艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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沖ノ鳥島海域を巡る艦隊戦のスタートです。
この艦隊戦がどう転ぶか、読んでお楽しみを!


第一二話 沖ノ鳥島海域艦隊戦 前編

深度二メートルにまで浮上したトリガーは艤装から潜望鏡を上げてHMDに潜望鏡のカメラ映像をリンクさせた。

深海棲艦の泊地には大きな動きはない。相変わらず多くの艦艇が行きかってはいるがそれ以外は普通だ。

出来るだけここにとどまって敵の情報を味方に伝えるつもりだ。

その為に何度か浮上して酸素を補給したり、レーションの栄養ゼリーを食べた。

今浮上しているうちにも少しでもタンク内の酸素を補充すべくシュノーケルも上げている。

(敵艦隊の数に大きな変化はないか)

潜望鏡を回しながらトリガーはそう思いつつ、微速でもう少し敵泊地に近づいた。

すると泊地に大きな影が見えた。整備補給中のス級の艦影だ。

自分よりはるかに巨大なス級は補給艦や工作艦に囲まれて整備中だ。

その状況を潜望鏡で観察していたトリガーは信じられないものを目にした。

(ス級が……一隻増えている!?)

昨日までは三隻だったス級が四隻に増えていた。しかも四隻中二隻は整備が済んでいるのか何時でも出撃できる即応状態にあった。

これは一大事だ。味方はス級の数が三隻だと言う事しか知らない。

一刻も早くこの事を友軍に知らせなくてはならない。攻撃を仕掛けてもス級を一隻でも取り逃がせばこちらが流す血の量が膨大な数になる。

しかし、トリガーはこの場で緊急通報を送ることが出来なかった。

トリガーがいるのは敵の泊地のど真ん中だ。今通信を打つと逆探されて群がる敵潜水艦と駆逐艦の集中攻撃を受けてしまう。

だが一刻の猶予はない。潜望鏡を下ろし、深度二五メートルまで急速潜航し可能な限りの速力でその場を離れた。

しかし敵に見つからないように動くとなるとどうしても速度が出せない。もどかしい限りだ。

急がないと、と思っているとソナーに反応が出た。

ヨ級改、コンタクト!

こんな時に、とHMDを睨みつける。恐らく哨戒の潜水艦だろう。

迂回している暇が惜しいが、このままではどのみち戦闘は避けられそうにない。

排除してでも行くしかない。ヨ級を沈めればすぐに仲間が様子を見に集まるはずだ。

囲まれる前に片付けて離脱する必要もある。

手早くやるしかない。

雷撃戦用意、機関停止。前後バラストタンク水平を維持。

惰性で進みながら進路をヨ級に向ける。

方位二-九-五、深度二三、敵速一二ノット、敵針一-九-七、距離は五七〇。

発射用意雷数は六発、うち二発を撃つ。

計算した射撃諸元が魚雷の弾頭に送り込まれる。

潜水艦、洋上艦問わず艦娘が使う魚雷は昔の様に直線撃ちか、あらかじめセットした簡単な機動しかすることが出来ない。ホーミング魚雷は技術的な観点からまだ試作すらできていない。

必中を狙って撃つしかない。時間をかければかける程こちらが不利だ。

ヨ級がこちらに気が付いた様子はない。鈍いのか、もう知っていてこちらが動くのを待っているのか。

周囲を確認するが仲間がいる様子はない。水切り音もない。

やるなら今しかない。

魚雷の発射準備が整うと、トリガーはタイマーをセットした。

(発射時機、カウント一〇秒、スタンバイ)

魚雷の発射準備が整うとトリガーは魚雷を発射する構えを取った。

(三、二、一、ファイア!)

魚雷二発が発射されると同時にあらかじめ計測した予定命中時間に合わせてタイマーがスタートする。

二発の魚雷が馳走を開始する。音から問題なく動いているようだ。

直ぐにやられる相手ではないだろう。二発の魚雷には直ぐに気が付くはずだ。

二射目を用意する。射撃諸元はヨ級の動き次第だ。

動いた。魚雷二発に正対するように舵を切りながらダウントリム二五度で潜航していく。まだこちらの位置は把握していないはずだが発射位置をトレースすればいずれわかるだろう。

機関始動、増速黒。一五ノットへ。

面舵一〇、右側面に回り込んで射撃位置を確保する。

敵潜ヨ級は増速してトリガーと同じ一五ノットに。深度三〇メートルで水平に移る。

その間にトリガーは右側面へと移動し続ける。だがヨ級も回答してこちらに向きつつある。気が付いたようだ。

魚雷発射準備の動作音が聞こえる。向こうも射撃体勢に入っているようだ。

どちらへ向けて撃つか、どれくらいの魚雷を撃ってくるか。ヨ級の動きを図りながら動いていると三発分の魚雷発射音が聞こえた。

予測軌道をHMDが算出して表示する。セオリー通りならこちらに向かって散開斉射のはずだ。

あくまでセオリー通りなら……。

魚雷の機動を聞き続けていると、散界斉射であることが分かったが、初弾は前方上方、二弾目は初弾よりやや右手を平行、三弾目は初弾、二弾目のやや中間を下方に向かって来る。

考えたな、と思いながら機関を停止、次いで逆進をかける。騒音、水切り音など音が大きくたつが致し方ない。

初弾がこちらに位置に到達するまで一七秒、そのあと二弾目と三弾目が三秒ずつ遅れて来る。

ヨ級改へ射撃体勢を取るべく面舵に切る。バックして進路を変更する形だ。

同時に前部タンクに注水、後部タンクを排水し前傾姿勢を取り少しでも魚雷の射撃がしやすい体制をとる。

ヨ級改はこちらの位置を窺いつつ、撃った分の魚雷の再装填と残る三発の射撃諸元を計算中の様だ。

しかしそのタイミングをトリガーは逃さなかった。

ヨ級改の位置を特定、正確な位置を算出し第二射の二発の魚雷を用意する。向こうが撃ってくる前に撃たねばならない。

もどかしさを感じながら魚雷の準備完了直ぐに射撃体勢を取る。

トリガーが二発の魚雷を発射するのとヨ級改が三発を発射するのはほぼ同時だった。

メンターンブロー(メインタンクブロー)の指示を艤装に出すと、急速浮上。魚雷をかわす。

こちらの魚雷はヨ級改へとまっすぐ向かって行く。かわそうと動き出すが遅かった。

一発は逸れたがもう一発がヨ級改に命中した。

海中内に爆発音が響き、衝撃波が走る。

艤装が破壊される音を聞いたトリガーは長居無用と前進原速に加速し、一気に離脱にかかった。

一刻も早く、仲間にス級の増援が来たことを知らせるために。

 

 

作戦海域到達を翌日に控えた「しだか」の夜の飛行甲板上を散策していた深雪は背の高い人影がキャットウォークに立っているのを見つけた。

誰だろうかと思い近づく。

「そこにいるの誰だい?」

「深雪さんですか?」

大和だった。長いポニーテイルを潮風になびかせながら海を見ていたようだ。

時々大和も海を見ていることがあったな、と深雪は大和がここにいる理由を推測した。以前聞いた話では海を見ていると心が落ち着くとか言う理由だった。

海軍の人間、船乗りは海を見ていると心が落ち着くと言う話はよく聞くから珍しい話ではない。

「海を見ているのか」

「ええ。生きて帰ることが前提とは言え、いつ砲火に倒れるか分かりませんから。こうして戦いの前に海を見ておくと緊張がほぐれるんです」

「ふーん。まあ、そうだな」

最近測って無いのでいくらあるのか分からないが大体一五〇センチほどの深雪に対し、大和の背丈は三〇センチ以上上に見える。

デカけりゃいいってもんじゃないけど、大和は一体何を食ったらそこまで大きくなれるんだ? 深雪は大和の背丈と胸部を見ながら思った。

大食いとよく言われる大和だが、別に揶揄される程の量を食べているわけではない。

普段からごく普通の定食を食べている。ただし基地で開かれる大食い対決では必ず出場するし、疲れるとご飯のお代わりを五回もしたことがある。

発育停止が無けりゃ、あたしも結構背は伸びたかな? そう思っていた時、深雪は暗がりの中でうっすらと大和の頬が赤くなっているのに気が付いた。

何で赤い? 一人で海を見ているところを見られて恥ずかしいのか? それとも少し風邪気味か。

「頬っぺたが赤いけど大丈夫なのかい?」

「え、赤くなっていますか?」

驚いたと言う顔で大和が逆に聞いて来る。意識していない内に赤くなっていたのか。

「風でも引いているんじゃねえのか?」

「いえ、くしゃみも咳も熱もありませんよ」

「それがあぶねえんだよ。自覚症状が無い状態が病気の重症化につながるんだ。大和は旗艦だろ、今日はもうベッドに入って寝ちゃいなよ」

「ええ。でももう少しだけ、ここにいさせてください」

「あいよ……」

本当に大丈夫なのか? と思いながらもキャットウォークの手すりにもたれて深雪も海を眺めた。

月灯りが煌々と海を照らしていて、眼前には普段見られない夜景が見える。

「静かだな……。ただ不気味な静かさじゃあない」

「ええ。嵐の前の静けさでもなく、ただ穏やかです」

「ああ。これからド派手にやるってのに緊張感が出ない」

「今のうちにリラックスしておくべきですよ。気持ちも軽くしておくと戦場で迷いも浮かばなければ雑念も出ません」

「ま、そうだな」

暫く海を見ていたが深雪は少し話でもしたいと思い大和に他愛もなく尋ねた。

「最近、吹雪はどうしてる?」

「吹雪さんですか? とても頑張っていますよ。改二になってからとても強くなってます」

「改二か。あたしも改二になりたいな。長一〇センチ砲使いてえ。あれなら今使っている連装砲より対空射撃もしやすいし、装薬の爆圧もいいから水上射撃にも十分使えるし、速射性も凄いからな」

「その内、深雪さんも改二になれますよ」

「その前に死にたくはないな」

手すりの上に頬杖をついて深雪は呟いた。死ぬ気はないが何が起きるのかが分からない戦場では、誰でも自分が思いもしない時に命を落とす。

これまで先に散っていった仲間たちも、多くが「自分は死なない」と信じて、あえない最期を遂げて来た。

運命のたどり方は皆等しく、死も対等に降り注ぐ。ここは人間も深海棲艦も同じだ。そしていずれ死するのが人間だ。

一度死にかけたことがあるだけに、深雪も「死」と言う物は恐ろしかった。特に孤独な死ほど恐ろしい物はない。

「そう言えば、深雪さんの上官の愛鷹さん。どんな方ですか?」

ふと思い出したように大和が聞いてきたので深雪は腕を組んで少し考えてから答えた。

「一言で言うなら思慮深い、かな」

「思慮深い」

「ああ。他にもタフだったり物知りなインテリだったり」

インテリと言う例えに大和が笑った。深雪も苦笑いを浮かべた。ちょっと変な例えかなあなどと考えた。

「でもすごい奴なのは確かさ。瑞鳳を護る為に身代わりになって左腕を骨折しても護りきるし。その状態で水上戦闘までやってのけたんだぜ」

へえ、と大和は感心したように頷く。

「他にもタイプライターを慣れた手つきで打ったり、刀で敵弾をぶった切ったりとかさ。すげえよアイツ、どういう教育を受けてたんだか」

「英才教育ですね」

「だろうな。そうでも無けりゃあれだけの技術スキルは手に入らねえ。あとなんか随分とシャイなんだよな」

「シャイ?」

首を傾げる大和に深雪は愛鷹と出会ってから今日まで愛鷹と話した時の出来事からの出来事を抜粋して大和に説明した。

「いっつも制帽は目深でさ。目元から上を見たことが無いんだ。だからどんな容姿かはたぶん誰も知らない。コートも着たまんま。大和並に背丈がデカいのは一発で分かるけどなあ。あたしもそれくらいでっかくなりたかった。

そう言えば、なんか持病を抱えている様でさ。初めての演習の時なんか無理したのか血吐いたんだぜ。錠剤飲んで抑えているみたいだけど」

吐血していると聞いて大和の顔が青くなる。

それを見てやばい、ショッキングな話をした、と深雪は遅い後悔をした。戦場で重傷を負って血反吐を吐く艦娘は少なくないし、そのまま命を落とした者もいる。

御免と深雪が詫びると、大和は気にしないで下さいと無理矢理笑って取り繕った。

するとそこへ「しだか」のモノではない煙の臭いがした。

「ん、なんだこの臭い?」

「葉巻じゃないですか、この香りは。前に嗅いだことがあります」

「大和って葉巻吸うのか?」

「いえ、『ホテル』なだけに海軍高官の人が吸う葉巻の香りを嗅いだことがよくあったので」

大和自ら禁句の「ホテル」の名を持ち出すのは随分と珍しい。大和が使う時は大体自虐ネタである。

「まあ、吸ってるとしたら……多分愛鷹じゃね? どっかで海を見ながら吸ってんだろーさ。あいつ愛煙家みたいだから」

「……ガングートさんと息が合いそうな趣味ですね」

「いや、なんか仲良いみたいだよ。ガングートの方から接して来たみたいだ」

二人のいる場所からは見えないが、実際にこの時愛鷹は艦首で一人葉巻を吸いながら海を眺めていた。

何も考えずに海を見つめる。何も考えないだけのはずだが、愛鷹にはこれが至福の時間でもあった。

白いコートと長いポニーテイルを潮風になびかせながら、見る夜の海は美しかった。

何も考えないはずの頭の中に、明日の夜、明後日の夜にもこの海を見る事は出来るのだろうか、と不安交じりに思った。

「しだか」は明日作戦海域に到着し、沖ノ鳥島海域攻撃作戦が開始される。

大規模戦力の敵と戦うのだから熾烈な海空戦が待ち受けているのは間違いない。

その時、だれ一人死なずに生きて帰れるのか。

その不安が脳裏に浮かび、消える事は無かった。

 

 

また爆発が海中内で起き、爆圧がトリガーを翻弄した。

離脱を図っていたトリガーはロ級改丁一隻に遭遇して激しい爆雷攻撃を受けていた。

爆雷の雨の前に防護機能は飽和状態寸前だ。これ以上は危険だった。

だが何よりトリガーを焦らせらせ始めていたのはス級の増援が来たことを知らせられていない事だった。

悪態をつきながら潜る浮上するを繰り返して、爆雷の爆発の致命打をギリギリで躱し続ける。

もどかしい! ただその一言ばかりがトリガーの口から何十、何百回も吐き出された。

 

 

数時間後、トリガーはロ級改丁を振り切ったが通信アンテナを損傷してしまい増援がいる事を知らせる術を失ってしまっていた。

こうなると直接味方と接触するしかなかった。

調子の悪くなったモーターを宥め宥めに動かして、味方艦隊の来る方向へとトリガーは針路をとった。

 

 

翌朝、〇七:〇〇。

沖ノ鳥島海域攻撃作戦が開始された。

(艦首、針路固定。後部バラストタンク注水完了を確認)

(五分隊全要員のウェルドックからの退避完了を確認)

(警報鳴らせ。ウェルドック、ハッチ解放。艦娘、出撃位置へ!)

黄色い警告灯が点滅し、警報音が鳴り響く中「しだか」のウェルドックのハッチが開かれて海水がドック内に流れ込んできた。

(ウェルドック、注水確認、一航戦、五航戦、出撃せよ!)

先発の艦娘達が出撃の許可が出ると出撃申告をして次々に出撃していった。

ドック内の作業員と明石が手を振り歓声を上げて見送る。大淀、仁淀、谷田川は「しだか」のFIC(旗艦用作戦指令室)にいるのでここにはいなかった。

支援部隊の出撃は最後だった。

「重巡熊野、推参いたします!」

「最上型重巡鈴谷、いっくよー!」

「ほな、黒潮。いっきまーす!」

「陽炎、出撃しまーす!」

「不知火……出る!」

「重巡古鷹、出撃します!」

「加古、出撃ィ!」

「青葉型重巡衣笠、出撃します!」

「戦艦ガングート、出るぞ! ウラーッ!」

「軽巡ユリシーズ、出る!」

「装甲艦アドミラル・グラーフ・シュペー、抜錨する!」

「特型駆逐艦深雪、出撃するぜ!」

「航空母艦、瑞鳳。抜錨しちゃいます!」

「軽巡夕張、出撃!」

「秋月型駆逐艦蒼月、行きます!」

「青葉、取材、あ、いえ、出撃しまーす」

「この戦いの後も……またテートクとティーが飲みたいネ。戦艦金剛、行くデース!」

最後に出撃したのが愛鷹だった。

(支援部隊旗艦愛鷹。出撃シーケンスに移行、ウェルドック針路確認OK。出撃を許可する)

ウェルドックのドック内管制指揮所から出撃許可が出ると、発進口上部にあるライトが黄色から緑になった。

タブレットはすでに服用済み。長丁場に備えて少し多めに飲んでいた。勿論予備も忘れずに持っている。

深呼吸をした愛鷹の頬を何かが突っついた。愛鷹が見ると明石が手配してくれた装備妖精さんが肩章の上でグッドサインを出していた。艤装に異常なしのサインだ。

ドック内右手のキャットウォークで青い作業服の上に黄色いベストとヘルメットを被った出撃士官が片膝をついて右手をハッチの方へと伸ばした。

「グリーンライト確認……支援部隊旗艦超甲巡愛鷹、出る!」

主機が始動し、前進強速に一気に加速した。

愛鷹がウェルドックを出ると「しだか」はドックのハッチを閉鎖しバラストタンク内の海水を排水した。

出撃した艦娘は各自作戦通りに艦隊と陣形を組むと次々に作戦海域の前線へ展開していった。

 

 

(こちらAWACSスカイドッグ、展開した各艦隊へ。これより本機が『しだか』と貴艦らの指揮の中継、警戒監視に当たる。よろしく頼む)

艦娘達のヘッドセットに「しだか」から発艦したEP6Bカタリナアイ空中管制機のコールサイン、スカイドッグから通信が入った。

「AWACS、ちゃんと上から見ててくれよ」

深雪がスカイドッグに言うと(了解だ)と返って来た。

四群の空母部隊から彩雲偵察機、SB2Cヘルダイバー偵察機が次々に発艦し、敵艦隊捜索と敵泊地の状況偵察に出撃した。

今回の作戦は隠れっ子なしの艦隊同士のぶつかり合い、艦隊決戦だ。

弓やクロスボウ型カタパルト、ライフル型カタパルト、巻物型飛行甲板から偵察機が発艦していく。

(空母打撃群総旗艦赤城より各空母打撃群へ。第一次攻撃隊の発艦準備に入られたし)

赤城の指示通り、各空母艦娘は戦闘機隊の発艦準備を始めた。

一方支援部隊は「しだか」を中心に輪形陣を展開して、主力の部隊の後方に展開していた。既に愛鷹から「対空、対潜警戒厳に」が発令されている。

「敵艦隊はいつ来きますかねえ」

無線を聞きながら青葉が聞くと衣笠が応えた。

「これだけの規模なんだから、すぐに分かるでしょ」

「そだねー。直掩機ありったけ上げといた方がいいかもね」

そう言って鈴谷が烈風を装填した矢をクロスボウ型カタパルトから撃ち出した。

「艦隊旗艦、主砲に装填するのは?」

ガングートが悪戯っぽく笑って愛鷹に聞いた。

「三式弾です」

「だな」

全員が主砲に対空弾の三式弾改二を装填し、機銃を装備している者は機銃も用意する。

「三式装填よし!」

支援部隊各員からの報告に頷いた愛鷹はパッシブソナーを確認した。

反応はなかったが、あれだけの大規模潜水艦隊がいたのだから気を抜くことは出来ない。

今日は長い日になりそうだな……。

 

 

「オータス1、2。間もなく敵泊地の防空圏予想区域に突入します」

「第四空母打撃群のダッグ2、未だ敵艦隊とのコンタクト無し。シーガル、ピューマ、ジャガーもコンタクトはありません」

「千代田より入電。リーパー隊からの定時報告では異常なし。千歳のハンター2-1も同じく」

FICの管制員たちの報告に谷田川は今のところは敵さん見ずだな、と腕を組んで聞いていた。

「第二空母打撃群旗艦大鳳より入電。我索敵第二陣を発艦せり。アイボールはビンゴ・フューエルにつき帰投する」

時計を見ると作戦開始から早くも一時間が経過していた。

「敵泊地の防衛体制はどうなっているんでしょうね」

コンソールから顔を上げた仁淀が不安げに谷田川に聞く。

「相手は前線展開泊地棲姫だから、相当な物でしょうね。不安?」

姉の大淀に聞かれた仁淀が頷くと「大丈夫、お姉ちゃんがいるから」と大淀は笑みを浮かべて返した。

「オータス隊、敵泊地防空圏に侵入。未だ会敵は無し」

その報告が上がった時、管制官の一人が「コンタクト」と告げた。

「タイコンデロガのセイバー2-6が敵機動部隊を発見、ヲ級一、ヌ級一を中核とした艦隊の模様。セイバー2-4から入電。我、敵機動部隊発見、ヲ級二隻、戦艦タ級一隻を含む護衛艦艇の部隊の模様」

谷田川が反応した。大淀に「二群の位置は?」と問う。

「はい、二つとも敵泊地の北西、三四キロです」

「もっと展開しているだろうな。泊地防衛にこれだけの戦力しか当てて無いわけがない」

そう言った時、続報が次々に入って来た。

「シーガル1が敵艦隊を捕捉。ヌ級二隻を中核としています。護衛はネ級改、リ級の他に駆逐艦」

「ジャガー4もコンタクト。タ級三隻、ネ級改一隻、駆逐艦二隻を確認セリ」

「ダッグ3、敵艦隊を発見。ヲ級二隻、ツ級三隻、駆逐艦一隻の模様」

その後、上げられた報告を集計していくうちに仁淀は背筋が冷えていくのが分かった。

確認されたのは空母ヲ級ないしヌ級など二隻の空母を中核とする空母部隊が一〇個、戦艦中核の水上打撃部隊が二個、計一二個の艦隊だ。

空母は戦艦部隊随伴を含めて二二、戦艦は空母部隊随伴を含めて一〇……。重巡、軽巡、駆逐艦はそれ以上にいた。

これだけで敵は七二隻もいる。しかしス級はカウントしていないし泊地防衛艦隊の数も把握できていない。

嫌な予感しかしないと思っているとオータス隊から報告が来て仁淀は思わず息をのんだ。

「泊地防衛艦隊は戦艦七隻、空母一〇隻、随伴、哨戒艦隊などおよそ五〇余隻を確認」

報告する大淀の声自体もやや上ずる。だが谷田川は敵艦隊の数は気にしていなかった。彼が気にしていたのは別の事だった。

「敵泊地にス級は確認できたのか?」

「現在確認中です」

管制官の一人が返す。

そう言えば、と大淀と仁淀は顔を合わせあった。敵泊地にス級がいたと言う報告は聞かない。

「こちら『しだか』FIC、オータス隊、ス級は確認できたか?」

(こちらオータス1、ネガティブ。ス級の姿は……いた、二隻を確認。ドックに入って整備中の模様)

「ス級は三隻いるはずだ、もう一隻はどこだ!?」

マイクをひっつかんで谷田川が聞くがオータス1は(確認できない)と返してきた。

その時、オータス2が叫んだ。

(警戒、敵迎撃機、タコヤキがコンタクト。ただちに離脱する!)

(いや、上方に敵機! 回避し……)

(オータス1がやら……)

二機からの通信が途絶えた。

「オータス隊、ロスト!」

「くそ、全艦隊に緊急通達だ! ス級一隻が外洋に出ている可能性がある、対水上警戒を厳にしろ! 

第二から第三空母打撃群は第一次攻撃隊を直ちに各敵空母部隊へ向けて出撃、敵防空能力を無力化した後敵艦隊を殲滅する。第一空母打撃群は敵泊地へ第一次攻撃隊を出撃させ泊地上空の航空優勢を確保せよ。時間との勝負だ、派手に行くぞ諸君!」

 

 

「ス級が一隻いない?」

拙いことになっていると連絡を聞いた愛鷹は思った。

あの巨艦が一隻で動くとは思えない。護衛艦艇を連れて出ているはずだ。

ス級がいないのは恐らくこちらへの迎撃ではなく、たまたま整備を終えた後の慣らしの様なもののために出港したのだろう。しかし既にこちらの偵察機を見つけて撃墜しているからこちらが来襲したことは察知しているはず。

偵察機の来た道をトレースすれば、こちらの位置を割り出すのは難しい話ではない。

スカイドッグの話では各空母打撃群から第一次攻撃隊が発艦しつつあると言う。予定通り航空優勢確保のため戦闘機のみの編成だ。

航空支援のない艦隊程、航空機の攻撃には脆い。

「一隻いないとはタイミングが悪かったか。だが動けない二隻を今のうちに叩いておいても損はない」

「ガングートの言うとおりネ」

「へへん、派手にやるぞぉ」

意気込む一同だったが、愛鷹は不安な気持ちを抱えたままだった。ス級の攻撃で瀕死の重傷を負わされた身だからス級の恐ろしさは身に染みている。

だが、第三三戦隊以外のメンバーの殆どはこの恐怖を知らない。金剛もス級を直接見てはいるが対決した事は無い。

一抹の不安が愛鷹の脳裏をよぎる。もう一隻のス級の出方でこちらの戦況が覆されるかもしれない。

単艦でこちらを壊滅寸前にまで追い込んだ「怪物」なのだから。

「どう思います、青葉さん」

愛鷹は青葉に意見を聞いてみた。

「そうですねえ。脅威が思わぬ動きをしていると言う事は青葉も愛鷹さんの考えと同じです。青葉たちを単独で壊滅寸前にまで追い込みましたからね。

しかも足が異常に速いと聞きます。その機動性でこちらが対応しきれない内にあの火力でまとめて殲滅にかかるかもしれない……またはアウトレンジ射撃で圧倒するかもしれませんし。

高脅威目標の足取りがつかめないのは後々厄介になるのは確かですね。こちらの数で圧倒するか、早期に見つけて空爆で撃破するか、かと」

返されて来た応えに頷いた時、第一空母打撃群が敵泊地へ六四機の戦闘機を向かわせたと言う連絡が入った。

戦いはまず空からだ。

 

 

(スカイドッグから第一空母打撃群から発艦した攻撃隊全機へ。敵泊地まで残り二五キロ、各機攻撃態勢に入れ。今のところレーダーに敵影は無い)

スカイドッグからの通達に第一空母打撃群の第一次攻撃隊の一六個小隊、ヴァイパー、ヘイロー、サラマンダー、スコール、ファルコ、アクイラ、タイガー、コヨーテ、フォックス、クロウ、アンタレス、クローバー、ブレード、シューター、マスタング、クライスデールのコールサインの小隊のリーダーが「了解」と返した。

機体はすべて烈風だ。日本艦隊の主力戦闘機の一つで配備数では一番多い。他は瑞鳳に配備されているまだ少数しか生産されていない烈風改と、烈風に次いで多く生産されている紫電改二だ。

六四機の戦闘機隊が泊地まで一八キロまで迫った時、スカイドッグのレーダーに迎撃する深海の迎撃機が映った。

(スカイドッグより各機、ターゲットマージ。ボギー八〇がコンタクト。おおよそ三〇秒後にエンゲージ。各機、ウェポンズフリー。交戦を許可する!)

交戦許可に各小隊リーダーが「了解」と返答する。

先頭を進むヴァイパーリーダーが「ビジュアルコンタクト!」と告げるや、戦闘機隊は次々に増槽を切り離し加速した。

双方が発砲するのは同時だった。

初手からタコヤキ五機が火を噴いて落ちるが烈風も三機が主翼を叩き折られたり、エンジンを破壊されたりして撃墜される。

オレンジと緑の曳光弾が飛び交い、からめとられた機体が爆発、分解されて青空に散る。

烈風のエンジンの咆哮が轟き、機銃の発射音が鳴り響いた。

双方が急旋回するときに引く飛行機雲(ヴェイパー)が空に絡まりあい、そこに撃墜される機体の黒煙が引っかき傷の様に一本、また一本と追加されていく。

(サラマンダー3、ロスト!)

(敵機が味方の後ろに!)

(援護を頼む!)

(これ以上やらせるな!)

(三機目だ、三機をスプラッシュ)

(くそ、速い。こちらの……)

(クロウ4、ダウン)

(こいつら只者じゃないぞ、いつものタコヤキと違う!)

(編隊を崩すな、エレメントを維持しろ!)

(ガンズ・ガンズ・ガンズ!)

(タイガー2、回避、回避、後ろに付かれてるぞ)

(振り切れない、誰か追っ払ってくれ!)

(援護に向かう!)

機銃の銃声と共に機銃弾が鞭の様にタコヤキに繰り出され、タコヤキは上昇、旋回、急降下で回避にかかる。しかしその先を読んだ二撃目や僚機の援護で討ち取られるタコヤキもいる。

一方で烈風も孤立させられた機体が集中攻撃を受けて躱し切れない何機かが炎上、四散して果てる。

激しい切り返しの末に射撃タイミングをとらえて機銃弾を撃ち放ちタコヤキを撃墜する機体、高度なフライトテクニックで敵機を翻弄、かわして攻守を入れ替え撃墜する機体、立て続けに数機を撃墜して僚機を援護する機体、そして一瞬の隙を突かれて撃墜される機体。

烈風は防衛する攻撃機がいない分、攻めの姿勢を崩さず、タコヤキも防衛のために奮戦する。

(貰った!)

(チクショウ、チクショウ、何でこっちが……)

(くそ、ニノックス2をやった奴はどこだ!?)

(流石に尻に火がついてきたかもしれない)

(まだ先は長いぞ。がんばれ!)

(弾が心細くなってきた……)

(違う、あのタコヤキだ! あいつ出来るぞ、囲んで叩け)

(タイガー隊が全滅した!)

(くそ、タイガー隊が……)

(仇討ちだ!)

(被弾、被弾、敵の攻撃が命中! ダメだ機体が……!)

(また一機やられたぞ!)

(このタコヤキはいつものタコヤキとは違う!)

(やられた、くそ。まだだ、まだ終わらんよ!)

(また来るぞ、避けろ!)

(まだだ、まだやれる。こっちが勝たなくちゃまず……)

(スコール4が落ちた!)

ほんの数分の空戦だった。

AWACSスカイドッグからタコヤキが四機だけになって撤退したことを告げた時、六四機の編隊から一四機の烈風が消えていた。

 

 

第一空母打撃群から出撃した第一次攻撃隊の損耗率を聞いて愛鷹は眉間に眉を寄せた。

損耗率は約二二パーセント。損傷した機体の内修復不能で廃棄される機体を含めたとした場合、二五パーセントの烈風が失われるかもしれなかった。

幸先は良いとは言えないかもしれない。敵の防空能力は相当分厚い。

報告では敵のタコヤキはかなり腕が立つ強敵揃いだったと言う。

しかし深海棲艦の重要拠点となる前線展開泊地棲姫の防空に当たる戦闘機だから、強敵揃いだとしても全くおかしくはない。むしろ第一波を戦闘機にしたおかげで攻撃機の損耗がゼロに抑えられた事は大きな戦果と言えるかもしれない。

しかし、まだ戦闘は始まったばかりだった。

程なく第二から第四空母打撃群の戦闘機で編成された第一次攻撃隊も帰還した。こちらは比較的残存数が多く、迎撃して来た敵機のほぼ全てを撃墜していた。

それでもどこも損耗率は平均一二パーセントと無視できる損害ではない。

「難敵揃いね。あと何機これだけ強いのがいるのかしら」

眉間に冷や汗を浮かべて瑞鳳が言う。

「おそらく、まだまだ大勢いる事でしょう。一筋縄では行かないようですわね」

「まー、簡単過ぎた方がもっとヤバいかもしれないけどね」

軽空母艤装の熊野が瑞鳳に返し、鈴谷がそれに続いた。

「そろそろ、敵も攻撃隊を送り込むだろうな」

空を見上げながらユリシーズが言う。

「あたしらのとこにも来るかな?」

「見つかったら来るでしょう」

「そら、そうやな」

陽炎、不知火、黒潮も連装砲のトリガーとフォアグリップを握りなおしながら言う。

「今のところ。水上に敵影は無いね」

「あたしの目にもなーんにも見えない。古鷹は?」

「私も特に何も……」

仲間たちの会話を聞いていた夕張が首を傾げる。

「妙ねえ、敵の潜水艦。あれだけ沢山いたのにいないなんて」

「千歳さんからは何も言ってきませんね」

対潜哨戒任務部隊旗艦千歳からも何も報告が無い事を蒼月が引き合いに出す。と、ガングートが答えた。

「昼間は比較的見通しが良いからな。潜水艦はソナーを使うよりは潜望鏡で諸元を確認した上で魚雷を撃つのが雷撃時の命中率の確実性が上がる。

しかし昼間だと潜望鏡は見つかりやすい。シークラッター(波によるレーダー乱射)による影響で潜望鏡をレーダーでとらえられなくても、見晴らしの良い昼間なら目ん玉がモノを言うからな。潜望鏡が立てる航跡でも見つけることは可能だ。

だとしたら夜間、目ん玉がモノ言うには限界のある夜の暗闇が絶好の襲撃タイミングだ。夜陰に紛れてこっそり魚雷を撃ち込む方が見つかりにくい上に奇襲性も高い。

視界の低下する夜間だと魚雷の航跡も見つけづらいからな。季節によっては海流だけでなく変温層にも多少の変化も起きる場合がある」

「ガングートはなんでそんなに潜水艦のこと知ってるの?」

なんだか難しいこと言うなあと言いたげな衣笠が聞くと、ガングートは鼻を鳴らして「昔、潜水艦について色々と勉強したものでな。実は肺活の耐久試験で落ちたが潜水艦娘の試験も受けた事があるぞ」と自慢げに語った。

「ガングートはんが潜水艦? んー、どう連想しても動きが鈍そうに思えるんやけど? ちゅーか、ちっとも似合わへんで」

「言ってくれるなあ、ちっこいおかっぱよ」

野暮なツッコミを入れる黒潮にガングートがやや拗ね気味に返した。

「誰が『ちっこいおかっぱ』やねん! でっかい白髪女」

「し、白髪だと? これは地毛だ」

ムスッとした顔で言い返した黒潮の暴言にガングートもややムキになって返した。

そこへやや苛立ったような愛鷹の声が一同のヘッドセットに入って来た。

「無線が賑やかなのはリラックスしているつもりなのかもしれませんが、敵潜水艦警戒に気を抜かれても困りますよ。へらへら笑っていたら魚雷に撃たれた、などと言われても助けられませんからね」

ぴしゃりと言う様に放った愛鷹の言葉に全員が「おっと」と気を取り直して警戒に当たった。

こんな艦隊でス級と遭遇した時対応できるのか? と少し不安と悩みの様なものを愛鷹は感じた。

過度な緊張は失敗を招くが、緩んでしまうのもまた同じ。

溜息を吐いた時、無線から敵艦隊へ向けて対艦攻撃装備の攻撃隊と護衛機の攻撃隊が第二、第三、第四空母打撃群から発艦したと言う通達がスカイドッグから入った。

第一空母打撃群はもう一回戦闘機のみで編成した第二次攻撃隊を送る事に決定して発艦を始めたと言う。因みに収容後使用不能と判断されて放棄された烈風を含めると第一次攻撃隊の損耗率は二三パーセントに上っていた。

二三パーセントか……愛鷹が損耗率の数字を思い浮かべた時だった。

(警告、こちらAWACS。ボギーが支援部隊に高速で近づいている。参照点より方位〇-九-九)

「西から? こちら愛鷹。スカイドッグ、ボギーの機数は?」

(レーダー上では機数は一機だ。恐らく偵察機。防空戦闘機隊で排除することをリクエストする)

「了解。鈴谷さん、マカレナ隊を急行させ迎撃してください。熊野さんのマリーゴールド隊、ヴィオラ隊、瑞鳳さんのメイジ隊、ガーゴイル隊はこの艦隊上空で待機」

「りょーかい」

「承りましてよ」

「了解」

支援部隊と「しだか」上空を哨戒中だった烈風四機のマカレナ隊が偵察機と思われる機影の迎撃に向かう。

相手が速いこともあって、すぐにマカレナ隊は機影を確認した。スカイドッグの読み通り深海棲艦の高速偵察機だ。

烈風四機は偵察機に襲い掛かったが、偵察機は快足を生かして格闘戦を避けて逃げ回った。

「もー、何やってんの!? 早く落としちゃいなよ」

苛立った鈴谷に言われずともマカレナ隊の烈風は偵察機を追いかけ、どうにか撃墜した。

安堵する一同だったが愛鷹は深刻な事態に陥ったことを知っていた。

逆探が偵察機から照射されたレーダー波を捉えていた。はっきりと捉えることが出来たのだから支援部隊と「しだか」が見つかったことは疑いようがない。

敵の攻撃が来る、その確信が愛鷹の肌を粟立たたせた。

「こちら支援部隊旗艦愛鷹。緊急通達、我敵偵察機に発見さる」

ヘッドセットにそう吹き込むと支援部隊の各員に「対空戦闘用意、対空警戒を厳に。敵はすぐに来ます」と告げる。

仲間に通達してから主砲の動作確認を行う。念入りに整備をしているから故障は起きないと信じたいが、万が一動作不良を起こしたら……。

ヘッドセットが着信音を発てたので愛鷹は通話スイッチを押した。

(谷田川だ、愛鷹くん。第一混成打撃部隊の伊吹がエアカバーの橘花改八機を五分待機させている。必要になったら支援要請をするんだ)

「了解しました」

橘花改八機、たった八機、されど八機、と言うべきか。

「瑞鳳さん、熊野さん、鈴谷さん。防空戦闘機部隊を増派してください。万全の防空体制が必要です」

三人が了解と答え、防空戦闘機部隊をさらに上げる。

支援部隊上空に瑞鳳のメイジ隊、ガーゴイル隊に加えてゴーレム隊、ストライダー隊の八機、熊野のマリーゴールド隊、ヴィオラ隊に加えてホーテンシア隊の四機、鈴谷のマカレナ隊に加えてカーミラ隊、ディアナ隊の八機の計二〇機が増派され、支援部隊上空には烈風改一六機、烈風二四機の計四〇機が展開した。

程なく第二から第四空母打撃群の第二次攻撃隊が敵空母部隊と交戦を開始したと言う知らせが入り、さらに第一空母打撃群の戦闘機のみの第二次攻撃隊四八機も五二機のタコヤキと会敵して交戦を開始したとスカイドッグが知らせて来る。

数十分後、第二から第四空母打撃群による敵空母部隊への攻撃の結果が入って来た。

結果はヲ級一隻撃沈、一隻撃破、ヌ級二隻撃沈、一隻推定中破。戦艦タ級一隻推定中破、重巡リ級、軽巡ツ級一隻ずつ撃沈、駆逐艦イ級三隻撃沈と言う物だった。その他の護衛艦艇にも何かしらの損害は与えたらしい。

ただ対空砲火の激しさで効果がやや不十分気味だった。攻撃隊の未帰還機はそれほど多くは無いらしく、各空母打撃群は第三次攻撃隊の発艦準備に入っていると言う。

そこへAWACSスカイドッグが警告を発した。

(警告、敵大編隊をレーダーで確認。支援部隊に急速接近。参照点より方位一-〇-〇、機数は八〇機。敵の攻撃部隊と思われる。支援部隊は交戦に備えよ、おおよそ四五秒後にそちらの防空圏に入る)

「了解。皆さん敵攻撃機部隊が来ます。交戦に備えてください」

一七人分の「了解」の返答が返り、スカイドッグが支援部隊直掩に着く防空戦闘機隊を敵攻撃機部隊へと誘導した。

さらに愛鷹は伊吹からエアカバーの橘花改の増援を要請した。

(了解、五分だ。三分でそちらに向かう)

「了解です」

伊吹からの返事に愛鷹が頷くと深雪が首をひねった。

「五分かかる、三分で行くって、なんだよ……」

暫くして戦闘機部隊が「ターゲットマージ、迎撃を開始する」と告げ、四〇機の防空戦闘機隊が迎撃を開始した。

今度の攻撃隊の編成は、戦闘機はタコヤキだが攻撃機は通常型だと言う。編隊長を務めるストライダーリーダーが確認した限りでは攻撃機とタコヤキの数はほぼ同数。

それ以上の事は分からなかった。

防空戦が開始され戦闘機隊が交戦を開始した。

瑞鳳の戦闘機隊は先の偵察出撃で鍛えたお陰で善戦しているが、熊野と鈴谷の烈風はタコヤキ相手に苦戦気味になっていた。

「ストライダー、メイジ、ガーゴイル、ゴーレム隊は戦闘機を引き付けてください。他の部隊は攻撃機を攻撃」

そう愛鷹が指示を出すと(ネガティブ、それは無理な注文です! タコヤキが出来る奴らばかりで攻撃機に取り付けない)と返された。

八〇機の攻撃隊の内半数が護衛機だとしたら機数は同じ。タコヤキの練度が高ければ確かに振り切って攻撃機を迎撃する余裕が出ない。

やがて愛鷹の対空レーダーに敵攻撃機の機影が映った。数は四〇機ほどで恐らく削れてはいないだろう。

やるしかない、と決めた愛鷹はスカイドッグに通信を入れた。

「スカイドッグ、こちら愛鷹。敵編隊の予測針路、高度のデータを送られたし。主砲の長距離射撃で削られるだけ削ってみます」

(了解、そちらに諸元を転送する。よい射的を)

「ありがとう」

送られて来た射撃諸元に基づいて愛鷹の三一センチ三連装砲が敵編隊を指向した。諸元データは愛鷹だけでなく金剛、ガングート、シュペーにも伝達された。

「愛鷹より金剛さん、ガングートさん、シュペーさんへ。左主砲長距離対空戦闘、旗艦指示の目標、三式弾改二撃ちー方始め」

「砲撃準備OKネ!」

「いつでもいけるぞ」

「射撃指示を待ちます!」

三人が発砲準備よしと返してくる。愛鷹は頷くと砲撃はじめの合図を出した。

「撃ちー方始め、てぇーっ!」

「ファイヤー!」

「アゴーニ!」

「フォイアー!」

三一センチ主砲九門、三〇・五センチ主砲一二門、二八センチ主砲六門、四一センチ主砲八門、計三五門の大口径主砲が発する砲声が、支援部隊の交戦開始の合図となった。

 




「しだか」から艦娘が出撃するシーンに何かのデジャブを感じた人はいるかと思います。
はい、ガンダムのカタパルト発進が元ネタです(笑)。
出撃士官とドック内管制指揮所は今の空母のカタパルトの発艦士官とICCS(統合カタパルト管制室)がモチーフになっています。

増援一隻に加え、攻撃時には二隻いなかったス級。しかし艦隊は「もう一隻」いる事を知らず、トリガーはまだ通報することが出来ていない状態。
リアルタイムで入手できない、それも最重要情報がこの後艦娘達を過酷な戦況へと追い込みます……。

今日で平成は最後ですね。次回は令和でお会いしましょう。
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