……と、思ったのに。
その日の放課後に、面倒は起こった。
さあ帰りましょうとしたところで、廊下にガヤガヤと密集した人の姿。
「うおおお……なにごとだあ!!!?」
驚きすぎですティーちゃん。あとどんだけ早く授業科目終わったんですか、外の人達。わたしたち、これでも終わってからすぐに帰ろうとしたんですけど?
「出れねーじゃん。なにしに来たんだよ」
「………」
あ。迷惑そうに文句を言うグレープの横を、喋れない所為で不機嫌度MAXのかっちゃんが……
「普通科のモンだけど、ちょっと───顔怖っ!?」
「うおっ!? なんだコイツ顔怖いっ……てかすげぇ!?」
「顔すげぇ! どうすりゃこんな……顔すげぇ!」
「爆豪くん! 知らない人をとりあえずモブと言わないのはいいが、その凶悪顔をニュートラルのままのしのしと近づくのはやめたまえ!」
「すげぇ!」
「ヒーロー科すげぇ!」
「ヒーロー科すげぇ顔怖ぇえ!」
「怖ぇ!!」
そして顔の評価ばかりを全力でされるかっちゃん。
授業中もずぅっとあの顔でしたから、来る先生来る先生が何事かと驚いてました。
何故そんな顔をしているんだと訊かれれば、無言でわたしをじっとり見るかっちゃん。やめてください、わたしべつに、あんな顔をしろだなんて一言も言ってません。
あと“わたしの発言には逆らえない”みたいな状況が完成しちゃうからほんとやめてください。先生がぽそりと「爆豪係……」とか言ってたじゃないですかほんとやめてください!
「あの……てかこれ、ヒーロー科全体が顔がすごいみたく言われてない?」
「ティーちゃん、大丈夫。“頑張ろうね、体育祭”って言った時のティーちゃんの顔も相当アレだったよ」
「そうなん!?」
そうなん。
自然的にこくりと頷くと、結構ショック受けてました。いえ、さすがにかっちゃんと比べたら失礼に過ぎますが。
とかやっている内に普通科の人垣の中から生徒が一人、前に出てきました。
「どんなもんかと見に来たが、黙って睨むだけとかずいぶん偉そうだなぁ」
紫色の、髪が立った少し長身目の男の子です。
首の後ろに手を当てて、呆れるように溜め息を吐きながら「ヒーロー科に在籍するやつはみんなこんななのかい?」と。
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅───」
「キミ! 失礼だぞ! 全員が全員こんな顔なわけがないだろう!!」
「うん。飯田くん、気持ち解るけど違う。飯田くん、うん」
ナイスフォロー……なのかもしれませんイズクン。でもそこは自信を持ってツッコんでください。
ほら、相手だって「顔?」って戸惑って「ぇうわぉっ!? 顔……っ!? えっ……!?」本気でびっくりした人の反応してました! “ぇうわぉっ!?”って言いましたよ!? そのあとしみじみと「……顔すげぇ……」ってこぼしてましたし!
……まあその。わたしから見ても顔、相当すごいですけど。
「えぇっとですね、敵と戦ったって言っても、相手がチンピラみたいな集まりだから助かっただけです。つまり始終時間稼ぎや防衛戦術をしていたわけであって、僕たちが特別なにかが出来たかっていったら、そういうことでもないんだと思います。本当に……オールマイトが来てくれなきゃどうなっていたか……」
戸惑う紫色の髪の人に、イズクンが語ります。自分の手を見て、わたしを見て、項垂れるように。
「守られている内に、脅威とぶつかれてよかったな、なんて思わないでください。結果的に“たった一人の被害”だなんて落ち着いてますけど、それはそのたった一人が死に物狂いで頑張ってくれたからです。脅威ってものを知ることが出来た……でも、それだけなんだ。他とは違うだなんて浮かれていられない。そうならないようにって頑張ることしか出来ない。だから───」
途中から口調が強くなって、イズクンの目に力が篭もります。
きっと今までの努力の日々を思い出しているんでしょう。
個性が無ければ全員、同じ人間でしかない。だったら誇れるのは、それまでの努力と、無個性と馬鹿にされても諦めなかった反骨精神なんだから。
「ヒーロー科だからとか、そう言って胸を張るんじゃない。僕達は僕達の力で勝ちに行く。敵に襲われても無事に戻ってきたぞなんて自慢する気もない……出来やしない」
「だな! おおよその通りだ! よく言ったぜ緑谷ぁ! っつーわけだから宣戦布告に来たってんなら真っ向から受け取るぜ!」
「俺も負けないぞぅ! いつでも何処でも全力だ! 全! 力! 全! 力!」
男子達の言葉に、普通科の……って普通に思ってたけど、そうですよね?
ともかく廊下に集まる人達に力が篭もります。なにくそ、俺達だって、って熱さです。
え? わたし? ……不思議とそこまで喉が詰まるような息苦しさはありません。もしかして、ですけど。わたし、あの脳無ってやつの威圧感の中で頑張れたお陰で、ほんのちょっぴりでも克服できたんでしょうか。
な、ならば今ぞ! 今こそ克服の時「アワワワワワワ……!!」だめでしたごめんなさい!!
「───……調子に乗って、浮かれてるようなら……って思ってたけど。そっか。あんたらは間違いなく強敵ってわけだ」
そんなわたしの悲しみをよそに、紫の人は喉を鳴らしてから不敵に笑った。
直後、なんか変則オールバック? みたいな髪の、目がヘンテコな硬いもので覆われたような人がズヴァーっと手を挙げて叫んだ。
「隣のB組のモンだけどよぅ! 敵と戦ったっつぅから話聞こうと思ったんだけどよぅ! …………結構熱いやつらじゃねぇか! それでこそ倒し甲斐があるってもんだぜ!」
「あ、熱丁寧にどうも。A組の緑谷です」
「デクくん熱丁寧ってなに!?」
「だめだ麗日、緑谷のやつ対人のひどさが爆豪がデフォルトな所為で、あんなんでももう丁寧なんだよ」
「あー……わかる」
「切島くん!? 上鳴くん!? そういうことズッパリと───かっちゃん顔すごい!?」
「っつーわけだからよぅ! ……敵ってどんなヤツだった? 個性によっちゃあ、いきなり敵侵入とか怖ぇよなぁ。なにせ天下の雄英に突っ込んでくるような敵だもんなぁ」
「あ、わかるか? いや、恥ずかしい話なんだが気持ちばっか先行しちまって、厳重注意受けてな……」
「えっ……厳重注意ってこたぁ……お前敵相手に突っ込んだのか!? ……男じゃねぇか……!! 注意は注意だけどな!」
自称B組のモンさんが、切島くんと語り始めた。
身内の恥を晒さんでも……って空気も少しは出たけど、切島くん、相当気にしてるようです。
「個性や運動神経、状況判断に……そもそもあの試験による個性で対応できる幅。そういったものを抜かしてしまえば、ぼっ……俺達は同じ年齢の生徒なんだ。体育祭への意気込みはそれはある。だが、どうか正々堂々とした気持ちで互いに挑みたいと思う」
「意外。ヒーロー科って、普通科とか見下してるもんかと思ってた」
「だってあの試験だぜ? そりゃ、移動や破壊に特化した個性が目立つに決まってんじゃん。機械な所為で個性が効かないとか、敵から来てくんなきゃどうしようもない個性だったりしたら、そりゃ他より届かないもんだろ」
「あぁそれ解る。てか峰田とかよく合格したよな。俺テープで纏めてって意味じゃあラッキーだったかもだけど」
「なんだよォ! ほっとけよォ!」
「……ヒーロー科なんて自信ばっかり前に出た、うざったいヤツらの集まりだと思ってたけど。これは認識を改めないとだめかな。まっ、勝つのは僕らだけど!!」
「あ、ごめんね。こいついっつもこんな性格だから」
「あー、いいいい、こっちももう爆豪で慣れてるから───だから顔すげぇっていちいち睨むなよ!」
「ところで彼は何故一言も喋らないのかな? もしかしてそういう個性なのかなぁ!? 顔っ……か、顔がすごいだけの個性、とか……?」
ヘラヘラしてものすんごく煽ってくる人が、ギヌロとかっちゃんに睨まれてびくってなった。めっちゃビクってなった。
「まあ宣戦布告なら喜んで受けて立つってことで、体育祭じゃよろしくな! フェアでって意味でなら……俺の個性は硬化だ。めっちゃ硬くなる」
「男らしいじゃねぇか! 俺の個性はスティールだ! めちゃくちゃ硬ェ!!」
「………」
「………」
((個性ダダ被りじゃねぇか……))
個性を語り合ったそれぞれが、右手を相手の左肩に置いて、がくーんと項垂れた。どうしたんでしょうか二人とも。
そんなこんなあって。
A組ヒーロー科とB組普通科は特に激しい衝突もなく、敵襲撃についてを語り合って、互いの健闘を祈りつつその場で別れました。
それから二週間はそれぞれが個性の強化や身体能力の向上に励んで、もちろん授業もやって、応急ではありますけど修繕が済んだUSJで、改めて救助訓練もやって───救助訓練の途中で潜んでいた敵と遭遇しました。
筋肉質で、棘のついた肩パット、ツノのようなものがついた硬そうなマスクをつけた、襲撃事件の残党と思われる存在を前に、わたしは───
【敵と遭遇した場合はまず状況の確認、そしてそこからの脱出を第一に考えろ。お前らはまだ免許も持っていない学生なんだから、立ち向かう心があろうと一般人と変わらん。だが、見習いとしてだろうと“その場で自分が逃げたらどうなるか”はきっちり考えろ。逃げ遅れた民間人が居ないかの確認も怠らないこと。そして、これが最も大事なことだが───逃げられないと判断した場合は、全力を以って生き残れ。そうなった場合は戦うなとは言わん】
訓練前に相澤先生がそう言っていたのを思い出す。
一人の時を狙われ、建物の中ということもあって咄嗟に助けは呼べなかった。なにより相手の動きがハチャメチャなくらい速くて、逃げるどころか距離を取ることさえ難しい。
ならどうするか? ……ここで足止め出来れば、いや、むしろ大きな音を立てれば、誰かが先生達を呼んでくれるかもしれない。
瞬時に覚悟は決まった。敵に対してコミュ障なんて働かないし、語る言葉もない。わたしにとって、敵っていうのは父の仇でしかない。怒号は怖いけど、叫ばない相手を恐れる理由はない。それよりも、自分が判断を誤った所為で友達が傷つくことのほうがよっぽど怖いから。
(ワン・フォー・オール100%&超回復&ショック吸収&元に戻す個性……!!)
元からあった個性と、脳無から奪った個性を全力で使い、四肢にとんでもなくかかる負担を無理矢理押さえ込み、敵へと突撃した。敵は相当驚いていたようだったけれど、そんなものは望むところだ。
『───!? 速い……!!』
マスク越しに、くぐもった声が聞こえる。
そんな言葉は右から左。正面から走り、指で弾いた石の欠片を牽制に使う。当然避けられたけれど、その避けたところへ合わせるように右手を強く握り込み、
「っ───SMAAAAASH!!」
『───が、動きが素直すぎるな!』
振るった拳がパンッと軽くいなされて、振るった力の分だけ体が踊った。
瞬間、背に手を添えられて、地面へ向けて一気に圧をかけられ───指弾で飛ばした石が、ばちぃと地面に激突した。
『なにっ!?』
「っ───みんなっ───!!」
攻撃に移れば対処する。そう思った。だからそれこそが好機。石を飛ばしたのは最初から逃げるためだ。ぶつけるためじゃない。
「このまま遠くにある瓦礫と位置を交換して───!」
一気に距離を取る。───取った。あとは───!!
『それでそれで?』
「!?」
交換した先で、“横から楽しげに語りかけられた”。
「SMA───」
『反応速度が足りてないなぁ』
構えた拳が勢いに乗る前に掴まれた───直後、敵がぶわりと宙を舞い、
『───へ?』
どごぉん!! と地面に激突した。当然頭からだ。相手の、“拳を押さえる力”を利用しての合気だ。きっと多用しても通用しない。一回っきりと考えたほうがいい。
いや、確認なんていい、とにかく逃げる! 誰かを呼ぶ! 気づいてもらう!
『ここで投げるかっ! 練習の成果ってやつかっ、まったく魅せてくれる!』
ワン・フォー・オールを全力解放して地を蹴り走る。
自分でも怖いくらいの速度が出てる……のに、距離を取ったと思ったのに、もう横には敵が居た。
出口があんなに遠い。外にさえ出ればと思うのに……位置交換じゃだめなんだ。相手は“わたしが見たもの”目掛けて一気に駆けて、位置交換に追いつくくらいの速度で追ってくる。
どれと交換すれば距離を取れるかを、逃げようとする視点で見ることが出来るっていう、厄介な相手だ。
しかも素早すぎて、道も視界も遮られては、出口までの移動すら出来ない。
『さあ、次はなにを見せてくれるのかな、ヒーロー』
「………」
ひどい状況だ。こんなの無理だ、誰かが気づいてくれなきゃ、わたしは───
『もうネタ切れなのかな? それは残念だ。打つ手が無いのなら……お前を潰して他の子供を潰して回るか』
「───!!」
ぞわりと心体ともに震えた。それはだめだと心が叫ぶ。けど逃げられないし伝えられない。わたしがこのままここでなにも出来ずに潰されれば、他のみんなが無防備のまま、こんなにも速い敵に……或いは気づく間も無く潰されるかもしれないんだ。
どうする、どうすればいい、考えろ、考えるんだ。逃げもダメ、助けも呼べない。じゃあ……?
「───……」
『……ほう、目付きが変わったな。逃げられぬとようやく理解したと見える』
「……あなたが何をするためにここに来たのか、わたしは知りません」
『む?』
「あなたがこれからなにをするのかも……解りません」
『敵がすることなんて決まっているだろう。平和の象徴が居ない間に悪さをする。ヒーローが居ない間に、これから芽吹く種を潰す。雛に成長する有精卵を腐らせる。やることなんて───』
「だから。後悔してください。産まれてこれておめでとうございます。生きる喜びに笑顔を。……してきたことに後悔して、反省も出来ないなら……あなたを潰します」
『ほう! これは大きく出たな! よもや俺をあの場に居たチンピラ敵たちと同列に見ているんじゃあるまいな! 俺は───』
「せめてショック死だけはしないでください……ごめんなさい。“
ワン・フォー・オール100%で一歩。懐に飛び込んで、手を伸ばす。
余裕ぶっていた様子から、相手が避けないのは予想がついていました。そして、わたしは触れるだけでいい。
『ふふっ、また投げ飛ばすつもごぉおっはぁあああっ!?』
素早く突き出した手が、敵の掌で受け止められる。ぱしんっ、なんて軽い音の後、彼の体が一気にくの字に曲り、再現された衝撃とともに斜に吹き飛び、壁と窓ガラスをぶち抜いて吹き飛んでいきました。
ショック吸収と超回復が無ければあの通りです。あの脳無が異常なだけですよ、まったく。ともあれ、危機脱出も轟音発生も達成できた。きっと誰か気づいてくれます。
「……あ、だめですこれ」
代わりに恐怖からか足が震えて、今さら立っていられなくなってその場にへたりこんでしまった。あ……腰抜けちゃってますね、これ。どうしましょう。こういうのに超回復の個性って……効きませんね、どうしましょう本当に。
でも、いいですよね。オールマイトでさえ胃袋全摘、呼吸器官半壊レベルの衝撃をぶちこんだんですから、ほぼ安全でしょうし…………いえ、まってください。吹き飛んだとはいえ、あれがもし仮面を被っただけの意志ある脳無だったら?
「───」
敵、潰します。敵、お父さんの仇です。
石を拾って出口まで投げて、身代わりをしてを繰り返して、なんとか外に出ると……割とシャレにならないレベルでゴプシャアーアアアと血を吐いている敵さん。
あ、あー……あー……あの、やっぱりやりすぎでした?
い、いえ! でもあのままだったらみんなが───あ、でも、さすがにあの姿を見てると…………アレ?
「……んぅ?」
衝撃が主に走ったであろう、オールマイトが受けたであろう衝撃が走った部分。その左脇腹あたりの装衣が砕けて、なんだかそこがよく見えるようになっている敵さん。
ハテ、その下地といいますか、着ているものが、とても見覚えのあるものだったりするのですが。
しかも苦しんでいる声も、くぐもっていない状態で聞いてみれば、わあ、と簡単に納得出来るような……
「…………なにやってんですかもう」
あたまがいたい。オールマイトです、アレ。
アレですか、もしかしてアレですか。前回の時は参加出来なかったから、サプライズみたいに敵になって、みんなに緊張感を、とか考えたんですか。
その第一歩目でわたしと出くわして、ちょっと驚かせてみようかなー、とか? ……そういえば攻撃らしい攻撃してきませんでしたよ彼。
安心したら余計に腰砕けみたいになってしまって、見える位置でぺたんと座り込んでしまいました。っとと、いけませんね、早く身代わりを……って、あの激痛をもう一度、ですか?
あれ受け取ったあとにもう一度トリガー使ったら、オールマイトでも死ぬんじゃないでしょうか。
とか疲れた頭で考えていましたら、からりと物音。視線を向けてみれば、そこには轟くんが。
「でかい音が聞こえたからなにかと思ったら……敵か」
「ぁ、あ……の、とどろ、きくん……」
極度の緊張からの解放の所為でしょう。
上手く口が動いてくれないわたしを見て、轟くんは頷いたあと、「お前には恩がある。くだらない人間にならずに済んだ。だから……後は任せろ」と炎をごうと激しく燃やしてわぁあああああああっ!?
ちっ、ちがっ、ちがいます違いますよ!? それオールマイトですから! 間違いじゃなければオールマイトですから燃やしちゃだめですダメなんです!!
「若那ちゃん! さっきすごい音が───轟くん!? ……それに敵も!?」
あぁああああああ! ここでイズクンが登場!? いえ待ってくださいそんな一気に臨戦態勢とか取らなくていいですから! 状況をまず冷静に分析してからですね!? イズクンそういうの得意じゃないですかどうしてそうなるんですか待ってください待───
「てんメェこのクソ敵がァア!! 誰に許可得てそこのポンコツ女に手ェ出してやがんだぁ!! あ゙ぁっ!? そいつは俺が一番にブッ倒すって決めてンだよ! 抜け駆けなんざ許さねぇええっ!!」
……そしてどこからともなく爆音とともにかっちゃんが飛んできました。
ああ……ああもうだめですねこれ、たぶん収拾つきません。
オールマイトはめっちゃくちゃ本気で痛がってますし、クラスメイトさん達は危機的状況に熱いソウルを燃やしちゃってま「……人の恩人の娘を襲うとか……全然カッコよくないな……! 夜嵐イナサ! 敵討伐特別任務! 全力で参加するッス!!」あぁあああああああっ!!
これもうオールマイト焼かれて殴られて爆破されて吹き飛ばされてって下手すると死んじゃうんじゃないですか!? かつての痛みをわたしが経験した苦痛を上乗せした状態で喰らったわけでして、つまりあのガイコツさん状態になっちゃう理由が揃っちゃってるわけで、そこを数人でドつくわけですから!
「ひ、ひぅぐっ……」
さすがに泣けてきます。またですよ。またあの衝撃を交換しなきゃいけないんです。もうこれ一生オールマイトに小言言っても許されるレベルですよね……。
「お母さんっ……」
自然と心が母に助けを求めました。心の中の母は笑顔でサムズアップです。どちくしょう。
あ、そ、そうでした! チンピラ敵から奪った個性に分散と痛感軽減っていうのがありました! ショック吸収もありますし、上手くすれば相当軽減出来るのでは!?
希望を胸に早速個性解放。
保険として超回復も全力で解放したまま、『の、Noooo!! ストップだキミたちぃい!!』とゴプシャアと血を吐きながら言うオールマイトと状態の身代わり交換をしました。
結果、ドゴンッていうよりは“ドゴォッシャゴッフォォオゥン!!”とやってきた腹への衝撃や、複雑骨折粉砕骨折筋肉断裂に内蔵爆裂やら凄まじい衝撃が走って、それが全身に分散されて、それでもちっとも散らせやしない大激痛に、声帯の寸前まで悲鳴になる筈の酸素が駆け上ってきました。
そうするとオールマイトが『ハッ!?』と起き上がるわけですが、直後に燃やされて殴られて爆破させられて、竜巻に飲まれて吹き飛んでいきました。……はい、ざまぁみろです、ばか。