雄英への登校生活が始まり、少しののち。
朝の登校時、ガッコの門の前に人だかりが出来ているのに気づいた。
「うわ……マスコミだ……」
「うぜぇ……蹴散らすか」
「だめ……です、よ、かっちゃん……」
今日はかっちゃんも一緒の登校。というか、一人で突っ走って相方の私に迷惑をかけました罪で、しばらくは言うことを聞いてもらってます。
じゃなきゃ気が済まないって、他ならぬかっちゃんが言い出したから。
「あっ……ちょっといいですか! オールマイトが雄英で教師をしていることについて、是非お話を───!」
話しかけられた途端、うわちゃー、こういう人たちかー、って溜め息が出ました。
かっちゃんは私が捕まっているうちにさっさと行っちゃって、イズクンはかっちゃんと私とを交互に見て、残ってくれました。
「……どんな話が、その、聞きたいん、です、か……?」
「ズバリ! オールマイトの授業って、どんな感じです?」
「普通、です」
「普通って、どんな基準で───」
「一般基準、です……。No.1ヒーローが……教師を、するって……いっても……。やることは、他の先生と……変わりません、から……」
「……あ、あー……なるほどー……」
「では平和の象徴が教壇に立っているということで、様子などを聞かせてください!」
「笑顔を絶やさないで……筋肉と、画風、が……すごい、です……」
「なるほどなるほど、では教師オールマイトについてどう思われますか?」
「……教師になった、オールマイト……です」
(((そりゃそうだ……)))
「ところで是非オールマイトに直接インタビューしたいんだけど……話とか通せないかなぁ。ね? ちょっとでいいんだ」
「無理です」
(((どもってたのに、ここだけキッパリ……!!)))
「や、そこをなんとかさぁ!」
「直接会ったら……話だけでは、終わりません……よね……? 次のアポを取ろうと、したり…………ん……取れるまで、引かなかったり」
少しずつ、感情が人見知りを食っていく。
怯えている場合じゃないとばかりに、苛立ちと一緒になって。
「……あなたがたが、そうして多少強引にでも進まなきゃ、仕事にならないの……わかります」
「で、でしょ!? そうなんだよ! だったら!」
「……でも、オールマイトがしていることも……仕事です。それの妨げになるなら、そういうの……よくないと思います」
「いや話を通してくれるだけでいいんだって! ね!? 頼むよ!」
「……。No.1ヒーローだから、声さえかければ応えてくれる。応えなかったら所詮そんなもの。……勝手、ですよね」
「……は?」
ヘラヘラしていた男性記者の顔が、途端にひきつった。
人を見下す目になって、もう顔から「ンだよこいつ」って言葉が飛び出して見えそうなくらい。
そうなると、私の心も冷たくなっていって、対他人というよりは、対どうでもいい存在へ向けるように冷えていくばかりだった。
「あなたたちはいつも、自分にとって都合のいい“完璧”を求めますよね。前線で死ぬ思いをしてまで頑張ったって、そこに満足いく結果がついてこなければいつだって責任問題がどうとか」
「は、はぁ? いきなりなにを───」
「お金を払っているんだから、それがヒーローなんだからって言うなら……もしあなたが傷ついて、動けなくなった時。それを助けられるのがあなたの心無い記事で傷ついたヒーローしか居なかったとして、お金なんていらないから俺はお前は助けないって言われたら、あなたはどうしますか?」
「っ……」
「貴方たちはお金をもらって、書きたい記事を選びます。食い付いて、やめてくれっと言っても聞かず、それが世間が知りたいことだからって、自分で向き合わないで世間を盾にして。……情報が得られなければ怒りますよね? お高くとまってんじゃないって、今も心の中で思っています……よね。じゃあ……あなたの全てを教えてください。やってきた善行も、やってきた汚いことも、全部……お金なら払いますから。それが世間が知りたいことなんだからって、そうやって理由を用意されたらできますか? ……できませんよね。こう言われて出来ることなんて、雄英の生徒とは思えないだの、ヒーロー志望とは思えないだのと書くことくらいです」
「ちょっ……若那ちゃんっ……! 言い過ぎだよっ……!」
「いィや間違ってねぇ……! 言いたいこたぁ俺も同じだ……!」
「かっちゃんまで!? ていうか戻ってきたの!? わざわざそれ言うため!?」
「鞄置いてきただけだいちいち騒ぐなデク! ……いちいちぐちぐち人に纏わりついてきやがってハエどもが……! 前のヘドロ野郎の時といい、鬱陶しンだよハエどもがァ……!」
「ハエども二回言った!? どんだけ鬱陶しかったのかっちゃん!」
珍しく意見が合って、記者やカメラマンが組む報道陣をねめつける。
と、そこへ「もめごと起こすな馬鹿」とやってくる、相澤先生。
「教師の方ですか!? オール……小汚っ!?」
「あの、ちょっとでいいんで話を……小汚っ!?」
でもその小汚さを突っ込まれ、むしろ引かれてました。
「オールマイトさんは今日は非番なんですよ。授業の妨げになるんでお引き取りください」
「ちょっと! 一言くらいくれたっていいじゃ───」
「………」
「………」
「ぐっ……!」
都合のいいことを言い出した記者を、私とかっちゃんとで黙って見つめた。
あえて無表情で。
それでも食い下がろうとする報道陣に、相澤先生が。
「おたくらが何日張ろうと、それが仕事なんだから仕方ないかもしれませんがね。それで欲している情報が得られるかどうかに、教師も生徒も関係ありませんし、個人情報を喋る理由にも繋がらんでしょう」
「なんでも喋って誰でも通すようなガッコに子供預けんのがこの時代の在り方ってか? 他人の情報探る前に、じゃあ自分の情報世間様に全部公開してみやがれってんだよ。どうせ今も、なにか失敗やらかしたら覚えてやがれくらいしか考えてねぇんだろうが。あぁ?」
「……! ……!!」
ちょっ……かっちゃん! かっちゃぁーん!! 記者の人、コメカミがすごいバルバルなってるからやめて!
覚えてろよクソどころじゃなくて、コノガキブチノメーションってくらい顔がすごいことになってるから……!
「仕事柄、情報よこせと言われてはいどうぞってわけにもいかないんですよ。こっちの仕事が報道陣からカメラとメモを奪うのが仕事で、くださいな、はいどうぞってわけにもいかないのと同じように」
「それはちょっと違うでしょう! こっちはオールマイトから一言が欲しいだけで───!」
「一言を聞けば二言を求めるのがあんたらだ。違いますか?」
「じ、自分たちはそんなつもりは……な、なぁ?」
「へ? あ、ああ……」
「───」
「? ───お前」
一言でいいのなら、と。
私は隠れてスマホをいじくり、それをサッと相澤先生に渡す。
丁度それはオールマイトとテレビ電話状態になっていて、オールマイトが出るのと同時に相澤先生が報道陣へとそれを翳した。
『私が───テレビ電話に出た!!』
そして、大変珍しいプライベートナンバーでの呼び出しで、“友達モード”のオールマイトがテレビ電話に応答してくれた。
とっても元気な笑顔で、しっかりとマッスルフォームで。
「おおぉっ! オールマイトだ!」
「本当にオールマイトだ!」
「写真撮れ写真! カメラ回せ! しっかり回せ!!」
『ややっ!? これはいったい……!? ……おや? 相澤くんかい?』
「あー……すいませんねオールマイトさん。ちょっと事情があって、報道陣がどうしてもオールマイトさんから一言が欲しいっていうんで。というわけで一言お願いします」
『一言……なるほどね! お安い御用さ! ───というわけで記者やカメラマンの諸君! さらにはカメラの前のキミたち! ───私がテレビ電話越しに撮影された!!』
「「「おぉおおおおおっ!!」」」
「オールマイトさん! 質問したいことが!」
「雄英での教師活動とのことですが───」
「今の状況を、どうお考えで───」
『HAHAHAHAHA!! おいおい君達、大人がルールを破っちゃいけない! 約束は私からの一言! そういう話だった筈だろう!?』
「うっ……」
「い、いえ、一言というのは、その……」
『ちなみに随分と大勢で来ているようだが、学校側にアポイトメントは取ったのかな? 急に押しかけて、生徒に突撃インタビューなんてしていないよね? 生徒にも守秘してもらわなければいけない内側の話もあるんだから、質問責めにしたりなんかしてはいけないぞ?』
「し、しかしこれも仕事でして───」
『ならば私たちも、生徒を導き守るのが仕事なのさ! ……一番前の君は、以前ヘドロ事件の時に元気に挨拶してくれたね! あの時はナイスなジョークをありがとう!』
「えっ……お、覚えてて───」
『その隣の綺麗な君は、ビネガースーサイド事件の時に笑顔を絶やさなかった子だね! しかめっ面は似合わないぞぉ!? 笑っていこうぜ! HAHAHAHAHA!!』
「あ……っ……は、はいっ!」
一言、と言っていたくせに、結局は笑顔を振りまいちゃうオールマイト。
そうして場を盛り上げたのち、液晶越しで事件を嗅ぎ付け、それを理由に通話を切った。
思いついた理由ってわけではなく、きっと本当に事件が起きたんでしょう。
「はい、というわけで。一言が終わったのでここまでで。彼は本当に非番なので、ここで張っても仕方ありませんし、生徒にマイクを押し付けるのも質問するものやめてください。それでは」
「あっ───で、では! あなたにとってのオールマイトとは!?」
「別教師側からのNo,1ヒーロー教師というのはどう映るものなんですか!?」
「………」
ああ、はい。どうしようもないですねこの人たち。
オールマイトに一人一人思い出を語られた人は黙ってますけど、うずうずしているのが見てわかる。
少しもしない内にこの増え続ける“一言”劇場に参加するのでしょう。
「……早く入れ、お前ら。これ以上は誠意を込めてもどうにもならん」
「ですね」
「チッ……」
「かっちゃん……! 舌打ちはまずいって……!」
明日の朝刊の一面を飾ってしまいそうでした。主に私の悪評とかで。
でも間違ったことを言ったつもりはありませんし、なんでしたら録音もしてあります。
向こうがでっちあげたらこちらは真実で真向勝負ですよ……!
……。
そんなこんなありましたけど、現在HR。
そこでなにをするのかというと───
「学級委員長を決めてもらう」
「「「学校っぽいのキターッ!!」」」
学級委員長を決めることになりました。
正直興味ありません。
やりたい人の中でも実に似合いそうな人に任せるべきだと思います。
けれども皆さま手を挙げます。片手じゃ足りないのか、諸手を挙げる勢いで。
まさに
ええ、聴いてますよ、“Present micのぷちゃへんざレディオ”。でも放送時間なんとかなりませんかね。なんですか深夜1:00~5:00までって。
「委員長! やりたいですソレ俺!」
「委員長☆ ボクのためにあるヤツ」
「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!」
ヒーロー科の中で、学級委員長はみんなを導くトップヒーローの素地を鍛えるのにうってつけの役職。
でも微塵も興味がありません。
だってこのクラスの人達が、誰か一人の言う事を大人しく聞くとでも?
「委員長! 俺もやりたいなあ! はい! はい! ……あれ!? 身代祇サンはやらないのか!?」
そして今日も元気な夜嵐くんが、全力で挙手しまくってる横で、ないない、とばかりに手をぱたぱたする私。
「そもそも、その……このクラスの人達を、自分は導けるって自信がある人じゃないと……無理だと、思います」
「「「……っ……!!」」」
その一言に、クラス中、戦慄っ……!!
そして一気に一ヶ所に集まる視線。
その中心に、かっちゃん。
「あ、あー……俺、辞退するわ……」
「オイラも……」
「てか爆豪に限らず、このクラスって濃いヤツばっかだし、導けなきゃ委員長の責任問題なのに、みんな全力で好き勝手しそうだし……」
瀬呂くん、峰田くん、上鳴くん、辞退。
かっちゃんが「あぁ!?」って目を白目にして睨みつけてるけど、それが原因なんですから睨んじゃだめで……あの、なんで私のこと睨むんですか? か、関係ないですよね!? やめてください!
そんな波紋がガヤガヤと周囲に伝わる中、やっぱり辞退する人があちこちに現れ始めて───
「静粛にしたまえ!!」
そんな空気を、ズビシィイイイン……!! と綺麗に挙手したままの飯田くんが、言い咎めた。
多を導く大切な仕事なのだから、投票で決めるべきだって話らしいです。
なるほどです、さすが飯田くん。
でもそれならみんなと一緒に挙手する必要はなかったと思います。
切島くんに「そびえ立ってんじゃねーか!」ってツッコまれることもなかったでしょうに。
「では投票!!」
時間内に合理的に終われば問題無しと、相澤先生も許可をくれた中での飯田くんの投票案。
結果は───
「二票……!?」
飯田くん、二票。
ちなみに私は飯田くんに入れた。
たぶんイズクンも。
飯田くんは自分に入れなかったのかな?
「で……!? 若菜てめぇ……! なンでてめぇに五票も入ってんだコラァ!!」
「ひうっ……! し、しりませっ……!」
そして誰ですか私なんかに入れたのは!
お蔭で教壇に立たされてカチンコチンですよ!
「いや、なんつーか戦闘訓練の時も一人であのアホみたいな身体能力の緑谷と、そのあとにも麗日のこと押さえてたし」
「入学ん時も爆豪が机の上に足置いてたの、下ろさせたし」
「オッパイでけぇから」
瀬呂くんやめてください照れます。
上鳴くん、あれはかっちゃんの自業自得であって、私の言うことなら聞いてくれるとかそんなんじゃないんです。
あとグレープは死んでください。
で、でもあと二票は!?
「役職に憧れるだけじゃダメだと思ったから任せようって思った! 迷惑だったらゴメンナサイ!!」
(夜嵐くぅううーん!?)
あなただったんですか! なんとなく予想ついてそうな、なんかそんなアレはありましたけど!
「あ、ほらその。これを機に、人見知りとか治ったらな、とか……」
「尾白くん……! あなたもですか……!!」
頼りになるとかそういった方向の票がとっても少ない気がするんですけど!?
なんか少し別方向って感じがしますし、グレープにおいてはエロ目的ですし!
むむむ胸なら八百万さんだってすごいじゃないですか!
「で、では、その……様子見、という、ことで……」
「いや……いや、身代祇くん! むしろぼ……俺は君ならいいと思う! 試験会場で皆の心を一つに、PlusUltraを叫ばせてくれたこと! 0Pヴィランに立ち向かったあの胆力! 俺は君か緑谷くんがいいと思っていた!」
「……私は飯田くんがいいって思って、票を入れたのに……」
「ぐっ……!? なら、あの票のうちの一票は……っ! 期待に応えられずにすまなかったぁああああ!!」
「うひゃあああ!? ななな泣かないでください! 泣かないでくださいぃいいっ!!」
綺麗に頭を下げて泣く飯田くんに、私も泣きました。
ああ、もう……! どうしてこんなことに……!