身代わりの土地神様   作:凍傷(ぜろくろ)

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あ、蛇のあの子と梅雨ちゃんのお話や、ゾンビパニックなアレはカットしてます。
急に書きたくなって、挿入投稿するかもですが。


燥げ! 雄英体育祭!

 吹き飛んでいったオールマイトを見送ったのち、どうやら気絶したらしいわたしは、超回復と元に戻す個性のお陰で早めに目を覚ましました。

 最初に見た光景はUSJの高い高い天井。起き上がったあとは───

 

「「「「「やりすぎだぁああああああああっ!!」」」」」

 

 相澤先生の捕縛布でがんじがらめに縛られているオールマイトを、全力で怒鳴りつける、わたしのクラスメイト達でした。

 

「すまない! ごめん! 悪かった! 私もちょっとつついてみるだけのつもりだったんだが、若那くんをあまりに追い詰めてしまったようで……!」

「若那ちゃん、血を吐いて気絶しちゃったんですよ!? いったいなにをしたんですかオールマイト!」

「いやその……それなんだけど、されたのは私というか───ハッ!?」

 

 おろおろしていた捕縛中のオールマイトが、しゅたっと目の前に来て余計におろおろしだした。わお、縄抜けマジックです。あ、また相澤先生に捕縛され直された。

 

「だだだだだ大丈夫かい若那くん! すまない! ほんっとーにすまない! 二度目の襲撃なんてないだろう、なんて気の抜き方をしてほしくないと思ってしまったばっかりに、あんな……!」

「……オールマイト」

「な、なんだい?」

 

 ぽそりと声をかけ、聞く姿勢を取ってもらう。

 そして、向けられた耳に口と手を持っていって、

 

「あれ、わたしの個性のひとつです。身代わりになった苦痛経験をぶつけることが出来ます。……次あんなことしたら、胃袋全摘級破壊力と、イズクン関連の複雑粉砕骨折・血管断裂・皮膚裂傷などを2倍で味わうことになりますからね? そしてそれを直す場合、次も倍になります」

「エ? ……………………………………やべぇ」

 

 スマイルを絶やさないNo.1ヒーローが、長い沈黙と一緒にジワジワと真っ青になって、そうこぼしました。

 

「つ、つまりはあの腹部への衝撃はやはり……」

「はい。オールマイトの腹部のダメージを身代わりした時のものです」

「オール・フォー・ワンのものか……。すまない、あんな衝撃は、二度とごめんだったろうに」

「ヒーローはいつだって命懸けで、常にピンチをぶち壊していくものです。クラスメイトが瀕死の重傷を負っている相手によってたかってとか、ちょっと状況的に見ていられなかったっていうのもありますけど」

「ほんとあの時は生きた心地がしなかったね! HAHAHAHAHAHA! HA…………ホントゴメンナサイ」

「もういいですよ。ていうかあんまりヒソヒソ話してると峰田くんあたりが妙な勘ぐりをするのでやめておきましょう」

「あ、ああ。そうだね。けどそれだけで終わらせたんじゃ私の気が済まないんだ。なにかないかな? No.1ヒーローになんでも頼んでみるといい!」

「じゃあ……そうですね。本当にピンチの時、わたしを助けてくれますか?」

「え……最初の頃もそうだったが、そんなことでいいのかい?」

「ピンチの時に、男の人に助けてもらうのは少女の夢ですから。本当に困っている時にこそ助けてやってください。そんなことが必要になる時、きっとわたし、自分のことも周りのことも見えなくなっちゃってると思うんです」

「ん、わかった! オールマイトにお任せだ!」

 

 言って、ニカッと笑ったオールマイトはテキサスロングホーン的なあの指つきを顔の横に構えてキラッ☆とした。

 テキサスロングホーンと同列に考えると可愛さなんて半減なんでしょうけど、それじゃあそもそもあのキラッ☆の指の形はなんていうんでしょうね。あ、テキサスロングホーンのあの形はコルナっていいます。

 英名:シバタルミ・ハンド? 違いますね。

 気になったのでオールマイトに訊いてみたところ、I Love Youサインというんだそうです。

 “へぇーボタン”があったら押したいですね。

 ……つまりアイラブユーサインを顔の横に持ってきて微笑んだってこ「そういうことを敢えてツッコまないの!!」画風が凄いままで頬を染めてのツッコミでした。

 なんにせよ中断扱いになっていた救助訓練も、やり直しです。オールマイトは少しは反省してください。

 

……。

 

 さあ、思いがけずにトリガー強化イベント(いりませんでした)があったわけですが、それからそれぞれの特訓も続け、プレゼントマイクに体育祭で必要以上にA組を立てるような言い回しは勘弁してくださいとお願いするのと、もちろん自分の個性と肉体の向上に、勉強。

 やれるだけのことをやって、そして───

 

「選手代表! 1-A、緑谷出久!!」

「ひょげぇええええええええっ!?」

 

 大会当日。イズクン、絶叫。

 

「なななななんっ、なんで僕がっ!」

「大丈夫だ緑谷くん! 清く正しく選手宣誓をすればいい!」

「なんか面白いの頼むぜ!」

「スマートなのが一番さ☆」

「己の闇に呑まれぬよう、揺れぬ誓いを立てるがいい」

「一発熱いの頼むぜ緑谷ぁ!」

「全力出せるのがいいなぁ! 迷うことなく全力で! 宣! 誓! 宣! 誓!」

「ロックなのよろしくね」

「無難にとはいいませんけど、恥じぬ宣誓をお願いしますわ」

「うへへへへおい緑谷ぁ……ミッドナイト先生になんかエロい注文頼ンますわァ……!」

「聖徳太子ィイイイイイイッ!!」

 

 1-Aってほんと、個性豊かです。統一してくださいほんと。

 言いたくなりますよね、聖徳太子。

 けどいい具合に力は抜けたのか、それでもところどころカクカクとしたイズクンが歩き、ミッドナイト先生の隣にまで上っていった。

 

「っ……宣誓! 僕達選手一同は! 個性の差に溺れず驕らず! 自分自身の全力を以って戦い抜くことをここに誓います!! 雄英体育祭! 1年の部! 燃え上がります!! 頑張るぞぉおおおっ!!」

「「「「頑張るぞぉおおおおおおおおっ!!!!」」」」

 

 最後のシメとして夜嵐くん流決意表明。

 既にプレゼントマイクのお陰で全体的にノリのいい雄英生徒は全力で叫び、やったろーじゃねぇか精神を熱く燃え滾らせました。

 さあ体育祭です! 最初の競技はなんでしょう!

 ヒーロー科だろうと普通科だろうとなんだろうと、1年ならば混ざるこの体育祭! 出来れば乱戦にならないような───あ、無理ですね、雄英ですもん。ヒーロー科であのメンツですもん。

 

「さあ気になる第一種目はこれ! 障害物競争!! 計11クラスでの総当り戦よ! コースはこのスタジアムの外周4km!」

 

 4km! ……わあ、4km! ……足遅い人とか体力ない人のこととか少しは考えてください! ほんと相澤先生の言うとおり合理性に欠けますねこの高校!

 そりゃ入学してから必死に体力作りに励めばいいだけの話ですけど! ですけど!

 

「我が校は自由さが売り文句! ウフフフ……コースさえ守ればなにをしたって構わないわ!」

 

 あ、勝ちました。これ勝っちゃいますわたし!

 なんて勝利を確信していたら、1-Aのみなさんがわたしのことを絶望顔で見て……な、なんですか! なにしたっていいって先生が言ったんだからいいじゃないですか!

 

「さあさあ位置につきまくりなさい? 早速って言葉が多い雄英だけど、そりゃ人を待たせるなら早くて速いに越したことはないでしょ? んじゃ、あのランプの色が変わったらスタートね。じゃあ───」

 

 並ぶのが遅れて、というか人の波に驚いて遠慮した結果、一番後ろになってしまいました。けどいいです、全力です。全力でわたしの個性を使って、コースから外れることなく───

 

「スタァートッ!!」

 

 ───スタートゲートの狭さに絶望した。

 なんですかこれ狭すぎです! これもう最初の振るい落としじゃないですか!? 

 ま、まあ……ここで無理に押し通っても怪我とかしそうですし……あ、いえ、横幅は狭いですけど、縦幅は……ああ、いけますねこれ。

 石を遠投! ───位置交換!

 

「ふわっ───」

 

 飛ぶ石の速度そのままに、スタートゲートで圧迫し合う一年11クラスを見下ろしながら、そのまま先へと飛ぶ。

 その先頭では誰より先に前に出た轟くんと夜嵐くんが、地面を凍らせたり風を巻き起こしたりで後続の追随を封じた上でさらに先へと駆けていました。

 わたしもさらに石を投げて、スタートゲートの先のさらに上空へと飛んで───あ。グレープが突如現れたロボに殴られて吹き飛びました。

 わあ、あれ、試験の時の仮想敵ですよね?

 

『ターゲット……大量! ブッコロ!!』

 

 やる気です。しかもその後ろには───ってなんですかあれ! 0P敵じゃないですか! しかも1、2……軽く見て8体は居ますよ!? 第一関門……ああいえ、振るいって意味では第二関門にしては厳しすぎませんか!?

 

『イェェエァアアッ!! 第一関門はロボ・インフェルノ! 入試ん時の0P敵! こいつを抜けなきゃ先にゃあ行けねぇぜぇ!!』

 

 実況のプレゼント・マイクがご機嫌で実況してくれます。まあ……わたし、反対側まで石投げてさっさと位置交換で進みましたが。

 

『オォオオオイイッ!? おまっそれアリなのか身代祇若那ァアア!! いや個性使ってもコース外れなきゃなんでもありって確かにミッドナイト言ってたけどよぉお!!』

 

 あっ、こらっ! 余計なこと言わないでください! なんのために遥か上空でこんなことしてると思ってるんですか!

 

「若那ちゃん!? ってあんな高いところに!? しかももう先に行っちゃってる!?」

「おまっ……てンメ若那ァアア!! 降りてこいコラ若那ァアア!!」

「おお! 俺真っ直ぐ行くことしか考えてなかった! スゴイな身代祇サン! よぅし俺も行くぞ! 空行くぞ!!」

 

 ほら夜嵐くんに気づかれちゃったじゃないですかー!

 この方法、風を操って空飛べる夜嵐くんにバレたら、簡単に抜かされちゃうかもなんですからね!?

 石投げたって風で弾かれちゃうかもですし! ええいもうプレゼント・マイクの所為でいろいろ台無しです! ひっそり行ってひっそり一位とかやってみたかったのに!

 だったらもう遠慮はしません……石の中でも大き目のをポケットから取り出して……ワン・フォー・オール100%&超回復!!

 

「更に向こうへ……!! PlusUltraぁああああああっ!!」

 

 空中で思いっきり石を投げました。

 風を裂いて飛んでいく石は、それはもう凄まじい勢いで空を飛びます。

 それをチンピラ敵の個性:視力向上で見つめ続けて、見えなくなりそうになったところで位置交換。

 身代祇サーン! と追ってきていた夜嵐くんとの差を一気に開いて、案内板に倣ってコースからは外れないようにして位置交換をしまくりました。

 結果───

 

『オイオイオイオイオイィイッ!! スタートからまだ3分もかかってねぇぞ!? どうなってんだ今年の1年! ───一着! 夜嵐イナサァアッ!!』

「やったぁ勝ったぞお!!」

「えぇええええええええっ!?」

 

 わたし、本気で驚愕。どんな速度で空飛べばここまで速く来れるんですか!

 こちとらゴール近くの石とかと位置交換してまで素っ飛んできたんですよ!?

 いえまあゴールゲートが狭かったのと薄暗かった所為で、最後まで位置交換移動でっていうのは無理でしたけど!

 ゴールゲートの暗がりの中、わたしの頭上を突風が吹きぬけたと思ったら……夜嵐くんが一着でした。

 

『続いて二着! 身代祇若那ぁああっ!!』

「やっぱ速いな身代祇サン! 俺驚いた! 速度に関する個性じゃないのにこれだけなんて、ほんとスゴイな!」

「夜嵐くんこそどういう速度ですか……」

「うん! なんかもう顔面とかに掛かる圧とか息苦しいの全部我慢して無理矢理突っ込んできた! 正直酸欠で死ぬかと思ったな!」

「体育祭で窒息死とか絶対にあっちゃいけませんからね!?」

 

 それでも凄まじい速さで1位2位です。しかもこれ、もはや体育祭じゃないですね。

 けどいいのです。最近のわたし、学生の癖にぼろっぼろでしたし、たまにはこんな楽をするくらい許されたっていいじゃないですか。

 というわけで、他の生徒がゴールするまで、のんびり待つことにします。

 結構な回数を身代わり交換したので、個性の反動も落ち着かせないといけませんし。


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