変わらない結末の話   作:ろまねすこ

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変わらない結末の話

 

本当は、少し怖かった。

全てが遅くて、もう、受け入れてはもらえない可能性も、考えていた。

でも、私は自分で掴むと決めたから。

 

その目を逸らすことだけはしない。

 

「本当に、ステラ、なのか。」

「……うん。」

 

願いは、自分で掴んでみせる。

 

 

 

  ◇

 

 

 

奴隷になってから数年。

考える時間はたくさんあった。

死にたいと思うことはしょっちゅうだった。

だけど、

 

「ステラ?」

 

彼女の目を見て意思が固まった。

ボア・ハンコック。未来の海賊女帝。でも、今はそんな肩書き関係ない。

彼女は、そのときただの12歳の女の子だった。

それでも、諦めを口にはしなかった。

 

だから、私がこんなんじゃダメだと、思う。

ここで奴隷をやっていても、年数が経つほど飽きられて、捨てられる可能性が高くなるっていうのは、考えればわかることで。

嘆くばかりで行動に移さなければ確実にいつか死ぬ。

意地でも生きたいという気持ちは変わらない。

なら、やることはひとつ、策を講じなければ。

 

目的は、生きてこの地獄から出ていくために、死なないこと。

期限はフィッシャー・タイガーがここにくるまで。そのときまで、絶対に生き延びてみせる。

そのために必要なものは、すでに明確になっていた。

今、私に必要なのは、綺麗な思い出なんかじゃなくて、揺るぎない未来への渇望だ。

欲望は人を強くすると言うし、貪欲なまでに求めてやろう。

もう、ぐだぐだと考えることはやめにして、自分の足で未来を掴みにいこう。

 

「ハンコックちゃん、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど。」

 

星に願いを、とはいうけれど、実際は願ったところで何も起こらないことは知っていた。

そんな不確かな希望に縋るのは、いくらここが少年漫画の世界でも受け身がすぎるだろう、ってことも。

待っているだけじゃなにも起こらない。

そんなことは、当たり前なんだけれど。だからこそ、私は自分から掴みにいくと今決めた。

 

私の名前はなんだ。

唯一、残されていた私を示すもの。ステラ。星を表す記号。

ならば、叶えてみせなければ。

他でもない、私自身の願いを。

空で輝く、ただただ綺麗な星とは違うけど。

時には汚く泥に塗れたって、罵倒されたって馬鹿にされたって、そんなことできっこないって、わかりきった当たり前を言われたって。

私が(わたし)である限り、願いを叶えることを諦めないとここに誓おう。

 

だって、私が望むあなたの隣は、なによりも、綺麗な場所だと、そう思うから。

胸を張れる自分でありたい。もう自分の無力さに嘆くのはごめんだ。

何もしないで、ただ運命を享受するくらいなら全力で足掻いてやる。

誰かの願いを叶えられるような星になんてなれないのはわかってるけど、それでも。

自分自身の願いくらい、叶えたって、いいじゃんか。

 

─────最悪で、最低の場所だった。

でも、だからこそ、ここで無残に死ぬ以上に怖いものなんてもうない。

 

黒髪の、気高い少女の前に出て、相手を見据える。

 

 

 

 

 

「本当に、行くのか。」

 

こちらを見る老年の兵士が、ぐ、っと眉間に皺を寄せて言う。

 

賭けをした。

天竜人がいらなくなった奴隷をその場で殺すか、連れ出させるか。

賭けに勝っても、首についた枷は取れないから、もしその場で殺されなくても、逃げられはしない。命令された奴隷の兵士に別のどこかで殺されるだけ。

でも、一度目の賭けに勝てさえすれば、次の賭けには勝算があった。

おそらく、天竜人の多くは奴隷の数を把握していない。

それぞれの天竜人に固有の紋章などはないから、別の天竜人の奴隷に混ざってしまえばわからない。

だから、生きるだけならできると思った。

飽きられて殺される前に、私は、別の地獄に行ってやる。

死んだことにして、別人を装って。

この場所よりも酷いところかもしれない。今度こそ死にたくなるかもしれない。

でも、どうせ死ぬなら、どれだけ無様だろうと足掻いてやると決めたんだ。

綺麗に死ぬほど私はかわいい性格をしていない。

 

奴隷の兵士は、奴隷でありながらも私達に同情的だった。

精神的に彼らの方が余裕があるんだ。抗うことはできなくとも、戦える力をもっていて、それを望まれているから。

まぁ、同情心でもなんでもいいから、この際全て利用するつもりで、協力してくれそうな兵士を何日も見極めた。

そして、その日、私はその少女の前に立つ。

彼女にはあらかじめ言っていた。生きるために別の地獄に行くことを。後で、あの美しい少女が負い目を感じることが万が一にもないように。

私はあなたを利用させてもらうと、そう言った。

それに、彼女は怒るでもなく、ただ、「なぜ。」と呟いた。

 

「なぜ、そんなにも前を向いていられる。」

 

別に、前を向いているとか、そういうつもりはなかったんだけど。

 

「ほしいものが、あるから?」

 

私は、強欲な人間だから。

そう返せば、なんだか泣きそうな顔で、「そうか。」と、彼女は笑った。

 

そして、私は、賭けに勝った。

 

私を連れる老年の兵士の奴隷が、同情の目を向けてくる。

 

「死んだ方がましだと、他の者は言うぞ。」

 

そう言うあなたは、一度、私が選ぶ道を他の誰かに提示したことがあるのだろうか。

なんて、くだらない質問をしそうになった。

 

「そう。」

「これから、やはりそう思うかもしれない。」

「そうかもね。」

 

だからと言って、死ぬつもりは一切ない。

その同情が、私にとっては有難いものだとは思うけど。同情を寄越すくらいなら、お金でもなく、私は戦うための剣がほしいと、ふと思って。

剣の使い方なんてわからないのに、何を考えているんだろうと、少しおかしくなる。

それに、剣はもらうものでもないだろう。自分で、手に入れなければ。

 

「それでも、行くんだな。」

 

次にあるのが、また地獄だとしても。

 

「行くよ。」

 

首筋に刃を差し出す。

金色の、髪がこぼれる。

 

長い髪も、今までの振る舞いも、邪魔だというのなら置いていこう。

 

 

「ん?こんな奴隷、いたかえ……?」

 

 

さて、次の地獄だ。

解放まで、あと─────

 

 

 

  ◇

 

 

 

結果として、私は生き残った。

マリージョアで7年も奴隷をやっていたのだと思うと、よく耐えたなと自分を褒めたくなる。

……でも、テゾーロも同じだけこの地獄にいたのだと知っているから、なんだか、やるせない。

 

奴隷解放のとき、テゾーロに会えないかと、ほんの少しだけ思ったけれど。

世界はそう都合良くできていないのはわかっていたから、いまさら会えないことに落胆なんてしない。

それに、解放後はどうしようかと思っていたら、ここにきて運が向いてきたらしい。

ハンコックと合流することができた。

つまり、シルバーズ・レイリーに会えた。

女ヶ島にどうか、と誘われもしたが、私は彼女たちのように戦えないし、なによりあの島は排他的だ。

あそこにいては私の願いは掴めない。

だから、シャッキーさんのぼったくりBARに、身を寄せさせて頂くことにした。

そこで、ある程度世界をまわれるぐらいの護身の術を好意から教えてもらえたし、背中の紋章の上に、新しく星型を刻むことまでしてくれた。

本当に、頭が上がらない。

 

そうして、私は宝物を探す旅に出た。

女の一人旅には少し不安を感じたから、短い髪に合う男の姿を装って。

ここにきて、少年漫画のようなことしているのだから笑ってしまう。

 

そこからは、また、長かった。

初めは本当に手がかりもなくて、あらゆる所をさ迷った。

奴隷から解放されたばかりで当然かもしれないが、少しの噂さえ聞こえてこなかったからだ。

少しずつ、テゾーロの話だと思われるものが流れ出しても、それだけじゃ場所はわからないし、場所がわかって追いかけても、着いた時にはもういない。

テゾーロは全くもって知らないだろうけど、私は世界を股にかけた追いかけっこでもしてるのかと思い始めていた。

そんなとき出会ったのが、カリーナだ。

最初にスリをされたときは誰なのか全然わかっていなかった。

後であのカリーナだと知って、変なところで縁が繋がるものだと、妙に感心してしまった。

一度関わってしまったからには、この女の子にまたスリをするような生活をさせる訳にもいかないと、偽善だと自覚しながらも、彼女を旅に連れていくことにして。

楽しみもなく続けてきた旅に、彼女の笑顔が加わって、随分と救われた。

結局また、私が救われているのだから世話がない。

 

そうして、新世界にも行って、やっと、見つけた。

 

彼の夢が詰まった、大きな船だった。

 

 

 

  ◇

 

 

 

……震える声で、こちらに手が伸ばされる。

 

「っ髪は。」

「切っちゃった。似合うでしょ?」

「……俺は、長い方が好きだ。」

 

はは、頑固。

そういうところ、変わらないなぁ。

 

「今まで、いったい……、」

「あなたの、追っかけ?」

 

全然捕まらなくて、困ったよ。

笑って続ければ、彼はくしゃりとその顔を情けなく歪めるから。

 

「……すごく、情けない顔してるけど。」

「……君には、情けないところばかり見られているから、いまさらだ。」

 

そっか。確かに、そうかも。

 

「…………。」

 

唇を噛んで、目を強く瞑って。

もう一度そろりと、上げられた瞼の下。きれいなその目が、安心したようにこちらを見る。

 

「夢じゃ、ないのか。」

 

私の肩に触れようとした手を、少しさ迷わせてから下げて、そっと、手を握られる。

確かめるように、つよく。

 

冷たい手が、緊張を私に伝えた。

 

「ステラ。」

 

「うん。」

 

「すてら。」

 

「……うん。なに、テゾーロ。」

 

「……やっと、君に、手が届いた……!」

 

「……うん。」

 

前はずっと、間に鉄格子があったから。

 

…………きっと、それだけの意味じゃ、ないんだろうけど。

ぎゅっと、温めるように手を握り返すと、彼は、ついにその瞳からボロボロと涙をこぼした。

ぐずぐずと、鼻をすする音がする。

 

「泣かないでよ。」

 

頬に手を伸ばして、涙を拭う。

私の手は、震えていなかっただろうか。

 

「あなたのステージが待ってるんでしょう。」

「ああ。」

「私の席は、あるんでしょ?」

「っああ!」

 

あと、連れがいるからプラス一席ね、とそれだけは忘れずに伝えれば、テゾーロは一瞬理解が及ばないという顔をした後、脱力した。

 

「……そうだな、君はそういう人だった。」

「なにそれ。」

「俺に助けを求めることもない。

自分で全部勝手に解決して、逆に俺を助けるような女だ、ってことだ。」

 

俺の記憶の中の儚いステラは思い出補正だった。

なんて、失礼なことを言う男だ。

あと、一つ間違っている。

 

「私が助けを求める前に、あなたが助けてくれただけ。」

「え?」

「ほら、早く。」

 

彼の大きな背を押した。

 

 

「観客席で、待ってる。」

 

 

光が、満ちていた。

 

彼にあたるスポットライト。

初めは、街灯と、星達の小さな光だけだったのに。

 

でも、彼自身の輝きは変わっていない。

私が、あなたに一番に拍手を送るということも。

 

「拍手、ありがとう。……ステラ。」

 

あなたが望むのなら、この先、何度だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────ずっと、望んできた。

 

 

どんなことがあっても、

 

何度諦めようと思っても、

 

ずっと、心のどこかで考えていた。

 

「夢は叶った?」

「……星に願ったお陰でな。」

 

願いは伝えてみるものだ、と。

揶揄するように、私の隣でテゾーロ(たからもの)が笑う。

 

「……私も、叶えたよ。」

 

これは、

 

望み続けて、思い描いて、

 

揺らぐことのなかった、変わらない結末の話。

 




明確なビジョンと揺るがない意思がもたらす、望んだままのハッピーエンド。

というわけで、このお話はこれにて完結になります!
ここまでお付き合い下さった皆様、本当にありがとうございました。

【挿絵表示】

完結記念に!

新世界へはハンコックに連れて行ってもらったという裏話があったりします。
事情を説明してはいましたが、彼女が主人公に庇われたという事実は変わりません。返そうと思う程度には、それに恩を感じていました。
そしてなにより、あの地獄でまっすぐ前を向いて立つ主人公の背中が、彼女の望む、強い女性としての理想を形作ることに一役買っていたり……してるといいなって!!
どちらにせよ、希望を失わない人間が傍にいたことは少なからず彼女を救ったことでしょう。
その借りを返すために、主人公の願いを掴む旅の手助けをした。……という内容を、入れようとして、書けなかったので!ここに書いときます……_(:3」∠)

全体的に見れば短い小説ではありますが、完結できてよかったです。
拙い文であったことでしょうが、最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!( ´ ▽ ` )ノ
楽しんで頂けていましたら幸いです。
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