三題噺とは落語の席でお客さんにお題を提示してもらい。即興でお話を創つくるというものだそうですね。あがれ!俺の文才!。

※常時お題募集中!
ルール
お題は「人の名前(種族でも可)」・「物の名前」・「場所」の三つ。
提示してくださる方はコメントのほうへ、どうかお願いいたします。

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狐目の青年

「あなたのその目素敵ね」

 僕に声がかかるなんていつぶりだろう。その透き通った綺麗な声の主は河川敷に座っていた僕の隣に腰を下ろした。

 制服の校章あたりまで伸びた光沢のある黒い髪とハリのある白い肌。こんな美しい女性が何故僕なんかに声を?。

「僕なんかに何か用ですか?」

 隣にいる彼女を見ようとするが彼女の美しい瞳を直視できない。

「特になにも? ただ、毎日ここを通ると夕日を眺めてる狐目の男の子がいて興味を持ったから?」

 彼女の話し方は僕を子供扱いしているようにも聞こえた。見た目的に同い年に見えるはずなんだけどな。

「さっき、僕の目が素敵と言いましね。こんな狐みたいな目のどこがいんですか?」

 僕がふてくされた感じに聞くと何故か彼女はそんな僕を笑った。秋の少し冷たい風が彼女の風をなびかせている。

「あら、素敵じゃない? 私、そういう目好きよなんか………」

 

 

 

「人間じゃないみたいなところ」

 

 

 

 彼女は少し声のトーンを下げ、僕の耳元でそう囁いた。僕が沈黙すると彼女はまた軽く笑い腰を上げた。

 僕は彼女が自分から離れていくのを引き留めたいという気持ちから手を彼女のほうへ伸ばすが僕の手を彼女の体は、髪は、香りは、すり抜けていった。

「……また、届かなかったか」

 そう呟いた僕は、また辺りが暗くなるまで夕日を眺めていた。

 

 段々と、僕が夕日を眺められる時間も冬が近づくにつれ、短くなっていた。最近は河川敷に腰を下ろす頃には夕日が西の山に沈み始めているようになった。

 僕がいつも通り、楽しくもなさそうに夕日を見つめていると遠くから男子数人の声が聞こえてきた。

 目で見なくても分かる。人数は三人、お互いに同じ学校に通っているテニス部の幽霊部員。それでも僕が気付かないふりをしているとその三人は僕につっかかってきた。

「おい、雄咲(おざき)。なに、俺らを無視してくれてんだよ! 頭ぐらい下げろっての!」

 僕の胸倉をつかみそのうちの一人が僕を怒鳴り付ける。その光景を見て後ろの二人は笑っていた。

「何で、君らに頭を下げなきゃいけないんだい?」

 嫌そうな目つきをしながらそう言い返す。そうするとその言葉に逆上した彼がさらに胸倉を強く握り、おでこを僕の額にくっつけてくる。

「んだとぉ~~? てめえ雑魚のくせに随分と調子に乗ってくれるんじゃねえかああ!?」

 それに言い返そうとした僕の頬に衝撃が走った。そうやら彼が僕の顔をぶったらしい。その衝撃で僕は地に伏せた。痛ぇなこれ、口が切れてるじゃないかこれ。

 その光景に再び腹を抱えて笑っていたふたりの青年も僕のところに寄ってきた。そしてうつ伏せの僕の脇腹を一斉に蹴りだした。

「そうだぜ~~? 雑魚で力もないくせに図に乗るから痛い目に合うんだぜ~?」

「今度からは口は慎んだ方がいいなザコザキくん」

 上から僕の哀れな姿を笑う彼らの声が聞こえてくる。結局、この仕打ちは日が暮れるまで続いた。無抵抗の僕に彼らは殴る蹴る等の暴行を加えた。通りかかる同じ学校の生徒たちも止めるどころか僕を可哀そうに思う生徒はひとりもいなかっただろう。中にはいじめられる僕を鼻で笑いながら通って行く生徒もいた。

 体中に傷を負った僕を地面に叩きつけると、満足したように彼らは去っていった。

 咳き込み、吐血をしたりしながら息を整えた僕は、月が映っている河を眺めていた。

 

「全身傷だらけじゃない! どうしたの?」

 もう聞けないと思っていた、透き通った声が僕の耳に届いた。声の主は心配そうに僕に近づくとまた、僕の傍に座った。

「そういえば、名前を聞いてませんでしたね」

「人に名を聞くときはまず、自分から名乗るってのが礼儀でしょ」

 開始早々、こちらのテンションを下げることを言ってきた。それでも、何故か彼女を話していると気が楽になる感じがした。

「水玖美 雄咲(みずくみ おざき)……僕の名前です」

「水玖美君。か、随分と変わった名前なのね。私は神崎 夜空(かんざき よぞら)。よろしく? かな」

 随分と素敵な名前だなと思った。これならもう少し、きまった名前を名乗っておけばよかったかな。そんな事を考えていると夜空さんが僕の異変にきずいた。

「傷が……癒えてる」

 体中にあったはずの痣が見る見るうちに小さくなり消えていた。予想通りの反応だったがやっぱり溜め息が漏れてしまう。でも、本当の事を言おう。

「僕は誰よりもこの町に詳しい。この町でわからない事なんて何もない。夕方の雰囲気から明日の天気なんて天気予報を見なくたって分かるし、目をつぶっていたって的確にお天道様を指差せる自信がある」

 僕の突然の語りだしに夜空さんは沈黙を守っていた。冬をまもなく迎えようとする日の夜は寒い。非情な冷たい風が耳の感覚を徐々に奪っているが僕は続けた。

「夜空さんは妖怪っていつと思う?」

「独り言から一転して急な質問ね、もしかしてそのことと今、私の目の前で起こっている事は関連してる?」

 夜空さんはどうも察しがいい様子だ。僕は視線を上げ、空は見る。厳しい寒さと打って変わって冬の夜空は本当に美しい、宇宙から僕の瞳に輝きを届けている星達を見つめながら僕は再び口を開いた。

「二千年は生きたかな……その間、ずっとこの姿だったんだ。歳もとらない、傷だってすぐに癒えるし死なんて言葉とは無縁だった。僕は妖怪なんだ。この町にきたのは今から百年ぐらい前、長居はするつもりじゃなかったんだけどね、どうも気に入っちゃったみたいでずっとここに住み着いてるんだ」

「百年もこんな町にいて、退屈とかしなかったの?」

 言葉を失うと思ってたけど、夜空さんはメンタルも強いらしい、こんな僕とお話ししようなんて物好きな人間もいたもんだ。

「退屈はできなかった。興味本位で学校に通ってた事もあった。でも、授業なんて一回聞けばすぐに理解はできるし、行事とかも、ただ単に物好きな奴らたけがワイワイしてるだけ、楽しくなかったな」

「でも、退屈できなかったって……」

「ああ、退屈はしなかった……感情が死んでるんだもんね。だから、退屈なんて思わないけど、楽しくもない。悔しくないから泣けないし、寂しくもないからやっぱり泣けない。当然、嬉しくもないから笑う事も出来なかった」

 ちょっと、想像の斜め上を行っちゃったかな。数千年も感情捨てて生きてる生物なんて、僕が言うのもなんだけど正直、邪魔な生き物だと思うね。

「じゃあ、何で好き好んであんな奴らにいじめられてるわけ? あんな奴らあなたなら余裕でやっつけられるんでしょ!?」

 まあ、そうだよね、あんな所を見せられたうえに今こんな事を聞いたんだから、数千年もやることもなく生きてたから感情はなくても感情の無い生き物の心理は分かる。でも。

「別に、僕には感情がないんだからね。辛くもないんだよ、と言ってもうれしくは確実に無いね。でも、それでいいんだ」

「どうして?」

「人間って生き物は自分達から逸脱した生命体を嫌み嫌うんだよ。犬や猫、虎が通ってる学校とか会社なんて知らないでしょ? 人間ってのは精密な心を持ってるから自分が可愛いんだよ。だから自分を脅かす存在には容赦しない。でも、もし、その生命体が自分達より大きな力を持っていたら? 簡単、同じ思考を持った者同士で群がればいいんだ。勿論、人間同士でね。自分達が数で上回れば気休めでも気は軽くなる。だから調子に乗ってでかい面ができるんだよ。にしても、僕も馬鹿だね、いじめられるのが嫌なら学生のフリなんてしなきゃいいのにね」

 僕は誤魔化そうとするが、数千年も笑った事のない僕の頬は全然吊りあがらず。暗い雰囲気を出してしまった。

「でも、わからないかな……」

「やっぱり感情のない奴の気持ちは分からないかな、僕はつらくないから、心の弱い彼らの心のよりどころが僕ってなら僕は構わないよ」

「大丈夫……」

 そうすると、彼女は僕に抱きついてきた。感情のことを知っていたはずだったけど、やっぱり実践不足だったのか、彼女のやっている事の意味を理解できず僕はキョトンとしてしまった。彼女は傷つけられた大切な仲間を慰めるような声で僕の頭を撫でながら優しい声で囁いた。

「私はあなたを理解したい……あなたをひとりにしたくない………私が……あなたを笑顔にしてあげる」

 彼女の抱擁は彼女の慰めの声が枯れるほど長く続いた。

 

「午後四時に体育館裏に集合……か……」

 その日から数週間が経ち、いよいよ冬本番といった感じになってきた。厚着をした僕が校門をくぐる頃には日は沈み始め、昼間の日差しで数センチほど積もった雪は軽く溶けていた。

 体育館裏は日中も日影となっているため辺りと比べ寒く、積もっている雪もほとんど溶けてはいなかった。体育館へ続いている足跡を確認して、彼らが先に来ている事を確認し裏への角を曲がった。

「わざわざ僕をこんなところに呼びして何の………用……………かな? …………………夜空さん」

 正直、僕でも目を疑った。体育館の倉庫の前に転がっている引き裂かれた多分、くっつければ三つになる体のパーツはおそらくいつも僕をいじめている奴だろう。まあ、目の前に死体が転がってるくらいじゃ僕は驚かないが今回ばかりは驚いた。

 その肉塊を見つめている彼女の顔は確かに神崎夜空さんだった……やけに雰囲気が重く、肩で息をしていた。ぼくの存在に気付いた夜空さんはこちらをふりむいた。白をベースにした服とハリのある美肌には彼らの返り血が付いていて一気に不気味な人になっていた。辺りも体育館の壁や真っ白い雪にまで返り血が付いていて不気味だった。

 それでも、いつもと変わらない笑顔を見せると彼女は僕のほうに歩み寄ってきた。

「どうして、こんなことをしたの?」

「私がしなければあなたはずっと彼らにされるがままだったでしょ? そんなのは私が許さない。私にはあなたを幸せにする義務があるのよ」

 強い口調で彼女が訴える。彼女の手に目をやると、細長い綺麗な指の先から血に染まった鋭い爪が見えていた。おそらくそれで彼らを引き裂いたのだろう。

「君も妖なんだね」

「そう。だから私だけがあなたの理解者になれる。ほら、私があなたを笑顔にしてあげるから……」

 そう言って彼女は僕の方に右手を差し出してくる。既に手の形も変わりだしていて、もう爽やかで明るい彼女の面影は消えかけていた。

 彼女の差し出してきた手を僕は右手ではじいた。彼女は何故という表情で僕を見たが僕の表情に変化はない。

「何故、そんな事をした。僕はそんなことは望んでない。君は僕の理解者にはなれない。誰も僕の理解者にはなれないし僕を理解できるのは僕だけで十分だ」

 強気で言おうとするが、僕の感情は高ぶらず、いつもと同じ声で言葉を発する。その言葉を彼女は理解してくれない。

「じゃあ、あなたのおうせの通りの女になってあげる。あなたは笑顔にならないといけない人なの!」

「その必要はない! 僕はこの僕で他の誰にもならない!」

 必死の思いで声を張る。落ちつくんだ……僕。

「なら……私が……嫌でもあなたを笑顔にして見せる!!!」

 そう叫ぶと彼女を禍々しくドス黒い妖気が覆う。彼女の爪はさらに伸び、目は吊りあがって赤ピンクに光っている。口は裂け、不規則に伸びた牙が姿をあらわにする。

「やめたほうがいい」

 僕はそう言うが、ただの高校生の青年とおぞましい化け物だ。どちらに権限があるかは一目瞭然だ。彼女は右手を槍のように構えると僕の胸を思いっきり突いた。

「………!?」

「だから、やめた方がいいと言ったんだ」

 その槍は僕の胸を突き抜いたが僕の表情に変化はない。逆にその傷口から僕が持つ金色の妖気が溢れだし、彼女の腕を包むと彼女の腕は僕から抜けなくなってしまった。

「僕には感情が無いからね……比較的穏やかなんだけど……僕の中にいるこいつはそんなに優しくは無いんだ」

 僕の表情が険しくなり、凄味が現れる。そして、彼女の腕を握る。骨のきしむ音がして彼女が悲鳴を上げる。

 その変化を僕は体で感じていた。狐目はいつも以上につりあがり、歯も歯から牙に変わる。そして、僕の背中には人抱えはある金色の尾が九本生えていた。

「白面金毛九尾の狐……。数千年前、僕に憑依した妖の通称だよそのあまりの妖力のせいで理性を失った僕は一度、都を全てガラクタの山に変えてしまった。その後、この強すぎるこいつを抑えるために僕が首に巻いたこの石ころが白面金毛九尾の狐を封じたと言われる殺生石。それ以来かな。ぼくが物事を感じられなくなったのは」

「ハ…ナ…セ…」

「これが最後の警告だ、これ以上僕に関わるな!!」

 そう言い放つ。すると彼女は僕の体から腕を引き抜いた。腕程の穴があいた体も一瞬にして再生する。痛覚も通らない、もしあっても関係ないけどね。

 完全に理性に失った彼女がもう一度襲いかかるがその動きはロボットのように突然停止した。

「縛……ごめんね、僕って駄目な奴だから、君を消すことになんとも思わないんだ。僕は君に関わってほしいとは思ってない。ごめんね、夜空さん……」

━━滅━━

 彼女の体が体の中心に引き寄せられるように圧縮される。骨が折れ、砕ける音がこだまし、彼女の悲痛な叫びが僕の耳をつんざく。それを僕はただただ見つめいた。

 夜空さんが最後の叫びを上げると彼女の体は内部から破裂した。すると、彼女の体の中心から真珠ほどの大きさの光る玉が出現すると、それが溶けだし、霊のように彼女の形を作り上げた。

 一度、目を開き、再び倒れようとする彼女を僕が抱きかかえるような形で支える。僕が気休めにでもと彼女の頭を撫でてみると、彼女が声に出さずに泣いているのが分かった。

 間もなく、彼女の足元から彼女の体が粒の様に分解され、消えていく。膝、腰、胸、と、彼女の体が無くなっていく、そして、全ての彼女の体が消えてなくなると、彼女の香りが僕の体をすり抜けていった。

 光り輝く光の粒が暗くなり始めていた空に舞い上がり消えていくのを眺め、立ちあがると、自然と僕の口から言葉が漏れた。

 

 

「また……………笑ってあげられなかった」

 

 END

 


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