身代わりの土地神様   作:凍傷(ぜろくろ)

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エピローグのあとのプロローグ

 この世界には平和の象徴と呼ばれる存在が居る。

 笑顔を絶やさず人を救い、その笑顔と実力が、悪の増長を許さない。

 遠く離れていても駆けつけて、様々を解決し、泣いた子供を笑顔にした。

 

  子供なら誰だって憧れた。

 

 たとえ、持って産まれた個性が犯罪向きだろうと、4歳まで友達だったヤツが、掌返して「お前って“敵”(ヴィラン)向きだよな」って見下し、笑おうと。

 ヒーローごっこをする時に、「お前個性が“敵”(ヴィラン)っぽいから“敵”(ヴィラン)役な」と、じゃんけんさえさせてもらえず敵役になってしまおうと、憧れってやつは捨てきれないものだ。

 ヒーローを目指す、個性さえヒーロー向きのヤツが、笑いながら、見下しながら誰かをボコろうと、俺はそんなヒーローになんかなってたまるかと半ば意地になって。

 そう……人は産まれながらに平等じゃない。そんなことを、この世界に産まれた子は4歳にして思い知るんだ。

 どれだけ強い正義を胸に抱こうが、どれだけ英雄って存在に焦がれようが───社会が“敵”(ヴィラン)を作っていく。

 

  だからヒーローが必要で、ヒーローが居るから“敵”(ヴィラン)が生まれる。

 

 そこで見下さず、一切の曇りもない正義が手を差し伸べ、一緒に目指そうと言ってくれたなら、どれだけ救われたのだろう。

 今さら社会の所為にするつもりはない。そういう人物が居るってだけで、俺が“敵”(ヴィラン)だと言われたわけでもない。……その資格すらなかった。

 だからといって、届かない思いも言葉もどうしようもなくあって、叶わないことだっていう現実さえも、とっくに知っているのだから。

 そんな自分だからこそ、自分って存在(もの)を軽く思える時がある。

 たとえば周囲に期待されてちやほやされているヤツは、ここぞって時に自分が生きていなきゃどうするんだって躊躇をする。

 けど、蔑まれて見下されたヤツほど───自分の中で口に出せず、正義を温め続けたヤツほど、その一瞬に正義を燃やす。

 

  自己犠牲。

 

 躊躇するヤツに“正義”は向かない。

 無謀だの自殺志願だのと言われようと、そこで踏み出せなきゃ“居る意味”がないのだから。

 助けられる助けられないじゃない。(たす)けようと踏み出せるか、踏み出せないかの問題なのだから。

 でも、そこにはいつも結果がついてこないことも知っていたから、俺は怒られながらも反論はせず、感謝もせず、とぼとぼと歩いたのだ。

 4歳までは確かに大親友だったそいつが、手放しに褒められる世界を背に。

 

「………」

 

 人は産まれながらに平等じゃない。

 そんなことは、個性を持たずに産まれた俺が……一番とは言わないまでも、理解はしていた。同年代の奴らよりは、よっぽど。

 それでも憧れてしまったんだからしょうがないじゃないか。

 

「…………っ」

 

 それでも。

 どれだけ強く想いを焦がしても、届かない現実があることも知っていた。

 落ちる夕日を睨みながら、拳をぎゅうっと握り締めながら。

 いつかのために体を鍛えて、無個性でもきっとなれると信じながら、周囲に馬鹿にされながらも、勉強も運動も頑張った。

 けど……どれだけ優秀な成績を修めようと、ヒーロー科に踏み出してしまえば、待っているのは個性ありきの世界だ。

 個性無しで一位を取っても、世界は無個性を認めない。

 悔しくて泣きそうになることなんて何度もあった。

 それでも泣かずに上を向いて来たのは、自分の父親も無個性だったからだ。

 父は俺に、無個性でも目指せた世界を聞かせてくれた。

 俺はそれに純粋に惹かれ、今もそれを信じている。

 現に父が経営する居酒屋には父の知り合いがたくさん来て、そのどれもが超がつくほど有名なヒーローだったからだ。

 

「……、泣くな。泣くなよ……! ちくしょう……泣くなっ……!」

 

 俺は、父を疑わない。

 俺は、母を疑わない。

 けど一度だけ、どうして無個性に産んだんだって言ってしまったことがある。

 個性のことで大親友に見下され、喧嘩別れした日のことだ。

 父は言った。「その目で。無個性だからこそわかる人の醜さを知ってほしかった」と。

 母は言った。「あなたが目指すものが、一滴の水を指から出すことが出来ない程度で……その程度で変わってしまう世界なのかを知ってほしかった」と。

 俺は言った。「無個性だった所為で友達と喧嘩した」と。

 でも、わかったこともあるのだ。個性がないと知っただけで掌を返して見下す存在は、果たして自分を本当に、友達だなんて思ってくれていたのだろうかと。

 喧嘩した、と口にするのに、涙が止まらなくて、父と母に抱き締められながら泣いたいつかを今も思い出せる。

 本当はわかっていたのかもしれない。

 

  だからこそ教わった。

 

 持って産まれたものは変えようがない。あったとしても、それは大事なことだったのだと。

 俺は必要なかったから個性がなかったのだと。

 個性を持てば、俺もかつての親友のように他者を見下していたのかもしれない。

 それを想像すれば、ひどくあっさりと無個性を受け入れられた。

 そんな単純な自分に声を出して笑ったあと……そうなってしまった親友を想って、声を出して泣いた。

 望まなかったものを掴まされてしまった者も居る。

 それを手にしてしまったために、他にもあったであろう選択肢を簡単に捨ててしまえる人も居るのだと。

 でも、俺は無個性であるからこそ選択できる世界を捨ててでも……ヒーローを目指したかったから。

 その考えに到ったなら、両親を責めることはお門違いだと頷けた。

 俺は俺の意志で、俺が目指したいから無個性でも英雄を目指そう。

 

「泣かない……泣くもんか。夢を叶えるまで、俺は───っ……」

 

 だからどうか。

 その道が険しくとも、いつか夢が叶う時まで強くあろう。

 

「泣くのを我慢する必要はないよ、堤治くん」

「え───」

「どうしてって? ───私が来たからさ!!」

 

 挫けぬ心を燃やし、絶やさず、努力を惜しまずに……生きていけますよう。

 そう願いながら、ようやく。

 

「君の中の輝き。この目でしっかり見せてもらった。もう大丈夫。───君は」

 

 平和の象徴が夕日を背に立つ世界で───

 

「───君は。ヒーローになれる」

 

 親友と喧嘩して以来、ようやく……我慢してきた様々を吐き出し、泣けたのだ。

 

 “架空(ゆめ)”は“現実”に。

 

   “絵空事(みえ)”は“希望”に。

 

  “自慢話(うそ)”は“真実”に。

 

 ……言い忘れてたけど。

 これは俺が最高のヒーローになるまでの物語だ。

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