予選通過は42名。……42名。11クラスから42名って。
落ちた人もまだ活躍の場はあるとか、ミッドナイト先生言ってますけど……それにしたって42名。
いえいえ、一応は通過できたんですから、ここは喜んでおくべきです。
え? 目立ちたいか目立ちたくないかで言ったら? ……目立ちたくないですお腹キリキリします……!
親から継いだ、この誇りある個性で一位を……! と張り切ってしまいましたが、だからといって常に目立ちたいかといったらNOですNO。
なので───
「身代祇サン! 一緒に組もう!」
第二種目、騎馬戦にて、早速目立つ1000万Pさんがわたしのところにやってきました。断られることなど微塵も想定していない、もしくは断られても構いませんな純粋な顔がそこにありました。
一位と二位が組んだらめっちゃくちゃ目立つじゃないですか。ていうかこっちなんて精々200Pかそこらなのに、なんですかこの1位との差。
いえいいんですけどね、それだけPが高ければ、“所詮二位”って感覚で見られ───……あれ? これってわたしの個性が、素晴らしき父の個性が“所詮”扱いという……? OK上等です組みましょう組みますとも思い知らせてあげますよこんちくしょう。
「わかりました。それでは───あ、轟くん、一緒に組みましょう。推薦組の縁です」
「随分軽いな……ああ、それはべつに構わねぇ」
「あと一人だな! 誰がいいかなぁ!」
「まず誰が上に乗るんだ? それを決めよう」
「轟くんで」
「俺でもいいぞ! でも俺体デカいから重いぞ! すっごく重い!」
「それなら身代祇でいいんじゃないか?」
「人様の手の上に素足を乗せるとか死にます」
「死ぬのか。マジか。やべぇな、それは」
真面目に受け取ってくれました。轟くんって思ったよりピュアです。
「よぅし! じゃあ適当に探してくる! 1番になるのもいいけど、祭りなんだから楽しまなきゃだ!」
あ、それ賛成です。
体育が付いているとはいえ祭りです。祭りは楽しくなきゃです。
「というわけで連れてきた!」
「若那ちゃん。これはいったいどういう状況なのかしら」
「梅雨ちゃん!?」
超高速で梅雨ちゃんが攫われてきた。……もちろん騎手になってもらいました。
え? 結果? 結果は……風巻き起こして炎熱と氷壁で守れて、いざとなれば奪われたハチマキと身代わり出来て、驚いている隙に梅雨ちゃんが伸ばした舌がハチマキを取る我らに、敗北があるとでも?
ええ、まあ、そうして一位のままタイムアップを経て上位4位までが最終種目へGOだったんだけどね。
それはいいんです、ええそれは。ただ───
「チアガール?」
「そ、そうなんだよ! 午後は女子全員であそこの……ほら、あの外国人チアガール! あいつらみたく応援合戦しなくちゃいけないとかでさぁ!」
「うっそだー。だったら女子連中一人たりとも知らないとかあるわけないじゃん」
「ですわ。まったく、峰田さんだけならともかく、上鳴さんまで……」
「うぐっく!?」
「ばっ……突き刺さるなよォ……! ここを耐えればオイラ達の勝ちなんだから……!」
「お、おう……! わかってるぜ……! ~……しっ……信じねぇのも勝手だけどよ。これ、相澤先生からの言伝だからさ」
「「「───」」」
相澤先生からの。その一言で、食事中だったわたしたちの心に、悲しい風が吹きました。
じゃあ何故相澤先生が居ないのか。合理的手段として言伝たからでは? あの先生ほんと“時間は有限”が好きな人ですし。
「って言ってもね……じゃあなんで、衣装すらないのさ」
ここで耳郎さんからツッコミが。あ、確かにそうです。時間は有限を謳うあの相澤先生が、その辺用意してないとかありえません。てかもっと言うなら体育祭の準備期間にとっくに言ってます。
つまり?
「上鳴くん。峰田くん」
「お、おう、なんだ? 身代祇」
「ももももしかしてサイズか!? サイズ教えてくれんのか!? 用意するから是非───」
「わたし、お二人を助けましたよね? それこそ命懸けで。……もしこれが、女子のチア姿が見たいから、なんてことで、相澤先生の名前まで騙ったことなら───」
「「───」」
瞬間、二人の顔がキュッと真顔になりました。
「……そんなことありませんよね。ごめんなさい、クラスメイトを疑うなんてひどいことをしてしまいました。……八百万さん、たぶんですけど先生は八百万さんの個性で衣装を出すよう、指示するつもりだったんじゃないでしょうか」
「まあ。私の個性で?」
「見て覚えて創り出す。創造の個性なら、様々を知ってこそですし」
「なるほど……祭りの中でも生徒の力を引き出す……合理的ですわね」
「「…………」」
瞬間、真顔な二人からだらだらと汗が出始めました。
しかし、けど、ええと、です。たぶんウソなんでしょうけど、ほら。子供の頃から着物なんてものを着せて育てる身代祇家って、今では信じられないほどにお堅い家元でした。なのでそのー……正直、着てみたいです、チアガールの服。
人を騙すのはよろしくないですが、理由作りのためです。その罪悪感を対価に、着ようではありませんか……チアガール服!!
「……若那ちゃん。もしかしてチア服着たいのかしら。ケロケロ」
「着たいです!」
「わっ、めっちゃ正直や!」
「まあ、ウソでも最終種目までには時間はあるし、発覚したあとの男子がどうなるかは相澤先生次第だしねー。いいと思うな、私!」
「「───!!」」
瞬間、真顔で汗だくの二人がビシィと固まりました。
るーちゃんやる気満々だ。友達が同じ気持ちだと嬉しい……ユウジョウ!!
そんなわけで八百万さん……モモちゃんに創造してもらったサイズぴったりチアに着替えて、その状態で最終種目……トーナメント形式1対1のガチバトル……の組み合わせ発表、の前にレクリエーション。長いです。
ややこしいけどようするにこれが予選落ち等をした者へのレクリエーション種目でもあるとのこと。
それらを盛り上げるのが、グレープと上鳴くんの言っていたチアだのなんだのなんですけど、プレゼントマイクの話じゃそのチア活動は、さっきの外国人チアの人達だけで事足りていたらしいです。つまり騙されたってことですが───それがどうしたというのでしょう。
「よっしゃあお前ら全力で行くぜェ!!」
「玉ころがしとか苦手なんだよね俺……!」
「なぁに言ってんだ瀬呂! どこの高校でもやってそうなことで全力出すからこそ面白ぇんじゃねぇか!」
「だよなあ! やっぱ全力だよなあ! 力の出しどころが個性によってないって、いいよなあ! ようしやるぞお! 頑張るぞお!!」
「おおよやったろうぜぇ! オラ爆豪も!」
「うるせぇ俺ンこたほっとけボケ!!」
そう、個性の差があるから活躍出来ない人も多いこの雄英体育祭において、逆に“個性を使ってはいけない競技”が存在する。
それがレクリエーション扱いである体育祭種目……ヒーロー育成に力を注がない高校でも普通にやっている種目なのである。
つまりは個性が発覚する前は普通にあった競技とかです。
「たとえ個性がなくとも! 走ることでぼ……俺は負けない!! うおおおおおお!!」
「おおおお! 速ぇぜ飯田ァ!!」
「よし! 任せたぞ砂藤くん!!」
「お、おう! 託されたぜ!!」
組対抗で競うそれは、いっそ個性を使うよりも楽しく、白熱した。なにせ全力だ、個性を使えば楽なことを、あえて全力で、それこそ育んできた体で競う祭り……まさに体育祭がここにありました。
「綱引きィ……! 上ォオオ等ゥだかかってこいやコラァ!! てめぇら全員ンン……前のめりにしてぶっ倒してやっからよぉお!!」
「組での総当り戦……いいかお前らー! いっぺんたりとも負けねぇ気持ちでやるぞぉー!!」
「もちろんだ切島くん! さあ皆、力を合わせて勝ち抜こう! こういう時こそ団結だ!」
「いいなあ熱いなあ! 俺こういう展開大好きだ! な! な! 轟!!」
「そうだな」
「お前はもうちょっと熱くなったほうがいいと思うなあ俺!!」
「あっははははは! おーう! やったろーぜーぃっ!」
「るーちゃん元気……」
「個性が地味だと、地力が試される……いいね、こういう競技の方が得意だよ、俺は」
「うん、頑張ろう、尾白くん!」
リレーで白熱、綱引きでフルパワー、叫び叫ばれアーコリャコリャ。
「はぁっ……はぁっ……! 次っ、次は……借り物競争ぉお!?」
「ぇえええ!? これ無茶な借り物とかあったりせぇへん!?」
「大丈夫! ここは雄英! 理不尽な借り物指定などない筈だ!」
「とか言ってる内に始まった! 毎年だけど、もうちょっと競技の間に休憩とか……峰田くんぜぇぜぇ言っててふらふらだよ!?」
「行け峰田ー! さっさと借りるもの見て───おい、なんかこっち来てねぇか?」
「え? あっ……もしかしてこっちで借りるものとか!?」
「落ち着くんだ緑谷くん! ここはどんなことを言われても冷静に差し出せる用意を───」
「けどこっちで借りるものなんて───あ、もしかして飯田の眼鏡とかか? ほら、なんか定番って感じするし」
「な、なんだってー!? それは困る! 困るが……仕方ない! 受け取れ峰田くんー!!」
「おぉおおおいぃ!! どうすんだよ! どうすんだよこれー! なんだよ背脂って! どこで借りればいンだよー!!」
「「「………」」」(……メガネではなかったのか)
「……モモちゃん」
「え───え!? 私ですの!?」
「エ!? ……ハッ!? じょっ……じょじょ女子からでた背脂……!? オイラそれでいい! それがいい! よっ……よこせよォ! ほら早くしろよォ! ウヘヘヘヘヘ女子から出るねっとりとしたアレをよォォォ!!」
途中トラブルもあって、グレープがボッコボコの状態でゴールしたりしましたが、スポーツマンシップに則り、創造で出したものを渡すことはありませんでした。
「さぁて来ました応援合戦! やってやりましょう皆さん!」
「ワーちゃんなんでそんなやる気なの……」
「舞踊だと思えば恥ずかしくありません。それに、みんなで……みんなでやるからむしろ楽しいんです!」
「ずっこいよねー。男子も学ラン着て応援ー、とかすればいいのに」
「……え? あいつらのそんなの、見たい?」
「…………べつに見たくなかったや」
「透ちゃん、あなた結構辛辣なのね、ケロケロ」
「それ言うなら、言い出した響香ちゃんのほうだと思うな、私」
「え? 葉隠見たいの?」
「見たくないね!」
「即答や!」
「まあ、やるからには半端は許されませんわ。これも組のPにはなるそうですから」
「組と個人とで分けるっていうのも、雄英ならではなんかなぁ」
「もちでしょ!」
「ダンスとかだったら喜んでやったのになー。あ、応援なんだからそれでもいいのかな?」
それでも続く。
応援合戦ではっちゃけて、むしろ吹っ切れて、ヤケクソになって、全員が全力で応援しました。
「うおおおおおお棒倒しぃいい! 俺っ、これ大好きだぁあああっ!!」
「うおおおお! 俺も大好きだあああー!」
「お前もかぁ夜嵐ぃ! やってやろうぜぇ!」
「やってやろう!! 硬くなる人!」
「切島だ切島!」
「んじゃ、まず攻めるのと守るのを決めてから───」
「あ゙? なに寝言言ってんだクソ紅白。攻めは俺だけでいい。てめぇら全員で守ってろや」
「団体ン時くらい協力しろよ爆豪……」
「そんな性格だから身代祇に溜め息しか吐かれねぇんだよ……」
「あのポンコツは関係ねぇだろうがぁああ!!」
「ちっくしょ……この競技で女子も一緒だったら、衝突と偽って胸とかあそことか触りたい放題だったのによー……」
「お前せめてそういうことは胸に秘めとけよ……てか、お前みたいのが居るから男女別になったんじゃねぇか?」
「冷静にツッコむなよ瀬呂ー!!」
男女分かれての種目として、男子が棒倒し、女子が───
「うおおおおお! 玉入れって意外と体力使うー!」
「個性使えればほぼ強者でしょうしね、ティーちゃん!」
「でも体使うのって楽しいよね! 正直入学するまでは、雄英って個性ばっかの学校だと思ってたな私!」
「あー! それわかるー!」
「るーちゃん、三奈ちゃん、とっても女子らしい語り合いはそれまでで、頑張りましょう!」
「てか若那ちゃんずっと投げまくってて疲れへんの!? しゃがんで立って投げてしゃがんでって速すぎん!?」
「体力には! 自信がありますから!」
「うわっ、めっちゃ楽しそう!」
もちろん個性は使ってません。ていうか競技の最中は相澤先生(ドライアイ克服Ver.)が目を光らせているので、使ったら一発でバレます。
そんなマイナスにしかならないことをするわけにはいきません。
なのでここは根性です。己の身のみで戦い、競い、時に手を取り、時に組同士で敵となり、けれど祭りなのだから全力で楽しむ。
嗚呼素晴らしきかなPlusUltra。