信じて送り出した一般人幼馴染が南極の国連機関のブラック体質にどハマりして照れ顔ピースビデオレターを送ってくるなんて…… 作:大根系男子
地雷原のような伏線のない話を書きたかった。
本当なんだ、信じてくれ(白目)
前兆
其れは何時の日か。
遥か、遥か。
ずっと、ずっと。
人理が未だ産声を上げて間もない頃の想い出。
科学なぞ存在しない。
神々と人が共にあった。
そんな時代の
ただただ何処にでもあった友誼を結んだ者達の幕間。
始まりすら語られることなきその御話。
塵となって人理の大河に消えていった過日の記憶。
されどそれは黄金にも等しきもの。
あの夏の日もそうであった。
軽やかな風が凪となって湖面を泳ぐ。
立ち並ぶ木々は枝葉を擦り笑いあう。
照りつける夏の暑さを涼やかな微風が彩る。
そんな夏のある日。
とある世界の片隅にある湖。
そこに居た。
物言えぬソレにとって唯一の友であり唯一無二の主人。
巨大で巨躯で偉大。
世界全てにその名を轟かせる大いなる戦士。
そんな
何をするわけでもなく一人と一匹とでも言うべき体格差の友達は静かに湖畔に佇む。
静かであった。
そう、静かであった。
雷鳴が如き粗野な所作が似合う男にしては珍しい。
最早在り得ないといってもいいような風景であった。
何せソレの友は何というか、そう。
端的に言えば豪放であり豪快であり豪傑だった。
致命的なぐらい。
取り敢えずのノリで行動で行動する。
なんかイケるんじゃね?みたいな感じで女装とかして敵陣に突っ込んでいった。
そんな思慮深さに欠ける行動で何となくうまく良く男だった。
やめろと諫めても悪友とつるむことを辞めない。
おまけに人の心を慮るばかりに先のことも見えない。
そんな短慮で愚昧でどうしようもなくて。
けれど何時だって弱き者、悲しめる者の傍に在って勝利を齎す、そんな偉大な男であった。
そんな男が沈黙をする、釣り針で大地の杖を釣り上げるような話だ。
だから必然それは続かない、というか耐えられない。
これまで必死に黙り続けていた五分間が奇跡のような話だ。
ついに沈黙に耐えかねた男は、彼に比べれば余りにも矮躯なソレへ話しかける。
「なあ友よ」
「……」
言葉は返ってこない。
風の囁きだけが世界を支配する。
だが不思議なことに男の耳には声が聞こえているかのように会話を続けた。
「なんだ、まだ怒っているのか」
「……」
一人相撲のように会話は続く。
「正直すまんかった、いや何、ついな、こうな、あの娘子が喜んでくれるかなぁ……なんて」
大男がくしゃりと笑う。
立派に蓄えた髭面に似合わない幼子のような仕草。
そうなのだ、この男は。
その体躯は強大で、その心根は強靭で。
「……」
それなのにあらゆる戦士の中で最も慈悲深い。
他者と隔絶した倫理観。
それ有するに相応しい地位と格を持つ。
男からすれば友だという言うソレを含め己の同族以外万象全てが弱者でしかない。
「すまなんだ、お前が我慢しろというのに」
にも拘らず共感し許し笑い愛する。
優しすぎるほどに人の気持ちに寄り添うのだから、畏怖され崇められ愛され信仰される。
家族を、友を、民を愛して大切にし不義理は働かぬ。
悲しむ者があれば共に涙し悲憤に駆られ、過ちを犯したものがあれば怒れども誠意には必ず応える。
各々の道理と言い分を知り世界中の誰から蔑まれる悪人であろうと公平に接する。
だから今回もそうだった。
悲しみに沈みされど誠意に応え勤めを果たす
力ある言葉を祝福として贈った。
結果男の傷は残る。
永遠に癒えることなき棘として残った。
だが男は許す。
その事実を笑って許す。
己が吐いた言葉をどうして飲めるかと。
そう言って魔女を許し、彼女の愛すべき伴侶との幸ある未来を祝った。
そういうことが言えて、そういうことで喜べる男だった。
「だがどうしてもな、あの寡婦に笑ってほしくてな」
だから仕方がない。
そういう男なのだと諦める他ない。
仕方がないのだ。
そんな男だからここまで付き添った。
そんな男だからここまで着いてきた。
そんな男とだから友情を結んだのだ。
「悪かった……この通りだッ!」
ソレは声を大にして頭を下げる男を見上げながら、そんな機能なぞ己にはないくせに溜息をついた。
随分自分も人間臭くなったなという自嘲と、
「……」
友に謝らせ自責に駆らせている今の状況がなんだかどうでもよくなったのだ。。
言葉はない。
だが男の耳には確かに聞こえたのだろう。
ばっと頭を上げて歓喜の滲む声で吠えた。
「っ!そうかっ!許してくれるかっ!ははっ!やはりお前は優しいな!!」
喜色満面とはこのことだろう。
母からようやく許しを得た幼子のように体中で、ソレを踏みつぶさぬように細心の注意を払って、歓びを表現する。
「……」
呆れるようにその姿を見ていたソレが何かを言ったのだろう。
『いい加減にしておけ』か、それとも『恥ずかしいからやめろ』か。
どんな言葉かは当人達にしか分からないが。
その言葉には確かな友情が宿っていて男の耳朶を優しく擽るようだった。
「嗚呼そうだな。だがな友よ、ああ友よ。幸いとはこのことだな。お前に許されるのはカミさんに許されるのと同じほどに嬉しいことだぞ!」
「……」
大袈裟な、そう言ったのだろうか。
ソレは僅かに頭を動かしそっぽを向く。
小躍りをやめ、それでもうれし気に男は膝をつく。
そして男は壊れ物に触れるようして、目一杯の慈愛と友情を宿した掌でソレを包んだ。
「さあ行こう。なに何処へだって?……お前にしては愚問だな!」
頭へとソレを乗せ笑う。
その瞳は明日を向く。
「何処へだって行けるさ!何処までも何処までも、この地平線に黄昏が訪れるその日まで我らは何処へでだって行ける!」
足取りは軽く大きい。
矮小なソレでは到底辿り着けない場所を見せてくれる。
「心の赴くままに!声を大にして地平全てに轟かせるよう!」
世界全てに轟くように。
「万感の歓喜で喉を震わせ足を運び!」
誰にも邪魔をさせないと宣言するように。
「そんな旅路を約束の日まで我らはずっと続けていくのだから!」
ただただ歓びと幸福、そして友情に満ちた日々が続いていくことへの歓喜を声に出して。
偉大な戦士と小さき者はまだ見ぬ場所へと足を進める。
決して色褪せぬ黄金の日々。
最果ての断崖を飛び越え笑い合い、邪神がその様を嗤おうと貫いた唯一つの友情。
詩人が綴ることなき旅路。
否、その名と末路以外知ることすらなかったのだから当たり前だろう。
だから話は此処で御仕舞。
偉大な戦士と矮小なソレ。
方や遥か未来でその名を轟かせ。
方や遠き未来でその名を嗤われ。
最早嘗てあった栄光なぞ何処にもなく。
利口ぶる詩人達の目には入らぬまま沈んでいく。
故に最早語ることはなく。
そんな人理の片隅に消えていった。
尊き守護者から加護を与えられ友と呼ばれ。
忌むべき悪しき火から原初の蛆虫と罵られたそんな小さき者の物語は。
これで御仕舞なのだ。
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一体何処の誰が言いだしたかは分からないが2015年年末から2016年の暮れまで丸ごと一年間、まるで全人類が眠っていたように過ぎていたという今世紀最大のミステリーを指す言葉。
無論ネット上の話でありそれ以外にも
朝起きたらいきなりもうすぐ再来年ですなどと泡食った表情で言い出したニュースキャスターを見て何言ってんだこいつと男が思ったのも記憶に新しい。
世界経済がどうのエネルギー問題がどうのととやかく言われ続けて早数週間。
もうそろそろ節分になる今日この頃。
男は郵便受けから受け取ったエアメール、その中に入っていたDVDに記録された映像を眺めていた。
『ねえっ!これ、もう撮ってる?』
画面の向こうには忙しなく髪を弄る少女の姿があった。
橙色の髪に琥珀色の瞳。
見慣れた彼女は不安げな様子で何度も前髪を弄っている。
黒いライダージャケット纏って画面を食い入るように見る男とは正反対な。
見慣れぬ真っ白な衣装を纏った見慣れた少女の姿がそこにあった。
『はい、先輩!』
画面を食い入るように見つめる姿は見えないが、その敬意の熱が籠った声の主が己とそうは離れていないだろうと男が勝手に決めつけた少女の声がする。
それに慌ててわたつく少女。
『えぇぇぇ!?はっ早く言ってよぉ!』
『すみません、先輩。ですがいつも通り、万全、完璧、最高の先輩でしたから一分一秒でも早く先輩の姿を記録に残すべきだと判断してしまって……』
つまり何処をほっつき歩いているのかあの
『ええっと……ん!りーくん!……ひっ、久しぶりだね!』
場所は推測すらできない。
人工的な清潔さしか感じさせない白い壁。
ただ休むだけの場所といったベッド。
色気も下手くれもない、そんな場所に彼女はいる。
『私はええっと、今なんかすごい山奥に来ててそこで毎日働いてます』
『グッド!ソーグッドです!もっと胸を張ってください、マスター!その
『いいえ□□□□□□、マスターの愛らしい表情を見てください。少し緊張で汗ばむあの表情を。ここはあの恥じらいを前面に出すべきです』
『ええっとそれでね、あんまり長く話すこt『ははっ何を言われますかな、聖女□□□□。女児、とりわけマスターが被写体であるなら猶更、瑞々しい元気の良さこそをこのカメラに映すべきです』あーあー!私ね!』
幼馴染しか映ってはいないがどうやら他にもいるらしい。
そしてそれぐらいしか特定できる要素がない。
音声に検閲も掛かっている。
『ここ□□□□ってところで働いt『ふふっ笑わせないで頂戴。貴女達、何も分かってないわ。この子に似合うのは清らかさと可憐さ……そうつまりフリフリのd』あー!働いてます!元気!すっごく元気!』
『もう□□□□さんも正しく成長した私も五月蠅いですよ!トナカイさんが喋れないじゃないですか!』
『ねーねー!おかあさん。わたしたちお腹すいたよー』
『まあ!大変だわ、大変だわ!どうしましょ、どうしましょ!こんなにお腹が減っては豆のスープじゃ足りないわ!今すぐ金の牝鶏を捕まえに行かなくちゃ!』
『あーもう!ちょっと静かにしてよー!』
困ったように幼馴染が声を荒げる。
それに静まり返るかと思えば。
『そっちはどう?小母さんも小父さんも元気してる?りーくんは……きっと元気だよね』
『おっ!なんだい嬢ちゃん、そのりーくんとやらが意t『黙れ馬鹿弟子』なんでだアァッ!』
『おおランサー、死んでしまうとは情けない』
『ランサーが死んだ!』
『この人でなし!』
『■■■■■■―――ッッ!!』
騒ぎ放題な声が画面越しに響く。
賑やか雰囲気がしっかりと男にも伝わる。
それが何とも言えない寂しさと見っとも無い小さなしこりを生んだ。
当たり前と言えば当たり前だ。
生まれてこの方、ずっと一緒だった相手。
それこそ知らない場所なぞ何処もないと言わんばかりだったのに。
『ほう!流石アカイアの大英雄だな、□□□□を見事に振り回して居る……うむ、やはりあの大殿筋はいいな、股間によく響くぞぉ!!』
『別に奴さんがどうなろうと構わないんすけどね、いい加減マスターにも喋らせてやったらどうかと俺は思いますけどねぇ』
『むむ、確かに□□□□□□殿の仰る通り……いやしかしあぁぁぬぉ!筋んんッ肉ゥゥッッ!正しく数学的ィッ!美しさァッ!!□□□□□殿が心惹かれるのも不等号ではありませんぞォッ!!』
『あー!子ジカ!何一人でテレビ取材受けてんのよ!』
『信じられない!あたしにも声かけなさいよ!!』
『む、吾の出番はないのか?そうか、ところで菓子はないか緑の人』
恋仲でもないというのに。
見知った彼女の見知らぬ姿を見せつけられて、少しばかり。
本当に少しばかり年甲斐もなく妬いていた。
だが、
『む、□□□□□!なんだ、ライブか!うむローマ皇帝の余に相応しい舞台ではないか!』
『ほう!ならばこのセイバーブライド!マスターの花嫁も馳せ参じねば、なっ!何せ余はマスターと共にハリウッドの地に君臨したのだから!』
『どうでもいいがな、そこの音痴共。いい加減マスターに喋らせてやったらどうだ?その内、素材回収で周回させられている□□ばりにイラつき始めるぞ』
『フハハハハハッ!よい、太陽王たる余が許す!とくと喋るがよい!』
『おや?立香。あの性悪はどうしたのです?ええ、子どもたちにナイチチトリアの伝説だのという紙芝居を見せていた花の糞野郎のことです』
『王、彼なら』
『Aaaaaaaaaarrrrrrrrrrthuuuuuuuurrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!』
『真面な方のお父さんが懲らしめてます』
『マシュゥッ!??』
『ちょっとー!もーぅっ!!』
その笑い声が楽しそうで。
「嗚呼、糞」
つられて笑ってしまう。
見っとも無い嫉妬はあるが、それ以上に体感で数か月、実際には一年以上離れている幼馴染。
その彼女が相も変わらず多くの人に囲まれて笑っている。
その事実に安心して嬉しくて、かつての友がそうした様に幼子のような笑みを零す。
年が明ければ彼女が楽しみにしていた修学旅行が待っている二学年への進級、そんな時期に忽然と留学していった幼馴染。
何時ものように朝の弱い彼女を起こしに行けばその姿はなく。
まるで霧のように消えていた。
ご両親に聞いても返ってくるのはあやふやな、狐にでも包まれたような返事だけ。
気が付いたら自分の周りから彼女だけが消えていた。
『とっにっかっく!!私は元気!だからこっちのことは心配しないでね!』
そんな彼女が送ってきた一枚のDVD。
『毎日楽しく周回してるよ!うんたのしい、すてきなしょくばだよ、ほんとだよ』
『司令官、お気を確かに。大丈夫ですか?切開しますか?』
『大丈夫、まだイベント走りきってないから。そうまだだよ、秋までにしっかり育成しないと……□□祭が……』
再生してみれば出てきたの相変わらずな様子。
それどころか何時にもまして彼女の言う通り元気な様子だった。
『身体に気を付けて、好き嫌いせずに蜂蜜ばっかり飲んでないでたまにはちゃんとしたもの食べてね!』
「それはこっちの台詞だ、馬鹿たれ」
何でもよく食べるがあちらでもちゃんと食べているのだろうか、そう思って聞こえるはずもないのに男は呟く。
すぐに馬鹿だなと被りを振ってつい辺りを見渡した。
何となく気恥ずかしかったのだ。
『それから!それから!『そろそろ時間だよ、立香ちゃん』……来年の春には一回そっちに帰るから』
そう言ってにっと笑い。
ピースサインを向けて彼女は言う。
『お土産いっぱい買ってくるから楽しみにしててね!それじゃまたね!』
楽しそうに、再開を心待ちにするように。
その袖口から覗く火傷痕を気にすることなく。
露出のあまりない制服の上からも目に見える小さな傷跡を気にすることなく。
元気よく、そう言って。
「俺は子どもかっての……」
再生は終わった。
画面が暗くなる。
ぐだっと男は、りーくん、そう幼馴染の藤丸立香に呼ばれていた
画面越しとはいえ久々の再開に思わず力が入ってしまったのか、理人は自分が思った以上に気を抜く。
「あー……んだろうなぁ」
言葉と共に溜息を吐き出す。
この数か月、頭に過ぎる可能性を不安視していた。
この世界に未だ微かに残る超常現象、曰く神秘、曰く魔術、曰く秘跡。
なんの音沙汰もなく忽然と消えた幼馴染にそれらが関わっているのでは、そう
無論理人はそんな超常現象と関わりはない。
ただの一般人、前世とでもいうべき記憶があることを除けば、だ。
魔術のまの字すら知らぬ素人。
たまたま神秘色深き時代の記憶を本人の記憶として持って生まれた、ただそれだけの存在である。
だからこそこれまで足で稼いできたのだが。
「無駄骨だったかぁ……」
以前と違って骨があるだけになどと冗句を思い浮かべ失笑する。
他人に聞かせるまでもなく下らなかったからだ。
「Fuck、マジで休みぶっ飛びやがったじゃねぇか」
徒労である。
それだけの時間をかけるに値する相手だというのが藤丸立香という少女なのだという事実に目を背けたまま、一欠伸する。
時刻は朝4時。
就寝から4時間、起床から3時間しか経っていない。
眠いわけである。
だが身体がそうでも脳が微睡みと覚醒の最中であって。
要するに眠れないのだ。
「ほんと不便なことで」
土の香りが恋しいと零しながら、適当にこの日の予定を組み立てる。
新都を超え、県境から隣の県まで足を延ばそうとしていた予定は漂白済み。
では何をすべきか。
そう考えていると、階段から小さな足音が鳴った。
お盛んな両親はまだぐっすりであることからその足音が双子の妹のものだと思い立ち、
「はなこー」
気の抜けた声で呼びかけた。
相手はその名を聞いて、稲妻の如く階段を下りる、そんな音が家を揺らした。
果たしてその足音の主は怒り心頭といった調子でリビングのドアを蹴破って現れた。
「その名前で呼ぶなっつってんだろ!糞兄貴!」
兄と同じ、そして記憶にある友のように燃えるような赤髪。
それを二つに括りだらけきった理人と違いしっかりと身綺麗にしている。
熊栗栖花子。
ベアトリス・フラワーチャイルドのペンネームで同人サークル『かれいどーる』に所属する女子高生。
理人の妹であった。
「はいはい、べあとりすべあとりす……ほんとさ、お前同人作家なんかしてるならもう少し捻れよな」
「黙ってろ!あんたに関係ないでしょ!大体物書きなのは美々の奴であたしは手芸だっつってんでしょ」
あたしは縫ぐるみ専門と言う少女は高い声で叫ぶ。
無論理人は覚えているし委託で花子、ベアトリス名義の作品は全部買ってる。
だからこの会話も最近思春期な妹と会話を楽しみたいという大分浅ましい願望丸出しのそれでしかない。
「あーあの頃のおしとやかなお前はどこに行っちまったんだよ」
「あんな根暗のことは忘れろっての」
そんな風に他愛ない会話の中でぼんやりと今日の予定を立てつつ、浮かんできた宿敵を思い浮かべる。
「あんなに可愛かったのにねぇ、お兄ちゃん悲しいよ……やっぱジュリアンのやつ殺すか」
「てめぇが死ね……で、なに?」
当面の予定は立った。
そう決めて理人は立ち上がり、花子に背を向けて玄関へと歩き出す。
やることは決まった
「ちょっと出かけてくる」
その背越し訝しむように
「また?立香のお姉ぇ見つかったんだから、もういいじゃん」
事実この数か月、兄が出かける用事はそれだけだった。
そしてそれはもう見つかったのだから不要な用事だ。
それにお道化て肩をすくめ短く理人は言う。
「それとは別件だよ」
んじゃ行ってきます、それだけ言うとリビングを出ようとして。
「かっこつけんな……糞ダサ兄貴」
「ごっ!?」
分厚い何かが理人の頭にぶつかった。
悶絶である。
若干の眠気に襲われていたところに突然の衝撃。
理人は完璧に目を覚ますがそれどころではない。
「ぐぅおおお……てめぇ……」
星が見えるのではと思う理人。
ぼんやりと川が見える勢いだ。
いい笑顔で黒髪の少女がこちらを見てる幻視もした。
無視した。
幻覚だと言い聞かせた。
前世の記憶にある今日日押しかけセールスの方がマシという勢いでマシンガントークをかます少女に死んだ後まで会いたくなかった。
彼女が握ってる槍がみしみしと音を立ててるのも彼女の後ろにいる姉妹が殺す勢いで睨んでいるのも無視する。
理人は見て見ぬ振りが得意だった。
「昼飯ぐらい持っていきなさいよ、ばか」
そんな妹の声で自分を襲った凶手の姿を見やる。
足元に落ちたそれはやたら頑丈そうな箱。
「んだ、これ?」
「弁当箱」
「これが……か……」
絶句。
理人は絶句した。
言葉を失った。
いや仕方なし。
何せ小ぶりとはいえそれは正しくアタッシュケース。
スマートブレイン製のベルトでも入ってるんじゃないかと言わんばかりの居様にして異様。
「最近インスタではこんな弁当箱流行ってんのか?」
「器にも凝んのよ」
「Jesus……」
唸り声は思わず震えた。
映えの概念侮りがたし。
乙女の執念侮りがたし。
己の想像する、というか嘗ての記憶にある優しきご婦人方の姿とはまったく一致しなかった。
「……あ?」
そうして懐かしき親友の伴侶たちを思い浮かべていると、ふと思い立つ。
よく考えれば、こんなものを何時用意したのかと。
「お前弁当何てい「
だがそんな疑問はすぐに霧散する。
一々気にしていたら悩み事だらけだ。
暢気に構えるぐらいでちょうどいいと、考えすぎて憤死しそうだった前世を反省している理人はすぐに疑問とひっかかりを忘れた。
「んじゃ、改めて」
今さっき起きてきたばかりの妹が何時弁当を作ったのか。
そしてどうしてリビングにいなかった彼女がさも当たり前のように藤丸立香のビデオレターの内容を知っているのか。
「はいはい」
その疑問は氷が解けるように理人の中から消えて。
「行ってきます」
まるで魔法にでもかかったように目的地へと向かって歩き出した。
「行ってらっしゃい、馬鹿兄貴」
そう言う彼女の顔は祝福するようで、
「ちゃんと帰ってきなさいよ」
喪に服すようであった。
FGOっぽさが欠片しかない。
当初やりたかった幼馴染が遠く離れた場所に行ってしまった葛藤とかがない。
代わりにいつも通り伏線の地雷原ができた。
おかしい