身代わりの土地神様   作:凍傷(ぜろくろ)

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相澤先生が地味に強化された日

 個性把握テスト。

 どんなことをするのかと思えば、体力測定だ。ただし、個性を使ってOK。

 体力測定なんて小学にも中学にもあった。ただし個性の使用は禁止。

 それを使うとどうなるか? それを、これから試すのだ。

 自分の個性をどんな状況に応用して対処できるか。それを試すのがこれ、ということで。

 ただし面白そうとか言った誰か。いつかシメる。まだ声と顔とノリが一致してないからなんとも言えないけど、切島くんか瀬呂くんあたりが怪しいと思う。

 お蔭で最下位は除籍処分なんだとか。おのれ。

 

 そんなわけで。

 

  ◆第一種目:50m走。

 

「石を遠投! 身代わりで位置交換! そのままの勢いで着地してゴール!」

「ちょ、速ぇなお前!」

 

 一緒に走った切島くん、っていう人に、それはもう驚かれた。

 走ってるわけじゃないんですけどね。ほぼ反則ですこれ。

 でもそれより早かったのがイズクンだった。30%フルカウルで飯田くんより速いとか、もうとんでもない。

 

「飯田くん……あの、レシプロ? っていうの……使えば……」

「ああ、いや、すまない。あれは実は切り札でね」

「切り札………………カッコイイ」

 

 私も、なにかそういうのが欲しいって思いました。まる。

 

「夜嵐イナサ! 個性把握テスト・50m走の部! 燃えるッス! がんばるぞー!!」

「轟焦凍……へ? それ、俺もやったほうがいいのか……?」

「こういうのってノった者勝ちだと思うからいいと思う! 全・力! 全・力!!」

 

 夜嵐くんと轟くんは一緒に走って、いつかの入試の時みたく夜嵐くんが勝ち───というところで、轟くんが前に出てみせた。

 

「くそう負けたあ!! でも次はどうなるかわかんないからな! むしろ絶対勝つからな!」

「……はぁっ……元気だな、お前……」

 

 いつも笑顔で、手を突き上げたり下ろしたり。

 あれ好きなのかな。よくやってますけど。

 

 

  ◆第二種目:握力。

 

「えっと、こっそり……医療マスター、握力増強のツボ……!! あとは土地神でリミッターを軽く外して……ふんっ!! ……120! ……120!?」

 

 女の子が120とか平気なんでしょうか! やってしまっておいてなんですけど!

 

「夜嵐イナサ! 個性把握テスト・握力の部! 滾るッス! がんばるぞおー!!」

「がんばるぞぉおーっ!!」

「が……、……やっぱやったほうがいいのか?」

 

 夜嵐くんの気合い入れに、切島くんが混ざった。

 轟くんは続いて困惑したままだ。

 

「風を圧縮して手に纏わりつかせて、押し込む要領で握力にする! せいやあー!! ……先生! 340です!」

「氷で圧迫して……いやこれ握力じゃないだろ……」

 

 仕方ないですよ轟くん。個性で、把握しなきゃなんないんですから。

 ……イズクンの方は見ないでおこう。かっちゃんが「はぁあああー!?」って叫んでるけど、見ないでおこう。

 

 

  ◆第三種目:立ち幅跳び。

 

「これ苦手……えいやっ! 跳躍と同時に遠くの石と身代わり交換!」

「いやそれずるくないか!? 体力測定の意味ねぇ!!」

「体力測定じゃなくて個性把握テストだから、問題ねぇだろ」

 

 切島くんにツッコまれた。ですよね! でも轟くんのフォローもあって、それでOKってことに。

 

「夜嵐イナサ! 個性把握テスト・立ち幅跳びの部! 震えるッス! がんばるぞぉおーっ!!」

「「がんばるぞぉおおおーっ!!」」

「……いや身代祇、お前もう終わってるだろ」

 

 今度は私も加わりました。楽しいことは共有したいです。

 切島くんも元気に混ざって、私と夜嵐くんと一緒に、体を斜にして両拳を頭上に上げたり下げたり。ガッツポーズをしまくるみたいな感じ。やっぱり轟くんはとまどって、混ざりませんでした。そのくせしっかりとツッコまれましたが。

 

 

  ◆第四種目:反復横跳び。

 

「夜嵐イナサ!」

「身代祇若那!」

「切島鋭次郎!」

「「「個性把握テスト・反復横跳びの部! 迸るッス! がんばるぞぉおーっ!!」」」

 

 すっかりお馴染みです。

 例によって拳を上げ下げ。

 さあ、もはや遠慮はいりません。個性把握テストなんですから、考えてみれば個性を使うことに躊躇を覚え茶いけないんです。いえ、茶じゃなくて。ききき緊張なんてしてません。してませんったらしてませんっ!

 なので存分に個性:土地神を使って攻略していきましょう。

 人体では思うように外せないリミッターも、これがあれば好きに外せます。

 神の為せる業です。

 なのでイズクンのフルカウルのように、身体能力解放30%で反復横跳びを……!

 

「せいやぁーっ!!」

「うおお速ぇえ!? すげぇぜ身代祇! 女にしとくのがもったいねぇ!」

「きりっ……切島くん失礼です!」

「よーし俺も頑張るぞおー!! 風を巻き起こして左右左右左右左右!! これヤバイ! 反動で足が折れそう! でも頑張るぞお!」

「折れる前にやめてぇええーっ!?」

 

 折れた瞬間に私が身代わりすることになりました。

 

 

  ◆第五種目:ボール投げ。

 

「夜嵐イナサ!」

「身代祇若那!」

「切島鋭次郎!」

「緑谷出久!」

「飯田天哉!」

「芦戸三奈!」

「葉隠透!」

「「「「「個性把握テスト・ボール投げの部! 燃え滾るッス! 頑張るぞぉおーっ!!」」」」」

 

 イズクンと飯田くんと芦戸さんと葉隠さんが参加した。

 イズクンと芦戸さんと葉隠さんは絶対にノリで、飯田くんはテストに全力で向き合う姿勢に心打たれて、らしい。

 

「不思議だ……いつもよりも心が高揚している……! そうか……頑張るという、当然の姿勢を口に出し意思を表明する……大事なことだ! 僕は今なら自分を超えられるかもしれない!」

「おお! やっぱ何事も全力で向き合わねぇとだよな!」

「意気込みは凄いんだけど、夜嵐くんって名前順だと最後あたりだからちょっと寂しいよね……」

「イズクン、夜嵐くん毎回それ気にしてるから、言っちゃだめです……」

「大丈夫だ身代祇サン! やる気ならいつだって充実してるから! むしろ前の人が凄い記録だともっと張り切れる! 頑張るぞお! 頑張るぞおーっ!!」

(((なんか余計に負けられないって気分になってくる……!)))

 

 そんなことを言われたら、凄い記録を出さずにはいられず、私たちは頑張りました。

 

「フッ───イズクンとともにオールマイトのもとでトレーニングをした私に、もはや投げるだけのことに恐怖などないのです。あ、でも個性を使ってのものだから……まず手ごろな石を思いっきりブン投げーる! そして身代わり交換して、置いておいたボールと身代わり交換! さあ、記録や如何に!?」

「身代祇。円から出たからやり直しだ」

「!?」

 

 そういえば円から出たらだめなんでした!

 青山くんに「スマートじゃないよね☆」とウィンクされてしまいました……!

 い、いいですよわかりました! 単純に、わかりやすく、けれど全力でやりますよ!

 

「土地神解放100%フルカウル……!」

 

 人体の限界なんて知りません。

 他の生徒の前で恥ずかしい思いをしたのなら、もはや度肝を抜くような成績で塗り替えるしかありません。

 ならばたとえこの腕が千切れようと、人の限界を超えた記録を見せるのみ───!

 

「更に向こうへ───! Plusぅうっ……Ultraぁああああっ!!」

 

 左足で踏み出し、右腕で振り被り、体が許す限りの関節の加速を以って、今、全力でボールを投げる!!

 ……結果、500mちょい。

 かっちゃんが目を見開いて私のこと見てた。

 

「はぁあああ!? おまっ……個性:身代わりでどうやって……どういうこっちゃ説明しろやコラァア!!」

「ひうっ……あ、あの、常に、自分の限界と自分の常識を身代わりで交換してた、って、いう、か……その……」

 

 実際、個性:土地神で似たようなことを促されて、そうして始めたことで出来るようになったことだから、間違ってはいません。

 ただし全身の筋がブチブチと切れて、回復するまで立っていられなくなるので、ぺしゃりと座り込んでしまうのは仕方のないことなのです。

 ……すぐに直りましたけど、反省。

 個性がバレるようなことを、自分からやってしまっていたら元も子もありません。

 

  そんな調子で、上体起こしや長座体前屈、いろいろやった。

 

 そのどれもがまあまあ。

 や、50m走は走ってすらいませんでしたけど。

 総合結果は……真ん中あたりでした。最下位じゃありませんでした……やった、やったよママーン!

 

「あぁ、ちなみに除籍はウソな」

「───」

 

 なにか密かな仕返しがしたかったので、身代わりでドライアイを奪ってやりました。

 買い置きしているであろう、ドライアイ用目薬が全部無駄になればいいんです! ふんだ!

 

……。

 

 なんとか一日目が終わった。

 ワン・フォー・オールを使ったイズクンは当然上位で、かっちゃんにどういうこっちゃあワレーって感じで詰め寄られてたけど、そこはほら、事前に話しておいた“譲渡の個性の話”が役に立った。

 大人になってふと気づくまで無個性だと思っていた人の話だね。

 で、イズクンの場合はオールマイトとの出会いと教えでそれが芽生えた~って話になって、かっちゃんもオールマイトならしゃーねぇって感じでなんとか納得。

 けれども“ここで一番になるのは俺だからなこのモジャ公がぁ!!”ってキレ気味に言ってた。

 

「裏切者……」

「うらっ……!? 裏切ってなんかないって! ていうか若那ちゃんだって、あの個性であの記録はすごいでしょ!」

 

 そんなわけで下校時刻。

 特に一緒に帰る人もおらず、イズクンとのんびり下校。

 かっちゃん? とっくに帰ったよ。

 

「おーい、緑谷くん! 身代祇くん!」

「え? あ、飯田くん!」

「あ、三人とも今帰りー? 駅までなら一緒に帰ろうよー!」

「うっ……麗日さん!」

 

 二人で歩いてると、飯田くんとお茶子さんと遭遇。

 そしてイズクンはどうやら、お茶子さんにトキメキドキュンっぽい。

 

「……ちなみに、私もいるよ?」

「うひゃあ!? ……ワワッ、わかりづらい、からっ……声は、普通にかけて……!」

 

 いきなり声をかけられて、叫んでしまった……ああ、視線が痛い……!

 振り向いてみれば制服が浮いていて……ああ、葉隠さんか。

 

「にししー、もしかしてホラー苦手? 透明人間なんて、傍から見るとポルターガイストだもんねー?」

「いいえ。グロいのには大分慣れてます。びっくりするのに慣れてないだけで」

「わお、結構たくましい……」

「………」

「身代祇ちゃん?」

「ひうっ!? ア、アノ、マダナニカ……!?」

「………」

「………」

「もしかして、結構コミュ障?」

「チ、チガウヨ! コミュ障、チガウヨ! ただ人見知りするだけヨ!!」

「あんま変わんないと思うなそれ! まあまあまあ、なにはともあれさっ! あの時はありがとう! そして友達になってください!」

「……カメラはどこですか!?」

「ドッキリじゃなくて!!」

 

 定型文が得意です。用意した言葉、言うだけ。人見知りでも、結構いけるヨ!

 でも続く言葉が思い浮かばない場合はどんどんとテンパってダメになる。友人居ない人の典型です。

 

「身代祇ちゃん可愛いし、友達とかフツーに出来そうなのに。中学とかの時、居なかったの?」

「……幼馴染がかっちゃんな女の子に、フツーの友人が出来る方がスゴイよね……」

「かっちゃん?」

「爆豪くん……」

「あー……」

 

 近づいてくる人全員に威嚇するんだもん!

 私が離れようとすれば喧嘩売ってくるし! そんで投げたらずーっと睨みっぱなしだし、正座させてみればあの爆豪くんをブン投げるなんて、身代祇さんも怖い人なんじゃとか言われるし!

 わ、私だってねぇ! 私だって普通の友人欲しかったんですよ! でも気づけばイズクンしか居ないし、みんな距離取るし!

 だから暴力なんか嫌いなんだ! なにがクソナードだあのトンガリーニョ! 今度いっぺん身代わり反動大激痛中に身代わり使って苦しませてやる! あ、それ苦しむの私だけです。限界突破しちゃってるからどうせ使えないし。

 ……じゃあもうこの際、“個性:心傷想起(トリガー)”で……あ、だめです、ここ最近でシャレにならない傷を身代わりしすぎました。かっちゃんが死にます。

 心傷想起。トラウマ・リヴァイヴ・トリガーといいますが、自分が受けた傷によるダメージの記憶を、接触を媒介に対象にぶつけるものです。

 一年前くらいでしたら大したものでもなかったかもなんですが、この一年以内でひどい怪我とか身代わりしましたからね……。

 特にオールマイトとイズクン関連はひどいものです。

 たぶん、オールマイトの腹部関連だけでも相手が死ぬかもしれません。

 だって、No.1ヒーローが満足に動けなくなるほどの破壊力です。

 誰がやったのかは知りませんが、たぶん一発で行動不能に出来ます。

 あとは両腕両足が骨折したりするだけです。イズクンはほんと無茶です、まったく。

 と、ここまで考えていたら、葉隠さんが着ている服の右袖が、ピンと上に持ちあがる。どうやら腕を高く突き出したらしいです。

 

「じゃあ、私がお友達第一号だね! あ、女子って意味で! ヨロシク!」

 

 友達……どうやら葉隠さんは友達になってくれるそう……!

 い、いいんですか!? かっちゃんが幼馴染な私でも、いいんですか!?

 

「ありがとう友達!!」

「よせやい照れるよ!」

「あ、ずるい! 私も私も! よろしくね、若那ちゃん!」

「お茶子さん……!」

「さん、なんて照れるって、ちゃんでいいよ、ちゃんで」

「じゃあ私も透で! 呼び捨てでもちゃん付けでもいいよ! どんとこい! あ、でもあだ名っぽく“とおちゃん”とかは勘弁な!」

 

 ア、アウウ……! 近い、近いヨ……! やばいアルヨこれ……! いやそれよりなんだこの口調。

 とにかくちゃん付けとか呼び捨てとか、あだ名があれこれアーソレソレ……!!

 

「ティッ……」

「てぃ?」

「ティーさん……!」

「紅茶か!!」

 

 お茶子ちゃんにブフーと吹きだされた! 真面目に考えてこのネーミングセンスだから私ってやつはもう!

 

「じゃあ次! 私わたしー!」

「る、るー、ちゃん?」

「“透”の“る”かー! いいじゃん! じゃあ若那ちゃんは───ワーさん? ナーさん?」

「どっかから怒られそうだからやめて!?」

「君達! あまり長話をすると電車に乗り遅れてしまうぞ! 話なら、歩きながら、通行の邪魔にならない程度にしよう!」

「て、天ちゃん!」

「天ちゃん!?」

「うひゃあ違う違う! 違くて! 急に声かけるから、つい咄嗟に!」

「……天ちゃん……」

「ありゃ? なんかじぃいんとしてない? もしかして今まであだ名とかなかった?」

「いやあった。眼鏡くんとか天才くんとか委員長とかが主だな」

「まんまや!」

 

 またブフーって吹き出すお茶子ちゃん。

 お笑いとか好きそうだ。

 

「ちなみに緑谷くんはなんと呼ばれているんだ?」

「かっちゃん限定なら、その……名前の出久の読み方を変えて、デク、とか……」

「蔑称じゃないか! そんな呼び方は即刻やめさせてやったほうが───」

「あ、でもデクってなんか、頑張れって感じに聞こえない? なんか私好きだ、響きとか」

「デクでいいです!!」

「緑谷くん!?」

 

 イズクン絶好調。

 なんやかんやあって、友達も出来て、こうして一緒に下校。

 いいなぁ、青春って感じで。

 お父さん……こんな私にも、お友達が出来ました……!!

 


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