艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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ズイパライベント行きたいですね、GW期間限定作戦も進めたい……。
この度青葉が改なりました。そんなこともあり今回は筆も少し早めに進んでいます。


第一一話 攻撃作戦計画

基地の駅に入って来た列車から各地方基地から召集された艦娘達が降りて来る。

ホームで出迎えた武本の前で日本艦隊北部方面隊に所属する阿武隈率いる第五艦隊の面々が整列した。

「提督、只今帰りました」

「ご苦労さん。聞いていると思うが沖ノ鳥島方面への攻撃作戦に君達も動員することになる。今日はゆっくり休んでいてくれ。長旅ご苦労さん」

「ありがとうございます。みんな、行こう」

一礼して去る阿武隈の後を多摩、木曽、妙高、朝雲、山雲、初春、子日、五十鈴、島風、菊月、三日月、千歳、千代田が続いた。

青函トンネルの復旧済んだ結果、軍用列車を手配して彼女らを基地に戻らせることが出来た。

最低限の戦力は残さなければならないので朝風、春風、松風、旗風など複数の駆逐艦娘は留まっている。

二航戦、三航戦、四航その護衛は各方面の戦線維持のため引き抜くことはやはりできなかった。

航空戦力確保のため北米艦隊のタイコンデロガ、バンカーヒルの空母打撃群の投入も決定している。

一〇〇隻に上るだろう敵に対抗する為の戦力総動員だ。

今、第三三戦隊が持ち帰った情報から哨戒網の展開状況から作り上げた潜入ルートを基に、伊8(はっちゃん)、伊19(イク)、伊401(しおい)、トリガー、アルバコア、バルヘッドの四人の潜水艦娘が沖ノ鳥島海域へ隠密偵察に出ていた。

さらに伊58(ゴーヤ)、伊168(イムヤ)、ダーター、ハーダーも投入される。

情報が戦争を左右するのは今も昔も変わらない。

深海棲艦との戦いが始まった時は通信衛星とのデータリンクが途絶え、軍民問わずに情報網が途絶えた。

それによって国家間の相互不信が高まったせいで人間同士での不要な戦闘が発生し、深海棲艦と戦うために必要な戦力を無意味に消耗してしまった。

情報社会の崩壊が現代社会の崩壊と同意義だった。今では衛星を関しての通信網以外は大分回復してきていた。

その情報、第三三戦隊が持ち帰った貴重な情報を基に多くの艦娘がこの基地に集結している。

仲間が大勢集まったこともあり基地は大分にぎやかになって来ていた。毎日の様に楽しく騒ぐ声も聞こえるようになってきている。

それでいいのだ、彼女たちは。誰が死ぬのか分からないのだから。

はしゃぐ艦娘を見るたびに武本はそう思った。

勿論部下の艦娘達が一人も死なずに作戦をやり遂げられるようにお膳立てするのが自分の仕事だ。

しかし、すべてを予測しきるのは人間には不可能だ。神のみなせる領域にも近い。

だからこそ武本はその神の領域に少しでも近づかなければならなかった。

戦死者リストを作成することは死んでも御免だった。

「提督」

自分を呼ぶ声がして武本が振り返ると仁淀がホームへの入り口に立っていた。

「何んだい?」

「江良さんから愛鷹さんは明日退院するとの事です。これで第三三戦隊は再編成できますね」

「ああ。愛鷹くんが帰ったら、戦力は一二〇パーセントだな」

「一〇〇パーセントじゃないんですか?」

「青葉くんがいるだけでも一〇〇パーセントだが、第三三戦隊は愛鷹くんも揃って一二〇パーセントの状態でないといけないんだよ」

「へえ、私もそう言うことが出来たらよかったです」

「君も鍛錬と実戦をもっと積めば出来る。それをこれから証明してみせるんだ。君にならそれが出来るはずだ」

そう言われた仁淀は嬉しそうに笑顔を浮かべた。

武本も微笑んでいた。

内心で「オレのエゴだろうがな」と呟きながら。

 

 

海中は真っ暗闇だ。五〇メートル程潜っただけで海の中はすっかり暗くなってしまう。

当然視界が聞く様な世界ではない。海中でモノを言うのは音だけだ。

「魚の心臓が立てる鼓動一つ一つを聞き分ける」「初ガツオと脂ののった戻りガツオの泳ぐ音を聞き分ける」などと揶揄される程耳のいいトリガーは深度三〇メートルの海中を六ノットの速さで進んでいた。

海中を進んでいる間は目が使えないが、その代わり海図やソナーの反応を表示するHMD(ヘッドマウントディスプレイ)をかけてそれを見ながらの航行だ。

事前情報からここから一二キロ先にピケット艦が展開している。ソナーに捕捉されるわけにはいかない。

舵を左へ切り、メインタンクの注水、さらに五メートル深く潜る。

酸素はまだ充分にある。バッテリーにも異常はない。

このまま静かに進んでピケット艦をやり過ごせば敵の泊地まで二〇キロ。

そこで敵の展開状況のさらなる詳細情報を収集する。

水上艦隊の得た偵察結果が無ければここまで敵陣深く潜入することは出来なかっただろう。後の事は自分たちに任されたし、だ。

ソナーから敵のピケット艦、イ級の航行する音が聞こえた。

数は一、速度は一八ノット、参照点から方位三-三-〇。

こちらには気づいていないようで向かってこない。前方左手を横切っていく。

ピケット艦の数はこれで八隻目。警戒の厳重さが分かる。

深度が浅めの時は対潜哨戒機らしき飛行音も海中から聞こえた。

巨大艦ス級だったか……。我々の手には余り余る強敵中の強敵。

叩きのめしておかなければ叩きのめされるのはこちらだ。すでに国連海軍は犠牲者を出してしまった。

分かっているだけでも重巡エクセター撃沈・戦死、駆逐艦ジュピター、超甲巡愛鷹、実験巡夕張が大破・重傷、重巡青葉が艤装中破戦闘不能という損害を出した。

愛鷹、と言うのが誰なのかは知らないが仲間なのは間違いないだろう。

ソナーに微弱な推進音が聞こえて来た。

距離九キロ、速力九ノット、深度二八メートル。目の前を横切る。推進音からして潜水艦ヨ級だ。

潜水艦の防衛体制も万全だな。

そう思いながら腰のベルトに括り付けている魚雷に手を伸ばした。

二発を即応モードにして戦闘スタンバイ。極力交戦は避けるに越したことはないが万が一の時のためだ。

向こうもかなり静かに進んでいる。耳を研ぎ澄ませてヨ級の動きを音でトレースし続ける。

(水切り音からして魚雷は装填していない。こちらに気が付いている感じはまだない。今のところは……)

他に仲間がいないか聴音を続ける。このあたりの海流は海図通りだからそれに逆らって動けば水切り音が立つ。それが聞き取れれば敵潜がいるはずだ。

見つけた敵潜ヨ級に注意しつつ聴音を行う。

いた、前方の泊地付近。二隻いる。推進音と艤装が立てる水切り音、海流の乱れからすると微速で航行中だ。

気づかれては厄介なのでトリガーは無音潜航に移行した。呼吸すらするのが憚れる程にまで静かにする。

敵の中に耳のいいのが、それも自分と同じレベルの相手がいたら強敵だ。ハンター・キラー戦法を仕掛けられたら艤装が音を上げるか、自分が音を上げるかまで追い込まれる。

不意に姿勢が崩れた。海流の乱れだ。

火山活動が微弱ながら続いている影響なのか、この辺りではメタンハイドレートの鉱脈があるからか、海中内の海流の乱れが複雑だ。

舵とタンクを微調整して姿勢を維持して聴音を続行すると敵潜の音が聞こえにくくなった。

レイヤー(変温層)だ。深海棲艦出現後変温層に分布に違いが出ている為副次任務に変温層のデータを可能な限り集める事も指示されている。

隠密偵察と変温層調査。二つをこなす「厄介な任務」だ。

それでも一応データを収集して記録する一方で、海流の乱れで自分の姿勢が崩れた時の水切り音で位置が特定されていないかを確認する。

反応はない。ただ先ほどとは別の駆逐艦が接近してくる。三隻もいた。

ピケット艦とは別の哨戒艦隊かもしれない。哨戒艦隊配備の駆逐艦だとしたら恐らくロ級改丁だろうから対潜兵装が強力な可能性は高い。この種の駆逐艦にはトリガーは随分ひどい目に遭わされてきている。

得た海流情報を基に姿勢をうまく維持し、海流、潮流の流れに合わせる。

見つかったら隠密偵察は失敗どころか自分の命が危ない。ロ級改丁の対潜能力は一隻でも脅威なのに三隻いるのは三倍どころか三乗に等しい。

近づいて来る。気が付いた様子はないがそう見えない様にしているのかもしれない。

トリガーは冷静に待った。緊張した時の心臓の鼓動すら聞かれてしまう気がしたからだ。潜水艦娘のメンタルの強さは伊達ではない。

感度二……、

感度三……、

感度四……。

航行する推進音がゆっくりと近づく。単縦陣の様だから対潜攻撃態勢ではないとは言え油断は出来ない。フェイントの可能性は充分にある。

完全無音潜航で待ち続ける。

無音のはずの海中内に推進音三つが大きくなってくる。いつ単横陣に組み替えて対潜攻撃態勢に入るか。まったく動かないでいる自分は見つかってしまったら格好のカモだ。

それでも忍耐強く静観し続けていると、三つの推進音は小さくなり始めた。

感度四……、

三……、

二……遠ざかる……。

見つからなかったようだ。上手くやり過ごしたなと確認するとトリガーは最微速でさらに五メートル潜航して敵泊地へと向かった。

敵の潜水艦の動き、配置は緩慢だ。自分には全く気が付いていないらしい。

そう思っていた時、六つの推進音が聞こえた。今度は速い。

ソナー感度を上げて耳を研ぎ澄ませる。大型艦がいるようだ。

細い水切り音。あれは空母ヲ級のステッキ状のモノが立てる音だ。それが二つ。他に四つの推進音と水切り音。

HMDで音紋を照合するとヲ級二隻と重巡リ級一隻、ツ級三隻の空母部隊だと分かった。駆逐艦はいない。

ヲ級は軽空母と違って対潜攻撃を行う姿は確認できてはいないが、それでも油断は禁物だ。運用方針を知らない間に変えている可能性もある。

速力は二一ノット、第一戦速と同じ速さ。自分にまっすぐ向かって来る。

単縦陣だが果たして……。

空母部隊は速度を落とさないまま自分の直上を通過していった。アクティブソナーのピンガー一つ来ず、気が付いたそぶりもない。

そのまま空母部隊は去っていった。

なんとも交通量の多い場所だ。

思わず苦笑を浮かべてトリガーは先を進んだ。

敵はこれだけではない。これの百倍はいると心得ておく必要があった。

 

 

日本艦隊呉基地から艦娘の大規模作戦・外洋航行時の支援に欠かせないヴァルキリー級大型支援艦の「しだか」が到着した。

今回の作戦に当たり艦隊の規模を考慮して動員された満載排水量四万トンもある大型支援艦だ。

海兵隊が運用している空母型の強襲揚陸艦の設計を流用しており、重傷患者移送にも用いるHH60KナイトレスキューホークとCH53Kキングスタリオンをそれぞれ六機ずつ搭載している。

艦娘を洋上で発進、収容するためのウェルドックを艦尾に備えており、ドックへの注水速度は同規模の揚陸艦より早い。

艤装の修理点検整備を行える艦内工場と三〇〇人を収容可能な居住区、集中治療室も備えた医療設備、高度な通信機能も完備している。

「これを動かすのは久しぶりですね」

埠頭に係留されている「しだか」を見て明石は谷田川に言った。

「デカい艦だからな。中型支援艦の方が使い勝手がいいから、これみたいな大型艦は頻繁に使うものじゃあない」

「で、今回私もこれに乗り込めと?」

「ああ。戦闘には全く向いていなくても、この艦に乗ってみんなの艤装の整備点検修理に関わる程度はやって貰う事になったんだ。三原、桃取に後を任せておけば大丈夫さ」

そうですねと明石が頷いた時、笛の音が聞こえた。支援物資を積んだM928A2トラックと七三式大型トラックが誘導員の誘導の元ランプを使って艦内に乗り入れている。どちらもかつての在日米軍、自衛隊時代から使われている車輛だ。七三式大型トラックは自衛隊時代に一度「3 1/2t1トラック」と呼ぶようになったが国連軍に編入以降は七三式大型トラックに戻っている。

海軍艦艇は揚陸艦、支援艦以外の新造は行われていないが海兵隊では戦車や装甲車、戦闘機などの新開発は続いている。

「ああ、そうだ。君にも通達しておこうと思っていたんだけど、本部から金剛くんの最新改装指令が届いたよ」

「え、今からですか!?」

何でこの忙しい時に、と明石は酷く迷惑だと言う顔をする。

同感だと谷田川も肩をすくめた。

本部から来た金剛の新型改装指令「金剛改二丙」(Kongo AⅡ+)では研修期間と実技合わせて三カ月のカリキュラムが組まれていた。

新兵装も組み込まれている為、研修内容、期間は比較的長い。当然だが今から行っては沖ノ鳥島への攻撃作戦には間に合わない。

金剛型四姉妹は日本艦隊の戦艦戦力の中核で外すわけにはいかなかった。

「仕様書には目を通してみたんだけど、本部は金剛くんをレ級にする気みたいだよ」

「はい?」

「いや、例えさ。艤装には新装備に連装魚雷発射管と、瑞雲の運用能力が付与されていてな。瑞雲と聞いたら日向くんが反応しそうだな、あいつは生粋の瑞雲マニアだから」

「みんなからは師匠とまで言われてますよ」

苦笑交じりに明石は言った。日向の瑞雲への入れ込みは並みならぬものではなかった。

「前、アイオワくんが『マスター・ズイウン』なんて読んだ時は本気でそっちに改名しようと相談して来たな。勿論できないけど」

「『マスター・ズイウン』、ジェダイの称号みたいですよね。巷じゃ瑞雲教とか言うものまで出てちょっとびっくりしましたけど」

「いいじゃないか、息抜きになれば」

金剛が瑞雲を装備したと聞いたら日向は「瑞雲教」とやらに勧誘するだろうか。十中八九するだろう。

勧誘されたら金剛もノリノリで入って面倒事を起こすかもしれない。ああ見えて「やらかしキャラ」の一人でもある。

「それで金剛さんの改二丙って他にどんな改装の恩恵があるんですか?」

「それなんだけど、性能面ではちょっと改装と言うには割に合わない所もあるんだな。本部としては金剛くんの経験と腕がカバーしてくれると踏んでいるらしい。どちらかと言うと戦艦の艦隊決戦よりは夜間戦闘力の強化・向上仕様かな。

武本提督はあんまり乗り気じゃないけどな。何しろ艤装の装甲が弱体化しているんだ。どうしてこうなったんだか」

「金剛さんのことを本部が高く買っているとか……あんまり言いたくないですけど……金剛さんを戦艦に汎用性を持たせる為のテストベッドにする気ですかね」

「さあ、それは私にも分からない。雷装まで追加とか金剛くんには随分と苦労を強いる重武装だ。

そもそもなんだって戦艦に魚雷なんぞ。使っていない時に発射管に被弾したら敵を倒す魚雷が金剛を逆に傷つけかねない」

「ドイツのティルピッツさんがそのせいで重傷を負いましたね。助かったのはよかったけど」

「まあ、使ってみないと分からないことだらけだからな。軍隊は最新技術の実験場か? 顔の見えない敵め」

ため息交じりにぼやいた谷田川に「まあ、戦争は発明の母、って伊吹さんが言ってましたよ」と明石は返した。

それを聞いて谷田川は苦笑を浮かべた。

「シニカル・毒舌に加えてあいつはフリーダムだな。響とどっこいどっこいかもしれん」

「響ちゃんはまだマシでしょう。ハラショーの連発数とテッパチ(自衛隊時代の戦闘ヘルメットの呼び方)のつもりかは知りませんけど、鍋を頭にかぶっていたりと普段からは思いつかない事をするのが凄いですけど」

「何考えているんだか分からないんだよな、響くんは。まあ伊吹くんみたいな爆弾発言まではしないし、充分マシだがな」

伊吹の思想考えはかなり独創的、悪く言うと過激でもあるから情報部から目を付けられないか武本と谷田川などには肝を冷やすところがよくある。当の本人は知ってか知らずか、知ってても喧嘩上等で態度を変えないか。

最新鋭空母だから「解体」とかはしないと思うが……と谷田川は一瞬、ぞっとする事を思い出してしまった。

「解体」は艦娘に課すことが出来る処罰でもっとも重い判決である。

この処罰は相当な軍規違反、機密漏洩、利敵行為、誤射行為を犯した場合被告抜きでの最高軍法会議による審査が行われた後に言い渡される。

内容はシンプルだ。極刑、つまり死刑だ。

艤装は廃棄処分、海軍からは不名誉除隊となり功績、名声は全て剥奪だ。「追放処分」に極刑を追加したようなものだが適応されるのが艦娘のみと言うところで異なる。

今のところ艦娘の中に「解体」が下された者はいない。しかし谷田川は昔、一度だけ「解体」判決が出たと言う噂を聞いたことがあった。

それを裏付ける様な事として国連海軍直轄艦隊、通称「エスペラント艦隊」旗艦のベレーガモンドⅡの存在がある。

艦娘は戦死した場合名前の引継ぎは行われないにもかかわらずベレーガモンドⅡと言う引き継ぎ名が存在する。

その為、初代ベレーガモンドが何らかの違法行為で「解体」に処された可能性があるのだが、証拠がないし准将への昇進試験に失敗したせいで大佐のままの谷田川ではアクセスできる情報にも限りがあるから「一度だけ『解体』判決が出たと言う噂」以上の事は知らない。

「ああなっちゃったのって、やっぱアレですかね」

「言わなくていいよ。響には暗い話だし私も気が滅入る話だ」

「そうですね。あ、そうだ金剛さんの改二丙の仕様書後で見せてもらえますか?」

「ああ。ここでだと、確実にあいつが見ているだろうからな」

「あいつ?」

明石が首を傾げると谷田川は「この間病院で、いらんジャーナリズムを出したばかりに自分の艦隊旗艦の怒りを買って気絶させられる一撃を食らった奴、と言えば分かるだろう?」と言って溜息を吐いた。

ああ、それかと明石は思い出して苦笑を浮かべた。

 

 

口に入れた卵焼きのほんのり柔らかく、舌に広がる甘さは一口で病みつきになりそうなほど美味なものだった。

自然と頬が緩み、笑みがこぼれた。

「美味しいです。今まで食べた卵焼きの中でも一番ですね」

「ありがとう。今度もっと美味しい卵焼き焼いてあげるね」

見舞いに来た瑞鳳が愛鷹の言葉に嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「瑞鳳さんはお料理得意なのですか?」

「普通かな、でも卵焼きなら右に出るのはいないよ」

「ですよね。病みつきになりそうな美味です。ファンになりそう」

「ホント⁉」

「ええ。冗談抜きにとても美味しいですよ」

そう褒められると瑞鳳は子供の様に喜んだ。

自分の事を気にしてくれた第三三戦隊の仲間は自分が意識を取り戻したと聞くと、色々と差し入れを持ってきてくれていた。

深雪はスナック菓子、蒼月は和菓子、夕張はわざわざ取り寄せたと言う自身の名前のルーツの夕張市特産のメロンパン、青葉は自作のお好み焼きを持ってきてくれた。

嫌いな食べ物は無いからどれも問題なく食べることが出来た。

青葉は「先日は失礼しました」と言って手製のお好み焼きを持って来た。青葉のかなりの力作らしく大きなお好み焼きは結構おいしかった。

瑞鳳が今回持ってきたのは青葉のお好み焼きにはない美味しさがあった。

どこか優しく包んでくれるような柔らかさだ。この柔らかさは様々な面から言って初めてだ。

「私も教えていただけたら作ってみたいですね。料理はした事が無いので」

「へー、料理経験が無いんだ」

「サンドイッチやホットドッグくらいなら出来ますけど」

苦笑交じりに愛鷹はその程度ですと肩をすくめた。

「そう言えば愛鷹さんの好物って何だったの?」

そう聞かれて愛鷹は答えに窮した。好物の事などこれまで一度も考えた事が無かった。

そうですね、と顎をつまんで真剣な表情で愛鷹は考えた。

「敢えて言うなら……アイスクリームですね。冷たくて美味しいかな……」

それを聞き瑞鳳はクスリと笑った。何かと世話を焼いてくれた加賀先輩も機嫌が悪い時にアイスクリームを出せばすぐに機嫌がよくなった。この事を発見したのは瑞鶴で、「瑞鶴式加賀懐柔術」と言うタイトルで青葉が「艦隊新聞」で発表したことがあった。

「なにか?」

「ううん。なんだかちょっと可愛いなあって思って」

「そう、ですか……」

そう言う風に見られるのもまた初めての気がした。

ここは前にいた所と比べればずっとマシな所だ。一日三回の温かい食事とシャワー、寝心地の良いベッド、冷暖房もきちんと整っている。

何より自分の理解者がいる。

青葉はやはりため息の出る厄介さはあるが頼りになる存在で個人的には相棒として見ている気がした。

夕張は分け隔ての無い気さくな姉貴分でありエンジニアであり、本人は拒否しているがいざという時は指揮権を任せたいと思っていた。

深雪は人情深く濁りの無いまっすぐな心を持っていた。

蒼月は「能ある鷹は爪を隠す」がふさわしい程才能を秘めている。

瑞鳳は美味しい卵焼きを食べさせてくれたし、笑顔を見るととても心が和む。空母艦娘では発育が少女レベルでも中身は立派な大人でしっかりしている。

何より皆前向きに生きているのだ。過去の軛に囚われたまま自分とは全く違う。

皆、自分にとって大切な仲間であり、自分が指揮官として戦場で護らなければならない仲間だ。自分の運命に巻き込んでしまった仲間。

自分の運命に巻き込んでしまったからには、その運命で命を落とさせてはいけない。

自分の事と関係のない者を巻き添えにする事は例え自分が死ぬ事になっても避けたいことだ。

「間宮さんか伊良子さんに頼んでアイスクリーム作ってもらう? 頼めば何時でも作ってくれるよ」

「ありがとう瑞鳳さん。大丈夫です、自分で注文できますよ」

「私がご馳走したいの」

「……では退院したらお願いします」

少し迷ってから愛鷹は頼んだ。食事ごとで誰かに奢ってもらうのは初めてだ。

「今日は何か作ったのですか?」

「うーん、最近お酒にお金使っちゃって通販に充てるお金なくなっちゃって」

「……私が融資しましょうか? 私もそろそろ新しい葉巻などを買おうと思っているので」

「そう言えば、愛鷹さんって喫煙者だったね。うん、お願いします」

葉巻とジャズのCDやレコード、本以外は金をほとんど使わないし、そもそも趣味などに大量投資もしないから手元の貯金はかなりある。通帳を見てみないと分からないが軽自動車一台は余裕で買えるくらいは溜まっているはずだ。

今回の出撃で旗艦手当やら傷病手当など結構特別手当も出ている。多少はカンパしても平気だ。

「そう言えば愛鷹さん、最近愛鷹さんのあるうわさが流れてるけど聞いたことがありますか?」

「噂?」

一瞬どきりとするモノを感じるが平静を装う。まさか自分の正体がばれているのか?

そもそも誰が噂を流している? まさか青葉か? 何かと身の上を詮索してくるとは言え決定的な証拠はつかめていないはずだし、江良は絶対口外しないと約束してくれている。

怪しいと踏む心当たりは江良以外にもいるが、噂の内容自体は知らない。

一応聞いてみる。

「どんな噂なんですか?」

「私は全然信じてないけど、噂だと愛鷹さんは三笠提督の妹なんじゃないかって」

「三笠……ああ」

三笠とは戦艦三笠の事だ。

日本で最初の艦娘で艤装の改修が限界を迎えて基地防衛艦隊に編入する事すら難しい為、現在は予備役になり舞鶴基地の司令官を勤めている。

艦娘では非常に珍しい基地司令官を勤めている他に、現在在籍する艦娘では最古参の為、一部の艦娘達からは尊敬の念を受けている。

尊敬される歴戦の最古参株と言う経歴の割には性格が随分とイケイケでややずぼら、無類のカレーと酒好き、自分のイケイケな行動が裏目に出やすい「やらかしキャラ」でもあり、しかも反省しない所もあるなど色白の美人ではあるが「残念」と言う二文字が前につけられた「残念美人」となっている。

ただ予備役とは言え艦娘であり、同じ性別と言う事もあり男性提督や普通の女性海軍人より接しやすい所や昔の経験から時々母親の様に相談に乗ってくれるなど人望は結構ある。

確かに制帽、肩章付きコート、長刀、ポニーテイルと類似点はあるが、背丈ではこちらがはるかに上で肌もこっちが少し色もある。

ポニーテイルの太さもこちらが太いし、長刀も三笠がどちらかと言うと西洋風なのに対しこちらは日本刀風だ。

それに自分と三笠とは血縁関係が一切ない。それどころか会った事すらない。

「この場で言うと全く関係が無いですね。面識すらないですから」

「へえ、会った事は無いんだ。何となく愛鷹さんてきに会った事ありそうな気がしたけど」

「買い被り過ぎです」

苦笑交じりに愛鷹は返した。

時々「インテリ」などと呼ばれるが、分からなくもない呼び方だ。悪い気持ちはしないが別にいい気持ちがする言葉でもない。

一方買い被りと否定されても、瑞鳳には愛鷹はかなりの英才教育を受けている気がしていた。

足りないものは料理の経験だろう。

 

 

司令官室に呼び出されたメンバーは谷田川、長門、陸奥。ガングート、シュペー、ユリシーズだった。

武本が立案した作戦計画の確認に集まったのだ。

全員に用意されたラップトップに武本は立案した作戦計画書を転送した。

「たまげた規模ですね、こりゃあ」

腕を組んだ谷田川が言葉通り顔に驚きを浮かべて言った。

投入戦力は七八隻(七八人)にも上った。

第一空母打撃群として一航戦と五航戦の連合編成である赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴を中核に比叡、高雄、摩耶、阿賀野、朝潮、大潮、秋月、照月。

第二空母打撃群として七航戦の大鳳、黒鳳、蒼鳳、赤鳳、榛名、利根、筑摩、神通、白露、時雨、村雨、冬月。

第三空母打撃群として八航戦の雲龍、天城、葛城、笠置、霧島、那智、足柄、阿武隈、朝雲、山雲、初春、子日。

第四空母打撃群としてタイコンデロガ、バンカーヒル、アラバマ、ワシントン、スプリングフィールド、インディアナポリス、アトランタ、ジュノー、マクドゥーガル、ダットワース、フライシャー、シンプソン。

対潜哨戒任務部隊に千歳、千代田、暁、響、雷、電。

第一混成打撃部隊として大和、武蔵、矢矧、涼月、冬月、花月、伊吹、愛宕、鳥海、天霧、白雪、初雪。

支援部隊として第三三戦隊と六戦隊、熊野、鈴谷、ガングート、シュペー、ユリシーズ、金剛、陽炎、不知火、黒潮。

プラスアルファに「しだか」に乗り込む明石と大淀、仁淀の三人が加わる。

「かなりの大規模統合作戦ですね」

作戦計画書を見て長門はつぶやいた。

支援部隊の数が多いのは「しだか」が大型艦である為だろう。七八人もの艦娘の生命線になる艦だ。

編成図を見れば日本艦隊にいる主力艦娘の殆どを投入しているのが分かる。少し固定編成を崩した混成部隊になっている。

注目すべきは新編の第三三戦隊と第五特別混成艦隊を投入している事だろう。使える戦力はすべて投入する、と言うイメージがあった

攻撃作戦はまず空母部隊の航空団による航空優勢の確保、敵泊地への空爆、敵艦隊への攻撃だ。

航空優勢確保、敵泊地、艦隊の無力化を確認後に各空母打撃群は「しだか」に集結。

残敵相当の為、支援部隊と第一混成打撃部隊の大和、武蔵、矢矧、涼月、冬月、第四空母打撃群からアラバマ、スプリングフィールドが合流。

第三三戦隊から瑞鳳を外して第一混成打撃部隊に編入する形で水上部隊を編成後、航空機が飛行できない夜間に敵泊地へ突入し残敵を掃討、殲滅する。

また艦隊編成には入っていないが他に沖ノ鳥島海域に展開している潜水艦娘も含まれていた。

「夜間殴り込み艦隊か。面白い」

「敵泊地に突入して敵が残っているなら、エクセターの仇討ちが出来るな」

嬉しそうにガングートは言い、ユリシーズも「仲間の仇」を取る絶好の機会に胸を躍らせているようだ。

「しかし提督。いいのか、私は低速戦艦だ。二回大規模な改修を受けたとはいえどう頑張っても二五ノットが限界だ。足を引っ張りそうな気がするのだが良いのか?」

「問題はないよ。夜間戦闘能力も経験もそれを補えるものだと信じている」

「だといいが」

「万が一の時は私が必ずフォローするさ。案ずるな」

自身の低速を気にするガングートにユリシーズはいざという時の援護を約束した。

「航空攻撃による空爆と航空優勢の確保。当然ながら我々空母部隊も攻撃されますよね」

「ああ。だから直掩戦闘機隊は常に多数を上げて置いて欲しい。AEW機も絶やさずにだ」

「提督、私の艦隊には伊吹さんが編入されるわけですが、伊吹さんの役割は?」

編成表を見た大和が武本に問う。

「伊吹くんの場合は対地攻撃ではなく艦隊の防空任務だ。緊急時の迅速な防空援護には高速の橘花改が最適だ。

各艦隊は輪形陣を組んで対空、対潜戦闘に備える事とする。当該海域は大量の潜水艦が確認されているから、姿が見えにくい潜水艦への対応は万全にしておかないといけない」

艦隊の展開配置は前衛として四つの空母打撃群がそれぞれ二キロの間隔にて複縦陣態勢で展開し、その後方二キロに第一混成打撃部隊と対潜哨戒任務部隊が。

最後尾は支援部隊が第一混成打撃部隊と対潜哨戒任務部隊の後方一〇キロにと言う展開だ。

「今回の作戦では各空母はアルファーストライク(空母航空団所属機の全力出撃)となる。徹底的に敵泊地を破壊し沖ノ鳥島海域における奴らの拠点と、巨大艦ス級を壊滅・殲滅させるのが本作戦の目的だ。

出撃に当たり今日の一〇:〇〇に運動場に作戦艦娘を全員招集して内容を伝達の後一八:〇〇に『しだか』に乗艦、出港。沖ノ鳥島海域に展開する。

谷田川君には『しだか』で前線作戦司令官を担当してもらうよ」

「了解です。デカい仕事になりそうですな」

「准将に昇進するきっかけにもなるんじゃないかな?」

「ありですね」

そう言って谷田川はケタケタと笑った。

作戦計画書を読んだシュペーがおおよそ掴んだ、と言う様に手を打ち合わせた。

「やる事は速めに始めておきましょうか」

「ああ。さっそく仕事にとりかかろうか」

午前一〇時に作戦に参加する艦娘八一人が揃えられて武本の口から作戦内容の伝達、作戦計画書の配布、出撃準備の指令が下された。

 

 

久々に戻って来た自室でジャズを聴きながら愛鷹は本を読んでいた。

本のタイトルには「人とは自分を映す鏡」と書いてあった。著名な哲学者の書いた本である。

哲学者の書いた本によると、「人とは互いに自分と言う物がどのように見えているのか」=「自分は相手からどのように映っているのか」を「鏡に反射する」事に例えていた。

例えの話では「ある兵士が仲間の兵士を殺した」事を「普段からの恨みから戦場のドサクサに紛れて殺したのか」「もう助からない傷を負っていて、これ以上苦しませない為に楽にさせたのか」とただ「殺した」と言うだけではその行動に至った者が何を思ってそうしたのか、当事者ではない第三者から見ると意見が分かれる事が「人とは自分を映す鏡」に当てはまると書いていた。

難しい内容だが愛鷹はこういう内容の本が昔から好きだった。

人生観の書物はこれから先生きていくうえで役に立つことが多く書いている。果たして自分がこれからどれくらい生きていけるかは分からないが、読んで損はないはずだ。

生きる事、人と言う物、それが愛鷹の興味分野の一つでもある。自分たち人間はなぜ生まれ、どこへ行くのか。何の為に生まれ、何の為に死ぬのか。

調べる事、探すことは飽くことなく続ける事こそ楽しいものだ。人によってはそれで自分の存在意義と言う物が見えてくるのだ。

「戦争は人が一番自分と言う物がどう相手に映っているかが分かる是公の機会」と言うところまで読んでいた時、自室のドアがノックされた。

誰かと思い本を閉じて、ヘッドセットを外すと「はい」と答えた。

「青葉です。愛鷹さん、提督が運動場に艦娘の招集をかけています。第三三戦隊も召集がかかったのでお知らせに来ました」

「分かりました。今行きます」

机の上に置いていた制帽を被り、コートを羽織って、靴を履くと部屋を出た。

ドアの前に青葉が待っていた。コートの下の服装に少し驚いた眼になる。

「愛鷹さんって普段から第二種正装なんですか?」

「ええ。そうですよ」

「大淀さん、仁淀さん、明石さん、三原さん、桃取さんと同じですね」

「ネクタイやスカートの形は違いますよ」

そう返した愛鷹はコートのボタンをはめてベルトを締め、青葉と共に寮の廊下を歩いた

第二種正装は艦娘に支給される制服で大淀型と香取型の来ている物は若干デザインに差はあれど同じ第二種正装だ。

第一種正装は海軍制服らしい純白だ。スカートとズボンの二種類があり選択可能である。第一種正装の方を艦娘が着ることは殆どない。

略装がセーラー服で駆逐艦娘ではこれを普段着にしているのもいる。深雪の普段着はこの略装だ。

愛鷹のコートは実は二種類あり青い物と白い物がある。普段来ているコートは白だ。袖には三本の金線が入っていてこれは中佐階級を示す袖章だ。

この間の海戦で酷くボロボロになったが愛鷹がすでに修理済みだ。

「そう言えばコートは新品を買ったのですか?」

「自分で直しました」

「裁縫できるんですか」

「出来ますよ。編み物だってできます」

「へえ、どんなものが出来るか今度取材……」

あ、拙い、またやってしまった! 青葉は自分が墓穴を掘ったことに気が付いた。直後喉元に愛鷹の左手が伸びたかと思うとそのまま掴みあげられて壁に叩きつけられた。

「取材はお断りです……何回言わせます……?」

もうしません! と青葉は言おうとしたが物凄い握力で首を絞められている上に足が宙を浮いている。

すると流石にやり過ぎたか、と愛鷹も思ったらしくそっと降ろして手を放してくれた。ぜえぜえと息をする青葉に短く「すいません」と言った。

「こ、こちらこそ失礼しました」

線は細いのに物凄い力です、と愛鷹の体力に青葉は驚いたが「艦隊新聞」に載せようと言う気持ちが沸く事は無かった。

 

 

運動場には大勢の艦娘が集まっていた。

「おお、凄い数ですねえ」

「この数からして、提督はどうやらやるようですね」

「沖ノ鳥島海域への出撃ですね。空母が二〇人も。あ、熊野と鈴谷もいるから実質二二人ですね」

熊野と鈴谷は重巡だが任意で水上機運用能力強化艤装の航空巡洋艦仕様と、攻撃型軽空母艤装の二種類の改二艤装を選択できる。

航空戦力による空爆で敵の戦力を壊滅させるという訳か、と愛鷹は投入される空母の数を見て作戦内容を想定した。

しかし大和と武蔵などの姿を見て水上打撃部隊による艦隊戦も視野に入れている事も分かった。今の時点でス級に対抗できるのは大和型程度だ。

もっとも、どこまで対抗できるか……。

部隊事に並ぶ必要などは無いらしく、それに一〇時までもう時間は無かったので愛鷹と青葉は適当な場所に立った。

結構な顔触れがそろっている。北米艦隊からかなりの戦力を借りている様で一個機動部隊編成分がいるようだ。

午前一〇時、武本が谷田川と長門、陸奥を連れてやってきた。谷田川と長門、陸奥は全員分のモノらしい作戦計画書の束を持っている。

それまで私語をしていた艦娘達が一斉に静まり返り、直立不動の姿勢をとった。

仮設の演台に立つと持っていたタブレット端末を見ながら武本は作戦計画を発表した。

作戦名は沖ノ鳥島攻撃作戦とシンプルだ。

攻撃目標は沖ノ鳥島海域における深海棲艦の前線展開泊地棲姫と施設、敵艦隊、そして巨大艦ス級への攻撃、壊滅させることだ。

特にス級は重要目標となっていた。容易ならざる敵であると言う事が武本の口から語られると一同にざわめきが広がった。

勝てるのかそんな強敵に、という不安だ。しかし皆でかかれば活路は開けると言う武本の言葉を信じてみる事にした。

武本は攻撃作戦に参加する空母打撃群五群、混成水上打撃部隊一群、対潜哨戒任務部隊一個、支援部隊一個の編成を発表した。

愛鷹は第三三戦隊と戦艦ガングート、金剛、装甲艦シュペー、重巡古鷹、加古、衣笠、軽空母熊野、鈴谷、軽巡ユリシーズ、駆逐艦陽炎、不知火、黒潮からなる支援部隊旗艦となっていた。かなりの大役だ。六隻の第三三戦隊とは大きく違う。

「おお、六戦隊のみんなと一緒に戦えるんですねえ。熊野と鈴谷とも組めるんですか」

「ガングートさんと一緒に組むのは初めてですね……。しかし支援部隊旗艦が私ですか」

嬉しそうに言う青葉とは対照に若干の戸惑いを愛鷹は浮かべた。

さらに作戦内容の伝達も行われる。

航空攻撃に際して第一次攻撃隊は戦闘機のみとして敵泊地、艦隊の迎撃戦闘機隊排除(ファイター・スイープ)を行い、場合によっては第二次攻撃隊も戦闘機のみで出撃して敵艦隊の防空戦力を削ぐ。

空母航空団は稼働機を総力出撃させるアルファーストライクで敵泊地と艦隊を攻撃。

徹底的な爆撃を行い泊地の残敵は支援部隊に第一混成打撃部隊の大和、武蔵、矢矧、涼月、冬月、花月、北米艦隊からなる第四空母打撃群からアラバマ、スプリングフィールドを編入した水上部隊が担当する。

この時に熊野と鈴谷、瑞鳳は支援部隊から外され、「しだか」の担う支援部隊任務は後退した空母打撃群が行う。

支援部隊とアラバマ、スプリングフィールドを組み込んだ第一混成打撃部隊は旗艦を大和に変更して、夜間の敵泊地に突入し残敵の掃討戦に当たる。

先の大規模空爆で父島が基地機能を喪失している為、大型支援艦「しだか」が移動拠点だ。

「大和に旗艦を委譲……。まあ、理にかなってはいますけど」

「何か問題でもあるんですか?」

「いいえ。ありません」

そう返す愛鷹だが青葉は何かしら愛鷹から複雑な気持ちを感じていた。

武本は「しだか」の展開海域までの護衛部隊の編成を発表して長門と陸奥に艦娘向けの作戦計画書を配布させた。

「今夕一七:四〇までに『しだか』に乗艦。一八:〇〇に『しだか』は出港し、展開海域までは先に示した護衛部隊が護衛する。

撃沈・戦死・大破進撃は一切認めない。必ず帰ってくること以外は許可しないからな。全員必ず生きてここに帰ってくるんだぞ。約束だ」

はい、という七八人分の返事が返された。

 

 

それから出撃が決まった艦娘達は私物を纏めて「しだか」に乗り込み、さらに自分たちの艤装の搬入も行った。

遠足気分ではしゃぐ艦娘が何人かいたが、それは緊張を解くためであるのは誰もが承知していたから咎める者はいなかった。

明石の監督の元トラックに積まれた艤装や弾薬が「しだか」に積み込まれ、それらの作業に作業員だけでなく艦娘達も手伝った。

輸送ヘリHH60KとCH53Kも搭載され、準備が順調に進んだ「しだか」は日が傾きはじめた一八:〇〇時に武本や長門らに見送られて出港した。

護衛には千歳、千代田、矢矧、涼月、冬月、花月、第五特別混成艦隊が最初についた。

日が暮れたその日の夜。愛鷹は退院してから初めての喫煙を艦尾のキャットウォークでしていた。

葉巻を吸いながら遠ざかる日本の明かりを見つめ、これが見納めになる仲間が出ることにならない様に自分は努力する以外できる事は無いと言い聞かせた。

右手の水密扉が開いたかと思うとガングートが出て来た。パイプを吸いに来たらしい。

先客に気が付いたガングートは愛鷹に微笑した。

「やはりここにいたか」

「ここ以外にありませんから」

パイプに火をつけたガングートはポケットに手を突っ込んで愛鷹に話しかけた。

「貴様と初めて組むことになるな。旗艦任務に関しては重圧もあるかもしれんが、その時はこのガングートに相談してくれ。いや、私に限らず旗艦として先輩になる奴は支援部隊には大勢いる。青葉もそうだし、瑞鳳や夕張もそうだがな。私ならいつでも相談に乗る」

そう言われた愛鷹は葉巻の煙を口から吹いてから少し気になっていたことを訪ねた。

「ガングートさん、お聞きしたいことがあるのですが?」

「なんだ?」

「なぜ、そこまで私の事を気にかけてくれるのですか?」

するとガングートは何食わぬ顔で当たり前の事だと言う様に答えた。

「苦労する仲間を気にかける事に理由はいるまい?」

その言葉は胸に少し暖かく来るものがあった。

 




今回は夕張、深雪、蒼月の直接登場は削りました。
その代わり前回登場した潜水艦娘トリガーくんの登場です。
彼女の耳の良さの特徴には一部ネタも。また視界の利かない海中で目をどうしているか、と考えた結果HMDの登場となっています。

艦娘提督として登場した三笠ですが彼女の人物設定こそ私のオリジナルですが、キャラデザイン自体はMMDモデルとして実在し複数の動画に登場しています。
ただし有志の作成した架空モデルで公式キャラではありません。

今回脇役メカに「しだか」、HH60Kナイトレスキューホーク、CH53K、M928A2、七三式大型トラックなどが登場しますが「しだか」はモデルがアメリカ海軍ワスプ級強襲揚陸艦、HH60Kは現行のHH60レスキューホークの改修型と言うところでは架空メカですが、他の三つは現在も現役の実在兵器です。

金剛改二丙の実装に伴い、今後の彼女の立ち回り、活躍物語への関わり方が固まり一安心しています。青葉も来て欲しいですが。
艦これでは「解体」の要素がありますが、今作では一人の人間であることを前提(と言うより艦娘は「世界に一つだけの花」の存在が私の「個人的見方」)で、現状終身軍人である艦娘には解体がどういうものに値するかを考え、「個人的に艦娘の命を殺めているような気分」からでた結果が「解体=極刑」設定に至りました。

沖ノ鳥島攻撃作戦には大量の架空艦娘もいますが実装艦娘を含めても劇場版を上回る数が登場します。一度に全員分の描写は難しいので追々描写していきます。

「人とは自分を映す鏡」、これはエースコンバット7の「ハーリングの鏡」が由来で、生まれた時からこの先色々悩みを抱えていく愛鷹(大切な存在と言えど青葉もなかなか彼女には悩みの種です)の読む本の題材となりました。
幾つかの細かい設定や名称に公式には無いモノがありますが、それらは私の創作です。
因みに鍋を被った響くんですがこれは勿論アニメ第六話での響の奇行(?)「フリーダム響」からです。

次回、沖ノ鳥島攻撃に向かった艦娘達はかつてない熾烈な艦隊戦に叩き込まれます。
その時愛鷹がどう動くかも書き手の楽しみであります。
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