それは慟哭。天を焦がす熱き雄叫び。
今、世界を越えて! 熱き血潮のアレな戦士がハーレム主人公へと鉄槌を下す!!

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(ジェラシー!)しっとマスク 衝撃!しっと編

 眉目麗しい少女達が祈るような――或いは願うような――姿で、遥か蒼空をその瞳に映していた。

 時折遠方より放たれる轟音、擦過音、衝撃波、怒号、閃光――あらゆる戦闘音に怯むことなく、ある者は制服の端が皺になるほどに強く握りしめ、ある者は友人と小さな手を固く結び合い、ある者は小さく震える身を寄せ合い『彼』の勝利を願った。

 また平和な明日を迎えるために、平凡な学園生活を送るために、何気ない日常の中で笑い合うために、どうかどうか無事に勝鬨を上げて欲しい。

 

 少女達は願った。どうか、絶対に負けないで。と。

 

 

 

 

 

 ――炎熱が迸る。

 

「くっ」

 

 IS『白式』と共に蒼穹を翔ける織斑一夏は、眼前に迫り己を妬き焦がさんとする灼熱の業火を振り払う為に急加速。身体に襲いかかる圧倒的なGをISの防衛システムで相殺しながら一筋の飛行機雲を描いた。紙一重の間合いで背後の空間を妬き潰す焼滅の魔炎は、僅かに掠めただけだと言うのに一夏の視界に映し出される白式のステータスの中、背部ユニットへの軽微の融解を訴えた。

 

(なんて熱量だよおい!)

 

 照り付け素肌に突き刺さるような陽光が涼しく感じられる程の破滅的な炎の一閃は、回避したと言うのに未だ勢いが止まることなく、次いで薙ぎ払うように体勢を整え終えたばかりの一夏へ向けて軌道修正。通過点の雲、その尽くを蒸発させながら、炎熱の試練は一夏を捕捉しようと空を妬き翔け抜ける。

 

「ウソだろ!?」

 

 これを回避すべく、一夏は更に加速。炎特有の揺らめきはあれど、あくまで直線状にしか放たれないその軌道を読み、上へ下へ左へ右へと立体的な飛行を以て相対する。

 

「いいや、これが現実だあ!! 死に晒せクソハーレム主人公ッッ!!!! 嫉妬ファイヤーの火力は更に上がるぞぉぉ!」

 

 遠方、天を焦がす熱量の開始点より放たれた怒号が、世界よ耳を傾けよとばかりに響き渡る。

 そこには、織斑一夏をその細胞の一欠片すら妬き尽くさんとする大男が、異様な存在感を放ちながら空の一角を支配していた。

 極限まで鍛え上げられた肉体――その鋼の大胸筋は猛々しく隆起し、虚空を握りしめるその両腕、名のある鍛冶師が打ち込んだ刃のような鋭いしなやかさと猛る獅子が如く雄々しさを見せ付ける上腕二頭筋には、熱き血潮を轟々と滾らせる太く強靭な血管が浮き出ている。男の燃え滾る心を表す真紅のパンツから伸び、浅く腰を落とし上体の安定を図る為に構えられた両脚は、大腿四頭筋が放つ圧倒的な力強さによって、何も無いはずの足元――即ち空の一部が踏み砕かれてしまうような錯覚を覚えるほどだ。

 そして、父なる包容力を見せ付ける巨樹が如く太さの胸鎖乳突筋から続く頭部には、その哀しく苦しい使命に零れる涙を見せぬ為の覚悟のマスク。目の周りを縁取るように燃ゆる炎の意匠が施された純白の悪役レスラーの様にも見えるそのマスクと、目の部分より放出される地獄の業火がこの大男の表情を隠していた。

 大男の名前は宮本幸弘(みやもと ゆきひろ)。またの名を――

 

「しっとマスクの名において! アベックの存在――その有象無象の区別なく、燃ゆる嫉妬心が許しはしない!」

 

 しっとマスク。この男の名はしっとマスク。

 スットン共和国パッパラ隊所属、宮本幸弘伍長がその猛り狂う嫉妬の心で変身した姿である!

 

(くそ! 炎が邪魔で近寄れねえ――)

 

 しかし、そんな男の名前なんぞ知ったことではない一夏は、白式の高性能カメラによりズームされた無駄に暑苦しくむさ苦しいその筋肉ダルマを視界の隅に押しやり、しつこく自身を狙う熱線の回避に努めた。

 一夏の専用機である白式には、接近戦装備以外の武装は取り付けられていない。己の得意とする距離へ近付こうにも、大男が放つ熱線によってそれは阻まていた。

 この瞬間にブルーティアーズ――セシリアの援護があれば、と一夏は心の底からセシリアの存在を欲した。

 

「ハアーッハッハッハッハッ! モテ男死すべし! ハーレム主人公滅すべし!!」

 

 しかし、現実は非情なり。セシリア・オルコットが操るブルーティアーズ――否、彼女以外のIS操縦者達は専用機のみならず量産機に至るまで待機状態を解除出来ずにいた。

 まるで一夏を孤立させる為、見えない力が働いているようだ。

 

「どうしたどうした!? 手前を囲う女の手助けがなきゃあ俺に指一本触れられねぇのか!?」

 

 猛る炎熱が一夏を追って空を燃やす。

 

(というか――)

「そらそらそらそらぁ! もっと速く動かないと黒焦げになっちゃうぞー!?」

(というか――)

 

 一夏の三次元的軌道が炎を寄せ付けることはない。しかし、避けてばかりでは攻撃が出来ないのも事実。

 一夏は嫉妬ファイヤーに阻まれる以前にもう一つ、どうしてもしっとマスクを斬れない理由があった。

 

(なんであの男は、ISどころか防具の一つも装備してねぇんだ・・・・・・!)

「フハハハハハーッ!」

 

 そう、目の前で調子に乗り自慢のマスクを焦げ付かせながら熱線を放つ男は、前述した描写の通りマスクとパンツ以外は一切の装身具を付けておらず、なんならこの世界の住民達はどういう原理でこの大男が空に浮いているのかすら分かっていなかった。

 IS同士のぶつかり合いならば慣れたものだが、生身の人間(?)を相手に刀を振るった経験など一夏には無く、珍妙な生命体とはいえ人の形をしたソレを斬ることを一夏に躊躇させていた。

 

(どうやって空飛んでるのかも謎だしよお!)

「ハアーッハッハッハッ。アベック恐るるに足らず!」

 

 しっとマスク=宮本幸弘にとってはこんな物(人間の飛行能力獲得)はスットン共和国では日常茶飯事なので気にしちゃいないが、この世界の人間達にとっては『目から炎を吹き出しながら原理不明の空中浮遊によって滞空する筋骨隆々の大男』なんて奇天烈な存在は世界初の男性IS装着者以上の衝撃であった。

 

「やーいやーい! 顔が良いだけの無能主人公め! 女にモテるだけで調子に乗ってんじゃないぞバーカ!」

(くそ、斬りてぇ! 今直ぐにでも踏み込んで叩き斬りてぇ!)

 

 ぶっちゃけた所、一夏は斬ろうと思えばこのしっとマスクを幾らでも斬ることが可能である。

 散々『炎で阻まれ云々』などと描写しておいて申し訳ないのだが、所詮しっとマスクの放てる嫉妬ファイヤーの発射角度は人間の首の可動域までであり、白式の瞬間加速をもってすれば刹那の間にて死角へ回り込み、なで斬りにすることは容易く、なんなら単一仕様能力を解放してしまえば炎ごとしっとマスクを両断可能である。

 それでも行動に移せないのは織斑一夏という男の優しさ故か。

 

『いっくん、いっくん! 絶対にあの妙ちきりんなナマモノを【無傷で】捕まえてね! ISもなしに空を飛んで、あげく専用機の装甲を溶かしちゃう程の熱線を眼から出すなんて、束さんはもうすっごい興味をそそられてしまっているのですっ!!』

「ああ、そうですか・・・・・・」

『あっ、でもでも安心して! 私の一番はちーちゃんといっくんと箒ちゃんのままだからね! ね! ね!』

「一番多いっすね・・・・・・」

『でも、捕獲が無理そうならズバーッて殺っちゃって良いからね! ズバーッぶしゅーグチャグチャーって』

「今殺したね? 束さんの中の俺があの男を殺したね? それも割と殺意高めに。無理だよ人殺しにはなりたくないよ。アレが人なのか分からないけど」

『だいじょうぶい! 罪に問われそうなら、その事実は束さんが綺麗さっぱり洗い流しておくからっ』

「俺の良心がそれを許さないから困ってるんだけど!?」

 

 或いは、いち早く異常事態を感知した天災の指示故か。

 なお『一夏が活躍する姿が見たい』等という至極どうでもいい理由が、地上にて待機する他ない少女達と因果関係にあるかは謎である。謎であるったら謎である。

 

『一夏、何をしている。さっさとキメて降りてこい。そろそろ昼休みが終わるぞ』

「いや千冬姉? 俺が今どんだけ大変な板挟みに合ってるか分かってて言ってる? 弟が人斬りの罪を被るか否かの瀬戸際なんだよ?」

『一夏ぁ! 何を遊んでいる? 私との特訓の日々を思い出せ!』

「あのな箒、俺とお前が積んできた特訓はIS用なの。対人用じゃないの。成果を出したら俺は殺人者になっちゃうの。アレが人間にカウントされるかわからんけど」

『一夏〜、あんまり遅いからあんたのお昼ご飯食べちゃった。ごめんね☆』

「あれ、おかしいな。鈴が言ってる言葉が理解できないぞ? 人が苦悩している間に悠々と昼飯を強奪したなんて幻聴が聞こえるぞぅ? 白式の通信機能が溶けたかな」

『嫁、今夜は寝かさないぞ』

「ラウラに至っては最早どういう意図が含まれてるのか分かんないんだけど!?」

 

 縦横無尽に空を翔けながら通信コントを始める一夏。嫉妬ファイヤーの動きを完全に見切ったのか、視界の隅にチラつく灼熱を余裕をもって回避していた。

 

『一夏さん、今の回避モーションはもう少しスラスターの点火量を減らせましてよ? 相手は動くことなく、且つワンパターンに熱線を振り回しているだけなのです。必要最小限の動きで避けることを心掛けて下さいまし』

「えっ、あ、うん・・・・・・なんでこの状況でセシリアに指導されてんだ俺」

『一夏! が、頑張ってね! 僕、何も援護とか出来ないけれど応援してるから・・・! 負けないで一夏っ!』

「お前だけだよ、まともに俺を応援してくれるのは。ありがとうなシャル」

 

 無常にも振りかざされる言葉の刃に「真の敵は身内だったか」と心をすり減らすも、シャルロット・デュノアの激励により心構えを正し手にした雪片弐型を固く握りしめた。

 

(なんか、皆の声聞いたら落ち着いた)

 

 筋肉の権化をどう処理するか混乱していた一夏は、ここでようやく冷静に思考を開始する。思えばその登場の仕方から今に至るまで、存在感と異質感に圧倒されてばかりで、まともに対処法を考えてすらいなかったのだ。

 

(今はアイツが何者で、どうして高速回転しながら空間を叩き割って屋上に現れたのかは考えないようにしよう)

 

「理不尽ハーレムの波動を感じる」パッパラ隊基地にてそう呟いた後、トンデモニンジャとびかげの協力(という名の恐ろしく綺麗なフォームで放たれた単なるアッパーカット)で世界線を越えた等と、誰が考えつくだろうか。

 

「とにかく! 先ずは瞬間加速で後ろに回って、アイツに峰打ちなり腹パンなりして無力化を――?」

 

 不意に一夏を執拗に追い掛けていた嫉妬の業火はなりを潜め、刹那の静寂が一夏の世界を包む。瞬間、

 

(――っ!?)

 

 爆発的に膨らむ殺意が、蒼天を薄暗く歪め支配した。

 

イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ・・・・・・

「くっ、なんだ。この押し潰されそうな重い空気は」

 

 ――それは純粋なる殺意。

 

イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ――

「この凄まじい殺気、アイツが出してるのか!?」

 

 ――それは無垢なる叫び。

 

イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイしやがって・・・・・・!!!

 

 ――それは、宮本幸弘という一人の男。その切なる想い。

 

「水島以外にここまでの殺意を抱いたのは初めてだ――!」

 

 宮本幸弘=しっとマスクの嫉妬心(しっとパワー)。そのボルテージは、目の周りが滅茶苦茶に熱いのを根性で我慢しながら攻撃していたというのに、気付けば攻撃対象が可愛らしい声と何やら楽しげに会話しているという(おぞ)ましい(しっとマスク視点)事実に、臨界点を突破した。

 

「キレちまったぜ・・・・・・決定的なナニかがなあアァァァ!!!」

 

 

 世界を越えてなお存在するモテない男達、その滂沱の叫び、哀しき涙、尊き慟哭を勝手に受け止め、目の前のハーレム男を滅ぼさんがために、今しっとマスクは進化を遂げる!

 純白のマスクは彼の怒りに応えるようにその色を真紅に染め上げ、揺らめく炎の意匠からは金色に煌めく温かな火焔を放ち、しっとマスクの全身を包み込んだ。

 

「おおおっ」

 

 激昴する雄叫びに金の猛火が蠢き、しっとマスクの姿を変容させる。

 猛る僧帽筋に焼き付くようにしっとの焔がゆらめけば、そこに連なる三角筋へと撫でるように流動し繊細にして剛毅なる肌を守護する輝かしきメタルレッドの装甲を形成。ふるりと形良く、しかし無限の膂力を感じさせる大臀筋へと金色の炎が手を伸ばせば、クアドリセプス・フェモリス・マッスルを通過、ソウリァス・マッスルを優しく抱きしめ護るように、ルチャドール「ミル・マスカラス」を彷彿とさせる赤光放つ下半身の装身具へと変化した。

 

「覇っ!」

 

 裂帛の気合いと共に打ち出した拳打に纏うは山吹色にて嫉妬の世界を照らすメリケンサック。その先端部には悪しきアベックを打ち砕かんがため、愛と怒りと悲しみの乱くい歯状の棘が備え付けられてる。

 そして――煌めく嫉妬の炎は、漢の胸へと収束する。

 

「待たせたな――」

 

 しっとマスクを取り巻いていた金色の焔が、溶けるように消える。そこに現れたのは、山吹色に雄々しく輝く嫉妬の化身。非モテの太陽。無限の力。圧倒的ジェラシーの権化。

 

「これが、しっとマスク――」

 

 しっとマスク=宮本幸弘は、己の中から溢れ続ける嘗てない力の奔流を感じて尚、不思議なほど冷静であった。

 菩薩を思わせる一切の迷いが絶たれた声音で、穏やかに、そして涼やかに織斑一夏へと己が進化を告げ

 

「――ハイパーモー」

「隙ありぃ!」

 

 零落白夜スパー!

 

「どぅぶし」

 

 ――告げられたのなら良かったのだが、如何せん彼はギャグ時空の人間であり、その存在価値は最良のタイミングで吹き飛ばされることにあった。

 余裕ぶっこいて蒼天に佇むしっとマスクハイパーモードは、その余りに面倒臭い描写に反して僅か数秒で敗れたのだった。

 碌に防御体勢も取れていなかったしっとマスクは、零落白夜が直撃。せっかく纏ったハイパーモードの嫉妬心(しっとパワー)はいとも簡単にシャランラとファンシーな効果音を上げて剥がれ落ちてしまった。

 

「ああー! 俺のハイパーモードが! なんか良く分からんけど手に入ってしまった気がする力が!」

「いや、アンタもよく分かってなかったんかよ」

「き、きさまぁ! 変身中は攻撃しちゃいけないという全世界共通ルールを知らんのか!」

「ちゃんと変身終わってから攻撃したろ」

 

 確かに。

 

「う、ううう。うわーん! こうなったら、このまま殴り殺してやるぅー!」

 

 情けなくも泣きながら踏み込むしっとマスク。

 ギャグ時空の人間は基本的に不死性が強く、無力化させるならば空の彼方に吹き飛ばし、「キラーン」とさせる他ない。

 

「零落白夜を受けてまだそんなに動けるのかよ!?」

 

 そんな法則を知る由もない一夏はこれより、豚も鼻で笑いそうな泥仕合に飽きた束が、学園中のISに施したロックを解除し、しっとマスクが総勢でウン百人以上の女学生からタコ殴りに合うまで、ゴキブリを超越したしぶとさを持つ彼と死闘を演じる事となる。

 

 

 

 

 眉目麗しい少女達が祈るような――或いは呆れたような――姿で、遥か地上で瞑目していた。

 時折遠方より放たれる轟音、擦過音、衝撃波、怒号、閃光――あらゆる戦闘音に怯むことなく、ある者は制服の端が皺になったので眉をしかめ、ある者は友人と結んだ手を離すタイミングを失い、ある者は体を寄せ合ったまま談笑を始め、しっとマスクの早々の敗北を願った。

 また平和な明日を迎えるために、平凡な学園生活を送るために、何気ない日常の中で笑い合うために、どうかどうかサッサと勝鬨を上げて欲しい。

 

 一日の授業を無事に終えてまだ喧しく鳴り響く戦闘音を耳に、少女達は願った。早く勝ってくれ織斑くん。と。

 

 




 ――大公開!――
――本作制作秘話――


本棚整理してたらパッパラ隊と一緒にISのイラスト描かれた栞が出てきた。


以上。

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