さて。
「かっちゃん顔すごい」
「うるせぇ今話しかけんなや……! 俺ァなぁ若那ぁあ……! このトーナメントでテメェに勝って、今こそ俺がトップだってことを証明すンだ……!」
飯田くんとかっちゃんの様子を見に、観客席ではなく控え室に行ってみれば、顔がすごいかっちゃん発見。
飯田くんは別のところにいるのか、控え室には居ませんでした。
ていうか……あ、はい、話しかけるなと言いつつ、わたしには話を振るんですね?
「あ、あのー……かっちゃん? イズクンとは友達に……」
「……………………チッ」
舌打ちです。舌打ちしましたよコンチクショウ。
「かっちゃん……舌打ちは禁止した筈ですが……」
「ぬぐっく……!? ……言ってンだろが何度も……。俺を頷かせたきゃ勝ってからにしやがれ。でなきゃ誰がテメェの言葉なんざ聞くか」
「じゃあわたしが勝ったら友達になってください」
「……!!」
あ。白目歯軋り口突き出しかっちゃんです。
「もう勝ったつもりかテメェ……!」
「なんでそうなるんですか……じゃあ、かっちゃんが勝ったらどうするんですか」
「決まってんだろが泣かせて謝らす!」
「あれまだ諦めてなかったんですか!? あ、あのー……かっちゃん? 絵面的にどうなんですか? 女子を泣かせて謝らせるとか……」
「………」
「………」
「誰がダサイんだゴラァ!!」
「何も言ってませんよ!?」
確かに聞こえた気がしましたけど! 夜嵐くんボイスで“ダサイな!”とか聞こえた気がしましたけど!
「とにかく。いいですかかっちゃん。今は飯田くんとの戦いに専念───……してますね」
「油断はしねぇ。絶対ェにだ。傲慢も慢心も捨てたんだよ。俺は俺の意識でトップになる。誰もが持ってるような俺サマ思考はいらねぇ。俺は俺だけの俺様で一番になンだよ」
「せめて俺様捨てましょうよ……」
「指図してぇなら勝ってからだ」
「……はぁ」
指図じゃないんですけど。まったくかっちゃんは。まったく。
昔っから人のお願いなんてちっとも聞いてくれないんですから。
「かっちゃん」
「あァ?」
「頑張ってくださいね」
「余裕じゃねぇか言われんでもすぐに並んでぶっ潰したるわ首洗って待っとけやコラ」
「そういう頑張りじゃなくて……ああもう」
人のことを潰すか殺すかボケかクソとしか考えてないんじゃないでしょうか。
幼馴染ってもっと暖かいものだって本には書いてあるんですけど……嘘つきですね、まったく。
……。
かっちゃんとの話もそこそこに、観客席へと戻って来ると、かっちゃんも飯田くんももう入場してました。地味に遠いです、観客席。
「あ、若那ちゃんお帰り。ってこっち来てていいの!? すぐ決勝でしょ!?」
「え……わ、わたし、見ない方がいいですか?」
「そういう意味じゃなくて! ほ、ほら、ひとりになって集中したりとか!」
「一人になると緊張で吐きそうなので勘弁してください……」
「若那ちゃん……」
「若那ちゃん。女の子が吐くとか気軽に言ったらだめだと思うわ。ケロケロ」
「え゙っ……アカンかな……!」
「ティーちゃんのはキャパオーバーでのハミルトンなので、セーフかと」
「なんでハミルトン?」
「ゲイリー」
「なんかそれ別のもんに聞こえるからやめて!?」
「へ、へへ……なんか今日の女子、下品だな……なぁ瀬呂ォ……」
「そういうの俺に振るのやめろって……」
グレープは変わりませんね本当に。
さ、男子はほっといて、そろそろです。
『さぁて準決勝もこれでおしまい! やけに速ェぜ今年の一年! ガチンコとは言ったがこうまで全力だと驚いてばっかだぜ! さぁいくぜ準決勝第二試合! 飯田天哉vs爆豪勝己ぃ!』
「爆豪くん。ヒーロー一家でもないのにその強さ……性格面を抜けば、キミは本当に素晴らしい存在だ!」
「気に入らねぇなぁ……ヒーロー一家だから強い? 違うな、恵まれ方と努力の差だ。ヒーロー一家だから強くならねば、なんて努力で……ヒーロー一家だから自分は絶対にヒーローになれる、なんて恵まれた頭で、血ヘド吐くような鍛錬が出来っかよォ!!」
『レディイイイイイッ! STARTぉっ!!』
「努力は須らく努力だ! それを否定などさせないぞ!」
「あぁそうかよ! だったらてめぇは苦痛もねぇ努力で満足してろや!」
……かっちゃんは、オールマイトとの鍛錬が始まるまで、ぶつくさ言いながらもわたしたちと鍛錬をしていました。
事情があって、というわたしたちの反応にギラリと鋭い視線は送ってきたものの、日々をヘトヘトになってでも学校には来るイズクンを見て、鍛錬方法を変えたのだとすぐに納得、何かを言うこともなく、上等だって感じでニヤっとしてたのを知っています。
イズクンが無個性だと思っていたから、相応に努力しないと届かないから。自分の横で鍛錬をするイズクンが、どれだけ惨めな思いをしてきたか、良個性を持つかっちゃんだったからこそわかってた筈なんです。
それでも自尊心から他人を見下す傾向は無くさず、認めている部分は多少あっても、それを受け入れようとはしませんでした。
いろいろなことが重なって、負けることも、受け入れることも覚えてくれました。なにが主な原因なのかはわかりませんけど、よかったです。(←*主な原因本人)
頭の中が常勝でいっぱいにならないよう、誰かが負かしてあげるとか、それはよくないことだと教えてあげるとか、彼が納得出来る形でこれはこうしたほうがいいと言ってあげるとか、そういう人がいつだって傍に居てくれたらよかったんですけどね。(←*主な原因)
そうしたらいつしか、そいつの言うことだったら、条件付きだったら聞いてやる、とかかっちゃんなら言いそうですし。(←“言うこと聞かせたいなら勝ってからにしろや”の流れ)
あ、でも飲み込めたってことは、そういう人が居たってことですよね。ウフフ、誰なんでしょうねぇ、あのかっちゃんを言い負かすことが出来る人、なんて。あ、もしかしなくても
……。
かっちゃんと飯田くんの戦いは、真正面からのぶつかり合いから始まりました。
個性・エンジンを使って加速、その勢いのままに攻撃する飯田くんと、個性・爆破による爆速ターボでのかっちゃんの突撃。
一気に至近距離になって、けれど二人は構わず攻撃を仕掛けました。普通ぶつからないように避けたりしません?
拳と蹴り……といっても、かっちゃんは爆破で攻撃。その衝撃で自分の体を飯田くんの蹴りから逃がして、頭上から後ろへと回るついでにもう一撃爆破。お陰で着地は飯田くんから少し離れた場所になったけど、すぐさま距離を詰めるために疾駆。
背中を爆破させられた飯田くんも、その地面を蹴る音でかっちゃんが近づいてくるのがわかったのか、振り向く動作と個性を合わせた鋭い蹴りを放ちます。
けれどわざと足音を強くさせ、飯田くんに気づかせるように走ったのか、かっちゃはその蹴りの射程一歩手前で手に汗を溜めていて───飯田くんの表情が驚愕に変わった瞬間、両手から強烈な爆破を放ちました。
かっちゃんもイズクンも、技とか想像して名前つけるの好きでしたしね。まあそれはよしとしてです。
勢いのついた蹴りを外した飯田くんを襲ったハウザーは直撃かと思いきや、飯田くんが蹴りの勢いのまま軸脚で跳躍&エンジンフルブースト。無理矢理に高い跳躍をしてみせて、爆破から逃れた。
それを見た時のかっちゃんの顔の悪いこと悪いこと。
「雄英の体育祭なのに、悪役が完全に決まってるってすげぇよな」
「すげぇ」
「マジすげぇ」
「ヒーロー志望同志なのに、ヒーロー対“敵”が決まってるってほんとすげぇな」
いろいろ聞こえてきましたが、ええ、わたしもしっかり頷きましたし、イズクンも頷いてましたけど、戦いは続いています。
爆破と次への行動がとことん計算されたかっちゃんの攻防と、丁寧かつ真正直、型に嵌まりすぎてわかりやすいながらも、それを速度で補っている飯田くん。
かっちゃんが拳の攻撃ばかりに対し、飯田くんは脚での攻撃が主だ。個性が放たれる場所がそこなのだから、当然といえば当然なんですが───
「空中に居る相手によぉ……! 毎度毎度蹴りで攻撃すんのも楽じゃねぇだろぉ!!」
攻撃手段が蹴りに偏る場合、威力は高いのですけど体勢も崩しやすいし、反動に持っていかれやすい。
そしてそれを逃すかっちゃんではありません。本当に、態度がデカいだけならそれまでなんですけど、なんでも出来ちゃうから厄介なんですよね、かっちゃん。
そんなかっちゃんは手の平から出る爆破個性の反動で宙を浮き、攻撃を仕掛けてはその反動で再び宙に舞う。狙いを定めて飛び掛り攻撃しても、爆破カウンターを喰らうばかりで、飯田くんは……見た目で言えば劣勢です。
「こうまで一方的かよ……」
「相性が悪かったとしか言えねぇよな……」
「……そんで、次は───」
「あ……」
「……あ、ど、どんまい?」
「どんまい」
「だから人の顔見てどんまい言うのやめてください! そういうの、よくないと思います!」
でもだ。
自分の勝ちだと思った時ほど注意しないとですよ、かっちゃん。
「そうだな……! 高い位置からの攻撃なんて想定したこともなかった! これは俺の怠慢だ!」
「んンじゃあどうするよぉ……! 学ぶだけで終わるかぁ!?」
「───どうする? そんなもの、決まっている!」
飯田くんが前に出る。かっちゃんが、空中での位置取りのために、手から爆破をBOOMと弾けさせた瞬間だった。
「そろそろ来る頃だと思っ───」
「トルクオーバー! レシプロバースト!!」
踏み込み、跳躍。飯田くんへ向けて掌を向けたかっちゃん───の左腕から腰にかけてに、弧を描く回し蹴りがきまっていた。
それだけでは終わらず、蹴り込んだ足の勢いを殺さぬままに、空中から武舞台へ向けて叩き落す。
「げっ……がっ!!」
「続けていくぞ!!」
それでも終わらぬ回転がエンジンによって加速され、すぐさま地面から逃れようとしたかっちゃんの頭に叩きつけられた。
「これで……、───!?」
「決着急ぐんなら頭狙うと思ったぜ……」
けど、その蹴りが、地面から爆速ターボで離れる動作のままに受け流されて、威力を半減させる。
蹴りの勢いを利用してその場から離れたかっちゃんが綺麗に着地して、ガードに使った右手と左腕の調子を確かめている。
「んで……決着を急ぐってことは、今のは奥の手ってこった。驚き顔貼り付けてどしたよ。かかってこねぇのか?」
「くっ……そこまで様々に対応でき、センスに恵まれているというのに……! 何故きみはそんな性格なんだ……!」
「うるっせぇ今は性格関係ねぇだろが!!」
あ、今のはなんて言ったか想像つきます。他のみんなもうんうん頷いてますし。
それからは───飯田くんがエンジンを使えなくなっただけ。だけ、というにはあまりに大勢が崩れましたが、戦えないわけではありません。
個性が使えなくとも足が速いことは変わらず、その脚力を活かした攻撃だけでも十分に脅威です。だって、個性持ちだからって防御力が上がる~とかそんな加護は一切ないんですから。
「つっ───せいっ!」
「チッ!」
突き出したかっちゃんの手が飯田くんに担がれるようにして掴まれ、そこから一気に一本背負いの姿勢。
けどかっちゃんは自分から飛び、爆破で勢いをつけ、飯田くんの投げの姿勢が完成するより早く飛び、逆に飯田くんを掴んだ。
そして投げの速度と爆破の速度を利用して、「飛んッ───でけやぁあっ!!」宙で身を回転させるのと一緒に───飯田くんを場外目掛けてブン投げた。
「くっ、うぅううぉおおっ!?」
飯田くんは身を捩ってなんとか地面に足をつこうとする。けど足りない。投げられた位置も悪く、このままじゃ場外まで、ってところで飯田くんの足のマフラーからドルンと煙が出た。
「!! よしっ───これで」
「相手見失ってんじゃねぇぞ───」
「ハッ!?」
「───ぉおらぁっ!!」
ダメ押しです。
投げて、追いかけたかっちゃんが回転しながら突撃。
ぶつかる瞬間に榴弾砲を炸裂させて、そのまま飯田くんを場外の壁まで吹き飛ばした。
『場ォオオ外! 勝者、爆豪勝己ィイッ!!』
「っ……ふぅっ!」
頬に伝う汗をグイと拭って、かっちゃんは大きく息を吐いていた。
対飯田くんだけでも何度も何度も爆破を使ったからだろう。
「くっ……兄さん……!」
飯田くんの様子は、こちら側の壁に吹き飛んだので見えませんが、ミッドナイト先生がロボを呼ばないということは、重症だったりとかはなさそうです。
「………」
そして。わたしはこれからアレと戦うらしいです。
うわぁ……うわぁ……! うわぁああ……!! すっごく邪悪な笑み浮かべてこっち見てますよどうするんですかあれ。
あとみなさん。クラスのみなさん。あの、ほんと、ほんとどんまいやめてください。
……。
どう足掻いても戦わなければならないので、うなだれつつ武舞台へ向かいます。
廊下歩いて階段下りてー、また歩いて歩いてー……ってほんと長いですなんなんですかもう。
……と、その途中で電話をしている飯田くんを発見。
少し離れた場所に居ることから、人に聞かれたらまずい話をしているのか、というか飯田くんの場合は“公衆の面前で私用の電話など迷惑だー!”とか言って、どんな内容だろうと離れそうですけどね。
「───、……? ……!? 兄さんがっ!?」
あ。兄さんが、だけ聞こえました。
と思えば、戦いで汗を掻いて、少し息も弾んでいたはずの飯田くんの横顔が真っ青になっていく。
「そんな……そんな嘘だろう母さん! 兄さんがっ! あの兄さんが!」
……ただごとじゃ、ありませんよね。
飯田くんの兄といえば、インゲニウムさん。
その人が、いったい……? ……気になりますけど、もう行かないと決勝戦が───!
ああ、でももし怪我とか、一分一秒を命取りにする重症だったりしたら───!!
「わ、わかった! 僕もすぐにそっちに───っ……、身代祇くん」
「お兄さんがどうかしたんですか?」
「たっ───、ぁ……ぃ、ゃ……僕は、なにを……。……い、いや、なんでもないんだ。ただちょっと、兄さんが怪我をした、とか、で……」
「助けて、を言えない理由はなんですか?」
「……。君は大切な友人だ。個性を知っているからって、友人だからって、友人だからこそ……言えない、頼めるわけがない! にっ……兄さんなら大丈夫だ! だから……」
「決勝戦。すっぽかしたらひどい評判になりますよね」
「当たり前だ! だから、行ってくれ、身代祇くん! 僕は───」
「でも。泣いている友人を見捨てて、それってヒーローって言えますか?」
「……~───!! 言えなく、ても……! 頼む……僕を最低なやつにさせないでくれ……! 君は、君の父親、リフレッシャーは、周囲の期待に応えすぎて亡くなったんだ……! もし君がプロヒーローを……僕の兄とはいえ身代わりしたりしたら、兄は助けてどうして俺は、なんて言う輩が必ず出てくる!」
「可能なら無視します」
「可能なものか! それが出来なかったからリフレッシャーは! 君の父親は!」
「救うだけがやさしさじゃないですから。わたしはやさしいヒーローを目指しますけど、癒されるから無茶が出来る、なんて人を助けるつもりはありません。……そして、インゲニウムさんには迷子になった時に助けてもらった恩がありますから」
「みしろ……ぎ、く…………~っ……でも……でも、だめなんだ。兄が運び込まれた病院は保須総合病院で、ここからでは───」
「では、急いで行きましょう」
「~……待ってくれ! 気持ちは嬉しい! だが、君に期待してくれている人たちの気持ちはどうする! これからの君の学園生活にだって支障が───」
「───」
……。
「どのみち、重症なら手術は始まっていますよね。さすがに中に入って身代わりになる、なんて聞いてもらえるとは思えませんし……じゃあ、待っていてください」
「え……?」
「かっちゃんと戦ってきます。勝っても負けても、保須に直行ということで」
「───エ?」
「飯田くんは応援なんて心境ではないと思うので、応援するならお兄さんの生きようとする意志を応援してください」
「あ───」
身代わりなんてしたくない。間違い無い本音だ。あの日、助けにきてくれたオールマイトを見て、心の中で吐いた弱音に嘘はない。
でも……やっぱりわたしはお父さんの子なんです。
困っている人が居るなら、自分で救えるなら、見てみぬフリなんて……したくない。
もちろん、誰彼構わず救うつもりはありませんけど。恩がある人だけですよ、きっと。
それに、ちょっと難しい条件もつけさせてもらいます。それができないのなら、誰であろうと救うつもりはありません。恩の分、一度だけなら、とは思ってしまうかもですが。