戻ってみたら、なんだか皆さんソワソワしてました。
「あの」
「ヒィ!?」
「声かけただけでヒィってあんた……」
声をかけたら上鳴くんにヒィ言われました。
耳郎さん、もっと辛辣にお願いします。
「次は轟くんと三奈ちゃんですね」
「相性的にはどうなんだろうな。瀬呂の時みたく凍らせても、たぶん溶かすだろ」
「あ、そうだよな」
「となると……燃やす?」
「うおおお轟ィイ! 燃やしてくれェ! 主に服を!」
「峰田ちゃん、あなた最低ね」
はい、ほんと、最低だと思います、このグレープ。
ともあれ、二戦目です。
『んんじゃあ行ってみようかぁ! 瞬間攻略力なら恐らくNo.1! ヒーロー科、轟焦凍ォオオッ!!』
「………」
『相手の武器を溶かして攻める! ヒーロー科! 芦戸三奈ァアッ!!』
「っへへー、じゃあいっちょやってみますかねー♪」
三奈ちゃんは楽しそうにストレッチをして、開始の合図を待っていた。
対する轟くんは、右手と左手を見下ろして……こちらをちらりと見たあとに、フッて笑いました。
はて?
『そんじゃあ行くぜぇええっ!? レディイイイイッ!! STARTぉおっ!!』
「ふっ───」
開始と同時に轟くんの氷結攻撃。
瀬呂くんを氷付けにした時のように、視界が一気に巨大氷柱に塞がれる。
けど三奈ちゃんもそれは予想済みだったんでしょう。瞬時に溶かして、前へ───
「悪ぃ。やるの初めてだから加減できねぇかもしれねぇ」
「へ?」
轟くんのもとへ走る三奈ちゃん───へと、轟くんが左手を伸ばして……どっかーん。
急激に冷やされた場が一気に熱されたことで膨張を起こして、爆発したみたいに見えた。
そんなものをまともに受けた三奈ちゃんは、当然といえば当然で場外の壁に激突していて、場外判定。
『おぶっほ……!? じょ、じょじょ場外ぃいいっ!? おまっ……イレイザー!? お前のクラスどうなってんの!? なぁほんとどうなってんの!?』
『どうもこうも、出来ることをやっただけだろ』
『ドライだなほんと……』
うわー……う、うわー……。
え? あれ? 次わたし、轟くんとやるんですよね? え? あれとやるんですか? え?
「……身代祇、どんまい」
「どんまい」
「なんていうか……どんまい」
「やめてください!」
なんかもう既に負け犬ムードですよ! やめてください精一杯頑張りますから!
『吹っ飛ばされた芦戸は……おおっ、思ったよりピンピンしてんな! 無事でなによりだぜ! んじゃあ早速で悪ぃが三試合目だ! カミナリ様を天に帰した女! ヒーロー科、麗日お茶子!』
「なんかどえらい異名つけられとる!?」
『その脚は発明のために活かされた! 同じくヒーロー科、飯田天哉!』
「くっ……何故……俺だけこんな紹介に……!」
飯田くんも結構な紹介されてますね……たぶんわたしもひどいこと言われそうです。
まあもうそれはいいです。そうなるってわかっていれば、耐えられるものもありますし、今は我慢我慢です。
……。
ティーちゃんvs飯田くんは、ティーちゃんの敗北に終わった。
相打ち覚悟で飯田くんの攻撃を受けながら、飯田くんに触れるまではよかった。
もちろん浮かせてしまえば勝ち、なんてわたしも、きっと他のみんなも思ってました。
けれど、飯田くんの個性はエンジンです。脚から出るターボエンジンを軸に、浮かされても地面へ向けてレシプロして、ティーちゃんを掴んで場外へとブン投げた。
掴まれた瞬間に、慌てて空へと飛ばそうとしたのが自分に返ってきたのだ。
浮くことは出来ても、吹き飛ぶ速度を変えることは出来ません。結果として、ティーちゃんは負けた。
「麗日くん……、はっ、はぁっ……! キミの個性を知っていなかったら、負けていたのはきっと俺の方だった……! 俺の個性がエンジンでなかったら……! ……、はぁ……!」
「あはは……飯田くん、すごい息荒い……」
「それは、もちろん肝を冷やしすぎたからね……。正直、あそこで掴めていなかったらと思うとゾッとする」
「でも、負けは負けだから。飯田くん、私の分までファイトだよ」
「任せてくれ!」
ティーちゃん……あんなに勝ちたがってたのに負けてしまって悔しいでしょうね。
でも下手な慰めは胸に刺さります。ので、求められない限りは……無駄に踏み込むべきではないのでしょう。ユウジョウって難しいです、お母さん。
『オオケェイ選手の退場も見届けたところで、第二回戦最終試合を始めっぜー!! ヒーロー科の硬ぇヤツと言えばコイツ! 切島鋭児郎!』
「おォよ! 硬さ勝負じゃ互角だったが腕力なら俺のが上だぁ!!」
『対! ヒーロー科のヤベェ奴! 爆豪勝己ィッ!!』
「………」
かっちゃん……ヤベェヤツって意味では違いありませんから、文句も飛びませんね。
ていうかあの白目ってどうやってるんでしょうね。
「ところでイズクン」
「え? なに? 若那ちゃん」
「結局あれからかっちゃんと仲直りしたんですか?」
「仲直りっていうか……一応、友達としては見てもらえるようになった……かな」
「………」
「あはは……想像できないよね。でも、競う相手として真っ直ぐに見てもらえるようになったんだ。隣を歩くだけで目障りだ、なんて言ってきたかっちゃんがだよ!? すごいよね!」
「………」
「………」
「あの、瀬呂くん? 上鳴くん? なんで肩叩いてくるの? え? 僕おかしなこと言ったかな」
「おかしいといえばとってもおかしなことなんですけどね。あの、ところで飯田くんが居ないみたいですけど」
「あ、ほんとだな。もう戻ってきてもいい頃なのに」
「これは……ビッグだな!」
「上鳴サイテー」
「生理現象だろぉ!? なんで最低になるんだよ!」
そういうのはわかっても言わないものですよ、上鳴くん。
ともあれ、始まりました。レディースタートです。
「緑谷ぁ、どうなると思う?」
「切島くんが上手いことかっちゃんのアゴとか捉えられれば……かな。上鳴くんは?」
「俺は切島かな。だってホレ」
促されて、イズクンと一緒に見てみれば、かっちゃんの爆破をくらってもビクともしない切島くん。
「さすがの爆破もあんだけの耐久の前じゃあなぁ」
「………」
「………」
「お、あれ? どした? 緑谷も、身代祇も」
「耐久勝負……」
「切島くん、分が悪いかもです」
「へ? なんでよ」
「かっちゃん、意地っ張りですから」
言ってる間も爆破爆破爆破。
構わず突っ込む切島くんの手を軽く避けて、また爆破。
体に当てず、目の前に爆破が起こればそりゃ怯みますって状況まで作られて、すかさず連撃。
「ぶはっ! てっめ無茶すんなぁ!」
「このまま無理矢理押し込んで場外、なんてのは期待すんじゃねぇぞ……! てめぇがぁ! こっからァ! 吹っ飛んでけやぁああっ!!」
渾身の一撃。
爆破で加速させた腕でラリアットをして、さらに爆破で加速。強引に振るった腕で切島くんを吹き飛ばして、さらに追撃の両手爆破。
宙に浮かされた切島くんが吹き飛ばされて、場外へ落下した。
『場外! 勝者ァ、爆豪勝己ィ!!』
「いや……あれ無理矢理押し込んだみたいなもんじゃない?」
ミッドナイト先生がなんかツッコんでました。
けれどなるほど、いくら硬くなろうが重くなるわけじゃないんですから、浮かせて飛ばすは全然アリですね。
『今年の一年どうなってんの……俺ちょっと怖いんだけど』
『今年はサクサク進んでいいな。ほれ実況』
『容赦ないねイレイザー。───んじゃ、これで準決勝進出者が決まったわけだ! 第三回戦準決勝、身代祇若那対轟焦凍! 同じく準決勝第二試合! 飯田天哉対爆豪勝己!』
「………」
「どんまい」
「どんまい、ワーちゃん」
「どんまい」
「やめてください!」
勝っても負けてもどんまいが待ってそうな世界がそこにはありました。
……。
結局、わたしが武舞台に下りるまで、飯田くんと会うことはありませんでした。
どうしたのでしょう……と思って観客席を見上げてみれば、いつの間にやらティーちゃんの隣に座る飯田くん。
ややっ!? いつの間に……と驚いていると、その隣の隣の隣に座る上鳴くんが、なにやらゼスチャーで…………あ、あー……ビッグでしたか、そうでしたか。ってわざわざそんなこと教えないでください!
「身代祇」
「ほわいっ!? あ、あぇ、なんですか、轟くん」
「左、使ったことで親父に捕まった」
「え───あの。いきなり物凄く重い感じに始まったんですけど。聞いていいんですかわたし」
「いや、笑い話なんだが」
「捕まったのにですか!?」
え、えー……? 轟くんの笑いの沸点って謎ですが……!
いったいこれからどうやって笑いの方向に……?
「親父に捕まって、“とうとう子供じみた駄々を捨てて完璧な俺の上位互換となった”、なんて言い出してな」
「うわぁ……」
「卒業後は俺の元へ来いだの、俺が覇道を歩ませてやるだのと言いだしたから、なんかもう逆に笑えてきた。だから言ってやったんだ。“あんたなんか眼中に無い”って。最初は見返してやるつもりでやってたけど、なんでだろうな。いろいろ吹っ切れたら、あいつの方がガキみたいな駄々をこねてるようにしか思えなくなってな」
「それはまたなんとも……」
「“覇道なんてどうでもいい。あんたの願いも関係ない。俺は俺がなりたい俺になる”……そう伝えてきた。……っ、くふっ……! あの時のあいつの顔ときたら……!」
「………」
おおう……あの轟くんが笑ってます。
目を細めて、子供みたいに。
……いいことですよね、しかめっ面や無表情でいるよりも、よっぽど素晴らしいことです。
「参考までに、どんな自分になりたいですか?」
「ああ、それも訊かれた。だから言ってやった。“あんたが別の意味で羨むようなヒーローに”。それが俺の願いで、あいつを戸惑わせる願いだ」
「……ですか」
「ああ」
会話の途中でスタートされました。
和やかムードのままとはいきませんね、一瞬で臨戦態勢です。
「感謝はしてる。けど、戦いはそれで別だ」
「もちろんです」
右足を振り上げた───氷結が来ますね。
では真っ直ぐダッシュです!
「!」
轟くんの氷結は、足の先から遠くになるほど、階段のように高くなる傾向にあります。
だったら氷の柱が低い方へと走って飛び越えるに限ります。
一瞬でも凍らされれば、熱膨張で吹き飛ばされるかもしれませんから。
「悪ぃが、掴ませねぇ」
「はい、それが目的ではありませんから」
わたしといえば投げ、投げといえば掴むと連想して、投げと連想すれば腕を掴まれると大体の人が思います。
けれどわたしは氷を飛び越えた勢いのまま腕ではなく肩を掴んで、彼をも飛び越える。
「っ───」
そして凍らされようが燃やされようが無視して抱きついて───
『なっ、おっ……これはぁあああっ!?』
「ジャーマンスープレェエエエックス!!」
「!!」
足を凍らされましたが構わず投げる! 思わず頭を守りに腕が上がったところで、手に持っておいた氷のかけらを手放した。
ごどんっ! と衝撃が伝わる瞬間、彼の背から顔を横にずらして、落ちてくる氷のかけらと位置交換。落下と同時にその体へとニードロップをキメた。
「~っ───!」
「ふわぁっ!?」
みぞおちに埋まったニードロップに体をくの字に曲げた轟くんが、炎を出して反撃する。
慌てて離れますが、結構なダメージは入ったはずです。
「げっほ……! っ……容赦ねぇな……!」
「この個性ですから、対人なんて随分と学びました。予想はついていると思いますが、ひどく決め手に欠けますが」
「いや……喉にやられてりゃ終わってた。加減したのか?」
「いいえ、氷が思ったよりも上に飛ばなかったので、仕方ありません」
話しながらも攻防は続きます。手を伸ばせば弾かれて、踏み込めば炎を纏われて。
なるほど、攻めづらいです。
「ふっ───」
「ほわっ!?」
で、立ち止まれば右足から氷が伸びてきます。
軽い跳躍では跳んだ先にまで伸びてくるので、大げさすぎても思い切り避けなければいけません。
位置交換? 無理です、炎纏われてます。交換した途端、わたしが燃えます。
ならば? ならば。
「まず指弾」
「っ」
氷の欠片を指で弾きます。狙うは目の傍。
咄嗟に腕で防御する彼目掛けて一気に疾駆。ええ、当然炎を纏いますよね?
「折った氷を砕いてまぶして~……おぉらぁっ!!」
「ごはっ!?」
氷をゴシャアと砕きまして、右手にまぶし、さらにぬりこみ、余った欠片を握り込んで───腹を殴ります。
リミッター解除はそのままなので、がら空きボディには相当効いたでしょう。
「わちゃちゃちゃちゃちゃ!!」
それでも熱い! ほんとこういう自然系の個性の人ってどうかしてます! どうして体が燃えたりして平気なんですか!
けれど構わぬ! 接近させた方が悪い! 殴ったついでに掴んで振り回してぇええっ!!
「ふんっ───りゃぁあっ!!」
ぶん投げる! 氷のお陰でツルツルするこの場では、勢いがついていればそれだけでも場外まで───あ。なんか氷で壁作られて、そこで止まりました。
そして起き上がる轟くんは、冷静そうながらも目は本気です。
右足と右手をバンと地面について、そして───わたしを見た。あ。距離やばいです。
適当な砕けた氷と位置交換を、と思った瞬間、わたしは氷に包まれていました。
「………………身代祇ちゃん。動ける?」
「……、あの……! ミミミ、ミッド、ナイト……?」
「なに、かしら……?」
首から上だけが氷柱から逃れて、けど霜まで走っている状態。正直、とんでもなく寒いっていうか痛いですが。
「ごめんなさい……! ちょっと汚いこと、します……!」
「へ? 汚い……?」
凍らされて銀世界を味わった瞬間、轟くんは視界から外れてしまった。首は動かせないし、見える範囲に身代わり交換できるものはない。だったら。あ、だめです、すぐそこまで轟くんが迫ってます!
恥ずかしいですが、お母さんごめんなさいですが、可能性があるのにそれを捨てて敗北を得るなど、わたしは嫌です!
なので───唾を吐いて、それと位置交換をした。
「───! なっ───」
瞬間、横から轟くんの驚いた声。
その姿をきちんと確認してから腕を、腕を───あ、だめですこれ! 腕動きません! 凍らされた影響ですか!? 血液大丈夫なんですかこれ!
そうこうしている内に、三奈ちゃんの時のように、炎が迫って……!
『ぶばぁあっはぁっ!? ってまたかい! 今年はほんと派手だなオイ! ただこれだと何が起こってるかわかんねーぞ!』
さっきよりも冷やされていた場所に強烈な熱。やっぱり熱膨張は起きて、爆発するみたいに暴風と霧を生みました。
で、わたしはといえば……
「っ……身代わりで逃げても、身体が冷えて動けねぇと……思ったんだけどな……」
「はい、動けませんでした。なのではい、膝落としたり殴ったりしたお腹、もう平気ですよね?」
「───! ……なるほど、こっちの体が動かねぇ……。すげぇな、身代わりってのはこんなことまで出来んのか……」
轟くんの腕を極めて、地面に押し付けていました。
理屈は簡単。冷えて体が動かなくなったので、動ける目の前の人と状態交換をしました。お腹がとんでもなく痛いです。が、胃袋全摘級に比べれば……ですよね。
「炎を出して体を暖めますか? それともわたしを凍らせますか?」
「……ひとつ聞かせてくれ。熱膨張で吹き飛ばなかったのはなんでだ?」
「吹き飛びましたよ? 地面に」
「……。まいった。俺の負けだ」
「轟くん、降参! 勝者、身代祇若那!!」
『YEAHぁあああああっ!!』
三奈ちゃんとの戦いで、熱膨張が起きた時。三奈ちゃんは吹き飛んで、轟くんが吹き飛ばなかったことに疑問を抱いたのがそもそもです。だったら轟くんの傍か後方は安全なのではと、内側に潜り込みました。
いえ、ただ背中に氷壁を作って吹き飛ばされないようにしていただけなんですけどね。それに気づいたので、それを利用させてもらいました。……結果、地面に激突しつつ、霧に紛れての合気となりましたが。