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両津式ゴブリン退治法URL『https://syosetu.org/novel/172213/』
昔、空を飛んでタコスを売っていたおじさんがいました。
蝙蝠に似た黒い羽根を広げて、東に、西に飛び回りながらタコスを売っていました。
繋がった太い眉毛と角刈りが特徴的なおじさんでした。
ある風の強い日、そのタコス売りのおじさんはロケット噴射して、教会に置いてあった地母神様の像に直撃しました。
天窓のステンドグラスは粉々になって、地母神様の像は首無しになっていました。
私は腰を抜かして、血の気が引きました。
その日は、私が礼拝堂のお掃除当番の日でした。
私のおこずかいでは、ステンドグラスも、地母神様の像も買えないよって、涙を流していました。
そうしていたら、タコス売りのおじさんが私の涙を拭ってくれました。
「一日だけ誤魔化せ、わしが何とかする。 地母神とは友達だから、きっとなんとかなる」
タコス売りのおじさんはそう言ってどこかへ走り去っていきました。
私はすぐに割れたステンドグラスの破片を集めて、天窓をカーテンで覆いました。
そして針金を何本も束ねて、結んで、折れてしまった地母神様の首を繋ぎました。
その日はどうにか誤魔化せました。
だけど、天窓をずっと隠しっぱなしにすることはできないですし、地母神様の像も、近くで良く見たらひび割れや針金が見えてしまうので、きっともうすぐバレてしまうと、私は蒼褪めていました。
そして次の日の朝、東の空が白み始めた時間に、タコス売りのおじさんはやってきました。
その日はいつもの恰好ではなくて、どういう訳か警察官の服を着ていました。
タコス売りのおじさんは、馬車に新しい地母神様の像を載せていました。
「地母神を石膏で型取りして作ったんだ。 良くできているだろ?」
タコス売りのおじさんはそう言いました。
なんだか苦虫を噛み潰したような顔だと思いましたが、そこ以外は以前の像と全く同じ形に見えました。
そしてタコス売りのおじさんは、『スーパーセメントX』という、ぷらもでるという遊びで使う接着剤を使って、割れたステンドグラスの破片を元通りにつなぎ合わせました。
そしてタコス売りのおじさんは、パトロール中だからと、すぐに教会から去っていきました。
その日が、私があのタコス売りのおじさんを見た最後の日です。
……
…………
………………
「……という経緯です」
薄汚れた鎧を着こんだ男、ゴブリンスレイヤーと恋人繋ぎで手を繋いでいる少女がそう締めくくる。
ゴブリン殺し以外に興味を抱かない筈のゴブリンスレイヤーに彼女ができた……という訳では無い。
少し前にゴブリンスレイヤーが救助した新米冒険者の1人(女神官)が、『放ってはおけない』とゴブリンスレイヤーと行動を共にしていた。
ゴブリンスレイヤーも特に追い払うような事はせず、ゴブリンの習性だとか、装備品の選び方だとかを、本業に影響が出ない範囲で教えていた。
そんな女神官とゴブリンスレイヤーが恋人繋ぎで互いの手を握り合っている理由は……鎖帷子の修繕のやり方を教わっていた途中で、タコス売りのおじさんからもらった『スーパーセメントX』をうっかり零してしまい、女神官の右手と、ゴブリンスレイヤーの左手が接着されてしまったのだ。
「……やはり、全然離れませんね」
女神官が軽く力を籠めてみたり、腕を上下に揺すってみたりしたが、『スーパーセメントX』により固められた左手はピクリとも動かない。
無理矢理引っぺがそうとしたら、腕の皮ごと剥がれてしまいそうだ。
「繋がった眉毛、角刈り、警察官の服装……」
ゴブリンスレイヤーが女神官の無駄なあがきをよそに、彼女が語った『タコス売りのおじさん』の正体に目星をつける。
いや、目星をつけるという表現は語弊があるかもしれない。
正直な所、嫌でもある人物の顔が思い浮かんでしまう。
「公園前派出所だ」
ゴブリンスレイヤーは独り言のように呟き、すっくと立ちあがる。
女神官もあわてて立ち上がる。
依頼に殺到する冒険者達がはけるまでの時間潰しと思っていたが、こんな状態ではとてもゴブリンを殺す依頼を遂行できない。
それならば、これ以上冒険者ギルドに留まっている必要性は全く無い。
ゴブリンスレイヤーと女神官は、恋人繋ぎをしながら受付前を横切って、さっさと外へと退出した。
馴染みの受付嬢と目が合い、何か言いたげな表情になっていたが、そんな事は彼にとって些細な事である。
表通りを歩くと、沢山の人達とすれ違う。
ゴブリン退治ばかり請け負う変人とはいえ銀等級冒険者、ゴブリンスレイヤーはこの地域ではそれなりの知名度がある。
道行く人々と何度も何度も目が合った。
全員が全員、ゴブリンスレイヤーが女性と恋人繋ぎで歩いているのを目にした瞬間、ぎょっとした表情になっていた。
「な、なんだか……凄く恥ずかしい事をしているような……」
女神官の頬が赤くなっていく。
別に悪い事をしているとは思っていないが、自分達を見る人々の何割かは、自分とゴブリンスレイヤーがデートをしていると勘違いしていると察してしまい、気恥ずかしさで増々顔が赤くなっていくのが分かった。
普通に手を繋いでいるだけでも勘違いされそうだというのに、今の女神官とゴブリンスレイヤーは、よりにもよって恋人繋ぎをしているのだから。
現実にはうっかり手に零した強力な接着剤でくっついているだけなのだが。
そして女神官とゴブリンスレイヤーが大通りを歩き続けていると……
「さぁさぁ! 楽しい紙芝居の始まりだ! 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!
杏飴にリンゴ飴、ソースせんべいや水あめもあるよ!」
「あっ! ゴブリンスレイヤーさん、紙芝居屋さんがいますよ。
ちょっと見ていきませんか」
恥ずかしさの余り、思わず女神官は現実から目を背けるかのようにそう提案する。
しかしゴブリンスレイヤーは紙芝居屋に見向きもせずに歩き続ける。
「今日の演目は大人気『ゴブリンスレイヤーGT』だよ!
全身40ヶ所稼働のアクションドールも発売中だ! 6体揃えないとファンじゃない!
他にも各種揃えているから、皆買っていってくれよっ!」
「……え? ゴブリンスレイヤーさんお紙芝居? それにアクションドール?」
女神官の視線の先では、赤、青、緑、紫、黄色、そしてピンクに塗装されたゴブリンスレイヤーの人形がワゴンの上に並べられていた。
……
…………
………………
「……と、いう訳で、在庫を大量に抱えて大ピンチなんだよ」
ある日の公園前派出所にて、角刈りの警察官が近所のおもちゃ会社の社長の話を聞いていた。
「このままじゃあ手形に不渡りを出してしまいそうなんだ。
営業の社員も頑張っているのだけど、どうにもねぇ……」
「ふんふん、なるほどなるほど」
もっとも、両津は傾聴している訳ではない。
両手でスーパーカーのプラモを組み立て、左耳は競馬中継を聞き、右耳で社長の話を聞いていた。
中和剤が無ければ絶対に剥がす事ができない超強力接着剤『スーパーセメントX』を使い、慎重に慎重にパーツとパーツを繋げていく。
当然、深刻そうな顔で会社の窮状を訴える言葉は右から左に抜けていき、両津の頭には1ミリも残らない。
「こら両津、もっとちゃんと話を聞いてやらんか」
見かねた大原大次郎部長が、怒気をはらんだ声で両津に呼びかけた。
「ひゃ!? 部長ぉっ!? 一体いつからそこに!?」
「話の邪魔をしてはいかんとこっそりと入ってきたんだ。
しかしお前、プラモや競馬にばかり集中して全く話を聞いておらんじゃないか」
「い、いやだなぁ一声かけてくれれば良いのに」
「おかげで普段のお前の勤務態度が良く分かったよ。
派出所に業務と関係無い私物を持ち込むだけでも許せんのに、
勤務時間中にプラモ作りに競馬とは、貴様は警察の職務をナメておるのか?」
「さ、さぁって、冗談はこの位にしてそろそろ仕事に戻ろうかなぁ」
両津が下手糞な口笛を吹きながら作りかけのプラモと、超強力接着剤『スーパーセメントX』とその中和剤を机の引き出しに放り込む。
引き出しを閉めようとして……ガタッ! と何か硬い物がぶつかる音がして、引き出しは中途半端な所で止まってしまった。
「何だ? 引っかかってるのか?」
「普段から整理整頓をしないからだ。 一旦中の物を外に出して……」
「むんっ!!」
大原部長の台詞を綺麗に聞き流し、両津は力づくで引き出しを閉める。
中でガチャンと何かが割れる音、ボキンと何かが折れる音がしたのだが、そんな細かい事をいちいち気にする両津ではない。
「ほうら、ちゃんと閉まったじゃないですか」
「備品が壊れたらお前の給料で弁償してもらうからな」
「そんなぁ、これ以上給料を減らされたら生活ができませんよ」
「普通に使えと言っているのだ、この大馬鹿者」
「あいたたた、耳を引っ張らないでください! 聞こえてますから!」
大原部長が両津の耳を引っ張り上げ、両津は思わず悲鳴を上げる。
この派出所では日常的な風景の一つである。
「ええっと……お忙しいようですので、私はこの辺りで……」
「いえいえ、こいつはどうせ暇ですので、どうぞ最後までお話しください」
おもちゃ会社の社長が、バツが悪そうに派出所から退散しようとするのを、大原部長が呼び止めた。
「お話って言われても、何とか経営を良くしないと倒産しそうだって位で……」
「工場潰してパチンコ屋でも作ったらどうだ?」
「こら両津! お前は何て事を言うんだ!」
「それが一番手っ取り早いでしょうに、きょうび人形のおもちゃなんて売れやしませんよ」
「はぁ……やっぱりそうなのかぁ……」
「おい両津、お前この人の会社に行って、何か商品のアイディアでも出してこい」
「ええっ!? 何で私がそんな事を?」
「そういうのは得意だろう。
どうせ派出所にいたってわしの目を盗んでプラモ作りをしているのだ、
お前などいてもいなくてもそう変わらん」
「そんな言い方は無いでしょう部長!」
「こいつは馬車馬のように扱って結構ですので、どうぞ役立ててください」
「本当ですか!? それは助かります」
「部長ぉ! 勝手に決めないでくださいよ部長ぉ!」
……
…………
………………
その後、結局両津は社長と共に人形の製造工場へと赴いていた。
「くそっ、結局押し切られてしまった。 なんだってわしがこんな目に」
「それで両さん、ウチの商品はどうかな? 売れるかなあ?」
「鎧の造形は悪くないな」
「昔は五月人形を作っていたからね」
「だが稼働はしないし、漠然と鎧姿の男を売ろうとしても駄目だ。
この人形のウリはなんだ?」
「ウリ……ウリって言われても……」
「だから駄目なんだ。 他の商品との差別化をして、そこを大々的にアピールしない限り、
何度新商品を出してもコケるに決まっている」
「それじゃあこの大量の在庫はどうすれば……」
「こんな武骨で無個性な鎧着た人形が大量にか……どうしたものか……」
両津が在庫の人形を上から眺め、下から眺め、横から眺め……
「(この鎧……誰かに似てるような……)」
そんな事を考え……次の瞬間、両津は近くの泥水に鎧を着た人形を放り込んだ。
「ああ!? 急に何をするんだい両さん!?」
「思った通りだ! 全体的に薄汚くすればあいつに似てなくもない!」
「あいつ?」
「ゴブリンスレイヤーだ、銀等級冒険者の。
細部は多少異なるが、兜だけ新造すれば十分誤魔化せる」
「勝手に人形なんて作ったら怒られるよ」
「心配いらん、あいつはゴブリン退治だけしていれば幸せな男だ。
自分の人形がどこでどれだけ売られていようが無頓着だ」
「そうかなぁ……」
「とはいえ、全くの無可動ではな……
そうだ、だいぶ前に作ったわしのアクションドールを流用しよう」
「両さんのアクションドール?」
「全身40箇所稼働、胡坐も正座もできる凄い奴だ。
いろんなコスチュームを着せて売り出すつもりで大量に発注したんだが、
イマイチ売れなくてだな」
「それをどうするんだい?」
「この人形のサイズとほぼ変わらん、少し改造すれば鎧を着せる事も多分可能だ。
後は首から上を取り換えてしまえば、
全身40箇所稼働のゴブリンスレイヤーアクションドールの出来上がりだ」
「成程、それは売れそうだ」
「後は宣伝だな。 わしの親戚に摺師がいるから、協力させて紙芝居を作らせる。
あいつの言動は奇天烈だから、普段の行動をそのまま紙芝居にするだけでもウケる筈だ。
この辺で活動してる吟遊詩人に配ってゴブリンスレイヤーの紙芝居を演らせる。
紙芝居を見に来た客にアクションドールを売りまくるんだ」
「おお、なんだかいけそうな気がしてきたよ」
……
…………
………………
一ヶ月後。
「いやぁ売れた売れた。 おかげで在庫が全部無くなって、業績も上がったよ」
「売れたのは良いが……
人形とはいえ、わしの生首が大量に廃棄されている光景はぞっとするな」
「た、確かに不気味かも……」
「まあ良いか、とにかくわしの役目はこれで終わりだ。
わしは派出所に戻るから、今後は自力でちゃんとした経営をするんだぞ」
「ああ、ちょっと待ってくれよ。 ちゃんと謝礼を受け取ってもらわなきゃ」
「何? 謝礼だと?」
「当り前じゃないか、経営を立て直してくれたんだから」
そう言いながら、おもちゃ会社の社長が革袋を両津に渡す。
両津がその袋のずしりとした重みを感じ、中身をそっと確認し……目を大きく見開いた。
潰れそうな会社を立て直した報酬なだけあって、その中身は真面目に警察官をやっているのがバカバカしくなる程の金額だ。
「さて、それじゃあ次の商品の発売の準備をしないとな。
今度のもちゃんと売れてくれれば良いのだけれど……」
「……増産だ」
金貨満載に革袋を手にした両津が異様な迫力を醸し出しながらそう呟いた。
「象さん?」
「今すぐ工場をフル回転させてアクションドールを増産するんだ!
ゴブリンスレイヤーの人気が陰る前に売って売って売りまくれ!」
「ええ!? そんな事をしたらまた作りすぎで在庫を抱えてしまうよ!」
「大丈夫だ! 各地で販売員をさせている吟遊詩人や紙芝居屋の話を聞く限り、
ゴブリンスレイヤーの人気はかなり根強い! アクションドールはまだまだ売れる!」
「そ、そうかなぁ……」
「それよりさっき言ってた新商品ってのは何だ!?」
「ああ、やっぱり男の子には動くおもちゃの方が売れるかと思って、
こういうロボットのおもちゃを作ってみたんだ」
社長が近くにある試作品と書かれた箱から6機の小さな機械を取り出す。
その機械を操作すると、ある物は右腕の形になり、ある物は左腕になり、右足、左足、腰、胴体、頭に変形し……1体の大きな人型ロボットへとなった。
「合体ロボット、合体ロボットか……良し、これも全力で生産しろ。
こいつもゴブリンスレイヤーグッズとして売ってしまおう」
「ええっ!? ゴブリンスレイヤーがロボットを!?」
「ゴブリンスレイヤーは実は六つ子だったという事にしてしまおう。
おそ松くんみたいに同じ見た目の6兄弟で、
ゴブリンスレイヤーがピンチになると駆けつける。
全く同じでは購買欲が湧かんだろうから、赤、青、緑、紫、黄色、ピンクに色分けする。
ファンなら6体分のアクションドールを集めたくなるはずだ」
「ろ、ロボットは?」
「6兄弟が終結した時、空の彼方から合体メカが現れる設定にする」
「だ、大丈夫かな……」
「良し、早速新しいシナリオの紙芝居を作らせて、紙芝居屋と吟遊詩人を集めて……」
「失礼いたします、両津先生はこちらでしょうか?」
両津がそんな悪だくみをしていると、黒服の男が恭しく頭を下げ、おもちゃ工場へと入ってきた。
「誰だお前は?」
「私、この近くで食品会社をしている者でして、
ここの会社を見事に蘇らせた両津先生の手腕で、
是非とも当社のお茶漬けを流行させて頂ければと」
「わしは今忙しいんだ、他を当たれ」
「こちらは手土産です」
「うん?」
黒服の男からずしりと重いお菓子の箱が渡される。
両津がそぉ~っと蓋を少しずらし、中を改めると……中身はごく一般的なお菓子ではなく、金ピカに光り輝いていた。
「うむ、君は色々と弁えているようだね」
両津がにやにやと笑いながら菓子の箱を懐に納める。
「ありがとうございます」
「お茶漬けだったね、まあわたしに万事任せなさい」
「よろしくお願いいたします」
黒服の男が両津に深々と頭を下げる。
「シナリオ一部変更だ。
ゴブリンスレイヤーはお茶漬けを食べてパワーアップする事にしよう」
「そ、そんな事して大丈夫なのかい?」
「なあに、吟遊詩人の唄は多少の脚色はつきものだ」
「多少かなぁ……」
おもちゃ会社の社長が一抹の不安を覚える。
しかしその直後、そんな社長の不安をさらにさらに増大させる出来事が起こる。
「両津先生! 是非ともわが社のマスコットキャラクターを!」
「よしよし、任せなさい! シナリオ変更だ!」
「両津先生! 我が社の自転車を何卒!」
「自転車だな! さらにシナリオを変更する!」
「我が社のモデルガンを!」
「我が社のローラースケートを!」
「ゴブリンスレイヤーターボカスタムだ!」
「さ、流石に拙いよ、もう原型を留めてない!」
「心配いらん! タイトルの後ろGTをつければ大丈夫だ!」
……
…………
………………
「これにて一件落着! ゴブリンスレイヤー6兄弟は見事悪を粉砕し!
再び流浪の旅に出る!」
……酷いものを見たと、女神官は思った。
ゴブリンスレイヤーはお茶漬けを食べてパワーアップし、実は六つ子で、ピンチになると5人の兄弟がチャリに乗って駆けつけ、唐突に湧いて出たマスコットキャラクターが『銀転生』と叫ぶと、6機のマシンへと変化し、最終的には合体して巨大ロボットになって悪を成敗した。
さらに6人のゴブリンスレイヤー達の兜には『鬼』『殺』の仰々しい漢字が刻まれている。
もはやゴブリンを殺している所くらいしか一致する所が見当たらない。
「ゴブリンスレイヤー6兄弟のアクションドールに、6神合体ゴットゴブスレ、
チャリンコゴブスレ号に、ゴブスレ印のお茶漬けもあるよ!
今日だけの特別価格! さぁ買った買ったぁ!!」
そして紙芝居屋がゴブリンスレイヤーグッズと称して、当の本人とは全く関連性の無いアイテムを次々と売りさばいていく。
ワゴンの上の商品がどんどん少なくなり、紙芝居屋の財布がどんどん金貨や銀貨で膨らんでいくのを目にして、女神官は世も末だなぁと思った。
「……両津か」
ゴブリンスレイヤーはそんな光景を見ながら1人ため息をつく。
兜に『鬼』『殺』の文字が刻まれ、全身が赤黒く塗装され、左腰にガトリングガン、右腕にヘヴィマシンガン、左腕にソリッドシューター、右腰に2連装ミサイル、右肩にショルダーミサイルポッド、左肩に3連装スモークディスチャージャー、踵にロケットブースターにとグライディングホイール、原形を留めていない上に火をつけたら良く燃えそうな恰好にされていた。
その余りの魔改造っぷりは、モデルになった人物が女性と恋人繋ぎをしながら、正面から堂々とアクションドールと自転車を買っても誰も気がつかない程である。
「乗れ」
ゴブリンスレイヤーが女神官に自転車の荷台に乗るよう促す。
「あの、片手塞がってるのですよ、乗れるのですか?」
「練習した」
「練習してたんだ……」
全身に鎧を着こんだ男が自転車の練習をする姿を想像しそうになる。
女神官が荷台に座ったのを確認すると、ゴブリンスレイヤーは右手だけで器用にハンドルを操作し、バランスを取りながらペダルをこぎ始めた。
……
…………
………………
「くっくっくっくっくっ、大成功だな。 寝ていても紙芝居屋や吟遊詩人、
おもちゃ会社や食品会社、自転車会社から毎月多額の金が入ってくる。
ゴブリンスレイヤー様々だ、もっともっと儲かるぞ」
一方、公園前派出所では両津がニコニコに笑いながら上納金の金貨を数えている。
「両ちゃん、また何か怪しいアルバイトをしてるの? 部長さんに怒られるわよ」
「心配いらん、今回のは部長公認だよ」
「ええ!? 本当なの?」
「本当、本当……と、いかんそろそろ部長が来る時間だな。
こんな大量の金貨を広げていては流石に怪しまれるか」
両津が袋詰めの金貨を机の引き出しに入れようとする。
しかし、金貨の量が量なので、中々机の引き出しに収まらない。
「ぬ……くそ、引き出しの分際でわしに逆らいおって……
こうして、こうして……でぇいっ!!」
結局、両津はゴリラ以上のパワーで無理矢理金貨袋を押し込み、ヤクザ顔負けのキックで無理矢理引き出しを奥に押し込んだ。
机の中からミシィッとか、ガチャンとか、ビリィッだとか不吉な音が響いたが、当然両津は気にしない。
「両ちゃん、いい加減に机の中やロッカーを整理しなさいよ
どこに何が入っているのか全然分からないわ」
「わしは全部把握してるから大丈夫だ」
「本当にしょうがないわね」
両津と麗子がそんな事を喋っていると、派出所の前でキキッというブレーキ音がして、一輪の自転車が停車した。
「両津はいるか?」
その声が聞こえた瞬間、両津の心臓がドキッと跳ねる。
「あら、ゴブリンスレイヤーさんじゃない、久しぶりね。 両ちゃんならいるわよ」
「さぁって、そろそろパトロールに行こうかなぁ~」
両津が下手糞な口笛を吹きながら、冷や汗をかきながら派出所から退出しようとする。
なんやかんやでゴブリンスレイヤーをこれでもかって位に改竄し、商売している事へ後ろめたさを感じているのだ。
「待ってください! タコスのおじさん!」
そこに女神官が立ちはだかる。
「タコスのおじさん? わしは両津だよ!」
「2年前にタコスを売ってましたよね! 羽を背中につけて、空を飛んで!」
「そんな事やってたかな……?」
「両ちゃん、昔『モナムーチョ』でアルバイトしてたじゃない、きっとそれよ」
「言われてみれば……そうか!
ロケットのタイミングをミスって教会に突っ込んだ時の娘か!?」
「た、タイミングをミスって……?」
できれば聞きたくなかった真実を突き付けられ、女神官はがっくりと肩を落としそうになる。
思い出は多かれ少なかれ美化される……女神官は今日、少しだけ大人になった。
「ロケットに点火した時の角度が悪くて、2軒隣の境界に飛び込んじまったんだよ。
神様の像もその時にぶっ壊しちまって」
「まあ呆れた、派出所のお仕事サボってそんな事してたなんて」
「あの時頂いた接着剤で、この通りゴブリンスレイヤーさんとくっついてしまいまして。
どうにかなりませんか?」
女神官が自らの右手を両津に見せる。
当然、彼女の右手と接着されているゴブリンスレイヤーの左手も両津の前に差し出される。
「むむむ、強烈に接着されているな。 あの時何を渡したかな……?」
「スーパーセメントXだ」
「そりゃ剥がれん筈だよ。 しかしまあ、中和剤を塗れば剥がせるから安心しろよ」
「頼む」
両津が内心ビクビクしながら自分の机に向かい、引き出しに手をかける。
「(ふぅ、驚かせやがって。
てっきりゴブリンスレイヤーの名前で商売したのがバレたかと思ったぞ……)」
そしていつものように自分の机の引き出しを引っ張り……
「……ん、あれ? おかしいな? さっきまで普通に開けられたのに」
……開かない。
「中に何か引っかかっているのよ。 ちゃんと整理しないからよ」
「うるさい! 今開ける……んぎぎぎぎぎぃ……」
机の中で物が引っかかった事は今回が初めてではないし、開かなくなった引き出しを剛腕で無理矢理開いた事は1度や2度ではない。
しかし、今回はいつもと違う。
机の引き出しがピクリとも動かないのだ。
「畜生! 全然開かん! 中には謝礼金も入ってるってのに!」
「スーパーセメントXではないのか?」
「そ、そう言えば中にスーパーセメントXを入れていたな……」
「どうするのよ! 中に中和剤が入っているのでしょう? 開けられないじゃないの!」
「心配いらん! 無理やりにでもこじ開ける! うおおおぉっ!!」
やむなく両津は派出所の事務机を持ち上げ、ジャイアントスイングの要領で振り回す。
「きゃあっ!?」
「両ちゃん無茶し過ぎよ!」
「下がっていろ」
「どりゃああぁぁっ!!」
赤いサイクロンの如く回転する両津は事務机を離し、凄まじいスピードで机がカッ飛び、派出所の前のガードレールに激突した。
ガードレールはひしゃげて曲がり、事務机はその衝撃でバラバラになってしまった。
「どうだ見たか、ちゃ~んと開いたぞ」
「こんなの開けた内に入らないわよ! もうっ!」
通行人がいたら大惨事になっていただろうが、両津は全く気にせずのっしのっしと机の残骸に向かっていく。
「うげ、金貨が完全に固まってかき揚げみてぇになってやがる。
まあ良い、こっちも中和剤で戻せる。 中和剤はどこに落ちた……」
バラバラになって飛び散った机の残骸を掻き分けながら、両津が中和剤の瓶を探す。
しかし、両津の怪力でブン投げたため、破片はかなり広範囲に散っていた。
そして数分後……両津が固まった。
「どうした?」
「中和剤、ありましたか?」
女神官とゴブリンスレイヤーが後ろから覗き込む。
そして同時に硬直する。
「ちゅ、中和剤の瓶が……バラバラに……」
「全部地面に染み込んで1滴も残ってない……わ、わしの金貨が……」
両津と女神官が愕然とした様子で膝をつく。
「手に入らないのか?」
「輸入物だからな、どんなに急いでも1週間はかかる」
「1週間か……」
ゴブリン退治を1週間休む訳にはいかないと、ゴブリンスレイヤーが頭の中で、左手に女神官をくっつけたままゴブリンを殺す方法を模索し始めた。
そんな時……
「やぁ両津君、朝からずいぶんと精が出るなぁ?」
「げぇ! 部長ぉっ!!」
両津勘吉の天敵、今一番見たくない顔、大原大次郎部長が背後から両津の肩を叩いた。
「色々と言いたい事はあるが、
まずはこのバラバラになった机について説明してもらおうか」
「いや、これはですね、今日は天気が良いのでプロレスの練習を……」
「派出所の備品にプロレス技をかける馬鹿がどこにいるっ!!」
「は、はい……おっしゃる通りで……」
「机代は貴様の給料から天引きしてやるからな」
「そんなぁ、これ以上給料減らされたら生活できませんよ~」
「だから普通に使えと言ったのだ! この大馬鹿者ぉっ!!」
「(くそっ、まあ良い、ゴブリンスレイヤーグッズのマージンさえあれば、
机の1つや2つ弁償する事になっても問題無い)」
スーパーセメントXで固まった金貨を拾い上げ、両津がそんな事を考えていると……
「……それはそうと両津、冒険者ギルドから虚像を流布するなと抗議が入っているのだが、
何か心当たりはあるか?」
「……へ!?」
両津が固まる。
それこそ特殊メイク用のヘアスプレーをうっかり顔にかけてしまった時のように、表情が硬直していた。
「い、いやぁ、ボクには何の事だかさっぱり……」
「ああ! 忘れる所でした!
紙芝居屋さんがゴブリンスレイヤーさんの話を変に盛ってたり、
人形が明らかに別物になってたの、タコスのおじさんの仕業ですか!?」
「わっ! 馬鹿! しぃ~、しぃ~」
「ほぅ、やはり貴様の仕業か両津」
両津の余りの慌てぶりに、部長は全てを察した。
「元はと言えば部長がやれって言ったんでしょう!」
「馬鹿者! わしは困っている人の話はちゃんと聞けと言ったのだ!
誰が銀等級冒険者の虚像を流布して商売をしろと言った!!」
「いや、待ってください! 違うんですよ部長!
ゴブリンスレイヤーはおおらかな奴だからこの位じゃ怒りませんから!」
「あそこまでやられると困る」
ゴブリンスレイヤーは一言で両津の言い訳をバッサリと切り捨てた。
「大規模な群れができた時、厄介な場所に巣を作った時、名指しの依頼が来る事もある。
初動が遅れるのは困る」
「他の吟遊詩人だって話を盛ってるだろ!」
「警察官が冒険者ギルドの業務を邪魔するなど言語道断だ!
お前は公務員の自覚があるのか!」
「そうですよ! いくら何でも酷すぎですよ!
あんなのゴブリンスレイヤーさんじゃないですよっ!!」
「ちょっと両ちゃん!
さっき部長さんの許可取ってるって言ってたわよね! 嘘ついてたの!」
派出所の前で3人が両津を糾弾していると、ピュンっと風切る音と共に、両津の耳が数ミリ削がれ、ぽたりと鮮血が大地を湿らせた。
「案内してくれてありがとう、大原部長。 そいつが犯人って事で良いのね?」
両津が恐る恐る後ろへ振り向くと、目が座った様子で弓を構える上森人(ハイエルフ)の少女がいた。
それにやれやれとため息をつく鉱人(ドワーフ)の男性と、蜥蜴人(リザードマン)の男性もいた。
驚くべき事に、その3人は皆、銀等級冒険者である事を示す等級証を身に着けている。
「ええ、間違い無くこいつが犯人です。 煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
「ちょっと部長!?」
両津が慌てて抗議しようとするも、妖精弓手はいかにも怒り心頭ですといった様子でつかつかと目の前まで歩み寄ってくる。
「さ、流石にヤバイ予感……急用を思い出した!」
両津が反射的にその場から逃れようと走り出す……が、一瞬早く女神官の奇跡によって半透明の壁のようなものが生成され、両津の逃げ道を見事に塞いだ。
「(……地母神様の像が苦虫を噛み潰したみたいな顔になっていた理由、分かった気がする)」
女神官は思う……今鏡を見たら、きっとあの時の地母神の像と同じ顔をしているだろうと。
以前ゴブリンを焼き殺すために聖なる壁の奇跡を使う羽目になった時は、精神的な抵抗感からか、呪文がぎこちなくなってしまったと思ったが、今は自分自身でも驚く程、自然に、なめらかに呪文の詠唱を終えていた。
「地母神てめぇ! わしにこんな事して後でどうなるか分かってるんだろうな!
ま、待て! 暴力はいけない話せば分かる!」
「問答無用!」
妖精弓手のグーパンチが両津の顎を打ち抜いた
「あんたが! 余計な事したせいで! オルクボルグ探しで!
私らが! どれだけ! 回り道したと! 思ってんのよぉっ!!」
殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、ひたすら殴る。
ここまでの苦労を纏めて叩きつけるかのようなパンチの連打である。
妖精弓主と一緒に偽情報に踊らされ、散々苦労した鉱人道士も、蜥蜴僧侶も止めなかった。
「ぎええぇぇ~~!
ご、ゴブリンスレイヤーはもう懲り懲りだあああぁぁぁ~~~っ!!」
そんな両津の叫びが昼の亀有に木霊した。
なお、両津がおもちゃ会社や食品会社等から貰った金貨だが、後日部長の手によって全て寄付金にされてしまう事は言うまでもないだろう。