9月1日、キングズ・クロス駅。
混雑を嫌ったジルは汽車の発車時間よりだいぶ早めに駅に到着していた。
ちらほらと見える人影はどうやらジルと同じく人ごみに巻き込まれないために早めにやって来たホグワーツ生が多く、中でもスリザリンの生徒が大半のように見えた。
考えることは同じのようだ、とジルは検知不可能拡張呪文のかかったトランクを手に汽車へと乗り込む。
やはりスリザリンはその他の三寮とは相容れないようで、スリザリンは監督生のコンパートメントを除き、前の方の車両はスリザリンで埋まっていた。
ジルはゆっくりとコンパートメントの中を覗きつつ、
ジルの知っている知識、そして一族の性格の系統から言って間違いなく早めに来ているはず、と当たりをつけていたのだ。
そしていくつかのコンパートメントを覗いた後、見つけたのはプラチナブロンドに鋭利な蒼い瞳、整った顔の男子生徒。すでにスリザリンの制服に着替えている彼を見つけたジルはこっそりと笑みを浮かべる。
コンコン、と控えめにノックをして中から返事が来るのを待つ。
すぐにどこか面倒さを含んだ声色で「入れ」と聞こえてきた。
「失礼いたします」
「どこの家の者だ」
「ジル・マールヴォロ・リドルと申します。今年入学することになりましたのでご挨拶に」
「……聞いたことがないが。純血か?」
「
「ほぉ」
にこやかに受け答えするジルを見定めるように見つめる少年は感心した。
まだ、ということはこれから名を上げていくつもりがあると、そしてそれはよくある口だけではないということを自身の直感が告げていた。
「俺の名前はアブラクサス・マルフォイだ。Ms.リドル、よろしく」
「ご随意に、閣下」
綺麗なカーテシーをしてジルはコンパートメントを後にした。
とりあえずの接触はうまくいったようだ。
今回ジルは今までのように魔眼を使わなかった。
S.S―――サラザール・スリザリンの遺した著書にあった魔眼の保持者は短命というのを気にしたからという理由もあったが、相手が何よりあのマルフォイ家の嫡男であり、未来の死喰い人仲間であることも関係しており、トムが入学するのは来年で、まだ時間も機会もあるが出来るならアブラクサスにはなるべく自然な状態でいてもらわなくて困るという判断からだった。
アブラクサスのいたコンパートメントから三つほど離れた場所に空いたコンパートメントを見つけて中へ入る。
「あれがアブラクサス・マルフォイ。トムを見出す男、トムの後ろ盾、ね」
見たところ、スリザリンらしさを兼ね備えた男だった。
そして、人を見る目と直感も優れていた。
開心術とはまた違った、相手の感情を読むことに長けた血族、その才能を最も受け継いだ男。
それがジルのアブラクサスに対する評価だった。
アブラクサスの息子 ルシウス、それにアブラクサスから見て孫に当たるドラコは現時点、書籍からの知識ではただ誇るものが血筋しかないお坊ちゃんたちだ。
それもまた、本人が生まれ、かかわりを持てば変わるのだろう。
ジルはそっと未来へ思い馳せる。
彼の人へと。これから辿るであろう自らの道へと。
ジルが去ったコンパートメントで、アブラクサスは一人愉快に笑みを深めていた。
今年もまた一人、優秀で美しさを持ったスリザリン生が入学したことに喜びを感じていた。
そしてふと、先ほど挨拶に来た女子生徒が思い浮かぶ。
ジルほどの美しさではないが、彼女もまた整った見た目とスリザリンに相応しい思想を持っていた。
「……面白い」
ヴァルヴルガ・ブラック。
ジル・リドル。
四年後には親戚筋のオリオンが入学してくる。
それ以外にも、出来るなら優秀な純血が入ってくれば尚良い。
そう呟き、窓の外へと目を遣る。
これから訪れるであろう愉快な日々が楽しみでしょうがなかった。