俺は頂上戦争でエースを助けたいんだ。   作:Eit

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『俺は頂上戦争でエースを助けたいんだ。』

高校時代、夢を馳せた少年漫画が男なら一冊二冊必ずあることだろう。スラムダンクにナルト、ドラゴンボールにジョジョの奇妙な冒険。日本の誰しもが知る漫画に憧れた時がきっと誰だってあったはずだ。

 

俺は、ワンピースの世代だった。連載当初はまだハイハイをしていたような餓鬼だったけれど、アニメを見始めてから、中学時代には漫画を全部集めるほど大好きだった。クラスでは女子も男子も皆何故かワンピースだけは読んでいて、当たり前のように話を共有できた。

 

その中でも俺の高校時代と言えば頂上戦争の頃だから、エースは断トツ人気だった。死んだときはクラスの女子が数人休むくらいに皆ショックを受けた。

 

「コンビニで立ち読みしてたら俺泣いた」

「赤犬殺そうかと思ったよマジで」

「それな。エース生き返るかな」

「ワンチャン生きてる説あるらしいよ」

「マジで!?」

 

過去篇で心を落ち着かせながらも、アラバスタの頃から推してた俺としてはエースが死んだってのはいまだに信じられない事実で、これが終わったらもうエースが出てこないと思うとまたがっかりするのだった。ドレスローザ編でメラメラの実をサボが食っちゃったところで、皆エースが生き返るってのは諦めちゃったと思う。俺も事実諦めちゃったし。

 

そんな頃である。俺が事故にあったのは。確か今はビック・マムを暗殺しようとして、何とか逃げて、世界会議が始まったところ。90巻でルフィの懸賞金が15億になったところだったと思う。帰り道ワンピースの新刊読みながら、久々にビビを見たなぁなんてのんきに考えてたら轢かれた。たぶん、トラックに。

 

普通に車じゃなくて俺が悪かったと思う。周りに人が集まってきて、いろいろ騒いでて、死ぬときってなんとなく分かるもんなんだなって知った。身体が熱くて、苦しくて、あぁ、この先のワンピース知れないんだなってなんとなく分かった。

 

 

そうして次に目を覚ました時、俺は赤ん坊だった。あったかい母親の腕に抱かれていていた。数日後に知った自分の名前は「アマネ」。誰にでも分け隔てなく優しい人間になれと言う意味らしい。

 

「アマネ、貴方は私たちの希望。父親のように自由に強く生きるのよ」

 

金髪の美人はそう言って俺の額にキスをした。そこから数日後俺は知るのである。この世界がワンピースであると。理由は簡単だ。簡単すぎた。俺を抱いた、俺の父親が、ゴールド・ロジャーだったから。あの漫画に出てきた、顔のまんまだったから。

 

俺が元気にすくすくと育っていく中、父親であるゴールド・ロジャーは弱っていった。正直、序盤に出てきた設定なんて覚えていない俺は、彼が20数年前に処刑されて大海賊時代が始まったってことぐらいしか知らないから、病気を患っていたことを知らなかった。自分の寿命を知っていたロジャーは海賊団を解散したらしいが、今は俺の母と一緒で幸せそうなのでよいのかもしれない。

 

そこから1年。ロジャーは漫画通り処刑されてしまったようだった。まだ、ママぐらいしかしゃべれない俺は腹にエースを宿した母がロジャーと同じく弱っているのを見ているしかなかった。

 

前世だって高校生で死んだ俺は、両親の死なんて体験したことはない。前世の両親も正真正銘俺の両親だが、ワンピースの世界の父と母はこの二人しかいない。産んでくれた人はこの人だけである。そう思うと涙が止まらなかった。エースのことは大好きだったので少しは知っている。確かエースを生んでこの人は死んでしまうのだ。

 

そこから1年3か月。エースが生まれた。

 

「アマネ、貴方はお兄ちゃんなのだからエースを守ってあげるのよ。私はもう守ってあげられないから、エースのことをお願いね」

 

俺は漫画でエースが好きだった。かっこいいし、主人公の兄貴ってポディションはやっぱりかっこいい、メラメラの実ってところもかっこいい。かっこいいから好きだった。それを俺が守るってできるのか。マリンフォードでエースを助けることが出来るのか。

 

そもそもなんで俺は前世の記憶を持って生まれたんだろう。エースに兄貴なんて居たんだっけ。ワンピースは大好きだったけど、毎週見てたから何年前もの記憶は正直ない。ルフィとゾロが出会ったところとか正直曖昧だ。こんな不確かな記憶で、エースのこと救えるのか。そもそも、こんな頭おかしい世界で俺生きていけるのか。グルグルの頭の中で、ちゃんと母さんに返事が出来なくてうろたえていると、ベッドで抱かれたエースがにぱぁって笑った。

 

言葉なんてまだしゃべれないから必死に頷いた。それから三日後に母は死んだ。

 

そこからは漫画と同じだった。ダダンのところに預けられて、サボと出会って、ルフィと出会って、ガープは俺らを海兵にしようとした。エースは、俺の船に乗せてやると言ってくれるけれど、それが最善の策なのかはわからない。エースの傍に居たら果たしてエースを守れるのか。

 

あの漫画でも最強クラスの白ひげが居たのにエースは殺されてしまうんだし、正当法でいっても俺がどうにかできる可能性とかきっとない。弱い感じはしないし、さすがロジャーの息子って感じで身体能力は高いけれど、だからってチートって感じはしない。良くある、異世界転生の無双は無理そう。元から持ってる能力とかなかったし。

 

そもそも海賊になるべきなのか。どうなのか。エースは黒ひげが七武海になるための出しに使われてしまうのだから、正々堂々と黒ひげを追うならば海兵と言うのも一つの手のような気がする。エースを殺すのは赤犬だしな。ガープも孫が皆海賊じゃ海兵に申し訳が立たないだろう。一人くらい期待に応えるのも悪く無いような気がする。いざという時、マリンフォードにすらいられなかったら何の意味もないし、海兵になればきっとあの場に居ることはできるだろう。そこで何か俺にできることがあるのかは全然分からないが。

 

きっとエースもルフィも俺が海兵になると言ったら盛大に止めるだろうから、こそっとガープに言ってみることにした。

 

「……俺はさ、海兵になろうかな。あの二人はじいちゃんの願い叶えてやれそうにないしさ」

 

散々立派な海兵になれと俺達を谷の底へ突き落していたガープだが、実際の俺の言葉には相当驚いたらしくダダン達と一緒に目を点にしてしまった。本当に言っているのかと何度も聞かれた。あんなに海兵になれって言ったのはアンタだろ……。

 

「うん。俺はじいちゃんみたいな立派な海兵になりたい」

 

そういうと泣いて抱きしめられた。死ぬ、死ぬ、呼吸困難で死んでしまう。

 

「ホントにお前があの男から生まれて来たのかが信じられんっ……!」

 

喜んでくれて何よりだ。きっと、海賊になったエースやルフィが必ずしも幸せになれない事を知っているからガープは海兵になれと言ったんだろうけどな。エースが死ぬ直前、赤犬を殺そうとしてたしさ、いいじいちゃんだよな。俺ガープも大好きなキャラだったんだよな。俺というイレギュラーがどの程度物語に変化を与えられるかはわからないけれど、出来る限りは頑張ってみようと思う。知っていながら、知らないふりをするなんてのは卑怯者のすることだ。

 

海兵になると言ってからというもの、海軍基地に連れてかれたり、あのDVといっても過言ではない修行から逃げられなくなったりと辛いことが増えた。ガープ的には俺が自慢で仕方がないらしい。愛と言う名の暴力が痛い。

 

「またやられてるのかい。おっかねぇじいちゃんだな」

「……いや、ホントに、今日は死ぬかと、」

 

床にへばって上を見上げて視線を合わせた相手は青キジだった。飛び起きて敬礼するが、適当に笑って崩していいと言った。ガープは豪快で自由でたぶんバカだ。普通にセンゴクとかの前に連れてくし、ザコの俺を大将たちに鍛えさせようとするし。ガープに言われた手前やるしかなくてこの前黄猿が相手してくれたけど、黄色いビーム出されて必死に逃げるゲームだった。泣いた。

 

こうして毎日海軍基地に連れて行かれる俺を見てエースは何かを察したらしかった。

 

「兄貴は海軍になるのか」

「……まぁ、俺くらいじいちゃんの願い叶えてやらないとダメでしょ。お前ら海賊になるんだろ?」

「そう、だけど、……兄貴は俺の船に、」

「いつか、やらなきゃいけないことが終わったら、エースの乗ってる船に乗せてよ」

「え?どういうことだよ」

「そういうこと。じいちゃん待ってるから行くわ。気を付けて遊べよ」

「そういうことってどういうことだよっ……!言ったからな、いつか絶対俺の船乗れよ!!」

 

まぁ、うまく助けられなければ死ぬだろうしな、返事をしておいてもいいだろう。そのいつかが来ることを願うしかない。エースが死んで俺が生きると言う未来はなしだろう。天国の母さんに顔向けできなくなっちゃうし、ゴールド・ロジャーの息子が弟見捨てるとか、そんなのワンピースじゃないでしょ。

 

麦わらの一味が今後どんな旅を送るかはだいたいわかる。エースの初登場は俺の記憶だとアラバスタなんだけど、あってるかはわからない。ただワンピースはルフィが主人公の漫画なので、エースのことはそんなにかかれていないし、時系列をしっかり把握して漫画を読んでたわけじゃないからちゃんとした流れも分からない。

 

今のところ出来ることなんて鍛えて黒ひげ追って、エースを助けることくらいだよな。そもそもガープの孫って言ってるけど、たぶん海軍の上の人達は俺がゴールド・ロジャーの息子だって知ってるだろうし、内心本気で信頼してくれているかは怪しい。英雄のガープが連れてきたから仕方なく面倒見てるってのが一番しっくりくる。

 

エースはまだダダンのところにいるし、今できることって言ったら海軍で信頼を得ることだろう。誰を味方につけるべきだ?一番話しやすいのは青キジだけど、新世界に行ってから青キジって立場が微妙だから信頼できるか怪しいんだよな。黄猿は黄色いビームでもうこりごりだ。そうなると赤犬なんだけど、話し掛けたこともない。てかエースを殺す張本人だ。俺は割と嫌いである。

 

悪い奴と言い切れないことは知ってる。ワンピースと言う海賊視点で見た漫画では海軍って悪役みたいな立場になっているが、実際ルフィとか白ひげとか、特別な海賊以外は、本当に悪党ばかりだ。海賊が悪だと言われるのも仕方がないと言える。でもエースを殺すのはやめてほしい。たとえ正義でもやっぱりソコは譲れない。

 

最大の敵に信頼されるのは重要なポイントと言えよう。決めた。俺の師匠は赤犬だ。それ以外にはない。

 

そこから俺は毎日赤犬に付きまとった。師匠になってくださいと。そのたびぽーんっとぶん投げられた。邪魔だどけろと。何度殺されかけても付きまとった。また今日もひどいやけどを負って帰ってくると青キジは意外そうに俺を眺めた。

 

「意外だな。てっきりガープ中将の拳骨を一生くらってるのかと思った」

「……勘弁ですよそんなの。それにじいちゃんに言われたんですよ。お前とはまじめすぎて性格が合わないって」

 

目を点にして笑われた。ひどい話だ。当初はあんなに喜んでくれたのに、最近になってそんなに固く考えるなとか、適当でいいんだとか、それでいいのか海軍中将!!

 

「それでサカズキか?」

「そうです。とりあえず部下にしてもらうことが目標です」

「真面目だな。何か目的でもあるのか」

「マーシャル・D・ティーチって知ってます?」

「白ひげ海賊団のか」

 

この時から黒ひげって知られてるんだな。

 

「そいつを打ち取りたくて」

「恨みでもあんのか」

「いや、恨んでからでは遅いので、早め早めに捕まえられるなら捕まえたいんです。嫌な予感がするものですから」

「ふーん。予感ねぇ。そんなにサカズキの部下になりたいのか」

「え、はい。なりたいです。できるなら一番の部下に」

「なら、直接言うより海賊捕まえてきた方が手っ取り早いぞ」

「そうなんですか」

「実力主義だからな」

「いってきますっ……!!」

 

よし徹底的に海賊退治だ。とりあえず手配書見に行こう。3000万、5000万。1億とかになってくるとさすがに今の情報不足な俺でも知っているメンツになってくるな。とりあえず、5000万くらいからとっ捕まえてこよう。

 

「じいちゃん」

「なんだ?」

「ちょっと海賊退治に行ってくるよ」

「サカズキの部下になるのは諦めたのか」

「諦めてないよ。なるために捕まえてくる」

「ほー。アイツは1億や2億の首じゃ、満足しないぞ」

「え」

 

と、とりあえず、賞金の額は少しずつ上げていく事にしよう。

 

それから俺は少しずつ海兵として名を上げていった。12の頃にルフィたちと兄弟の盃を交わしたから、もうあの時から2年になる。成長期とはすごい物でこの1年で俺は10センチ身長が伸びた。ガープに鍛えてもらいながら必死に海賊を狩って、毎回サカズキに報告しに行っているうちに「わかった。わかった」と返事をしてくれるようになった。前はガン無視だったから少しは成長した気がする。

 

そしてある日赤犬が大物を狩りに行くと言うので、ガープにお願いしてこっそり付いて行かせてもらえるよう手配してもらった。雑用と言う身分で行くことになったので、赤犬の寝る部屋を掃除しに行くとゲって顔をされた。何それ酷い。

 

「なぜお前がいるんじゃ」

「雑用です」

「……ガープか。いいか、余計なことはせんで雑用だけこなすんだ。無駄なことしたら、海に投げ捨てるからな」

「はい!」

 

無事に許可をもらった俺はルンルン気分で掃除をした。ピカピカになっていく船に、先輩方からはとても褒められた。己の掃除の才能を発見するのだった。そうして数日が経ち目的の海賊の船の近くについた。やはりわざわざ赤犬が出頭するあたり、大物の海賊だったらしく、6億の賞金が掛かっているようだった。

 

はっきり言って今の俺には6億の賞金首を倒せる実力は全然ない。きっとアラバスタのときのクロコダイルより弱いくらいだろう。覇気と言う存在は漫画のおかげで知っているけれど、自由に使いこなせるかと言ったらまだ別の話である。現在修行中って感じ。武装色の覇気は多少使える。ガープに教えてもらった。

 

何か少しでも学ぶことはないかと、雑用係の汚い部屋から戦いの様子を眺めていると、同じ雑用係の1人が叫んだ。何事かと振り返れば海賊団の1人に捕まっていた。雑用係ってのは俺みたいな下っ端もいるが普通に本当に雑用のために来ている一般人もいる。ソイツはその一人だった。

 

6億の首の船長には到底かなわないが、この船員くらいには勝てないとダメだろう。赤犬に部下にしてほしいと言いながら、こんな時に傍に居た人間を守れないなんて知られたら、今日のこのチャンスすら逃すことになる。腰に差していた刀を抜いた。

 

「そいつ離せよ」

「あ?海兵の雑用がどうせ何もできねぇんだから食糧庫の鍵寄越せよ。この部屋だろ?海軍の船の構造はだいたい知ってんだよ」

 

つまり今まで何隻も船を襲ってきたと言うことなんだろう。だが俺だって最近は少しはましになったはずなのだ。この程度の相手に負けるわけにはいかない。誰かを守りながら戦うと言うのは初めてだが、エースを助けようとしているのだから、守りながら戦える男にならなくてはならない。

 

刀を持つようにしたのは最近である。前世は剣道部だったから、なんとなく、剣より刀のほうが手に馴染んだ。刃先を回し、雑用係に当たらないように、背中を刺す。一瞬でやられてしまった仲間に海賊たちは警戒を示したようで、一気に人だかりになってしまった。余計に危うい状況になってしまった。雑用仲間は泣き出してしまった。

 

「食糧倉庫のほうに逃げてろっ……!」

 

こんな人数になったらとてもじゃないけど守りながらなんて、まだ戦えない。片っ端から切って行くけど埒が明かない。赤犬がいるのは甲板ほうだから全く逆で、今の状況がつかめない。海軍の先輩達も必死に戦っているが、負傷している人も増えてきた。

 

6億の首。現在14歳で、前世はゆとり真っ只中だった俺には到底無理な話。そんなに時間も立たないうちに数人の海軍の先輩達と一緒に囲まれていた。

 

「おい雑用。お前はまだ若い、俺たちが逃げ道を作ってやるから、」

「仲間を見捨てるとか、俺の目指す海兵じゃないです」

「っ……バカ野郎」

 

さすが赤犬が認めた部下と言うべきなのか。大して知りもしない、名前も知らない俺を、子供だからと言う理由で逃がそうとしてくれる。指輪してるのにこの人。武装色の覇気。確かゾロは刀にまとわせてたよな。できるかな。いや、やんないと死ぬんだけど。

 

集中。集中。覇気の纏い方はガープに教えてもらったんだから、それを刀にまとわせるだけ。最悪この刀そこらへんの安物だし折っても大丈夫だ。行ける。行ける。ふぅと一つ息を吐く。名も知らない雑用の俺を守ろうとしてくれたんだ。できる限りのことをするのは当然だ。

 

「お前、覇気を、」

「こんなところで死ぬわけにはいかないので」

 

 

ハッとなった時、先ほど俺達を囲んでいた海賊たちはバタバタと倒れていた。唖然とした顔で俺を見てくる先輩達は「雑用じゃないのか」と聞いてきた。

 

「じいちゃんに頼んで船に乗せてもらったので雑用なんですけど、普段はサカズキさんの部下にしてもらうべく賞金首を狩ってます」

「サカズキ大将の部下に?」

「出来るなら直属の部下になりたいんです」

「またあんな厳しい人の部下になん……さ、サカズキ大将!」

 

丁度悪口を言っていると来てしまった赤犬に、先輩達は顔を蒼くしてしまって、そのまま逃げだしてしまった。赤犬の視線が俺と合う。

 

「持ち場を離れて何をやっておる。床についた血をさっさと落とさんか、雑用!」

「っ……はい、今すぐ」

 

褒められるわけでもなく、仕事の怠慢を怒られるのであった。部下になれる日は遠いなぁ。そんなことを思っていたが、意外にも部下になるチャンスは突然に訪れた。元帥センゴクに呼び出されたのだ。赤犬とセットで。すげー嫌そうな顔をしている赤犬。満面の笑みの俺。

 

「サカズキ」

「なんじゃ」

「いい加減、部下にしてやったらどうだ。成績は充分だろ」

「……ガープの孫など、好かん」

 

そ、そんな理由で俺嫌われてたのか。ガープのバカ野郎。

 

「性格は似ても似つかんだろう」

「じゃが、」

「だがなんだ」

「……あー、もうわかった。わかった。わしは他の奴のようにガープの孫だからと言ってひいきはせんからな!」

「もちろんです!今日からよろしくお願いします。師匠!」

「師匠とはなんじゃ!!サカズキ大将と呼べ」

「よろしくお願いします!サカズキ大将!」

 

センゴクのおかげで俺は第一関門の部下になると言う目標を達成したのである。15歳のときであった。そこからは死ぬ気で戦った。啖呵を切って一番に走りだし、成果を上げていった。怪我ばかりしている俺に赤犬は、戦い方が下手くそなんじゃとまた怪我を負わせた。治してくれよ。

 

「サカズキ大将」

「ん」

「この前キューカ島にアヘルと言う海賊を狩りに行ったんですけど、そこでおいしい紅茶を見つけたんですよ。ヒナ少将に怒られながら頑張って淹れたんで飲んでみてくれません?」

「わしは煎茶しか飲ま」

「良いから良いから、お菓子も買ってきたんですよ!大将に食べてもらおうと」

「お前は何をしに島に行ってきたんじゃあああ!!」

「ちゃ、ちゃんとアヘルは生け捕りにしてきましたよ。ただちょっとサカズキ大将に喜んでもらおうと」

「さっさと次の任務に行って来んかッ!」

 

ぶん殴られた。痛い痛い。そんなことを言いながらお菓子は食べてくれた。紅茶は飲んでくれなかった。洋食は口に合わないらしい。本当においしかったのになぁ。殴られた頭を擦りながら部屋を出て次の任務の書類を確認する。最近やっと1億くらいの首を取れるようになってきた。火傷の成果が出てきたようでうれしい。

 

出来るならエースが海に出る前に黒ひげをとっ捕まえたいんだけど、正直現在の黒ひげに目立った情報はない。白ひげ海賊団と言えば、もっと大物が山ほど出て来てしまう。それに漫画でも見た通り、白ひげ海賊団に手を出すと報復がすごい。普通に対処できないし、サカズキにぶっ殺されるだろう。

 

でも探りは入れなければならない。

 

任務のついでに停泊の噂を聞いた島に向かった。海軍の大きな船で行くわけにもいかないので、私服を着て島に侵入した。白ひげ海賊団って言っても、記憶に残ってるのはサッチとかマルコとかくらいで、後はこっちの世界に来てから調べた人間ばかりだ。

 

海賊が居そうな場所って言うとなんとなく酒場が浮かんで何件か歩いて回ると、マルコを見つけた。おぉ1番隊隊長かっけぇなんて思いながら、白ひげ海賊団がこの村にいることを確信して黒ひげを探すことにした。麦わら海賊団くらい数が少なかったり、目立ってたら見つけやすいんだろうけど、いかんせん数が多いから黒ひげを見つけられるかは分からない。

 

黒ひげなぁ。何処に居るんだろ。俺の黒ひげのイメージってチェリーパイなんだけど、好物なのかな。道端のばあさんにチェリーパイが置いている店はあるかを聞いて、行ってみると本当に居た。心臓の音が高鳴るのを感じる。恋ではない。警戒のほう。

 

結構空いている店内で、黒ひげの席から一つ開けた席に座った。なんとなく、同じチェリーパイを頼む。そうすると視線がこちらを向いた。

 

「チェリーパイが好きなのか?」

「ちぇ、チェリーパイっていうか、甘いものは全般好きですよ」

「ほー、俺と一緒じゃねぇか。甘い物には目がねぇ」

 

俺が頼むと同時に、もう一個のチェリーパイを注文した黒ひげは席を一つずらして俺の隣に座った。心臓が爆発しそうだ。

 

「で、なんでまた親父の町に海兵が?」

「っ……、」

 

びっくりして立ち上がると、腕を掴まれる。焦って振り払おうとすればグハハと笑われた。

 

「別に何かを捕まえに来たわけじゃないだろう?それなら一人で、そんな服では来ない」

「なんで俺が海兵だって、気が付くんですか」

「Dの名を持つ海兵なんてそう多くないからな。それにアンタは最近目立ちすぎだ。俺じゃなくたってわかるやつには分かる。警戒心がなさ過ぎるのは命取りになるぜ」

 

海賊にアドバイスされる俺、大丈夫なのかこれで。

 

「何か聞きたいことでもあって来たんだろ」

「いや、」

「別に答えられることには答えてやるぜ。アンタは名を上げそうだ。海兵に恩を売るのも悪くない」

 

聞くことなんて、何もない。今海にも出ていないエースとこの男は知り合いでもなんでもない。Dの名を持つエースの存在は知っているかもしれないけれど、今後海賊になって自分の隊長になって、七武海につきだすことになるなんて未来さすがに知るわけはない。聞きたいことなんて、何かあるだろうか。

 

「なんで白ひげを裏切るんだ?」

「は?俺は親父の息子だろうが」

「……違くて、なんでそんな野心が何十年ももつのかなって思って。ワンピースを手に入れたいのか?海賊王になりたいのか?だからお前は、」

 

エースを売るのか。なってもいない未来について声を出しそうになって口をつぐむと、黒ひげは意外にも怒りを露わにした。出されたチェリーパイを口に突っ込んで、一言言った。

 

「お前面倒だな。何を知っている」

 

首根っこを捕まれた。逃げようとした、でも逃げられなかった。実力の差というやつである。白ひげ海賊団の隊員に、いくら最近強くなったと言えど勝てるわけがない。暴れるとドンと床にたたきつけられた。まだチェリーパイを食べていなかったら胃には何もなくて、胃液が口から飛び散った。

 

「答えろ。今すぐ。答え次第で消すか、消さないか」

「ごほっ……、ゲホッ……、何も、知ってるわけじゃ、」

「嘘だ。いや、別に嘘じゃなくても、俺は海賊だもんな、海兵を殺すのは当たり前だよな」

 

さっきと態度変わりすぎだろ。必死にもがくがびくともしない。そのまま首を絞められて、数秒、意識が遠のくそう思った時、店の扉が開いた。

 

「ティーチ、またお前か。一般市民に手出すなって何度言ったら」

「サッチか。こいつは一般市民なんかじゃ、っ、おい、待て、」

 

一瞬緩んだ手から逃げた。死ぬ気で。勝てる可能性は1%も見いだせなかったから、ただ、必死に逃げた。乗ってきた小舟を必死で動かし、任されていたほうの任務地へ向かった。あのまま追ってきたりしないよな。エースどころか俺のほうが先に殺されるんじゃないか。

 

任務のほうはすぐ終わったが、心臓の鼓動は収まりを知らず、赤犬のところへ報告にしに行くとどうしたと声を掛けられた。

 

「顔を蒼くして、そんなに強いやつじゃなかろうが」

「え、いや、なんでもないです」

「……なんでもないと言うお前はおかしいじゃろうが」

 

素直な返事もできないイメージがあるんですかね。説明しろと問い詰められて、うまく説明できず固まると、もうよいと部屋を出ていくよう手を振り払われた。

 

「ち、違うんです。うまく説明できなくて、言えないってことじゃなくて、」

「別に怒ってなかろうが」

 

いや怒ってるよ。赤犬はいつも怒ってるよ。泣きそうだよ。

 

「久しぶりに本気で殺されかけて、ちょっと気が動転してしまって」

「何?コイツ相手にか」

「違います。別の海賊です。白ひげ海賊団のマーシャル・D・ティーチに首を掴まれて、しっぽ巻いて逃げて来たんですが、あの時声を掛けられなかったら本当に死んでいたと思って。」

「ティーチにあったのか」

「偶然、会ってしまって、」

 

自分から会いに行ったくせに、偶然と言うことにしてしまった。その経緯をうまく説明できる気がしなかったからだ。指を上げられる。指示の意味が分からなくて首をかしげると首を見せろと言うことのようだった。首を上げると、医務室に行って来いと殴られた。結局殴るんかい。

 

しっかりついてしまった手形に、数日首に包帯を巻くことになってしまった。今の俺に黒ひげを倒すことは無理だ。万に一つも勝てる可能性がない。でも、そんなに、時間もない。あと4年ちょっと。そのうち黒ひげはヤミヤミの実を食べてしまうんだから、もっと強くなって、到底太刀打ちできなくなってしまう。

 

ロジャーの子供なんだから才能がないわけがないのに、足りない時間に悔しくてしょうがなかった。その日から寝る間も惜しんで任務をこなし、修行をした。過剰労働で止められたが、今の自分にできることがそれしか考えられなくて必死だった。

 

エース17歳の誕生日。俺は19になっていた。海に出る事を知りながら誕生日プレゼントを用意してしまった。あの特徴的な帽子。まだ今のエースはメラメラの実を食べたわけではないけれど、きっと今のところ何か変化を作れたとは思えないから漫画通りに進んでいくだろう。その時にこのトレードマークのような帽子を被っていて欲しいと思う。たまたま見つけたのだ。エースだと思って買ってしまった。

 

「目立つ帽子だな」

「いつでもエースを見つけられるようにね」

「今日から敵だぞ」

「俺はエースを捕まえたりしないよ」

「職務怠慢じゃん」

「そう言うなって」

 

最近少将に昇格して、あの無駄に重いマントをいい加減つけろと赤犬に言われて、付けてからというもの、エースにもルフィにもサボにも大批判をくらっている。正義がダサイそうだ。悲しいよ。素直だったエースから少しだけ反抗的になってしまったことさえ微笑ましく、もう当分会えないのかと思うと自然に抱きしめてしまった。

 

「な、んだよ、兄貴」

「ちゃんとご飯食べて、あったかい布団で寝て、怪我しないようにして、元気にするんだぞ。なんかあったら俺のところに来い。グランドラインに入るならきっとすぐ会えるから。どんなひどい賞金首になったって、俺はエースの味方だから。絶対俺が助けるから」

「しつけぇ」

 

抱きしめた腕から無理矢理抜けられた。顔を押されて、突き飛ばされて、あっかんべーをされる。悲しい。

 

「俺だって兄貴になんかあったら助けに行くに決まってんだろ。バーカ」

 

ツンデレエースにうれしくなってもう一度抱き着いたら、気持ち悪いと言われてしまった。正直、残り時間も迫って来ていて、本音を言うなら海になんて出ないでほしいと思う。俺の視界の範囲にいて欲しいと思う。でも、そんなのは傲慢だ。ワンピースの主要キャラのエースが、俺みたいなモブに縛られるなんて無理に決まってる。この船出を止められるわけがないことくらいわかってる。泣きそうになっている俺を見てエースはまたバーカと笑った。

 

「兄貴も驚くすげー海賊になってやるよ。兄貴なんて一瞬で倒してやる」

「っ……おう、待ってる」

「そんで、いつかちゃんと俺の乗ってる船で兄貴のこと迎えに行く」

「え、」

「忘れたとか言うなよ。俺のほうが餓鬼だったんだから、兄貴が覚えてねぇとか許さねぇ」

「覚えてる、けど、」

「もし兄貴が海軍大将になったとして、それでも俺は迎えに行くぞ。一緒に海賊やるって約束したんだからな。絶対忘れんなよ」

「ちょ、エース待って、」

「じゃあ、行ってくる」

 

そんな未来来るかな。来ることを願うくらいはいいかな。この船出の終末がエースにとって幸せであることを願うしかない。俺にできることは少なすぎる。ただ、一人の命を救いたいだけなのに。母さんに言われたように、守りたいだけなのに。順調に進んでいる感じが全然しないのだ。

 

快挙だと言われた。この昇格スピードは歴代でも素晴らしいと褒められた。地位があることは動ける範囲が広がると言う意味でも、ガープに喜んでもらえると言う意味でも価値はある。でも、この世界は強い人が多すぎる。勝たなければいけない相手が、皆皆、強すぎて、俺がこの世界で一生鍛え続けても、敵う気がしない。ネガティブになってしまって嫌になる。

 

エースの背中を見て、俺にできることは強くなることだけなのだと、頭に焼き付けた。今日も、頑張ろう。エースを助けられるように、出来ることは全部やっておきたいから。

 

 

残り2年と少し、中将の地位が見えるようになった頃、やっと俺は赤犬の直属の部下になることが出来た。今までは俺の上に一人いて、その人の上に赤犬がいる感じだったから、話しかけには行けたけど、直接鍛えてはもらえなかった。だから今日この時は本当にうれしかった。

 

「サカズキ大将よろしくお願いしまっ……、」

 

最後まで言う前にぶっ飛ばされた。なんでだ。

 

「お前の刀はいつも甘い。隙が多すぎるんじゃ。見聞色の覇気を鍛えなおしてこい。次」

 

冷たい一言のように感じたが、つまりは今までも俺を見ていてくれたということなんだろう。その途端なんだか嬉しくなってしまって、サカズキ大将と叫んで抱き着こうとすれば顔面を踏まれてぶっ飛ばされた。今日も赤犬は冷たいね。

 

必死に鍛えていく中で、黒ひげの調査も忘れてはいなかった。今のところ特に変わった動きはない。そりゃそうだろう。野心を隠して何十年も白ひげに居るような男がそう簡単に本性を現すわけがない。

 

「サカズキ大将」

「なんじゃ。今日の茶は不味いが」

「……俺が淹れたんですけど。絶対俺が淹れた時批判しますよね。そんな不味いですかね。最近つるさんにうまくなったって褒められたんですけどね……」

「お前が下手なだけじゃ。それで、何の話だ」

 

割と赤犬っていい性格してるよな。俺の悪口絶対忘れない辺りとか。

 

「今の俺ってマーシャル・D・ティーチに勝てますかね」

「海軍が海賊に負けるわけがなかろう」

「そ、そう言うことじゃなくて、真面目な話、勝てる見込みはあると思いますか」

「……直接対峙したことがないから何とも言えんが、ゼロにちかいじゃろうな」

「ですよね……。やっぱり」

「あと5年もすれば勝てるじゃろうがな」

 

5年じゃ遅いんだ。いくら一生懸命やっても、この身体で使える時間が少なすぎる。折角エースと居れる少ない時間を全部使って海兵になったと言うのに、このままじゃ何もできずに終わってしまう。

 

「勝ちたいんです。できるなら今すぐ。マーシャル・D・ティーチを捕まえたい」

「……お前、昔ティーチに殺されかけたと言っとったな。何があった」

「何かがあったわけじゃないんです。ただ、圧倒的な力の差を感じて、これまで結構頑張ってきたつもりなのに、何の抵抗もできないで殺されそうになって、本気で死の恐怖を感じました」

「だからとっ捕まえたいと?」

「そう、です、」

 

鋭い視線が怖くなる。嘘がばれているような感じがして、逸らしたくなる。数秒視線が合い続けて、外したのは赤犬からだった。

 

「2年だ。2年はかかる。今のお前のなってない刀を直すのも、覇気を磨くのも、死ぬ気でやって2年だ」

「え?」

「なんだ。やらないのか?それとも間に合わないのか」

「っ……いや、あの、2年で、やりたいです。お願いしますっ……!」

 

たぶん、嘘を吐いているのはばれている。2年と何か月かによって間に合うか、間に合わないかは変わってくるだろうけれど、赤犬を信じるしかない。戦闘能力において、この人ほど信じられる人はそうそういないだろうから。真面目で、きちんとした型を持っていて、教えるのがうまい。7年近く共に過ごしてこの人が師匠であったことに誇りに思えど、後悔などしたことは一度もない。この人の言葉を信じることに迷いはない。

 

 

2年間、赤犬はすぐ隣で修業を付けてくれた。何度も怒鳴られ、何度も殴られたが、実力は確実についてきたような気がする。少し前に中将になり、ガープには泣いて喜ばれた。

 

「勝てるかは分からんが、負けはせん。時間がないんじゃろ。行って来い」

 

赤犬は意外にもそう言って背を押してくれた。振り向くともう後ろを向いていたけれど、その耳は少しだけ赤かった。いつの前にか出来ていた部下を連れて海に出たが、白ひげ海賊団を裏切ってからの黒ひげの行動なんて正直俺は知らない。そんなの漫画でもまだ描かれてなかったし。だいたいは知ってても場所までは分からない。確かエースと黒ひげが戦いのはバナロ島ってとこだったと思うけど、それまで何をしているかが分からない。

 

上位の海賊の情報を海軍が手に入れるのはそんなに簡単ではない。白ひげ海賊団から黒ひげが追われていることは知っているが、エースの状況までは分からない。ただ、もうすでに裏切ったと言う情報が出ている時点でエースは黒ひげを追いかけたのだろう。そうなると今は漫画で言えばアラバスタからウォーターセブンってところか。

 

エースとルフィが居る場所を確認するためにもアラバスタに行ってみるのはありか。時期を確認するのは大事だしな。

 

と言うことで来たアラバスタで麦わら海賊団の船を見つけた。部下たちが見事に騒ぎ出す。俺がルフィを捕まえると言う選択肢はないし、このアラバスタにはルフィ達が必要不可欠だろうから、エースがいるかどうかだけを確認して撤退したいのだが何かいい理由はあるだろうか。

 

「今回の目的は黒ひげ、ティーチだ。見逃すというわけではないが、自ら狩りには行かない。情報をさぐってくるから船で待っていろ。すぐに戻る」

「そんな、アマネ中将、情報収集なら我々が、」

「俺が、サカズキ大将に我儘を言って組んでもらった船なんだ。それくらい俺がやるよ。お前らは戦いのときに備えて休んでいろ」

 

良さげなことを言うと感動をしたような目で見られた。皆赤犬にたっぷり絞られてるから、優しい言葉に弱いんだろう。わかるよ。すごい共感。でもゴメン嘘なんだ。許してくれ。身軽に船を下りて、漫画で出てきた町を探す。ナノハナとかレインベースとかは覚えてるけど、他も聞いたことあるような気もするな。どこで何が起きたかまでは覚えてないんだよな。

 

「待て麦わらああああ」

「え。スモーカー」

 

アラバスタの玄関口、ナノハナにてとりあえず捕まえに来た体を装い住民に聞き込みをしているとスモーカーが通り過ぎて行った。そういえばアラバスタにスモーカー出てたな。でも今バレるのは非常に不味いよな。でもこの感じ、まだアラバスタに来たばかりと言うことだろう。ルフィたちにもできれば会っておきたいし、少し離れて追うか。

 

何処かで話し掛けよう話しかけようと思っているうちに、スモーカーはルフィ達の船の近くまで追って来て、迷いに迷った末船に乗り込んだ。

 

「か、海軍。別な海軍が居たの!?」

 

おぉナミは本当にこの頃から美人だな。2年後の姿も好きだけれど、今もきれいだ。ワンピース好きには麦わらの一味が全員見れるとかレアすぎて感動だ。ゾロやサンジが攻撃の構えをする中、船の中を見渡して写真撮りて―とか考えていると叫ばれた。

 

「また随分と大物が俺たちの首を狙ったもんだな」

「なんだマリモコイツのこと知ってんのか」

「あ?うるせぇエロコック。何たらアマネとかいう、海軍中将だろ。若き天才なんたら特集って新聞に書いてあった」

「中将!?コイツが!?」

 

会話を続ける二人に何も言えなくなってしまっていると、目を輝かせているルフィと視線が合った。

 

「アマネッ!」

「お、ルフィ。やっと会えた。お前ちょこまか動き回りすぎな」

 

船全体に驚きの声が上がる。エースと同様義兄弟であること、そしてここに来た理由を話していると、背後から声が鳴った。

 

「あ、兄貴……!?なんで、ここに、」

 

俺がこの声を忘れるわけがない。ルフィ達に何処でエースに会ったかを聞くか、まだ会っていなければ一瞬だけ一緒に旅をしてエースと会うかを考えていたわけだが、その必要はなくなったようだった。

 

「エース!また身長大きくなったか?悪魔の実を食ったのか」

 

何も考えず抱きしめると、恥ずかしそうに顔を押されて離れられた。俺としては、今後どうなるかわからないから、今会えて、触れられることはすごく貴重なのだが、そんなのをエースが知るわけはないだろう。

 

「すぐ抱き着くなよ。子供じゃねぇんだから」

「ごめん。元気そうでよかった。ルフィも、最近名を上げてるな」

「エヘヘッ、すげーだろ」

「俺としてはお前らが名を上げるのはうれしいような悲しいようなだよ。でもまぁ、元気にしてるならいいよ」

 

3人のうちで込み入った話を始めてしまうと、麦わらの一味たちの目は点で、先ほど説明したはずだと言うのに理解しきっていないようだった。一応名乗っておくか。

 

「海軍中将、ポートガス・D・アマネ。ルフィとエースの兄になります。君たちのことは捕まえる気はないから警戒しないでください。そして、これからもルフィのことをよろしく頼みます」

 

海軍の帽子を取って深く礼をすると、すごく奇妙な顔をされた。

 

「海軍に頭下げられるなんて変な気分だ」

「だなー」

「あはは、そうかな」

「なんでお兄さんは海兵に?エースもルフィも海賊なのに、真逆じゃない?」

「俺のじいちゃんは海兵で、本当は二人には海兵になってほしかったんだそうだ。でも昔から二人は海賊になるって聞かないからね、俺くらいはじいちゃんの想いに答えようと思って」

「良い兄ちゃんだな……」

「それで、兄貴は何でここに」

「いや、えっと……二人の噂を聞いて、一目見ておこうと。海賊の船に海兵が乗ってるなんてバレたらサカズキ大将に殺されちゃうから長居はできないけれど、2人の顔が見れてよかった。エースは何をしにここへ?」

 

そう聞くとエースはなんの疑いもなく経緯を話してくれて、海兵の俺を信頼してくれているのだと感じる。ぎゅっと胸が苦しくなる。

 

「エース。黒ひげ・ティーチはそこまでして追わないといけない相手なのか?」

「白ひげ海賊団で、仲間殺しは重罪だ。けじめを付けなくちゃならねぇ」

「……そっか。そう、だよな」

 

俺はこの場には長居はできない。アラバスタにはスモーカーもいるようだし、あそこまで育ててくれた赤犬に少しでも疑われるような行動はとりたくない。もしかしたらエースのこんな元気な姿を見れるのは最後なのかもしれない。うっとおしがられるかもしれないが、もう一度肩を抱き寄せた。身長はまだ少し俺のほうが大きいな。

 

「気を付けて。無理だけはしないで」

 

意味のある言葉なのか、それは果たして分からないけれど、心からその願いを伝えた。5分ほどエースたちと話した後すぐに海軍の船に戻り、アラバスタの近くの島を探して回った。そのうち少しずつ情報が見えてきて1か月後やっと黒ひげの場所を特定することが出来た。

 

急いで船を走らせ、黒ひげの船があった場所がバナロ島よりは前の島だったことに安心する。きっとまだエースとは戦っていない。軍を連れて島へ乗り込み、黒ひげ海賊団の元へ向かった。そして対面する。初めに言われた一言は衝撃的な物だった。

 

「アンタは何の悪魔の実を食った。どこまで未来が見えている」

「は?」

「実際俺はもう少し違う行動を取るつもりだった。だと言うのに、知らないうちにアンタがあの時言った通りの行動をしている。何の悪魔の実だ?使えるな」

「っ……、食べてない。悪魔の実なんて食べていない」

「嘘つくんじゃねぇ」

「嘘じゃ、ない……泳げと言われれば泳げる。」

「じゃあなんで未来を知っている。知っていなきゃ、そんな大きな部隊を白ひげ海賊団の隊長ですらなかった俺に向けるはずがねぇ」

「未来なんかわかるわけがない。自分の思った未来にするために戦ってんだ」

 

そう言って刀を抜いた。一太刀に切れるだなんて思っていないが一発目の攻撃は大事だろうと気合を入れて攻撃に挑んだ。

 

 

結末を言おう。俺は負けた。漫画でも詳しく説明されていないヤミヤミの実に対応できなかった。純粋な勝負と言う点ではいい線は行っただろう。あんなに漫画で強者に描かれて居た黒ひげに傷を負わせることが出来た。でも赤犬がしてくれた修業は以前のヤミヤミの実を食っていない黒ひげへの対抗で、今の黒ひげには通用しなかった。

 

「まてっ……、黒ひげ、」

「あ?」

「エースに、エースにだけは手出さないでくれ、頼む、」

「じゃあ麦わらならいいのか」

「っ……、」

「あの後気になってな。アンタのこと隅々調べたんだよ。エースの兄であることも、麦わらと義兄弟の盃を交わしたことも。……そりゃあ未来知ってるなら、俺のしようとしていることは許せねぇよな。死んでも止めなきゃならねぇよなぁ。今日は生かしておいてやるよ。その代わりちゃんと見ろ、弟が処刑される姿を。そして見せてくれよ、未来を知っていながら、弟を救えなかった、絶望の顔をよぉ」

 

赤犬の精兵部隊をほとんど殺され、生き残った兵たちも俺と変わらないくらいボロボロで、電伝虫に連絡する頃には誰の意識もなかった。

 

次に目を覚ました時、脇には赤犬が座っていた。飛び上がろうとしたが、痛みが走りもがくとバカがと静かに声を掛けられた。

 

「サカズキ大将、すみま」

「謝るな。力量を見誤ったのはわしじゃ。最近入った情報に、黒ひげが赤髪に傷を負わせたと言うものがあった。まさかとは思ったが、嘘じゃないんじゃろうな」

「っ……、俺は、どうしたら、」

 

今黒ひげを倒せなかったら、きっともうあと数か月で倒せる可能性なんて万に一つもない。手も足も出なかったとは言わない。でも、勝てる可能性はなかったと思った。以前殺されかけたあの時以上に。

 

「今は休め。その身体じゃ、何も出来ん。」

 

返事もできず、拳を握りしめると赤犬は静かに目を閉じて部屋を出て行った。きっとこの傷が治るころにはエースと黒ひげの戦いは終わっていることだろう。どうしたらエースを救える?エースの現在の実力を知っているわけではないが、賞金が5億程度ならまだ俺は負けはしないだろう。散々傷つけられて海軍に引き渡されてしまう。処刑されてしまう。そんなことはさせない。俺にできることはなんだ。

 

修行をしようとして赤犬に殴って止められた。早く、早くこの傷を治してエースを助けに行かなければいけないのに、むしゃくしゃして刀を放り投げると、赤犬は静かに言った。

 

「マーシャル・D・ティーチの七武海入りが決まった。」

「っ……!?なんて、」

「じゃから、黒ひげの七武海入りが決まったんじゃッ!!」

 

悔しげな声を上げた赤犬は、小さく「わしは反対したんじゃ」と言ってくれた。きっと俺にとって赤犬は敵だ。エースを守ろうとするならば、最大の敵と言っても過言ではないのかもしれない。それでも、いざという時に、赤犬に刀を向けられるかと切れて、俺はうなずくことが出来ないと思った。俺のために、悔しがってくれるこの人を敵だなんて見れない。

 

万全とは言えないまでも回復した俺が向かった場所と言えばインペルダウンだった。漫画では何年もの時間を掛けて書かれた内容も実際には数か月の間に起こっているわけで、俺の寝ている間にはルフィ達は冒険を進めているし、たくさんの味方を付けている。漫画は一ページ一ページ進んで行って、エースの死のカウントダウンを奏でている。

 

「エース……、無理はしないでって、言ったじゃんか。ボロボロじゃないか、」

「兄貴、言われたくねぇよ。なんだよその傷」

「これは、まぁ、サカズキ大将に絞られて、」

「ティーチの奴に聞いたよ」

「……そうか。」

 

秒でバレた嘘に押し黙ると、エースが重たそうに顔を持ち上げた。

 

「じいちゃん、来たか?」

「あぁ」

「なんて言ってた」

「なんで海兵にならなかったんじゃって。あとルフィと兄貴の話。兄貴の話は絶賛だったよ」

「そう、そっか……、俺はさ、じいちゃんみたく長く生きてないから、エースもルフィもサボも皆好きに生きて、楽しく海賊やって、仲間見つけて、それで、少し俺が海軍でお前らの冒険の手助けが出来たらって思ったんだ。あんまり夢のとか、そういうの昔からなかったから、俺の夢がお前らの夢みたいで、新聞見るのが楽しかった。」

「なんだよそれ、そんなの夢じゃねーじゃん。そんなにボロボロになって、俺のせいで死んだらどうすんだよっ……!」

「そう、だな。……でもさ、母さんに俺がエースを守るんだって教えられたんだ。俺はエースに好きに冒険させてやりたかった。もっと白ひげと冒険させてやりたかった。家族を見つけられたなら、ずっと傍に居させてやりたかった。ごめんな、……ごめん、俺、知ってたのに、何もできなくて、家族なのに、たった一人の血のつながった弟なのに、もうどうしたらいいかわかんないんだ。」

 

ボロボロこぼれ落ちる涙に、エースの手錠がチャリンと音を立てて、拭おうとしてくれたのだと分かった。

 

「兄貴は、真面目すぎるんだよ。母さんに言われたから、死んでも俺のこと守るなんて、馬鹿のすることじゃねーかっ……、海兵なんだから海賊を倒すのは当たり前のことだろーが。海賊のためになんて、海兵が泣くんじゃねぇ」

「違う、違うんだ。そんなこと思って俺は海兵になったんじゃない。きっとじいちゃんだってそうだ。家族を、兄弟を、友人を、大切な人を守るためになったんだ。夢なんかそんなたいそうな物じゃなくて、俺の見える、俺の手の中の大切な物を守りたくて海兵になったんだ。その中の数少ない一つなんだ。エースはその中でもたった一つ一番大切なものなんだ」

「っ……」

「エースやルフィが夢を選んだとき、俺は大切な物を守りたいと思ったんだ。だから、もう少しだけ待ってて、お前を殺させやしない。だって、エース一緒の船に乗せてくれるって約束したじゃん」

「兄貴……?ま、待て、待てって……!!」

 

振り向かなかった。今エースの姿を見たら、また泣いてしまいそうだったから。決意が揺らいでしまいそうだったから。やっぱりアラバスタで、もう少し抱きしめておけばよかったな。檻の距離が遠いや。

 

 

 

ここまで俺は何一つ漫画のストーリーを変えられていなかった。死ぬ気で修業をして、赤犬にあれほど助けて貰って、結果俺は黒ひげに殺されかけた。2度も。何もできていなかった。遠くで、まだ、すごく遠くでルフィの声がする。高い高い処刑台の上にエースがいる。やっぱりなにも変えられなかった。この手の豆は、何度も折った骨は、何度も負った火傷の跡は、何の意味もなかったんだろうか。

 

イワちゃんに、白ひげ、ジンベエにマルコ、バギー、漫画のアニメのまんまだ。嫌な冷たい空気が肌をかすめる。もうこんな季節か。雪が降りそうだ。

 

その日俺は疑われないよう、ギリギリまで弱い海賊を狩った。ルフィの覇王色の覇気に皆が倒れるのを眺めて、ガープを吹っ飛ばすルフィを眺めて、落ちてきたガープを受け止める。先に進んだルフィがMr.3から鍵を受け取って、錠を解いた。

 

『エース!!』

 

皆の歓声に俺一人だけが喜べなかった。この先を知っていなければ、俺はきっとこの瞬間喜びそしてエースの元に飛んで行っていたかもしれない。ルフィの泣いて喜ぶ声が苦しい。ざわめき立つこの場所で俺の喉は声を発せなかった。ルフィとエースの視線が俺を捕らえる。俺の名前を呼ぼうとするルフィをエースが手で抑えた。それでも笑顔だけはきちんと向けられている。そんなのに、俺は苦笑いしか返すことが出来なかった。

 

白ひげが最後の命令を下し、海軍本部マリンフォードが崩れ始めた。あと少し。来ないでくれ。来ないで。赤犬が来たら、サカズキ大将とエースが会ってしまったら、もうどうにもできない。誰にやられたわけでもないのに崩れる膝に周りの部下たちが大丈夫かと声を掛けてくる。

 

エースが振り返る。サカズキ大将が酷い挑発をする。乗せられないで、それはただエースを足止めするための言葉だから。エース、前を向いて、ルフィと走れ。握った拳から血がにじみ出るのを感じた。このシーンの台詞くらい覚えている。

 

「白ひげはこの時代を作った大海賊だ!!」

 

しょうがないことくらいわかってる。エースが白ひげをバカにされて黙っていられる性格じゃないことくらい。そんなまっすぐな性格がかっこいいと思ったんじゃないか。この後ルフィを助けるエースを俺はあの時かっこいいと思ったんだ。悔いはないと言ったそんな姿がかっこいいと思ったんだ。

 

だから助けたいと思った。俺の居た日本でも、このワンピースの世界でも。その男気に、惚れたんじゃないか。そのエースの兄と言うポディションに神さまかなんかから抜擢されたのは、きっと助けてみろってことだったんだ。俺ごときモブがこの物語の最後まで生きられるわけがない。エースをそんなに助けたいなら、死んで助けろって意味だったんだ。

 

悔いはある。ありまくりだ。エースみたくかっこよくはなれない。今まで死ぬ気で築いた地位も名誉も全部惜しい。こんなことをしたら、きっと新聞には結局ゴール・D・ロジャーの息子かと書かれるだろう。赤犬に、今までずっと心の奥底でたくらんでいたのだと思われるだろう。そんなの全部嫌だ。俺は、この世界で、大嫌いだったはずのサカズキと言う男に惚れたし、師匠だと本気で思った。エースをこんな目に合わせたとしても、殺せない。殺せるわけがない。死ぬほど恩を受けたんだ。

 

「この時代の名が!!白ひげだァ!!」

 

その声を聴いたとき、俺は部下に愛刀を渡した。

 

「え、アマネ中将!?」

「持っていて」

 

そして走った。エースと、ルフィと、サカズキ大将の元へ。ルフィを庇ったエースを突き飛ばし、そのマグマの拳を受けた。本当はサカズキ大将が次にどう動くのか分かっていた。刀を持って来れば、2発くらいならこの拳を止めることが出来た。それが俺の実力だと、サカズキ大将は知っていた。だからサカズキ大将は、

 

「なぜだ、」

 

そう声を出したんだと俺は思った。サカズキ大将が次の言葉を発しようとしたとき、その声はエースによってかき消された。

 

「兄貴ッ……!」

 

エースのその声に辺りは騒然となった。そりゃそうだろう。海賊以上に、海軍が驚くのだってうなずける。海軍では先頭切って海賊を倒しに行っていた。サカズキ大将の期待に応えるため、ガープの期待に応えるため訓練に力を抜いた日は一日もなかった。任務を失敗したことも、投げ出したことだって一度もなかった。俺はこの短いワンピースの世界の人生で、一度だってサカズキ大将の部下として恥ずべきことはしてこなかった。海軍として胸を張って歩ける人生を送ってきたつもりだ。だからそんな風に驚いてもらえてよかったと思う。

 

崩れ落ちかけた俺を抱きとめようと戻ってきたエースを突き飛ばす。いつも抱きしめると拒否るくせに、なんでこんな危険な時ばっかりくるんだよ。だったら普段もっと抱きしめさせてくれたらよかったのに。もっと本当は話したいことが沢山あったのに。エース反抗期になっちゃうからさ。

 

「はや、く、……ルフィ連れて逃げろ」

「なんで、兄貴刀持ってねぇんだよっ……!そんなボロボロの状態でくるんだよッ、」

 

でも死ぬ前にそんな風に泣いてくれてよかった。偉大な作者の元に作られたお前らに、俺と言う存在が大切な物であってくれてよかった。少しは悲しんでくれるだろうか。墓とか立ててくれるだろうか。もう一度抱きしめられて、俺の血で濡れるエースの手を見て笑った。

 

「初めてエースから抱き着いてくれたな。」

「っ……、」

「エースが生きてる。よかった。ホントに。顔見せて。」

 

あぁ、めっちゃ泣いてる。かおぐっちゃぐちゃ。そんな顔してくれるってことはさ、ちゃんと俺兄貴で来てたのかな。漫画で見てしまった大きな胸の穴はない。ちゃんと心臓の音が鳴っている。良かった。本当によかった。

 

「本当は、一緒の船に乗ってみたかった。白ひげの船でも、エースが船長の船でも、なんでもお前の楽しそうな姿が見れるなら、ずっと見て居たかった。エースの生きているこの世界の続きを見たかった。」

「兄貴、今から行けばいいじゃんか、海軍裏切っちまったんだし、一緒の船に」

「俺かっこ悪いからさ、悔いしかないよ。悔いばっかりだ」

「な、んで立ち上がろうとすんだっ!?傷が、ダメだ、動くなよッ」

「ごほっ……、泣けよ。死ぬんだから悲しめよ。忘れるなよ」

「わ、すれるわけないだろ!?」

「それでいい。忘れないでいてくれたらそれでいい。……行け、走れ、ルフィ連れて、ここは俺が止めてやる」

 

エースの身体をくるりと回し背中を押した。血ばっか出てくる口から呼吸を吸ってのどを鳴らせる。

 

「俺はお前を愛しているし、俺の知っている世界にはお前を愛する人間が何百万と居る。だから正々堂々と、海賊らしく、自由を求めて生きろ。未練も悔いも思い残すことも山ほどあるが、お前のために捨てる命に今も昔も迷いはねぇッ!!」

 

心臓ぶち抜かれてる体を起こし、サカズキ大将の目の前に立つ。さっきの一瞬の迷いを俺は見逃さなかった。すぐに怒りの顔に戻ってしまったサカズキ大将に拳を向けるふりをする。

 

「何故、何故裏切った。わしは、お前をッ、」

 

飛んできた拳を避けることなく受け止め、そのまま抱き着いた。サカズキ大将の身体が一気に強張る。そして、声が震える。小さくなる。キツく、抱きしめられる。

 

「……海軍大将に推薦しておったんじゃ」

「っ……、」

「なぜ刀を持ってこん、裏切るなら、きちんと裏切らんかッ……!!一度も勝てたこともないのに、お前にわしが傷つけられるわけもないのに、情けなんか掛けるんじゃない。殺す気で、かかってこんかッ……!」

 

サカズキ大将から零れ落ちてきた涙がうれしいと思った。裏切ってしまったと言うのに、そう思っていてくれたことを伝えてくれてうれしいと本気で思った。

 

「エースもルフィも海賊になってしまったから、だからこそ、サカズキ大将を裏切る時は、死ぬときだって決めていました。貴方の傍に居られたことは俺の人生の誇りです。大きな宝です。貴方を裏切って生きていくくらいなら死んだほうがマシです」

「バカ者ッ……、」

「サカズキ大将、俺知ってるんです。サカズキ大将が元帥になる未来を。相変わらず怖いんですけど、今の赤い制服じゃなくて、白いのを着るようになるんです。本当は、そんなサカズキ大将の傍に居る予定だったんです。……でも、そうはいかないから、最後に、お礼を言わせてください」

 

 

 

『大好きです。サカズキ大将。貴方の部下として死ぬことが出来て俺は幸せです』

 

 

 

その日、新聞は当たり前だがこの頂上戦争大きく取り上げた。白ひげの死。エースの取り逃がし。そして海軍中将の裏切り、サカズキの涙。一面を飾ったのは、正義のマントに突き刺さるマグマの拳の写真であった。

 

 

 

 

 

 

 





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