身代わりの土地神様   作:凍傷(ぜろくろ)

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上映時間117分

 で。

 

「なるほどな。連絡寄越した俊典の声がやけに若いように感じたのはこの所為だったか」

「ていうか若那ちゃんそんな個性まで!? あ、じゃあオールマイトが一層ムキムキになって、あのガリガリ姿にならなくなったのも!?」

「はい。イズクンが初めてSMASHして燥いでいた時、その後ろで少々」

「うわぁああ……!! あ。あの時かぁ……! あ、じゃああの“なんか直った”って言ってた胃袋のことも!? そ、そういうことだったんだ! ありがとう若那ちゃん!」

「え? あ、あの。ありがとう、とは?」

「だってすごいよ若那ちゃん! オールマイトの知り合いの中にも居なかった、出来なかったことを若那ちゃんはやってくれたんだよ!? No.1ヒーローを救ってみせるなんて、若那ちゃんじゃなきゃ出来なかったんだ! すごいよ!」

「───……」

 

 そんなことはありません。

 時代が違えば、そこに居たなら、それをやっていたのはきっと……お父さんだったんでしょうから。

 だから、褒めるのなら個性を褒めてください。父の個性があればこそ、あの元気なオールマイトは居てくれるのですから。

 

「なるほど、リフレッシャーの個性か。また懐かしいもんを見たもんだ」

「……? お父さんを知ってるんですか?」

「そりゃ、あの時代を知ってるモンなら大体はなぁ。どんだけ傷を負っていても、それを身代わりで受け取っちまうんだ、誰でも欲しがるってもんだろう? ……サイドキックに」

「………」

「オールマイトはそんな悪意から、気づけた時はリフレッシャーを守ってたもんだ。そのお礼にってんで、リフレッシャーも細かい傷なんかを受け取って、“英雄の傷を受け取れるなんて光栄だ~”なんて笑い返していたもんさ」

「お父さんが……」

「オールマイトが被災者を救う者なら、リフレッシャーは救われた者を癒す者だった。だからやつらは近かったのさ。毎度美味そうな弁当を見せびらかして自慢する程度にはな」

「あ……そこでそれに繋がるんですか……」

 

 イズクンがナルホド、と頷きますが、わたしはお父さんのそんなお茶目な光景を思い浮かべて、久しぶりにお父さん関連で頬が緩みました。

 

「生きていりゃあ、デヴィットと一緒に親友として笑ってただろうに。……本当に、惜しい男を亡くした」

「……デヴィット、とは?」

「ん? なんだ知らんのかい。オールマイトのコスチューム等を作った男だ。今はたしかー……人工移動都市の、なんつったか……」

「も、もしかしてI・アイランドですか!?」

「おぉそこよ。そこでなんぞかしてるって話だ」

「I・アイランド……デヴィット……え!? も、もしかしてあのデヴィット・シールド博士!?」

「イズクン、長くなるならパスです」

「ぁのっ……ぁ、うん」

 

 長くなりそうでした。本人も自覚しているっぽいので、そっとしておきましょう。

 喋れなかった分を、頬を染めつつぶつぶつ言い出すイズクンは、傍から見ても危険ですが、そこはスルーします。

 

「ま、とにかく。お前さんらにはここでいろいろ学んでもらう。せっかくの職場体験なんだ、じっくり体験していくといいさ」

「……あの。グラントリノさん。ヒーロースーツぴっちぴちで言われても、笑いしか生みませんが……」

「オメェがやったんだろうがどうしてくれんのコレェェェェ!!」

 

 はい、そんなこんなで、職場体験が始まりました。

 

……。

 

 ……ええ、始まってしまったんです。

 

「「OWEEEE(オヴェエエ)……!!」」

 

 イズクンともどもの、超実戦型職場体験が。

 これ職場体験っていうよりはただのブチノメし道場では!?

 何度も腹パンやら頭突きやらくらいまくって、胃の中がもうカラッポですよ!

 女の子だからとかそんなのどうでもいいくらい吐かされてます!

 けど、痛みが来ても個性があるから大丈夫、なんて考えをぶち壊すには丁度いい機会でした。

 グラントリノ(さんは要らんと言われました)に言われた通りです、わたしはちょっと個性に頼りすぎでした。

 とはいえ痛みには慣れているつもりでしたが、つもりはつもりです。

 結局また腹パンされて、オロロロロと吐いてしまいます。

 さすがに事務所の中ではないのですが、屋外でもこのグラントリノの個性、強すぎです。

 むしろ室内なら範囲が狭まれてまだ動けました。

 外は広すぎて、むしろ動けば動くほど勢いを付けられた上で攻撃されます。

 そして若返った彼は本気の本気で容赦がありませんでした。

 

「イズクンそっち! 違います後ろはぷぎゅっ!?」

「若那ちゃぼぷばっ!?」

「けほっ! こ、の───」

「若那ちゃん右! あ、上、下───」

「なら左!! ───あ」

「分析と予測、決断力もいい。思い切りの良さがあるってのはいいことだ」

 

 繰り返し繰り返し、ひたすらに実戦。

 けれどもとことんボコボコにされて、傷を癒して、ぐったりして、起きたらまた実戦。

 なんかこれわたしばっかり損してません!?

 

「だが、まだ固い。だからこうなる」

 

 頭を掴まれて、また地面に叩きつけられ───そうになった、まさにこの瞬間を待っていました。

 頭を掴む時なら視界に映るからです。

 なのですぐに位置交換をすると───頭を掴まれて地面に叩きつけられました。

 あ、はい、結局こうなるんですね。しかも交代した分、ジェット噴射で振り回されてから地面に叩きつけられました。

 はい、それも予測済みです。

 

「今───! SMAAA───」

「わざわざ相手に攻撃のタイミングを教えるんじゃないよ。だから若いんだ、お前さんらは」

 

 振り抜いたSMASHが持ち上げられた手で上方へ流され、がら空きの腹にジェット膝蹴り。その勢いのまま一本背負いを食らって、倒れた腹にジェット頭突き。イズクンはゲロを吐く。

 ええと……はい、強いです。体育祭優勝なんてあれ絶対まぐれですって、慢心なんて元々ありませんけど、ほんのちょっぴりあった自信がゴシャアと崩れる音を耳にしました。

 ならばここからガンバです。

 さらに向こうへ! PlusUlt───ひゃぅあちょ待あぶひゅうっ!?

 

……。

 

 職場体験三日目。

 

「……………」

「……………」

 

 死ュウウウウ……というオノマトペが欲しいくらい、二人してぐったりでした。

 15歳若返る前のほうがまだ茶目っ気があったグラントリノは、もうほんと、スパルタさんです。

 けれどもそれを乗り越えた先に、あの平和の象徴が居るのならと、わたしもイズクンも立ち上がります。

 

「よし。んじゃ、フェーズ2へ行くぞ」

「ウェッ……エッホ……ふぇ、ふぇい、ず……?」

「これ以上同じ戦法の奴と戦うと、ヘンなクセがつく。敵ってなァ人の数だけ居るんだ、捕まえりゃあ一度の会敵で済むっつーのに、同じ敵と戦うのはよろしくないって話だよ」

「それは……なるほど、たしかに」

 

 ボッコボコにされた体を癒して、それからイズクンのダメージを身代わりで受け取って癒す。

 そうして体が落ち着いてから着替えると、グラントリノに促されるままに外へ。

 

「あの、それでフェーズ2って何処へ行くんですか?」

「何処って。敵狩りに決まっとるだろうが」

「「───エ?」」

 

 敵狩りって。

 え? わ、わたしたちまだ仮免許すら取ってないんですが?

 職場体験で敵狩りって……そんな“よっしゃこれからサイゼにミラドリ食い行ッゾー”ってノリで行くものなんですか!?

 ……ああはい、人によっては行けるんでしょうね、あの強さですし。オールマイトが怖がるくらいですし。

 若返らせたの失敗でしたかね……ボケみたいな言動が目立ったので、話しやすくなればと思ったんですけど。

 と、そんなわけでグラントリノが止めたタクシーに乗って、甲府を経て新宿渋谷行きが決定しました。

 無駄に行動力がありますね、この人。

 

「これは……着く頃には夜ですかね……」

「小さな諍いが起こるのは夜が大体だろ。本気で騒ぎを起こすタイプは昼夜なんて問ぅたりしないもんだ」

「それもまた、なるほどですね……」

 

 初対面のボケっぷりはどこに行ったのか、

 背が伸びた……戻った? こともあって、ハキハキとしてシャキっとして、それでいてとても厳しい人になったイメージです。

 そんな細かい諍いを起こす敵は、チマチマ狩っていても尽きることがないので、ヒーロー育成には……こう言うのもなんですが、うってつけらしいです。なにせ狩ってもあとからあとから沸いて出てくるから。

 すごい理由です。すごい理由なんですけど、実際そうらしいのでなんとも言えません。

 

(あまりボロボロになって帰るとお母さんも心配しますし、今回は防御回避に専念する方向で……といっても、学生にそこまで過酷なことをやらせたりはしませんよね?)

 

 というかそもそも今までが異常すぎたんですよ。そうですそうに決まってます!

 一度あることは二度ある三度あると言いますが、あんなことがそうそうあるわけ───なんて思っていたら、乗っていた車両の窓を破壊して飛んでくるなにか。

 なにが───と思った次の瞬間には、吹き飛んできたらしいヒーローが……脳無とよく似たなにかに頭を掴まれ、床に叩きつけられていました。

 

「!? ───脳無!?」

「小僧小娘! 座ってろ!!」

「え───」

「グラントリノ!?」

 

 さらに次の瞬間にはグラントリノが足からのジェット噴射で脳無に突撃。大きな穴が空いてしまった車両から脳無ごと外に飛び出していってしまった。

 

「グラントリノ!」

「イズクン! とりあえず怪我人の確認です!」

「ぁっ……うん!」

 

 座っていろ、と言われたなら従います。それがUSJで学んだことです。

 けれど、ずっととは言われていないのなら……いえ、でも。

 ~……とにかく今は人命優先です! 前の方で巻き込まれた人が居ないかを確認して、考えるのはそれからです!

 

「どうしよう若那ちゃん……! 脳無だった! まったく同じなわけじゃないけど、あんな脳みそおっぴろげ、そう居るもんじゃない……! もしあれがUSJの時みたくデタラメな強さをしてたら、グラントリノだけじゃない……町が、保須全体が危ないかもしれない!」

「……イズクン。座っていろと言われたからには、それが指示です。それに従うべきです。わたしたちは体験に来た学生であって、ヒーローではありません。仮免許も持っていない、学生なんです。学生のうちなら勝手が許される、なんてことはありません。相手が脳無なら、それこそ余計にです」

「でも!」

「だから、座って待って、人命の確認、被害の確認を済ませてから、敵の情報を届けに行きます。知っている情報を伝えるのは邪魔とは言わない……と、いいですね」

「……そこは無理にでも断言しようよ、若那ちゃん」

「これでも大分無理矢理理由作りしてるんです、仕方ないじゃないですか。それより……どうしますか? オールマイトに救援要請を出したとしても、10~15分はかかります」

「むしろそれだけで来れるの!?」

 

 来れます。わたしでさえ雄英から総合病院まで15分かかりませんでしたし。

 けれどその町その町で頑張るヒーローの面目を潰しかねない判断です。

 No.1ヒーローだから仕方がないとはいっても、ヒーロー飽和社会では人気も一つのライフラインです。

 活躍出来なければ“なんのために居るんだかわからない”と、住民にまで白い目で見られてしまいます。

 だから、行く先々にオールマイトが現れては、その場で頑張るヒーローに迷惑になる可能性もあります。

 わたしは人命優先型なので、即座の判断としては呼びたいのですが。

 

「僕は、呼ぶべきだと思う。保須で頑張るヒーローの活躍を奪うことになりかねなくても、USJでの出来事を考えれば……言っちゃなんだけど、あの脳無の強さは異常だった。普通に活躍出来てるヒーローじゃあ、脳無には勝てないと思う」

「……わたしもそう思います。ただ、少なくとも今回の脳無にはショック吸収がありませんでした。グラントリノの一撃であっけなく新幹線から剥がされてたこともそうですし、その……イズクン、ほら」

「え? ……あ」

 

 頭を掴まれて床に叩きつけられたヒーローも、痛がりはしていてももう動けています。

 つまり、あの脳無ほど力はないと考えていいと思うんです。

 

「そうか。脳無だってことに意識を持っていかれすぎてて、ちゃんと自分で見たことの分析が出来てなかった。つまりあの脳無はあの細さから考えて機動性に特化した個性を複数持っているのかもしれなくて、吹き飛んで走行中の新幹線にぶつかってもヒーローが無事であることから考えてもやっぱり速度重視で破壊力は二の次のブツブツブツブツブツブツ」

 

 あ、そうですね。走行中の新幹線にぶつかって大穴開けるほどだったのに、あのヒーローすごい平気そうです。頑丈ですね。

 それとも大穴が開いたのは脳無がぶつかったからであって、ヒーローは巻き込まれただけ? あ、それともあのヒーローもたまたま車両に乗り合わせていただけで、脳無が無差別に突撃してきただけ、とか?

 わかりません。わかりませんけど───

 


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