明けて翌日。
雄英には入学前に被服控除申請っていうのがあって、いわゆるヒーローコスチュームっていうのを作ってもらうんだけど……これが結構難しい。
自由がウリの校風と相澤先生は言うけど、自由なのはあくまで先生であって生徒は受難をもたらされるだけである。
なので、せめてもの自由がこの被服控除。
自分でデザイン、考案した服を作ってもらえるってんで、かなり悩んだ。
けどヒーローとは時に派手に、時に優雅に、時に美しく、時に豪奢に!
なのでいろいろ凝ってみたっけ……こんなことになってしまったがね……。
「ち、チガウヨ? ほら、マントはヒーローの基本だし、綺麗さも必要だし、でも学生であることも忘れちゃだめだし、ならちょっぴりそれっぽく……とか思ってたら……!」
ファンタジーの魔法学校とかで貴族の女子生徒が着てそうな、白と七両染の色が基準のマント付きのコスチューム。コスチュームっていうか、普通に服にしか見えないけど、耐久力に優れておりますし耐熱耐冷完備で、微量ながらショック吸収素材も使われているのです!
どうせ作ってもらえるなら凝らないともったいないじゃないですか!
あ、べつに頭にはなんもつけてません。髪留めくらいです。
「パイスラ、エロイ……!」
確かに左肩の肩当から胸の間を通らせて、右胸を支えるような形でベルトが通ってますけど! ますけど!
パイスラとか言わないでくださいこのエログレープ!
もっと見る場所あるでしょうが! ほら、この意匠、相当細かく指示を書いて、しかもきちんとその通りになっちゃったりしてるんですよ!?
匠の業ですよ本当に!
「そのマント……ヤバいね。とても素敵な意匠だと思うよ☆」
「おおっ……キミは確か……剛昌くん!」
「青山優雅だよ」
「でもヒーローっぽくはないよねー。ファンタジー学園ものの制服みたい!」
「オゴァ!?」
クリティカル! 言葉の竜槍が私の胸にゲイボルグ……!
る、るーちゃん……! 実は気にしてることを、なんでそんなあっさり……!
てかるーちゃん裸やん! 手袋と靴穿いてるだけやん!
え? 違う? 光学迷彩? 光の調節でそう見えるだけ? ……うそだ! 絶対うそだー!
「では早速始めよう!」
オールマイトの声で、全員がビッと意識を切り替える。
……そう、今はオールマイトが先生の授業。
午前は必須科目で、プレゼント・マイクが英語の授業を執ってたりした。
いやー、すごかった。リピートの時のクラスの一体感。
受験前での飯田くんとのやりとりが効いたのか、かっちゃん以外は叫んでたと思う。「エブリバディセーイ!」「国埼最高ー!」ってくらいに。
昼が来れば大食堂で一流の料理を頂いた。
クックヒーローランチラッシュの料理……最高でした!
「白米に落ち着くよね最終的に!」って言葉もよーくわかります! 日本人ならお米ですよね!
雑穀米がどうとか健康がどうとか言うけど、安心感がありますし! なのでその感動を、噛みながらも伝えつつ、料理の勉強をさせてくださいってお願いしたら、サムズアップで一発OKでした。
そんなわけで今は午後の授業。
個性と要望を元に作られた
「せんせー! ここって入試の時の市街地演習場だけど、またここで仮想敵と戦うのー?」
「(先生……!)いいや! 今日は二歩先に進んだ訓練を行なう! 屋内での対人戦闘訓練さ!」
「おお……試験が屋外無人機戦闘訓練だったことに対し、今度は屋内……! 行動範囲を狭め、さらに対人での立ち回りを考えなければならないという、確かに二歩踏み込んだ訓練と言える……!」
「飯田くん……考え方が深いね……」
「雄英生たるもの、やはり一歩先を想定していかねば! 更に向こうへだ!」
るーちゃんも結構思い切って質問していくなぁ。私ももっと踏み込んだほうが友達出来たりするでしょうか。
……い、いや、今はまだいいや、たぶん友達が出来すぎてもテンパるだろうし。
「というわけで君達にはこれから、基礎を知るために2対2の屋内戦闘を行なってもらう!」
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ブッ飛ばしていいんスか」
「相澤先生の時みたく除籍処分とかありますか……?」
「2対2の条件とは、どういった方法で分ければいいのでしょうか!」
「このマントヤバくない?」
「お、オールマイト。私のマント、ヤバくないですか……?」
「んんんんん~!! 聖徳太子ィイイーッ!!」
質問してみたらみんなの質問も殺到した。
オールマイトに“マントは平気さ!”って言ってもらえたら、安心できたんだけど。
しょうがないです、ここは自分に自信を持っていきましょう。
オールマイトがカンペを出して、そこに書いてある文字をしっかり読んでいく。
内容はもちろん戦闘訓練の条件。
まずくじで二人一組のペアと作って、さらにくじで敵役とヒーロー役をペアごとに決定。
ビルの中に用意されたハリボテを核兵器として、ヒーローはそれに触れるか、敵側2人を確保テープで縛ってしまえば勝利。
逆に敵側は制限時間いっぱい、核兵器を守り通せば勝利。あ、敵側も確保テープでヒーロー側を捕らえていいそうです。
やる気出てきました!
さあくじだ! 誰がコンビでも全力でやるだけさ!
さあ誰だ! どんなヤツでもかかってこい!
「………」
「………」
カッチャーン……。
……。
ショックで停止している内に、組み合わせが完了しました。
第一訓練、私とかっちゃんVSイズクンとティーちゃん。
『それでは位置についたところで始めよう! 屋内戦闘訓練! 開始!』
「……ハッ!? あ、かっちゃん、さん」
「アァ!?」
「ひぅっ! ……あ、あの、遅くなった、けど……守り方、などを……」
「守る……? 必要ねぇなぁ……! 俺が突っ込んで二人とも確保で終了だ!」
「え───ま、待って……! それは───!」
「るせンだ臆病者は怯えてろや!」
叫ぶなり、ゴシャーと走っていってしまった。
ああ、ああ、もう……! どうしてあの人はこう……!
どうせ今だって、走ってった先でイズクンを見つけてオラ死ねやデクーとか言って右の大振りやって、読まれて投げられて叩きつけられて確保テープを───
『爆豪少年! アウトー!!』
「ああああああああああっ!!」
信じらんないなにやってんだあの人!
流れるように、私が考案してた対かっちゃん用確保作戦が決まったとしか思えないこの速度!
もうやだー!! うわーんもうやだー! 早くも一人だー!
「だだだだめだ……ヒ、ヒーローは立ち向かうんだ……! あ、相手は
『……なんか……ガンバ、若那くん』
マイクを通してオールマイトに応援された。……泣いた。
と、とにかく核に触られたら負けなんだから、ここにある障害物を並べて……よし。
ティーちゃんの個性は浮かせるものだから、たぶん自分も浮かせられるだろうから……上ががら空きなのは問題です。
じゃあここはこうして、ここは───……はうっ!? 人の気配!?
わ、私の人見知りセンサーがとっても敏感に反応してる……!
(ふふふ……! でも、このマキシマムスパイダー作戦なら、イズクンがワン・フォー・オールを30%で使ったって負けるもんか……!)
さあ来るがいいヒーローよ! 敵はここですよ!
イズクンのことだから、まずは様子見でソッと中を覗くだろうから───って早速来た!
「……麗日さん、ぼ」
「確保ー!!」
「ええええええええーっ!?」
イズクンがソッと入口から顔半分だけを覗かせた瞬間、自分の周囲を確保テープでがんじがらめにしていた私は身代わり転移を発動。
あとは入り口前に無造作に置いてあるテープの先端を引っ張れば、キュッと確保だご飯が美味しい! 然らば掲げよピースサイン!!
『緑谷少年! アウトー!!』
「ふっ、ふははははは! やった……やってやったー! さあ覚悟しろティーちゃん! 今の私はヴィランだぞー! がおー!! ───って居ない!? ……上か! 早い!」
「解除っ! えっへへー、いただきだよ若那ちゃん!」
「さらば身代わり!」
「え? っとと!? あれっ!? 床!? ───これが若那ちゃんの個性……!? 強制転移とかなんかすごい! すごくてずるい!」
「うぶべっ!?」
「……あ。強制転移っていうか、場所の……交換?」
心の準備もないまま身代わり転移をしたから、顔から壁に激突してしまった。
対ティーちゃん用に用意しておいた、高い位置にある壁である。
「いやっ、それより核を!」
「させません! 正義の前に立ちふさがるのがヴィランの仕事! 仕事なら達成しなきゃ嘘なのです!!」
「若那ちゃん! ……鼻血出てるよ!?」
「偉い人は言いました! 青春の汗です!」
「それ別の意味と違うの!?」
そんなことは知りません! 知っていても無視です無視!
なので飛び降りて、ティーちゃんを捕らえるつもりで手を伸ばす。
と、なんでかティーちゃんまで手を伸ばしてきて、手四つ状態に……!
「このっ、う、うー……!! 若那ちゃん、意外に力ある……!」
「フゥフワハハハハァ……! 悪であるからにはなんかどっかで正義に勝って困らせなきゃいけないのだ……! 海浜公園のゴミを持ち上げて鍛えたこの筋肉……今こそ存分に披露してあげます……!」
「海浜公園、って……あの多古場の!? あれ若那ちゃんがやったん!?」
「ア。イ、イエ私ダケジャナク───」
「隙ありぃ!」
「ホワァずるい!! ヒーローずるい!! させるかー!!」
泥試合ってこういうことを言うんだと思います。
あくまで通せんぼをすれば、ティーちゃんも確保テープを取り出します。
当然私も。
そうして悶着しても、お互い腕を取っちゃえば拘束なんてできないわけで。
「ふんぬぬぬぬぬぬぅううう……!!」
「~……! 若那ちゃっ……ほんと、力つよっ……! ま、まっする……!」
「マッスル言うなー! 乙女にマッスルとは何事ですかお茶子ちゃん!!」
「隙ありぃ!」
「うひゃあ!?」
脚を払われた。
けれどそれが勝敗を決めた。
私は堪えることなくそのまま身を斜にして、その状態で身代わりを発動。
ティーちゃんと入れ替わって、急に倒れた自分に驚いたまま固まるティーちゃんを、しっかりと確保した。
『うん! OKだ! ヴィランチーム! WIIIIIIN!!』
「~……」
辛っ勝っ……!!
もう、もうやだ……! とりあえずアレですね……! バクゴーオヴかっちゃんは、たっぷりオールマイトに指導してもらおう……!
「はぁ……ごめん、麗日さん……まさかこんな方法で来るなんて……」
「仕方ないよデクくん。それよりこっちこそごめん、一対一でフツーに負けちゃって……」
「日々の修行の賜物です。ティーちゃんも体鍛えなきゃ。あ、ごめんねイズクン、今テープ剥がすから」
「あ、うん、ありがとう、若那ちゃん」
「……ティーちゃんはもうちょっとそのままね」
「なんで!?」
「乙女にマッスルって言った刑」
「“太ってる”って言われるよりいいと思うよ!?」
うるさいのです。
ああもう、鼻血が邪魔です、もうダメージ自体はお母さん側の個性で癒えましたし、拭って終了です。拭って……ぬぐ……───せっかくのコスチュームが汚れるのは癪です。顔が洗えるところまでは我慢しましょう。
笑われたって構いません。
……。
第二、第三と戦闘訓練は続いた。ていうか轟くんすごい。
氷で凍らせてはい終了狙いってとんでもない。
でも相手の芦戸さんも氷を溶かして頑張ってた。
まさか溶かされてるだろうとは思わず、油断して普通に歩いてた轟くん、危うく確保されるところだったし。
でもなー、体から氷が、とか、確保できるかーってやつですよね。
後ろから両手封じてかかったのに、半身から冷気出されて凍らされてちゃ、確保不可能だもの。
MVPは芦戸さんだった。
逆に轟くんは一撃必殺を狙いすぎて、外したあとの接近戦に弱いところを指摘されてた。
そうして順に順に終了していって、やがて授業も終了した頃。
1-Aの教室では反省会が行なわれて……かっちゃんは音もなく逃走した。
オールマイトが追っていったからダイジョブ。男の子には泣きたくなる時があるそうだ。そこに女が行くのは無粋です。
なので、人に慣れるためにもこの反省会で友達を作って……!
つ、つくっ、ふくっふぇ……!
「アワワワワワワ……!!」
「若那ちゃん!?」
「身代祇くん! どうしたんだ!? 物凄い震えているぞ!?」
「飯田くん……それにみんな。実は若那ちゃんは、その……人見知りってやつで……」
「あー……そういえば声かけただけでもすっごいびっくりするよね」
「透ちゃんに声をかけられれば、大抵の人はびっくりすると思うわ」
「あはははは! 梅雨ちゃん辛辣!」
るーちゃんは大らかだなぁ。
対して、カエルみたいな女の子……蛙吹梅雨ちゃんは、思ったことはズヴァっと言えちゃう人みたい。
芦戸さんもマイペースな人だし、切島くんは漢気一本道って感じ。
砂藤くんは……コスチューム見てキン肉マンみたいな人だって思った人。
A組は個性的な人がいっぱいだ。たぶん私も。
よ、よし、まずは話せるようにならなきゃです。
自己紹介から入るべきでしょうか、それとも……!?
「えっと、身代祇さん、っていったっけ」
「ひゃ、ひゃいっ! 身代祇若那デス!」
声を掛けられたら、勝手に裏返った返事をするこの喉がうらめしいです。
振り向いてみると、尻尾の生えた短髪の人が。
たしか……尾白くん。
「あ、あのあのあわわ……おお、おじ、おじろ、くん、でしたよね……!?」
「そ、そうだから落ち着いて……!」
いきなり落ち着けと気を使わせてしまいました……! 私ってやつは……!
「それで反省会だけどさ。正直見学側は声とか聞こえないから、なにがあったのかとかイマイチわからないんだよな」
「そーそれ! 声くらいいいじゃないのさ! ねー!?」
切島くんの言葉に、芦戸さんがまったくだとばかりにノる。
かっちゃん側なんて聞こえなくてよかったと思いますよ? きっとイズクンにやられたってだけで、半狂乱だったでしょうから。
あ、若那のコスチュームに関しては、花騎士のマンリョウ(ジューンブライド)をどうぞ。ていうかそもそも頭の中の若那のイメージがマンリョウそのものです。
ググると画像も一緒に見つかると思うので、花嫁衣裳じゃない方を参考にどうぞ。
口調は落ち着いている時はマンリョウ(花騎士)、慌ててる時はゆんゆん(このすば)みたいな感じ。