信じて送り出した一般人幼馴染が南極の国連機関のブラック体質にどハマりして照れ顔ピースビデオレターを送ってくるなんて……   作:大根系男子

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色々考えましたがヤンデレにはヤンデレをぶつけることにしました。
というかそもそも妹からして愛が重い子なので当たり前かなぁって(お目目ぐるぐる)
あ(唐突)
オリ主の容姿については今回書きましたが某花子ちゃんそっくりです、双子だからね(無言修正感)

あと今回はやっぱり終盤にグロ描写あります。



悪性隔絶魔境新宿-前夜-
運命


―――ぴんぽーん

 

一義樹理庵の朝は早い。

洋館というには少しばかし小さすぎる、それでも一般的な視点からすれば十分すぎる程度の大きさを誇る年季の入った邸宅。

手狭などという言葉とは無縁なその家には今では一人で住んでいる彼にとっては不要な部屋が多すぎるほどで、庭には燦燦と照る太陽を待つ多種多様な植物がたかが数十分程度では管理が困難なほどに生い茂っている。

故にそれを一人で清掃・管理しようとするならば早起きでなくてはいけない。

 

―――ぴんぽーん

 

一人。

 

一義樹理庵はその広い邸宅に一人で住んでいる。

別段両親と死に別れたとか養い親が死去したとか父は内弟子によって殺されそれを見た母親が発狂して別居療養中だとか、そういう実に悲劇的でヒロイックで実にどうしようもない運命に操られたかのような理由付けがあるわけではない。

 

---ぴんぽーん

 

たまたまである。

至極偶然の結果、ここ数ヶ月樹理庵は一人でこの家に住んでいた。

どこか幸薄い父親(一義坂理)幼女体系の母親(一義恵理火)は都合二十度目の新婚旅行に赴いている。

母譲りの穂麦色の髪をした姉(一義杏慈恵理火)は、両親のネーミングセンスは壊滅的だと樹理庵は確信している、『私はメソポタミア文明史跡(人類史の宝)を悪漢共から守らなければならん!』などと言って手荷物を纏めると西アジア(メソポタミア)へと旅立っていった。

 

―――ぴんぽーんぴんぽーんぴんぽーん

 

ちなみに何故か生きている祖父は持病の徘徊癖が最近加速度的に悪化し現在は行方不明である。

だから一人なのだ。

 

―――ぴんぽーんぴんぽーんぴんぽーんぴんぽーん!

 

「……おい」

 

一義樹理庵の朝は早い。

自宅の管理は勿論ある。

大変なのだ、実際。

だが、今朝は違う。

 

―――ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん!……ぴーんーぽーんー!!

 

「……おい」

 

喧しく早朝に家中を響き渡るチャイム。

途中から明らかに来客を知らせる役割を放棄し軽快に音楽を鳴らしている。

 

―――ぴんぴぴぴぴんぴんぽん!ぴぴぴんぽーん!

 

「……ははっ」

 

スクラッチ音を奏でるそれは最早一種の現代楽器。

 

---ぴんぽーんぴんぽーんぴんぽーんぴんぽーん!ぴんぽぽぽーん!!

 

「……はははははははッッ!!!」

 

嘗て音楽が天上の神々の心を慰撫したように。

 

―――ぴんぽんぱんぽーん♡

 

「上等だァッ!糞野郎ッッ!!」

 

熊栗栖理人(幼馴染)が叩き付ける騒音は彼の心をささくれさせた。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

「で、だ。手前ぇは俺の家に何しに来てんだ?なぁ残飯野郎」

「ん?ひょっほふぁふぇよ、ひふぁふぉれふってふふぁら」

「……そうだな、汚ぇからさっさと飯を食って俺の質問に答えろ塵」

 

時刻は既に午前九時を越えた。

少し遅めの朝食。

ガチギレ一歩手前の樹理庵を宥めつつ何とか掃除と庭の手入れを肩代わりすることで来訪を許可された理人は、与えられた職務を終わらせのんびりと朝食にありついていた。

両手にサンドイッチ、勿論口の中にもサンドイッチという欠食児童もかくやと言った様子で。

 

「んあっ……んぅっ……ん。うーん、60点!」

「手前ぇが作った料理じゃなけりゃ蹴り殺してやるとこだ」

「俺の幼馴染が凶暴過ぎる件について」

「死ね、うちの爺と相打ちになって死ね」

「悪かったって。で、理由だっけっか?」

 

理人はそう言うと己の考えうる限り優雅で芝居掛かった仕草で食後のホットミルク(大匙五杯分の蜂蜜入り)を手に取ろうとして、止めた。

お世辞にも良いとは言えない樹理庵の目付きが一層やばい感じになったからだ。

具体的に言えばボタン欲しさに警官を殴っちゃうような、そんなやばい人の目つきだった。

仕方がないと言わんばかりにため息をついて、樹理庵の手に持っていたマグカップが砕けた、最上級の笑顔を取り繕って言う。

 

「特になn「何も無いって言ったら絞め殺す」……oh」

 

髪型以外は双子の妹に瓜二つの理人の笑顔は逆効果でしかなかった。

へらりと笑う顔のまま口火を理人は切る。

言いにくそうに、恥じを隠すように。

 

「あー、うん。そうだな……立香のことなんだけどさ」

「知っている」

 

見つかったんだろう?

そう暗に言う彼に理人はへらりと笑う。

返ってきた返事は素っ気の無いものだった。

それを気にすることなく理人は続ける。

 

「何だ……その、悪かったな」

「何がだ?まさか今朝のことか?」

「Exactly!……っていうのもあるけどよ、まあなんだ。色々付き合わせちまったしな」

 

理人の幼馴染である藤丸立香の失踪。

それは言うまでも無く同じ幼馴染の樹理庵も知るところであり、当然彼なりに心配はしていた。

だからこの数ヶ月所属する生徒会の仕事も程ほどに切り上げ虱潰しに探していた。

理人と共に足を使うこともあれば()()()()()()()で探すこともあった。

そしてそれは理人と同じくこの数週間、時間が許す限り。

 

「……一応不本意だが、あの阿呆も俺の幼馴染だ」

「そりゃそうだろ」

「……勝手に居なくなられちゃ俺が困るんだよ」

 

珍しく素直な言葉に理人が僅かに目を開く。

口の悪い友人にしては珍しい反応だったからこその反応だが、その驚きようにイラついたのか樹理庵は舌打ちをする。

 

「ぅ……」

 

苛立った様子など樹理庵に珍しくは無い。

だがそれでも()()()()()()()()()()幼馴染の様子に樹理庵は再度舌打ちをしそうになって、

 

「糞が……」

「……」

 

呆れたように深々と溜息を吐いて本題を切り出した。

 

「で?そんなことで俺の家まで来たのか?」

 

結局何しに来たのだと問う。

決め打ちだった。

朝早くから常識を考えずに来訪するほど己の幼馴染が阿呆でないことぐらい知っている。

SNS越しの連絡一つよこさず急に思い立ったように来る。

幼馴染の中で余程重要な事柄でもない限り、そんなことは有り得ないと信じられるぐらいには長い付き合いだった。

だからこそ理人の言いよどむような口ぶりと気色の悪いへらりとした笑顔で合点が言った。

 

「あーいや、その、な」

「本当に死ねよ」

 

再度溜息を吐く。

予想が当たった。

この男は反省していないのだと、そう確信する。

 

「……浅い付き合いなのかよ」

「え?」

 

その反応に、ああ自覚していなのかと悟り。

怒りよりも憤りが増し語気が荒れそうになった。

それを押し殺し勤めて静かに尋ねる。

淡々と、しかしはっきりと。

 

()()()()()()考えんのは俺とお前の付き合いが浅いとそう思ってんのか?」

 

言外にだが言う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

最早条件反射のようにして男性にしては小柄な体を浮き上がらせるようにして椅子から立ち上がり理人は否定する。

 

「そんなわけッッ!!?」

 

怯えるように、それでも力強く言う理人を呆れながら見る。

どこまで阿呆なのかと。

バカップルすぎる両親や行動力溢れる姉、何が楽しいのか受験先も追いかけるように一緒にして毎朝登校と昼食も勿論一緒にして毎晩電話をかけてくる理人の妹。

そしてここには居ない姉同様にバイタリティ溢れすぎる藤丸立香(幼馴染)

樹理庵の脳裏に身近な彼基準での阿呆が思い起こされ、彼らと理人を比較する。

比較し頭が痛くなった。

阿呆阿呆と思ったがそれでも周囲の人間と比べてもなおここまで酷いのは理人一人だった。

だってそうだろう。

早朝から十数年来の友人に()()()()()()()()()()、ただそれだけの理由で謝りに来るなぞ阿呆でしかないのだから。

なんとまぁ弱いメンタルか。

理由は知っていているし、あのコミュニケーションの化け物ですらどうにもできなかったのだから仕方が無いのかもしれないと思っても樹理庵は嘆息せざる得なかった。

結局呆れるような声で、

 

「ねぇならいいだろ。馬鹿かお前。取り繕うなら最後までしろよ」

 

言外に安心しろといって宥める。

彼の言ったとおり付き合いは浅くない。

だからこそその言葉の真意を汲み取った理人は恥ずかしそうに顔をそっぽに向けて

 

「……うっせ」

 

そう呟いて今度こそホットミルク(コーヒーは苦くて飲めない)に口をつけた。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

『ツーリングだぁ?ああ良いぜ、お前が生徒会の仕事引き受けてくれるんならな』

 

最高にいい笑顔でそう言ってくる樹理庵を前にしては遠慮すると言わざる得なかった。

 

夕暮れ。

 

結局理人の用事は大したことはなかった。

ただのツーリングだ。

やることが思いつかなかったのだ。

取りあえず樹理庵を誘ってみたが結果は宜しくなく。

行く予定だった隣の県まで足を運ぶ。

そうして日も暮れる時間まで走り続けて、今。

ゆっくりとした足取りで理人は帰路に着いていた。

休日だから許されることだろう。

 

とは言っても明日からまた通常授業。

学生の本分が待っている。

 

「まあ、もうやることねぇしな」

 

そう、消えた幼馴染を探すような日々はもう必要ない。

彼女は、藤丸立香はここではない何処かで。

物心ついてからこれまで家族のように傍にいた彼女は理人の隣以外で元気に過ごしている。

そう思うと無性な寂しさを感じないでもない。

 

「早いか遅いかの違いだからなぁ」

 

ないが、気にならない。

何れ別れるのだ、人間という生き物は。

否、生きとし生けるすべての生命は。

どこかで必ず別れを告げるのだ。

しみったれた様にそれを惜しみ続けるのはどういう訳も糞もなく気に入らない。

()()()()()()()()()()

理人という男はそういう男で、()()()()()()()()()()()()()()

 

そう、仕方がない。

()()()()()()()

 

「んなことよりバイクだ、畜生」

 

益体のない考えをかぶりを振って消し手元を見る。

そこにあるのはバイクだ。

うんともすんとも物言わない、という言葉が頭につくが。

 

故障だった。

 

バイクの調子は悪かった。

中古のポンコツなのだから仕方がない。

とはいえ直す金も学生の手元にあるはずもなく。

 

「あー……糞ッ。また螻蛄かよ」

 

だらだらと二輪を押す。

日本人にしては珍しい赤髪。

双子の妹に瓜二つな容姿は彼のほうが高いとはいえ十代中頃の少女、そう言っても可笑しくは無いもの。

そんな姿をした中世的な男がとぼとぼとした哀愁漂う足取りでバイクを押す姿は見る人の奇異の目を引くだろう。

 

だが帰り道には誰も居ない。

だから誰の目を引くことも無い。

 

春はまだ遠く、時間も夕暮れ時、おまけに今日は日曜日。

確かに人気も少ないことだろう。

それでも半ばベッドタウン化している深山町であっても普段であればもう少し賑わいがある。

ただまぁそれを気にするほど今の理人に余裕は無い。

ツーリングの疲れもあるし今朝のショックは抜けきらず、おまけに愛車は故障。

とてもじゃないが自分の周囲が少し変わった様子であろうと意識を割けないでいる。

 

Wear out(勘弁してくれ)……」

 

へらりと笑顔を貼り付けても身体正直でもう足は棒の様。

どこに出しても恥ずかしくない疲れ果てて明日の学業に差し支えのある遊び呆けた学生の末路だった。

それでもなんとか歩く気力は残っている。

何せもう二百mもせずに自宅なのだ。

 

目の前に見える交差点。

人気も無く藤色と橙色の入り混じった夕焼けに照らされた剥き出しのアスファルトが描く四叉路。

それを超えれば自宅が見えてくる。

 

「もう一頑張りなんざ柄じゃねぇなぁ」

 

そう零しながらとにかく歩く。

疲れを何もかも無視して。

ひたすら我が家へと向かって。

一刻も早く疲れた身体を癒すのだと。

 

「花子のやつ、風呂沸かしてくれてりゃ最高なんだけどな」

 

ただ歩く。

前進する。

夢中で、無我で。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

余談だが。

古代、道と道が交わる場所は門とされ畏れられた。

日本、中国、東アジア、ギリシア。

そして北欧。

言わずがな神格化されることもあるその門は境界線であり異世界への入り口であった。

悪しき物が現世に溢れることが無きように崇め奉ったのだ。

 

無論理人も知っている。

嘗て己が生きた世界の境界を守護した偉丈夫を記憶している故に。

魔術知識なぞ僅かな雫ほどもない理人だがそれぐらいのことは何となく理解していた。

この現世では既に放逐されつつある概念。

神代は既に過去の遺物であり目に見える神秘が駆逐されたこの世界で。

そんなものは有り得ないと理解していた。

 

そして一歩目が道を踏んだ。

 

―――――――――――――――――――

 

音が。

厳かに告げる声が。

威を以って世界へと宣告する運命が。

 

―――足枷から逃れよ、敵より逃げよ。

―――斯くて勇士は我が胎より■■■■■を踏むのだ。

 

そう言ったのを、理人は確かに耳にして。

 

世界は反転した。

 

―――――――――――――――――――

 

傍らにあるのは壊れたバイク。

数年来の付き合いだが今日目出度く何度目かの入院コースへ旅立った。

 

目の前にあるのは見知った十字路。

ではない。

 

「……おいおい」

 

夜。

薄暗がりではなく星明りを覆い潰す雑多なネオンの輝き。

立ち並ぶ新都ですら見ない高層建築の数々。

薄汚れた悪性を運ぶ空気と荒れた喧騒。

饐えた臭いは風によって運ばれるのではなく蔓延し物が溢れながらも荒廃した雰囲気を生む。

何よりも目に、そして耳に飛び込むのは悲鳴と狂騒、破壊音。

 

火は踊り狂い鉄が唸りを上げ血が飛び跳ねる。

 

人々が逃げる。

女。

子供。

男。

老人。

誰も彼もが()()()に追われるように逃げている。

集団は呆然と立ちすくむ己など見向きもせず走り去っていく。

 

まず尋常ではない。

新都どころか冬木でも、そもそも日本ですらないのではないかと。

そう思ってもおかしくない光景が理人の眼球に叩きつけられた。

 

「……葉っぱキめる気はさらさらねぇし、そんな事したわけねぇもんな」

 

己の頭はとうとうイカレたか。

そうなっても()()()()()()魔術的理由があるからこそ、そう疑って掛かるが、

 

「やめだ」

 

すぐに己の勘違いを正す。

現実なのだ。

嘗て幾度も嗅いだ死地の臭い、戦場を奔る死の重厚な香りが此処にはある。

それを妄想で再現できるほど己の潜った()()()()()()()()()()

少なくとも語られる神話の中、己が書物の中で拾い上げた片隅に書かれる名前のモノにそんな物は存在しない。

そして記憶の中でも与えられた(記されなかった)試練以外でそんなものは存在しない。

未熟な、あまりにも未熟なモノであったから。

それでも主人に同行した旅で、決闘で。

嗅ぎなれさせられたものが此処にはあった。

 

「……よし」

 

逃げよう。

理由は不明。

状況は理解不能。

分かるのは突然こんな場所に()()させられて、そして其処は紛れも無い戦場。

やるべきことは唯一つ。

即ち逃走。

言うが早いが身体に力が漲る。

全力疾走。

既にバイクから手は離し、愛着を捨てる。

切り捨てる。

逃げなくては。

以前と同じ、全てを捨て日の光を求めたあの日以来無力となった己の身に比べればまだマシとはいえお荷物を抱えて走れるほど頑強ではない。

喉を競り上がる吐き気にも似た焦燥。

理不尽なまでに瓦解した日常。

突然の自体を噛み締める余裕も無いまま理人の肉体は本能に従って逃走を選んだ。

それは走り抜ける集団、その最後尾から現れた()()()()()()()を見た瞬間に強まる。

 

歌うように駆動音を喚き散らかし数にして三体の人形は阿鼻叫喚のその場を駆ける。

決して速くは無い。

だが確実に逃げる人々と距離をつめる。

鼠を甚振って弄ぶ猫のように。

物言わぬ機械の化外は哂うよう迫っていた。

 

「……糞」

 

同時に理人は目にする。

誰かが足を縺れさせた。

老婆だ。

その手に引かれ共に走っていた少女は泣き叫ぶように身体を震わし、彼女に駆け寄る。

 

「……糞ッ」

 

そう倒れこんだ老婆に駆け寄った。

歩みが止まった。

哂い声が近づく。

嘲るようにして儚むようにして。

少女たちに近づいてくる殺意が何をするかなぞ分かりきっている。

 

近づく。

近づく。

近づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

死。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「糞がァッ!!」

 

()()()()

理人がとった選択肢はそれだった。

間違っていない。

人として道理。

誤りなぞどこにもない。

生命の保護。

命を大切にする、生命体としての当たり前の行動。

誰が咎められるか。

 

だからこその疾走。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

理由なぞなかった。

最早本能である。

逃げるべきだった。

捨て去るべきだった。

生き残るべきだった。

だって恐ろしいから。

だって怖いから。

だって死にたくないから。

 

それでも駆けたのだ。

本能の命ずるがままに。

小さな命を守る為に(Take alive)

それが熊栗栖理人という男の変わらぬ在り方だった。

 

奔る。

少女達までの距離を一息で詰める。

何の神秘でもない。

火事場の馬鹿力。

ただそれだけ。

機械人形よりも早く前に立つ。

拳を握る。

気炎を吐き出すように尖った怒声を張り上げる。

 

「さっさと逃げろッ!!」

 

声変わりする前のように甲高く、それでも鋭いその声に少女はぶるりと震える。

だが老婆その目に力を宿し少女の肩が外れても構うものかといった様子で引っ張り逃げ出す。

当たり前の行動。

決して間違いは無い。

そう生命の保護以上に誇るべきことなぞどこにも無い。

だから世で警官は、消防士は、医師は尊敬されるのだ。

そうだ、彼女たちに何の疵もない。

残るのはそう、

 

「なーにしてんだ、俺は……」

 

目の前で止まりこちらを無機質に見つめる機械人形を前にしてぼやく阿呆だけ。

固めた拳から力が抜けそうになる。

明らかな人外。

明確な異常。

人が群れをなして逃げる、それはつまりごく普通の人間ではどうあがいてもどうしようもない理不尽である証左。

勝てるはずが無い。

今更逃げられるはずも無い。

詰みである。

 

その絶望を前にして理人は、

 

「悪いな、()()()

 

へらりと笑う。

 

「もうちょい無様を晒すぜ」

 

その言葉を最後に機械人形は駆動音を震わせ襲い掛かった。

 

 

―――――――――――――――――――

 

度台無理な話だった。

理人は一般人だ。

何かの武道を修めたわけでもない。

特筆すべき特徴が前世以外にあるわけでもない。

その前世にしたって英雄、ましてや()()であったわけではない。

莫大な魔力も、神掛かった魔術の技量があるわけでもない。

今世において血煙とはなんの縁も無い本当に普通の一般人。

 

それでも闘争の形を成したのはその魂に根強く残るナニか、若しくは男児としての意地か。

拳を放つ。

防ぐわけでもなく吸い込まれるように当たったそれから奏でられる金属音と何かに皹が入る音。

痛みを無視して戦闘手法(バトルスタイル)を変える。

逃げる。

無様に転がりアスファルトの破片を握り投石。

嫌な警鐘を鳴らすもう片方の手に燃える木片を松明の様にして持ち振り回す。

当てたところで何も変わらぬと分かってもそうして幾度も投げ、翳し、逃げる。

逃げ撃ち(ヒットアンドウェイ)

勇有る戦い(ブルファイト)ではなく臆病者(ドッグファイト)

迫る手刀を危うげに交わす。

頭上より迫る螺旋の一蹴を情けなく尻餅をついてでも逃げる。

目に見えぬ速さの連打を致命傷のみ避けて甘んじて受ける。

そうして肉体を酷使する永遠にも等しい三分間(one round)

終了の鐘(ゴング)は鈍い音だった。

 

「……くゥッ!」

 

蹴られる。

一六〇cmにいくかいかないかの身長。

筋肉を総動員してもその細腕では何の妨害にならず。

それでもと襤褸のように粗い弾幕を張ろうとする懸命な努力を機械人形は否定する。

内臓を押し潰すのではなく肉を剃る。

骨を断たぬように細心の注意で放たれた蹴りは地を這いずる厚いライダースジャケットに包まれているはずの理人の脇腹を削いだ。

 

「あ……が……ぁっ!」

 

逃げる勢いが止まる。

それを待たず次撃は続く。

踏み潰す。

右足の小指がブーツごと潰れた。

へしゃげ在らぬ方向へと曲がりそこに厚い皮が減り込む。

 

「う……ぐぅぅっ!」

 

押し当てる。

一度止まった踵を()()()()()()()()()()

滑り落ちた踵が石を握っていた拳ごと踏み砕く。

石は突き破って手を引き裂いた。

 

「いぃっ……ギぃぃッッ!!!」

 

蹴り飛ばす。

転がすようにして押し飛ばされる理人の身体。

だが最早そこに遊びはない。

肋骨を圧し折る。

創作された痛みと違う。

あばらが何本か逝った?

呼吸を奪い脳裏を雷鳴の如き痛みと金槌で千切り潰す鈍痛で揺らす。

大の大人が一本折れただけで時間が永遠に止まったかのように感じる無間の激痛。

それを纏めて受けて、どうして物語の英雄のようにその傷を受け止めれるか。

理人は英雄ではない。

当たり前の凡夫、どこにでも居る少し変わった事情を持つ一般人に過ぎない。

痛みに耐えれるはずが無い。

恥も外聞も無く身体全身から体液を巻き散らかし、血以外の何かで足元が濡れる。

しかしその生理反応すら痛みへと響く撃鉄となって失神すら許さぬ苦痛を与える。

 

最早これは戦闘ではない。

辛うじて成り立ったそれは今脆く崩れた。

これは殺さずその心を折る作業でしかないのだ。

 

そして漏れる悲鳴を聴き機械人形はインターバルが終わったのだと悟り己たちが転がした()()へとゆっくりと近づいていく。

完膚なきまでに終了だった。

 

そう、これで、

 

「ははっ……」

 

理人の心が折れていればだが。

 

おふぇの(俺の)

 

いつの間にか口に咥えた木片。

転がされ続けたことで幾度も己の肉体を焼き焦がす鏝となろうと手放さなかった理由が此処にある。

木片を手放し自由になった幾分かマシな片手。

その手が力なくそれでも何とかして()()()の蓋を開け、

 

「―――勝ちだ」

 

捨て置かれたバイク、その中に僅かに残っている燃料へと木片を落とした。

 

瞬間の轟音。

 

光すら置き去る煌々とした破滅的輝き。

身を大地も空も焼き払う清めの音。

ガソリンへの着火が引き起こした爆発は近寄ってきた機械人形を飲み込む。

荒ぶる質量となって爆風が巻き起こる。

それを脱力によって受け取った理人と違い機械人形はその重さから耐え切ってしまう。

故にそれが仇となって爆発の威力をそのまま浴びることとなる。

 

ここに策は成った。

勝ち目がないと踏んだ。

逃げる手段に欠けると悟った。

隠れる地の利がないと知っていた。

だからこその強敵殺し(ジャイアントキリング)

元より彼の得意分野とは其れ。

ならば肉を削がれようと骨を断たれようと神経を地に晒されようと唯一つの勝機を掴む。

それが今、完璧に成った。

 

「ん゛んっ、けほっ……ざまぁ……ふぅっくぅぅっ……みやがッ、れェッ」

 

焔は緩まず三つの贄を舐る。

それは理人から見れば福音。

身体中痛くない場所なぞない。

そも痛いと警告してる場所がどこかすら分からない。

そんな状態の身からすれば忌むべき業火(愛する雷火)を思い出すそれは正しく祝福。

敵を退ける炎の茨は噂に聞くヒンダルフィヨルのそれに勝らぬと自負しへらりと笑う。

それが長く乗り続けた愛車を薪とし己の肉体を焼いて育った火だとしてもだ。

 

「うぐぅぅっ……くあぁっ……」

 

呻く。

そしてずりずりと這う。

爆風、加熱。

双方によって露出している部分は漏れなく火傷を負った。

重度のそれだ。

生きているだけでも奇跡のような話だ。

だからこその勝ち。

だからこその勝利。

だからこその逃走。

早く、早く此の場から去って身体を休めねば。

その一念が痛む身体を突き動かす。

否、それ以上の焦燥。

早く。

早く。

早く。

早くッ。

 

 

早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く嫌だ早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く死にたくない早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く怖い早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早くどうして早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早くどうして早く早く早く早く早く早く早く早く早く早くどうして早く早く早く早く早くどうして早くどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。

 

焦燥は競り上がる臓腑の血と液よりも早く喉を支配し頭脳を犯す。

それは抗いきれぬ業。

嘗ての罪、負わされてしまった原罪

嘗ての疵、犯させてしまった大罪。

だからこそ、全てを支配する起源が表出していた理人は気づかない。

気づけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――がしゃり。

 

そんな音が、した。

 

 

 

 

 

「あっ……」

 

聞き慣れた、違う。

聞き慣らされた(鳴らされた)音だ。

 

がしゃり、がしゃり。

呻く、渦巻く、動き出す。

終わったはずの悪夢が蘇る。

そう、見誤ったのだ。

其れは決して福音などではない。

ヴェールには必然表裏が有る。

己の眼に映った姿が福音であっても。

それは反対から見れば葬送歌であることなぞ、極普通に有り得るのだから。

 

「うそだ……」

 

三体。

未だ健在。

どうしてあの程度の炎で焼き滅ぼせると断じたか。

嘗てその身に宿ったそれでもあるまいに。

そう言わんばかりに駆動音を振るわせる。

その手は物を掴む役割を放棄し鋭利な刃物へと変わった。

周囲のネオンは沈黙し変わりと言わんばかりに青白い月と明々とする炎が処刑場(舞台)を見守る。

 

終焉であった。

 

「くっそ、が……」

 

睨む。

世話しなく探す、勝利の兆しを。

死に体だ。

これ以上の逃走も戦闘も不可能。

どうにも成らない。

どうにも出来ない。

だがそんな事実を。

そんな運命(Fate)を。

 

「認められるかァッ」

 

それでも。

まだ死にたくない。

まだ。

 

「死ねる、かよォッ!」

 

まだ死ねない。

そう、吼える。

 

それしかできない。

それしか手立てはない。

それしか、その卑小な身に成せる事はない。

 

それしか、なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ええ。それでこそ、です

 

 

 

 

 

 

 

 

月光の差し込むその場所で。

涼やかでありながら浮かされるような歓喜と思慕の熱を孕んだ声が通り。

 

鮮烈な光が世界を塗りつぶす。

 

何も出来ない亡者の残骸が。

それでも生者の意地を見せた。

勝利を掴まんと運命に抗った。

故にその魂は脈動し僅かな鼓動を世界へと向けて鳴らす。

だからこそ、彼の母(抑止力)は己が御子に幸を贈る。

今度こそ勝利を。

今度こそ幸福を。

今度こそ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

そのための槍が降り立った。

 

 

 

「サーヴァント、ランサー。真名をワルキューレ、個体名―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()オルトリンデ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しい、本当に久しいですね。私の、私だけの勇者様」

 

神代の芸術、神の造形品(ワルキューレ)

北欧が誇る智慧の大神が手ずから創造した彼方の星を模した神造兵装。

剣の切っ先(オルトリンデ)、自らの名をそう告げた戦女神の顔は喜色に塗れていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

最後の空席は埋まった。

弔いの祝砲は健気な彼らを労う筈。

それはきっと美酒より甘く焦がし蕩かし煮え立たせる。

過の日の黄昏、その再演に他ならないのだから。

 

さぁ汚泥を啜れ。

蟲は蟲らしく這えずり廻れ。

矮小なる始まりの蛆虫よ。

骨髄から白骨へ、白骨から腐肉へ。

腐肉から人皮へ、人皮から其の剣へと。

汝の主人がそうしたように。

 

今一度、黄昏を彩る華となれ。

 

踊れ踊れ、大地の御子よ。

汝が最強を此の悪性蔓延る魔境にて証明せよ。

 

 

 

 

―――さぁ聖杯戦争を始めよう

 

 

 

 




全肯定崇拝系支配型前世妄想しちゃうヤンデレヒロインのエントリーだッッッ!!!
なお前世に関しては妄想ではない模様。

次回短い戦闘と現状についての説明です。

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