(注1)何の説明も脈絡も無くゴブリンスレイヤーの世界に両津をブチ込んでいます。
  肌に合わないと思われる方はプラウザバックをお願いします。

(注2)オチが酷すぎるというご意見が何件かありました。
  若干マイルドになるよう加筆しました。

pixivにも同じ作品を投稿しています。

アクションドール発売中URL『https://syosetu.org/novel/173391/

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ゴブスレ・こち亀二次創作『両津式ゴブリン退治法』

「ええっ!? わしにゴブリン退治しろって!?」

 

ある日の早朝、派出所が砕け散る程の大音量の叫び声が周囲に響く。

 

「そうだ、近頃署の管轄で被害が頻発しているからな。

 市民サービスの一環としてゴブリン退治を請け負うことにした。

 無料でやるんだ、お前がな」

 

「無料おっ!? 警察が冒険者の仕事奪っちゃ拙いでしょうに」

 

「安心しろ、元々ゴブリン退治の依頼は駆け出しかよっぽどの変わり者しか受けない。

 ギルドに話をつけて、誰も受けなかったゴブリン退治をお前にやらせる事にした」

 

「だからって何だって私に?」

 

「どうせ暇だろう、勤務中に競馬だのパチンコだのサボっているのだからな」

 

「うぐっ……」

 

眉の繋がった角刈りの巡査長、両津勘吉が言葉を詰まらせる。

 

「い、いやしかしですね、ゴブリンって面倒臭いんですよ。 すぐ増えるし、

 悪知恵が働くし、形勢不利だと思ったらすぐに巣穴を捨てて逃げ出すし……

 大体派出所の勤務だってあるんですよ」

 

「安心しろ、ゴブリン対策課を今日から新設した。

 ゴブリン退治が終わるまで派出所に出て来なくて良いからな」

 

「ええっ!? ゴブリンの数知ってるんですか!?

 退治が終わるなんて何年かかるか分かりませんよ部長ぉっ!!」

 

……

 

…………

 

………………

 

「左近寺ぃっ! そっちに小さいのが1匹逃げてるぞっ!」

 

「任せろ! ぬぅんんっ!! でぇいっ!!」

 

産まれたばかりの小さな小鬼が脳天から岩肌に叩きつけられ、直後、丸太のように太い筋肉の塊のような脚に踏み抜かれて絶命する。

 

「両津、こちらは制圧した」

 

「ちゃんと全員トドメは刺したんだろうな。

 あいつら死体の振りをして逃げようとするから、騙されんなよ」

 

「当たり前だ、対ゲリラ戦の基本だからな」

 

「ううむ、こっちは完全に手遅れだったか。

 こっちの娘さんは微かだが息があるな。 助かるかどうか分らんが連れて帰るか」

 

「おい両津、また金目の物でも拾って……ぶほっ!?」

 

元傭兵の猛者であるボルボ西郷が鼻血を流しながら後頭部を岩壁に打ち付けて悶絶した。

基本女性の裸体への耐性の無い男である。

ゴブリンによって嬲り者にされ、孕み袋として使われていた村娘の惨状に耐えきれなかったのだ。

 

「馬鹿野郎、いい加減に慣れろ! ゴブリンの巣穴じゃあ頻繁に遭遇するだろうが!」

 

「お前良く平気だな。 俺でもまだ慣れんぞ」

 

「そんな事よりボルボ、豆まきみたいに手榴弾をバラ撒くんじゃない。

 ゴブリンの巣穴一個に使える金なんてたかが知れてるんだぞ。

 完全に赤字になるだろうが」

 

「いやしかし、安全面を考えるとだな……」

 

「そもそもお前、今回は要救助者がいるって事、忘れてはしないだろうな?」

 

「最後に安否確認がされてから2日以上経っている、生存の可能性は低い」

 

「馬鹿っ!! 冒険者ならそれでも良いがわしらは警察官だぞ!

 民間人をゴブリンと一緒に爆殺したら懲戒されるに決まってるだろ!」

 

「しかし危険性が……」

 

「何のために防刃ベスト着てると思うんだ!

 一回や二回物陰から襲われたって致命傷にはならん!」

 

「それはお前だけだと思うぞ」

 

「うむ、刺されても殴られてもピンピンしてるからな。 ゴキブリ並みのしぶとさだ」

 

「やかましい! 終わったならとっとと戻るぞ」

 

全身に夜間迷彩仕様の軍服と防刃ベストを着込み、頭部はスターライトスコープ付きのヘルメットに身を包んだ筋肉質な男3人が、ゴブリンが巣穴として利用していた洞窟からのそのそと這い出て来る。

 

サバイバルゲームをしていた訳ではない。

新葛飾警察署管内の民家を襲ったゴブリンを駆除していたのだ。

 

「本田、馬車出せ。 終わったから戻るぞ」

 

「せ、先輩~、無事でしたか~? もう怖くて怖くて限界ですよ~」

 

「それより何か羽織る物を持ってこい、素っ裸のまま署には戻れんからな」

 

「ひゃぁああぁっ!? 血塗れ~っ!?」

 

「馬鹿、全部返り血だ! 腰抜かしてる暇があったらとっとと着る物持って来いよ!」

 

「す、すすす……すみませぇ~~~んっ!」

 

洞穴に入っていった3人……両津勘吉、ボルボ西郷、左近寺竜乃介の3人が、外で馬車の番をしていた本田速人から差し出された濡れタオルで顔を拭く。

 

この4人が新葛飾警察署に新設されたゴブリン対策課の全メンバーだ。

 

「それより本田、巣穴から逃げた奴はいなかっただろうな?

 あいつら一匹でも逃げると後々面倒な事になるからな。

 見つけたら体当たりしてでも食い止めとけよ」

 

「ひいぃぃっ! そんなの無理ですよ~っ! あんな怖そうなのと戦えませんよ~っ!!」

 

「馬鹿、わしらは巣穴の奥まで潜って戦ってるんだぞ!」

 

「火を焚いて燻す、井戸水に下剤を混ぜる、マキビシをばら撒く、

 巨大なゴキブリホイホイを設置する、果てはドローンに機関銃を積んで攻撃させる……

 よくもまあ、ああもポンポンと非道な戦い方ができるものだな」

 

「ゴブリン相手にまともに殴りあっても疲れるだけだろ。

 くそっ、今回は完全に赤字だな、思ったより巣穴が広かったせいか」

 

馬車の隅っこにどっかと座り込み、収支計算のメモ書きに羽ペンを走らせる。

基本的にちゃらんぽらんで大雑把な男であるが、金には汚く、損したか儲かったかの計算をする時だけは実に細かくなる。

 

「しゃあっ!! カッ飛ばすぜ両津の旦那ぁっ!!

 振り落とされねぇようしっかり掴まってろよぉっ!!」

 

眼光が鋭いリーゼントの男が馬の背に鞭を浴びせ、猛スピードで走らせる。

5人目のメンバー……ではない。

 

先程両津と話していた弱気な男、本田速人は、馬やバイクといった風圧とスピード感を感じられる乗り物に乗ると急に気が大きくなり、口調も大きく変わるのだ。

 

……

 

…………

 

………………

 

「くっそ~、もう20個も巣穴を潰したってのに、全然目撃情報が減らないじゃないか。

 やっぱ1個ずつちまちまと潰してもキリが無いな。

 しかも火薬やら毒薬やらで毎回赤字だ。

 倒せば倒す程赤字になるなんてやってられんぞ」

 

新葛飾警察署にて、両津が頭を抱えている。

ゴブリン退治は、駆け出しの冒険者が2~3回やる依頼というのが世間の認識だ。

被害は出すが、倒しに行くのは面倒臭い。

それに被害自体も、邪神だの魔人だのといったガチで世間を揺るがすような連中と比べれば軽いものなので、ゴブリン退治に出される報酬は新米、駆け出し冒険者をギリギリ雇える程度が相場だ。

 

当然、新葛飾警察署ゴブリン対策課に回ってくる予算は非常に少なく、趣味のサバイバルゲームのために購入したスターライトスコープや迷彩服、野球部の部室からくすねてきた金属バット、ボルボの私物のサバイバルナイフや防刃チョッキ等を活用して、ギリギリで回している状態だった、。

 

「全く、鰻や鮪は漁獲量制限でてんやわんやになってるというのに、

 ゴブリンは駆除しても駆除しても絶滅しそうにないな……」

 

警察署のソファーに背を預け、両津が考え込む。

 

この時脳裏に浮かんだのは、第二の実家と化した超神田寿司で聞いた鰻や鮪の漁獲量制限のニュース、そして第一の実家で目にしたイナゴの佃煮……

 

「……そうだ! 食っちまえば良いんだっ!!」

 

……

 

…………

 

………………

 

……翌日、超神田寿司。

 

「少し煮込む時間を変えてみたが、今度のはどうだ?」

 

「ふむ……臭みは少しマシになったが、今度は肉が硬くなっている」

 

「そうか、まだまだ商品にはできそうもないか」

 

「いや、今のままでも悪くないぞ。

 そうだな、煮込む前に切れ込みを入れてみるのはどうだ?」

 

「そうか、切れ込みか。 やってみるか」

 

両津が差し出すおどろおどろしい見た目の料理を幼稚園児に差し出し、味見をさせていた。

彼女の名は擬宝珠檸檬、両津の親戚であり、神の舌を持つ幼稚園児である。

 

「おい、何か厨房から形容しがたい匂いが漂ってるぞ。 勘吉、お前だろ?」

 

そこに檸檬の姉、新葛飾警察署所属の婦警である擬宝珠纏が凄く迷惑そうな顔でやって来た。

 

「ああ、纏か。 今超神田寿司の新商品を開発してる所だ。

 纏もちょっと試食してみるか?」

 

「煮込みに、刺身に、巻き寿司、漬けに、炙り寿司と……シチュー?

 おいおい、寿司屋にシチューは無いだろう」

 

「良いから食ってみろよ、美味いぞ」

 

「檸檬、本当なのか?」

 

「悪くないぞ、まだ改善の余地はあるがな」

 

「そうかい、それじゃあちょっとだけ……」

 

纏がお盆に置いてあった箸を手に取り、檸檬の前に並べられている小鉢から料理をひょいひょいと口に運んでいく。

 

「ちょっと臭みがあるけど……うん、普通に食べられるじゃないか。

 馬刺しじゃないよね、何の肉?」

 

「ゴブリンだよ」

 

……瞬間、纏の表情が凍り付いた。

 

そうなのか、とアイコンタクトで檸檬に尋ね、そうだぞ、とアイコンタクトが帰って来た。

 

「お前ぇっ! いくら何でも寿司屋にゴブリンは出せないだろっ!!」

 

「何を言ってる! 鰻は元々タレをつけないと臭みで食べた物じゃない下魚!

 寿司は屋台で売られたパパっと腹を満たせる大衆食だ!

 フランスではエスカルゴとロブスター……

 つまり蝸牛やザリガニを高級食材と有難っている!

 イナゴの佃煮だってあるんだ、ゴブリンだって料理すれば食える!」

 

「いや食えねぇよ!! 誰が好き好んでゴブリンの肉を食うんだ!」

 

「煮込みに入ってるのはゴブリンの内臓、シチューにはゴブリンの脳味噌だ」

 

「危ねぇっ!! あとちょっとで口に入れる所だった!!」

 

「とにかくだ! もはや高級食材を獲る時代は終わった。

 高級食材を養殖するのももう古い!

 ドカンと儲けるためには、高級食材をプロデュースするのだ!」

 

「いや、理屈はともかく、ゴブリンだぞ。 流石に食えねぇよ」

 

「纏、勘吉の料理、悪くないぞ」

 

「味がどうとかいう問題じゃないんだよ! 心情的にだな……」

 

「なぁ纏、ゴブリンによって毎年少なからぬ被害が出ているのは知っているだろう」

 

両津の顔が急に真剣なものになる。

纏がそんな両津の様子に、思わずドキリとした。

 

「ま、まぁ……あたしも婦警だから、知ってるけど……」

 

「その中には冒険者もいる。 普通の農家もいれば、行商人もいる。

 もちろん、警察にだって犠牲者は出ている」

 

纏が無言で俯いた。

昨日まで一緒に仕事をしていた婦警が、次の日にゴブリンに襲われ、巣穴に連れ込まれ……そんな話を聞いた事がある。

 

もしも自分の親しい人間……例えば、同じミニパトで毎日パトロールをしている早矢がそうなったら、自分がどうなるだろうかと考える。

 

まあ、早矢は弓矢や薙刀、柔道や合気道の達人であり、ゴブリンの10匹や20匹相手に後れを取るような人物ではないのだが、それに関しては目を瞑った。

 

寿司屋の娘として、マグロ漁や蟹漁がどれだけ大変かは聞いている。

何日も、何週間も、場合によっては何ヶ月も狭い漁船に乗り、時に悪天候に見舞われ、魚群を追い、同業者と争いながら、本当に命懸けで仕事をする事を知っている。

 

そして目の前の男、両津勘吉がマグロ漁や蟹漁に繰り出し、凄まじい苦労をして死にかけた事も知っている。

 

漁師達がそんな命懸けの仕事をするのは、詰まるところ金になるからだという事も知っている。

 

ゴブリンが駆け出し数人雇うのがやっとの低額報酬が相場なのは、結局の所、金にならないからだという事も知っている。

 

もしもそんな常識が覆り、ゴブリンが金になるというのなら……と……

 

「分かったよ、あたしも腹を括った」

 

纏が檸檬の隣にどっかりと勢い良く座り込んだ。

 

「あたしも手伝うよ。 まずは試食、それから一緒に調理法を考えるんだろ?

 あたしがゴブリン食って、犠牲者が減るなら……喜んで食べるさ」

 

「そうこなくっちゃな! じゃあまずは脳味噌のシチューからいってみるか」

 

「いきなり脳味噌かよ!? もうちょっと手心加えてれよ!」

 

……

 

…………

 

………………

 

こうして纏と檸檬の協力を得た両津は、ゴブリンを調理する方法を全力で模索した。

 

そして試行錯誤を重ねた末に完成させた調理法を一冊の本にまとめ、大々的に売り出したのである。

『両津式ゴブリン退治法』と題されたその書籍は、ゴブリンの(比較的)安全な調達法と、美味しく調理する方法を網羅したもので、その理外の発想と分かり易い解説で爆発的な売り上げを記録した。

 

さらに両津は親戚の中川圭一(超金持ち)を上手く口車に乗せ、ゴブリン料理専門店を各地に展開させ、さらに大々的なCMキャンペーンを展開。

ついにはゴブリンは迷惑な害獣だというイメージを。

ゴブリンは美味しく調理できる食材だというイメージに180度転換させる事に成功した。

 

それにより今まで畑に撒く肥料にすらならなかったゴブリン肉に市場価格が発生し、その価値は日を追う毎に上昇し続けた。

 

結果……

 

「ゴブリン退治の依頼をくれっ!」

 

「ゴブリン退治の依頼はもう無いんですか!」

 

「依頼が無いなら無料でも良い! 目撃情報だけでも良いから教えてくれ!」

 

「お金が必要なんです! 人助けだと思ってゴブリンの居場所を教えてください!」

 

当然のようにゴブリン退治の依頼に殺到する冒険者も増えまくり、ゴブリン退治は誰も見向きもしない不人気依頼から、依頼書の張り出しがあった瞬間に冒険者同士で取り合いになる超人気の依頼になっていた。

 

「ゴブリンだ」

 

その日、いつものようにゴブリンスレイヤーは、他の冒険者が各々の依頼を受任し、受付の机からいずこかへ去っていった時間に現れ、受付の女性にそう声をかけた。

 

「す、すみません……

 今日もゴブリン退治の依頼は全部他の方が受任してしまいまして……」

 

馴染みの受付嬢が申し訳なさそうにそう告げる。

ゴブリンスレイヤーが依頼にありつけなかったのは、今日だけの話では無い。

両津式ゴブリン退治法という書籍が売り出されてから、頻繁に起きている。

 

「そうか……」

 

嬉しいとも、残念ともとれる、感情のこもらない平坦な声であった。

 

ゴブリン退治が人気になった直後は、ダンジョンアタックの定石をロクに知らない無鉄砲な人間が巣穴に潜り、凄惨な最後を迎える事が多々あった。

しかし、じきにゴブリン退治の依頼は経験点こそ低いものの金になる依頼と認知され、駆け出ししか受けない依頼から、徐々に腕の立つ武芸者や、経験豊富なベテランが請け負う依頼へと変貌し、死亡率もどんどん下がっていった。

 

そして最近では、冒険者によるゴブリンの乱獲によって、ゴブリンの目撃情報が急激に減り、それと連動してゴブリンの市場価値も上がっていった。

 

「この近くにも、ゴブリンを料理する店ができたらしいな」

 

「ええ、そうなんですよ。 癖があるけど味があるって、毎日行列ができてるんですよ。

 少し前までゴブリンの遺骸なんて燃やすか埋めるかするしかなかったのに、

 今では高く売れる素材だって、皆持ち帰るようになってるんですよ」

 

「ゴブリンがいなくなるなら、それで良い」

 

ゴブリンスレイヤーはそう呟くと、そのまま受付の机から背を向けて歩き出した。

ゴブリンに復讐をすると誓って、武器を握り、冒険者になった。

来る日も来る日もゴブリンを殺す事だけを考え、ゴブリンを殺す方法ばかりを考え、ゴブリンを殺し続けた。

 

だが……

 

「ゴブリンを食べるというのは、考えた事が無かった」

 

ゴブリンスレイヤーの手には、この急激な情勢変化をもたらした男が書いた本『両津式ゴブリン退治法』が握られていた。

人通りが多い大通りを歩き、ゴブリン料理の店が2戸も3戸も並んでいるのを見て、チラシを片手に楽しそうに笑いながら行列に並ぶ家族を見た。

 

ゴブリンスレイヤーは次の日も、次の次の日も、他の冒険者達がそれぞれ依頼を受任した頃合いを見計らって冒険者ギルドに現れた。

 

……

 

……………

 

…………………

 

「それにしても珍しいですね、先輩。

 印税はゼロでも良いから少しでも本を安く多く出版してくれだなんて」

 

両津と付き合いが長い本田が、不思議そうにそう尋ねていた。

本田の認識では、両津勘吉は慈善事業のために身銭を切る事は決してしない男だ。

 

「馬鹿、あれは撒き餌だよ。 後でもっと儲けるためのな」

 

「ま、撒き餌……?」

 

「まずは身銭切る覚悟でゴブリンを食う習慣をつけさせないと話にならんだろ。

 わしがドカンと儲けるのはこれからだ」

 

「ド、ドカンと儲けるってどうやって……」

 

本田が恐る恐るそう尋ねる。

両津がドカンと儲けようとした時、大抵ロクな事にならない経験的に知っている。

 

「ズバリ、ゴブリンの養殖だ!」

 

「ゴ、ゴブリンの養殖ぅっ!? む、無理ですよ! いくら何でもっ!!

 てか倫理的にアウトですよぉっ!!」

 

「安心しろ、チンパンジーとオランウータンのメスでも増やせることは実証済みだ。

 今は成長が早いやつとか、病気に強い奴を使って品種改良をしている所だ。

 錦鯉や金魚の交配と基本は変わらん」

 

「いや明らかに違いますよ! 逃げたらどうするんですかぁっ!?」

 

「馬鹿野郎、昔は害獣だったが、今は美味しく食べれる食料資源だぞ。

 天然物のゴブリンの値上がりがピークに達した瞬間に、

 両津ブランドのゴブリンを高値で売りさばいてやるぜ」

 

がははははっと両津が豪快に笑う。

既に両津の目には、ゴブリンが札束のように見えていた。

 

しかし……大きく儲けるために無秩序に繁殖をさせまくったために、ゴブリンは両津の想定を遥かに越える速度で繁殖、成長し、あっという間に収容施設のキャパシティを大きく超えてしまった。

 

しかもできるだけ大きく育てるために餌を多めに投入したため、小さいものでもホブゴブリン並、ごく一部はゴブリン・チャンピオン並の体格にまで成長した事も災いした。

さらにそこに隔壁のロックのかけ忘れというヒューマンエラーが重なり、夜中に鳴るとうるさいからと、隔壁が開いた際に鳴るブザーから電池が抜かれていた事が、対応の遅れとなって被害を致命的なものにした。

 

結果、僅か一晩で数千匹のゴブリンは一匹残らず脱走し、付近の野山へと散ってしまったのである。

 

……

 

…………

 

………………

 

「両津と話がある」

 

「先輩なら、アカシアのフルコースを探しに行くと……」

 

「あの人、銀等級冒険者の、ゴブリンスレイヤーさんよね」

 

「あれは絶対に話し合う恰好じゃないよ、麗子さん」

 

 

 

 

 

(ここから先は、オチが若干マイルドになるよう加筆した部分です)

 

 

「う~む、つい反射的に派出所から脱出してしまったが……

 これからどうしたもんかな……」

 

愛用の自転車をカラカラと押して、両津が近くの商店街をとぼとぼと歩いていた。

 

瓦版屋の傍を通ると、両津が運営させていたゴブリン養殖所が破壊され、数千匹ものゴブリンが大脱走したと書かれた張り紙があり、政府の広報官(広場等で大きな声で法律の改正や重大ニュースを読み上げる人)が、しばらくはゴブリンに対する注意をするようにと呼び掛けていた。

 

「ほとぼりが冷めるまで山奥でキャンプでもした方が良さそうだな……」

 

両津がそんな卑劣な事を呟きながら、足早にその場から立ち去ろうとする。

そんな両津の目の前に、一台のミニパト(動力は馬)がキキッと急ブレーキで停車した。

 

「こら勘吉! こんな所でなにやってるんだよっ!」

 

その見覚えのあるミニパトからは、やはり見覚えのある2人の婦警が降りてきた。

 

「纏!? 早矢!?」

 

「両津さん、署で特別招集がかかっています。 後ろに乗ってください」

 

「うぐっ、い、いやわしは……ちょっと急用があってだな……」

 

「……今ニュースになってるゴブリンの養殖場、勘吉も一枚噛んでるだろ?」

 

「……ぎく」

 

「そうじゃないかと思ってたけどやっぱりか!」

 

「そうだったのですか!?」

 

「いや、待ってくれ早矢、わしはただ恵まれない子供達に食材をだな……」

 

「今はそんな事言ってる場合じゃない!

 勘吉なら逃げたゴブリンがどの辺に隠れてるか分かるだろ!? 今すぐ署に来るんだ!」

 

「いやしかし……行ったらどんな目に遭うか……」

 

両津の天敵、大原大次郎なら、必ずカミナリが落ちるかのような罵声を浴びせ、責任を取って不眠不休でゴブリンを刈り尽くせと言うに違いない。

その上始末書、減給、謹慎、無償奉仕と莫大なペナルティが課される事は確実だ。

 

それが両津に二の足を踏ませていた。

 

が……

 

「……勘吉」

 

そんな両津に対し、ミニパトに乗車していた第三の人物が声をかけた。

 

「げ、檸檬まで来てたのか?」

 

「檸檬が、どうしても勘吉に会いたいって聞かなくて……」

 

戸惑う勘吉の目の前に、小さな小さな幼稚園児がつかつかと歩み寄ってくる。

 

「勘吉、新しい事を始めれば、新しい失敗をするのものじゃ」

 

妙な迫力と、妙な威厳のある声で檸檬は両津に語りかける。

 

「大切な事は、失敗をしない事ではない。

 失敗から逃げない事、失敗から目を背けない事だと檸檬は思うぞ」

 

檸檬はその小さな体で自分の何倍も大きな両津勘吉に向き合っていた。

その目は不規則に泳ぎまくっている両津の目を真っすぐに向けられていた。

 

そんな檸檬を前にして、両津は……

 

「あ~あ、幼稚園児に諭されてるようじゃ、わしもおしまいだな」

 

大きくため息をつき、天を仰いだ。

今、両津の心の中から逃げ出そうとか、誤魔化そうという気分が消え失せた。

 

「急ごう勘吉、時間が経てば経つ程、広範囲に散らばるだろうから」

 

「纏は檸檬を家に送ってから来い、わしは一足先に署に向かう」

 

「もう逃げんなよ」

 

「逃げねえよ、檸檬に叱られるからな」

 

「少し急ぎます。 纏さん、檸檬さん、しっかり掴まっていてください」

 

早矢と纏、檸檬がミニパトに乗り込み、両津が愛用の自転車にまたがる。

今回のゴブリン騒動の被害を少しでも食い止めるべく行動を開始しようとしたその時……両津の目の前に、武骨なフルフェイスの兜、薄汚れた革鎧を身に着け、ショートソードを腰に掃く、商店街では浮きまくった格好の男が立っていた。

 

「両津か?」

 

その男……ゴブリンスレイヤーは両津に対しそう尋ねた。

 

「ああ、そうだが……誰だあんたは?」

 

ゴブリンスレイヤーは、両津勘吉の姿を……幼稚園児に諭されるクッソ情けない角刈り警官の姿を見て、気がつけば自分がこの男に何を言おうとしていたのかを綺麗に忘れてしまっていた。

 

何か大切な事を、何か重要な事を話そうとして、話さなければならないような気がしたが、今はそれが取るに足らない些細な事のような気がした。

 

今、ゴブリンスレイヤーにとって重要な事は、ゴブリンによって家族を奪われ、故郷を焼かれ、涙を流す誰かがいるという事だ。

 

故に……

 

「ゴブリン退治の依頼は無いか」

 

故にゴブリンスレイヤーは、普段ギルドの受付員に対して喋るのとまったく同じ口調で、そんな言葉を両津に告げたのであった。

 

 



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