新年最初の投稿(2週間以上経過してますが)です。
エタりませんよ……!
今回、だいぶ無理矢理もっていった感があるので要注意ですね。
いつも通りトムの変化に関してはジルという存在がいたため、ということで目を瞑っていただけると。
次回は話が飛びます。
恐らく親世代辺りかな、と。
基本はもう原作同様に進んでいる(はず)のでジルが裏から手をまわすところとか
その辺りを書いていけたらいいな~と思ってます。
生暖かい目で見守っててくだせぇ……。
ジルはおおよそ一年ぶりに出身の孤児院へ戻っていた。
ホグワーツが夏季休暇に入るためだった。
本来であれば孤児院ではなく、ルイスに購入させた一軒家の方へ行っても良かったが、あそこは過剰すぎるほどの防護呪文が山ほどかけられている。
タチアナ家が蓄えた知識の中の、今では『
下手すると貴族の屋敷よりも厳重なあの家では、ホグワーツからの手紙も受け取れないし、何より今はジル自身がトムに会えないと思っていたからだ。
トムとはホグワーツにいる間、月に何度かは手紙でやり取りをしていたが直接会うのは去年の夏、ホグワーツに入学する前日が最後だった。
今年、トムがホグワーツに入学する。
原作通りに進んでいるのは簡単にだが確認は済ませた。
ダンブルドアがトムに対して危機感を覚えていたこと、けれど
……けれど、そうなってしまっては
だから、トムの記憶を消さなくてはならない。
闇の帝王へと進む
「あぁ、こうなると
道筋から外れるようであれば、消してしまえばいいと思っていたあの時の自分を止めたい。
頭を巡るのは、短い間だったがトムと過ごした日々だ。
物静かで、必要なこと以外には口を開かない大人しい子。
その内側では恐ろしく計算高く、他人を損得で判断する利己的な賢い子供。
けれど、
知的探究心が強く、
いつの間にか、絆されていたようだ。
自分で思うよりずっと、
「それでも……私は、」
彼に逢うと、逢いに行くと決めたのだ。
それにもう、決めていたじゃないか。
例え
ルイスに用事を言いつけ、今日はもう来なくていいと告げてからジルは正装に着替えるといつもの位置に杖をしまい込む。
ホグワーツに入学する際、ルイスとともに訪れたダイアゴン横丁で自らの杖を購入していた。
材質は黒檀。芯はアクロマンチュラの糸を使用し、アッシュワインダーの灰でダークグレーの色付けをしており、持ち主に忠実な使い勝手のいい杖だった。
「先にトムの問題を片付けなくちゃね」
あの日の夜に、己に誓ったことを反故にするほど甘ったれにはなりたくない。
ジルが家に向かったのはちょうど昼の時間帯だったせいか、トムはまだいなかった。
食事は孤児院で取るように言っておいたのだが、きちんと守っているようだ。
周りの視線や悪意から逃れられるこの環境が無くなるのはトムにとって致命的だからだろうが。
しばらくすると、幾重にもかけた防護呪文の一つ、訪問者の知らせが鳴り、トムが来たことを知らせる。
「おかえり、トム」
「帰ってたの?」
「えぇ、つい先ほど」
短い挨拶を交わしていると、トムはちらりとジルの様子を伺いながら口を開いた。
「ねぇ……ホグワーツってどんなところ?」
「とても
ジルの微妙な言葉の差異にトムは気付かずに期待に目を輝かせ、矢継ぎ早にジルへ質問する。
「授業は?先生は怖い?どんな魔法を教えてもらえるの?」
「ト、トム?」
「……友達は、出来た?」
小さく、ポツリと落とすようにトムの口から吐き出されたその質問にジルは一瞬目を瞠る。
「……ぁ、……なんでもない」
「出来ましたよ。大丈夫、きっと貴方にも出来ます」
失言だったとばかりに目を逸らしたトムに、ジルは笑って答える。
貴方が望む理想の
そんな言葉を内心で付け加えながら、ジルは微笑んだ。
「……そう」
「トム」
「何?」
「……いいえ、なんでもありません。知人から良いものを貰ってきたんです。一緒に食べましょう」
ジルがそう言って取り出したのは、魔法界のお菓子とルイスに作ってもらったサンドイッチだった。
トムはよく観察しなければ分からない程度だったが魔法界のお菓子に興味深々らしく僅かに目を輝かせて見つめていた。
「これは?」
「蛙チョコレートですね。開ける時は気をつけてください。跳ねますから」
「跳ねる?チョコレートが動くの?」
「えぇ、写真に映ってる人間も動きます。中からいなくなったり」
「いなくなる?!」
「魔法界は驚きの連続ですよ、ふふ」
最初から知っていた自分と違い、トムの新鮮な反応に笑みがこぼれる。
「ダンブルドア教授から聞いてるかもしれませんが、ホグワーツでは四つの寮に分かれて生活します。勇猛果敢なグリフィンドール、狡猾なスリザリン、勤勉なレイブンクロー、忍耐強く優しいハッフルパフ。私はスリザリンに組み分けされました。トム、スリザリンではマグル……非魔法族の差別が根強く残ってます。いえ、今後も緩和されることは無いでしょう。だから、
「それって」
「貴方を守るためでもあり、私自身のためでもあります。何より、貴方はスリザリンで“真の友を得る”でしょうから」
組み分け帽子の言うことをなぞって伝えれば案の定興味を持ったのかトムは繰り返す。
「真の友?」
「えぇ。スリザリンはその性質上他寮から少々遠巻きにされてますから、その分自寮の結束が固くなる傾向があるらしいですよ」
「へぇ……随分嫌われてるんだね、スリザリンって」
柔らかめの表現を使ったが聡いが故にそこに隠された意味を察してトムは苦笑交じりに言いつつ肩をすくめた。
「でもどうして僕がそこに組み分けされると?」
「私がスリザリンである以上、弟であるトムにも十分その可能性はありますから」
「確かに。にしても真の友、ねぇ」
半笑いで小馬鹿にしたようなトムの呟き。
孤児院に入れられた身としては、親の愛情が絶対ではないことを知っている以上、真の友情とやらもあるわけがないと思っているのだろう。
事実、それはトムだけではなくジルもそう思ってのことだ。
「トム、バーティボッツの百味ビーンズです。どうぞ」
「百味?」
何この色、と嫌悪感たっぷりの表情をしてジルが渡した粒を眺める。
黄色に黒い
「(多分)美味しいですよ。文字通り、百味なので」
「これ、絶対妙な味でしょ」
「食べてみてのお楽しみです」
「これ僕が食べなきゃダメなの?」
「手に持ったら食べる、それが百味ビーンズのセオリーですよ」
ホグワーツでは確実に起こる出来事でもある、と言えばトムは渋々(本当に渋々)ながらもビーンズを口に放り込んだ。
……が、すぐに口を抑えて悶え苦しんでいた。
「ッ……!!」
「その様子だと外れたみたいですね。色から察するにマスタードかなにかですかね」
キッと睨みつけるトムだが、ジルからしてみればまだまだ迫力不足だ。
ノクターン横丁にいる人攫いですら脅威に思えないのだから、11歳の子供に睨まれたところで痛くも痒くもないだろう。
ジルは肩を竦めてから、百味ビーンズを一つ無造作に取るとそのまま口の中に放り込んだ。
咀嚼するうちに感じたのは微微妙な清涼感と後から押し寄せてくるこれまた微妙な嘔吐感。
「こ、れは……石鹸味……!」
「っく……ふふ、あはは!自分でも妙なのに当たってるし!」
滅多に見ない笑顔のトムに、ジルの心は僅かに軋む。
こんな笑顔を見せてくれることも今後は無いだろうと。
それが少しだけ、ほんの少し、寂しく思えた。
「トム。いつか思い出す時が来たとしたら、私のことを怨んでいいから」
「え?」
「―――
一瞬の躊躇いの後に杖の先から放たれた閃光がトムへ向かっていく。
どうして、と問いたげな表情に酷く胸が痛む。
けれど、全ては『物語の筋書き』のために。
―――自らの、
ゆっくりと崩れ落ちたトムの体を受け止め、ジルは姿現しでトムの孤児院に飛んだ。
古びたベッドの上にトムを寝かせ、そっと額にキスを送る。
最後の親愛のキスだった。
ぽたりと一粒の雫がベッドのシーツに染み込んだ。