信号無視車にぶっ飛ばされました、作者です。二年しか乗ってない車ぶっ潰しやがって……皆も気をつけようね
雄英高校一年A組推薦生徒、轟焦凍。
眉目秀麗、成績優秀、運動神経抜群。人当たりは正直良くないが、十分に嫌味なほどのスーパーハイスペック少年であると言えるだろう。
だがしかし、そんな彼には嫌いなものが二つある。
一つは己の個性の半分。
彼の個性『半冷半燃』は右半身から氷結、左半身から炎熱を発する事ができる個性であり、そのフレイザードみたいな見た目も相まって非常にやれることの範囲が広い……所謂『強個性』であるのだが、色々と事情があり己の左半身……つまりは炎を非常に嫌っている……憎んでいるとさえ言える。
そして二つに、彼の父親、轟炎司を彼は心の底から憎んでいた。
「焦凍か」
そう。今この時も。
「…………何で居んだよ」
「家主が家にいる事の何がおかしい」
夜半に掛かりかけの轟家、そのリビングで遅めの夕食を摂っていた轟はノーネクタイのスーツを纏った姿でリビングに入ってきた父親を睨む。
父親の方は轟が黙ったことを確認してから食卓に座るが、二人の間に流れる緊張感は尚も変わらず。
しかしそこに父の食事を盛ったトレーを持ってきた轟の姉、冬美が無理に明るい声で割り込んだ。
「あ、あははは! お父さんからは今朝方『今日は帰る』って連絡あったんだけどね! ちょっと私も朝バタバタしてて忘れてたっていうか! ご、ごめんね二人とも!」
場違いに明るい声と、普段よりも幾分か慌ただしい身ぶり手ぶり。
それを見た轟は「別にいいよ」と言い、炎司は無言でトレーを受け取る。
「いただきます」
無言の食卓に流れるカツカツという食器のぶつかる音。
暫く続いた無言を先に切ったのは、食器を洗い終わって急須に茶を注いできた冬美であった。
「はい新しいお茶」
「あぁ」
「ありがとう」
言葉少なに湯呑みを受け取る二人に焦りを感じたか、冬美は「焦凍は学校どうなの?」と早口で話しかける。
「学校……」
「うん! ほら、
大分焦っている冬美を落ち着かせるように轟は口を開くが、それより一歩先に炎司がフン、と鼻を鳴らした。
「ウチにも報告は来ていた。生徒に重傷者一名……オールマイトらしからぬ失態だ。奴は何をしていた」
轟は無言で炎司の言葉を受け流す。
それに対し炎司が何かを言う前に、パンッと冬美が手を叩いて場の空気を切り替えた。
「……あー、まぁ言えないこともあるよね! けどこの前はクラスの皆と親睦を深めるために焼肉とかしたんでしょ? 楽しかった?」
いよいよ居た堪れなくなってきた冬美の焦りを察したか、轟は一言「あぁ」と返す。
「皆いい奴ばっかだよ」
「あ……そ、そうなんだ! 良かったね焦凍! 高校上手くやっていけそう?」
「まあ、これまでとは違うかも」
そこまで言って料理を食べ終わった轟は、皿を重ねて席を立つ。
「…………あぁそうだ、親父」
そして、そこで初めて思い出したかのように、轟らしからぬわざとらしい仕草で炎司に向き直る。
「なんだ」
「俺さ、今までお前に虐待じみた訓練受けさせられてさ、強くなったと思ってた」
「フン、実際にそうだろう。お前は誰よりも強くなる役目が────」
「俺より強い奴なんて、いくらでも居たよ」
ピクリと、炎司の箸が止まる。
食事に向かっていた視線が轟の顔に向き、炎司の周囲の大気が熱に揺らめく。
「……何だと?」
「まさか、無個性に負けるなんて思ってなかった」
実際に負けた訳ではない。ないが、轟はそう思っていた。
アレは自分の負けだ。轟にとってはそれが全てだった。
「……高校に行ったって何にも変わることなんて無いって思ってた……けど違った。雄英には俺の想像できないぐらいの道を進んできた、俺よりずっと強い奴が居る」
カシャ、とシンクに食器を置き、しばらく水音が聞こえる。
冷えた麦茶のペットボトルを冷蔵庫から取り出した轟は、もう一度リビングのテーブルを横目に見て目を見開く父親を馬鹿にしたような、それでいてどこかスッキリとした顔で笑った。
「何か楽しくなってきた」
やりたいからやる。好きだからやる。
そんな彼等の原動力は、少しずつ彼にも影響を与え始めていた。
まだまだ、呪縛は解けはしない。その程度でどうにかなるほど轟の十余年は簡単なものでは無い。
だが、しかし。
「あっ焦凍どこ行くの!」
「腹ごなししてから走ってくる」
ほんの少しの間炎司は手元を見つめていたが、すぐに切り上げて食事を再開する。
だが、頭の中では考えを巡らせているのかその動きは先程までと比べどうにも少しばかり遅い。
暫し轟と廊下で少しばかり話していた冬美は、テーブルの先程まで轟が食事をしていた場所を布巾で拭き上げ、そしてその一つ横……父親の向かい側に腰を下ろした。
「……ねぇ、お父さん」
「何だ」
「焦凍ね、友達できたんだって」
そんな娘の純粋に弟の新しい生活を祝福する声音を聞いて、ほんの数秒だけ手を留めた男は……
「そうか」
一言だけそう呟き、食事を再開した。
翌日。雄英高校食堂。
「……あー、マジいい加減にしてくれよ」
天ぷらうどん(大盛り)と昆布おにぎりのセットを半分ほど食べ進めた心操がカリカリと首の裏を掻きながら呟く。
周囲のテーブルには同じA組の面々が集まっている。
そして、そんな彼等は全員どことなく気まずそうな顔をしながら食事を進めていた。
周囲から無遠慮に注がれる視線の圧に負けて一人また一人と近場のテーブルに集まってきた次第である。
そうしてたまたま同じテーブル(六人がけ)に着いている心操に切島*1と尾白*2、そして、峰田*3も同様の表情だが、爆豪*4だけはいつも通りの反吐でも吐きそうな不機嫌顔である。
ちなみに、同じテーブルに着いた筈の緑谷は周囲の視線に気付く事もなく一瞬で吸い込むように食事*5を終え、
「俺等、何で見られてるんだ?」
「そらおめーUSJだろ?」
「まぁそれしかないよな……」
「男に見られても嬉しかねえんだよチクショウ!」
「クソウザってえ」
そう、A組はどうにも周囲から謎の注目を浴びていた。
とは言っても実際には別に謎でも何でもなく、今は元気にそのへんを走り回っているとはいえ仮にも生徒から重症者が出るような事故があったという事でA組以外の生徒にはこの件について直接彼等にコンタクトを取るような、ストレスのかかる真似はするなという指示が出されているのだ。
それ故に断片的な情報だけでも得ようとする者達がこぞって共用スペースであるこの食堂にてA組を待ちわびているという訳である。
そうやってこちらを見てくる人間に爆豪が何度か威嚇*6をしたが、それで一時目を逸らされてもすぐに注目が戻る為、最早彼ですら威嚇を止めていた。
「飯が不味くなる……!」
「居心地悪いよな〜」
ブツクサと言いながらも食事を進める彼等のもとに、ランチボックスを持った生徒が寄ってくる。
それは中肉中背でキッチリと整髪剤で固められた金髪のストレートヘアが特徴的な、やけにゴツいベルトを腰に巻いたツンと鼻の高い少年であった。
「相席失礼☆」
「……ァん?」
その生徒は爆豪の向かい側……緑谷が座っていた席に座り、編みかご型のランチボックスからランチョンマットを取り出してテーブルに敷き、そこに持参してきているらしい各種の皿や料理を盛っていく。
やけにユッタリとした余裕を感じるその動きに、爆豪の目尻がピクピクと動くが、それでも苛立つだけで人に手をあげる程見境の無い男では無い。
何時でも爆豪を止められるように構える切島や尾白、そうなったときの為にテーブル上の食事をすべて端に寄せている心操と峰田を横目に見ながらも爆豪の心はギリギリ平穏を保っていた。
その理由は、男子生徒の肩に飾りのボタンが存在しない事だ。
……雄英高校高校は入学した学科によって制服の細部デザインが違う。
ボタン一つはヒーロー科。
ボタン二つは普通科。
ボタン三つは経営科。
そして、ボタンが無いのは……サポート科。
そして爆豪の優れた頭脳は確信していた。
ボタンが無い事に関わらず、腰に巻いた明らかにメカメカしいベルト……それにこの全身から醸し出される圧倒的変人感は、間違いなく
サポート科……その言葉だけでも爆豪の警戒心は限界まで引き上がるのだ。ご苦労なことである。
(コイツ……随分舐めてるみてーだが、そもそもサポート科なんざに自分から入ってるような人間にまともな思考が通用するとは思えねぇ(偏見)。最悪何かしらの自己欲求を満たす為にこの場所で全員巻き込んで自爆なんてこともあり得る(偏見)……下手な刺激は出来ねえ。まずは相手の出だしを様子見しかねえな)
そして少しでも油断して隙を見せたら殺す。殺られる前に確実に殺る。怪しきは殺す。怪しくなくても殺す。
爆豪の普段らしからぬ慎重な姿勢は、概ねそのような警戒心からなっていた。
その間にランチの用意を終えた金髪の恐らくサポート科は、食前酒(アルコール度数一%以下なので合法)をグラスに注ぎ、クイッと口に含んだ。
切心尾峰がゴクリと喉を鳴らし、その得体の知れなさに爆豪のこめかみを冷や汗が滲む。
この席の五人も、周りの席に座るA組も、それ以外の人間も皆が皆注目する中で鴨肉のローストを切り分ける少年は、コチラを睨みつける爆豪の視線に今気付いたかのようにチラリと視線を向けると。
……まだ口をつけていない曇り一つ無いカラトリーを使って鴨肉の一切れと付け合わせの人参を爆豪のカレー皿の端っこに置いた。
「あげる☆」
「分かった舐めてんだろテメェブチ殺したらボケゴラァ!!」
「ウィ!?」
「落ち着け勝己! 友好的だ!!」
「お前ちょっと気ィ短すぎ!!」
「ごめんな金髪の君! コイツちょっと頭がアレみたいでさ!!」
(何でオイラはこんなテーブルで飯食ってんだ……*7)
暴れ出す爆豪を必死に抑える心操と切島、そして少年を庇う尾白。ついでに驚く金髪少年。ままならぬ人生を嘆く峰田。
広い食堂の中で、このテーブルにすべての混沌が集結したかのような状況であった。
「君達、A組だよね?」
暴れついでに(律儀に使ってない食器で)返された鴨肉を口に含んだ彼はそう話を切り出す。
「オウ」
「そーだぜ」
「金髪君は?」
「死ね」
「止めろって勝己お前マジで」
イライラと金髪少年を睨み続ける爆豪だが、そんな事を気にもとめない少年は付け合わせのグラッセを一口含み、よく咀嚼してから優雅に飲み込む*8。
そうして一旦カラトリーを置いた少年は、ニコニコと動かぬ笑みで爆豪を見据える。
「それで……ねぇ☆何しに来たと思う!?☆」
「殴る!! こういう奴ァいっぺん殴るッッ!! 離せボケテメェらもブッ殺すぞ!!! 」
「何で金髪君は殴るで俺達はブッ殺すなんだよ!!」
「待て勝己落ち着け! いっぺん落ち着……あぁもう誰かコイツ殴れ! 殴れ切島! アゴ殴れ!!」
(着席順の関係で食い終わったのに席を立てねえ)
ギャースカワースカと騒いでいた爆豪にビッ、と細い指を突き付けた少年は、その綺麗なV字を描いた口を自信ありげに開いた。
「宣戦布告さ☆」
「!!!」
その真っ直ぐな言葉に目を見開いたその場の五人それぞれに煌めく瞳と共に指先を向けた彼は、最後にまた爆豪へと視線と指先を向け直し、最後に自身の胸を指し示した。
「知ってるかい? ヒーロー科の入試に落ちた人間でも、体育祭での結果次第では途中編入が認められるんだよ☆」
「それが何だ負け犬が」
止めろって!! と心操と尾白が爆豪の汚い口を止めようとするが、それを遮るように少年は立ち上がり、そのメカニカルなベルトを席の人間達に見せる。
「じゃあコレも知ってるかな? 僕らサポート科は自分で作ったサポートアイテムに限り、どんなものでも、幾つでも持ち込みが認可されている……君達に二ヶ月分の訓練期間があるように、僕らにも二ヶ月分の開発期間があるって訳☆」
「は!? じゃあ何か!? お前らヒーローコスとか武器とか使い放題ってワケか!? ズリーぞ!!!」
「ズルじゃなくてルール☆」
峰田の文句も何処吹く風の少年は、爆豪から視線を外さない。
「……まぁ、コレは僕の体質の補助の為に着けてる医療器具だから僕の作ではないんだけど、それでもコレ以外にも多くのアイテムを作っている僕の戦力は君達ヒーロー科に優越する☆」
「するわけ無えだろボケ」
暴れる事を止めた爆豪は、静かに……しかし断固とした口調でそう断言し、尾白の尻尾と心操の手を鬱陶しそうに振り払ってからドガッと長椅子に深く座り直す。
「武器があったから何だってんだ。いっぺん負けた奴が武器揃えた程度で気ィデカくしやがってそういうメンタルがテメーがザコモブたる所以だろ」
「へぇ、なら僕はどうだい? 不良君」
金髪の少年に集中していた横から声を掛けられ、爆豪がそちらに振り向くと……そこにもまたもや金髪の……サポート科の少年とは違い眼が一切煌めいていないドロっとした印象を感じる少年が居た。
「テメェ」
「や、久し振り」
その肩のボタンが示すのは……ヒーロー科。
「オイやべえぞ金髪その二が」
「勝己、金髪に好かれるフェロモン出てんのかな」
「いや、フェロモンって……」
いらん事を言う心操をノールックでシバきつつ、爆豪はその少年の顔を見て微かな既視感を覚える。
「…………」
「お互い合格できて何よりだよ」
その優れた脳裏にはかつての記憶が去来していた。
────君口悪いねぇ。何の個性? あ、猿?
そう……
────僕の髪がスカスカみたいなあだ名は止めてくれないかな!
こういう無礼な事を言う奴が……
────今回はコピーした個性の特性を把握しきれなかった! 今からやれば本当の僕の力を見せられる! 今からやれば!
居た……ような……
「…………ジロジロ見てんじゃねえよてめーナニモンだゴラ」
まあ居なかったな。
電話は二回コールするまでに相手が出なかったら切るタイプである爆豪の無情な言葉に、金髪少年(2)はバンバンっとテーブルを叩き感情を爆発させる。そりゃそうだ。
「今思い出してただろう!! 物間だよ!! 君と一緒に推薦試験受けた物間!! あー若くして健忘症かい!? 哀れだなぁ!! 哀れだなぁ!! あぁ〜〜っ哀れだなぁぁああああ!!! 」
「誰が健忘症だ! 俺ァ負け犬の名前はいちいち覚えねンだよ!!」
「あっれれぇ!? おかしいなぁ!!? 君は僕と同じで推薦試験に落ちたもんだと思ってたけど違ったのかなぁ!? まだ僕と君の間で何の決着もついてないと思うんだけど僕の気のせいかなぁ!? 爆豪くん君もしかして推薦受かってたのか〜〜〜〜あぁい!? ほら無知な僕に大きな声で教えてくれないかなぁ!!! さぁさぁさぁさささぁさぁぁぁ!!!!」
「殺す!!!!」
「殺すな殺すな」
口から火を吹かんばかりに怒り狂う爆豪と、それを宥めすかす事に必死になっている五人に向けて軽く髪をかき上げた物間はテーブルに座る彼等を見下ろし、フンッと笑う。
「そこの彼と同じさ……僕らB組もまた、辛酸を舐めさせれれた」
「あ゛?」
辛酸なんか舐めさせた覚えはねえぞ……と顔を見合わせる四人と物間から一切目を逸らさない爆豪に向かい、彼はニヤリと笑ってその言葉を口にした。
「USJ襲撃事件」
「……」
誰もが気にしても触れることの出来なかったその話題に触れた彼は、その上でさらにもう一歩、深くに踏み込む。
「ヒーローの卵と、それを育てるプロヒーローの文字通りの
「重症者無しで乗り切れたとでも言いたいのか……!?」
「まっさか! それを言い切るほど僕はクラスメイトの事を知らないよ、尻尾君」
基本的に人の良い尾白の言葉尻に含まれた苛立ちを軽く受け流した物間は、周囲のテーブルに座っている者達にも聞こえるように声を張る。
「ただ……
「ンだとテメェ!! あん時オイラ達がどんな思いで!」
「止めろ峰田。間違った事は言ってない」
「けどよ心操!!」
物間のあまりの言い分に憤った峰田を抑えた心操は、トレーを持って立ち上がり物間に正面から立ち向かう。
「……けど、お前の意見が間違ってないからって言われて何も思わない訳じゃないってのはいくら何でも分かるよな?」
「あぁ、勘違いしないで欲しいのは、君達A組がB組の
「体育祭、
「諦めろ」
物間の宣戦布告を真正面から叩き潰した爆豪は、自身のトレーを持って眼の前に居る金髪少年(2)*9に肩をぶつけてその場から退かせる。
そして、静まり返っている周囲のテーブル全てに聞こえるような声量で。
「俺が一位になるからだ」
それは、あまりにも自然で、あまりにも当然のような言葉。
「精々策を弄しろ、数を揃えろ、武器を研げ、腕を磨け、裏をかけ」
「ンなもん全部上から圧倒的に叩き潰してやるよ」
「それが
それは、まるで当たり前のようにこうして盤外戦を用いる物間をともすれば
「……そうかい、それじゃ遠慮なく」
爆豪の言葉にどこか胸がすいたような顔で同じようにトレーを片付けに行くA組の面々を見送った少年は、ニヤリと笑って、元々の自分の席へと戻る。
「やぁごめん、ちょっと彼らと話してみたア゛ッ!? 」
「何アンタB組の総意気取ってんの、委員長でも無いくせに」
「何するんだ拳藤!!」
「コッチのセリフなんですけど」
席に戻って早々に痛いビンタを食らった彼は、口の中でモゴモゴと文句を言いつつも大人しく席に座り、皆が食べ終わっている中一人だけ冷めた昼食(窯焼きパン、白身魚のムニエル、日替わりスープ)をモソモソ食べる。
そのテーブルには同じクラスの拳藤を始めとした、B組のほぼ全メンバーが揃っていた。
一人だけになったテーブルで優雅なランチを再開している金髪少年をぼんやりと眺めていた、物間の向かいに座るバンダナを黒髪に巻いた青年……泡瀬が戦慄した表情で震える。
「……アレが、お前や取陰、塩崎なんかが言ってた爆豪か……大型犬サイズのチワワって聞いてたけど想像以上にヤベー奴過ぎるぞ」
「アレが常人の三倍の速度でぶっ飛んできて全部を粉砕してくんでしょ? やば……」
「ぶっちゃけ勝ち目無くない?」
「無いね」
少年は、先程まで爆豪を躍起になって否定していたとは思えない程にアッサリとその実力を肯定した。
「だからこの僕が態々ターゲットを一人に絞りに行ったんじゃないか」
「いや態々とか恩着せがましく言ってるけどアンタ誰にも相談せずに『ヘイト管理してくるよ』とだけ言って一人で行ったかんね」
拳藤のツッコミを黙殺した彼は、冷めたスープを掬いながら、「正直もっと敵対心を煽れると思ってた」と独りごちる。
「推薦の時は正直もっと煽りに弱い奴だと思ってたんだけど……何か心境の変化でもあったのかな?」
「それこそ物間氏が言ってた『重症者一名』ではありませんかな? クラスメイトがそんな事になったら考えも変わるだろうと思いますぞ」
「かもね……けど、こんな事は考えても仕方が無い事さ」
「物間氏が振った話題ですぞ? 」
「宍田、コイツこういう奴だから」
「まぁ、頑張っていこうよ……B組が勝つために、さ」
ニヤリと笑ってそう言う物間を見る周囲の目は……割と冷めていた。
「物間……アンタってさあ」
続きの存在しない拳藤のその一言に、周囲のB組は深く深く頷く。
あんたってさあ。
殆ど何も言っていないに等しい文言であるが、物間寧人という人間を表現するにあたってはこれ以上が存在しないほどに的確な一言である。異論は認める。
そんな謎の一体感を得ている彼等から少し離れた所に一人座っていた、最終的に誰からも見向きもされなかった金髪少年は一人食べ終わったランチを片付けて持ってきた籠に納め、最後に「ごちそうさまでした☆」と手を合わせて食事を締める。
「さて……昼から使う資材でも取りに行こうかな☆」
彼の名前は青山優雅。
雄英高校ヒーロー科一般入試、合格者三十六人の実技試験において三十七位を記録した少年。
「全く、忙しいったら☆」
誰からも見向きもされない……そこら中を見回せば掃いて捨てるほどに居るような。
そんな────あと一歩で、夢を叶えることが出来なかった。そんな誰も見向きもしないそこら辺に居るただの
青山くんとかいう目立ち過ぎるキャラを意図的に空気化する試み、やってみると思った以上に楽しかった。
けどなんていうか、お祭りとかで一緒に来た友達が自分の知らない友達と合流して盛り上がってる時の一人だけ愛想笑いしてる自分みたいな悲しさを感じてちょっと辛かった。
心がふたつある〜〜