身代わりの土地神様   作:凍傷(ぜろくろ)

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(*´ω`*)<ひっそりと……ね? チラシの裏ってそういうものだと思うのウフフ

というわけで8万字くらいお付き合いください。


一寸の罪悪感にも五分のかっちゃん

 休校を挟んでの学校は、まあなんとも賑やかだった。

 

「おぉい! 身代祇来たぞ!」

「若那ちゃん大丈夫なん!? 一人だけひどい重傷で運び込まれたって!」

「ワーちゃんヘーキ!? 13号先生の背中の傷、身代わりした時、すっごい血出てたけど!」

「ごごごごごごめんな! ごめんなァ身代祇ィイイ!! オイラ、オイラ怖くて……!!」

「囲まれてた俺達も助けてくれて……ほんッッと悪かった! 敵の目的が確固撃破とか分散なら、逃げるのが一番楽な勝利だってのに! 俺らに出来ることならなんでも言ってくれ!」

「身代祇サン! 俺感動したけど同じくらい心配した! 自己犠牲はヒーローの基本みたく言われてるけど、ソレの究極は見たくないってやっぱり思った!」

「……悪ぃ。もっと早くに到着出来てりゃよかった」

「イイゃ、それよか俺達だ! すまねぇ身代祇! 先生らの許可が出る前に敵相手に突っ走っちまって……! それどころか前に出た所為で、13号先生の行動の邪魔しちまった!」

「あ、や、その、えと、あのあのとりあえずええぇっと……!! しょっ……聖徳太子ぃいい……!!」

 

 教室に入るなり、切島くんが叫べばもうあっという間だった。

 周囲が囲まれて、次々と心配やら謝罪やら。

 ははははい平気ですもう治りましたティーちゃん!

 ていうかワーちゃんってわたしですか三奈ちゃん! ノリがるーちゃんと似てますね!

 ……グレープ、あれは仕方ないです。

 上鳴くん、仕方ないです。ああいう状況では打倒するよりも逃げるが勝ちなんですから。その術がある人がそうするのは当然です。

 夜嵐くんゴメンナサイ。わたしも、そんな果ては二度と見たくありません。

 轟くん、分散されてたんだから仕方ないです。むしろ辿り着いてくれたお陰で、そのええと、オールマイトやイズクンたちの気もそっちに向いてくれてましたから。

 切島くんとかっちゃんはほんとアウトです。反省してください。一塊になって動くなって、相澤先生言ってたじゃないですかまったくもう……!

 と、ちらりとかっちゃんを見ると、椅子に背もたれ机に足を乗っけていたかっちゃんと目が合って、「……、……!!」ビキキミキミキと血管浮き上がらせて白目になりつつぷるぷる震えたのち、「ほら爆豪! 謝るんだろ!」「るっせェ言われんでもするわてめぇは俺の親かコラァ!!」凄まじい葛藤のあとに、目の前までズカズカと来て、謝られた。

 

「かっちゃん。中学の頃の勝利者権限で、突っ走り過ぎないこと、を注意しましたよね?」

「っぐ……!」

「あ……」

「緑谷君? どうした?」

「あ、いや……かっちゃん相手に噛まない若那ちゃんって、あれ相当怒ってる状態で……!」

「……そうなのか?」

「うん……正直とっても怖い」

 

 ええ怒ってます、怒ってますよ。

 新聞記者たちの勝手に苛立った時以来かもしれません。いえ、あれ以上です。

 

「戦闘訓練の時だって話し合いもせずに突っ走ってあっさり捕まって……! 一人で突っ走っていい状況かどうかくらい見極めてください! なんのために勉強してまでここに入ったんですか! ガキみたいなことはやめるって先生にも言ったくせに!!」

「っ……うるせぇ今はそっちのことは関係───!」

「かっちゃんが危ないことには変わりないじゃないですか!! かっちゃんの心配をしてるのに関係ないことないですどうしてそれがわかんないんですかこのばか!!」

「ばっ……!?」

「あー……そうだよな。こいつほっとくとほんと無茶ばっかするし」

「状況判断は出来てるくせに過信しすぎてポカやらかすタイプ?」

「それな」

「ダサイな!!」

「やかァっしんだ黙ってろやクソがァ!!」

 

 切島くんと上鳴くんと瀬呂くんが溜め息とともに語り合って、トドメに夜嵐くんがズッパリ。

 そうですダサイです、反省してください。

 

「とにかく。迷惑かけた分だけ謝ってください。で、謝りたくない気持ちを糧に、もう二度と勝手に突っ走らないって誓ってください」

「……チッ」

「───……」

「あ? ォッ……ちょ、なに近づいて───んだゴラなにすッ……あぁ!? 力の身代わり!? 筋力の身代わりって……やめっ、オッ……オアアアアアア!?」

「すげぇ! 爆豪が手四つで負けてるぞ!」

「あははははは! やっちゃえワーちゃーん!」

 

 謝罪を求めてそれで受け入れるって言っているのに舌打ちです。

 本当にまったくこの人は。まったく。

 嫌味言いながらもイズクンの時は受け入れてくれて、個性の差はあっても幼馴染としてやってきたのに、本当に自尊心ばっかりなんだから。

 いえまあ……これでも以前よりはマシなんですけどね。これでも。

 それでも言います。

 

「自分が悪いって思ってるのに謝ることもできない……そういうの、よくないと思います」

「若那ァ……! てめぇはいっつもいっつもくだらねぇ説教ばっか口から垂れ流しやがって……! 毎度も言ってンだろが俺に言うこと聞かせたかったら負かして───」

「もう腕力で負けてるな! ダサいな!」

「顔面近づけて真横でくっちゃべんなウザいわボ───」

「じゃあ今まで負けた回数をみんなの前で口にしてください」

「ケ……───」

 

 あ。

 白目剥いて歯を食い縛って唇尖らせてぷるぷるし始めました。

 屈辱噛み締めてる時のかっちゃんフェイスです。

 

「ふざけんな俺ァまだ負けてね───」

 

 手四つ状態で押していたため、中腰に近かったかっちゃんが一気に立ち上がるようにわたしを押してくる。

 それを、身代わりで得たかっちゃんの身のこなしを利用したまま、ひょいと力の向きを変えてあげると、びたーんと床に倒れるかっちゃん。

 

「へっ!? 爆豪が投げられた!?」

「オオすげぇ! なんだ今の! アイキとかいうヤツか!?」

「……すげぇ綺麗な技だな。あんな風に出来るもんなのか」

 

 グレープが驚いて、切島くんが目を輝かせて、轟くんが冷静に感心してた。

 そして我らがかっちゃんは、投げられてからは大人しく床にどっかと座って、あ、でもそっぽ向いてます。いつものことですが。

 

「かっちゃん」

「んだゴラァ!!」

「わたしがシャッキリしたら、ビクビクしなかったら、対応は変えられますか?」

「!? ……てめぇが? ッハ、無理だろォが。過去にビビって幼馴染の怒鳴り声にさえ震えてるてめぇじゃあ」

「……若那ちゃん。かっちゃんはたぶん、若那ちゃんが少しでも慣れるようにって、いっつも怒鳴って───」

「ちィイッがうわ! 妙ちくりんな勘ぐりしてんなやクソナード!!」

 

 相変わらず白目で絶叫のかっちゃんだけど、あれどうやってやってるんだろう。

 あ、でも小学校とかだとクラスに一人は居ましたよね、白目剥くの上手い人。

 と、そんなかっちゃんに苦笑を漏らす瀬呂くんと上鳴くん。

 

「どこの勘違い思春期ボーイだよ爆豪……」

「気になる子には意地悪しちゃうアレか」

「青春してるなー! あはははは!!」

 

 そして指差し笑う三奈ちゃん。容赦無しです凄まじいです。

 

「……ッ……! ~~っ……デェエエクてンめぇええ……!!」

「かっちゃん!? 顔が! 顔がちょっとやばいくらいに痙攣して!? ていうか周囲からの言葉に僕は関係ないんじゃっ……!」

 

 こういう場面でポロっと個人情報をこぼしちゃうからそうなるんですよ、イズクン。

 

「つかさ爆豪。結局お前と緑谷と身代祇の関係ってなんなんだ?」

「あ、それ私も気になるー!」

「エロい目で見てたオイラの目を的確に潰さんとしたあの流れ、かなり場慣れしてると見たぜ……!」

「いやお前それ自分で言う?」

「自分がエロスであることを常に認めてんなら、オープンエロスで居ることなんて誇りこそすれ、恥ずかしがることじゃねェだろ!」

「いやちっとは恥ずかしがれよ」

 

 瀬呂くん。そのままそのエロスを引き付けといてください。よければ一生。

 

「わたしとかっちゃんとイズクン?」

 

 ちらりと、三人で交互に自分と相手二人を見る。

 そして結論

 

「「「ただの幼馴染」」」

 

 だ、です、だよ、が続いた。

 

「あ、一応幼馴染ってとこは認めてんのな爆豪」

「あぁ!?」

「人の言葉、なんでも否定するだけのあぶねぇやつだと思ってた」

「え? それ合ってね?」

「かっちゃん、他人にぶっ殺す発言は禁止しました」

「ブッコ───……~~~……!! てめぇら今すぐ他人じゃなくなれぶっ殺す!!」

「んなこと言われるのも言うヤツ見るのも初めてだわ!!」

「てかなんで身代祇の言うことには頷いてんだ?」

「あ、それはかっちゃんが、負けたら相手の言うことを聞くって条件を出して、それで……」

「負け越してんのか……」

「の割には口開けば絶叫まみれなのな」

「あ、それな」

「爆豪お前そりゃダメだわ……どこの勘違い思春期ボーイだよ……」

「それさっき聞いたわ語彙力皆無かアホが!!」

「じゃあかっちゃん。今日の勝者権限です。今日一日、うるせぇ、アホ、バカ、クソ、殺すを抜きにして叫ばずに喋ってください」

「クコッ───!? ……」

「………」

「………」

「………」

「沈黙は金か!? 俺は無理だなぁ! 気持ちはちゃんと叫んでたいからな!」

「うるっ───バッ……ア……クッ───ころっ……! …………」

 

 夜嵐くんの言葉に、即座に言葉を返そうとするも、早速うるせぇだったっぽいです。

 やがて何度か言葉を発しようとするも……

 

「………」

「………」

「………」

 

 結局なにも出ませんでした。

 

「爆豪ちゃん、あなたもしかして本当は、誰かを罵倒しなきゃ喋れない個性なのかしら」

「んなわけねぇだっ───」

「叫ぶのかえーとバクゴー! 我慢とかよくないけど約束破るのはもっとだめだぞ! ヒーローなら我慢だ我慢! ヒー! ロー! ヒー! ロー!」

「~……!!」

「うおすげぇ顔! 顔すげぇ! すげぇ顔怖ぇえ!!」

「こっわ! なんだその顔! どうすりゃそんな顔出来るんだ!?」

「すげぇ! 顔すげぇ!!」

 

 行動の度に夜嵐くんにツッコまれ、すぐ横で体を斜にした連続ガッツポーズをやられ、かっちゃんの顔がリアル般若みたいになってる。

 すごい。なんかもう……すごい。顔すごい。切島くんや上鳴くんや瀬呂くんが叫ぶのもよくわかるくらいすごい。

 で……結局その日、それ以降、予鈴が鳴るまでかっちゃんは一言も喋りませんでした。

 「いや喋ろよ……首振らずに歩けって言われた鳩かよお前……」とは瀬呂くんのツッコミです。

 

「ム! 予鈴だ! 皆ー! 朝のHRが始まる! 席に着けー!!」

「わっとと」

「とにかく若那ちゃんっ! 無事でよかった!」

「え、あ、はい、ありがとですティーちゃんっ」

「あんま無茶すんなよ! 一人が無茶することなんかねぇんだからな! って、だから分散されたのか。敵もやっぱよく考えてるってことだよな。俺ももっと硬くなれるようにならねぇと……」

「んっへっへー、どんまいどんまいー!」

 

 ふとした時、仲良さげな切島くんと三奈ちゃん。

 同じ中学出身とか言ってましたっけ?まあここで仲良くなったのかもですし。主に三奈ちゃんが突貫していって。

 ともあれ相澤先生も来たところでHRが始まりました。

 

「まずは一昨日はお疲れさん。生徒を危険な目に遭わせた教師の言葉じゃないが、無事だったなら“次にはそうならないように”勉め、努力するのもまた学校ってものだ。それと、爆豪、切島」

「………」

「ウス! すんませんした!!」

「解ってるならいい。守られてる内は、指示もない内から敵に向かうなんて行動は控えろ。お前らを守る教師がもし、俺のように“相手を視界に入れている内は動きを止める”なんて場合、そういった行動が───お前らだけじゃない、他のやつらまで危険に晒す」

「………」

「ウッス!!」

「で、身代祇」

「え? ぇ、えな!? 名指しですか!? ななななななんですか!?」

「ドライアイのアレの原因───……ああいやいい、答えるな。それはもういい。───この場に居る全員に忠告だ。“敵”と遭遇したら、許可が出ていない場合は攻めるよりも身を守れ。可能ならば逃げろ。ヒーロー側にとって一番最悪の事態とは、自分が人質になりヒーロー側が不利になることだと考えろ。その状況では、たとえオールマイトさんだろうと等しく無力だ」

「………」

 

 ガヤガヤと騒いでいた教室が、一気に静かになった。

 それは、そうだと誰もが理解出来たからだ。

 なにより、姿が見えない上に人質になっている状況こそ不安になる。

 今回の敵襲撃事件も、わたしたちを分散させた理由の一部にそれも入っていたんでしょう。

 姿が見えなくても人質であることには変わりはないと思わせれば、教師陣だって焦るに決まっているんですから。

 

「と、一応注意をした上で本題に入ろう。雄英体育祭が迫っている」

「「「「注意のあとにする話!?」」」」

 

 すごく普通に学校っぽい話が出てきた! いえそりゃあまあ学校なんですから学校っぽい話は来るでしょうけど、一気に空気が変わりましたよ!?

 ていうか本題って! さっきのも十分本題だったんじゃないんですか!?

 とかいろいろ疑問に思っているうちに、雄英体育祭の存在の大切さについて、相澤先生から説明が入る。

 ええはい、イズクンから散々聞いているので知ってます。むしろTVで見たあと、たまたま道端で出くわしたりすると解説とかすごかったです。


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