なんやかんやの職場体験当日。
相澤先生に見送られての、巨大な駅からの移動は実に“学校の行事!”って感じでした。
番号が振られたアタッシュケースを手に、ここからそれぞれが志望した職場へと向かう。
切島くんが常闇くんに「おまえ九州か。逆だ」なんて言っていたこともあり、同じ職場に指名されることは極めて稀。
ただわたしの場合───あの日、イズクンと一緒にオールマイトについていった後に聞かされた話によると、指名はいろいろなところから来ていたらしいです。
その指名したところ、というのが、どれもパッとした活躍が出来ていない事務所だとか、あまりいい噂を聞かない場所だとか、そんなものばかりだったんだとか。
……ようするに“傷を癒せる身代わり様”が欲しかったんでしょう。
生憎と、わたしはサイドキックになるつもりはありません。
なるとしたなら、オールマイトかイズクン、信頼出来る人のサイドキックのみで、そもそもはわたし単独の事務所を持つつもりです。
そこでサイドキックも仲間も持たず、自分一人で……敵を無力化するヒーローに───
「では緑谷くん! 麗日くん! 身代祇くん! 職場体験後に会おう!」
「うん! 飯田くんも頑張って!」
「もちろんだ! 兄さんの隣で、兄さんの素晴らしさを体験してくる!」
「それってもう職場体験の意味違くない!?」
ヴィスィーとロボっぽい動きで、それでいて笑顔で言う飯田くん。
もしかしたらヒーロー殺しのことで、なんて思ってましたけど、黒い感情は感じません。
行き先がインゲニウムの事務所ということもあって、ちょっぴり心配ですけど……ああいえ、ヒーロー殺しがまた現れた時、という意味で。
再起不能になるかもしれなかった怪我が治った、ということが一度あったなら、次遭遇した時は殺しに来るかもしれません。
気になってイズクンと調べた結果、ヒーロー殺し……
殺すつもりなら殺すことも出来たと思うんです、その一度目の時に。
たぶん……妙な───選定、というんでしょうか。殺すか生かすか再起不能だろうと生かすか、その選び方があるんだと思います。
理由としては、殺された人も多いけれど、それ以上に再起不能者が多いのです。
だから、なにか───
「じゃあ若那ちゃん、そろそろ行こう」
「あ、はい」
わたしとイズクンの向かう場所は一緒だ。
オールマイトが紹介状を持ってきてくれた、彼の先生である人……グラントリノ。
結構なお歳らしいですが、オールマイトが震え上がるほどの存在です。
きっとかなりのスパルタな人に違いありません……!
お師匠さんとやらはとても尊敬している感じだったのに対し、あの方、なグラントリノさんを思い出すオールマイトは、いつだってガタガタ震えてましたから。
……。
そんなわけで───やってきました、グラントリノ事務所。
「───」
「………」
地図は……合ってますね。
降りる駅を間違えたわけでもありません。
ではそのー……このボロボロの建物はなんなんでしょうかね……。
「とりあえず、入ってみましょうか」
「う、うん。そうだね」
まずはノック。反応無し。呼び鈴はそもそもありません。
何度か繰り返すも反応なし。
ドアノブに触れてみれば、カコンと軽く開くソレ。
確認しつつ入ってみれば───事務所然とした内装の中心で、内臓をぶちまけ血まみれで倒れる小柄な老人の姿が───!!
「「ぁぁぁあああああ死んでるぅううっ!?」」
「生きとる!!」
「「生きてた!!」」
流れるような会話でした。
いえまあ、ケチャップの香りでちょっぴり首は傾げましたけど……でもだめです、もう大丈夫かなと思ったんですけど、初対面の人に叫ばれると体が怯みます。
どどどどうにかしないとです、ほんとどうにかしないと……!
「いやぁあ切ってないソーセージにケチャップかけたやつを運んでたらコケたァ~~! ───誰だ君は!?」
「へぁっ!? ぁああゆゆ雄英から来た緑谷出久です!!」
「アワワワワワ……! あのあのさささ叫ばないでくだ、さ……!」
「何て!?」
「ひうっ!? あ、あの……!」
「若那ちゃ……あのっ、緑谷出久ですっ!!」
「誰だ君は!!」
「ゃっ……だだだから緑谷……っ!(や……やべェ!!)」
「……! あ、あの、イズクン。ここにはその、ヒーローの卵として来たんですから……きっと、たぶん、本名で名乗るのは違う、って意味なのでは……!」
「え? あ───そ、そっかえっと……雄英から来ました、ヒーロー名“デク”です!」
「お、同じく、雄英から来まし、た……その、ひひひヒーロー名、“ブリンガー”、です……!」
「誰だ君は!!」
「「(───やべェ!!)」」
今すぐに後ろを向いて間違えましたと言って帰りたい衝動に襲われました。むしろこの、怒号に恐れる体が泣いて逃げ出したいと叫んでいるようです。
が、こういう人ほど気をつけるべきだと、事前にオールマイトに言われているので……目は離しません。離した途端に押さえつけられる、なんてことがあったら、怯えるどころの話ではありません。
だから……ごくりと喉を鳴らして、勇気を胸に。
「………」
「………」
「わ、若那ちゃん?」
「アワワワワワワワ……!!」
「若那ちゃん!?」
いえいえ違いますよそうじゃなくて! ええい動くんですこの口め!
かっちゃんに対して、シャキっとする、おどおどしないと誓ったじゃないですか一方的に!
し、深呼吸です、大丈夫です、強い子になるんです、わたし……!
「すぅ……はぁ……! ……───あ、……あなたは誰ですか?」
「ぇ……若那ちゃん?」
イズクンは驚くけど、訊いてみれば老人はニィ……と笑い、わたしを見上げてきました。
「ほォ……知ってて来たんじゃないのかい」
「と、とりあえずその……常識で、ツッコんでみよう、かと……。人の名前を訊く時、または聞いた後、することが……その、あります、よね?」
「……いいだろぅ、撃ってきなさいよワン・フォー・オール。どの程度扱えるのか知っておきたい」
「ぇ───と……じじ事情は……」
「知っとるよ。その上で、体育祭でのあの無様さを見て呼び出してやったんだ、とっととかかってきなさいよ」
「……………………は、はい。……では」
「え、え? ちょ、若那ちゃ」
もう一度深呼吸……その時点で、素早い敵だったら自分はもう負けている、って意識を持つ。
このままの自分じゃだめです。成長しなきゃ。
だから、頭の中でいっぱい泣き言を叫んでから、踏み出した一歩目でそれらを無言で噛み砕く。
オールマイトの先生だったなら、オールマイトの100%だって知っている。
わたしがUSJで見た、脳無をブチノメしたあれが100%なら、わたしの100%なんて軽くあしらわれる。
だから躊躇はしません。
「ほ」
ニ、と笑った老人との距離を0にして、撃ってこいと言われたからには拳を振るう。
けれど拳は空を裂いて、眼下に佇んでいた彼は天井を蹴り壁を蹴り、すぐ後ろにまで迫っていた。
「!? は、速───」
イズクンが驚くより先に、なんとか振り向いてその姿を視界に留めた───途端、空中を蹴って視界から外れて、また天井を蹴って、背後に回りこまれた。
……すごい、身代わりの個性の特性をよく理解しています。
姿を視界に入れないとなんの役にも立たないこの力のことを理解した上で、常に視界の外に回りこんでいる。
「俊典がゴニョゴニョとぼかしてたのはこれか! なるほどなるほど凄い個性だ! しかも随分と使いこなしとる! だが圧倒的に実戦経験が足りとらん!」
ドゴドドドドドドンッと事務所の中を飛び回り、そうしながらでも余裕の声でわたしを翻弄する。
あ、これ強いです、本気の本気で強いです! オールマイトが怖がるの、なんか今ようやくわかってきました!!
相手のことを知って、予測して、その上で手の内を学ばせないままブチノメす。
なるほど、これは怖いです。
それに、撃ってこいと言ったのはワン・フォー・オール。わたしの身代わりを見たいわけではない筈です。
だったら───
「っ───」
「ほォ」
身体能力を上げて、ただただ対応する。
追いつけない、足りない筋肉が悲鳴を上げますが、それも超回復でカバーしながら。
「個性の性能に体がついてきてないな。それを無理矢理自分の個性で抑えとる。当然痛みはある。痛みの度に挙動がズレる。───だからこうなる」
身体能力を爆上げしたのはいいです。
けれど、その上がった分だけ感覚も増加、痛みにも振り回されて、気づけば反応が遅れて、わたしは事務所の床に倒されていました。
「だがまぁ移っちまった個性にしちゃあ、随分と応用ってのをわかってるほうだ。問題はそっちのぼっちゃんだ。いつまで棒立ちしとんの、撃ってきなさいよ」
「へっ!? あ、でも、まだ完璧じゃないし、加減を間違えたらって思ったら───」
「うだうだうだうだとまァなっさけない。嬢ちゃん一人に戦わせて、お前さんは考えるだけかい。なんのための継承だ小僧。なにしに来とんのよお前さんは」
「───」
イズクンの体に光が走る。
そうです、加減がどうとか、そもそも次元が違います。
100%でもこんな状態なんですから、遠慮がどうとかは思い上がりもいいところです。
なので、こちらを見てきたイズクンにGOサイン。あと、どうやってもこうなりますんで、とハンドサインを。
ごくりと喉を鳴らしたイズクンでしたが、それでもきちんと真っ向から挑んで───やっぱりこうなりました。
「いい鍛え方しとるなァ。やっぱちぃと経験が足りんが、まァそこいらはおいおいだ。俊典も面白い小僧と小娘を選んだもんだ。てか嬢ちゃんが敵だったらちとシャレにならんかったか」
倒れているイズクンのお腹に腰掛け、笑うグラントリノさん。
そんな彼をチンピラ個性:気配希薄を使って近づいて、抱きしめた。
「うおっ!? な、なんだ、なにをす───」
で、慌てている内に個性で若返らせました。
限界でわたしが生きた年数、15歳……つまり15歳若返ります。
すると小さすぎた体も大きなものへと若返って、戸惑っている彼へ───
「じょ、嬢ちゃ───」
「ごめんなさい。わたし、人見知りなのに負けず嫌いなので」
あと、最初の一歩目で躓いて、次からも挫け癖がつかないように。ボグシャー、と。彼の望み通り、ワン・フォー・オールをぶち込みました。