男は前世日本人の転生者だ。
彼は気が付けば死んでいて、神を名乗る存在にあった。
そいつから彼は進撃の巨人に転生させられることを聞かされた。
選べる特典は三つ。
彼は生まれる時期と金に困らない人生、そして九つの巨人とは別のあることに特化した意思を失わず寿命も変わらない巨人化を特典にした。
本当はもっと細かく注文を付けていたが、却下されてしまっていた。
だがこれで彼のスタートはマーレかパラディ島でほぼ決まりになった。エレン・イェーガーが入隊するのを原作開始と規定して、その20年前に生まれることを――これももっと前にしたかったようだが――選択した。
後はどれだけ彼の目論見が上手くいくかとなり、無事パラディ島に生まれてから15年が経った。
そんな彼は今、地下空間で一人感慨深げにうなづいている。
「とうとう、実験開始にまで漕ぎつけた。残すところはあと5年。やっぱり後10年は前に生まれたかったが、目途は立った」
巨人化しても困らないほどに大きな地下を、特典の金に困らないで作り上げ――周りからはドラ息子の道楽扱い――その後も様々な資材を運び人を雇って研究機関を発足した。
前世の記憶にある家電製品の発明。その足元に今、届いたのだ。
「この装置で電力を十分に発生させられたならば、もはやエルディア人は悪魔などと恐れられはしない! いやさ、世界を救うことすら夢ではない!」
乗りに乗った口上だが、この場所は作らせる物を作らせた後は人払いをして誰もいない。研究員も物が物だけに呆れてはいたが、スケールが違うだけで既に作り上げた物なのでただの変人趣味の置物だろうと興味を失っていた。つまり黙って勝手に覗きに来る者もいない。それでこうした独り言など傍からは空しい行いだが気にしない。様式美は大事だ。
「さあ、新たな歴史の始まりだ! いざ、巨人化!」
親指を噛み千切り、巨人化する。
大きさは12m級。平均に収まる範囲だが、その肉付きは一線を画していた。
驚くほどに華奢な巨人。あまりにも頼りなく、戦いには決して向かない姿。
そんな巨人が前へと、自身の大きさに合わせた装置へと進み行く。
それこそが――自転車である。つまりこの巨人は、ロードレーサー仕様だった。
「ぐおぉぉぉぉん」
一声吠え、漕ぎ始める。漕いで漕いで漕いで……発電し蓄電する。これこそが彼の考えた、世界を救うクレバーな方法。巨人による自転車発電である。
便利な電化製品を発明し、必要な電力を巨人で供給する。火力も原子力もいらない非常にエコでクリーンな発電方法である。
原作が始まるまでは己が巨人になれることを秘匿せねばならないが、それも5年すれば変わる。その時までにせめて洗濯機と掃除機は一般家庭に普及させたいと考えている。
世の中に便利で楽な物が溢れ、そのために巨人がいなくてはならないならば絶滅させることなど無理なこと。
前世のより進んだ文明でもエネルギー問題は長く世界中を悩ませ続けている。これから産業革命やエネルギー革命が始まるこの世界で、いち早くこの巨人によるクリーンな発電を広めてしまえば良い。
地ならしでの脅しなど無粋にして不要! 真のエルディア人救済は世間への普遍普及の浸透によって成される!
その後世界が救われたかは知らない。知らないったら知らないし、続かないったら続かない。
非常にバカでアホな転生者の、世界を救えるかもしれない試み。
めでたし、めでたし……かな?