ロクでなし魔術講師と東方魔術剣士と禁忌教典   作:KAMITHUNI

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2本目です


血の記憶─────日常も好き

「─────ヒャッ!?」

 

 

外道は転ぶ。

 

 

「ひっ……!」

 

 

害悪は慄く。

 

 

「く、来るな……!」

 

 

塵屑は後退る。

 

 

「こ、こんなところで、死んで─────ヒィィィィィ!!」

 

 

下種は喚く。

 

 

「た、助けてくれェェェェエェェ!!」

 

 

─────あぁ、煩い。

 

 

静寂の支配する暗部の世界に響く絶叫は、誰の耳にも届かない。

小さくない裂傷を負い喚く男は、狭く闇色で満たされた路地裏で黒ずくめの男に刀の鋒を突きつけられていた。

 

 

小刻みに震えて、畏怖の感情に支配された男は身体中の至るところから鮮血を散らし、絶命寸前。

放っておいても勝手に死に至るだけの風前の灯火だ。

 

 

「─────煩わしい、死ね」

「ぁが、ハ……ッ……!」

 

 

だが黒ずくめは戸惑いなく切っ先を喉仏目がけて突き刺し、トドメを刺した。

嘔吐きながら痙攣する男は、醜く斃れる。

ドバドバと止まることを知らない血流は、石畳を赤黒く濡らす。

 

 

「まだだ……」

 

 

ポツリと呟く。

胡乱な紅瞳で刀身を振り払う仕草で血糊を払い、鯉口鳴らして鞘に納める。

 

 

「まだ足りない─────」

 

 

正気の失せた虚ろな情調で言った。

 

 

「寄越せ─────」

 

 

肉塊と化した男の腕を、ただの腕力で引き千切り貪りながら、そう言う。

凛々しい口元が血で濡れることを構わず、黒ずくめは◾️を喰い荒らす。

 

 

咀嚼し、血を啜る。

 

 

閑散とした中、ピチャピチャと口元で鳴り響く血塗れた肉を噛みちぎる物音が酷く醜怪だった。

 

 

「─────全部寄越せ」

 

 

月光が閉ざされた暗天は寂しく泣き、黒ずくめ─────◾️◾️◾️=サ◾️ラ◾️は低く唸り、獰猛に嗤った。

 

 

─────

 

 

「……」

 

 

閑寂。

少年は無面のまま、何をするでもなく、ただ無気力に桜の大樹を眺める。

 

 

黒水晶を思わせる澄んだ黒瞳は、どこか遠くに想いを馳せているようで気概が無い。

 

 

湿度の含んだ空気を肌に感じながら、少年は口を開いた。

 

 

「俺は誰なんだ……?」

 

 

ポツリと疑問を溢す。

 

 

「わからない─────」

 

 

なぜこんなところにいる?

 

 

「わからない─────」

 

 

そもそもここはどこだ?

 

 

「わからない─────!」

 

 

ほんとうに?

 

 

「っ! わかんねぇよ!!」

 

 

少年は幾度の自問に自嘲気味に憤った。

憤然たる気持ちが昂り、彼は拳を大樹に向けて振るった。

ただの八つ当たりでしかない、その行動で心が落ち着くことなく、何度も何度も……叩きつけた。

 

 

「◾️◾️◾️ー」

 

 

けれど、その腕は動きをピタリと止めた。誰かが彼を優しく呼びかけたからだ。

哀愁と聞き覚えのある朗らかな声音に、自然と意識が向けられた。

 

 

「……◾️◾️◾️」

 

 

もう顔も覚えていない少女の呼び掛けに呼応するように、忘我の果てにある彼女の名を呼ぶ。

憂いた感情が、また更に澱む。

 

 

「─────大丈夫だよ」

「ぁ……」

 

 

清廉で慈愛のある柔和な声が耳朶を打つ。

ふわりと優しく柔らかい感触が頭にかかる。

温和に抱いてくれる少女の懐かしい笑みと、彼女の甘い香りは少年の不安を取り払った。

 

 

「もう時間だね」

 

 

数秒か、または数分か……いずれにしても短い安寧の時は終わりを告げる。

娘は悲しげに笑ってソッと少年の頭を離す。

 

 

「またここで逢おうね」

「……っ」

 

 

手を伸ばす。

どうしてか声が出ない事象に、せめて行動で示すために、遠ざかる愛おしい人に縋ろうと躍起になる。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

いつもの調子で、◾️◾️◾️は微笑う。

 

 

「◾️ス◾️ーが、ちゃんと思い出せたら、その時こそはちゃんと話そうよ」

 

 

桜の大樹と◾️◾️◾️が遠くなる。

少年は知らず知らずのうちに涙を零すさして、首肯する。

それを見て、彼女は麗かに笑った。

 

 

「ほら、◾️ス◾️ー。行って?」

 

 

遥か無窮に広がる白色無明の世界にて、彼等は誓いの場所でまた邂逅しよう─────そう約束して、離れていく。

 

 

桜の花弁が無数に散って、桜吹雪が舞い上がる。

視界が桜色に染まっていく。

最後、ささやかに微笑った瑞々しい唇が何とも印象的に映った。

 

 

 

─────

 

 

「はっはっは!! リィエルの転入初日って、そんなにおもしろかったのかよ!」

 

 

昨日、記憶の曖昧な俺だったが、なんとか持ち直し今ではすっかり元気な状態で教室に入った。

その際、クラスメイトたちには非常に心配されたが、無事を伝えると皆一様に安堵してくれたのが印象的だった。

 

 

くそ! やっぱりみんな良いやつじゃねぇかよ!! 涙がでてくらぁ!

 

 

そして今は、変態カッシュと男の娘セシルと共に、昼食後の談話をしている最中だ。

 

 

「おうよ。リィエルちゃんはマジでぶっ飛んでるけど、すっげぇいい子だぜ」

「うん。だよね! 少し変わってるけど、お人形さんみたいで可愛いし、話しかけたらちゃんと返事してくれるしね」

(あのぶっ飛び姫がねぇ……くっくっく、ちょっとはおもしろいことになってんじゃねぇか)

「それにやっぱりシスティーナと違って怒らねぇし……」

「あ、カッシュ! それはわかるぞ! あいつ貧乳のくせに生意気なんだよな!」

「……いや、そ、そんなことないと思うですよ、はい」

「ん? 急にどうしたよ? 普段の仕返しのつもりで暴露しあおうぜ! システィーナは胸無しでうるさいオカン気質野郎ってな! その分、リィエルのほうが暴走するとヤベェけど俺的には好みだぞ。別にロリコンじゃねぇけどよ」

「そうね。よほど死にたいのね、ケンヤ」

「そうそう。俺は死にたくないから、許してくださいフィーベルさん」

「ふふふ」

「ははは」

 

 

背後から聞こえてきた冷め切った声音に、背筋が凍りつく。

もはや乾いた笑いしか出てこない事態に、向き合っていたカッシュとセシルは引きつった顔をしていた。

はい、死にました(吐血)。

 

 

「いやいや! まだだ!! 俺だけ死ぬなんて不公平は許されない!! 男の絆はミスリルよりも硬度なもので結ばれてるんだ! な? カッシュ!」

「おう! ケンヤはいつもシスティーナを怒らせてばっかりだからな! 少しは反省しろよ?」

「おまっ!? 男の友情を即決で断ち切りやがっただと!?」

「バカヤロウ! そんなやっすい友情なんかで命をかけられるか!」

「クソッタレ! 絶交だコンニャロォォ!!」

 

 

地団駄を踏む。

クソッタレ! カッシュめ! 自分だけ保身に走りやがって! 今度の課題、ゼッテェ見せてやんねぇからな!!

 

 

「もういいかしら?」

「いやいや! まだまだまだぁ!! 俺は簡単には死なんよぉ!! ね? セシル! 俺たちは最高のズッ友だよな!」

「うん。ケンヤくんはいい加減反省したほうがいいよ。この前、システィーナさんのノートによくわからないピンクボールの魔物を描きまくってたの、僕は知ってるからね。しかも無駄にクオリティ高くてビックリしたよ!」

「セシルゥゥゥゥーーー!!」

 

 

机に頭を思いっきり叩きつけた。

コイツァ!! なんてこと暴露してやがるぅ!!

しかも見られてたのかよォォ!!

 

 

「へぇ……」

 

 

美麗に微笑った顔なのに、眼が笑っていない。完全に殺人犯の目だぞ、アレ……。

違うんです! ちょっとした出来心だったんです!! グレン先生が俺を誘うから! 誘うからァァ!!

 

 

「もういい? これ以上罪を重ねる前に、死んだほうがいいんじゃないの?」

「いやいやいやいや! まだまだまだまだぁ!! 俺はぜってぇに死なんよぉ!! な? ルミア! 俺はオマエに幾度となく救われてきた! もう、貴女に頼るしか俺が救われる道がないんだ!! 頼む! 助けてちょ★」

「うん。ごめんね? 流石に擁護できないから大人しくしていようね?」

「堕天使ィィイィィィ!!」

 

 

壁に頭を数度叩きつけた。

クッソォゥ!! ルミアめ! 可愛い天使の微笑みで、簡単に見捨てやがった!

ちっくしょう!! めちゃんこ可愛いじゃねぇかァァァア!! 許しちゃうゼェェ!!

 

 

「そろそろめんどくさくなってきたんだけど……」

「辟易するぐらいなら、制裁やめてもいいのよ?」

「気持ち悪いからやっぱり殺すわ」

「ヒィッ!?」

 

 

ちょっとした遊び心じゃん!! そんぐらい許してよ! 茶目っ気出すことすら許されない人生なんて、狂ってる!!

 

 

「くっ! こうなったら、新参者のリィエルに頼るほかねぇ!! 頼む、リィエル! 俺を救ってくれ!」

「……(モグモグ)」

「……」

「……(モグモグ)」

「……何食ってんの?」

「ん、苺タルト……コレ、おいしい……」

「そ、そうか……そりゃよかったな」

「ん」

 

 

会話終了。

Oh, ここまでのマイペースさんだとは、さしものケンヤさんも気付けなかったのですよ。

しかも出会ってからずっと無表情だったのに、苺タルト食べる時だけ、少しは可憐に笑えるのな……。

ふ……、可愛いじゃねぇかッ!!

 

 

「で? 言い残すことはある?」

「……案外ロリってありだなって、初めて思いました」

「うん、キモいから取り敢えず……【このおバカァァァ】!!」

「ギャァァアァァァア!!」

 

 

はい、死にました(吐血二度目)。

至近距離からのゲイルブロウとか、マジで洒落にならん。痛すぎてようわからん。

これを常日頃から受けているグレン先生の頑丈性がはっきりわかんだね!

 

 

 

 

 

と、いった日常の一ページを綴ったところで、話は放課後のホームルームに移り、『遠征学習』の話になる。

 

 

「白金魔導研究所ねぇ……」

 

 

目を眇えて、ポツリと呟く。

他のクラスメイトはもっとマシな研究所に行きたかっただの、レポートが多すぎるだろうだの、リィエルはマジで萌えだの、ルミアは天使だの、システィーナはゴメンだの、テレサに抱擁されたいだの、ウェンディに罵られたいだの……ふ、全部俺の願望だったか。全く、俺は本当に罪な男だぜ。

 

 

だが! 俺は色々あってあらゆる都市、あらゆる地域を渡り歩き、旅をしていた流浪者!

そこがどんな場所か、おおよその地図ならこの頭の中にある!!

 

 

「あぁ……白金魔導研究所かぁ。今回はハズレだな」

「ふ、甘い。ショートケーキに角砂糖を十個程載せた時ぐらいに甘すぎるぞ、カッシュ!」

「いやに具体的だな……経験談か?」

「うん。アレはやめとけ、マジで吐く」

「そんなこと誰もやんねぇよ!」

 

 

ただでさえ甘いショートケーキに角砂糖乗せる時点で頭沸いてる邪推なる行為だが、敢えて足を踏み外してみた結果が、悪夢だった。

みんなも真似するなよ? 一週間は口から甘味が消えなかったからな。

 

 

「話が逸れたけど、甘いぞお前ら」

 

 

俺は嘲笑しながら、帝国の地図を取り出してカッシュたち男子生徒に見せながら得意げに言う。

 

 

「白金魔導研究所があるのは、ここ……サイネリア島だ」

「な?! さ、サイネリア島……だと!?」

「あ、あのリゾート地としても有名な、あの! サイネリア島か!?」

 

 

華麗に笑いながら、首肯する。

 

 

「そうだ、美しいネェちゃん達の水着がいつでも拝める、あの! サイネリア島だッ!!」

 

 

自信満々に言い放った言葉に、男子生徒一同は一斉に声を揃えて感嘆した。

 

 

「ふ、流石だなケンヤ……俺の弟弟子なだけあって、俺の神選択にいち早く気が付いたか」

 

 

ついで、グレン先生も自信に満ちたキメ顔で微笑った。

キラリと光る白い歯が眩く輝いているようだ。

 

 

「あぁ、本当にアンタは神だ……流石は兄弟子。俺は本気でアンタを尊敬し、崇めるぞ」

 

 

ガシッと強く掌を掴み合う。これぞ何者にも断ち切れない最硬の兄弟愛! もはや、俺たちの行く末を妨げるものなど、誰一人としていない!!

 

 

「ウチのクラスの美少女レベルは、他クラスを圧倒的に超越している!! だからこそ─────!!」

 

 

俺とグレン先生は同時にクルッと半転し、背中を向けて語る。

 

 

「─────女子の水着姿を存分に拝もうぜ!! お前ら! 俺らの背中についてこい!!」

「そうだ! 波際で水着が流される最高のラッキースケベであるポローリも期待すんぞぉぉ!! 野郎ども、射影機の準備は十分かぁあ!!」

「「「「ヤァァァァァァァァァァアァァァアァァァアァァァアァァァアァァァアァァァア!!!!」」」」

「そら! MI・ZU・GI! MI・ZU・GI!」

「「「「MI・ZU・GI! MI・ZU・GI!」」」」

「ほら! PO・RO・LI! PO・RO・LI!」

「「「「PO・RO・LI! PO・RO・LI!」」」」

 

 

狂乱した俺たち男子勢は、この後、冷ややかな女子生徒達の視線を受けて立ち直れないことになるのだが、それはまた別の話。

 

 

「……なんの話?」

 

 

ただリィエルだけは、?を浮かべて首を傾げていたそうな……。

うん。純心っていいよね! その心、大事にしようぜ!!




前回に引き続き、前書きが適当な件についてはツッコまないで!!
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