ゴブリンスレイヤー~もしも女神官より先に転生オリ主が入ったら~   作:ちっく・たっく

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疑心暗鬼を目指して。


影を走れ! 走ってないけども!

 

誰にも見通せぬ闇の中【マスタースクリーンの裏っかわ】

 

混沌の駒が二つ、互いに囁き合っていた。……いや、一つが好き勝手に喋り、もう一つが律儀に相槌を打っていた。

 

「おめでとう。君がこの街では唯一の成功例だ」

「ありがとうございます」

「必要があるから色々とやったけど、本来、不本意なのさこれ本当」

「はい」

「目的は達したから後の事は全部任せるけど、君の……元家族については慎重にね。星辰を合わせれば成功確率は上がるから」

「わかりました」

「まあまあ、失敗しても構わないさ、僕としてはね」

「はい」

「多分もう会うことも無いから最後に一つ」

「なんでしょうか」

「楽しみたまえよ。サイコロを転がす天上の畜生どもの様に遊べ。……そうだね、これを命令としよう」

「はい」

 

一つの駒が去り、残されたもう一つは考える。ある意味において生れたてといえるこの身には、遊ぶという事さえ難解だ。

 

呼吸数度程度の時間、脳内を検索する。

不意に雷鳴のごとくひらめく答え。

 

「冒険者だ。冒険者を呼ぼう」

 

 

 

……………

 

 

 

道化師が、水の街を歩いていた。

 

派手な白塗り化粧を顔に塗りたくり、麦穂のように安っぽい色をしたカツラを被り、これまた白赤派手な衣装を着込んでいる。

背負っている風呂敷包みの中には今さっきその辺りで二束三文で仕入れたようでいて、事実ほとんど捨て値で手に入れたガラクタばかりが入っている。

 

彼は広くて明るい通りをフラリと逸れて狭くて暗い方へと踏み入った。しかしてその足取りは陽気に軽い。

そうしてしばらく歩いた後、全くの気紛れとばかりに手近な酒場へと足を向けた。

 

重苦しく軋みを上げてドアが開き、中に佇んでいた大柄な男が振りかえる。この店の主人だろう。

 

「おう、店は夜からだぜ、出直して……な、なんだあ、てめえ?」

 

たまの祭りの夜からそのまま抜け出たような、あまりに場にそぐわぬ闖入者に、鼻白む店主に、道化師があくまで朗らかに告げた。

 

「つれない事を言ってくれるな親父。こちら先頃この街に行き着いたばかりの旅芸人。飛びっきりの芸を見逃したくないなら、酒を恵んでおくれなよ」

「……高えぞ?」

「お代は見てのお楽しみ。……火酒をおくれ、この店で一番強いのを」

 

話してみれば相手は白昼夢からの侵略者などでなく生身の肉を持って酒を欲しがる客、珍客の類いだと納得したか、一瞬怯んだことを誤魔化すように首を振り、店主は棚から酒瓶を取り出してカウンターへと置いた。

 

「へへっいただき!」

「あっおい!」

 

杯の用意を待たず、道化師は瓶をひったくり酒を呷る。一口、二口、鉱人すら唸らせる酒を、豪快に飲み下し、

 

「……っかーー! 旨い! 天にも昇る心地だい!」

 

やおら叫んで、道化師は閃くように、身をくねらせるように動いた。

対面にいる店主にも、動作が速すぎてハッキリとは細部が分からなかったのだ。

 

道化師は背負っている風呂敷を開くとそこから木箱だの棒っきれだの板っきれだのを掴み出し、その端から背後に向けて投げたのだ。

それらは瞬く間に積み上がり、不格好で不安定な塔に積み上がった。……一つたりとも崩れてこない。

 

時間をかけて、慎重にやれば店主にも、子どもにだって出来るだろう。だが道化師はポイポイと放り投げて作ったのだ。一見して粗末な木切れ達が彼の普段使いの商売道具であろうことを差し引いても……見事な業前だ。

 

「おお……おお!?」

「よ! ……ほ!」

 

思わずうめいて手を叩こうとした店主の目に、さらに驚愕の光景が映る。

 

その場から軽快に、店の天井に届かんばかりに跳び跳ねた道化師が、宙返りをしてから体重を感じさせぬ猫めいた仕草で塔の上に乗ったのだ。

自分の偉業を誇るように胸を張って腕を広げ、一礼までしてみせる余裕を見せつける。

 

「う、おおおぉ……」

「まだまだ拍手にゃ早いってなもんで」

 

今度こそ手を叩き始めた店主を尻目に、道化師は右手に持ったままだった酒瓶から最後の一口をグッと含み、ポケットから取り出した左手を目前にかざし……。

 

燃え盛る火を吹いて魅せた。

 

「うおおおおお!?」

 

いよいよ腰を抜かしそうになる店主は知る由もないが、道化師の左手には独自の製法のマッチで作った火種がある。

 

狭い店が燃えやしないか、そんな心配が浮かんだのはずっと後になってからで、店主は人生初の興奮にすっかり酔っていた。

 

「店主! 酒を飲もう!」

「へっ……?」

「オイラっちの芸を素面で見るのはまったく、そんなことだと思うがね……ああ、心配せんでも」

 

またもや跳び跳ねて地面に降り立つ道化師。その背後で崩れる木切れの塔。

 

「飲んでも、あんたの口から火は出やしないさ」

 

店主が後からハッキリと思い出せるのはここまでだ。……まあ、つまりは、しこたま飲んだ。

 

 

 

……………

 

 

 

「んーんんー♪ んーー?」

 

すっかりいびきをかいて眠りこけている店主を軽く介抱してから、道化師は鼻唄交じりに着替えを始めた。この余裕も事前に解毒剤を飲んでいたゆえだが。

 

実に沢山の有意義な話を聞けたものだ。

 

『至高神殿から古代の祭器が盗まれたらしい』

『街に潜む邪教の輩、どうやら複数らしい』

『街中でゴブリンを見たというのは本当らしい』

『虫の化け物や狂人、ドラゴンを見たなんて話もある。……これは眉唾だが』

『どうにも神殿は一連の事件がゴブリンの仕業であるとしているらしい』

『後ろ暗い界隈はかなりヤバイと感じているが、街の連中は呑気なものだ』

『剣の乙女をはじめとした街の有力者は中々立派だが、今回の対応は不自然だ』

『人と物の流れの変化は大きくはないらしい』

 

手慣れた調子で化粧を落とし、カツラを外せば素顔は黒髪黒目の目立たない、何処にでもいそうな男。……頭目だ。

 

派手服から旅人の服へ、髪を油脂で軽く固めれば、今度はまるで街にやって来たばかりの薄汚れた旅商人か。

 

風呂敷を裏返せば別の柄であり、痕跡を全て詰め込んで仕舞えばうって変わって目立たない。

 

踵を返して店を出る、ふと、今回のコレは食い逃げならぬ飲み逃げに当たるのかと思ったが……。

 

「……お代は見てのお楽しみって言ったしな」

 

実質火酒一瓶分は楽しんでもらっただろう。残りの酒は全部店主が飲んだことだし。……彼は目覚めた後、どこからを白昼夢だと思うだろうか?

 

さておき、次は商工ギルド。

商人だという依頼主自身の事を洗わなければ。

 

……近所のババアと食事に行くのだって裏を取れと教えられて育った身としては、街に着いたら真っ直ぐ会いに行くなんて思いもよらない。

 

若き旅商人は油断なく、規則正しい歩調で水の街を歩いて行く。

 

彼や道化師を含む、今日の午後だけこの街に現れた複数の特徴的な人物を同一人物だと把握することは盤上をうかがう神でもなければ不可能なことだった。

ましてや一介の鋼鉄等級冒険者をいわんや。

 

 

 

……………

 

 

 

一方その頃、頭目から小麦粉配達の完遂を仰せ付かった三人の冒険者達は、まずはこの街でひときわ立派な至高神の神殿へと足を運んでいた。

 

「一人で聞き込み調査って、つれねーよな頭目は」

「まあまあ、ここは専門職に任せましょうよ」

 

小麦袋を担いで不満をもらす聖戦士に、武術家が柔らかく対応する。

 

「つってもよ、話を聞いてまわるくらい俺達だって出来るだろう? 手分けすりゃいーじゃん」

「……今さら文句言わないの。街に入る前に説明されたでしょう」

「へーい……」

 

対照的にしょっぱい副頭目の諭す声。

もしも敵がいるとして、そしてその敵が自分達を愚かで未熟な冒険者と見込んで呼び寄せたとして、敵の情報を集める事は必須だがその動きを悟られるのは上手くない。

焼け石に水だし取り越し苦労かもだが、やらないよりはましということで、頭目は到着前に馬車を降りて一人徒歩で街に入る念の入れようだ。

 

ちなみに一連の相談を乗り合わせた女性三人一党は興味深く聞いていて、たまに口を挟んできた。仲良くなったのだ。

この点だけ見れば病的に用心深い頭目らしくない行動ではあったが、

 

『現時点で既に大物なことに気づいた。あらゆる意味で心配いらない』

 

据わった目で断言されたら仲間達は驚きだ。

元から彼女達は良い人達だと感じていたのだが。

 

ダメ元で正体を聞いてみたら頭目には直接聞けと言われ、快活な少女には「ゴメンね!」と言われ、女剣士には頭を下げられ、物静かな少女は首を振った。

 

ともあれ小麦運びである。

そろそろ依頼主であるゴブリンスレイヤーが泊まっているという神殿が見えてきたところ。

 

「着いたな……っと、あれ」

「あら?」

 

奇遇なことに、時を同じくして神殿からも冒険者達が出てきた。

弓を背負った妖精弓手、酒精に赤らんだ鉱人道士、理知的な所作の蜥蜴僧侶。

そろそろ顔馴染みになった感のある銀等級冒険者達だ……が、件のゴブリンスレイヤーと女神官の姿がない。

 

「え、なにあんた達、何しにここに来たの?」

 

妖精弓手が小鳥めいた軽やかな足取りで歩み寄ってくる。

 

「ええと、配達の依頼です。ゴブリンスレイヤーさんから、小麦粉を届けてほしい、と。それと別件で街人の護衛に付きます」

「……小麦粉?」

 

副頭目の返答に、妖精弓手は目を丸くした。

 

「なにそれ、あんた達、何か聞いてる?」

「いえ、拙僧はなにも」

「わしも聞いとらんがまあ、かみきり丸だもの。驚きも呆れも売り切れだわな」

 

それに、どう使うかの見当はつかんでも、何に使うかは分かりきっとる。

その言葉に、場の誰もが思わず微笑した。

 

ゴブリンスレイヤーだもの。ゴブリンを殺すのに使うのだろうさ。

 

「でさ、という訳でゴブリンスレイヤーさんは?」

「うむ、小鬼殺し殿と神官殿は少しばかり不覚を取りましてな、大事をとって今日は休んでおります……どれ、拙僧が運び入れておきましょう。御二人は少々お待ちを」

「ああ、すまんな鱗の」

 

蜥蜴僧侶が小麦袋を軽々と担いで神殿に戻って行くのを見送る。

 

「じゃ、俺達はこれで……」

「ちょっと待って」

「ぐえ」

 

妖精弓手は聖戦士のマントを引っ張った。聖戦士はたたらを踏んだ。

 

「なーにやっとんだ金床」

「金床言うな樽鉱人。……時間できちゃったし、少し情報を伝え合うのも良いかなって」

「私達は来たばかりですけど……」

 

奥ゆかしく一歩引いてみせる武術家に、森人と鉱人は笑った。

 

「ふふん、森人にしちゃ、良い考えだわい。……この街はどうにもこうにもキナ臭くてならんしの」

「鉱人はもう少し素直さを身に付けるべきね」

「お前に言われちゃおしまいだわい……っと、すまんの」

「ははは」

 

仲がよろしいんですね、と口に出して言う勇者は、幸いなことに居なかった。

 

「そうじゃな、護衛って言ったか、街中で?」

「ええまあ」

「普通に考えりゃ奇妙な依頼じゃあるが、今のこの街では自然に思えっちまう」

「ええ、そうね。……私達が聞いた話じゃ、街中でゴブリンを見たって人もいるらしいし……地下遺跡には、悪魔もいたわ。……小鬼十匹に対して、小物悪魔一匹の割合ってところね」

 

真剣な顔の上級冒険者を前に、下級冒険者達は自分達の請けた依頼の概要や分かっていることを伝えた。……なんとなれば、自分達が死んだ後をお任せするかもしれないのだ。

上の森人は嘘をつかない、という噂こそ、嘘であって欲しいというのが三人の本音であった。

 

 

 

……………

 

 

 

「やあ、やあやあ、お久しぶりと、はじめまして! 遠路はるばるようこそだ! 歓迎するよ冒険者! 君達が来てくれて安心だ! さあ、お前達も挨拶しなさい」

「この度は依頼を請けて下さってありがとうございます。……最近のこの街は物騒で、本当に助かります……こちらが娘です」

「……」

 

それぞれが集めた情報を擦り合わせて、とっぷり日もくれた頃。

冒険者達はいよいよ依頼主の家へと赴いた。

 

ことさらに陽気に笑う商人。

表情に影のある夫人。

夫人の陰に隠れてこちらを窺う娘。

 

怪しすぎる、という感想は先入観がゆえだろうか?

魔術師はどうにか眉間に皺が寄るのを拒絶した。

 

「おっす! 久しぶり! あ、家を紹介してくれてありがとうな! すげえ助かってる!」

「ははは、あれは私の商人生活を通しても類を見ない良い判断だったな。こうして有事に信頼のおける冒険者が来てくれた」

「止せやい、照れるぜ!」

 

聖戦士は道中を含めて色々と悩み過ぎて逆に吹っ切れたようだ。

裏も表も知ったことかと切り替えて明るく振る舞えるのは彼の強さだろう。……明る過ぎる気もするが。

 

「奥さん、奥さん、台所と鍋をお借りしても良いでしょうか?」

「え、ええ」

「ありがとうございます! お近づきの印にシチューを拵ます!」

 

頭目は普段の暗殺者のような黒外套を封印して、貧相な皮鎧に片手剣という装備。それも食事の時間ということで外してしまっている。

 

『何時でも何処でも侮られるゴブリンスレイヤーさんを参考にした装備で行くから、一介のお調子者軽戦士として扱ってくれ……あ、頭目って呼ぶのも禁止な』

 

台所へと駆けていく頭目……軽戦士を装った彼に、呆気にとられた夫人へと武術家が近づいた。

 

「ごめんなさい、彼ったらお調子者で、いつでも突拍子もないの……悪い人ではないんだけど」

「え、ええ、はい。冒険者さんですものね」

 

ある意味一片の嘘もない武術家の言葉に頷いて、納得を顔に浮かべる夫人。

 

「私からも、あの家を紹介してくれたお礼を言いたいわ。本当に素敵で、申し訳なかったくらい。……家財道具も多く残してくれて……」

「いえ、私達も急いでいたので折が良かったです。……大事に住んで頂けたら家も喜ぶと思います」

 

幼馴染の聖戦士より自然に屈託のない武術家に、どうやら夫人の憂いも僅かに晴れたか、和やかなやり取りを交わしている。

 

……思えば一緒に過ごすようになって大分経つが、ほとんど唯一無二のこの同性の友人には未だ底知れないモノを感じる。

それとも、世間一般の女性というものはみんなこうなのだろうか?

どうにも曖昧や忖度や同情的な態度といった諸々が苦手なもので、同性からは嫌われてばかり。そう、学園でも……。

 

果てしない物思いに心を飛ばしかけた魔術師のローブが、不意にクイクイ引っ張られた。

視線を下ろせば、こちらを眩しいものを見るように見上げる翡翠色の瞳。

 

「……」

「……」

 

市街戦【シティアドベンチャー】とは厄介なものだ。

 

やれ相手がゴブリンだ、トロルだといった怪物ならば、最終的には全員殺せば良いのだから簡単なものだ……と、自分の思考が物騒な方へと傾いてるのを自覚し愕然、いやいや弟の面倒見てたし、その経験を参考に……アイツ誰に似たのか跳ねっ返りの生意気坊主だし小突き回してれば良かったんだった依頼主のか弱いお嬢さんにどうすれば……。

 

といった逡巡を持ち前の頭脳で五秒で済ませ、魔術師は見習いに戻った気分で慎重に言葉を絞り出す。

 

「……なに?」

「えへへ、おねえちゃん、きれーね」

 

……謎の好印象? 何かの罠? 真意を見抜くのよ私。いえ、情報を引き出す好機? ええい、頭目も聖戦士も武術家もなにやってるのよ私が蛙肉以来の大ピンチなのが見えないワケ?

 

「えっと、お母さんのところにいないの?」

「おはなししてる」

「……お父さんは?」

「いま、おとーさん、きらいー」

「……そうなの」

 

もの悲しい家庭環境が垣間見えてしまった。

今度里帰りしたら小憎らしい親父殿に優しくしてやろうかしら……いや、調子づいても困るしやめておこう。

 

 

 

……………

 

 

 

「お待たせしました!」

 

歓談も一段落して、そろそろ食事にしようかという頃。

奥に引っ込んでいた頭目がシチューを鍋一杯に作って戻って来た。

 

「あ、申し訳ない、お客様に任せきりに……」

「いえ、むしろ何かせずにはいられない小心者ですみません! 少しばかり季節は早いですが、美味しいと思いますよ」

 

このシチューは、多目に運んだ小麦粉を流用して作ったものだ。

速さを重視しているが携行してあるスープストック(夜営用固形版三号)はじめ色々と工夫しているので味もいい。

 

……さて、どうなるか。

 

頭目(道化師、旅商人、エトセトラ)の昼間の調べによると、依頼主である彼の商人は多くの商品を扱う遣り手で、食品にも造詣が深いという。

この街に来た時期も聖戦士達の証言と一致する。

そんな彼が、ある時期を境にめっきり商工会に顔を出す機会が減った。

逆算すると……。

 

(ちょうど俺達に依頼の手紙を出したあたり、なんだよなこれが)

 

もしも別人が巧妙に化けているならば小麦粉の変化に気づかない……かもしれない。

夫人や……もしかすると娘さんも含めて裏があるとすると、何らかの理由をつけて食べようとしない……かもしれない。

 

「味見してみたらですね、我ながら美味しいんです……むぐ、美味い!」

「あ、ずるい! 俺にもくれよ!」

「あたしもー! ちょーだい! ちょーだい! 」

「はいはいどーぞ」

 

頭目は目の前で鍋からよそって食べてみせ、聖戦士と娘に配ってやった。もちろん、商人、夫人、娘をさりげなく視界に捉えながら。

 

「おやおや、ご相伴に預かろうかな」

「こら、お礼を言ってからよ」

「はーい! ありがとう冒険者さん! いただきます!」

 

……どうやら、全員が抵抗なく食べてくれるようだ。これは思い過ごしの確率が上がったかな、と頭目が残り二人にもシチューを盛ってやっていると……。

 

「ぐ……!?」

 

商人が、シチューを口にした途端に頭を抑えた。

 

「あ、あなた大丈夫!?」

 

夫人が駆け寄って、商人の背中を撫でてやる。

 

……娘は、そんな光景を前に、とても喜ばしいものを見たとばかりに、満面の笑みを浮かべていた。

そして素早く父親へと、抱きつきに行く。

 

「おとーさん!」

「う、うぅ、ああ大丈夫。あんまり美味しくて、ビックリして詰まらせてしまった」

 

朗らかな笑みを作り、夫人と娘を安心させようとしている……娘の表情を見ていたのは俺だけか。

 

頭目は思案を巡らす。……邪気は感じない、と思う。

 

しかし、だが。

 

「あ、ところで軽戦士さん」

「はい、なんですか?」

「このシチューに使ってる小麦粉、この街に出回ってる物じゃないですよね? 相当キメ細かい粉でないとこの滑らかさは出ないと思うんですが」

「……ご名答です! 実はあの辺境の街から持ち込んだ粉でした」

「やっぱりですか。道理で懐かしい味だ」

 

商人は心底喜ばしいと示すように匙を進め、そんな夫の様子に安心したのか夫人もシチューに手をつけ始めた。

 

「おかわり!」

 

席に戻った娘が太陽のような笑顔で一番に平らげた椀を差し出してくるのを受け取って、頭目はニッコリ微笑んだ。

 

市街戦は、楽しいね、どうも。




長い!
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