の虚無は、自ら『夜』の外へと抜け出し、ビャクヤに執拗に付き纏っている。

 そうまでしてビャクヤの顕現を喰らいたいのかと思いきや、こうして遭遇する度に、じっくりと観察するような様子を見せ、そして逃げていく。

 ビャクヤは、苛立ち始めていた。

「鬱陶しい上に腹立たしいね。今だって。やる気に見せかけて逃げてったしね……」

 ビャクヤの苛立ちの原因は、顕現を喰らえない事による空腹でもあった。

 かなりの顕現を携える虚無を目の前にし、ビャクヤに宿る顕現の獣も黙ってはいなかった。顕現を求めてビャクヤの空腹感を増強する。

 ビャクヤは、先ほど地に放った買い物袋を拾い上げ、中から潰れたケーキを取り出し、それを二口で食べた。

 ビャクヤはそのまま、狂ったように買ってきた菓子をむさぼり続ける。一リットルのジュースを一息に飲み込むと、ようやく空腹感は僅かながら和らいだ。

ーー『虚ろの夜』。明後日の夜。だったかな? 姉さんが言っていたのは……ーー

 ビャクヤは、口の周りを乱暴に擦り、手に付いたクリーム等を舐める。

「……いいねぇ。決めたよ。そっちがどういうつもりかは知らないけど。僕は逃すつもりはないよ。喰らってあげよう。その肉体()ごと。綺麗さっぱり。残さずにね!」

 

 Chapter12 永劫の七日間(Seven Days Immortal)

 

 その日も暮れ、『夜』がやってきた。

 夜空には、一つの欠けもない満月が、煌々と闇夜を照らしている。

 顕現の捕食者(プレデター)、ビャクヤとその主、ツクヨミは、日が傾くと同時に家を出て、『夜』の入り口となる場所を目指した。

 ツクヨミにとっては、久方ぶりの『夜』への訪れであった。此度に『夜』に赴いたのは、『光輪』の紅騎士ワーグナーとの接触以来の事である。

 金色に煌々と輝いていた月は、ビャクヤたちが『夜』に入ると、真っ赤に変色し、かすかにかかる霧を赤く照らし、周囲を不気味な様相にしていた。

 そんな不気味な空間にも関わらず、人、『偽誕者』であるが、それの気配は方々に散り、虚無の気配は、八方を塞ぐように点在していた。

「へえ……」

 これまでも何度となく足を踏み入れてきた公園に差し掛かったところで、ビャクヤは、感嘆の声をあげた。

「これが姉さんの目指していた。『虚ろの夜』なんだ……」

 予想に反して人が多い、とビャクヤは思った。顕現が最も満ち溢れる夜だと言うからには、人よりも虚無が群がって互いに喰らいあっている。そんな風景を予想していた。

「もっと怖いお兄さんだらけの。そんな地獄絵図を想像してたんだけど……」

 ビャクヤは、歩きながら伸びをすると、頭の後ろで手を組んだ。

「これなら。いつも通りの僕で大丈夫かな?」

「ビャクヤ、油断はしないこと。これから目指す先は、『虚ろの夜』の核である顕現の泉『深淵』……」

 ツクヨミは、辺りの気配に気を付けつつ、ビャクヤに注意した。

 これまでも二人は、突発的に発生する小さな『夜』に向かっては、それを構成するだけの『深淵もどき』を見つけ、そこである目的を果たさんとしていた。

「今夜から始まる『虚ろの夜』は、紛れもない、本当の『深淵』が出現する。そこに宿る顕現は、今までの『深淵』の偽物とは比べ物にならない量よ。虚無、『偽誕者』問わず彼らは『深淵』の顕現を求め、集い、そして一様に果てていく。まるで蠱毒のように、ね……」

 ビャクヤは、乾いた笑い声をあげる。

「ハハハ。そこは無理にでも。誘蛾灯とか。もう少し優雅な表現をしてほしい」

 ツクヨミは、くだらない洒落だと一蹴する。

「精々あなたのその甘さが、命取りにならないことを祈るわ。……邂逅の運命。その扉が、私の前に開いているのなら、その先にきっと『あの子』がいるはず」

「んー。だから何度も訊いてるけどさ。結局姉さんの目的ってのはなんなのさ?」

 ビャクヤは、眉根を寄せて口を尖らせる。

「『あの子』って人を捜している以外なーんにも分かんない。二日も顕現の食事を禁止させた上に。こんな物騒な『夜』に付き合わせているんだ。そろそろ教えてくれてもいいじゃない?」

 ツクヨミは、目付き鋭く、答えを否とした。

「ええ。それは何度も答えているはず。あなたが知る必要はない、と。あなたは、私を守るための爪。私たちはそれだけの関係であるべきなのよ……」

 ビャクヤに向けた言葉であるが、ツクヨミは自身にも言い聞かせる。

 ビャクヤに情を持ってはいけない。持てば、互いにとって必ず悪いことが起こる。ツクヨミはそう思い込むのだった。

 そんなツクヨミの気持ちを知る由もないビャクヤは、やはり口を尖らせる。

「ちぇー。黙って働くのもモチベーションがさ。ろーどーいよくって大事じゃない? こういうのに」

「あら、奴隷にそのようなもの必要かしら。それに、私と共に来る事が、かなりの劣悪環境だということ、最初から分かっていたのではなくて?」

 ビャクヤは、観念したようにため息をついた。

「はいはい。そうでした。分かっていましたとも。考えてみれば。姉さんと一緒にいられる。それだけで僕にとっては。十分すぎる報酬だったよ」

 ツクヨミはふと、立ち止まった。ビャクヤは更に数歩進んでから気付き、足を止めてツクヨミを見る。

「姉さん? どうしたんだい」

 ツクヨミは、すまなそうな目をしていた。

「……ビャクヤ。頼むわね。私にはもう、あなたしかいないのだから……」

 ツクヨミがかつて所属していた能力者集団、『万鬼会』が『忘却の螺旋』によって潰された事で、ツクヨミは多くの仲間を失った。

 仲間は多かったが、ツクヨミが本当に心を許せていたのは、今もこうして捜している『あの子』、ゾハルであった。

 もう一人、よく一緒にいた仲間、『鬼哭王』オーガがいたが、『忘却の螺旋』との戦いに果てている。

 ゾハルとは、『万鬼会』発足以前よりの親友であった。『深淵』の顕現に侵され、最早元に戻る希望は無いものに等しいが、せめて、親友として終わらせてやりたい。それがツクヨミの、ただ一つの願いであった。

「何を今さら……」

 ビャクヤは、微笑んでいた。

「我が顕現は。貴女よりの贈り物。全ては。姉さんのためにあるのだから。たとえこの身が朽ち果てようとも。姉さんに襲いかかる全てを。この爪が捕らえ。喰らうから……」

 ビャクヤは前を向く。

「さあ。お喋りはこの辺にして進もうか。僕はどうってこともないけど。この空気。今の姉さんにはよくない。先を急いだ方がいい」

 ビャクヤの言う通り、今回の『虚ろの夜』には、『深淵』の顕現が方々に散っていた。

 まだ『深淵』までは距離があるものの、鼻を貫き、喉を突き刺すような、思わずむせ返るほどの異質な感じがする。

 『器』の割れているツクヨミがこの空気に曝されていれば、虚無に落ちるまでは行かないまでも、体の一部を毒される可能性は十分にあった。

「……そうね。ビャクヤ、今宵の私たちの目的は、『深淵』の側にいるであろう、『眩き闇』。できるだけ無駄な戦闘は避けていきましょう」

「そうだね。パラドクス? って言ったっけ。そいつの顕現残さず食べられるなら。雑魚を喰らってうっかり。お腹いっぱいにならないようにしないとね」

 ツクヨミは、ビャクヤの答えが意外に思った。

「ん。どうしたんだい。姉さん? 何をそんなに驚いてるのさ?」

「いえ。あなたにしては妙に聞き分けがいいと、そう思っただけよ」

「失礼だなー。僕はいつだって。姉さんの言いつけは守ってきたじゃないか。この二日間。姉さんの言う通り。顕現を喰らうのを我慢したしね」

 ビャクヤは、ツクヨミの言うことには基本的に従ってきたが、必ず一言二言、文句の言葉が伴っていた。

 今この瞬間も、辺りに漂う虚無の顕現を喰らえない事に口を尖らせるかと思われたが、ビャクヤは微笑を浮かべて、一切文句を言わない。

ーー何か企んでいるのかしら?ーー

 ツクヨミは思うのだった。

「おや。ここは?」

 二人は、とある場所にたどり着いた。

 黒焦げになった街路樹が倒れ、辛うじて立っていられた木に、立ち入り禁止の黄色いテープが巻き付けられている。

 二人にとって、記憶にとても鮮明な場所であった。

「ここ。あの時の。リヒトなんとかの。三下騎士だっけ?」

 戦いの記憶はあったものの、ビャクヤの言葉は何一つ合っていなかった。

「……『光輪』の第四位。紅騎士ワーグナー、でしょう?」

「そうそう。それそれ! 姉さんよく覚えてるねぇ。あんなに横文字だらけの名前で。いかにもその手の趣味の人が好みそうな格好してたのに」

「…………」

 ツクヨミは、一応辺りの気配を探ってみた。

 ここは、以前の『夜』にて『深淵もどき』が発生していた場所である。その上ワーグナーに焼かれた木々は、現実にも焼けた姿で見つけられるほどに顕現の影響を受けた。

 しかし、今はもう『深淵』の気配は露ほどもない。それは、ここより更に、先に進んだところにあると思われた。

「もしかして、と思ったけど、ここは違うようね。『深淵』はまだまだ先。ビャクヤ、先を急ぎましょう」

 はいはい。というビャクヤの返事と共に、二人は『夜』の更に奥へと行こうとした。その時だった。

「おい、お前ら!」

 何者かの声が、ビャクヤたちを引き止めた。

 二人は、さして驚く様子もなく、後ろを振り返った。

「怪しい連中だな。学生が制服のまま、こんな時間にこんな場所で、一体何を企んでやがる」

 二人に声をかけてきたのも、紛う事なき男子学生であった。

 改造を施したかと思われる着崩した制服姿で、ブレザーの上から巻き付けた太いベルトが特徴的である。

 ビャクヤ以上にシャツのボタンを開け、緋色のネクタイの結び目は、みぞおち辺りまで垂れ下がっていた。

 何よりこの少年を特徴付けていたのは、その髪色である。前面が金色、後は全て黒という、自然にはあり得ないものだった。

 見た目こそ真面目な男子学生といった体ではなかったが、その目はとても真っ直ぐであり、正義感の溢れるものだった。

ーー気に入らないね……ーー

 ビャクヤは、突然現れたこの少年の目が気に食わなかった。相手がただのチンピラであるなら、この場で有無を言わさず倒すだけであるが、目の前の少年は、それすらもしたくなくなるほどの嫌悪感を、ビャクヤに抱かせた。

 故に、ここは黙りを決め込んで無視しようと思ったが、ツクヨミが返事をしてしまった。

「面白いことをいうのね。それを言うなら、あなただって同じではなくて?」

 ツクヨミは、当たり障りなく問い返した。

「オレは『虚ろの夜(ここ)』でやらなきゃならない事がある。『眩き闇』をぶっ倒す。そしてこの『夜』を終わらせる!」

 少年の目的は、いつぞやの紅騎士ワーグナーと同じものであった。『虚ろの夜』の核である『深淵』を破壊するつもりであった。

「『眩き闇』を倒すだなんて、ずいぶん大きく出たものね。あなた程度が、果たしてあの女の足元に及べるのかしらね?」

 ツクヨミは、少年を挑発するような態度を取る。

「舐めんなよ。オレにだって、この『夜』に集まる奴らと十分戦えるだけの能力(ちから)がある……」

 言うと少年は、両手を合わせた。

「出ろ! 『断罪の免罪符(インスレーター)』!」

 少年の手が真っ赤に輝くと、左手のひらから刀の柄のようなものが顕現した。

 少年は、自らの手から出現した柄を取り、刀を鞘から抜くかのように、その刀身を露にした。

 少年が自らの手より抜き出したのは、刃が赤黒く、刀身の長い、鍔のない刀のような姿をした顕現であった。

「この力で終わらせる! この狂った世界全てをな!」

 少年は、抜き放った刃を振るった。まるで血のように、刃が纏っていた顕現が、空中に飛び散って消えた。

ーー『断罪の免罪符』、と言っていたわね。以前に聞いたことがある。『再誕(リヴァース)』にいたる宝具の一つだとーー

 ツクヨミがまだ、『万鬼会』のメンバーとして活動していた頃、『忘却の螺旋』との戦いに向け、『眩き闇』が何を目的として『虚ろの夜』にて最強であろうとしているのか、調べたことがあった。

 その時に、今、目の前の少年の持っている剣について知ったのだった。

 『眩き闇』の目指す、『再誕』とは、『偽誕者』を超越した顕現を宿した存在とされている。『深淵』の顕現を溢れさせる事なく受け入れられる『器』を持つ者だけが至れる領域である。

 ゾハルもまた、顕現を求め、そして『眩き闇』の命を狙っている。どこかでこの少年とぶつかっているかもしれない、とツクヨミは考えた。

「一つだけ訊きたいことがあるわ……て、なに? どうしたのビャクヤ?」

 ゾハルについて何か知っているか、訊ねようとしたツクヨミは、不意に肩をつつかれた。

「まあまあ。姉さん。相手はもう刀を抜いているから。もう無礼討ちになりそうなものだけど。今はそんな時代じゃない。無駄な時間はもったいないし。ここは平和に話し合いで解決しようじゃないか」

 ここは任せろ、と言わんばかりにツクヨミの肩に手を置くと、ビャクヤは彼女の前に出る。

「と言うわけだ少年。ここから先の話は僕が聞こう」

 ばーん、とビャクヤは言って、自らの登場を誇大なもののようにし、仰々しく両手を広げた。

「なんだ? 面倒そうなのが出てきたな……」

 今までツクヨミの後ろで、ずっとそっぽを向いていたビャクヤが、突然に出てきた。ビャクヤを見た一瞬で、少年は二つの事を見抜いた。

 一つは、見た目どおり偏屈そうな質の人間ということ。もう一つは、底知れない、途轍もない顕現の能力を有しているという事だった。

「……別に、あっちの美人のお姉さんと話したかった訳じゃないから、強くは言わねえけどよ」

 少年は、同様を悟られないように言葉を続ける。

「大体、偉そうに人の事少年って言ってるのは何なんだよ。お前の方が年下に見えるぞ。中学生か?」

「あはは。分かってると思うけど。今の姉さんに顕現(イグジス)はないからね。キミと戦うとしたら僕なんだし。僕と話しをするのは当然だろう?」

 やはり偏屈さを感じる言い方だが、ビャクヤの言葉は筋が通っていた。

「……だろうな。オレだってもう立派な『偽誕者』なんだ。力については分かってるつもりだ。お前の方がとんでもない力を持ってる、って事もな」

 ビャクヤは、少し感心した。

「誉められると。照れるね。たとえそれが。弱そうな新人から。でもさ……」

 ビャクヤは、口元を大きくつり上げた。しかし、その目は全く笑っていない。

「なんだと、テメぇ……!」

 あまりにはっきりと挑発され、少年はいきり立った。

 自分から煽っておきながら、まあまあ、とビャクヤは手を前で振る。

「姉さんの目的は人捜しみたいだけど。僕は違う……」

 ビャクヤは、少年を抑えて話を続けた。

「僕の姉さんに危害を及ぼしそうな奴を。片っ端から壊したいんだ。現にキミは。そんな刀を抜いたりしてやる気満々だ。姉さんに危害を及ぼさない可能性を考える方が難しい」

「大人しそうな顔してそれが本心ってわけか。いいぜ、オレにだって覚悟がある。お前みたいなのに舐められて黙っちゃいられねぇ。準備はできてるだろうな? 今すぐ斬り捨ててやる!」

 ビャクヤは一変して、ニッコリと笑った。

「うん。ちょっと待っててね」

 言うと、ビャクヤはツクヨミの手を握り、少年から少し離れていった。

「いちいち話し合いに戻るなよ! めんどくせぇ奴だな!」

 喚く少年を無視して、ビャクヤは笑みをツクヨミに向ける。

「姉さん。お待たせ。話がまとまった」

 ツクヨミは、ため息をついた。

「ケンカすることになった。やっつけるよ。あの辻斬り男」

「呆れた。戦うのはあなたなのだから、どうでもいいのだけど。あなたがあの程度の者に敗れるとは思えないし、ね」

 ツクヨミは、少年に少し訊きたいことがあったが、彼はビャクヤの言う通り、『夜』に来るようになって日が浅いと思った。故に訊ねた所で、ゾハルについて、いい答えは返ってこないだろう。

「そんなわけでごめんなさい、『断罪の免罪符』さん。お話ししたいこと、少しだけあったのだけど、ここでさよならみたいね」

 少年は、また喚いた。

「よく聞こえねえよ、お前らもう少しこっちで話せよ。オレのこの『蚊帳の外』感パネェぞ!」

「そう、なら、聞こえるように言ってあげるわ……」

「ちょっと姉さん?」

 ツクヨミは歩き出し、ビャクヤの前へと進み、数歩先で止まった。僅かに、少年の剣の間合いからは外れている。

「私の名はツクヨミ。そしてこの子は、私の剣であり盾である弟。名はビャクヤ。死に逝く者がその引導者の名を知らないのも不憫と言うもの。名乗っておくわ」

 言い終えるとツクヨミは、少年に背を向け、下がっていく。ビャクヤとのすれ違いざまに、ツクヨミは囁いた。

「後はお願いね、ビャクヤ」

 戦って打ち倒せ、というツクヨミのいつもの合図であった。

 ツクヨミが後ろへと下がり、丁度いい場所に腰掛けるのを確認すると、ビャクヤは少年へと向き直った。

「さて。それじゃ。消えてもらうよ。少年」

 ビャクヤは、ジャキっと背中に四対八本の鉤爪、『八裂の八脚(プレデター)』を顕現させた。

 予想だにしないビャクヤの武器に、少年は少し驚きを見せるものの、自らを鼓舞するように言う。

「いつまでも少年って呼ぶんじゃねぇ! オレにはハイドって名前があるんだからな!」

 少年、『断罪の免罪符』のハイドも名乗った。

「行くぞっ!」

 ハイドが先に仕掛けた。

「どう……」

 ハイドの剣が間合いに入る前に、ビャクヤは鉤爪を突き出した。

「なあっ!?」

 ハイドはとっさに立ち止まり、後ろに飛び退いた。

「……料理しよう?」

 刃物の鋭さを持ちながら、鞭のようにしなり、そして伸びる鉤爪が、普通では考えられない間合いからハイドを襲った。

 ハイドは、襲いかかる鉤爪を刀で受け止め、更に間合いを開けた。

 次はビャクヤが、歩み寄りながら攻撃を仕掛けた。

「微塵切りがいいかな?」

 ハイドは更に飛び退く。しかし、ビャクヤが鉤爪を先行して伸展させ、ハイドの退路を絶った。

 ビャクヤは、鉤爪を二本クロスさせ、ハイドの首を挟んだ。

「それとも。八つ裂き?」

 ビャクヤは、恐ろしい笑みを向ける。

「よ、寄るな!」

 ハイドは、刀を振り回し、ビャクヤの拘束から逃れた。

 ビャクヤは、近くにある鉤爪で刀を受け、全ての鉤爪を引き戻しながら距離を置いた。

ーーまるで素人じゃないかーー

 長い刀を武器としながら、その扱い方に全く技術が伴っていなかった。

 運動神経は悪くない。現に飛び退いた後でも、体勢に崩れがなかった。

 体の正中が崩れたその時が、死が訪れる瞬間だと、ビャクヤはツクヨミから訓練を受けて覚えていた。

 武器の扱いは素人そのものだが、体の捌き方には見込みがあるか、というのが少年への評価であった。

「このやろっ!」

 ハイドは、再び刀を振り上げながら駆けてきた。

「それ!」

 ビャクヤは、鉤爪をその場に残し、半回転しながら後ろに少し下がり、鉤爪を僅かに伸ばした。

 ハイドは寸前で立ち止まり、もう一度距離を取った。

「ねえ。キミさぁ……」

 鉤爪を背後に引き戻しながら、ビャクヤは訊ねた。

「なかなか大層なものを持ってるけどさ。それで人を殺したことはあるかい?」

「なんだと……!?」

「あるのかい。それともないのかい? 答えはこの二つに一つだ。簡単な質問だと思うんだけどなぁ?」

「ない。この力は、人を殺すための力じゃねぇ! この『夜』を消すための力だ!」

「そうかい……ふふふ……!」

 ビャクヤは、小さな笑い声を上げたかと思うと、夜空を仰いで大きく笑った。

「アハハハ! どうりで弱いわけだ。顕現を持ちながら。人を殺したことが無いだなんて。アハハハ!」

 ハイドは激昂した。

「何が可笑しい!?」

「僕は。一人。二人……いや。数え切れないね。僕の前に立ちはだかるものはなんであれ。殺してきた。この爪でね」

 ビャクヤは、鉤爪を一本引き寄せた。

「そうだ。冥土の土産ってやつだ。一つ教えといてあげよう。この辺は。ある夜明けに焼け跡となって見付けられた。キミでもそれくらいは知っているだろう?」

 紅騎士ワーグナーの顕現による能力で作り出された炎によって、ビャクヤらのいる公園の木々は、顕現を取り込んだ異物となったために、現実にも焼けた姿で現れてしまった。

 一般人には、これは不審火事件であると知らされたが、『夜』の顕現を含んでしまったため、火が出たいかなる原因は、誰にも突き止められてはいない。

「知ってる。これがただの火事なんかじゃなく、オレらのような『偽誕者』の戦いでこうなっちまった事もな。まさか、お前が……?」

「おっと。早とちりしないでほしい。僕のせいじゃない。なんなら僕は。火事を起こした悪いやつをやっつけた方なんだから」

「なに……!?」

 ハイドは信用ならなかった。

「ま。信じるも信じないも。キミの勝手さ。けど。これだけは知っておいてもらいたい。そいつもこの爪で葬った。ってことをね!」

 ビャクヤは、八本の鉤爪全ての根元を掴み、一気にハイドへと投げ付けた。

「味わいなよ!」

 八本の鋭い鉤爪の先端が、ハイドへと一挙に迫った。

 ハイドは、気を抜いていたつもりはなかったが、これは予想外の攻撃であった。

 しかし、ハイドは落ち着き払い、刀を前に置いて顕現を集中した。

ーー止める……!ーー

 ハイドの前に、白く光る顕現の盾が出現した。ビャクヤの放った鉤爪は、全てその盾の前に弾き返された。

ーー取った!ーー

 顕現を有する偽誕者ならばだれでも使えるこの盾には、攻撃を防ぐだけでない特殊な効果があった。相手の持つ顕現の一部を自らの物にすることができる。

 顕現を僅かに吸い取られたビャクヤの鉤爪は、一部が縮小してしまい、引き戻す事ができず、地に転がってしまった。

「今だ!」

 ビャクヤの鉤爪は、八本の内三本が落ちた。この瞬間を好機、とハイドは駆け抜ける。

 足早に迫られるビャクヤであったが、慌てる様子は全くない。むしろ、ハイドがこうして走ってくるこの時を待っていたかのようであった。

「この辺に……」

 仕込んでおこうかな、とビャクヤは手のひらをかざした。人の肉体など容易く断ち切ってしまう硬度の糸が、投網のように放たれた。

「なんだ!?」

 ハイドは足を止めた。ビャクヤの糸はハイドを捕らえることはできなかったが、そのまま空中に揺らめく蜘蛛の巣になった。

「へー。やるじゃない。あのまま突っ込んで。僕の巣網にかからないなんてさ」

 ビャクヤは、蜘蛛の巣の向こうで笑っていた。

「舐めんな、こんなもの……!」

 ハイドは、巣網を上から下へまっすぐに斬り下ろした。

 巣を壊されても、ビャクヤはやはり不敵な笑みを見せるのみである。ビャクヤが笑っている理由は、すぐにハイドに身を以て知らしめられる。

ーー顕現が……!?ーー

 ハイドは、自らの顕現が減少したのを感じたのだった。そして対するビャクヤの顕現が増していた。

「ふっふふふ……」

 ビャクヤは、全身に青い、顕現の光を纏い始めた。これは、ビャクヤの顕現が最も充実している事を意味していた。

「それじゃあ。再開しようか? 少年……!」

 ビャクヤは、空中に蜘蛛の巣を作る。

「ここにも……」

 ビャクヤは、巣網をあちこちに張り巡らした。不規則な張り方だが、目的は何か、ハイドには分かった。

ーーあいつめ、オレを囲むつもりだな……!ーー

 断ち切ることは容易い罠である。しかし、そうやって巣網を壊すだけでも顕現は吸い取られてしまう。

 故にハイドは、ビャクヤの張る巣網の隙間を掻い潜って離れようとした。

「逃げてもムダさ!」

 ビャクヤは跳躍した。跳ぶと同時に手から糸を伸ばし、宙に張った巣網と繋げると、瞬時に巣網に身を置いた。

「なあっ!?」

 ビャクヤは、まるで空でも飛んでいるかのように、巣網と巣網の間を行き交った。

「足下……!」

 ビャクヤは、巣網の間を跳びながら地面に向けて、何かを投げつけるような動きを見せた。

「なにっ、しまっ……!?」

 ビャクヤは、地面に罠を張っていた。地面の罠は、それ自体が生き物であるかのように、ハイドが触れた瞬間に彼の体に巻き付いた。

「ほうら。捕まえた」

 ビャクヤは笑みを浮かべ、巣網を蹴って鉤爪を全て直線に伸ばし、ハイドを突き刺そうと飛びかかった。

 ハイドは、腰元まで拘束され、その場から一歩たりとも動くことができなかった。このままではビャクヤの鉤爪に貫かれ、待っているのは死である。

 しかし、ハイドにはまだ逃れる術はあった。刀を体の前に立て、それを中心に顕現を解き放った。

「イグジス、解放……うああああ!」

 体の一点に集中させた顕現を一度圧縮し、一気に放出することで爆発を起こした。

「うわっ!?」

 ビャクヤは落下するしかなく、爆風をまともに受けてしまった。吹き飛ばされた先には巣網があり、ビャクヤはそれをクッションにして体勢を整えた。

「いったいなー」

 顕現の爆発に巻き込まれた割にはダメージが全く大きくなく、ビャクヤはかすり傷も負っていなかった。

 その代わり、体以外の部分に大きなダメージがあった。

ーー今がチャンスだ。畳み掛ける!ーー

 ハイドは、爆発し、燃える炎のようになった顕現を全身に纏い、赤い輝きに包まれていた。

「逃がさねぇ!」

 ハイドは、ビャクヤに向けて駆けた。

「懲りないねぇ。キミも……」

 ビャクヤは、まるでなんの考えも無しに走ってくるようなハイドを捕らえるべく、糸を放とうとした。

「えっ。糸が出ない?」

 宙にかざしたビャクヤの手からは、何も出なかった。

 ビャクヤがダメージを負った場所は、顕現の『器』であった。一度に強力な顕現の衝撃を受けたことによって、ツクヨミほどではないが、ビャクヤの『器』も傷付いてしまったのである。

 完全に壊れてしまったわけではないため、能力の行使の一切を断たれる事はなかったが、ビャクヤは糸を作り出せなくなってしまった。

 ハイドは、走りながら刀を逆手に持ち変えた。

「円環ノ凶渦、『ブラック・オービター』!」

 ハイドが刀を真横に振ると、その軌跡から赤黒い円盤状の弾が、ビャクヤへと向かって飛び出した。

 ビャクヤは、鉤爪を前で折り曲げ、赤黒い円盤を受け止める。

「爆ぜろ!」

 ハイドが切っ先を向けると、円盤は炸裂した。辺りに顕現が散る。

「地ヲ穿ツ影、『シャドウ・スケア』!」

 ハイドは続けて、刀を地面に突き刺した。その瞬間、先に散った顕現が槍のように尖ってビャクヤの足下から襲いかかった。

 ビャクヤは、足下から突き出る槍を一本ずつ鉤爪で打ち払っている。その間にハイドは、ビャクヤへと近付き、地を蹴って高く跳び、ビャクヤの注意力が及んでいない頭上から顕現の溜まりを繰り出した。

「深淵二咲ク黒蓮、『ダーク・ロータス』!」

「ぐっ……!」

 足下、頭上と同時に攻め立てられ、ビャクヤは守りきれなくなってきていた。

「終わらねえ!」

 ハイドは、残った顕現を刀に全て込めた。

「死ぬんじゃねぇぞ!?」

 ハイドは大きく振り上げる。

「天地斬リ裂ク荒神ノ咆哮、『レイジングロアー』!」

 ハイドが振り下ろすと、弧を描いた顕現の衝撃波が、ハイドの最大の力を持って打ち出された。

 ハイドの顕現全てが炸裂し、辺りは赤黒く染まった。

「はあ……はあ……!」

 文字通り全力を尽くしたハイドは、刀を支えにして肩で息をする。少しでも気を緩めれば、そのまま倒れてしまいそうだった。

 目眩でぐらつく視界を前になんとか前に向けると、ハイドは絶句した。

「ウソ……だろ……?」

 ハイドの思いは、声になっていなかった。

 全身全霊を込めた一撃を見舞ったはずなのに、ビャクヤは目立った傷もなく立っていたのだ。

 ビャクヤは、ニッコリと笑った。そしてつかつかとハイドの近くへ寄っていく。

 ハイドは抗戦しようとするが、顕現を使いすぎたために、立っているのがやっとの状態であった。

 ハイドがそんな状態であることをいいことに、ビャクヤは至近距離まで近寄った。そして鉤爪を三本伸ばし、ハイドの体を挟み込んだ。

「目障りだよ」

 ビャクヤは、伸ばした鉤爪をひっくり返し、ハイドを地面に叩き付けた。

「あんまり手間かけさせないでよ」

 次はハイドの顔を地面に押し付けながら引き摺り回し、まだ刀を握っているハイドの腕を踏みつけた。

 やっと刀を手放したのを確認し、ビャクヤは手を広げて巣網を顕現させた。

 ビャクヤは、地面に押し付けたハイドを鉤爪で持ち上げると、顕現させた巣網に投げ飛ばした。

 顕現の蜘蛛の巣はハイドを捕らえ、鉄線ほどの強度を持つ糸が、体に食い込むほど拘束した。

「おーい。生きてる?」

 ビャクヤは、うなだれたハイドに顔を寄せて声をかける。

「……離し、やが、れ……!」

 ハイドは、息も絶え絶えに返答した。

「よかった。まだ息があったんだね。言っておきたいことがあるんだ。もう少しだけ生きててよね」

 ビャクヤは、顔を離し、ハイドの鼻先に指をさした。

「悪気はないけれど。邪魔はさせてもらった。正義の味方面したその表情がさぁ。なんだか無性にイライラしちゃってね」

 ビャクヤがハイドに因縁をつけた理由であった。正義の味方然としていた事もビャクヤの癇に障るものだったが、ハイドの自分とは真逆の人間性にも苛立っていた。

「キミさぁ。最後の攻撃。何て言ったかな? あまりに痛々しい名前だったから忘れたけど。その時こう言ってたよね? 死ぬんじゃねぇぞ。って」

 ビャクヤは、呆れたように両手を広げた。

「殺す気でやられてれば。さすがに危なかったよ。けど。キミはそうしなかった。罪を憎んで人を憎まずってやつかい? まったく。そう言うやつを見てると。心底ムカムカしてくるよ……!」

 ビャクヤは、鉤爪を一本ハイドの肩口に突き刺した。

「がああ……!」

 ハイドから苦痛の声と共に血煙が上がった。

「ふーん。さっきのでほとんど顕現を使っちゃったのか。食べられるところがない。ついてないや……」

 ビャクヤは、ハイドに背を向けた。同時に顕現の能力全てを停止させた。

 ハイドを拘束する糸も消え、深傷を負い、支えを失ったハイドは、そのまま地面に沈みこんだ。

「食べられないんじゃ。キミにもう用はない。せいぜいそこで野垂れ死んでなよ。行くよ。姉さん」

 ビャクヤは、ハイドにもツクヨミにも一瞥をくれず、歩き出すのだった。

 

 Chapter13 眩き闇(パラドクス)捕食者(プレデター)

 

 ビャクヤとツクヨミは、『虚ろの夜』を進んでいた。

 やがて二人は、夜空に出た真っ赤で、すぐ近くにあるのかと錯覚させられる月が照らす駐車場のある場所にたどり着いた。

「すぐ近くに強力な顕現の高まりを感じる。もうすぐね。この先を行けば、今宵の『深淵』にたどり着く」

 ビャクヤは、不意に小さく笑った。

「ハハハ。『器』って割れててもそういうのは分かるんだ。風邪を引いて鼻がつまってても。強烈な匂いは分かるってところかな?」

 ツクヨミは、ため息をつく。

「……もう少し例えを選んで欲しいものね。私は顕現の察知には自信がある。あなたのように戦う力はないけれど、顕現を感じ取ることに関しては、並の『偽誕者』に遅れを取ることはないわ。言ってみれば、私の能力は精神特化(センシティブ)ってところかしらね」

「おー。でたでた。姉さんお得意の邪気眼発言」

 ビャクヤは茶化した。

「だから……! はあっ……もういいわ」

 否定しようとするツクヨミだが、言ったところで余計に状況が悪くなるだけだと思い、黙ることにした。

「そうそう。邪気眼といえば。さっきのメガネのお兄さんもなかなかすごかったよね。小難しい単語並べるくせに雑魚過ぎて。さ」

 ここに来る途中、ビャクヤとツクヨミは、ある青年と出会っていた。

 その青年は、ケイアスといい、『忘却の螺旋』における参謀と言っていた。

「そうね。参謀って割には妙に血の気が多かったわね。かつては『暴君ケイアス(ブラッディ・ケイアス)』なんて呼ばれていたけれど、異名の通りってところかしらね」

 自らを頭脳派と自称する彼の武器は、『混沌の経典(ケイアス・コード)』という、虚無を封じた書物であった。

 アジ・ダハーカという、世界中に伝わるドラゴンの伝承の中でも最強の存在の名を付けられた虚無を従え、その獣の爪牙をビャクヤへと向けた。

 ビャクヤの力を危険視した故の襲撃であった。参謀を自称するだけあって、ケイアスは、ビャクヤの能力は『眩き闇』さえも危機に追いやるのではないかと考えたのだった。

 勝負は、ほぼ一瞬で決してしまった。

 伝説上では、最強にして最悪の力を持つドラゴンの名を冠した存在であっても、虚無であるからには、ビャクヤにとっては捕食の対象に違いはなかった。

 虚無の爪も牙もビャクヤには届かず、逆にビャクヤの鉤爪の餌食となった。

 負けが分かった途端、ケイアスは逃げていった。自らの首領である『眩き闇』に危険を知らせに行ったのだった。

「しかし驚いたわね。ビャクヤ、まさかあなたがあの『罪切の獣』を倒していたなんてね」

 戦いの前に、ケイアスが言っていた。『忘却の螺旋』の幹部の一人、『罪切りの獣』ことエンキドゥという男が、名も無き『偽誕者』に敗北した。

 一命を取り留めたエンキドゥは、自分の身に起きたことを幹部全員に話し、より高みを目指すべく組織から抜けたのだった。

「うーん。あんまりよく覚えてないんだけど。倒した相手からは顕現を戴いて。後はそのままにしちゃうからね」

 ツクヨミは、いつぞやビャクヤが明け方に帰ってきた時に、顕現をほとんど持ってない『偽誕者』と戦ったと言っているのを覚えていた。

 ツクヨミはその時、ビャクヤが戦ったのがエンキドゥではないか、とふと思った。

 エンキドゥとは面識がそれほどあるわけではないが、ツクヨミは以前、『万鬼会』と『忘却の螺旋』の決戦において、彼の姿を見ている。

 戦いに先立ち、『忘却の螺旋』の幹部については調べていた。その時に、顕現をまるで持たず、己が拳にて戦うという、かなり変わった『偽誕者』の存在を知った。

「まあ、いずれにせよ、残るはあの女だけ。借りを返すには丁度いいわ」

 今宵、ケイアスと戦った事により、ビャクヤは『忘却の螺旋』の幹部全てと戦い、その全てを破った。

 そして残るはその親玉、『忘却の螺旋』の総帥、『眩き闇』ことヒルダ、彼女を残すのみであった。

「あの女の全ては、その顕現のパワー。小細工なんか一切使わずに力押しで相手をねじ伏せる。そんな女よ。力だけの女と侮り、敗れていった者は数知れないわ」

「その口ぶり。まるでそいつと。実際に戦ったことがあるみたいだね」

 いいえ、とツクヨミは首を振る。

「私自身が戦った事はない。私は、戦っている者に少し力を貸していただけよ」

「んー。よく分からないね」

「とにかく私たち、いえ、あなたにやってもらうことは決まっているわ。あの馬鹿力だけの馬鹿女には、一度馬鹿痛い目に遭ってもらうの」

 言ってからツクヨミは、少し品の無い言い方をしてしまったと思った。ついつい口が悪くなってしまうほどに、ヒルダから受けた借りは、ツクヨミにとって大きかった。

「ハハハ。何やら因縁が深いみたいだね。けど。僕そういうの懲らしめるの好きだよ。どっちがより愚か者か。見せてやろうじゃないか」

 ビャクヤに恐れる様子は無かった。

「頼もしいわね。では行きましょう。『(ひかり)(やみ)の祭壇』、と言っていたかしら? あの参謀さん」

 ヒルダがその財力と『忘却の螺旋』の組織力を以て造った特殊な施設、それが『煌と朧の祭壇』であった。

 見た目こそ雑居ビルのそれであるが、その内装は浮世離れしている。

 『忘却の螺旋』の頭脳であるケイアスが『深淵』の出現位置を予測し、急ぎ造り出したのだった。

「『眩き闇』だっけ? その人。飽きっぽい性格らしいじゃないか。早く行った方がよさそうだね」

「そうね、先を急ぎましょう。ビャクヤ」

 歩いているうちに、二人の前に『煌と朧の祭壇』を内包する雑居ビルが見えてきた。同時に顕現の高まりが更に上がった。場所は間違いないようであった。

 ビャクヤとツクヨミは、血戦の地へと歩みを進めるのだった。

    ※※※

 雑居ビルの一部を使って造られた、西洋の宮殿の一室のような場所があった。『忘却の螺旋』の総帥、『眩き闇』ことヒルダが、私財を投じて造った『煌と朧の祭壇』である。

 宙を浮遊しているかのように吊られたシャンデリアがいくつかあり、祭壇奥へと続く大きな扉へと深紅の絨毯が敷かれている。

 奥に続く扉には、『忘却の螺旋』のシンボルマークが大きく、隙間無く描かれていた。

 そんな宮殿であり、また神殿でもあるような一室にて、一組の男女が言い争っていた。

「ヒルダ、君の強さは確かだよ。それは僕も断言できる。けれど、これからやって来る彼は危険だ。顕現を喰らうんだ。いくら君の巨大な顕現で力押ししようと、彼の前では無力だ」

 先の戦いでビャクヤに呆気なく敗れ、逃走を図って祭壇へとやってきたケイアスが、ヒルダを説得していた。

 ケイアスの前にいる女、ヒルダは、左右で白黒に分かれた色をしたタイトなドレスを身に纏い、首周りには黒いファーを着けている。

 プラチナブロンドの足下まで届きそうなとても長い髪を一纏めにし、その瞳は左右違った色をしている。

 『忘却の螺旋』の総帥というだけあって、非常に豪華で、麗しい容姿をしていた。

「ヒルダ、聞いているかい?」

「はいはい、聞いてるわよ。それで、アタシに逃げろって言うつもりなのかしらぁ?」

 ヒルダは、ケイアスの説得にうんざりした様子でそっぽを向いている。

「そうだよ。命あっての物種というじゃないか。この祭壇は放棄して逃げてくれ」

「放棄なんてあっさり言ってくれるわねぇ。アタシがこの祭壇を造るのに、一体いくらかけたと思っているのかしらぁ? ま、たった一千万ぽっちだけどぉ」

「こんな祭壇、またいくらでも造ればいいだろう? アジ・ダハーカが喰らわれて戦う能力が無くなってしまったけど、僕の担当は頭脳労働だ。『深淵』が出現する位置ならまた予測できる。だから今回は……」

「あら?」

 ふと、二人は巨大な顕現の高まりを感じた。それは、紋章のある扉の奥、この祭壇の中核である『深淵』からである。

「なんて顕現なんだ……! ロジャーが堕ちてしまったのも分かる気がするよ……」

 ケイアスは、虚無に落ちて死亡したかつての仲間を思い出す。

 胸が悪くなるような顕現の量に、嫌悪を示すケイアスとは真逆に、ヒルダは歓喜していた。

「これよ! この顕現、あの時とは大違いだわ、量も大きさも! ケイアス、アタシは今夜こそ『再誕』を目指すわよぉ!」

 『深淵』の顕現を自らの『器』に取り込み、『偽誕者』を超えた存在、『再誕者』となる。ヒルダが『忘却の螺旋』という組織を作り上げたのは、全てこのためであった。

「そのためにもぉ、今こっちに向かっている子も糧としてあげましょ」

 ヒルダは、すぐそばで凄まじい『深淵』の顕現を感じながら、この場に迫っている者の存在を感知していた。

「……ヒルダ。もう君には付き合いきれない。君が『再誕者(リヴァース)』を目指すこと自体はこの組織の決まりだ、止めはしないよ。けど僕は退散させてもらうよ。君も、精々命を無駄にしないことだ」

 ケイアスは、戦いに巻き込まれるのを避けるため、そそくさと祭壇を後にした。

「全く、臆病ねぇ。仇を討つなんてガラじゃないけどぉ、アタシが倒してあげるわ!」

 どんどん近付いてくる顕現の気配を、ヒルダは嬉々として待ち受ける。

 ヒルダの野望は、まさに成ろうとしている。そのように今は、見えていた。

    ※※※

 ビャクヤが、『煌と朧の祭壇』の扉を開いた。

 外見は寂れた雑居ビルであるのに、ここだけは舞踏会に使われそうな荘厳な部屋になっている。

「これはすごいね。大金持ちの住む大豪邸みたいじゃないか」

 ビャクヤが驚いているのをしり目に、ツクヨミは部屋の真ん中へと歩く。

 そこに、女が待ち受けていた。

 この世界に於いて最強にして最大の能力者集団組織、『忘却の螺旋』のトップであり、『眩き闇』と呼ばれる女、ヒルダである。

「ようこそ我が『煌と朧の祭壇』へ。夜も更けた今、今夜の挑戦者はアンタたちで最後かしらぁ?」

 ツクヨミは、険しい表情である。

「相変わらずやることが大仰ね。無駄だとは思うけど一応言っておく。久しぶりね、『眩き闇』」

 ヒルダは、片方眉を上げる。

「久しぶりぃ? アタシ、アンタにどこかで会ったかしらぁ? なにせ刺客来客の多い身、覚えられる事は多いけど、誰かを覚えることは少ないのよねぇ……」

 ヒルダは、自らが潰した、当時『忘却の螺旋』に次ぐ勢力を持っていた組織、『万鬼会』の幹部であったツクヨミを覚えていなかった。

「まぁ、さしずめ、アタシに掃除された雑魚が恨みで復讐しに来たっ、て所かしらぁ? うふふ、そういうリターンマッチなら大歓迎よぉ?」

 ツクヨミは眉ひとつ動かさない。

「やはり覚えてはいない、か……」

 今のツクヨミは、かつて『万鬼会』に属していた頃に比べれば、かなり趣味様相が変わっていた。あの日のような戦闘服姿であれば、思い出してもらえたかも知れないが、ツクヨミにはどうでもよかった。

「私が、いえ、私たちが来たのは復讐のためではないわ。あなたを倒すのは、私の目的を達成するための過程に過ぎない」

「なんでもいいけどぉ、なんなら二人まとめて相手するし。でもアンタ、大したイグジスを感じないけど、本当に戦えるのぉ?」

「おあいにく様、私は能力を持たない一般人。無力な弱者をいたぶるのが趣味なら、好きにすればいい。今夜、あなたの相手をするのは、私ではなく、この子、弟のビャクヤよ」

 指名を受けたビャクヤは、ニッコリと笑い、照れたような仕草で片手を頭にやり、ヒルダに会釈する。

「やあやあ。どもども……」

 今度は、終始ツクヨミを見下したようなヒルダが、ツクヨミのような険しい表情をする番だった。

「……暗くて底の見えないイグジス。アタシが言うのもなんだけど、気味の悪い感じねぇ」

 ビャクヤから感じる顕現は、大して強くはないように思えた。力の強さならこちらが勝っていると、ヒルダは思った。

「けどぉ、興味深いわねぇそのイグジス! こんな時じゃなきゃ仲良くしたい所なのに」

 微笑を浮かべ、目を伏せ、ビャクヤは首を横に振る。

「美しいおねーさんに良くしてもらえるのは悪くない。けどダメだ。それはこの姉が許してくれない」

 ツクヨミは、わざと驚いたような素振りを見せた。

「あら、私は別に、あなたを縛っているつもりはないのよ? あなたが、その女の許に行きたいと言うのなら、止めるつもりはなくってよ?」

 ビャクヤもやはり、わざと悲しいような表情を作る。

「何を仰るのですか。お姉様。僕は貴女だけを愛しているというのに」

 ツクヨミは微笑む。

「正直ね、それでこそ我が誇りの弟よ、ビャクヤ」

「このアタシを前にしてイチャイチャするなんて、随分舐められたものねぇ」

 ヒルダは、二人の茶番にしびれを切らしていた。

「そのふてぶてしい態度。気に入ったわ、ズタズタにしてあげるわ!」

 ヒルダは、戦意を剥き出しにする。

「おお。こわいね。姉さんにも襲いかかってきそうだ。姉さん。こいつには手加減の必要はないよね?」

「ええ、何も気にせずに殺ってしまいなさい。そしてその女に見せてあげるのよ。この世の地獄でも、あの世の地獄でもお好きな方を、ね」

 ビャクヤは、ニッコリと笑った。

「オーケーだ。後は任せておいてよ。お姉様」

 ツクヨミは、二人から離れ、丁度いい所に腰かけた。

「と言うわけだ。僕はおねーさんに恨みはないんだけど。姉の命令(シスハラ)でね。消えてもらうよ」

 ビャクヤは、ヒルダを小馬鹿にしたように、ニコニコと笑い続けている。

「その減らず口、いつまで続くかしらね? そのにやけ面もいつまでそうしていられるかしら。……あぁ! 見てみたいわぁ! 姉弟揃って絶望し、泣き崩れる顔をね!」

 ヒルダの周りに、黒い顕現の衣が渦巻いた。剣にも槍にも、更には鈍器にも変化させられる、変幻自在の能力だった。

「さあ。今宵のラストバトルと行きましょう! 精々抗いなさい、アタシが『再誕者』へと至る糧にしてあげるわぁ!」

 人当たりの良いビャクヤの笑顔が、一瞬にして殺戮者の笑みに変わった。

「なら。精々弱々しく抗わせてもらうよ。僕もおねーさんの泣き崩れる顔。見たいからね」

 ビャクヤは、背中に四対八本の鉤爪を顕現させた。

 最強の力を持つ『眩き闇』と、あらゆる顕現を喰らう『捕食者』の決戦が、始まった。

 先手を打ったのはヒルダであった。

「刺しなさい!」

 ヒルダの周りを渦巻く黒い顕現が巨大な刃となり、ビャクヤへと迫る。

 ビャクヤは、慌てる様子もなく後退した。

「はねなさい!」

 巨大な刃は一瞬にして黒い塊となり、ビャクヤの足元から槍のように突き出た。

「ダメだねぇ……」

 ビャクヤは、下から突き上がってくる槍を鉤爪で受け流す。

「出なさい!」

 ヒルダは指を鳴らした。同時に、ビャクヤが受け流した槍が鈍器になり、ビャクヤの頭上へ落下した。

「そんなの……」

 ビャクヤは、鉤爪を頭上で交差させ、落ちてくる黒い顕現の塊を受け止めた。そして鉤爪の間に挟んだそれを手放すことなく、自身の顔の前に持っていく。

 ビャクヤが何をするつもりなのか、まるで読めずに見ていることしかできないヒルダであったが、次の彼の行動に驚くことになる。

「ふふふ……いっただきまーす!」

 ビャクヤは、塊を口元に寄せると、その顕現を吸い取ってしまった。

「うん。なかなかいい顕現だ。けど。キミの『器』に宿る顕現はこんなものじゃないんだろ? 今から食べるのが楽しみだ」

 驚くヒルダであったが、動揺を悟られまいと返した。

「イグジスを直に吸い取るなんて、戦いの最中に随分余裕じゃなぁい?」

 ビャクヤは小さく笑って、答えた。

「戦いだなんて。とんでもない。これは狩りであり食事だよ。この腹を満たすための。ね」

 次はビャクヤが攻撃を仕掛けた。背中の鉤爪を全て一直線に伸ばし、真っ直ぐにヒルダへと突き出した。

 ヒルダは、黒い顕現の衣を全身に纏い、障壁を作り出した。

 鉤爪は障壁に阻まれた。

「砕けちゃいそぅ!」

 防御は余裕であったが、ヒルダはわざとらしく言う。しかし、ヒルダが余裕でいられるのはこの一時だけであった。

「これはどうだい?」

 ビャクヤは、左半分四本の鉤爪はヒルダの障壁に当て続けながら、しゃがんで右半分をヒルダの足元に突き出した。

「ああん!?」

 ヒルダの防御は足元まではカバーしておらず、その防御が薄くなっていた足元を払われてしまった。

 そのまま前に崩れそうになるヒルダであったが、とっさに前へと顕現を出してそれをクッションすることで、転倒を避けた。

 ビャクヤは、転びかけたヒルダを見過ごすことなく、鉤爪を振るっていた。

「どう料理しよう?」

 刃物としての鋭さはそのままに、鞭のように伸縮し、しなる鉤爪がヒルダを襲う。

 ヒルダは、再び障壁を展開することで鉤爪を防いだ。

「微塵切りがいいかな?」

 ビャクヤは、大きく跳びながら回転しつつ、鉤爪を振るう。ビャクヤが一度回るだけで、瞬間的に八回以上の攻撃が同時に与えられ、ヒルダの障壁にヒビが入る。

「切り刻んであげるね!」

 ビャクヤは、着地と同時に上半分の鉤爪、合わせて四本を突き出し、ヒルダを貫いて体を引き裂こうとした。

「させないわぁ!」

 ヒルダは、ビャクヤが着地してすぐには動けない一瞬を見切り、ヒビの入った障壁を短剣にしてビャクヤに向けた。

 ビャクヤはやはり、驚く様子を見せず、伸ばしていた鉤爪、側に置いておいた鉤爪でヒルダの短剣を受け止めた。

「ナイスタイミング……」

 ビャクヤは短剣を奪い、ニヤリとした。

「こわいわぁ」

 ヒルダは後退した。

「逃さないよ」

 ビャクヤは、下がっていくヒルダに鉤爪を伸ばす。しかし、届かない。届くはずがなかった。

「えっ?」

 ついにビャクヤが驚かされる時がやって来た。

 ヒルダは宙に浮いていたのである。顕現の衣を足場とし、まるで浮雲の上にいるようである。

「随分調子に乗ってくれたじゃなぁい? まあでもぉ、アタシもまだ本気じゃなかったしぃ、そろそろアタシの強さを見せてあげるわぁ!」

「そんなところに逃げながら言われてもイマイチ説得力がないね。本当はそこに逃げるしか。できないんじゃないのかい?」

「ウフフ……」

 ヒルダは、地上にいるビャクヤに手を向けた。

「スキューア!」

 非常に速く、鋭い刃がビャクヤに迫った。

「あぶな!」

 ビャクヤは鉤爪で刃を防ぐ。

「ほらほらぁ、まだまだあるわよぉ?」

 ヒルダは、次々と高速の刃をビャクヤに打ち出した。

 ビャクヤは受け止め続けるものの、ヒルダも鉤爪の防御が及ばない位置を狙って飛ばしている。

 やがてビャクヤは、刃を防ぎきれなくなってきた。防御に回っているのが不利だと考え、ビャクヤは距離を取ろうとした。

「逃がさないわぁ!」

「あっ!?」

 刃がビャクヤの肩を掠めた。

 ビャクヤは、肩に付けられた傷に手を触れる。多少の出血をしているものの、傷口はそれほど深くはない。しかし、切り傷特有の焼けるような痛みがある。

「痛いねぇ。まったく……」

 ビャクヤは、手についた血を舐め取った。そして相変わらず、宙を浮遊するヒルダを見上げる。

「ウフフ、もっと苦しんだ顔を見せてちょうだぁい!」

 ヒルダは、こうして空中にいる限り、ビャクヤの攻撃は一切届かないものと高をくくり、余裕の笑みを見せていた。

「なに言ってるんだい? 今度はおねーさんが苦しむ番だよ?」

 言うとビャクヤは、手のひらを宙に向けて顕現の糸を放った。

 糸は一瞬にして蜘蛛の巣網となり、宙に停滞した。

「あらどうしたのぉ? 全然届いてないわよ?」

 ビャクヤの作った巣網は、攻撃のためのものではなかった。

 ビャクヤは、巣網に手を向けたまま地を蹴った。すると驚くべき速度で、巣網に引き寄せられるように、その身を巣網へと移動させた。

「空に逃げたって。ムダだよ!」

 獲物に対しては鋭い切れ味を持つ巣網だが、それを操るビャクヤにとっては、一体化できる代物であった。故に、糸と一体化しようとするとビャクヤの体は巣網に一瞬で近付く事ができた。

 ビャクヤは、巣網を足場にして更に宙を進んだ。やがてビャクヤは、ヒルダの頭上にまで迫った。

「ほうら。捕まえた!」

 ビャクヤは、真下に向けて鉤爪を伸ばした

「きゃああああ!?」

 ヒルダは身を守る術もなく、強かに地に叩き付けられた。

「この辺に……」

 ビャクヤは空中で糸を放った。できた巣網に移動し、糸一本だけを垂らし、それを伝って地に下りた。

 地に足を付けると、ビャクヤはつかつかとヒルダに歩み寄る。

「ごほっ……ごほっ……!」

 ヒルダは、体を強く叩き付けられた衝撃にむせていた。

「おーい。大丈夫かい?」

 ヒルダがはっ、と顔を上げると、ビャクヤは、覗き込むようにヒルダに顔を向けていた。

「この程度じゃ。終わらないよね?」

 ビャクヤは、一切構えずに立っている。ヒルダの呼吸が整うまで何の動きも見せなかった。

「アタシに膝を付かせるなんて……」

 ヒルダは、ショックを受けたような顔をしている。

「まさか。もう終わりなんて言うんじゃないだろうね? だとしたら。とんでもない見かけ倒しだよ。キミ」

 ヒルダの表情が一変した。

「アンチディスパーシブ!」

 ヒルダは、大波のように押し寄せる刃を放った。

 不意打ちを狙ったように見えたが、ビャクヤは鉤爪を目の前で交差させる事で突然の攻撃を受け流した。

「ふふ。そんな攻撃見え見えだよ……!?」

 ビャクヤは、鉤爪を背中に戻した。同時に驚いてしまった。

 目の前にはヒルダがいるであろうと思っていた。そのはずが、その先にヒルダの姿はなかった。

「こっちよ」

 ビャクヤの背後から、ヒルダの声と刃が襲いかかった。かわしきれないと判断し、ビャクヤは前方に巣網を張ってそれに飛びかかった。

「ハァイ」

 距離をおくことができたとばかりに思っていたビャクヤは、完全に意表を突かれてしまった。

「どこから……!?」

 ヒルダは、ビャクヤの目の前にいた。そして、巣網に乗ってすぐに動き出せないビャクヤに向けて、複数の刃を放ってきた。

 ビャクヤは、巣網を放棄し、地に下りた。ヒルダの複数の針のような刃から身をかわすことはできた。

「スキューア!」

 ビャクヤが着地してすぐに、ヒルダは例の速い刃を打ち出した。

 一撃目はどうにかかわした。しかしヒルダは、続く二撃、三撃目と、ビャクヤが鉤爪を防御の構えにするよりも先に打ち出し続けた。

「こーゆうのもあるわよぉ?」

 ヒルダは、空中で指を鳴らした。するとその瞬間、ビャクヤの周りにヒルダの顕現が影のように這い寄った。

 影は地を穿って咲く花のように姿を現し、巨大な鉾先となって、守りの特に薄いビャクヤの足元から襲いかかった。

「レバナンスピラー!」

「うわあっ!?」

 顕現の鉾先に突き上げられ、宙に浮かされたビャクヤに追い打ちをかけるように、鉾先も宙を舞い、刃を花弁とした、花のような形をした塊となった。

 ビャクヤは、ヒルダの顕現の塊に吹き飛ばされた。

「ビャクヤ!」

 ツクヨミは、堪らず叫び、駆け出してしまった。

 地に叩き付けられたビャクヤは、起き上がる様子が見られなかった。

「あらぁ? ちょっと本気出しすぎたかしらぁ? 子供相手に大人げなかったわねぇ……」

 ビャクヤは尚も動かない。ヒルダは、これで勝負が決したつもりであった。

「ビャクヤ、起きなさい! この程度で敗れるなど……」

「あら、随分必死ねぇ? けど、もう勝負はおしまーい。次はあなたが戦ってみるぅ? なんて!」

 ヒルダは高笑いを上げる。ツクヨミは歯噛みしてそれを見るしかなかった。

「……にょーん。と」

 これまでずっと動かなかったビャクヤが、鉤爪を伸ばしてそれを支えに起き上がった。

「気は済んだかい? それじゃあ。再開しよう」

 ビャクヤに大きなダメージは見られなかった。

「あら、まだ生きてたのね」

 高笑いしていたヒルダは一転、険しい顔になった。

「ビャクヤ、こんな時に悪趣味な! 人を不安にさせるなんて……」

「まあまあ。姉さん。落ち着きなよ。あの人の強さはどれくらいか確かめたのさ。これで分かったよ。このおねーさんは。ちっとも強くない」

 ビャクヤは、ツクヨミを宥めつつヒルダを見下した。

「……当然でしょう。あなたには、あの女を倒してもらわなくてはならないのだから」

「はいはい。ちゃんと倒してあげるから。姉さんは下がってて。危ないったらない」

 ツクヨミは、言われるままに下がっていった。

「さて。それじゃあ再開だ。おねーさんの実力はよく分かった。もうサービスはしないよ?」

 ヒルダは、ビャクヤの言うことはハッタリだと考えた。先のぶつかり合いで実力差を見せつけられ、虚勢をはっているのだと思う。

 しかし、それにしては、ビャクヤに恐れている様子が一切窺えない。ビャクヤの何を考えているのか全く分からない遠い目も相まって、真偽がまるで分からない。

「アタシも甘く見られたものね。ちょっと当たり所が良かったくらいで調子に乗っちゃって。いいわ、ならもう、容赦しないから」

 ヒルダは顕現を高め、再び宙に浮いた。

 ビャクヤは、浮遊していくヒルダに追撃しようとする素振りも見せず、ただ目で追うだけである。

 しかし、ビャクヤは不意に口元に笑みを浮かべると、宙に向けて手をかざした。

「仕込んでおこうかな?」

 ビャクヤの言葉は本当に小さく、耳元で囁くようだった。そんな声が、宙を上へ上へと行くヒルダに、届くはずがなかった。

「あら、それは何の真似かしらぁ? もしかして降参のつもり……」

 ヒルダは次の瞬間、その答えを身をもって知ることになる。

「きゃあっ!?」

「あーあ。かかっちゃった」

 ビャクヤは、空中に巣網を放っていた。その巣網は、ヒルダの体の一部がほんの少し触れた瞬間、全身を縛り上げた。

「うっ……あぐっ……!」

 ヒルダは、どうにか脱出しようと身をよじるが、もがくほどに鋭い糸はヒルダに食い込み、その身を切り裂いていく。

「ハハハ。苦しそうだねぇ。こう見えて僕は優しいんでね。必要以上に苦しめるのは気が咎める。すぐに楽にしてあげよう」

 ビャクヤは、空中に巣網を張り、そこへ飛び込んで巣網を足場とし、更に空中を進んでヒルダに接近した。

「糸を切ってあげるよ!」

 ビャクヤは、鉤爪を全て直線上に伸ばし、全方位に及ぶように回転させて振り回す。

「アハハハハ!」

 無作為に回る鉤爪は、巣網の糸をヒルダごと切り裂いた。

「ここにも……」

 ビャクヤは糸を放ち、ヒルダを再び拘束する。

「ほらほら!」

 糸を手繰り、ヒルダに接近すると同時に、ビャクヤは鉤爪を全てヒルダを突き刺すように伸ばした。

「ぐうっ!」

 ヒルダは地に落ちた。その衝撃は激しく、鉄筋コンクリート造りの床がひび割れるほどだった。

 ビャクヤは、回転しながら着地した。同時にヒルダへと歩み寄る。

「おやおや……」

 ビャクヤは少し驚いた。

 ヒルダは、巣網の糸による傷を受けているものの、鉤爪による斬撃の傷は全くといってなかった。ここまでやれば、普通の者ならば既に命はないはずであった。

「あれだけ攻撃を受けておいて。まだ生きていられるなんて。驚きだね。姉さんの言ってた通り。キミの顕現の大きさはけた違いなようだね」

 顕現を身に宿す『偽誕者』には、顕現を直に宿す『器』と、顕現による影響を抑える事のできる『生体器(バイタルヴェセル)』の二つの器が存在する。

 本来、『偽誕者』同士の戦いが長引くような事はほとんど無く、勝敗はより大きな顕現を持っている方が即座に勝つ。

 生命力に直結する『生体器』は、顕現による攻撃にある程度は耐えられる。しかし壊れてしまえば、いかにその後に受ける顕現が小さかろうとも、生身では絶対に耐えることはできない。

 故に、顕現の差が大きければ、より強い顕現の保持者の攻撃で弱い方は『生体器』を打ち砕かれる事になる。

 ビャクヤとヒルダのように、ここまでなかなか決着がつかないのは、ヒルダが持つ顕現が並外れて大きいためだった。

「いや。でももう虫の息か……」

 ヒルダの『生体器』はまだ壊れていないが、顕現の能力のダメージが蓄積していた。

 これは、ビャクヤの持つ顕現の糸が、『生体器』を通さずに直にヒルダへと攻撃し、その顕現を吸い取る事ができるためであった。

「さて。そろそろ食べ頃だね……」

 ビャクヤは、両手に糸を顕現させ、ヒルダを縛り上げ、喰らおうとした。

「屈辱……!」

「えっ?」

 ヒルダは、全身を震わせながらもなんとか立ち上がった。

「近寄るんじゃないわよ!」

 ヒルダは立ち上がると同時に、顕現を全て一点に集中し、一気に解き放った。

 圧縮された顕現は爆発を起こし、衝撃がビャクヤを吹き飛ばした。

「うわあっ!」

 爆発の衝撃をもろに受けたビャクヤは、壁面まで飛ばされた。

 ヒルダのやったことは、先のビャクヤと『断罪の免罪符』ハイドとの戦いの時にも行われた顕現の強制解放、その名を『ヴェールオフ』というものだった。

 辺りに漂う顕現さえも集中させ、爆発的な能力の上昇を行うことができるが、発動している最中は顕現を少しずつ失ってしまうデメリットもあった。

 しかし、この行動のデメリットを補って余りある追加効果として、顕現の爆発を受けた相手の顕現をしばらく低下させることができる。

 ビャクヤは、ヒルダの『ヴェールオフ』をまともに受けてしまった。即ち、この瞬間こそ、ヒルダが挽回し、ビャクヤを倒す最後のチャンスであった。

 ヒルダの持つ顕現はやはり大きく、当たってもせいぜい尻餅をつく程度の顕現の爆発が、ビャクヤをかなり遠くまで吹き飛ばすほどの爆発となった。

「ぐっ……ゴホッゴホッ! 全身が痛い……」

 背中から壁に強く激突したせいで、ビャクヤは痛みに喘いでいた。

 それでも体勢を整えながらヒルダを見ると、ヒルダは顕現を放出し、捏ね繰り回すようにして真っ黒な球体を作っていた。

「照らしてあげる、陰鬱なこの(ひかり)でね!」

 ヒルダは、漆黒に光沢を帯びる球体を放った。

「コンデンスグルーム!」

 ヒルダから放たれた闇の球体は、未だ立ち上がれないビャクヤの頭上へと浮遊した。

 そして次の瞬間、球体から数多の刃が一気に降りかかった。それはまるで、籠一杯に詰め込んだ針の山を、籠をひっくり返す事で、相手を頭から串刺しにしようという様であった。

 ビャクヤは、鉤爪を頭上でクロスさせ、迫り来る黒い刃を防ごうとした。しかし、なにぶん数が多すぎる上、刃は細かいために鉤爪の隙間を通ってビャクヤの身を掠めていく。

 付けられていく傷は全く深くないが、次々負っていく浅傷は、熱いものを当てられたような、ひりつく痛みである。

 その間にも、ヒルダはビャクヤに近付き、空中に浮いて更なる顕現を放出していた。

 やがて、針の雨は止んだ。ビャクヤは頭上に浮くヒルダを見上げる。

「うっふふ! 寂しがらなくてもいいのよぉ?」

 ヒルダは、自らの背後に闇を雨雲の如く帯びていた。ビャクヤには、ヒルダが何をするつもりなのかすぐに分かった。

「そーら、行きなさい!」

 ヒルダが顕現を解放すると、背後に雨雲のようにかかっていた闇から無数の剣が、横殴りの雨の如くビャクヤに降りかかった。

 先の針とは比べ物にならない大きさ、威力の黒い剣が断続的にビャクヤに襲いかかる。

「そんなの……!」

 大きな顕現を受けたことで、ビャクヤの顕現はある程度回復していた。回復した顕現で盾を作った。

「そんな薄っぺらいバリアーで、アタシの攻撃をいつまで耐えられるかしらねぇ!? アーハハハハハ!」

 ヒルダは顕現を更に強めた。ビャクヤに降りかかる剣の大きさ、勢いが更に増す。

 激しい攻撃を受けながら、ビャクヤはツクヨミの言っていた事を思い出していた。

 この『夜』の下、最強と謳われる『眩き闇』、ヒルダの最強の所以、それは圧倒的なパワーである。

 小細工など一切存在しない、戦術らしいものもない、ただひたすら力で圧倒する。それがヒルダの戦い方であった。

 話を聞いた時には、力押ししかできないなど大したことはないと思っていたが、今こうしてヒルダの全力を受けていると、侮れない力であったと痛感する。

ーー姉さんの言った通りだね。侮ったわけじゃないけど。これは流石に予想外だったね。けど大丈夫。顕現で押してくるだけなら……ーー

 ビャクヤの纏う顕現の盾は、小さくなるどころか、厚くなっていた。ビャクヤの能力が顕現を喰らうため、通常の『偽誕者』ならばとうに倒されている状態にも関わらず、ビャクヤにとっては逆の状態になっていたのだ。

ーー降ってくる剣が顕現の塊なら。こうやって喰らうだけさーー

 ヒルダからの攻撃を受ける毎に、ビャクヤは自らの顕現を高める。

 全ての顕現を放出し、それ以上の攻撃ができなくなった瞬間に、ビャクヤはヒルダから吸収した顕現を以てヒルダを倒そうと狙っていた。

ーーそのまま顕現を出し続けなよ。後にキミ自身の身を滅ぼす事になるとも知らずにね……!ーー

 今のところ、うまく行っている計画にほくそ笑んでいると、不意にヒルダは剣を降らせるのを止めた。

「やめやめ、やんなっちゃうわぁ!」

 ヒルダは、指を音高く鳴らした。

「ぐっ! 何が……!?」

 ビャクヤは突然、両手足を封じられ、一切の身動きが取れなくなってしまった。

「うふふ、捕まえちゃった!」

 ビャクヤは、何とか動く首だけを捻り、自分の身に何が起きたのか確認する。

ーー地面に刺さった剣が……!?ーー

 ビャクヤを外して床に刺さっていた顕現の刃が、一まとまりの闇の紐状のものになり、ビャクヤの四肢を縛っていた。

「覚悟なさい!」

 ヒルダは、減っていく顕現の残り全てを全身にまとい、炸裂させた。

数多なる眩き闇(パラドクス・アバンダンス)!」

 炸裂した顕現は、拘束されたビャクヤを取り囲む刃となり、ビャクヤから一切の逃げ道を奪った。

 そしてヒルダは、ビャクヤを捕らえた刃の檻の上に浮游し、自らの背後から先の暗雲など比にならない、深淵たる闇を放った。

「相反する眩き闇よ、この空虚なる『器』を満たせ!」

 闇はこの部屋全てを包み込んだ。一寸先もまるで見通せない、完全な暗闇の世界となった。

「ビャクヤ、ビャクヤー!」

 光が全く射さない完全な闇の中、ビャクヤが捕らえられていると思われる先に、ツクヨミは叫ぶ。

「イン・ザ・ダークネス!」

 ヒルダの体の輪郭だけが、太陽を隠す新月の如く輝いていた。

 ヒルダという新月の下、一瞬の輝きの後、すぐに消えていくものがいくつもあった。それは、ビャクヤを捕らえる檻を斬る闇の剣の煌めきであった。

 やがて完全なる闇は消失し、朧気な光のシャンデリアに照らされる部屋の姿が明らかとなった。

「うっ……」

 ツクヨミは目をそらした。いつもの状態であれば全く眩しく感じるはずがなかった。

 しかし、ヒルダが作り出した完全なる闇に覆われていたために、暗めなシャンデリアの灯りさえも太陽光を直視したかのような眩しさに目を伏せずにはいられなかったのだ。

「ビャクヤ!」

 ようやく目が慣れたツクヨミは叫ぶ。視線の先には、腕を組んで頬杖を突くヒルダが、そして地に伏したビャクヤがいた。

「ふふふ……手応えはあったわぁ。けど、あっけなかったわねぇ、ちょっと本気出しすぎたかしらぁ? アタシとしたことが、やっぱり大人げなかったわねぇ!」

 ヒルダは高笑いを上げる。しかし、その笑いはすぐに止められてしまった。全く想定していなかった出来事によって。

「……それで。気は済んだかい?」

 ビャクヤは、鉤爪を伸ばしてそれを支えに、何事もなかったかのように起き上がった。

「どうして、確かに手応えはあったのに!?」

「あはは。焦ってるねぇ。けど惜しかったよ。もしもさっき僕を縛り付けた後に首を狙われたら。さすがの僕でも危なかったかもね」

 ビャクヤは、喋りながらつかつかとヒルダに歩み寄っていた。ヒルダも迎撃しようとするが、大技で顕現を大量に消費したために、長い針ほどの大きさしか作り出せない。

「さて。そろそろ決めさせてもらうよ。飽きてきちゃったんでね!」

 ビャクヤは、顕現を一点に集め、『ヴェールオフ』を発動した。そして鉤爪を振り回しながらヒルダに連続攻撃を仕掛ける。

「ハハハハッ! それそれそれそれ! めった切りだ!」

 ビャクヤは、フィギュアスケートの技術のように回転しながら、ヒルダを切り付けた。

「うぐっ……! キャアンッ!?」

 ヒルダは、ビャクヤの攻撃を受け止めようとしたが、ビャクヤの攻撃は一回転する毎に八回の連続的なものであり、顕現をほとんど込められない守りは容易く破られてしまった。

「まだまだだっ……!」

 ビャクヤは、急停止すると同時に顕現を一気に鉤爪へと集め、瞬時に伸びたそれらを前屈姿勢になりながらヒルダに向けた。

「貫け!」

「いたぁいっ!?」

 この攻撃により、ヒルダの守りは完全に破れ、宙に吹き飛ばされた。

「ほらほら逃さないよ!」

 ビャクヤは、ヒルダの飛んでいった方に巣網を放った。巣網はヒルダを先回りして宙に広がり、ヒルダの体が触れた瞬間拘束した。

 ビャクヤは、巣網に糸を伸ばし、ヒルダに向かって跳躍した。そして、その勢いはそのままに、鉤爪を前にして体当たりした。

 ビャクヤは素早く着地し、鉤爪を足元に集めると、スライディングの要領で地面に足を伸ばした。そこへ丁度よくヒルダが落下した。

「チェックメイトだ!」

 ビャクヤは、立ち上がりながら纏っていた顕現を爆発させた。爆発に当てられたヒルダは再び吹き飛ばされ、壁に強かに叩き付けられる。

「ギャッ……!」

 ヒルダは、壁に激突すると口から血を噴き出した。既にダメージはもう、昏倒しそうなほど大きなものであったが、ヒルダは意識を失わず、前を見続けた。

 見つめる先には、もうビャクヤが寸前まで迫っていた。

 ビャクヤは、両手に大量の糸を顕現させ、ヒルダに口づけするかのように迫った。

「仕止める……!」

 ビャクヤの顔はヒルダの横を通りすぎた。耳元でささやくような声がすると、ビャクヤの姿が一瞬消えた。次の瞬間、ヒルダは何重もの糸で身動きを封じられていた。

「逃げ場なんて。ないよ?」

 ビャクヤは、ヒルダの真横にいた。

「ンぐッ……ンん!」

 ヒルダは、身動きのみならず呼吸も封じられていた。少しでも息ができるように、糸の隙間を鼻と口で探してもがいている。

「あはは。いいねぇその表情。さて。『眩き闇』なんて言われてる顕現の保持者の味。いったいどんなものなんだろうね……?」

 ビャクヤはヒルダに、止めを刺そうとした。

「待ちなさい、ビャクヤ」

 ビャクヤが止めに鉤爪を動かそうとした瞬間、ツクヨミはビャクヤを止めた。

「姉さん? 急にどうしたのさ。まさか。こいつを殺すのが惜しくなったのかい?」

「そんなはずないでしょう。最後に二言三言、話したいことがあるだけ。とりあえず顔だけ解放してあげなさい」

「はいはい。分かったよ」

 ビャクヤは、鉤爪を振るってヒルダの頭付近の糸を切った。

「ごほっ……! げほっ……!」

 ヒルダは、窒息寸前であったが、まだ呼吸することはでき、急激に入ってきた空気に激しく咳き込んだ。

「よかったわ。まだ意識はあったみたいね」

 ツクヨミは不敵な笑みを浮かべ、捕らわれたヒルダを見下す。

「応えてくれなくていいわ、ただあなたに言っておきたい事があっただけだから」

 ヒルダは、息も絶え絶えにツクヨミを睨むしかできなった。

「借りは返しておく。……別に私自身が借りたものではないのだけど。あんな男でも、嘗ての私の仲間だったのでね……」

「……一体何の事かしら?」

 ヒルダから返答があった。

「あら、まだ話せる元気があったのね。ならもう少しだけお話ししましょう。『万鬼会』、『鬼哭王』オーガ、ここまで言えば思い出したわよね?」

「アタシたちにケンカを吹っ掛けてきた……!?」

 ヒルダには覚えがあった。それもそのはずである。『万鬼会』とは、『忘却の螺旋』とどちらが強い能力者集団であるか、それを決めるため直接対決をした組織であった。

 そしてその時の戦いで、『万鬼会』は『忘却の螺旋』、というよりはヒルダ一人の力によって下された。しかし、大打撃を受けたのは『万鬼会』だけではなかった。

 あの戦いで、『忘却の螺旋』側の人間が『深淵』の顕現に触れ、虚無に落ちてしまっている。ヒルダの朦朧とする意識でも、ありありとその夜の記憶が甦った。

 ヒルダが、全てを思い出したような様子を見せたのを確認すると、ツクヨミはヒルダの耳元に顔を寄せ、囁いた。

「"Mein richtiger Name ist Strix.Strix von "Sephirot".Hast du dich an mich erinnert ?"(私の本当の名は、ストリクス。『生命の樹(セフィロト)』のストリクス)。思い出してもらえたかしら?)」

「セフィロト、ですって……!?」

 耳慣れない言葉で囁かれたが、ヒルダはこの単語だけは聞き取ることができた。

 ツクヨミは、ヒルダから顔を離し、背を向けて歩きだした。

「さあ、もういいわ。やって頂戴、思う存分味わうといいわ」

 ツクヨミは、ビャクヤとすれ違いざまに告げ、二人の戦いを見守っていた所まで下がっていった。

「ふふ……待ってたよ。その台詞……」

 ビャクヤは小さく笑うと、ヒルダの目の前に立つ。ヒルダは、これからビャクヤに捕食されようと言うのに、見ていたのは離れていくツクヨミの背であった。

「待ちなさい! あなた、助けてあげた恩を……むぐっ!?」

 ビャクヤは糸を放ち、猿ぐつわのようにヒルダの口を塞いだ。

「何を騒いでいるんだい? キミは負けたんだ。散り際は潔くするものだよ」

 ビャクヤは、鉤爪に糸を纏わせ、風車のように鉤爪を回転させた。

「さあおいで。僕の中に……!」

 ビャクヤは、回る鉤爪の中心に、ヒルダの頭から足元まで通した。鉤爪によって糸が巻き付けられ、ヒルダは最早原形が分からないほどぐるぐる巻きされた。

 ビャクヤは、ヒルダを巨大な蛾の繭のようなものにすると、風車のように纏めていた鉤爪を拡散し、四方八方、上下に至るまで繭を囲んだ。

「ハハハハハッ! 楽しいねぇ!」

 ビャクヤは、繭に向かって鉤爪を一気に突き刺した。中に囚われるヒルダはズタズタに貫かれ、引き裂かれた。

「こんな……! きゃああああ……ッ!」

 繭は一瞬にして、ヒルダの血に染まった。そして血煙とともに弾け飛んだ。

 糸から解放されたヒルダは、そのまま力無く倒れ、血の海に沈んだ。

 ヒルダは、全身をめった刺しにされ、胸元から腹部にかけてぱっかりと裂かれている。眼をかっ、と見開き、瞳孔は散大している。完全に事切れていた。

「ぷっ!」

 ビャクヤは、吹き出したかと思うと天井を仰ぎ、腹を抱えて大笑いした。

「アハハハハ……! この人すごい雑魚だよ!」

 ビャクヤは、死体を指さしてしばらく笑った。

 ヒルダの死体の上に、黒く光るものが浮かんで来た。ビャクヤは、それに向けて鉤爪を伸ばして挟み、それを自らの口元に寄せる。

「ふう……笑ったら。余計にお腹が空いちゃったよ」

 すっ、と一息吸うと、ビャクヤは黒い輝き、ヒルダの顕現を飲み込んだ。

「はい。これでおしまい。一丁上がりってヤツだ。ごちそうさま」

 ビャクヤは、中身を失って空っぽになったヒルダを見る。

「どうだい。痛いかい? 身に染みたかい? 分かっただろう。世の中にはこんな規格外(アウトロー)がいくらでもいることが。キミだけが特別強いなんてことはない。懲りたのなら。二度と稚拙な企みなど考えないことだね……」

 ビャクヤは口元を吊り上げた。

「……いや。もうしたくてもできないか。そんな孔だらけの身体じゃ……」

 ビャクヤは、恐ろしい笑いを止め、慈しむような笑みをヒルダに向け、顕現を喰らって熱を持つ、自らの腹をさする。

「安らかには眠れないだろうけど。この腹。温かさは保証するよ。おっと。お腹の中で眩く光るのは止めてくれよ? 蛍みたいになっちゃうからさ……」

「……終わりね。『忘却の螺旋』の『眩き闇』と言えど、あなたにかかればこんなもの。さすが、『捕食者』の名は伊達じゃない」

 ツクヨミは、惨死体となったヒルダを冷たい瞳で見下ろした。

「まあね。それほどでもあるかな。それにしても珍しいね。姉さん自ら死体(食べ滓)を見に来るなんて」

「……この女には、本当に大きな借りがあったのでね。せいぜい無様な死に顔を拝んでやろうと思っただけよ」

 ビャクヤに喰われた人間は、その大概が見るに堪えない惨殺体となるため、ツクヨミはこれまで、そうした人間を見ることはなかった。しかし、この女にだけは一切の同情が湧かない。

 ヒルダがいたせいで、ツクヨミは『万鬼会』の一員として戦うことになり、親友を失うことになった。

 あの時、助力するという形で共に戦った男、『鬼哭王』オーガの仇も少しはあった。

 しかし、ツクヨミを支配するのは、彼を殺されたことではなく、親友との決別を生む切っ掛けとなったヒルダへの憎しみであった。

ーーこの女さえいなければ、私たちは変わること無く一緒にいられた。オーガは別にいいけど、ゾハルとは一緒にいたかった。この女が全ての元凶……ーー

 いくら恨もうとも、死んだオーガはもとより、虚無へと落ちつつあるゾハルは戻らない。戻らないが故に、ツクヨミから、ヒルダが死んだ後でも憎しみが消えなかった。

「ビャクヤ、この女には、殺して、顕現を奪うだけじゃ足りないわ。骨の一欠片、髪の毛一本残さず喰らいなさい」

「姉さん。無茶言わないでよ。僕の食事は顕現を喰らうこと。人の血肉を食べる趣味はないんだから」

 ビャクヤの捕食は、自然界における蜘蛛とかなり似通っている。

 自然界の蜘蛛の捕食は、獲物を毒殺した上で、内部に消化液を注ぎ、溶けた中身を吸い尽くすというものである。

 ビャクヤの捕食もほぼ同様であるが、蜘蛛と違うところとして、獲物の生死は関係無い所がある。顕現という中身を啜るのだ。

 蜘蛛もビャクヤも、空っぽになった獲物には手を付けない。蜘蛛であれば、吸い尽くした死骸はそのまま放置するか、巣網にかかった場合であれば巣から放り捨てる。ビャクヤも同様に、死んだ人間の人肉を喰らう事はするはずがなかった。

「私の言う事が聞けないのかしら?」

「そうじゃなくって。ほら。僕らの普段の食事を思い出してよ。器までは食べないだろう? それと同じで……」

 ビャクヤはふと、何かがここに近付いてくる気配を感じた。

「姉さん。何かが近付いてきてる。これは……『偽誕者』? いや。それにしては……」

 苦笑を浮かべていたビャクヤが、急に真顔になった。いつも大小あるものの、ほぼいつも笑みを浮かべているビャクヤの真顔は、惨殺体を見るよりもツクヨミの背筋を凍らせる。

「なっ……急に何事なのビャクヤ! 人を不安にさせるような真似は悪趣味だとさっきも言ったでしょう!?」

 吠えかかるようなツクヨミの言葉はひとまず流し、ビャクヤは気配を探った。その正体は次第に明らかとなっていく。

ーーこれは……そうか。あの……!ーー

 ビャクヤは、迫り来るものの正体を把握した。

「姉さん。ちょっと下がろうか。片付けも。きっとあいつがやってくれるよ」

「ちょっとビャクヤ?」

 ビャクヤは、ツクヨミの手を引いてヒルダの死体から離れた。それとほぼ同時だった。

 窓ガラスが破られ、辺りに耳障りな破壊音が響いた。

 真っ黒に包まれた異形の存在は、辺りの物を破壊しながら部屋の内部まで下りてきた。

「一体なに……!?」

「しー」

 ビャクヤは、片手でツクヨミの口を押さえ、ウィンクをしながら鼻の前で人指し指を立てる。

 シャンデリアも破壊され、部屋の中は一時暗闇に包まれた。闇の中で突然闖入してきた異形は、二つの眼光と思われる真っ赤な光を持ちながら、床に転がっていたヒルダの死体をバリバリ音を立てながら貪っていた。

 ツクヨミは、混乱の中にいるしかできなかったが、ビャクヤは闇の中、大きな笑みを口元に浮かべていた。

 それは、ビャクヤがずっと待っていたものだったのだ。

 

 おまけコンボレシピ

 

 2B>5BB>2C>B料理二段>空A罠>5C>3C>jc>JB>J2C>JC>DB>A料理一段>A罠>B派生>JAスカ>DB>A料理三段>C食べ頃

 

 現環境におけるビャクヤの基礎コンボ。前作に比べるとコンボの補正がきつくなっているので、エリアルの後に拾う技はDBしか使えない。2Bや2Cでも拾えないことはないが、その後が繋がらなくなる。DB>波動コマンドと言う入力は、非常に昇竜コマンドに化けやすいので、少し練習が必要である。しかし、DB>料理の連携は、今回のビャクヤを使う上でほぼ必須なので、是非しっかりと出せるようになりたい。

 B派生後は、前作であればBを連打してJBスカを出していればよかったが、今作では派生行動の先行入力が効くようになり、発生が速くなっている。その上、JBの攻撃判定も広くなっているため、JBスカを狙ってBを連打しているとJBが当たってしまってコンボ中断となってしまう場面が増えてしまった。なので、今作ではB派生後は広く一般的に使われるJAスカができるように手癖にしたい。

 ビャクヤの新技として5BBがあり、パッシングリンクに対応している上、発生にディレイがかけられる。5Bが空振りしていた場合であっても出てくれるため、暴れ潰しに便利な技となっている。前作では2B>5C>2Cというのが固めのパーツとして鉄板であったが、この技の出現で2B>5B>dlBも強力な固めパーツである。2B>dl5Bとセットで使うことで、相手のヴェールオフを詐欺ることもできる。

 また、5BBの追加部分だけが当たると、特別なルートに移行できる。

 

 5A>5BB>2C>5C>B罠>C派生>ダッシュ>3C>jc>JB>J2C>JC>DB>A料理一段>A罠>B派生>JAスカ>DB>A料理一段>C食べ頃

 

 立ち回りの主力となる5A始動のコンボ。上への判定縮小という弱体化を受けた技であるが、発生6Fにして前に長い技なので、近距離戦をしている時には変わらず頼りになる。前作ではアサルトを叩き落とすことができたが、今作では当たらなくなっている。

 また、数あるビャクヤの弱体化点の一つとして、料理をコンボに組み込むとダメージ補正が重くなるようになってしまった。その代わりに、各種罠派生行動を当てるとダメージ、コンボ補正共に軽くなるようになっている。

 上記のコンボは、料理を入れずに派生技を組み込むというコンセプトで作った。コンボダメージの大幅減という大きな弱体化を受けたビャクヤであるが、これで3700ダメージを奪える(VP中)。なので、ビャクヤのコンボを作るときには、料理を除く、派生技を上手く使う、同技をできるだけ使用しないようにすれば、前作ほどではないにせよダメージの大きいコンボになる。

 それから、派生技を入れたコンボには微ダッシュ入力がほぼ必須となる。前方向にキーが入っているとダッシュ攻撃が出てしまうので、ダッシュ後ニュートラルにする手癖をつけたい。

 

 2C>B料理二段>空A罠>微ダッシュ>5C>B罠>A派生>5B>3C>jc>JB>J2C>JC>DB>A料理一段>A罠>B派生>JAスカ>DB>A料理一段>C食べ頃

 

 リーチの長い下段技からのコンボ。IWを組み込まないコンボとしては、ほぼ最大ダメージをとれる。ダメージはフルヒットして4100(VP中)。先ほど料理を除くとしておきながら、B料理が入っており、矛盾していると思われるかもしれないが、C系統の技が始動の時はその限りではない。

 C系統の強力な技から入った時には、上記のようにB料理からエリアルに行くまでの間に、5C>B罠という連携が組み込める。罠後の派生技を当てることでコンボダメージが伸びる。しかし、その際にバウンドを一度必ず使ってしまうので、C食べ頃で締める時にA料理三段を入れるとバウンドを使いきって繋がらない点に注意しよう。

 ちなみに、5Cの後にA罠でも繋げることができるが、同技補正でダメージが下がってしまう。この問題はその後の罠をB罠にすれば一応は解決する。どちらを先に使うかはやりやすい方を選べばよい。

 B料理からの空A罠後に、着地してすぐにダッシュを入れなければB罠が当たらないが、A罠であればキー入力しなくても当たる。相手との位置関係がとても微妙なので、場合によってはダッシュしたつもりがバクステになってしまうことがある。どうしてもバクステが暴発してしまう時にはA罠B罠を逆に使うといいかもしれない。

 

 2C>5C>C罠>A派生>微ダッシュ>5B>3C>jc>JB>J2C>JC>DB>A料理一段>A罠>B派生>JAスカ>DB>A料理一段>C食べ頃

 

 今作の2Cはとてつもなくリーチが広くなった。具体的にどれくらいかというと、開幕位置からほんの少しだけ前進しただけで届くほどである。しかし、それほど距離が離れていると、料理では拾えないため、5Cに繋げてC罠を当てるしかできない。ダメージは落ちてしまうが、この技の存在だけで相手にプレッシャーを与えることができるだろう。

 安全だと思われる位置から牽制技を振る相手の隙を突くように使おう。

 

 5C>2C>B料理二段>空A罠>微ダッシュ>5C>B罠>C派生>ダッシュ>3C>jc>JC>J2C>JB>DB>A料理一段>A罠>B派生>JAスカ>DB>A料理一段>C食べ頃

 

 確反や5A>5Cの補正切りから狙うコンボ。5CやFF、DCやICJ2Cから入った時は、エリアルパーツをJC>J2C>JBという並びにすることでダメージアップできる。この並びだと約4030ダメージ。いつも通りの並びだと3980ダメージほど(VP中)。コンボダメージの低下という弱体化を受けたビャクヤにとって、50ダメージの違いは意外と大きい。是非とも狙いたい。

 

 アサルトJC>5A>5BB>2C>A罠>ダッシュ(すり抜け)>5C>3C>jc>JB>J2C>JC>DB>A料理一段>B罠>B派生>JAスカ>DB>A料理三段>C食べ頃

 

 アサルトからの崩し始動。アサルトJC以降は5A始動のコンボとほぼ同じだが、2C>5C>B罠が当たらないため、2Cで止めてA罠を当てる。ダメージは3400。VP中でなくとも3100はいくので、威力も申し分ない。アサルトして最高地点からJCを当ててもしっかり繋がる。もしも繋がっていなくても補正切りを狙える。練習の際には、ダミーを全てガードの途中からを選ぶといい。JCから繋がっていない場合はガードされる。

 

 FF>2C>5C>B罠>C派生>ダッシュ>3C>jc>JC>J2C>JB>DB>A料理一段>A罠>B派生>JAスカ>DB>A料理一段>C食べ頃

 

 強力な中段始動。ダメージは4050ほど(VP中)。今作でICFFの発生フレームが速くなったため、一歩歩いてFFか2Cで二択を迫ることができる。そこにダッシュ投げや、ICAB食べ頃等も混ぜると相手は守るのが困難になる。前述の通り、エリアルパーツの並びを変えるとダメージがかなり上がる。

 

 IC罠C派生>2C>5C>B罠>A派生>微ダッシュ>5B>3C>jc>JC>J2C>JB>DB>A料理一段>B派生>JAスカ>DB>A料理一段>C食べ頃

 

 今作のビャクヤの最大の変更点とも言える、IC罠を使った下段崩し始動。モーションはICFFと非常に良く似ており、中段の鉤爪が飛んでくると思いきや、ビャクヤ本体が飛び、JCのような挙動を見せたかと思いきや、不意に足元にDBの挙動で出現する。空中からのまさかの下段は非常にガードが難しい。予測困難な下段であるためか、若干ダメージ補正はきついが、上記のルートを使うと3700(VP中)までダメージが伸びる。このような強力な技であるにも関わらず、足元に出現すると同時に出す罠がカバーしてくれるため、ガード後の隙はほとんどない。

 IC罠派生は、このC派生と足元罠を設置するだけのD派生を除くと、最大ダメージを取れるほどに補正が緩い。中段のA派生、上段ながらもめくりを狙えるB派生は軽く4000ダメージを叩き出す。A派生のみ、一切の罠を出さないので、攻撃技で拾う必要がある。

 また、この技の特徴として、最後に出した足元罠以外の罠に飛んでいくというものがある。ビャクヤの現在地よりも後ろに罠がある場合、後方へと移動する。画面端に追い詰めて、相手の頭上足元、少し前という順番で三つ罠を張ったとき、その後の固めでIC罠派生を使うと、下がると見せかけた下段、もしくは中段を打つことができる。

 BもしくはC派生を使用したとき、ビャクヤが消えている瞬間があり、この瞬間は無敵時間である。しかし、ほんの数フレームの間のみであり、派生を出してすぐに消えるわけではないので、相手のヴェールオフによる切り返しに若干弱いということに注意しよう。

 

 特別編、罠カバーFF連携

 

 2B>5BB>2C>B料理二段>空C罠>D派生>5C>3C>jc>JC>J2C>JB>DB>A料理一段>A罠>C派生>2C>A料理一段>A罠>A派生>C食べ頃>ダッシュ>低空A罠>B罠

 

 画面端にてC派生を最大限活用した連携。これまで挙げたコンボは、動画として既に投稿しているものだが、これはこの場が初めての発表となる、この作品の読者だけの特別である。

 罠C派生を画面端で使用すると、相手を中央に戻してしまうことになるが、それを逆手に取った連携である。

 ビャクヤをメインで使う、もしくは良くビャクヤと対戦しているならば周知のことであろうが、ビャクヤのFFは強力な中段技であるため、ガードされた時の隙は大きい。画面端で使うのであればCSが欠かせないほどに大振りの技である。

 しかし、画面中央であればそれほどでもなく、先端部分をガードさせれば通常技による確反はほぼない。一部必殺技で確定を取られるが、とっさのワンボタンの反撃くらいでは、ビャクヤ側は余裕でガードが間に合う。

 だが、ビャクヤのFFはその威力に見合った発生の遅さであり、発生フレームは26である。これでは画面中央での固めで使うにはきつい所がある。相手からすれば、まだ後ろに下がる余地があり、空振りする危険がある。空振りすれば、相手はダッシュしてビャクヤに反撃を与えることができる。

 では、やはりビャクヤがどこにいようとFFを使用する際にはCSが必須なのか、というと、そうではない。ガード後の隙をカバーし、なおかつ、相手にとって後退するのがためらわれるものがあればいい。それは何かと言うと、罠である。

 相手の後ろに罠があれば、FFガードのヒットバックで罠が当たり、相手にむしろ不利を背負わせることができる。

 そんな状況を作り出せるのが、このコンボ、並びに罠を置く連携である。

 画面端でB料理を当てると、空C罠>D派生で足元罠を張れる。その後あえてC派生を当てて相手を画面端から引っ張り出し、画面端に近いが中央付近の位置でC食べ頃で拘束する。その後、相手と罠が重なるくらいの位置までダッシュして低空A罠を張り、その後地上B罠を張る。大体その頃に拘束は解除される。

 それからの起き攻めには、2Bを重ねる。もしもヒットすれば、低空罠が拘束し、コンボに行ける。ガードされていれば、ヒットバックで相手が下がるために低空罠は当たらずに残り、後ろの地上罠とスレスレの位置になる。

 その位置でFFを使うと、ガードされていれば後ろの罠がカバーし、ヒットすれば2Cで拾ってコンボに行く。ガードされていてもこちらが攻め継続となり、再び固めに行ける。この時、ずっと前に張っていた足元罠が活きることになる。もう一度罠がカバーしてくれるFFが打てるのである。

 もしも相手が後方に受け身を取っていたとしても、回数は一回になるが罠カバーFFが使える。

 長々と書き綴って来たが、私もこの連携はまだ数えるほどしか実戦投入はしていないが、この形とは違うが、罠カバーFF連携は何十戦かは試してきた。大体のプレイヤーが、FFガード後は安心するのか、その後の下段が通りやすいという感じがした。投げ択も仕掛けることができるので、使いこなせればかなり強力な連携であるという自負はある。読者の皆も是非試してほしい。




 どうも、作品の綾田です。
 いやー、ついにリリースしましたね、UNIclr!(今更すぎる……) BBTAGの大型アップデートの時もキャラクター性能の大きな変更点に興奮したものですが、UNIclrリリースはそれ以上でしたね。再戦機能が追加されたり、プレマでもトレモ待ちができたりと、対戦環境が圧倒的に快適になりましたね。
 前回UNI小説を投稿した時点では、クレアリリースまで残り三ヶ月であり、Vita版エストから数えて初の紫になれた記念として記録を残しておこうと、クレアまで対戦を禁止していました。(まあ、そんな記録はどこにも残らないんですが(-_-;))
 クレア発売後は真っ白のゼロからまたスタートでしたが、現時点ではネットワークカラー紫のrip160万で止まっています。この作品を投稿するまでは、とまたもや対戦禁止していたので……
 一時はランキング二位まで行きましたが、恐らく今ではトップ10に入っているかどうかも怪しいです。皆さんがこれを読んでいる頃には、多分赤に戻っているんじゃないかと思います。(だって、紫のプレイヤーのほとんど強すぎるんだもん……紫になると途端に勝てなくなります(>_<))
 さて、クレアになって、ビャクヤはかなりの進化を遂げましたね。料理やDBのディレイ猶予とか、2Cのリーチ延長とか、5Bの攻撃判定増加とガード硬直の減少とか、派生行動の先行入力とか……(挙げればきりがないですね……f(^_^;)
 中でもとてつもない強化点と言えるのが、やはり、IC罠とその派生行動だと思います。特にC派生、空中にいながら下段のスライディング、しかも一緒に出る罠が隙をカバーしてくれるなんて、最強技と言っていいでしょう。BBCFのイザナミの展開中浮遊のB灯雷の矛と性能的には似ていると思いますね。(ガードされてもビットを撃って隙を消せる所なんかがまんまです。もしかしてこの技、イザナミのB矛をモデルにしたんでしょうか?(?_?))
 話は急に変わりますが、クレアリリースまでの期間、BBCFを本格的に始めていました。BBTAGから本編のBBCFに入ったわけですが、BBTAGが二キャラ使えなきゃしんどいゲームだと分かって、それならハナから一人で戦う方にしよう! と思って触りだしたんですが、操作感が違いすぎて即挫折しました……。キャラはBBTAGからハザマを選びましたが、こいつのコンボがこれまた難しすぎて、即挫折に繋がりましたね。ステップBを出すのが難しいのなんのって。しかも、ウロボロスゲージの存在で、BBTAGみたいにとりあえずウロボロスで近付くというのもできなくて。
 それから約半年放置していたわけですが、クレアリリースまで暇すぎたので、またBBCFやり直そうかと思い、心機一転してキャラをイザナミにしました。(これまた難しいキャラを選んで……(^-^;)確かにイザナミは難しいキャラですが、パターンに入ってしまえば一気に持っていけるポテンシャルを秘めていると感じました。まんまビャクヤとキャラ性能が似てるんですよね。一回転ばせたらそのまま十割持っていける所が。そんなこんなで、コンボも大方できるようになりました!(まあ実戦で安定するかは置いといて……(゜゜;)\(--;)ォィ) どうやら私は、ビャクヤやイザナミといった超強力な起き攻めのセットプレイを持つキャラが得意みたいですね。BBTAGでも今はニオをメインにハザマを使うというスタイルでやってますが、ニオも超強力起き攻めキャラだと思ってます。端に追い込んでハザマ4Pを置いて、ニオの竜巻Bを入力すると、相手の無敵技をかわして手痛い反撃を与えられます。このネタがバレたとしても、ニオの竜巻AとCで中下の択を迫れるのでやっぱり強いです。(ちなみにこのタッグでマスターIVまで行きました(^^)v)
 話は戻って今作のビャクヤ。方々から火力低下を嘆く声が多くありますが、私はあまり気にしてない方です。(それでももう少しだけ火力があれば4000飛ぶのに……と思うことはあります(-.-))火力と引き換えにとてつもなく崩しのパターンが増えたので、むしろお釣りが出るくらいだと思っています。なので、今作では前作以上に起き攻めで相手を圧倒しよう、というコンセプトで色々コンボやセットプレイを考えてます。(まあ、まだほとんど実戦投入はできてないんですけどね(^_^;))これからは積極的に対戦して色々試したいと思います。
 余談ですが、この小説のタイトルの"withered lilac(ウィザードライラック)"というのは、私の使うビャクヤのカラバリです。十番目の色ですね。ですが、クレアリリースから新色に惚れ、今は"little briar rose(リトルブライアローズ)"を使ってます(三十八番)。どっちも花の名前が入ってますね(ただの偶然。今気づいたくらいです(~_~))。本当はピンク系の色が好きなんですが、ビャクヤのカラバリにはバリバリのピンクカラーは無いので、まあ、こんなもんかな? というくらいに選びました(そういう考えで行くと、やはり十番カラーの方が近いのは内緒です( ̄ー ̄)ちなみに三十八番カラーの一番強いピンク要素はIWE)。
 さて、長々色々と書いてきましたが、最後に次回BBTAGに追加キャラがあるとしたら誰か、予想を挙げておきたいと思います(予言にならないかな?)
BBCFからイザナミ、UNIからビャクヤ、アルカナからシャルラッハロート、ペルソナからマリー、メルブラ参戦してレン、天華百剣参戦して五虎退吉光(Esと中の人同じ)、以上ただの私の願望でした!(゜゜;)\(--;)ォィォィォィ
 次回でいよいよこの小説も最終回となります。本当はハイド戦辺りで終わらせて、またもうちびっとだけ続くんじゃをやろうかと思いましたが、さすがに長引かせすぎたと思って、今回はこのような終わり方になりました。次回はあのキャラを出して、最後の戦いをして必ず完結します。おまけコンボレシピも余すこと無くかなりのボリュームでお送りします。どうぞご期待ください!
 それでは次回、またお会いしましょう。UNIclr、BBCF、BBTAGでもお会いしたら対戦よろしくお願いします! 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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