身代わりの土地神様   作:凍傷(ぜろくろ)

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友達ごっこはだめらしい

 結局。

 私とイズクン、合格。

 当然というべきか、かっちゃんも。

 あの入試以来……もっと言うなら、私がワン・フォー・オール100%の代償の身代わりになって以来、私はそれはもう怒った。

 人を救けるのはそれはもちろん結構だけど、“一人を救ってもう動けません”なんてヒーローでどうするんですかこのばかー! って。

 入試以降、忙しくて結果発表翌日まで連絡が取れなくなったオールマイトも、それについては投影機でイズクンに口酸っぱく説教したらしいですし。そりゃそうです。

 結果発表がなされて、春の入学式までの二週間あたり、私たちはそれはもうのんびりとしていた。

 のんびりと……個性強化に努めていた。

 もう不法投棄もない、綺麗になって、デートスポットにもなっている、この多古場海浜公園で。

 

「普段からフルカウルが息をするみたく出来ていれば、それだけ持続時間も増えて……あ、なるほど、オールマイトのマッスルフォームはプールで腹をへこませてるアレと似たようなもんだって言ってたから、これもその応用みたいなものでブツブツブツブツ……」

「イズクン、怖い怖い」

「今日も元気だな、緑谷少年」

 

 私の個性はいろいろと困ったちゃんだ。

 身代わりは使いすぎると反動が怖いし、若返りもボケになるし、癒しも自然治癒型だからそこまで速度を求められる場所だともどかしい。母の個性とはいえ、もうちょっと早さが欲しい。ちなみに使いすぎると傷口が開きます。治そうとして開いてるんじゃどうしようもない。

 他にもあるにはあるけど、身代祇家は昔っからそういった、身代わりとか癒しとかを繋いできた家なので、攻撃向けの個性はほぼなかったりします。

 使えるものといえば、体の一部を医療器具に変換する個性とか、血液から様々な血清を作る個性とか。ほら、そんなのさっさと身代わりをして移して直したほうが早いじゃないですか。

 でもそれじゃ偏ってしまうので、こうして個性の勉強と鍛錬と強化は欠かしていないわけです。

 これでも、個性:土地神のお蔭で安定はされているほうなんですけどね。

 ───個性:土地神。

 人や街を守ろうとする意志によって、身体能力向上、個性強化、なんて能力が付加して、他の個性についてのこともわかるようになったりします。

 正直、これがなかったら自分がどんな個性を持っているのか、どう対処すればいいのかもわからず、とっくに自滅するかボケになって捨てられてたんじゃないでしょうか。

 誰の遺伝かはわかりませんが、ご先祖様に感謝です。

 

「体を医療器具に……けど若那くん、それ、医療知識がないと使えたもんじゃないんじゃないかい?」

「いえ、個性:医療マスターとかもありまして、手術とかも出来るんです。免許がないので闇医者扱いですからやりませんけど」

「つくづく治療に特化しているんだね! 血を血清にしたり手術も出来たり……将来の夢は医者じゃなくていいのかい?」

「病院に来る途中で手遅れになる人って、結構居るんです。というか、オールマイトなら見たこともありますよね? ……そういう人を助けられる、やさしいヒーローになりたいんです」

「そうか……よく、わかるよ。……私も、あの無力感を拭えるならば協力は惜しまないぞ! あ、でも前線って結構スプラッタなところがあるから、そういうのに慣れておくのも重要だよ? 私としては……供御くんのこともある。身代わりじゃなくて治療をしてもらいたいんだ、君には」

「私も、出来れば痛くないのがいいです。でも、あと一秒駆け付けるのが早ければっていう時に、後悔したくなんかないんです」

「若那くん……」

「褒めたらだめですからね? 身代わりの個性は、お母さんにも泣かれて“ごめんなさい”って言われちゃったものなので。習い事がたくさんだったのは、個性を使わなくても出来る仕事がきっとあるからって……そうやって用意してくれたものですから」

 

 結局、料理以外はあまり上手くは出来なかった。

 そのくせ、料理に関する個性はない。もっとなにか、活かせるものがあればよかったのに。

 習い事にお金を出してくれたお母さんに申し訳ない。

 ……合気道は、好きですけど。

 

「HAHAHAHAHA! しかしあれだね。若那くんは本当に料理が上手だから、いっそ薬膳料理とかにも手を出してみるのもいいかもね! 君の料理のファンの一人として、是非とも───」

「───」

「……わ、若那くん?」

 

 薬膳料理! それだ! あったじゃないですか活かせるもの!

 治療とかそっちのほうに意識が持っていかれすぎてました! 阿呆ですか私は!

 治すとか癒すっていう意識が、手術とか治癒とかそっちの方にしか向いてませんでした! そうですよ、食事療法っていう手がありました! なんで気づかなかったんでしょう! やっぱり意識の問題ですよねそりゃそうですよ、身代わりから始まったような家系ですし!

 

「個性:医療マスター───……おおっ……おおお! 浮かびます! 浮かびますよオールマイト! 凄い数のレシピです! 必要な材料とかも浮かんできます! 活かせます! 料理、個性に活かせますよこれ!」

「マジかよ! やったな若那くん!」

「はいっ!」

 

 意識の問題、大事です。だって、心の治療とかって意識を向けてみたら、医療マスターの個性がひたすら美味しい料理のレシピも教えてくれるんです。

 体にいいだけじゃなくて、“美味しい!”って心が喜ぶようなレシピも、相手を見てから発動させればどんな料理がいいかも浮かんできます! ……おお、オールマイトは今、オムライスな気分ですか! 結構子供っぽいところもあって、そういうところが微笑ましいです。No.1ヒーローだって、やっぱり人の子です。こういうところがあるのは本当に嬉しい。

 人間をやめてなきゃなれないものって、やっぱりどうしてもあると思うから。まだ、人として帰れる場所があるだけ、どれだけ戦い続けても、英雄として祭り上げられても、幸せなんだと思います。

 一番なっちゃいけないのは、No.1だからって絶対に戦わなきゃいけないって思い込まされることだ。

 それは、身代わりが出来るから自分がやらなきゃって、死んでしまったお父さんと同じことだから。

 

「オールマイト! お昼は家で食べてってください!」

「え? あ、いやしかしそのー……わ、私は今日」

「だめ、ですか? やっぱりオムライスなんて子供っぽいですかね」

「いや! いいと思うよオムライス! 是非お呼ばれされたいな!!」

 

 とってもいい笑顔でサムズアップされました。

 たぶんこの後、ファミレスかどこかで食べる予定だったんでしょうね。

 と、ここで準備運動のために離れた位置に居たイズクンが戻ってきた。

 料理について喜ぶオールマイトを見て、頬をコリッ……と掻いたのち、苦笑いで一言。

 

「あの。オールマイト? 最近若那ちゃんに餌付けされてたり……」

「言うな! ……言わないでくれ、緑谷少年……! 割とマジで……!」

 

 餌付けとは失礼な! これは感謝だ! 感謝ですとも!

 自分の個性の向き方を、お母さんがくれた特技を、一緒に活かせるものを教えてくれた、これは感謝なんですともさ!

 というわけでオムライス。

 さてさて、どう作ったもんでしょか、今からわくわくです。

 料理、大好きですから!

 

……。

 

 春。

 入学式当日、私たちは届けられた案内のもと、1-Aに来ていた。

 でっかい引き戸に大きな教室。

 一般入試1クラス18人、推薦枠4人って人数の中、見知った顔もちらほら。あ、22人なのはAクラスだけらしいです。

 今回だけの人数UP。ただし今年も除籍処分されるようなら、来年からは試験自体を見直すとか。

 

「机に脚をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者型に申し訳ないと思わないのか!?」

「思わねーよ! てめぇどこ中だよ端役が!!」

 

 見知った顔の中の二人が騒いでる。かっちゃんと飯田くんだ。

 かっちゃん、机の上に足乗っけるの好きだよねー。

 でも確かにそれはいただけない。

 だってもし席替えとかあったら、そこに別の誰かが座るかもなんだ。

 

「おはようございますです、飯田くん、かっちゃん」

「おはよう! ……おお君は! 同じクラスなのか、これからよろしく頼む!」

「こちらこそです」

「あ、よ、よろしく、飯田くん」

「ああよろしく、緑谷くん!」

「ところで……かっちゃん?」

「あ? んだよ」

「中学で、その……禁止、しましたよ、ね? 机に足、乗っけるの……」

「………」

「………」

「………」

「………」

 

 沈黙が辛い。

 やっぱりかっちゃん相手だとまだ口が思うように動いてくれない。

 嫌いなわけじゃないけど、すぐに叫んでくる相手はどうにも苦手なのだ。

 また“あぁ!?”って凄まれるのかな、って思ってたら、かっちゃんは舌打ちしながらそっぽ向いて、足を下ろしてくれた。

 

「君! すぐに出来るならすぐに行動したまえよ!」

「うるせぇなぁ端役がぁ! こいつにゃ権利があるから付き合ってやってるだけだ! なんでてめーの言うことを俺が聞かなきゃなんねんだよブッ殺すぞ!!」

「殺っ……!? ひどいな君! 本当にヒーロー志望か!?」

 

 ……かっちゃんって、どーしてどこでもオラつくかなぁ。

 とほー、って溜め息を吐いていると、イズクンが模擬市街地演習で助けた子と話し始めて、やっぱり見た顔が結構いるなーって……あれ? なんか制服だけがこっちに飛んでくるんだけど、なにあれ。

 

「おはよ!」

「ふえうっ!? え!? お、おはっ……あ、演習の」

「うん! あの時は助けてくれてありがとー! 私、葉隠透!」

「ひゃ、ひゃい、わひゃ、わた、しはっ、」

「おはよう!!」

「うひゃあっはぁっ!? なっ、あ……夜嵐くん? あ、おはよう」

「だれだれ? 知り合い?」

「押忍! 自分、夜嵐イナサって言います! これからよろしくお願いします透明な人!」

「あっ……私は、えと、身代祇若那、っていいます。よろしくです、葉隠さん」

「夜嵐くんと若菜ちゃんかー、うん、よろしく!」

 

 夜嵐くんも無事同じクラスだったみたいだ。

 あ、轟くんは───居た! 全員合格だったんだ、よかった!

 い、一応、挨拶はしたほうがいいよね? 改めてきちんと友達になってくれるかもですし!

 最初は、最初はなんて声をかけたら───

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

「「「───……」」」

 

 聞こえた声に、ピタリと止まる。

 え? 誰?

 でもとりあえず。

 

「あの。プロヒーローが、友達……作っちゃいけない、なら……やめます」

「……お前、キッツイこと普通に言うね」

 

 寝袋にすっぽりと納まった、死んだ目……三白眼? 常時寝不足みたいな顔した男の人が、のそりと立ち上がる。

 あ、ウィダーだ! ウィダーオンゼリー飲んでる!

 

「あー……担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 しかも担任らしい……先生でありましたか。

 

「早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 そして随分と自由な先生だった。

 なんでも個性把握テストっていうのをやるらしい。

 ……え?

 


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