放課後、とある雑貨屋にて。
「──あら、花陽じゃない。買い物かしら?」
絵里は見慣れた後ろ姿に声をかけた。
「ピャアッ⁉︎」
飛び上がるほどに驚かれた。
「え、えええええ絵里ちゃん⁉︎」
「そ、そうだけど……ごめんなさい、そんなに驚くとは思わなくて……。花陽一人なんて珍しいわね」
「ど、どうして絵里ちゃんがここに……?」
「髪留めを買おうと思って。今使ってるの、ちょっとくたびれてきちゃったから」
「あ、そ、そうだったんだ……」
少しよそよそしい花陽に疑問を感じたが、気のせいと結論付ける。
「花陽は何か欲しいものがあったの?」
「えっと……欲しいものというか、その……」
「?」
やけに歯切れの悪い花陽。
「ああ、もしかして、ウインドウショッピングかしら? もしくは、これから買うものを決めるつもりだったとか」
「! そ、そうなの! まだ決まってなくて……」
絵里の後半の言葉に、花陽はコクコクと頷く。
「そうだったのね。じゃあ、私も一緒に探してあげるわ。一人より二人よ」
「え……」
花陽の目的を的中させた事で少し得意げになった絵里は、そう提案し、
「それで、花陽の探し物ってどんなものかし──」
「だ、ダメ! 絵里ちゃんはダメなの!」
全力で拒否された。
「えっと……花陽? もしかして、人には言いづらいものなのかしら? だ、大丈夫よ、私、ちゃんと秘密は守るから」
「そ、そうじゃなくてぇ……。と、とにかくごめんね絵里ちゃん! また明日!」
「あっ、花陽……」
バタバタと、その場を逃げるように走り去る花陽。
「…………」
中途半端に右手を伸ばした状態で固まる絵里。その表情は、ちょっと泣きそうだった。
翌日。
「希ぃ〜! にこぉ〜!」
教室で泣きつく元生徒会長の姿があった。半年前では考えられない光景だったが、今ではクラスメイトも見慣れたものである。
「あらら、どしたん絵里ち」
「鬱陶しいから離れなさいよ」
二人の対応も固定化しつつある。
「花陽が、花陽が……」
「花陽ちゃんがどうしたん?」
「どーせ大した事じゃないんでしょ」
本当に深刻な事態なら、絵里が取り乱す程度でない事も二人は知っている。
「花陽が、私を避けてる気がするの!」
「んん? 花陽ちゃんが?」
「よりによってあの花陽が?」
希とにこは一瞬顔を見合わせると、
「「ないない」」
即座に否定した。
「だ、だって昨日雑貨屋で見かけて声かけたら、私とは買い物できないって逃げられたのよ⁉︎」
「雑貨屋で……」
「買い物?」
「せっかく何か探してるみたいだったから、一緒に見つけてあげようと思ったのに……」
昨日の出来事を思い出したのか、また涙ぐみ始める絵里。
希は少し考えて、
「なあ絵里ち、花陽ちゃんは何を探してるとか言ってたん?」
「訊こうと思ったけど、私だけはダメって言われた……」
ショックの方向がずれ始めいじけ出す絵里。めんどくさ……、とにこは思っていたが、口には出さない。表情には出ていたが、絵里にはそこに気付く余裕はない。
「……ふーん、絵里ちだけは一緒できない買い物か」
「ま、そりゃそうよね。絵里が一緒だったら何の意味もないものね」
呆れた顔をするにこに、
「にこは何か知ってるの⁉︎」
「近い近い! 離れなさいよ!」
絵里は懇願の表情で詰め寄る。それを避けるように反り返ったにこ。
「まあまあ絵里ち、そんな心配せんでも大丈夫やって」
「希……?」
「花陽ちゃんも、心苦しいって思ってるはずやで? もう少しの辛抱や」
「そ、そうなの……?」
なおも不安そうな絵里に、理由はすぐに分かるで、と希は微笑んだ。
十月二十一日。
『絵里ちゃん、お誕生日おめでとう!』
部室で盛大にクラッカーが鳴り響いた。
「みんな、ありがとう」
日曜日である事を生かし、今日はお昼から盛大にパーティー。
お誕生日席で様々おもてなしされる絵里は、
「──あの、絵里ちゃん」
おずおずと名前を呼ばれて振り向く。
「あ、花陽……」
結局、あれから練習で顔は合わせていたもののそれ以外の会話はほぼ無かった。希の言葉の意味も、未だに分からぬままである。
「どうかしたのかしら?」
自分から壁を作らぬようにと、絵里はなるべく優しい声を心がけた。
「──こ、これ!」
そう言って花陽が差し出してきたのは、可愛いラッピングが施された小さな箱。
「これは……?」
「そ、その、私から絵里ちゃんに、お誕生日プレゼントを……」
「プレゼント……? ──あっ、まさかそれで……」
「う、うん」
花陽は申し訳なさそうに、言葉を続ける。
「ご、ごめんね。最近、妙に絵里ちゃん避けちゃうみたいな感じで……。中身はサプライズにしたかったから……」
「そ、そうだったのね……。私こそ、余計な気を回しちゃったのね。ごめんね、花陽」
「そ、そんな! 絵里ちゃんが謝る事ないよ!」
アワアワ手を振る花陽に、絵里はクスッと微笑む。
「これ、開けてもいいかしら?」
「あ、うん、どうぞ」
じゃあ、と絵里が箱を開けると、
「あ、これは……」
入っていたのは、水色をしたシュシュだった。
「絵里ちゃん、この前髪留め探してるって言ってたし、でもその時買っちゃったかもしれないから、じゃあこっちならいいかなって思ってそれで……」
絵里はしばらく手元のシュシュを眺めて、
「あ、あの、喜んでくれたらいいんだけど……」
「──ありがとう、花陽」
優しく抱きしめた。
「ピャ⁉︎ え、絵里ちゃん⁉︎」
「凄く嬉しいわ。それと、ごめんなさい。あの時、もしかして花陽に嫌われちゃったんじゃないかって思って」
「そ、そんな事ないよ! 花陽、絵里ちゃん大好きだもん!」
「花陽……!」
「く、苦しいよう絵里ちゃぁん……」
熱く抱擁を交わす二人を見ながら、
「良かったやんなぁ、絵里ち」
希はニコニコ笑い、
「成績いいくせに、変なとこおバカよねぇ絵里って」
にこは呆れた視線でお菓子をつまんでいた。