生暖かい目で見守ってくださると助かります。
ジルのホグワーツ生活の滑り出しは好調と言えるものではなかった。
それもそうだ。アブラクサスに名を呼ぶことを許されたといっても、その親戚で純血貴族の筆頭とも言えるブラック家の人間に睨まれている。
更には生まれが良くなかった。半純血とはいえ半分は魔法族ではない――
同室になったのは
ナディア・メロウ。
マグル生まれで茶色のくせっ毛がチャームポイントの少しドジな部分が目立つ愛嬌のある子だ。
対して半純血のカテリーナ・ドラフォニア・ラメルトはどうやらウィーズリー家の親戚らしく、燃えるような赤毛が魅力的だ。とても理知的で母親が魔法族とのことで様々なことを知っている。
最初こそお互い腹の探り合いをしていた三人だったが、ある出来事がきっかけで今では普通に話す仲になった。……とはいってもそれは女子寮の室内、三人だけの空間に限られていた。
部屋から一歩出ればスリザリンでは純血は勿論のこと、更には半純血とマグル生まれの差は歴然としている。
食事のテーブル、授業を受ける座席、休み時間に一緒にいる相手、様々なところでだ。
規則として決まっているのではない。
故に三人が話を出来るのは就寝時間前と朝起きてからの少しの時間だけだった。
それでも各々で出来ることをしては相談し合い、時折助け合いつつ日常生活を送っていた。
夜。
ジルは地下にあるスリザリン寮の自室でルイスと連絡を取っていた。
他の二人は談話室で先輩に勉強を教えてもらっているため一人だった。
「それで進捗の方はどう?」
『万事滞りなく、と言いたいところですが一点手こずっております』
「あら、珍しいこともあったのね。どうしたの?」
可愛らしい使い魔から発する声はルイスの声は珍しく疲れを滲ませていた。
理由を聞けば、どうやらジルに命じられた先の件―――サラザール・スリザリンの遺品を探し出せ―――で伝手を辿り、いくつかは集ったもののある人物がサラザール・スリザリンの遺品を何個か財産として持っているがどう交渉しても譲ってもらえそうな気配がないとのことだった。
『申し訳ありません……』
「構わないわ、いくつか確保できただけでも上出来だもの。手元にある分はルイスの方で保管しておいて。夏季休暇の時にでも見るから。あとはそうねぇ、今週末、ホグワーツを抜け出すからホグズミートで落ち合いましょう。そのままその交渉相手のところへ連れていてくれる?」
『かしこまりました。そのように手配いたします』
「それとあとでふくろう便でいいから食事を届けてくれる?ホグワーツの食事って不味くないんだけど貴方が作るものの方が美味しいのよね」
『ふくろう便での輸送の時間も考慮しますと二時間ほどかかりますがよろしいですか?』
「えぇ、出来れば日持ちするものをいくつか用意してくれると助かるわ。温めるのは魔法で出来るし」
『御意に。それでは諸々手配を済ませておきます』
「えぇ、それじゃよろしくね」
通信を切り、ジルはふと窓の外へ目を遣る。
窓の外ではしんしんと雪が降り、白一色に染め上げていた。
ジルが入学してから約半年。ひっそりとだが友人も多く出来、授業に至っては元よりルイスのお墨付きであるし、教授たちからも5年生に匹敵すると言われ頭角を現していた。
時折勉強を教えてもらいに来る生徒もいる。特に知識に貪欲なレイブンクロー生やスリザリンの同級生、極稀に上級生も現れるほどだ。
就寝時間が近づき、ルームメイトの友人二人が戻ってきて開口一番に聞いたのはジルの知識についてだった。
「ねぇジル?貴女のその知識って誰から教えてもらったの?」
「そうよ、ずっと聞こうと思ってたの!やっぱりご両親から?」
「いえ、私は孤児院出身なので両親ともに顔は分からないんです」
ジルの発言に一瞬固まる二人。
そういえば、ジル自身の話をこれまで聞いたことがなかったと思い至り、気まずそうな表情になった。
顔を見合わせる二人に頓着せずジルは続けた。
「それで、魔法界のことを教えてくれたのは別の方で。私自身魔力があるって分かったのが早かったので保護者としてその方がついてくれて、身を守る術として色々教えてもらったんです」
「そうだったのね」
「早くから魔法界のこと知ってたなんて、うらやましいなぁ」
マグル生まれは往々にして魔法界のことを知るのは入学許可証が来てからだ。
故に魔法界で生まれた子供とマグル……人間界で生まれた子供とでは入学時点で大きな差があるのだ。その差を埋めるには多大な努力が必要になるわけだが基本的にホグワーツでは差が広がらないように配慮されている。
「私、自分が魔女だって知るまで結構大変だったの。だってそうでしょ?当たり前だけど両親は何も知らないし。スラグホーン先生が事前説明に来て知ったけど、私って他の子より魔力が感情に影響されやすいらしくて、もっと小さい頃は泣くとよく物が壊れてたんですって」
正直なことろ両親はよく私のこと愛してくれたなって思う時があるわ。
ナディアはそう言って枕元に置いてある両親の写真を見つめた。
魔法族の写真ではないそれは当たり前だが、映っている人物が動くことはない。
マグル生まれのナディアからしたら当たり前だが魔法族の親を持つカテリーナは不思議に思い、ナディアと一緒に見つめていた。
「うちは、ママが魔法族でパパがマグルなんだけど、最初はやっぱり信じられなくて、喧嘩したんだって! で、結局あまりにも信じてもらえないからママが怒ってパパに魔法をかけたの。それも、変身術よ!猫に変えちゃったの!パパったらびっくりして辺りを走り回るわ、塀を飛び越えるわで、戻すのが大変だったってママが言ってたわ」
マグルの中では不可能とされている、物語の中だけの変身を体験したマグルは怯えるか感情が振り切って喜ぶかのどちらかだが、カテリーナの父は後者だったようだ。
そんな二人の話を聞いている内にジルは前世の自分の両親を思い出していた。
幼少期から他の子供と違った自分を親はどう思っていたのだろうか。
思い返してみれば、おぼろげではあるが二人とも笑顔の記憶ばかりだ。
まるで、そう。
ジルの顔に自嘲染みた笑みが浮かんだ。
自分はどうやら生まれ変わっても家族に縁がないらしい。