私の恋は、腐り堕ちた

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衝動的に書いた


Decaying My Heart

狂おしい程の愛を孕んだ。焦がれて悶えてしまいそうな、そんな恋慕をまず間違えなく私は抱いたのだ。

火傷程度では収まりきらない業火の如き煌めき。

我が生涯を通じてこれほど鮮明な彩りを着飾った事など後にも先にもただこの一件のみであろう。

 

ああ、その感情に偽りなど微塵たりともありはしないとも。あってたまるものか。そんな疑惑、反吐が出る。

断言しよう。この男としてのプライドに誓ってそのような欺瞞はありはしないと!

名誉など矮小な私には欠片たりとも在り得ないかもしれないが、それほどの意気込みで言い張ろうではないか。

 

我が恋心は、終生を司るに相応しいものなのだと!

 

ここまで聞けばただの小恥ずかしい告白現場を目撃したに過ぎない。

しかし、大変残念な知らせと言うべきか。この一連の証言には一つの違和感とも置き換えれる綻びが実在する。

---私の独白に君が反論するならばきっとこうだ。

 

『好きな子って言っても、ゲームのキャラクターだろう?』

 

そう、百人が集えば皆そう唱えるだろう。不服と嘆き、さらに数を増やして問いを重ねたとしても得た答えは変貌しえない。

何せ私が愛したのは、画面の奥にしか実在しない音ゲーのキャラクターなのだから!

 

その美しくも哀れな真名は、白鷺千聖。私の初恋の相手でもあり、失恋の相手でもあった。

 

だってそうだろう?所詮、彼女は創作上の定型的な存在に過ぎない。

画面をタップすれば規定音声を垂れ流し、延々と収録した楽曲を再生し続ける。

 

そこに個人的な感傷が割り込む余地など有りやしない。私がどれだけ愛を囁こうが、彼女は一瞥する一時さえも与えてくれない。

相互的なやり取りなど根本から不可能。故に、我が恋が成就する未来を迎える事は輪廻を幾度と巡ろうが有り得ないのだ。

 

そうだ。だが、それがどうした!

そんな不変の事実は誰だって弁えている事だ。例え現実に実在しようが、彼女が私如きに振り向いてくれる訳がないだろうさ。

己に許された行為とはそれ即ち崇拝のみだ。その他全ては茶番ついでの塵芥に過ぎない。

 

なればこそ、私は祝詞を高らかに謳うのだ。例え彼女に届かぬと知っていながら。

ああ。仮初めとは言え私の生きる時代に生まれてくれてありがとう、と。

総ての愛情を括り付けて、君に届けと言わんばかりに陶酔し続けるのだ。

 

例え、この命燃え尽きて赤ん坊に成り下がったと仮定しても、私はこの思慕を見失うことなどありえない。

最早自我の依り代に等しい。この激情こそ我が核心なのだ。

この感情を見失えば、私たらしめる定義は崩壊してしまうだろう。

 

 

だから、この思いさえあれば私はそれでいいのだ。

 

 

『ほう、吠えたな。では汝、証明の刻だ』

「何?」

 

私の狂言はいつの間にか、数奇な運命を絡め取ったらしい。

思念を煮詰めれば、神をも焚き付ける。そんなどうでもいい事実を知った瞬間だった。

 

 

 

 

「時間が押しているわ。さっさと準備してちょうだい」

「くふふ。電車に乗れないおねーさんのために同行してあげようとしてあげているのに、全く余裕ですねぇ?」

「べ、別にそれくらいできるわよ。私は苦手なことをそのままにしない主義なの」

 

私の前では完璧であろうと取り繕う姿が何処までも愛しい。それ即ち己の特別性の証明に他ならない故に。

何せ私は、妹!親御の血を分け与えられた家族なのだから!

 

彼の一言の後に、私は大人から餓鬼へと逆行し次元を一つばかり超越した。存外、魂に滲みついた体幹と異なっていても慣れるものだ。

 

但し、性転換した事と意中の相手の家族になってしまったという大誤算を除けば。

 

その事実が発覚したときには、声の主を屠らんと決意せざるを得ない案件だった。

近親であり同性。我が恋は当然の如く成就しないだろう。

 

ああそうだ。崇拝などと戯れ言を吐いたが、所詮それは負け惜しみに過ぎない。

私は!白鷺千聖を!愛しているのだ!

 

赦さない。私の恋を弄びやがって。貴様は決して赦されない大罪を犯した。

ありがとう。私の恋を助けてくれて。机上の空論を脱しなかった夢物語が実現するかもしれないのだ。

 

相反した感情が粘っこく頭脳にへばりつく。

最早何を成したいのか把握しきれない道化が当時の私だった。

 

だがその混沌とした個性はやがて歪な形で凝固した。

彼女と触れあうことで早急にでもそうしなければならないと義務感を課したのだ。

 

その理念とは『理想の姉の付属品』に他ならない。

彼女の輝きこそ私の希望。彼女の苦痛こそ私の仇敵。

対面して理解したのだ。彼女が魅力的であることが私の深層心理の欲求なのだと。

 

恋なんぞよりも急を要する課題だ。

時に綺麗さが足りなければ私が醜くあろう。時に賢さが足りなければ私が愚かになろう。

それで彼女が映えるのならば、私はそれでいい。

そういった忠義に等しい行動原理が恋心から産まれ堕ちたのだ。

 

だからそのために私も完璧であらねばならない。

身内すら欺く程の演技力で、私はおねーさんの玩具であろう。

 

「行こっか、おねーさん?」

「全くもう、仕方ないわね」

 

例えそれが、白鷺千聖に嫌われる行為だとしても。

彼女が輝くならばそれも甘んじて受け入れよう。




続かない

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