「一年生はこっちに!迷子にならないように着いてきなさい!」
引率約の教員が拡声呪文を使って呼びかけをしていた。
ジルは荷物を預けると指示に従い、教員についていくと期待に目を輝かせている新入生が多く、中にはきょろきょろと周囲をせわしなく見ている者もおり、やはり時代は違えどホグワーツに入学するということは多くの者にとって喜ぶべきことなのだろう。
湖でボートに乗り、ゆっくりとホグワーツへ向かっていく。
ホグワーツを照らす明りが湖面に反射してキラキラと輝いていた。
―――ここが、始まりと終わりの場所。
「(上手く、やらなければ……)」
少しでも物語を良い方へ、無理だとしても彼の為になる方へ。
究極の
ホグワーツ城はジルの記憶にあるよりか幾分かだけ、綺麗に思えた。
実際見たのは未来のものであるし、前世の記憶で言えば50年ほど
大広間では新入生に笑いかける在校生たち。
どの子が自寮に来るのか、楽しみなのだろう。
「静かに!これより新入生の組み分けを行います。名前を呼ばれたら前に出てきなさい。私語は厳禁ですよ」
教員が順に名前を呼び上げていく。
記念すべき最初の寮はハッフルパフのようだ。歓声が上がり、新入生の男の子は嬉しそうに寮の先輩方が待つテーブルへ駆けていく。
「リドル・ジル!」
そうこうしている間についにジルの名前が呼ばれ、ジルはゆっくりと階段を上って前に出る。
用意されていた小さな丸椅子に座るとそっと組み分け帽子が被せられた。
『おや……、君は……』
「(初めまして、組み分け帽子さん)」
『君の答えは決まっているようだが、一応聞いておこう。どの寮に入りたいかね?』
「(勿論、スリザリンよ)」
『いいのかい?君がグリフィンドールへ行けば間違いなく英雄として名を残せる』
「(英雄として名を残すよりもやりたい事があるの。それに、
『君がやろうとしていることは間違いなく修羅の道になる。が、スリザリンで君は真の友と揺るぎのない真実を得る。いいだろう、ならば……「スリザリン!」』
わぁ、と一際大きな歓声がスリザリンから上がり、数人の上級生が手招きをしている。
自分のスピードで歩いてテーブルに向かう。
こっち、と手招きされた方へ向かい、腰掛けると目の前には特急で挨拶をしたアブラクサスがいた。
「さっきぶりだな、Ms,リドル」
「えぇ、宜しくお願い致します。マルフォイ先輩」
「アブラクサスでいい」
「ありがとうございます。では私のことはジルとお呼びください」
アブラクサスとジルの会話が聞こえた周囲の生徒は驚きに目を瞠っていた。
マルフォイ家の跡取りであるアブラクサスと新入生のジルが知り合いだったということもそうだが、
ホグワーツでは基本的に先輩後輩の垣根自体が低い。だが、それはスリザリンを除くほかの三寮に限っての話だ。
純血貴族が多く、中でもマグル生まれはカーストの最底辺にいるといっても過言ではない寮内では年齢ではなく家格が物を言う。権力であったり財力であったり、スリザリンにおいてはどれだけ純血家系が続いているか、そしてどれだけ魔法省や関係各所に影響力があるかというもので家格が決まる。
つまり、純血貴族のその筆頭ともいえるマルフォイ家、そしてその嫡男という立場にあるアブラクサスはスリザリンの中で最上位に君臨する男なのだ。
そのアブラクサスがマルフォイではなくアブラクサスと呼ぶことを許可した。
それだけの価値がジルにはあると言っているようなものだったのだ。
スリザリンでは一つの言動や行動が与える影響力は他寮の比ではない。
子供同士と言って許されないのだ。自寮での生活、ひいては親や血縁関係のある親戚にまで影響する。
マグル生まれの新入生がスリザリンに入寮すると悲惨なのはこの辺りの事情も関係している。
上下関係に一層厳しいのがスリザリンの特徴でもあるのだ。
アブラクサスとジルの会話を一言たりとも聞き逃すまいと聞き耳を立てていた生徒達は自分の今後の生活と将来の為に必死で情報をかき集めようとしていた。
そんな中、つかつかと足音を立てて不機嫌そうな表情で近寄る少女がいた。
「ねぇ、貴女」
「はい?」
「アブラクサスとどういう関係?」
「どういう、と言われましても……列車でご挨拶した程度ですが?」
「在り得ないわ、その程度でアブラクサスが名前で呼んで良いなんていうわけないもの」
「ヴァルヴルガ、彼女の言っていることは真実だ」
「!」
「ご不快な思いをさせてしまったら申し訳ありません。ですが私とアブラクサス先輩は本当に列車でご挨拶しただけの仲ですので……」
「っもういいわ!!」
ヴァルヴルガ、と呼ばれた少女はジルを思い切り睨みつけてから踵を返していった。
あれがヴァルヴルガか、と内心驚きはしたものの、一応マグル生まれと思われている自分が知っているのも不思議なのでそれを隠してアブラクサスへ尋ねる。
「ジル、すまないね」
「いえ……、あの方は?」
「僕の従妹だ。ヴァルヴルガ・ブラック、君と同い年」
「従妹ですか?」
「あぁ、純血貴族は多かれ少なかれ大体が親戚筋だ」
予想外とまでは言わなくともそこまで近しい関係とは思わなかったジルは聞き返すと。アブラクサスからは至極納得できる答えが返ってきた。
そうこうしている内に新入生の組み分けは終わり、上級生と他愛のない話をしながらホグワーツの食事に舌鼓を打った。
(―――ルイスの食事の方がおいしいわね)
こっそりとため息をついたジルがいたのは言うまでもない。