信じて送り出した一般人幼馴染が南極の国連機関のブラック体質にどハマりして照れ顔ピースビデオレターを送ってくるなんて……   作:大根系男子

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隙あらば特撮ネタ。
各話タイトルを変更しました、舞台が東京で三話目ですからね。
あ、今回の後書きは完全にフレーバーテキストなんで本編とはまったく関係ないです。





東京

これはそう。

古い。

酷く古い話だ。

詩人の語り草にすらならなかった、語られぬ邂逅。

有り得ざる逢引。

許されざる事実。

罪深くも■■に恋した女神(少女)無垢なる隠者(愚鈍なる蛆虫)と称された男の悲恋譚。

その序章。

 

あれは春。

 

朗らかに笑い転げる小鳥の囀りを乗せた若葉の色付きを思わせる微風が吹く晴れた日。

まだソレが神格を与えられることないが故にその身が音を発することを許されていたそんな時代。

ソレの住む奥深い森にも木漏れ日が溢れ小さき命たちが歓びの声を上げていた。

ソレが彼女とであったのはそんな日であった。

 

『もうし、もうし』

 

少女は問うというのにその目の前には誰も居ない。

在るのは朽ちかけた巨木。

雷に打たれたのか引き裂かれ内部には大きな空洞がある、そんな森に入れば一本は見つけられるどこにでも在るような老木だった。

 

何者か、そんな厳粛な声を老木が諳んじた。

否、その空洞より震わせられた音であると少女の優れた知覚は感じ取った。

返答があったことで彼女もまた返事をする。

 

『スリジの仔が参りました。どうぞどうぞ、御返事を、色の方』

 

老木より染み出た蜜を求め蝶達が舞う。

逡巡したのかそうでないのか。

僅かな間が空き。

 

『……また随分と懐かしい名だ』

 

ともすれば並の神格では相手にもならぬ強靭な兵器(彼女)の耳でも聞き逃すのではというほどにか細い呟きが空気に吸い込まれた。

相手は未だ姿を見せない。

だがその返答だけで少女は戸惑うことなく敬意を払う。

 

『お初お眼にかかります、古き者』

 

その言葉に、この聳え立つ大樹の揺り篭(世界)に住まう者であればどれだけの畏敬が籠められたかを知るだろう。

けれどそれに洞に潜む隠者は笑い勤めて朗らかに言う。

 

『蛆虫風情に掛ける言葉ではないよ』

 

そんな言葉を返した。

礼を尽くす相手ではないという敬虔な忠告と自虐、嫌味にならないのはその言葉に彩られた美しい感情からか。

それに少女は礼を失さぬように返答する。

童にも聞こえるその声の相手が如何なる相手か知る故に。

 

『御戯れを、始まりの色彩。貴方に礼を尽くさずば一体誰に尽くせば宜しいのでしょうか?』

 

最上位の敬意、裏無き言葉。

それが如何に無感動で計算された動き(プログラム)であったとしても。

随分と聞かなくなった言葉に思いの外、洞の主人は動揺した。

忙しなく新緑が擦れあった。

 

『やめてくれ、うら若い娘に斯様な言葉を使われては年甲斐もなく恥じてしまう』

 

淡々と、けれど少し焦ったような苦言が少女の耳に届いた。

己は役目を終えた老いぼれだ、尽くす必要なぞ何処にもないのだと。

 

『色の方、如何して貴方が恥じらうことがあるでしょうか?』

 

それに対する少女は随分と若く、幼すぎた。

老い耄れの羞恥なぞ知ったことかと、事実無垢なままに、問うた。

木々が揺れる。

枝の端々がぶつかり合った。

それはぐぬぬっと困っているとでも言いたげであった。

そんな男の様子を笑う声が風に乗ってが少女に届く。

礼を失さぬ程度に周囲を見渡せばいつの間にか小栗鼠がそこにいた。

老木の枝の上で胡桃の実を頬張りながらにまにまと男の狼狽した様子を愉しんでいる。

小動物にもかくも好かれるかと少女が感心していると漸く落ち着いたのか男が搾り出すように音を震わせた。

 

『……名を与えられた以上の事はしていない。母より産まれ地を這う私にはそれ以外知らず、それ以外見ぬまま歳を重ねた』

 

結局出た言葉はそれであった。

未熟だと。

その身の背負った小さき権能、人が産まれる出るより前からただそれだけを担っただけの男は其れしか知らぬと嘯いた。

 

『長く生きた。だがそれだけだ。何も、何も成していない。だから年長者だからといって敬う理由なぞ産毛程もない』

 

年長者としてこの幼き少女に伝えねばならん、歳を重ねただけでその心根が備わっていない者もいるのだと。

長く語り継がれた始まりの事実なぞ実際には大したものではない、憧憬なぞついぞ理解から程遠いのだと。

要するに君が思うほど目の前でその身をひた隠す男は大したものではない臆病者なのだと。

 

『スリジの仔よ、うら若き戦乙女。君は産まれて幾年になる?』

 

そしてそんな風になってはならぬ。

見よ、かくもこの世界は色に溢れ美しいのだ。

それを知れ、己のようになるな。

己のような子どものまま大人となって老人にまでなってしまうような見聞狭く思慮足りぬ愚か者はこの大地に溢れるほどいて。

だからこそそんな風になるな。

そんな訓示を伝え、知ってほしいがための切り出し。

 

だが、幼き女神の返答はそれを知らずただただ淡々としたもの。

 

『ユールに大神より鋳造されてから数えて十度、宿り木に実が生りました』

 

言い切られた。

想定外である。

若すぎる。

完全に想定外である。

時は神代。

その容姿と年齢が一致しないことなぞ多々ありそれが神のものであれば猶のこと。

男は自分なぞに畏まる目の前の少女を世間知らずの純真無垢な少女だとは思い然程長く稼動していないだろうと当たりをつけていた。

そうだ、まさか十代程に見えるその幼い美貌そのままの年嵩だとは終ぞ想像してみなかったのだ。

 

故、ここに混乱極まる男の内心は、

 

『ひぇっ』

 

ドン引きであった。

それは見事なドン引きであった。

思わず悲鳴が上がるほどだった。

 

何やってんのスリジ、馬鹿なのお前、この子見てくれどころか中身も子どもじゃねぇか。

うわ馬鹿だった、そう言えば特級の馬鹿だった。

知識欲しさに目ん玉引っこ抜く馬鹿だった、うわ私のとこの主神阿呆すぎ、不衛生だぞ髭を剃れ。

でも分かるだろ、理解しようよ、旅してんのに常識疎すぎだろ死ねよ馬鹿、誰が路銀出したんだふざけんな!

そんなんだからフリガの奴が俺のところに相談に来るんだろうが、『あの人がまた夜中まで騒いでいて、ご近所さんが困ってて……その所為で随分とご無沙汰で私も寂しいですし』ってなァッ!宴ぐらい時間考えててしろ!近所迷惑だろうが!ちゅーか知らねぇよお前らの夜の事情なんざ!!

よくだ、その無駄にインテリぶった頭でもう一回よぉぉぉぉく考えろ。

私らがどういう存在なのか世間一般の常識で考えれば分かるじゃん、控えめに言って蛮族やぞ蛮族、私が手塩にかけて育ててた黄金系林檎新品種(サンシャイン・デリシャス)の果樹を高笑いしながら盗んでったお前には負けるけどなァッッッ!!!

とにかく蛮族だぞ、下半身に脳味噌詰まってるんじゃねぇかってぐらいの女狂いだぞ、金より時間より女がご褒美なんだぞ、おらマルデルに謝れ糞蟲共!

とどめに事あるごとにおもっくそこき使ったせいでお前相当恨まれてんだぞ!

そんな下半身野郎の身内に女の子差しむけるとか馬鹿なの阿呆なの死ぬの、あ、一回死んでんじゃん!

 

そんな思いの籠もった渾身のひぇっだった。

若干の私情についての言及は割愛する。

笑い声が一層に大きくなる。

性悪なそれではなく単純に友が困っているのが可笑しくて仕方がない、そんな快活な笑いであった。

だがそれに気を悪くし男はずんと老木を揺らすが目の前の少女が不思議そうな顔でこちらを見やるだけで当の本人はどこ吹く風で胡桃を味わっている。

それに嘆息してから男は混乱極める脳裏を沈め、()()()()()()というみみっちい自負を胸に勤めて威厳ある声で軌道修正、もとい当初話そうとしていたことを切り出した。

 

『んんっ……いいかね、若き……ほんっっっとうに若き戦乙女『オルトリンデ』へぁ?』

 

が、無駄。

話の背は可憐な自己紹介で折られた。

そしてそれこそが老木の主人であり役目を当に終えた舞台役者を混乱の渦に陥れる開幕の鐘の音。

それは、彼女が賢者気取りの世捨て人を訪れた理由。

 

「オルトリンデです、色の方。それが今日よりあなたの傍仕えとして在れと、そうスリジより命じられた私の名です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――どうか、どうか、宜しく御願い致します、我が主人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが始まりである。

彼と彼女の出会いであり悲恋譚の幕開け。

そして、

 

「ふぁっ!??」

 

語られるはずもないが男の来世にまで続く癒されることなき胃痛と混迷極まる修羅場の始まりであった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

流れ出る血の奔流。

溢れかえる痛みの激情。

 

私は癒す(isa、berkana、sowelu、algiz)

 

その言葉を口にしてそれら一切を瞬時に治癒し始めた嘗て己の前世(白日の時代)で従者であった少女を倒れこみながら理人は見やる。

其処には。

 

笑みが、あった。

 

女は笑っていた。

その白い顔を歓喜の紅に染めて。

貴方を。

貴方をこの瞳で見れたから、そんな危うげな童女のそれだ。

眩しい初恋の成就を祈りながらも初めて懐いた恋の芽吹きに胸膨らます処女のように。

荒々しい風に翻弄されながらも初めて吸った蜜の恍惚に胸躍らせる蝶のように。

ひっそりと輝く紅玉の瞳にはこれから先にあると確信する蜜月への期待と溢れ出て言葉に出来ぬ激情を宿して燃える。

さらりと流るる黒絹の髪、その冠に座す柔らかな羽根は想い人との再会を祝い風をくすぐっては揺れる。

しっとりと濡れた薔薇の唇は見下ろす主人の其処へ帰るのを今か今かと待ち侘び何処か寂しげでされども隠しようのない歓喜によって弧を描く。

そんな、笑み。

ただ、ただ喜びに満ちた笑顔がそこにあった。

 

そして形の良い小さな口が開く。

芸術品めいた艶やかなそれから零れたのは然して再会を祝うものではなく、

 

「愛しい方、どうか、どうか御下がりを」

 

此よりは戦場になるのだという警鐘。

ただその一言を発し召喚されてからこれまで一度たりとも、それこそ眼球が渇こうと極めて微細な魔術行使によって防いでまで瞬きすら惜しみ、逸らす事なく主人の姿を脳裏と瞳に焼き付けていた少女は、

 

「―――行きます」

 

一歩を踏み出す。

振り返れば数にして三体。

二つは濁り黄ばんだ白い人形、そして最後の一体は毒々しい紫。

其れ等は人類最後のマスターを擁す天文台からオートマタと称される存在。

即ち、出来の悪い殺人兵器。

人を殺す醜悪な化外である。

少女はそれに何の恐れもなく駆け出す。

 

一足。

ただ一歩。

だがその一歩こそ彼女が人ならざる超越者(サーヴァント)たる証左。

僅か一歩でそれでも数メートルと離れていた距離を瞬時に詰める。

卓越した武術家であれば掛け値無しの努力を幾年も経れば辿り着けるかもしれぬ境地。

だが彼女のそれは身熟しこそ戦士のそれであってもその歩法は何ら特殊なものではない。

基本的な性能(敏捷:B)

存在として人類と比較し圧倒的に上位にあるからこそただの一歩であっても言葉通り人間離れした身体機能(スペック)のみで超常現象へと至ったのだ。

 

それへ反応できたのは腐蝕したかのように重厚なる紫の人形。

銘をオートマタ=キリングドール。

オートマタの上位機種であり指揮官たるキリングドールだからこそ敵襲を察知。

微々たる遅れはあれど後方へと跳ぶ。

では間に合わなかったオートマタはどうか。

 

「失ッ---」

 

一閃。

空気を切り裂く甲高い叫び。

そこに金属を引き裂く音はなく、されど確かに二体のオートマタの首は宙へと投げ出された。

風すら殺す加速を経た槍、そこから生まれる無造作でありながらの超絶技巧。

結果、首は槍が孕んだ速度の圧に耐えきれず掬い上げられ、笑えるほどに天高く飛んでいく。

もしも人形に表情があれば正しく唖然か将又呆けたか。

熱したナイフでバターを切り分けるように何の抵抗もなく首を引き離されたオートマタは現状を認識できなかった事実を晒すように棒立ちを甘んじ機能を停止した。

そう。

オルトリンデは、構えすらなく振り向きざまの一歩と共に手にした凶器はただ横一文字に振るっていた。

 

そして振り抜き払ったその槍こそがオルトリンデが槍兵(ランサー)たる所以。

オルトリンデ、そう己を定めた少女はその手にある物こそが彼女の宝具。

 

大神より下賜されし光り輝く偽槍と神鉄の盾、()()()()

 

朝焼けにも似た輝きは戦火を照り返してなお兵器としての妖しさではなく凄烈な気品を保つ。

短くも息を呑むほどに鋭き両刃を携えた翼の装飾を施された白金の槍。

姉妹が有する盾にも似た円形小盾、だが中央に刻まれる優美な紋様は白鳥の両翼を模し力あるルーンで上品に縁取られる。

何方も嘗て己が主人が打ち鍛えた神代の至宝。

神鉄を幾度も熱しては極限まで純化させた至極の鋼、曰く神鋼(アダマント)、称され神々の血晶(イコル)、其れなる物より打たれた逸品。

 

()()()()

 

オルトリンデがそう公言して憚らず、なお鎚を振るった本人は事実無根であると否定している、その真名に相応しき業物。

戦女神の小さな掌、其処に薄明の輝き宿す■造兵装が遥か神代より時を経てこの現代に顕現していた。

 

オルトリンデはくるりと槍を回す。

久方振りの実戦。

時にして数千年か。

研鑽の時はあれど手の中に握るそれを持つのは忌むべき()()()以来。

故に感触を確かめ、小さく頷き。

 

凪いだ槍を静かにキリングドールへ向けながら引き絞る。

半身。

敵へと向けられた槍は微動だにする事なし。

右手はしかりと槍を握りしめて、盾を備えた左手は産毛が如くふわりと添えられた。

 

オルトリンデの様は心凪ぐ事なき静謐な佇まい。

されど武具は一部の曇りもなく輝き、睥睨するかの如く敵を睨みつける。

 

対するキリングドール。

此方もまた僅かな駆動音が空気を震わせるのみ。

動かず。

されどその手、その指。

既に死を与える兇器への変化を完了している。

鋭く、厚く。

元より手指が変化したのだ、薄さなどない。

故に厚い、しかし見よ。

振り抜くことでの純然たる破壊力を求めた収斂は斧や断頭刃のそれ。

敵を速力をもって破壊するための無慈悲を得ていた。

 

此処に双方の準備は整う。

しかし両者動かず。

須臾の間かそれとも永劫か。

赤々と唸る炎の揺らめきのみが世界を支配する。

 

暫し待ち。

 

くるり。

空を墜つ。

 

また、くるり。

宙を舞う。

 

首だ。

無様に跳んだオートマタの首である。

回る。

回る。

如何な膂力か。

薙ぎ払われ天へと投げ出された其れが。

くるり。

また、くるり。

宙を気色悪く舞って。

失墜するのは自明の理。

果たして二つの腐った果実は。

地面に。

 

接吻した。

 

「吶喊」

 

首が落ちたその刹那、動き出す。

 

先じたは槍兵。

 

渺と、死を孕む風が吹く。

 

踏み込み。

否、一突き。

それもまた否。

何方もがほぼ同時に行使された槍の一打ち。

ただ振り抜いただけの薙ぎ払いとは違う。

洗礼された技術体系を有しその上で豊かな鍛錬を経て得た武技。

細っそりとしたその腕を袖から見せつけての一撃は時間の雨粒すら捉えるもの。

 

異音。

鉄が切り裂かれる音。

しかしそれは決着の合図。

確かな勝鬨に違いなく。

 

故に勝鬨を打ち鳴らしたのは、

 

「例え如何な虐殺、弑虐たろうと。例え彼我の差が如何に絶望的であろうと。例え貴方にそんな意識はなく甚振るだけの狩りでしかなくとも」

 

槍兵、オルトリンデであった。

一刺一殺。

果たして薄明の槍は見事人形の胸を穿ち切り裂いた。

 

「彼はそれを呑んで戦った。戦場に立たれた」

 

がしゃりと壊れた音が鳴る。

キリングドールが膝をついた音。

月明かりに照らされ醜態を晒す胸には槍の刃幅より尚広い傷。

心臓を貫くだけに飽き足らず胸の中央より上は顎、下は鳩尾にまで断割されている。

戦女神からの一撃。

その鋭利な一突きが如何に破壊力を持っていたか。

そして。

戦女神(サーヴァント)と相対するに殺戮人形では役者不足であるかという証左に他ならない。

 

「その様が如何に泥臭くとも。その足掻きが如何にみっともなくとも。例え貴方がどう思おうと。彼は戦士として貴方に戦いを挑んだ」

 

分かりきった事実だ。

彼女はサーヴァント、取り分け三騎士と呼ばれその中でも白兵戦に長けた二騎の一角(ランサー)

トドメと言わんばかりに神代より稼働(鍛錬)し続けたが故の神域の武技。

これでどうして勝ち目があるだろう。

そもそもこの場に彼女の身体能力を圧倒する猛者は誰一人いない、無論先程まで相対した木偶人形もだ。

無作為に槍を一振るいするだけでキリングドールは認識すらできぬまま押し潰れる。

槍を使わずともその四肢で解体することすら容易。

そも白兵戦なぞせずとも彼女は持っている。

破格の魔力(魔力:A+)とそれに見合う最上級の神秘(原初のルーン)

行使の余波だけでキリングドールの霊的防御を砕き内部を汚染し終わらせることも出来た。

 

にも拘らず彼女は槍を用い武技を振るい戦闘を行った。

 

「その理由だけで十分です」

 

その理由は一つ。

己が主人が戦ったから。

彼女は囁く。

 

「貴方は戦士足らんとして気高くあった彼と戦った。誉れある勇者の決闘が今宵この場にあった……それがただ理不尽な蹂躙劇に過ぎなかったとしてもです。だから私は貴方を戦士として扱います」

 

かつりとヒールが鳴る。

またも一歩を踏み出す音。

月明かりを背負うその顔は昏く何の表情も伺えない。

 

「それが槍を手に取り、私もまた戦場という土俵に立つ理由」

 

つまりはそういう事。

オルトリンデが槍を執って戦ったのは、愛した男が命を賭して戦った相手を一派一絡げの畜生と同じように屠殺するわけにはいかなかったら。

もしそうしたなら男の立つ瀬がなくなるから。

只人ではない、戦女神がその手ずから槍を振るい形はどうあれ決闘を行う。

敵対者が英雄豪傑であれば、その使命に相応しき勇者であれば。

若しくは唾棄すべき怨敵であれば。

それもあり得ないことではないが仕合の相手は絡繰り仕掛けの不出来な人形。

そんな物が女神の温情を受けれたのは、彼女が愛する男の誇りを守るという何処までも捻じ曲がった愛情故だった。

 

「誇りなさい、この決闘は戦女神の名の下にあったのですから」

 

オルトリンデは人形へと近づきながら静かに語りかける。

健闘を讃えるように。

敗北を惜しむように。

次戦を期するように。

しかしその言葉には感情がない。

想いがない。

ただ冷えた鉄の鈍さだけがある。

 

何故か。

 

「誇りなさい、その終わりを女神が見届ける事に」

 

男の面子は守る。

それがどれ程空回りしたものかは此処では論ずる事ができない。

その理由が如何に難解かも。

だが分からずともそれによって戦士としての最低限の礼を事も有ろうか誇り高き勇士と戦事を守護する女神の人柱。

そのオルトリンデがただの木偶人形に払った。

戦士として扱った。

であるならば冷えた氷の理由は簡単だ。

 

「誇りなさい、貴方は……いえ」

 

凍えるように燃える瞳は戦士として戦った相手を見下ろしている。

決着が既についたというのに、否、ついたからこそ抑えきれない殺意と憎悪という名の炎をその瞳は宿している。

そうだ、抑え切れないのだ。

決まっている。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()物言わぬガラクタとしてではなく」

 

崩れ落ちたキリングドールの側に片膝をつくオルトリンデ。

耳元で囁かれる直前、人形は目にするだろう。

赫怒を宿しどす黒く燃え上がった紅玉の瞳と雪よりも白く凍る死神の顔を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの人を傷つけた怨敵(戦士)として死ぬのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を最後にキリングドールは完全に機能を停止した。

物言わぬ人形は物言えぬまま終わりを告げられた。

決着である。

何のどんでん返しもない、ただの予定調和。

決まりきったその結末。

だからこそ言うべきことを告げたオルトリンデの行動は早かった。

 

私は想う(laguz、nauthiz)

 

古代のルーンを用いた投影魔術。

南極在住現在世界最大手のブラック企業から出向中の『女性職員(※一部男性を含む)が選ぶカルデアで一番抱かれたい男』第三位の某氏も使うそれ。

投影先となる物質を()()()()()()だけ自分の時間軸に映し出して代用する魔術。

如何に原初のルーンであろうと世界からの修正力には抗いがたく、そもそも外見のみしか投影できないが今は十分。

作り出したのは鏡。

無名ながらも稀代の名工たる己の主人が嘗て幼いオルトリンデに贈った宝物。

透き通る鏡面は正しく氷、しかしそれを嵌める無垢木の枠は素朴ながら陽だまりのような温かみを宿す。

そんな手鏡(宝物)を先程まで闘争のあったこの場でなぜ呼び出したか。

理由は一つ。

 

「可笑しなところは……髪がはねたり、えと、それから……あぅ」

 

彼女のその姿を見れば言葉は要らない。

いそいそと戦闘で僅かに乱れた髪や衣服を整え微かについた土埃を払う。

肌色は、汗臭くないでしょうか、嗚呼それからそれから。

立ち位置場背を向けているのだからそんな風に慌てなくてもよいが時間にして五分も待たせてしまっている、そんな想いからオルトリンデは忙しなく身支度を整える。

とても数瞬前まで命のやり取りを、捩れ曲がる憎悪を孕んでいた少女とは思えぬ様子。

さもありなん。

何せ数千年だ。

何世紀では効かぬほどに時を越えた再開なのだ。

恋する少女にしてみれば、無論何時だってそうだが、とびっきりに可愛い自分を見てほしい。

故にこそ慌しくもてきぱきと装いを直し。

 

「すぅ……よしっ」

 

小さく頷き、くるりと振り向いた。

 

「お待たせしました、マスター……!」

 

冷静に、しかし今度こそ抑えは利かずその胸を暖める熱量に突き動かされて理人を見れば。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひえっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ……?」

 

情けない声を上げて、またも失神していた。

 

戦闘の余波ではない。

何せオルトリンデが治癒とともに厳重に守護の加護(algiz)による浄域を()()()()()()()()()()()()()()

急だったため永久的には不可能だが向こう半年は生半可な神秘では傷一つつけられないどころか干渉すら寄せ付けない物だ。

だからそう。

 

これは極めて単純な解だ。

 

オルトリンデ(トラウマ)に出会った。

その上、もう通年を通し分厚い氷が水底を閉ざすという霜の顎門(エーリヴァーガル)すら溶かすのではと思わせる恋する乙女の盲目(捕食者の瞳)を見たのが駄目だしだった。

ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……回収を」

 

 

 

 

 

 

 

 

それが理人をなのか、それとも理人と足元を濡らすそれの両方をなのかは本人の尊厳に拘わるのでここでは控えることにする。

ただ少なくとも、

 

「うん、しょ……ふふっ」

 

オルトリンデは己の主人を横抱きにしつつ皮袋(■■製、厳重かつ幾重もの保護と改竄の魔術(セイズ)によって内容物を一切の漏出・劣化・透視から守る、お値段据え置き)を手にして小さな笑みを溢した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「かはぁ……」

 

重々しい音であった。

影は荒く息を吐く。

力強さよりもか細い藁を何本にも束ねたような音。

よろめきながら、音を世界から排しながら壁伝いに歩く。

 

体力の消耗だけではない。

 

影の全身には浅くも傷が四方を彩っていた。

宛らそれは死化粧か。

正解である。

 

「嗚呼、まったく困ったものですな……」

 

影が、只の人であったならば。

万に一つも有り得ぬことだが影がその器以外で呼ばれることがあったならば。

影以外の生半可な凶手であったならば。

正しく今影を覆う赤は死化粧となって葬送の手向けとなっただろう。

 

「聖杯戦争にも拘らずマスターもなく、()()()()()()()()()

 

今こうして宵の街、名も無き摩天楼の屋上の片隅に身を潜めている影だからこそ生きていられるのだ。

 

「明らかに致命的な過去(特異点)だというのに聖杯の所在さえ掴めぬ始末」

 

言葉は暗示だ。

言い聞かせるように状況を理解し僅かに()()()()()()()戦闘の高揚を拭き取る。

 

「まったく、山の翁(シャイフル・ジャバル)の名折れも良いところだ……ははっ、これではあの少女たちに笑われてしまうな」

 

この身体が記憶する有り得ざる在りし日の鮮烈な()()

その中に現れる星の観測者の名を背負っていた小さな背中と大きな盾を想いだし冗談を口にする。

それを出せるだけの余裕が生まれ。

 

「しかし、見下げ果てた愚か者がいたものだ……嗚呼本当に、本当にッ」

 

逆に言えば戦場であっても泰然自若とする影がその余裕を敗走し幾分経って漸く取り戻せたということ。

それほどの戦闘を、己が本分(偵察と奇襲)すら喰い破られて強いられたという事実が其処にはある。

 

「何を理由にあんなモノを、()()()()()()放逐したのだ……ッッ!!」

 

呻きはネオンの色に汚染された夜空に吸い込まれて解けていく。

無念、諦観、焦燥。

氷河が大地を白で塗りつぶすように。

それらが影の脳裏を埋め尽くしてしまいそうになる。

 

「考えねば……」

 

それに抗う。

捨てたはずの名を今一度背負うことができた、その記録は記憶となるほどに影の魂に焼きついている。

だからこそ抗える。

 

「せめて……」

 

かの第六特異点。

そこで出会った、獅子王を名乗る女神に下賜された聖杯の祝福(ギフト)を宿す騎士。

劣化した零基(サーヴァント)でありながら限りなく生前に近い力を振るい荒涼の山野を生きる民、そして己や人類最後のマスターを苦しめた猛威。

恐らく神代以降の英霊の中で最高峰の実力を備えた円卓の騎士。

 

そんな()()()()()()()()()()()()()()()()()と底冷えする確信を得てしまう今聖杯戦争最大の障害。

そして、この特異点を修正せぬまま完膚なきまでに()()させられるであろう存在。

 

「せめてッ、魔術師殿がこの特異点を見つけるまでの間だけでもッッ」

 

そんな圧倒的絶望を目にし彼我の絶対的差を己の肉体に刻まれようと。

今もなお影は、呪腕の名を冠す暗殺者(アサシン)は諦めず模索する。

 

あの脅威から()()()()()()()()()()にこの聖杯戦争を終結させる方法を。

 

そして、

 

「あれは……」

 

彼は見つける。

この閉ざされた世界にあって唯一の異分子(イレギュラー)

 

「そうか、成るほど」

 

ただ一つの光明。

有り得ざる、マスターなき聖杯戦争という枠組みから外れたただ一組の主従を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――使えるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の眼下。

摩天楼より遥か下方。

其処にハサン・サッバーハが見出したのは、

 

「最高、最善の拠点を探して見せます……!」

 

失神中の主人を抱きかかえて閃光(レーザー)が如くraido、ehwaz(ターボ)全開で深夜の高速道路を爆走する独走状態の暴走少女。

熊栗栖理人(人類最新のマスター)サーヴァント・ランサー(監禁洗脳何でもありの超デンジャラスガール)の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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マテリアル名:サンシャイン・デリシャス
観測時代:B.C.■■■■年代
観測地域:北欧
詳細:
黄金系林檎品種の一種。
黄金系林檎品種とは楽園追放の原因となった創世記の『禁断の果実』、恋の贈り物と謳われるギリシャ神話の『ヘスペリデスの林檎』、豊穣の女神が管理する北欧神話の『イズンの林檎』を総称した品種と考えられるが不明。
少なくとも神代以降の時代では確認されていないため絶滅したか世界の裏側に行ったものとみなされる。
観測対象である『サンシャイン・デリシャス』は■■が何らかの手段でイズンの林檎を品種改良した新種でありその開発には二世紀にも及ぶ時間を要した。
糖度15度という高い甘味ながら甘酸調和、歯ごたえも程よくリンゴポルフェノールは2017年現在に現存するバラ科リンゴ属の果実と比較し実に数十倍から数百倍含有している。
気品に満ちた芳醇な香りは嗅いだ者の精神状態を回復するだけでなく一定時間精神干渉に対する抵抗力を高め、また実際に食することで肉体的・霊的損傷や劣化を回復・回帰させる効能を持つ。

観測時代では既に果樹は本来の所有者の手から喪われ、とある館の中央に聳え立つ巨木にまで成長している。






―――――――――――――――――――――――――

カウント『2回』



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