大歓声の中、ゆっくりと武舞台の上に上がる。もうかっちゃんはそこに居て、鋭い目つきでいて口の両端を吊り上げたような凄まじい顔でわたしを見ていました。
相変わらず顔がすごい幼馴染さんです。
『『『ウオオオオオオオッ!!』』』
「待ったぜ若那ァ……! この瞬間をよぉお……!!」
「え、え? なんですか?」
『『『ドワァアアアアアッ!!』』』
「あぁ!? ンだゴラ今なんつッたァ!!」
「なんですか聞こえません! なななんで怒ってるんですか!?」
『『『ハワァアアアアアッ!!』』』
「だから聞こえねぇつっとるんだハッキリ言えやコラァ!!」
「………」
「………」
大歓声なのも困りものだと思います。うるさいです。
『オォウケェイいい具合に場もあったまってるぜYEAHHH!! さあさあやってきたぜ決勝戦! 泣いても笑ってもこれがラストだヘイガイズアァユゥレディ!?』
『『『オォオオオオオオオッ!!』』』
『YEAH!! HOTな返事でこっちも存分に熱いぜぇ!! んじゃあ始めっかぁ! 爆破と戦闘センスは見てきた通りのもの! ヒーロー科、爆豪勝己ぃっ!!』
「うるっせぇわ! つかこっちの声も相手に聞こえるようにとか出来ねぇんかコラ!!」
『身代わりと合気道で並み居る強豪ぶちのめす! 同じくヒーロー科、身代祇若那ァ!!』
「………」
耳がおかしくなりそうです。熱いのはわかりますけどマイクの音量間違ってませんか? ていうか観客の皆さんもよくそこまで叫べますね、喉痛めちゃいますよ?
『……なんつーか落ち着いたもんだな。もっとあたふたするもんだと思ってたがよ』
『あんだけ濃い連中に囲まれてりゃ、人見知りコミュ症とか言ってられないだろ』
『あ、なんだかスゲー納得できた。ってわけでYEAH!! 始めるぜ決勝戦! レェェディイッ!? STARTォオッ!!』
プレゼントマイクの合図と同時に、始まってしまいました───ていうか思ったんですけどプレゼントマイクがやかましすぎて、ミッドナイト先生があんまり仕事できてないような───なんて思っていると、かっちゃんが爆速ターボの準備として汗を爆破しだしました。
場は、さっきまでのやかましさが嘘のように静かになる。固唾を呑んで見守るって、たぶんこんな状況……あれ? ちょっと違います?
「かっちゃん」
「あ?」
「わたしが今までかっちゃんを投げてこれたのは、普通の喧嘩等で個性使用が禁止されていたからです。爆破の反動を使えば投げられて倒される、なんてことも回避できますし、わたしにそれを向ければ無力化なんて楽なものでした」
「───、……相手が個性使わねンなら条件違いだろが。んな状況で個性使って勝って喜べるかアホが」
ほんと語尾に罵倒文句つけるの好きですねかっちゃん。
梅雨ちゃんの言うとおり、相手の悪口言えないと喋れない個性って言われたほうがまだ頷けます。
でも……やっぱり変わってくれたって思うんです。
会ったばっかりの頃のかっちゃんだったら、どうしようが勝つことしか考えなかった。それこそ、無個性に対して個性持ち三人で囲んでボコるのを笑顔でやるように。
「……あの頃とは違ェ。俺は俺の個性と努力に胸張って生きるって決めてんだ。この俺でNo.1になる。オールマイトにも勝る俺になる。そのためにはまずてめぇが邪魔だ。てめぇに勝って、俺は初めて次の俺を目指せンだ……! 邪魔はさせねぇ……俺が勝つ! てめぇの目指してるもんに熱くなれねぇ小石が俺の前に立つんじゃねぇぞ!!」
「わたしはやさしいヒーローに憧れます。個性が無かった時代に、燃え盛る家から子供を救出した人を尊敬します。個性が無ければ前にも進めない人を見ると悲しいです。だから、わたしはわたしの道を示します。富と名声しか考えない存在も、立派な個性を持っているのに私腹を肥やすことしか頭にない存在も。……───」
「───、……へっ、へへっ、へへふへへはははっ……はははははははは!! 上ッ等だァアア!! 初めててめぇの本音ってのを聞けた気がするぜぇ!! んじゃあまず個性使える俺を倒してみろやぁ!!」
かっちゃんにしか届かない小さな声で届けた言葉に、かっちゃんが目をギラつかせて笑った。
ミッドナイト先生も、観客のみんなもなにがなんだかわからないでしょうが、それでいい。
問答は終わったとばかりに爆速ターボで突撃してきたかっちゃんに向けて、手を伸ばす。
「見飽きた動作だ───オォラァッ!!」
その突撃を、振り上げ、振り下ろした手から爆破を放つことで一気に方向転換。
手を伸ばした動作のままのわたしの頭上を越え、その斜め後ろの上空から爆破を───放った瞬間、ちらりと見たその姿と位置交換。
「ぐわっぷ!? ───てンめっ……ごはっ!?」
そして武舞台に落ちる前にわざと体勢を悪く捻り、その状態で再度位置交換をしてかっちゃんを転倒させる。
「はい、わたしもかっちゃんの動きはよく知ってます。知っているだろうことを知っていることも知ってます」
「クソがぁ! 見下してんなよ俺を!!」
叫ぶ割に、頭の中は絶対に冷静だ。かっちゃんはよく叫ぶし、勢い任せだとか周囲は思っていますけど、叫ぶのなんて常日頃からで、その状態でも心は落ち着かせていられるっていう、それ人としてどうなのってことを自然と出来る人。
最初がうまくいったからって油断しちゃだめだ。もう、位置交換でのダメージは望めない。ただ、これで遠距離からの大爆破攻撃はしてこないと思う。
やればその瞬間、位置交換をされて自分がくらうって知ってもらったからだ。ただしその事実さえ利用してくる可能性だってある。だってかっちゃんだし。
「オラァッ!」
「っ───」
手を突き出してくる。それを躱すのと同時に腕を取って、
「手ェ突き出しゃそっちから触れるって思ってたぜ───!!」
その、腕を掴んだ手こそが掴まれる。瞬間、ドゴォンという音と一緒に───……かっちゃんが地面に座り込んだ。
「……!? あ……!?」
「かっちゃん。合気道は、襲い掛かる相手を、可能なら無力化することを目的とします。少なくともわたしはそうです。そこに加えられる力があるなら、それの向かう先を変えるだけです」
「……~……!」
驚愕に満ちた目でわたしを見上げるかっちゃん。
わたしの手を取ったまま───その自分の手を見るや、ハッとして手を離そうと───普通ならするんですけどね。
「んじゃあ───力を加えなけりゃあなにもできねぇってことじゃねぇか」
個性が発動する。手を掴まれたまま、その手が爆発に巻き込まれた。
「───あ?」
瞬間、わたしは歯を食いしばりながら痛みを飲み込み、かっちゃんの"爆風に耐えようとふんばる力”を利用して、彼を地面に叩きつけ、
「オ、ア───!?」
仰向けに潰れる彼のその顔面に目掛け、にこりと微笑んだあとに───拳を落としました。
またしてもどごぉんと音が鳴りますが、殴ったのは武舞台です。今度は爆破させるのと一緒に、手を離して逃げてしまいました。
「……ッチィ……やりづれぇったらねぇ……! ……いぃっぐ!?」
「はい、存分に痛めつけるといいですよ、かっちゃん。その度に交換させてもらいます」
「……!! 若那ぁああ……!!」
地面を殴りつけ、爆破までされた“手の状態のみ”をかっちゃんと交換した。
途端、その表情が痛みに溢れ、わたしをギンと睨んでくる。
『エッグ!! エグいなオイ! 身代わりって俺もっとやさしい能力だと思ってたわ! やっぱヒーロー科いろいろぶっ飛んでんなイレイザー!』
『相手の攻撃を潰していくのは基本だろ。そしたら俺の個性とかどーすんだ』
『いやそーだけどよ! ダメージ与えても相手が自爆しても痛みを交換されるとか、あれパーフェクトに戦いたくねぇ相手一位じゃねぇか!?』
『……そうでもないさ。弱点のない個性なんて、案外ないもんだ。問題は、それに気づけるかどうかだ』
気づくでしょうね、かっちゃんですし。軽く挑発してみれば睨んではきますが、やっぱり冷静です。踏み止まって、わたしのことをじっくりと観察してきています。
そうかと思えば爆速ターボで一気に距離を詰めて、───あ。まずりました! さっきの、様子を見てたんじゃなくて───!
「位置交換場所交換、こっちがしたこと返されるならよぉお……!! 交換する余裕がないくらいの威力でぶっ飛ばせば済むことだろうがぁあっ!!」
汗を溜めてた! じっとりと汗に濡れた両手を頭上に振りかざして、わたしへ向けて突き出すと同時に最大火力の爆破を……!!
「んで、危なくなれば位置交換する。だよなぁ?」
「!!」
相手が不利になる体勢を取ってから、位置交換。
その瞬間、かっちゃんは身を捻って、わたしが取った体勢に対応出来るように自分の姿勢を空中で強引に変えた。
直後に位置・状態交換は完了して、かっちゃんの腕を掴むはずだったわたしの手は宙を掻いて、やられた、と思った時には背中に、さっきかっちゃんがぶっぱなす筈だった大爆発が炸裂した。
「くぁあああうっ!?」
「てめぇは相手を見なけりゃ交換出来ねぇんだろォあぁ!? だったらそのままぁ……背ェ見せて無様に飛んでけやぁっ!!」
追撃の爆破がドドドンドンドンドォンと背を押す。
一発目でとっくに宙に飛ばされていたわたしはその勢いに巻き込まれて、吹き飛んでいった。
やがて、場外の壁へと勢いのままに激突する。
……武舞台の一部が。
「……、…………!」
「………」
わたしはかっちゃんの傍でにこりと微笑み、かっちゃんはギシリと歯を食いしばってわたしを睨みます。
吹き飛びながらかっちゃんと位置交換を、となんとか強引に姿勢を変えたまではよかったんですが、かっちゃんは地面を爆破させて、巻き上がる地面の瓦礫で姿を隠していた。
そんなのありですかと叫びそうになりましたけど、ならば瓦礫と交換すればいいじゃないですかと交換。
……途端、地面から吹き上がる爆破の余波と瓦礫をまともに受けることになって、場外判定にはならなかったものの、とても痛いです。
「……身代わりなんて個性をそうまで使いこなせるバカは、てめぇぐれぇだ……」
「かっちゃん、失礼です。それに───わたしの個性、身代わりになるだけじゃないってわかってますよね?」
「あ? ───!」
「はい、治りました」
そう、わたしの個性は身代わりして治すもの。
身代わりしましたし苦痛も味わいました。なので治ります。治る前に、よっぽど痛いところだけかっちゃんと交換して。
「~っ……ぐぅ、……!」
「わたしの個性に派手さはありません。地味だ地味だって言われるのも納得です。でも……」
「クッソがぁっ!!」
「派手さで誰かは救えませんから」
あ、囮とか目を惹くって意味ならいいかもですが。
接近の一歩から振るわれた裏拳を、身体能力を向上させた手で受け止める。そのままその力を利用して、投げに、と思った瞬間に足を掬われていました。
「え、わぁっ!?」
「いつかのお返しだクソがぁっ!!」
かっちゃんを見て位置交換を。そう判断するよりも、わたしの行動に異常なまでに警戒をしていたかっちゃんの行動の方が早かった。
目の前で爆破が起きて、反射的に目をつむってしまい、ハッとした時には背中から倒れて、わたしの喉に手刀が叩き込まれて、直後に爆破。
痛みに息を吐き出せば、待ってましたとばかりに喉を掴まれて、持ち上げられて───
「この距離なら外さねぇ……! てめぇを倒すのに自分へのダメージだって考えねぇ!!
接触部から強烈な爆発。
耳を劈く轟音が炸裂して、キィイイ……と高いくせに低い音を耳に残しながら、わたしは吹き飛び、かっちゃんも手と腕を焼いた。
喉が、喉が熱い、痛い……そんな苦しさを飲み込んで、追撃に備える。
飯田くんの時でああだったんだ。絶対にくる。だから───
「っ───オォオぁああああっ!!」
連続で両手から個性を放って、ライフル弾のような回転と速度でかっちゃんが迫る。
さっきみたいなただの最大火力の一撃じゃない。そこに回転と速度まで合わせた、榴弾ライフルが来る。
「───」
ただ。かっちゃんが回転してどれだけ速度を上げても、攻撃手段が爆破では回転突撃する意味はないと思いますよ、かっちゃん。
自分が爆発する弾になって着弾する、とかならわかりますけど。だって爆破の時点で相手吹き飛びますし、かっちゃんがぶつかるわけじゃあありませんし。
「最大火力!! “
「悪手です」
「!?」
溜まった汗が爆発しようがどうしようが、突き出された手首を掴み、逆に捻った。
それだけで回転突撃してきたかっちゃんは、その勢いの分だけ手首、腕、肘、肩に反動をぶつけられ、「ぐあぁあああああああっ!! クソがあぁあっ!!」───嫌な音を立てる左を捨て、回転の勢いもない右手を突き出してきた。
その手首もクロスさせるように掴むと一気に自分の腰まで引っ張って、そのまま固める。
そうしてからブリッヂするように勢いをつけて仰け反り、振り回すことで体勢を変えて、かっちゃんが下になるようにして、武舞台に叩き付けた。
「げっは……!!」
腹部に膝、の残虐技です。
腕も極められた状態なので受身も取れませんし。
ええ、合気じゃないです。
そうして離れてみれば、震えながらも立つのが……かっちゃんなんですよね。
「爆豪くん平気!? 腕すごいことになってるけど!」
「~……若那……! テメェは……!! なんで本気出さねぇ! なんで縛りつけてやがんだ! 本気出す必要がねぇってか! 俺じゃ役不足だってか!」
「えっ……あ、あの、かっちゃん? わたし、ずっと本気で───」
「だったらなんでとっとと気絶させねぇ! いくらでもチャンスあったろが!! 頭から落とすだの首に足刀落とすだの動脈圧して気絶させるだの!!」
「かっちゃんは人をなんだと思ってるんですか!?」
ミッドナイトの心配の声も右から左に、なんてことを言い出すのか! この人ほんとかっちゃんです! なんて理不尽な!
しかも腫れ上がって震えてる腕を無理矢理に動かして、歯をギチギチと食いしばりながらBOMと爆破をしてみせると、「本気のてめぇをブチノメさなきゃ意味がねぇんだ! それが出来ねぇなら俺の前に立つな! なんでここに立っとんのだてめぇは!!」と唾を飛ばすように絶叫した。
いえあの、そんなこと言われたってやりませんからね? わたし本気ですよ? 自分の見せられる個性を存分に使って戦ってますから!
ていうかひとつひとつの攻防の中でどれだけ考えながら戦ってると思ってるんですかそれを本気じゃないとかわたし怒りますよ!?
「チッ……くそっ……くそがっ! てめぇがその気なら……どうしても本気出さねぇってんなら……!」
「で、ですからわたし、ちゃんと本気で───」
「すぅ……───はぁあ……! ───ぉっ……お前の、父ちゃん───か、か……かっこわる……」
「………」
「~……」
「…………」
「………」
「あ゙?」
びしり、と自分の中のなにかが凍てついた。凍てついて、機能しなくなった。
なんば? なんば言いよっとや? おまん父さんこと馬鹿にしよっと? お? あ?
「っ……へっ、使いたくはなかったが、これで本気ぶべはぁっ!?」
まっすぐ行ってブチノメす。顔面目掛けてストレート。
倒れまいとたたらを踏んで、顔を起こしたそこへとカウンターナックル。
そうなれば次に起こされるのは顔ではなく手のひら。汗が浮き出て今にも爆発しそうなそれを、ジャージの肘から手首まででズアッと拭ってひょいと脱ぎ捨てて、驚愕を顔に貼り付けている彼ににこりと微笑んだ。
「ぁ、ちょ、待」
汗が爆発するって、本当に戦えば戦うだけ、息が荒くなればなるほど強いってことですよね。素敵だと思います。
なのでそのぜえぜえな状態を、今とぉっても冷静なわたしと交換しましょう。
大丈夫です、なんの心配もいりませんよ。超回復のおかげで呼吸も正常ですし、なんと汗が出るほど疲れてもないんです。
「クソがっ! ───あ?」
そして彼はもう片方の手を突き出しました。
倒れそうになる体を持ち直しながら、バッと。汗ひとつ掻いてない、綺麗な手を。
「はい、
きゅむとその手と握手をすると、かっちゃんの顔が真っ青になりました。
合気の極意、思い知らせてくれます。