艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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 今年最後の「代償」のお話です。


第九五話 激闘・前衛艦隊 Ⅱ

「自爆艦攻撃とは、深海棲艦も血迷ったか、或いは進退窮まったか」

 主砲を放ちながら愛鷹は急接近して来るPT小鬼群もとい、PT小鬼群自爆型を見て呟く。

耳障りな笑い声を上げて、第三三特別混成機動艦隊に迫る様は、まるで生者の命を求めて迫り来る死に神を彷彿させる。些か死に神にしては小さくも見えるが、その小さ目な自爆艦が持ち込む死に嘘偽りは無いだろう。

 幸いにも高速だが機動的には直線コースを描く分、その動きを読みやすいのがPT小鬼群自爆型の弱点と言えた。愛鷹の主砲の斉射が三隻のPT小鬼群が大量の海水の柱の質量に激突した衝撃でもんどりうって転倒し、誤爆した自爆用爆薬によって爆発四散していく。

「主砲、速射だ。撃ち続けろ!」

 次弾装填に時間がかかる斉射から交互撃ち方に切り替える愛鷹の後ろで、青葉以下の艦娘達の主砲の射撃音が響き渡る。

 二〇・三センチ、一四センチ、一〇センチ、一二・七センチの四種類の砲声が間断なく轟き、群れを成して迫り来るPT小鬼群自爆型へ、水上射撃を続ける。

 楔型陣形を形成して突入して来るPT小鬼群自爆型の群れを見て、愛鷹は即座に対応策を講じた。

「旗艦愛鷹、及び青葉さん、衣笠さん、愛宕さん、鳥海さんは敵自爆艦群の前面に展開。夕張さん、深雪さん、蒼月さんは左翼、天霧さん、敷波さん、綾波さんは右翼に展開。敵自爆艦を三方向から迎え撃ちます。慌てず、落ち着いて対応を」

「了解」

 各々からの唱和した返答が返され、速やかに艦隊が陣形と隊列を変換する。

 

 夕張以下の中小艦艇艦娘が左右に分かれて行き、PT小鬼群自爆型の正面に愛鷹、青葉、衣笠、愛宕、鳥海の五人が残る。PT小鬼群自爆型は、知能自体は低いのか、小型艦対応に向いている中小艦艇艦娘と別れた形になる愛鷹達を絶好の的と捉えて、隊列を維持したまま吶喊して来る。

 その愛鷹達から阻止射撃が次々に飛来する。速射の効く二〇・三センチ砲弾が相次いでPT小鬼群自爆型に命中し、更に五人の対空機関砲が水上射撃を行い、弾幕を水平撃ちしてPT小鬼群自爆型に鉛玉の雨を浴びせる。更に交互撃ち方に切り替えた愛鷹の四一センチ砲弾が放たれ、PT小鬼群自爆型を軽く覆い隠す程の水柱による障壁を作り、それに激突したPT小鬼群自爆型が衝撃で誤爆し、爆散していく。

 愛鷹達の砲撃だけで瞬く間に八隻のPT小鬼群自爆型が爆沈し、二隻が航行不能になる中、左翼に展開する夕張達と、右翼に展開する天霧達が展開を完了し、高速で走るが故に安易な軌道変更が出来ないPT小鬼群自爆型へ十字砲火を浴びせ始める。

「撃ちー方始めー!」

 夕張と天霧の射撃号令がかかるや、二つの分艦隊から三種類の中小口径砲弾がPT小鬼群自爆型の楔型陣形の左右両翼を削り取り始める。艤装内のFCSをPT小鬼群対応に最適化している天霧の射撃は正確さを極め、天霧が一回の射撃を行うごとに一隻のPT小鬼群自爆型が吹き飛んだ。

「自爆型が一〇〇隻程ねえ……弾が持つかな」

 懸念を口にする天霧は右手に持つ主砲搭の残弾インジケーターを見やり、無駄撃ちを控えればぎりぎり足りるだろうと言う結論を下す。

「自爆型に対応するだけで全弾薬を使い果たす事になりそうだね」

「でも、ここで防ぎ切ってこそ私達と言う前衛艦隊の仕事になります」

 溜息を交える敷波の言葉に、綾波はそれこそが自分達の仕事だと返す。綾波の艤装のFCSは天霧の物ほどのPT小鬼群対応力は無いが、彼女自身の射撃の腕前が適切な諸元を導き出し、PT小鬼群自爆型に一二・七センチA型改二砲の砲撃を叩き付けていた。

天霧と敷波の懸念は夕張も感じていた。

「この戦闘を切り抜けられたら、一度『ズムウォルト』に後退して補給を受けないと弾薬が続かないわね」

「全弾撃ち切ってでもあいつらを止めないと、その母艦すら吹き飛んじまうかもだぜ」

 そう返す深雪は、今や武装は主砲と機関砲のみの小型砲艦状態の自分の全火器をPT小鬼群自爆型に向けて発射しながら、魚雷を全弾発射したのは流石に失敗だったか、と遅い後悔をじわじわと胸の内に感じていた。魚雷が無ければ今ここでPT小鬼群自爆型を防ぎ切っても、後続の主力艦隊がこちらに向かって来たら、対抗する火力が手元に残っていない計算になる。

 PT小鬼群自爆型と反航戦となる形で砲戦を行う夕張達と天霧達に、PT小鬼群自爆型は目もくれずにその側面を通り過ぎて行く。

「ちょっとはこっちにも目を向けてくれたっていいじゃないですか」

 無視を決め込まれた事に、苛立ちを見せた蒼月が自身の艤装でなる砲声に舌打ちを交える。長一〇センチの鋭利な砲声が海上を突き抜け、既に爆沈したPT小鬼群自爆型の上げる黒煙を貫通して、その煙の向こう側にいるPT小鬼群自爆型に水上射撃用の徹甲弾を叩き込む。二五ミリ対空機関砲の連射音がそれに続き、オレンジの曳光弾の火箭が海面に当たって跳ねながらPT小鬼群自爆型に弾道を鞭の様に振り向ける。

「反対側の天霧隊への誤射に注意して」

 一応ではあるが夕張は自分自身に対するものも含めて、注意喚起を深雪、蒼月に発する。友軍の誤射と言うもの程しょうもないやられ方は無いと言うのが夕張の持論だったし、それは全ての艦娘や同じ国連軍の旗の下に戦う将兵に通じる考えでもあった。

 直後、天霧達の砲撃では無いが、愛鷹達の砲撃の外れ弾が海面で跳弾し、海水と弾丸が互いを弾き飛ばす鋭い音が響いた。一瞬、夕張と深雪、蒼月の三人が首をすくませるが、跳弾コース上に自分達がいないと分かるや安心感が溢れて来る。同じ中小艦艇艦娘の砲弾なら万一誤射を受けても即座に大破はしないが、愛鷹達の砲撃は一撃が重いので誤射されたら流石に中破以上は免れない。

 跳弾も時に入射角によっては何処へ弾け飛ぶか分からないので、跳弾の音がしたら一瞬びくりと冷や水を浴びせられた気分になる。

「新たな目標、第……」

 そこまで言って夕張は頭を振った。もう何隻目の砲撃なのか、数えるのも忘れてしまっていた。自分が数えなくても、自身の艤装内のCIC妖精やガンカメラが記録しているからさほど問題は無いだろう。ボイスレコーダーに記録が残らないという問題はあるが。

 

 

 愛鷹達がPT小鬼群自爆型との交戦を開始した頃、イントレピッド隊は前進して来る空母棲姫級との航空戦に入っていた。

 空母棲姫級が放つのは、夜猫深海艦戦に護衛された深海攻撃哨戒鷹と夜深海艦爆、夜復讐深海艦攻からなる戦爆連合であり、計測されたデータを参照すると、この空母棲姫級たった一隻でイントレピッドの艦載機搭載数を凌駕する量であった。空母棲姫級は艦載機数の大容量さで知られるとは言え、艦娘艦隊の中でも艦載航空機の数において最大の容量を誇るエセックス級空母艦娘を凌駕する搭載機数ともなれば、戦場海域における航空優勢の確率も危うい所になる。

「対空戦闘用意」

 日本語が得意なアメリカ艦娘に共通する事だが、在日米海軍の軍人家庭の娘として生まれ、幼少期は佐世保で育った経験のあるイントレピッドは、敢えて日本語で対空戦闘の準備を命じる。横須賀の在日米軍基地で生まれ育ったフレッチャーとジョンストンも日本語での指示に応じ、更に瑞鳳、伊吹、摩耶、陽炎、不知火が自分達の国の言葉で指示に即座に対空迎撃の構えを取る。

「BARCAPは直ちに発進、敵攻撃隊の迎撃態勢に入れ」

 陽気でノリが良くハツラツとしている、と言うのがイントレピッドの性格を現しているが殊に戦闘時においてはその陽気さは鳴りを潜め、軍人らしい凛とした佇まいを見せる。彼女がM1903小銃風の航空艤装の銃床を肩に当て、空に向けて引き金を引くと航空機を封じ込めた弾丸が空に飛び出し、空中にF6F-5の編隊が出現する。

 傍らで瑞鳳の弓がしなる音を立てた後、空気を両断するかのような航空矢を放つ鋭い音が鳴り響き、空中に烈風改二の編隊が閃光を放って出現する。

 伊吹の航空艤装からは防空任務に当たる橘花改八機がカタパルトで射出され、二基のネ20改の金属音が空一杯に響き渡る。低空をフルスロットルで飛び抜ける橘花改のエンジン音は、航空妖精サイズにスケールダウンしているとは言え、八機分の音は鼓膜だけでなく、五臓六腑にまで伝わる振動を、大気を触媒にして伝えに来る。橘花改の端的に言えば暴力的とも言えるエンジン音に比べれば、F6F-5のWワスプエンジンと烈風改二のハ43-15エンジンの音は単純かつ明瞭に力強さを感じさせる音であった。

 三種類の防空戦闘機を上げた艦隊はイントレピッド、瑞鳳、伊吹を中心とした輪形陣を組む。先陣を摩耶が、右翼をフレッチャー、ジョンストンが、左翼を陽炎、不知火が硬め、主砲、高角砲、対空機関砲、対空噴進砲の全てに仰角をかけて、迎撃態勢を整える。

 摩耶の二一号対空電探改二と、陽炎と不知火の艤装のマストに装備された一三号対空電探改、それにフレッチャー級姉妹のGFCSレーダーが対空捜索電波の波長を空に投げ飛ばし、接近してくる深海艦載機群に対して跳ね返って来たレーダー波を計測し、正確な対空射撃に必要なデータを集める。元より電測装備に優れるアメリカ艦娘に日本艦娘の電測装備は劣っていたが、度重なる改修の結果、その性能はアメリカ艦娘の備えるレーダーと遜色ないまでに性能が向上していた。更に艦娘配備当初では考えもしなかったことであるが、今では艦娘間でデータリンクを接続し、対空射撃目標の重複を起こさないシステムの構築も出来ていた。

 対空戦闘に当たって、防空戦の指揮を執るのは防空重巡である摩耶の仕事だった。艤装の対空処理能力は防空重巡形態である改二化に伴って大幅な強化がされており、対空指揮艦娘としての一面を付与されていた。摩耶の対空迎撃能力は、防空をその任務とする秋月型や愛鷹、結果として防空任務が主となったアトランタ級軽巡艦娘と比べればやや見劣りするが、対空指揮艦として見ればその能力に申し分ない。

 遠方、針の先の様な点となって空中を舞う双方の航空機が航空戦に移行する。敵機の数は凡そ八〇機。迎撃隊の数は橘花改が八機、F6F-5が一二機、烈風改二が一六機。総数では劣るが、護衛機である夜猫深海艦戦は凡そ二〇機前後だから突破は不可能ではない。

 F6F-5がM2ブローニング機関銃の斉射を浴びせて、夜猫深海艦戦を屠ったのが空戦の始まりを告げた。

「ウルトラ2-1、ガンズ・ガンズ・ガンズ」

「メイジ1からメイジ隊各機、続け!」

 F6F-5と烈風改二の半数が夜猫深海艦戦を相手取る間、速度と火力に優れる橘花改が一撃離脱戦で深海棲艦の攻撃機に三〇ミリを見舞っていく。

 機首がぶれる程の三〇ミリ機関砲の射撃が、深海攻撃哨戒鷹、夜深海艦爆、夜復讐深海艦攻問わずにその大口径の弾丸で文字通り機体を粉砕され、引き裂かれた機体の破片を後ろへと散らしながら、撃破された機体が高度を失っていく。

 八機の橘花改は旋回して今度は後方から攻撃機の群れに再度銃撃を加える。飛行不能に陥った鳥型の深海攻撃哨戒鷹や、黒い球状の夜深海艦爆、夜復讐深海艦攻が空中で四散、或いは損傷で高度を維持出来なくなり、地中海の海面に向けて最後の落下を始める。

 夜猫深海艦戦との空戦に関わらないF6F-5と烈風改二も一二・七ミリと二〇ミリを持って、攻撃機の群れに鉛玉を見舞ってその編隊を削り落としていく。防戦に当たろうとする夜猫深海艦戦は、既に相手にしているF6F-5と烈風改二に背を向ければ即座に自分が撃墜されると言うジレンマに襲われていた。

 夜猫深海艦戦も負けじと機銃を放つが、烈風改二はぐるりとロールを打って射線から逃れるか、ヨーイングで機体の軸線をずらして射撃を巧みにかわし、更にフルスロットルの唸り声を上げて機敏な機動性を持って夜猫深海艦戦の背後を奪い返し、二〇ミリを叩き込む。

 徐々に八〇機を数えた深海艦載機群がその数を減らしていき、三分の一が艦隊へ攻撃ポジションに入る前に地中海の藻屑になる中、対空電探で深海艦載機群の速度、高度を正確に追跡していた摩耶が主砲による対空射撃の構えに移る。

「対空戦闘、目標接近する敵艦載機群。防空戦闘機隊は高度を上げろ」

 射程において今この場で最もリーチの長い二〇・三センチ三号砲を備える摩耶の連装主砲三基が仰角を取り、艦載機群に対しライフリングの刻まれた砲口を向ける。

 砲術科妖精から主砲発射用意良し、の報告が上がるや、摩耶は短く、露出している腹部に力を込めて叫んだ。

「撃ちー方始めー!」

 太鼓を六回叩いた様な砲声が轟き、六発の三式弾改二が宙へ飛び出す。相対速度から言って、もう一斉射は出来そうだと踏む摩耶が再装填を命じる中、虚空の彼方で尺玉が炸裂した様な音と、鼓膜を鈍く打つ爆発の音が響いて来る。空中で無数の散弾となって岐れた六発の三式弾改二が、深海艦載機群の鼻先を殴りつけ、散弾に襲われた艦戦、艦爆、艦攻が黒煙を引きながら高度を落とし始める。

「トラック2110から2120まで撃墜確認」

「新たな目標、仰角六〇度。斉射完了次第、射撃管制は高角砲、機関砲、噴進砲にシフト」

 淡々と摩耶のCIC妖精がオペレートしていく中、摩耶の主砲は二度目の斉射を放つ。散布界を広く取る射角で撃ったので、三式弾改二に警戒して互いの距離を取っていた深海艦載機群に、またしても三式弾改二の散弾の雨が均等に打ち付けて来た。航空機と言うものは直撃よりも近接信管弾の破片で損害を与えるものだから、対空面制圧砲弾たる三式弾改二の威力は確かなものがある。勿論、初速が遅めなことや、その面制圧力にも限界があるから、敵編隊全てを一撃で一掃する事は叶わないが、斉射が嚙み合えば最大で二〇機程度は落とせる事もある。

 四散し、空から残骸を投げ落とす深海艦載機群の姿を見て、摩耶は軽く唇を噛んだ。第一射では一〇機を撃墜したが、第二射はやはり五機程度の撃墜に留まっていた。

 既に主砲の仰角外に敵機群は群がっていた。

「高角砲、機銃、噴進砲、各個に撃ち方始め!」

 摩耶の艤装で、輪形陣の左右を固める陽炎型とフレッチャー級の艤装で、そして輪形陣の中央部に居る三人の空母艦娘の艤装で、対空火器が射撃を開始する。二五ミリと四〇ミリの二種類の機関砲の曳光弾が撃ち上げられ、摩耶の一二・七センチ連装高角砲や陽炎型の一二・七センチD型改三砲やフレッチャー級のMk37GFCS連動型Mk30 五インチ単装砲が対空弾を放り上げる。何れもVT信管を弾頭に仕込んだ対空砲弾だ。外れ弾以外は起爆する事は無いから、対空迎撃の効果が分かりやすい。

 対空砲火によって四散、或いは撃破されて黒煙を引きながら高度を落とし海上に激突する敵機が増える中、艦隊左翼から夜深海艦爆が横に並んだ編隊を組んで、左翼から艦隊に対して急降下爆撃の構えを取る。

「目標左に旋回中! 噴進弾を発射!」

 不知火が対空砲火の砲声に負けじと叫ぶ中、彼女の艤装の左舷から一二センチ三〇連装対空噴進砲改二が対空ロケット弾の弾幕を撃ち上げた。

 撃ち上げられた三〇発の対空ロケット弾の弾幕が、夜深海艦爆の一部を呑み込み、火焔と白煙に包み込まれた夜深海艦爆が黒と赤の爆炎を放って四散していく。対空ロケット弾の弾幕を避けた夜深海艦爆が改めて攻撃コースに乗ろうとした時、そこには陽炎が同じく噴進砲と主砲を構えて待ち構えていた。

「悪いわね、貰ったわ!」

 ニタりと中々に悪い笑顔を浮かべた陽炎が主砲の引き金を引き、背中に背負う艤装からは三〇発のロケット弾が打ち上げられる。対空弾が夜深海艦爆一機を突き上げる様に吹き飛ばし、三機がロケット弾の濁流に呑まれて爆散する。

 陽炎と不知火が一定の成果を上げる中、右翼のフレッチャー級姉妹は速射性と精度に優れるMk30、そしてボフォース四〇ミリ機関砲による活火山を思わせる弾幕で、低空からの接近を試みる深海攻撃哨戒鷹と夜復讐深海艦攻に対空弾幕の嵐を吹き付ける。

 Mk30、正確にはMk37GFCSと直結させたMk30とも言える単装主砲がフレッチャーとジョンストンの構える主砲艤装で火を噴く。GFCSと直結している分、その射撃補正の正確さは日本の駆逐艦娘なら誰もが羨む精度であった。Mk30の五インチ対空弾が飛び出すたびに、一機の深海艦載機群が空から消し去られていた。

 そこに大口径、長射程の四〇ミリ機関砲が曳光弾の弾幕を撃ち上げ、二種類の艦攻に牽制の射撃を浴びせる。四〇ミリ機関砲の弾丸を躱さねば、被弾して落ちるしか無いが、弾幕を無視してでも突っ込まねば艦娘への投弾コースに乗れないと言うジレンマを敵機に与え続ける。対空戦闘における機関砲の射撃とは基本的にはこれがセオリーだった。

 先陣を切る摩耶も激しい対空砲火を撃ち上げ続けている。止まぬ対空機関砲の射撃が銃身を赤く過熱させ、高角砲が何度も何度も発砲炎と冷却水の水蒸気を吐き出す。盛んに撃ち上げられる対空弾が深海艦載機群の接近を阻み、無謀に突入を敢行した艦爆、艦攻を容赦なく撃破し、海面へと叩き落とす。

 五人の護衛艦娘の対空射撃のお陰で、イントレピッド、瑞鳳、伊吹の三人は今のところ対空射撃をしていなかった。随時之の字運動で回避機動を取り、右に左に身体と艤装を慣性でよじりながら深海艦載機群の射撃コースから逃れる。時折、長距離から艦攻が発射した魚雷が艦隊の前後をすり抜けていくが、信管を作動させることも無く、照準誤差の大きさで起爆も直撃もする事なく、海中へと没していく。

 八〇機に上る艦載機群の空爆は、対空火力の高い防空艦娘三人と艦隊型駆逐艦娘二人の砲火の前に、完全に阻止されていた。時折思い出した様に投弾される爆弾や魚雷は至近弾になる事はあっても、損害と言う損害にすらならない。

 最後の爆撃が完了した後には、被弾による黒煙を引きながら海上を這う艦娘は一人もいなかった。

「よし、切り抜けた様だな」

 対空射撃の硝煙で煤けた顔で帰投していく残存機を見送りながら、摩耶は、奴らに帰る場所が残っているかな、と意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

 摩耶の意地の悪い笑みの理由は、イントレピッドから発艦した攻撃隊五二機と伊吹から発艦した八機の景雲改からなる攻撃隊が答えであった。

「目標、ビジュアルコンタクト。アウル1から全機、攻撃開始」

 機速を生かして先行突入する景雲改の編隊長機が、眼下に布陣する深海棲艦の空母棲姫級とそれを囲む重巡ネ級elite級と駆逐艦ナ級四隻を認めるや、僚機にバンクし、攻撃開始を合図する。

 低空へと降下する景雲改に気が付いたナ級が単装速射砲を振り向け、防空艦娘も驚嘆する程の猛烈な対空射撃を開始する。ナ級の各シリーズの中でも最上位グレードと言える個体のナ級が四隻。通常なら航空妖精の操る艦上機はバタバタと撃墜されて行ってもおかしくない陣容だが、速度に優れる景雲改はやや話が異なった。

 低空をレシプロ機よりも優れた速さで飛ぶ景雲改は、波によるレーダークラッターによる深海近接信管の誤作動を誘発しつつ、一定の高度を維持してナ級へと迫る。空母棲姫級には目もくれていない。彼らの任務はただ一つ、その俊足をもってしての敵対空砲火制圧任務だった。胴体下に抱く爆弾は反跳爆撃を目論んだ五〇〇キロ爆弾一発。八機の景雲改は二機一組のペアを組んで、四隻のナ級に迫りつつあった。

 ナ級もナ級でみすみすやられるほど無能ではない。ナ級後期型Ⅱflagship級の深海対空レーダーと連動した単装主砲が、対空機関砲が猛烈な射撃を景雲改の鼻先へと送り届ける。紅蓮の炎の中へ突っ込むような突入だったが、景雲改のコックピットに乗る航空妖精は、照準器を覗き込み、操縦桿とスロットル、フットレバーを微調整しながら進路を維持する。

 ナ級からの途切れない曳光弾の弾幕が景雲改の機影を追う中、先行する重巡ネ級elite級からも僚艦援護の対空機関砲の射撃が飛ぶ。空気を引き裂きながら飛来する弾丸が、不気味な飛翔音を上げて掠めて行く中、景雲改八機はほぼ同時にコックピットの航空妖精の「ヨーイ、てぇッ!」の合図と共に、引き倒された爆弾投下レバーが信号を送り、胴体下の爆弾投下の挙動を作動させた。

「アウル1、Boms away!」

 先導機のアウル1が爆弾投下を宣告し、今すぐにでも手前に手繰り寄せて引き起こしにかかりたい欲望を抑え、低空飛行を維持する。高度を上げれば、必然的に速度が落ち、対空砲火を貰いやすくなる。速度、高度を維持し敵艦隊の間反対に突き抜けるまで、上昇は我慢だ。

 至近弾が上下左右から突き上げる様に、殴りつける様に、抑え込む様に爆風を打ち付けて来るが、程なくしてその狙いが徐々にそれ始めた。景雲改の速度に追従できなくなったと言うより、接近する五〇〇キロ爆弾に対して回避運動に移った為に、狙いがそれ始めた様だった。どれ程正確な追尾システムを持っていても、現代の人類の通常兵器の軍艦程の目標追尾システムでは無いから揺れる海上、高速回頭する自艦の向きによっては深海棲艦も、そして艦娘もその狙いが逸れて行く事がある。

 ナ級は必死に駆逐艦ならではの機動力で回避を試みるが、反跳爆撃に手法で投下された爆弾は海面を跳ね、そしてその弾道は一直線とは言えないやや不規則さを見せただけに、ナ級はどちらへ舵を切れば躱せるのかで迷いを生じていた。その迷いによって生み出された隙と言う時間的猶予の間に、爆弾は飛び込み、ナ級に直撃した。

 大型駆逐艦に分類され、尚且つ最上位の個体なだけあって対装甲信管である遅延信管を予めセットしていた五〇〇キロ爆弾が、装甲自体は比較的薄いナ級の蓋板を貫き、内部で一拍置いて起爆する。五〇〇キロ爆弾の直撃と言う運動エネルギーの激突に被弾した側とは反対側へと傾いだナ級が、元の姿勢に戻ろうとした瞬間、被弾箇所から紅蓮の炎が噴き上げ、溢れかえる爆発の力が艦体を突き破り、艤装や武装を吹き飛ばして宙に放り上げた。

「ブルズアイ! ブルズアイ! ブルズアイ!」

 最後尾を飛ぶアウル8が着弾を確認して叫ぶ。

「アウル1からウルトラ1-1、BDAを」

≪ウルトラ1-1よりアウル1、BDAは大。敵大型駆逐艦三隻の大破炎上を確認。一隻は中破し、一時戦闘不能の模様≫

 上空で触接を行うTBF-3Mの航空妖精が、眼下に立ち昇る黒煙を双眼鏡で見つめながら、アウル1に報告する。三隻は誘爆の炎とそれが巻き上げる黒煙の下に隠れており、航跡も消えていくのが分かる。一隻は黒煙を上げながらも航跡を引いているが、盛んに撃ち上げられていた対空砲火はぴたりと止んでいた。

 その時が来たと判断したウルトラ1-1は、他の攻撃隊を組むTBF-3MとSB2C-5に対して、攻撃開始を命じた。

≪Cleared hot!≫

 その言葉が合図となり、TBM-3DとSB2C-5の群れは空母棲姫級へと群がった。なお健在なネ級elite級だけが対空射撃を行う中、空一杯に大分ブレーキで制動を掛けながら急降下を開始するSB2C-5の爆音と、低空から魚雷を抱いて船底を抉らんと迫るTBM-3Dの吶喊するエンジン音の二種類がデュエットとなって響く。

 空母棲姫級も自らを守らんと対空機関砲、高角砲を動員して応射を開始する。空母艦娘と異なり、深海棲艦の棲姫級空母は個艦防御兵装が充実している。中には艦娘と水上砲戦が出来るだけの艦砲を備えている空母なのか、航空戦艦なのか分からない個体までいるくらいだ。

 海上を這うように飛ぶTBM-3Dの何機かが翼、エンジンカウル等に被弾し、火災の炎と黒煙を引き姿勢を崩す。そのまま崩れた姿勢を立て直す前に海面と接触して赤い海に水飛沫を上げてTBM-3Dが突っ込み、衝撃で四散した機体の破片を前方へと投げ出す。

「奴の腹に飛び込む勢いで突っ込め!」

 雷撃隊を率いるスーパー1-1が空母棲姫級の艤装の舷側を凝視して、文字通り体当たりしかける程の勢いで突撃する。他の僚機や小隊もそれに倣い、対空砲火をモノとせずに突撃する。

「Ready now!」

 その一言と共に、兵装投下レバーが引き倒され、爆弾槽の扉が開き、魚雷が切り離されて海中へと飛び込む。激突コースから僅かに操縦桿を引き、フットレバーを踏み込んで左右上方へと軌道を変えたTBM-3Dの群れが空母棲姫級を飛び越えて行く。

 スーパー1-1は通り過ぎ間際に、初めて目の前で目にする空母棲姫級の正確な姿を目にして、今まで自分達が「空母棲姫級」と呼んでいた深海空母の正体が、明らかな既存の空母棲姫とは異なる事、それもマリョルカ島沖海戦で相対した新型空母である事を始めて確認した。

「奴さん、マリョルカ島からここまで逃れて来てたのか」

 道中コルス島等の経由地はあれど単艦でアンツィオ沖の友軍の元まで逃れて来ていたのかと思うと、その逃避行の距離にスーパー1-1は驚く。いくら深海棲艦と言えど、随伴艦必須の艦種である空母が単独で踏破してよい行程ではない。深海棲艦勢力圏に早くから逃れられていたのが幸いしたのだろう。

 だが、その逃避行の果ての再戦も終わりだ、とスーパー1-1は離脱に転じながら思った。背後で爆発音と共に舷側を抉り取り、高性能爆薬が全方向に向かって突き出した力によって作り出された水柱が相次いで空母棲姫級の舷側に立ち昇った。

 何か、喘ぐような悲鳴と、呪詛の様な言葉を空母棲姫級が吐き散らすのが微かに聞こえたが、それは直ちに直上から降り注いだ一〇〇〇ポンド爆弾の雨によって封じられた。人語を介する珍しい個体の深海棲艦であったが、人語を介する新発見以外にさりとて求める要素は無く、離脱に移行するTBM-3DとSB2C-5の航空妖精は速やかなる撃沈を空母棲姫級に求めていた。

 悲鳴と呪詛の叫びがやがて爆炎と爆発音を伴奏に、断末魔の叫びへと変え、唐突に空母棲姫級の上げるレクイエムの演奏は止んだ。艦娘で言えば死に至るダメージを負った空母棲姫級ががくりと首を垂れ、多数の魚雷によって海豚が余裕出入りできるほどの破孔を空けられた舷側からの浸水によって徐々に左舷側を下に沈んでいく。転覆する事無く、左舷側を下に沈降していく空母棲姫級から濛々たる黒煙と、白い水蒸気の煙がせめぎ合いながら空へと昇って行く。

 対空射撃を行っていたネ級elite級も流れ弾の様な一〇〇〇ポンド爆弾二発を食らって損傷しており、護衛対象を喪ったのもあってか、反転離脱の構えを取る。追撃し、止めを刺すだけの爆装の余力は攻撃隊には無く、赤い海上に一筋の航跡とうすらとたなびく被弾の煙を引きながらネ級elite級は離脱していった。

 深海棲艦前衛艦隊の空母機動部隊への航空攻撃を完了した攻撃隊が撤収に移行するその真下で、ナ級全艦が自沈を選択し、自爆の火焔と黒煙を新たに海上に生み出して、沈んで行った。

「ウルトラ1-1よりイントレピッドへ。敵空母撃沈。繰り返す、フラットトップにばってん一つ」

 

 

「こちら第三三特別混成機動艦隊、旗艦愛鷹。ワレ敵深海棲艦の自爆艦多数の猛攻を受け、現在麾下の艦娘と共に防戦中。味方本隊へ自爆艦の攻撃が及ぶ前に至急航空支援を要請する」

 軽く何もいない空を見上げて後方の「ドリス・ミラー」の司令部に航空支援を要請しながら、愛鷹は第一主砲の中砲と第二主砲の左砲の射撃を放ち、二発の三式弾改二の制圧射撃で二隻のPT小鬼群自爆型を撃破した。機関砲、高角砲も休みなく射撃を続けており、PT小鬼群自爆型を撃破する度に、顔面をしびれさせる衝撃波を伴った爆発と共に北米大陸の山中にそびえる大木の様な水柱が海上にそそり立った。

≪こちら『ドリス・ミラー』、了解した。制空権の確保をこちらでも確認。ウォーハンマー0-1がAOへ進入する≫

 ウォーハンマー0-1? ブリーフィングでは聞かされなかったコールサインに愛鷹が怪訝そうに顔をしかめるが、彼女が司令部にウォーハンマー0-1の正体を問いただす前に、新たなPT小鬼群自爆型の接近を告げる青葉の警告が耳に入った。

「くそ、結構沈めた筈だけど減った気がしねえ!」

 堪りかねた様に深雪が叫ぶ中、耳を引きちぎりたくなる程耳障りな笑い声を上げるPT小鬼群自爆型の新たな波が押し寄せてきた。

「波状攻撃ね……これは厄介よ。戦術的逐次投入は愚策と習ったけど、一回限りの波状攻撃として見れば厄介極まりないものね」

 ばさっと金髪を掻き揚げて後ろへ払いのけた愛宕が険しい視線でPT小鬼群自爆型を見据える。普段のふんわりかつゆるりとした態度は何処へやら、戦場に立つ一人の艦娘として、軍人として凛々しく立つ愛宕と言うギャップの大きい姿が形成されるやや異様な展開になっていた。

「航空支援は間に合うの?」

「向かって来てはいるね。正体が何なのか分からないけど」

 手で構える主砲の再装填を終えた衣笠の問いに、青葉が頬についた発砲煙の煤を拭って答える。

 再装填が終わり、精測が完了した青葉型二人の斉射がPT小鬼群自爆型を二隻吹き飛ばす。一拍遅れて鳥海と愛宕の斉射がそれに倣い、二隻の自爆艦を屠るが、PT小鬼群自爆型の数は一向に減る気配を見せなかった。

 後退も出来ない、と愛鷹は焦りを内面に滲ませ、唇を結ぶ。今ここで自分達が離脱したら、後方の多くの本隊を構成する艦娘艦隊が自爆艦の猛攻を受ける事になる。本隊の艦娘もPT小鬼群系列への対処能力はあるにはあっても、阻止し切れず、誰かが体当たりを受けて自爆攻撃の犠牲になっては、前衛艦隊を担う第三三特別混成機動艦隊の責任問題に発展するし、何より愛鷹のプライドが許さなかった。

 とは言え、プライドが許さなくても残弾が許してくれるわけではない。既にル級とネ級と交戦して何斉射分かの弾薬を消耗している愛鷹と青葉、衣笠、鳥海、愛宕にとっては残弾管理と言う問題が付きまとい始めている。

「第五波、畳みかけて来ます」

 夕張の叫ぶ声と共に、新たなPT小鬼群自爆型の群れが押し寄せる。水平線を埋め尽くす小鬼の群れに、愛鷹が三式弾改二を発射して、群れの一角を削るが、仲間の亡骸を踏み越えて自爆艦の群れは第三三特別混成機動艦隊を押し込んで行った。

 

 敷波と綾波の二人は天霧に率いられて右翼を守り続けていた。キルゾーンへと高速で突入して来るPT小鬼群自爆型の群れへ、三人の主砲と機関砲は休みなく射撃を続け、既に過熱した砲身、銃身の冷却が間に合わず、主砲の砲身、機関砲の銃身が赤く光り、白煙を上げ始めていた。

 それでも射撃を止める事は許されなかった。いや愛鷹はある程度の息つきを許してくれるだろうが、状況が三人に休む事を許さなかった。奇しくもPT小鬼群自爆型の群れは天霧隊が布陣する位置に徐々にだが寄り始めており、彼我の距離が縮まって来ていた。キルゾーンの位置がずれて来ている? と天霧、綾波、敷波がそう思った時、三人のマストに居る見張り員妖精が明らかに三人の方へと進路を定めて突入して来るPT小鬼群自爆型の艦影を認めた。

「狙いはアタシらか! 射撃目標変更! 天霧隊は接近する自爆艦への対応に注力、阻止射撃!」

「でもそれじゃ、愛鷹さん達本隊へのカバーが薄くなっちゃうよ!?」

 射撃目標を自分達に狙いを定めるPT小鬼群自爆型へ変更する事を命じる天霧に敷波が反論すると、綾波が主砲を構え直して即答する。

「夕張さん達が何とかしてくれます! 敷波、二時方向に三隻、来るよ!」

「おう!」

 綾波と敷波、一九駆を構成する駆逐艦娘の二人の息の合った射撃が、二時方向から来るPT小鬼群自爆型三隻に射撃を浴びせる。

 相棒同士の二人を見やり、天霧はその眼鏡の下の眼に少し寂しげな憂いを湛えて、PT小鬼群自爆型を見据える。天霧の相棒の狭霧は先の戦いで重傷を負って後方の病院へと後送されている。相棒を欠いた天霧は敵と戦いながら、精神的な孤独とも相手しなければならなかった。

 三人の方へと向かって来たPT小鬼群自爆型は一一隻を数えた。綾波と敷波が対処する三隻と同じ横隊を組んだグループが三つ、二隻のペアを組んだ隊列が一つ。その他にも同じ数の梯団が二つ第三三特別混成機動艦隊に向かって来ていた。

 三人の後方に布陣する愛鷹は、天霧隊へPT小鬼群自爆型の攻撃が集中している事を即座に見抜くと、艦隊全艦の全火器の集中投入を命じた。

 やらせるか、と艦隊を構成する一一人の全火力が、一一隻のPT小鬼群自爆型に投射される。大口径、中口径、小口径の三者三様の砲撃がPT小鬼群自爆型の前と、上に降り注ぎ、水柱の壁と、直撃弾による直接撃破でたちまち五隻が耳を聾する爆発音を轟かせて四散する。

 味方の轟沈が引き起こした水柱の大木を左右に躱してすり抜けたPT小鬼群自爆型は、今度は機関砲の水平射撃の弾幕を浴びる。艦娘達の機関砲座がオレンジの火焔に染まり、ばらばらと吐き出された曳光弾の群れが弾道落下で落ちた海面を飛び跳ねながら小鬼群の群れに銃弾をめり込ませる。

 綾波は自身へと向かって来る三隻を見て、右手に構える主砲の砲口をそちらに向けた。狙いを定める中、綾波は内心舌打ちを打つ。三隻小鬼群は、単縦陣を組んでおり、先頭の小鬼を排除しても後ろの小鬼には被害が及ばない。前に立つ仲間を盾にする突入を受けた綾波は、兎に角絶対に撃沈する事を目標に定めると、照準の合わさった主砲の引き金を引いた。

 一二・七センチA型改二砲の二つの砲身から小口径弾が放たれる。先頭のPT小鬼群自爆型に初弾から命中し、自爆用の爆薬に誘爆を促す。

 轟沈する小鬼の水柱を突き破って、ぐしょぐしょに濡れた二隻の小鬼が突入して来る。屍を踏み越えて、迫るその様はまるでゾンビの様だった。

 第二射がすぐさま発射され、二隻目を打ち据える。自爆用の爆薬を構成する魚雷発射管だったところに被弾した二隻目が、一瞬の閃光と共に、綾波の顔面を叩く程の衝撃波を伴って爆散する。

 三隻目! 再装填速く! と焦った綾波が口元をゆがめる。彼女の左手を三隻のPT小鬼群自爆型が抜けて行き、敷波が阻止射撃を放つ。天霧が二隻のPT小鬼群自爆型を撃破し、次の目標へと狙いを定める為に、一度ターゲティングが重複し切っていた照準をリセットした。

 再装填が終わった主砲を綾波が発射する。砲弾は小鬼の左舷の自爆用の爆薬を吹き飛ばして無力化したが、撃破には至らなかった。

「わっ!」

 短い、悲鳴の様な声を上げて綾波が目を瞑った。咄嗟に両腕で顔面を覆った時、自分と同じくらいの質量が激突する衝撃を感じ、次いで閉じた筈の眼が深紅の世界に燃え上がった。聴覚が一瞬で馬鹿になり、綾波の平衡感覚が消失する。

 死を覚悟した綾波の意に反して、彼女が再び目を開けた時、キーンと言う耳鳴りが頭の中に鳴り響いて、聞こえて来るもの全ての音界にデバフがかかる中、綾波は自分が仰向けに倒れている事に気が付いた。身を起こそうと右手と右足に力を入れようとするが、何も反応がない。いや、寧ろ何かがごっそり右半身から無くなった様に重量バランスが崩れていた。

 綾波は右半身を見て、息を呑んだ。右腕と右足が八割方引き千切られて無くなっていた。右手に持っていた主砲も、右足の太腿にベルトで括り付けていた魚雷発射管はそこにあった手足諸共消失していた。

「う、うわぁぁぁぁっ!」

 右手足をPT小鬼群自爆型の直撃によって吹き飛ばされた綾波が、手足を吹き飛ばされた喪失感と恐怖に溜まらず奇声を上げる。焦りながら綾波は周囲に目を向け、千切れ飛んだ右腕と右足がどこかに無いか探した。爆発音、水柱、衝撃波だけが響き、噴出し、伝わって来る海上に彼女の物だった手足はどこにも見当たらない。

 切断面から血が堰を切った様に溢れ出る中、敷波が相棒の危機に飛んで来た。

「しっかりして綾波、気を喪わないで!」

 止血帯を取り出して、血が溢れ出る太腿の切断面付近をきつく縛り付ける。動脈周りが辛うじて残っているのが幸いだった。此処まで失っていたら、恐らく短時間の内に綾波は失血死に至っていただろう。

「敷波、こいつも使え! あたしが援護する!」

 天霧が自身のファーストエイドキットから出した止血帯を敷波へと放って寄こす。受け取った敷波は血まみれの手で綾波の右腕で残っている部分の一部をぎゅっときつく締めあげる。これで失血死までの時間稼ぎは出来た。

 右腕と右足が無くなって軽くなっている綾波の身体を抱き起して、敷波は後退する旨を愛鷹に伝える。

「綾波大破、右手右足切断の重傷です! 敷波は綾波を曳航して離脱します!」

「了解、援護します」

 愛鷹の四一センチ主砲が五発の三式弾改二を発射し、綾波と敷波の背後に迫るPT小鬼群自爆型を一掃する。無数の散弾が頭上からPT小鬼群自爆型をずたずたに切り裂き、大量の破片が食い込んだ小鬼群がバラバラに砕けて海中へと急速に沈降していく。

 さらに青葉と衣笠も愛鷹に倣い後退する綾波と敷波、いや敷波と綾波へ止めを刺すべく向かっていく小鬼群に射撃を行い、一隻一隻確実に一発は当てて撃沈していく。外れた主砲弾が突き上げる水柱を吹き飛ばす程の小鬼群の爆沈の水柱が幾つも上がる中、ベルトを回して繋ぎ綾波をほぼ背負う様に繋いで敷波が後退していく。

 天霧隊は敷波が大破、重傷を負った綾波を後送して離脱を図った事で、事実上、愛鷹が組んだキルゾーンを構成する戦線維持能力を喪失し、愛鷹は更なる被害の防止の為に天霧を下げた。応射しつつ後退する天霧を夕張隊に合流させ、夕張隊の単縦陣の二番艦に回して、愛鷹達の前面に布陣させて新たな防御の構えを敷く。

 防御陣形を再編し終えると、愛鷹は即座にヘッドセットに手を当てて通話ボタンを押すと、「ズムウォルト」へメディバックの要請を入れた。敷波が最低限の止血処置を下とは言っても、本格的な医療措置を取らないと、綾波の身体が持たない。幸い、イントレピッドが空母棲姫級を撃沈した事で、海域一帯に一時的だが制空権を確立出来ており、尚且つ最も近い深海棲艦のPT小鬼群自爆型には対空砲の類が見られないので、今ここに救援ヘリを呼んでも問題は無い。

 

 

 第五波を退けた第三三特別混成機動艦隊に愛鷹は残弾の確認を命じる。全員から色の悪い返事が返って来た。皆、残弾五〇パーセントを切っていた。

 敷波に曳航される綾波は、敷波が打った鎮静剤によって意識がとろんと鈍り、両目の瞼が重たげになった。切断面から滲む血は減ったが、止血剤を振りかけても、じわりじわりと血は滲み続けた。

 ヨーロッパの海で日本の艦娘が死んでたまるか、と敷波は手持ちの装備で可能な限りの処置を相棒に施すが、それでも巻き付けた包帯、ガーゼの下から綾波の命を繋ぐ血が赤い染みを広げる。

ようやく「ズムウォルト」から発艦した救援ヘリが到着し、綾波を収容した時、第三三特別混成機動艦隊は既に第六波と交戦を開始していた。

「戦線の維持を! ここを抜かれたら、綾波さんの様になるかも知れない艦娘がダース単位で増えてしまう!」

「青葉達が最後の防波堤って訳ですか」

 流石に焦りを見せる愛鷹に青葉は主砲弾の残弾カウンターを見て、ため息を吐いた。この第六波はしのげるだろうが、第七波が立て続けに突入して来たら、弾が無くなってしまう。弾が無ければ、もう残るは自らの身体を持っての肉壁となるしか防ぐ手立てはない。

 愛鷹は水平線上に浮かび上がるPT小鬼群自爆型の第六波を見て、そのこめかみに一筋の冷や汗を流した。突破される訳には行かないが、皆の残弾から言ってあと二戦出来れば御の字と言う程度だ。相当数のPT小鬼群自爆型の掃蕩には成功したが、相手にはまだ波状攻撃を仕掛けられるだけの数が残っている。

「アオバンド2-1、こちら愛鷹。残る敵自爆艦の数は?」

 触接を続ける青葉搭載機の瑞雲に尋ねる愛鷹に、瑞雲に乗る航空妖精は眼下を進む小鬼群の引く航跡を数え、それを伝えた。

≪2-1より愛鷹へ。敵残存数はおよそ三〇。プラマイで五隻と思って下さい。オーバー≫

 あと三〇隻程……そう思った愛鷹に、後方で先日の海戦に続き電子の眼で深海棲艦に対する早期警戒網を成す哨戒機シーガル1から愛鷹達に向けて、連絡が飛ぶ。

≪シーガル1より第三三特別混成機動艦隊へ。さらに多数のPT小鬼群型の反応を検知。数はおよそ五〇≫

「防ぎ切れない……」

 絶望が愛鷹の胸の内で開眼する気がした。残弾の乏しい自分達に深海棲艦は全戦力を集中して、強引に突破を図る気だ。

 無理だと力なく呟いた愛鷹に、シーガル1を名乗る哨戒機の戦術士官を担当する男性士官が、平時なら女性を声だけで口説きそうな語り口で愛鷹に朗報を入れる。

≪落ち着いてくれ、コルス島を発ったウォーハンマー0-1が間もなく作戦空域に進入する。彼らが五〇隻余りのPT小鬼群自爆型の対応に当たってくれる≫

「たった一機で何が出来ると」

≪出来るとも。『空からの死』と言うものを君達にも見せてやる事が出来るだろう。だからもう少しだけ頑張ってくれ≫

 

 

 愛鷹の疑念の対象は、間もなくその機影をレーダーの上に現した。

「機影接近、かなり大型機です。これは……」

「何、爆撃機?」

 戦術タブレット端末のレーダー表示を見て、息を呑む青葉に衣笠が先を急かすと、彼女の問いに答えるように遠方から四九一〇馬力のT56-A-15ターボプロップエンジン四基が空を鳴動させる音がその正体を名乗り上げた。灰色の機体色の四発機が第六波と交戦する愛鷹達の頭上を通り過ぎる。

「AC-130Jゴーストライダー!」

 それは艦娘の口径相当の機関砲とは異なるリアルサイズの三〇ミリ機関砲と一〇五ミリ砲を各一基、対深海棲艦能力を向上させたAGM-114ヘルファイアⅢを主翼下に大量に懸吊し、目標上空で獲物を狙う鳶の如く旋回しながらその火力を眼下に降らすAC-130ガンシップ、その最新世代機であった。

 尾翼に「AV」のテイルコードが書き込まれて居る辺り、イタリア北部フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州にある在欧北米方面軍アヴィアーノ空軍基地所属の機体らしい。

「一個艦娘艦隊に勝ると劣らずと言われるガンシップか……確かにあの火力なら、小鬼群ぐらいの掃蕩は容易いわね」

 航空優勢は愚か、眼下に対空能力の高い深海棲艦が居ると手も足も出ない機体だが、深海棲艦の対空能力が低い場合に限れば艦娘一個艦隊分の火力を持つと言う謳い文句に噓偽りは全く無い。空からの死、空からの雷となって降り注ぐ三〇ミリと一〇五ミリ、そしてヘルファイアⅢならル級改すら叩きのめす事が出来、実質空飛ぶ戦艦艦娘の様な一面もあった。

「ツキが出て来た……この勝負、取れるわね」

 制帽の鍔を掴んで愛鷹は目深く引きながら改めて海面を凝視し、自分達の相手を見据えた。

 愛鷹がPT小鬼群自爆型を見据えた時、主砲も小鬼群を見据え、砲口に斉射の火焔を放った。仰角はほぼ無い水平射が小鬼群目掛けて飛び出し、低空で近接信管を作動させた三式弾改二が空中炸裂(エアバースト)となって、無数の鉄片を小鬼群に叩き込んだ。

 

 

「ウォーハンマー0-1、作戦エリアに進入。対艦攻撃に移る」

「対地攻撃機で対艦攻撃だなんて、この仕事に就いた時には夢にも思わなかったぜ」

 火器管制官とTVオペレーターの二人はモニターの向こうに表示されるPT小鬼群自爆型の群れを見て、悪い笑みを浮かべながらジョイスティックを握り、火器システムをオンラインに切り替えた。

「全クルーへ、全火器使用自由。攻撃開始だ」

 機長のその言葉が攻撃開始の合図となり、左旋回を開始したAC-130Jの左側に並ぶ火砲が一斉に火を噴き、新たなショーの開幕を告げた。

 




 今年の29日と30日と連続で「ストレンジリアル軍艦艦娘転生海戦譜season2」の第一話からら第三話(予定)をお届けいたします。
 またpixivでプレハブ分遣隊モノである大洗分遣隊の物語も投稿しているので良ければそちらも照覧頂けたら幸いです。
 ではまた次回のお話でお会いしましょう。
 
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