艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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第一五話 限界への解除

その絶叫は心に何か鋭利なもので深くえぐり取るような痛みを感じさせた。

「スプリングフィールドが殺られた! スプリングフィールドが戦死、K.I.A!」

「戦死だってぇっ!? うっそだろぉ!」

「ジーザス! よくも我が同胞を!」

「チョルト ヴァジミィー!」(チクショウ!)

一人、スプリングフィールドが戦死、殺された……。

明るい性格と、この沖ノ鳥島海域で生き残った仲間をたった一人で護り続ける強靭な精神、屈強さを併せ持った重巡艦娘のスプリングフィールドが死んだ。

自らも深手を負いながらも動けない仲間を助けるために孤軍奮闘した彼女が。

愛鷹の胸にぽっかりと穴が開いたような無力感が出る。

ス級の護衛艦からの攻撃を凌いでいた艦隊は、スプリングフィールドの戦死の報告で浮足立ちを見せており、押し返され壊滅する危機に直面していた。

護衛のネ級改、ツ級はそこへ畳みかけるように攻撃の手を強めた。

鈍い音がしてガングートの主砲塔にネ級改の放った砲弾が当たって弾かれた。

怒りに震えるガングートがネ級改に主砲の全門斉射を至近距離から行い、ネ級改が吹き飛ばされる。

しかし仲間をオーバーキルともいえる攻撃で屠ったガングートに深海棲艦艦隊は集中砲火を浴びせた。

防御力には優れているガングートはその防御力で耐えながらさらに主砲砲撃でツ級を轟沈させたが、そこへネ級改の放った魚雷二発が直撃した。

水柱二つの奥からガングートの悲鳴が聞こえ、水柱が崩れ去った時には魚雷の直撃で大破・重傷を負って動けなくなってしまっていた。

「く、くそぉ……まだ、まだだ、このガングートはまだ沈まんぞ」

そう言いながらも爆発した魚雷の破片が刺さって血が出ている左脇腹を抑えており、動くのが非常に苦しそうなのは明らかだ。

動けなくなったガングートに止めを刺そうとネ級改が近づくが、青葉が単身それを防ごうと立ちはだかり、主砲を撃ち放つ。

「やらせません!」

喚きながら三基の主砲でネ級改を迎え撃つが相手は余裕の表情で青葉からの砲撃を避けてみせ、逆に青葉への砲撃を始めた。

それに対し青葉も回避行動をとって躱していく。かなりキレのある動きだ。

青葉を相手する仲間の援護にもう一隻のネ級改が背後を取ろうと後ろへと回り込む。

(回り込みましたね)

そう思いながらトリガーを引くと二〇・三センチ連装主砲の砲口から徹甲弾が放たれネ級改を捉えた。

被弾したネ級改が青葉へ反撃の一射を撃ち返し、回り込んで背後を取った仲間も主砲を構える。青葉の動きが速いので照準がなかなか合わない。

しかし、その横から三一センチ砲弾が直撃してネ級改が数メートル吹き飛んでいった。

「これ以上、死なせません」

主砲を放った愛鷹は仲間をやられて動揺するネ級改に肉薄した。

ネ級改に対応される前に刀を引き抜くとほんの数振りでネ級改の艤装を破壊していった。

金属の衝突する鈍い音がしたかと思うとネ級改の主砲塔二基は跡形もなく斬り落とされ、武装を喪失したネ級改に青葉のとどめの砲撃が撃ち込まれた。

ツ級二隻は攻撃の手を緩めることなく矢矧らと戦っているが、間もなく冬月と不知火が被弾し中破、戦闘不能になる。

更に冬月被弾に涼月が気を取られるとそこへツ級が隙槍を入れ、涼月も被弾した。

不知火は艤装大破で戦えなくなったがそれでもと怪我だらけの体を押して立ち上がろうとしていた。

三隻の駆逐艦娘が被弾し、中破ないし艤装大破で次々に戦闘能力を喪失する。

しかしツ級は涼月、冬月、不知火を戦闘不能にすると止めを刺さずス級と共に何故か後退し始めた。

何を考えている、と愛鷹が眉間に皺を寄せた時にレーダーが新たな反応を捕捉した。

電探に反応とバイブレーションを立てた表示機を見て眉間に冷や汗が滲んだ。

「敵増援です。戦艦二隻、重巡四隻、軽巡四隻、駆逐艦二隻を電探が捕捉」

「まだ来ますか」

拙いですね、と青葉が顔をしかめた。

こちらは戦艦四隻中破戦闘不能、二隻大破戦闘・航行不能、装甲艦一隻中破戦闘能力低下、重巡二隻大破戦闘不能、一隻戦意喪失戦闘不能、駆逐艦三隻中破戦闘不能、二隻大破戦闘・航行不能、一隻艤装大破戦闘不能、重巡一隻撃沈・戦死。

無傷の状態であり、戦えるのは超甲巡一隻、重巡一隻、軽巡三隻、駆逐艦二隻、辛うじて戦えるのは中破戦闘能力低下した装甲艦一隻。

実に全艦隊の四分の三が無力化されていた。

対して敵は巨大艦二隻に加えて、戦艦二隻、重巡四隻、軽巡六隻、駆逐艦二隻の一六隻。

戦力差は二対一。

言わずとも状況は艦娘側が不利だ。この状態ではとても敵泊地への進撃など不可能である。

撤退、それしかない。

「こちら愛鷹。艦隊旗艦大和へ意見具申。艦隊の被害甚大につき撤退を進言します」

(やむをえませんね。大和より各艦、撤退します)

(だが、航行不能な者もいる上にあのデカ物からどうやって逃げる?)

(私は、まだやれます……応急修理で主砲塔一基は復活しました、金剛お姉さまの仇を! 行きます!)

(射撃レーダーは全部逝かれたけど光学照準でなら私の一六インチもまだ健在よ)

(航行可能な艦は負傷者を運んでください。戦闘可能な艦は撤退援護を、撤退援護部隊指揮官を愛鷹に委任します。敵をけん制する程度でいいです)

(だが、ス級の砲撃射程から逃れるのは至難の業だぞ。奴の速力、射程では容易に振り切れん)

「なら……私がス級を無力化します」

少し低めの声で愛鷹が言った。

その言葉に青葉は目を剥いた。戦艦相手でも愛鷹さんの火力では対抗しきれないのに、それ以上のス級に単身で挑むと言うのですか?

「危険です愛鷹さん」

「いえ、ス級の弱点を突ければス級だけでも無力はすることは出来ます」

弱点? ス級についての情報は殆どないのになぜ愛鷹さんはそのことを、と青葉が首を傾げると愛鷹は答えた。

「先ほどから見ていて気が付きました。ス級は先ほどから常に相手との距離を最低一〇五〇メートル以上は開けています。

あの巨大主砲は破壊力、爆発範囲が広大な一方で取り回しが悪く、懐に潜り込まれたら主砲が撃てないと言う事です。

その懐に私が行きます。この刀で艤装を破壊してス級を戦闘不能にし、その間に撤退。それが最善策でしょう」

「で、でもそれでは愛鷹さんが」

「他に手がありません。青葉さんは戦える皆さんと共に他の深海艦艇を牽制して援護してください。隙さえ作っていただければ懐に潜り込みやすいので」

「危なさすぎますよ!」

「やるしかないんです、皆さんを護るにはこれしかない」

「しかし……」

「旗艦命令です、従いなさい!」

抗弁する青葉に愛鷹は厳しい口調で押しかぶせた。

「死ぬために突入はしません。絶対帰りますよ、そうでなければ……私がこの世に生を授かった意味がなくなってしまう」

「……わかりました、無理はしないでください」

しばしの沈黙の末に青葉は頷いて仲間の方へと向かう一方、愛鷹は刀を眺めた。

歯こぼれは起きていない。

主砲も異常や問題が無い事を確認する。

一旦引いて向こうも乱れた陣形を再編……その間にこちらも再編して撤退。ス級程度は何としてでも戦闘不能にしておかなければ。

ヘッドセットの通知スイッチを押すと全員に作戦を伝えた。

それを聞いた武蔵が仰天した声を上げた。

(愛鷹は何を言っている⁉)

(危険だ、そんな事!)

深雪が仰天して喚くが愛鷹の意思は変わらない。

「深雪さんは皆さんの護衛と援護をお願いします」

(無理に決まってる、あたしも加勢するぞ。あんただけじゃ荷が重すぎるって)

「旗艦命令です、従ってください」

(無茶な命令には従えねえよ)

「従いなさい!」

(うおぉぉぉ、くそっ! 死んだら絶対許さねえからな、戻ったら一発ぶん殴ってやるから覚悟しろ!)

(ダメです愛鷹さん、危険すぎます!)

今度は大和だ。やり取りがもどかしい愛鷹は「黙れ!」とだけ返して無線を切った。

一方、青葉や深雪ら無傷の者と軽傷など航行できる者は、動けない仲間とスプリングフィールドの遺体を曳航して撤退する準備に入った。

愛鷹のやる事に傷口に絆創膏を貼っていた武蔵が目を剥いた。

「あのバカ、死ぬ気か!? 大和、主砲は?」

「ダメコンで一基復旧しました。火力支援は可能です。戦闘可能な艦は可能な限り愛鷹さんへの火力支援を!」

「そうじゃない、止めさせるんだ!」

「……頼るしかありません。満足に戦えない私たちには愛鷹さんの足止めに頼るしかありません。でも私たちも出来る限りの支援をしなければなりません。全員で帰るためにも」

「……」

「武蔵」

「……分かった」

悔しさにまみれた武蔵が伏せ気味な顔で大和の意見に従う。

艦隊が撤退準備を進めている時、愛鷹は艤装の右手側にある物を操作していた。

小さなハッチを開けると蝶番に覆われたレバースイッチとキーの差込口が現れ、差込口にコートの内ポケットに入れている気を入れて回し、スイッチを切り替えると指紋認証のパネルがハッチの中に出た。

迷わずそれに触れると指紋がスキャンされ電子音と共に何かが解除された。

体にかかる負荷から明石が艤装につけたリミッターだった。

これを解除したら制限されている自分の艤装の性能を最大にまで上げる事は出来るが、体にかかる負荷も非常に大きくなる諸刃の剣だ。

もしかしたら死ぬ事になるかもしれない。

しかし何もしなかったら結果は同じだろう、と覚悟しての行為だった。

ひょっとしたら自分でも想像がつかない事になるかも知れない。しかし自分も含めて全員で助かるには藁にも縋る勢いでやるしかない。

最大速力でス級の内懐に突入し、対応できない至近距離から主砲の砲身を斬り落とす。可能であればこちらの主砲の至近距離砲撃も行う。

更にス級からの接射を防ぐべく第三主砲の自爆システムの安全装置を解除、音声で手動操作爆破できるように設定した。

どこまで効果があるかは正直わからないが、ス級からの砲撃で放たれる巨弾に外した主砲を投げつけてタイミングよく起爆させれば爆発で砲弾を防ぐことが出来るかもしれない。リアクティブアーマー(爆発反応装甲)のような形だ。

チャンスは何度もない。一度と捉えるべきだろう。

自分がこれからやる事がどれだけ無茶苦茶な事かは承知していたが、死ぬ気など全くなかった。

むしろ生きたい、もっともっと生きたい、その思いだけが愛鷹の背中を押していた。

敵艦隊が再編を終えて進撃を再開した。ス級にはリ級二隻が随行している。

「護衛が二隻」

リ級は恐らくflagship。勝てない相手ではないが侮れない。

「愛鷹から各艦、攻撃を開始します。援護を」

(了解、武運長久を!)

大和からの返信を聞いてヘッドセットの通知機能を切ると「優柔不断の責任は取ってもらいますからね」と呟いた。

後方から五一センチ、四〇・六センチ、四一センチ主砲の砲声が轟き敵艦隊へ砲弾の雨を降らせた。精度こそ欠けてはいるものの牽制には充分だ。

その間に愛鷹は突入を開始した。

「機関最大戦速、黒一杯。ヨーソロー!」

駆逐艦並の高速度で愛鷹がダッシュをかける。

深海棲艦艦隊が急接近してくる愛鷹に気が付いて砲口を向けて来るが、大和たちの砲撃がその構えを解く。

支援射撃が終わった時、愛鷹は敵艦隊の中央を突破して全砲門を敵艦隊の各艦に向けた。

「全砲門開け! フルファイヤー、てぇー!」

三一センチ主砲三基と長一〇センチ高角砲四基が一斉に火を噴き、対応の遅れた深海棲艦艦隊に砲撃の雨を叩きつけた。

駆逐艦二隻が長一〇センチ高角砲の連射で即座に沈黙し、重巡三隻が三一センチ主砲の砲撃を食らう。

三隻の主砲がほぼ同時に吹き飛び、本体にも被弾し、三隻がほぼ同時に爆炎の中に消える。

そのまま戦艦には目もくれずス級へ吶喊する。

すぐさまリ級が立ち塞がり、主砲を撃ち放ってくる。

直撃すると見た砲弾を刀で切り落とし、他は最低限の回避行動で躱していく。

主砲を撃ち込みたいものの再装填がまだ済んでいない。

その時後方で砲声が聞こえた。味方の砲撃ではない、ル級の砲撃だ。

リ級を巻き込みかねない射撃だが構わず撃ってきた。

三発を刀で弾き、切り飛ばすが時間差を置いて撃ってきた三発は躱し様がない。

しかし防護機能を一点集中し、最大出力で展開するとガラスが砕け散る様な音がした。

三発の砲弾を辛うじて防いだのだ。しかしその代償に防護機能が一時的に飽和状態になって消失する。

防護機能の一点集中が消失する時、ガラスが砕け散るような音が起きる。

リミッター解除状態だからすぐに復旧するが、復旧が終わるまでは防護機能は展開不能だから完全に無防備だ。駆逐艦でも防げる損害でも致命傷になる状態でもある。

「撃たれる前に撃つがための状態……」

そう呟きながら戦艦には目もくれずにリ級に再装填が終わった主砲を向けると砲撃を行う。

リ級一隻が三発の直撃を受けて爆炎に消え轟沈し、もう一隻は武装をすべて破壊され、機関も破損して戦闘航行不能にされる。

止めを刺すべく長一〇センチ高角砲を向けるが(行ってください愛鷹さん。雑魚は任せてください)と大和から通信が入る。

直後に砲声が艦隊から響いてきて、援護射撃がル級に降り注ぎ一隻が中破する。

大和からの言葉通り、ス級に向き直る。

防衛ラインを突破されるやス級は後退し始めるが、愛鷹はそのまま吶喊、肉薄する。

主砲はこちらを指向してはいるが、照準が定まっていない。しかしそのまま闇雲に撃てば味方をも巻き込みかねない。

行ける、と一瞬思った時初めて副砲がス級にあるのが愛鷹の目に入った。

副砲全てが自分を完全に捕捉している。

反射的に第三主砲を艤装アームから外し、左手に持ちかえる。

副砲の一斉砲撃と第三主砲を投げるのは同時だった。

「ディストラクト・ナウ!(自爆、今!)」

そう音声入力した時、自爆システムが作動して副砲弾の雨の目の前で第三主砲が爆発した。

副砲弾の殆どが第三主砲の自爆で跳ね返され、破壊され、軌道をそらされる。

軌道をそらされた副砲弾三発が第一主砲に当たる。装甲で弾き飛ばせるだろうと思ったが副砲弾は第一主砲を粉砕し、さらに右側の艤装の殆どを破壊して引きちぎった。

被弾の衝撃で愛鷹は後ろへ吹っ飛び、右脇腹に凄まじい痛みを覚えた。右腕の感覚は何かが砕ける音と共に一瞬で消え、刀が零れ落ちた。

海上に仰向けに倒されながらも必死に起き上がる。

体の右側を見るとコートの右側が破けて下の制服が真っ赤に染まって出ていた。右腕はくっついてはいるが全く動かない。砕ける音がしたから粉砕骨折したのかもしれない。

「副砲で……」

巨大艦なだけに副砲も破格の攻撃力、と火力が異常に強いス級の武装に舌を巻いた。

自分の三一センチ主砲は同口径の砲以上からの攻撃には耐えられない。ス級の副砲は三一センチ以上の可能性があった。

「こんな形で敵情入手とはいやはや……」

そう言った時、ぐっと喉に込み上げてくるものを感じた。堪える暇もなく口から込み上げて来たもの、血を吐いた。

かつてない程の吐血してしまった。おまけに血反吐を吐いた途端視界がぼやけるようになる。

拙い、体が……頭だけはまともに動いており、自爆させた第三主砲の爆炎を突き破ってス級が来ないか、とにかく動けるものを探すと言う事を考え体にそれを実行させる能力はあった。

時々口から血を吐きながら落としてしまっていた刀を左手で拾うと、激しい右わき腹の痛みをこらえながら立ち上がった、

しかし被弾時の影響からか艤装の発揮できる速度が八ノットも落ちていた。

それでも血反吐を吐き、艤装の多くを破壊されながらも愛鷹はス級を見据えるとそのまま突撃した。

そして一隻を捉えると海面を蹴って飛びあがり、四基の大口径主砲の砲身一二本に刀の刃を振るった。

金属の破断音がして一二本の砲身が次々に切り落とされ、海に落ちて大きな水しぶきを上げる。

更に砲塔一基の天蓋に刀を突き立てて亀裂を作ると、そこへ残っていた第二主砲に三式弾改二を装填してゼロ距離射撃を行った。

巨大主砲の砲塔が愛鷹から撃ち込まれた三式弾改二の爆発で内部の弾薬が全て誘爆し、それが他の主砲塔や副砲を巻き込んで大爆発を起こした。

誘爆に巻き込まれないよう防護機能を展開するが爆発の爆風は防げず、吹き飛ばされる。

不時着水して態勢を立て直そうとするが、負傷が響いて受け身の構えすら取れないまま海上を転がった。

さらに負傷したまま強引に動いたせいで傷が酷く痛みだし、流石に愛鷹も堪え切ることが出来なくなり呻き声を上げて崩れ落ちた。

痛みで感覚が麻痺しかける中、鎮痛剤と止血剤の両方を同時投与できる注射器を打って痛みをある程度和らげた。止血剤は五秒から一〇秒すれば応急処置程度の止血は出来る。

どうにか痛みが和らぎ立ち上がろうとした時、何かが自分の首を掴みあげた。

二メートル程掴みあげられると、そのまま首を強く締め上げられる。息が出来ない。

首を絞めて来る相手を見るともう一隻のス級だった。

初めて見るス級の顔がこちらを見ているが、顔と言うよりは表情のない仮面の様で肌がざわりと粟立つものを感じさせる。

太い腕の片方で愛鷹の首を締め上げて来る。

い、息が……呼吸……でき……ない……!

意識が遠のきかけるが懸命に左腕の刀で首を絞める腕を切りつけると、ス級は手を離した。

海面に叩きつけられるように落ちる。

正直自分自身がここまでやられてもまだ生きているのが不思議だ。

血反吐をまた吐き出しながら立ち上がると、右腕を損傷したス級が目の前にいた。

ぎょっとした時、無傷のス級が左フックを叩きつけて来た。凄まじい力で殴り飛ばされ、宙を舞った。肋骨数本が砕ける音がした。

海面に転がった時、止血したはずの傷口が開いて血が溢れだし、とうとう体が動かなくなった。

ダメだ……勝てない……強すぎる……あいつと力が……違い過ぎる……ダウンスペックの自分では……とても……。

霞む視界越しにス級が距離を取り始める一方、主砲が俯角を取り始める。

主砲で止めを刺す気だ、とぼんやりとした状態の頭で思った。

もうだめだ……やっぱり無謀すぎたんだ……悔しいなあ……。

非力な自分の力が不甲斐なく、涙が溢れた。だが体は動かないし、艤装も動いてはいるが実質「浮力を発生させている」状態だけになっていた。

武装は全滅しており、主機も反応を感じられない。右のハイヒール型の舵も半分がた割れて無くなっており使い物にならない。

「ここ……まで……か……」

かすれかける意識の中そう呟いた。

俯角を取った主砲が自分を捕捉し、照準を調整した。

しかし発砲の直前に一〇発の魚雷の白い雷跡が伸びて来て、気づくのが遅れたス級の右舷に炸裂した。

「深雪様&蒼月魚雷スペシャルを見たか!」

勝ち誇ったような深雪の歓喜の声が聞こえた。

魚雷を撃ち尽くしていた深雪が魚雷を撃っていなかった涼月と冬月から分けて貰い、それを魚雷発射管に再装填して蒼月と共に救援に来たのだ。

流石に片舷に一〇発も魚雷を食らえばス級もただでは済まず、炎上しながら停止して大きく傾いていた。傾斜復旧は恐らく無理だ。

「あれだけ傾きゃ主砲は撃てない。蒼月、愛鷹を担いでずらかるぞ!」

「はい!」

二人は血まみれになって力なく倒れている愛鷹に寄った。

「愛鷹、大丈夫か⁉ 助けに来たぜ」

「みゆ、き……さん……」

「しっかりしろ、まだ終わりじゃないぞ!」

蒼月が注射器で再び鎮静剤と止血剤と打ち、二人は艤装出力を最大にして愛鷹を抱え込むような形で曳航し始めた。

「ったく、無茶しやがって。こんなざまじゃあぶん殴る事も出来ねえ」

それを聞いて愛鷹は力なく笑った。

「愛鷹さん!」

青葉と夕張が呼ぶ声が聞こえ、更にヘリのローター音も聞こえて来た。

青葉と夕張も愛鷹の曳航に加わって、救援のために飛来したHH60Kレスキューナイトホークの元へと運んだ。

愛鷹が奮戦中に羅針盤障害が薄れ、「しだか」との通信回線が復旧していた。

満身創痍の水上突入部隊救援のために、救援艦隊が編成され霧島、榛名、高雄、摩耶、白露、時雨、インディアナポリス、ダットワース、マクドゥーガル、フライシャー、シンプソンが出動し、さらにHH60Kレスキューナイトホーク、セイバーホーク1、2の二機とCH53Kキングスタリオン一機が負傷者搬送のために発艦していた。

既にホバリング状態でCH53Kの後部ランプから金剛やガングートなどが載せられ既に「しだか」へと向かっていた。

HH60Kもホイストではなく直接海面すれすれに降下してキャビンに愛鷹を載せた。

心配顔で自分を見る仲間たちの顔を愛鷹が見返した時、水平線から太陽が顔を出しているのに気が付いた。

夜が明けていた。

海上には救援艦隊と自分が殿軍を務めている間の援護射撃で撃沈、全滅していた深海棲艦の残存艦隊、そして沈没した二隻のス級の黒煙が立ち上っていた。

奇麗な朝日だ……どんな夜にも……嵐の夜の後でも、夜明けは必ずやって来る……。

「暁の……水平線に勝利を……」

そう呟いて愛鷹は意識を失った。

 

 

「そうか、分かった……」

受話器を置いた武本は力なくデスクの椅子に座っていたが、しばし間をおいて無言で右拳をデスクに打ち付けた。

デスクの上にある物全てが衝撃で吹き飛ぶほどだった。

やがて武本の嗚咽が部屋に響いた。

「……ごめんよ……スプリングフィールド……オレのせいで……苦しかったよな……痛かったよな……」

またオレはあの子たちを死なせてしまった。

あと、オレは何人の艦娘を死地に送らなければならないのだ?

 

 

(『しだか』航空管制、セイバーホーク2だ。重傷者一名を搬送中。着艦アプローチ許可を求む、オーバー)

「ラジャー、セイバーホーク2。着艦を許可する」

(セイバーホーク1、タッチダウン!)

「ペリカン1-0、重傷者の容体を知らせ」

(金剛の意識がありません! 心拍数、血圧共に著しく低下! 非常に危険な状態です、緊急手術の用意を)

「スプリングフィールドの遺体は遺体袋に収容後、霊安室へ」

FIC内で指示と復唱の声が飛び交っている。

それを見ながら仁淀と大淀は沈んだ顔を合わせた。

戦死一名。仲間が一人逝ってしまった。

谷田川は司令官席に座って目を閉じていたが、しばらくして立ち上がるとFICに聞こえる声で告げた。

「セイバーホーク2収容後、『しだか』は針路を変更。日本へ帰投する」

「副司令……差し出がましいようですが、敵前線展開泊地棲姫は?」

応えは何となくわかっていたが大淀が問うと谷田川は「諦めろ。航空戦力も水上戦力も疲弊している我々にもうできる事は無い」とだけ返した。

セイバーホーク2を収容した「しだか」はその後針路を日本へと転じ、痛み分けに近い戦果をもって帰還の途に就いた。

第三三戦隊の面々もウェルドックに収容され、居住区に向かった。

疲労でくたくただ。暖かい食事とシャワーを浴びてゆっくりしたいのが四人の望むところだった。

艤装を整備庫に預けた青葉が居住区の部屋に戻ると同じ部屋の衣笠が上段ベッドに寝っ転がっていた。

酷くしょげた顔をしている。

「ガサ、大丈夫?」

「うん……」

「どうかしたの? いつものガサらしくないよ」

沈んだ衣笠の姿は珍しい光景ではないが、今は少し違うように見える。

「……戦闘中にダメになっちゃったの初めてでさ。悔しいのよ……」

「ああ。まあ、気持ちはよく分かるよ」

「そう?」

「うん、青葉もス級と初めて戦った時、腰が抜けちゃったもん……。すごく怖いよね、ス級って……」

「至近弾で金剛さんを撃破するなんて。戦艦棲鬼とかレ級以上に恐ろしいよ、あんなのチートすぎる」

チートか、愛鷹さんもある意味チート級だったな、とス級と白兵戦を展開していた愛鷹の姿を思い出しながら青葉は思った。

深手を負いながらあれだけの身体能力を維持し続けられるのは文字通り驚異的なレベルだ。

艦娘になる為に一体どういう訓練を受けて来たのだろうか。並大抵の訓練ではないだろう。

きっと特殊部隊並みの訓練を重ねて来たのかもしれない、と青葉は思った。

艦娘の特殊部隊と言えば北米艦隊に設立された長距離戦略偵察群程度だし、青葉の情報網でもまだ詳しい事は分かっていない。

ただ性格的には自分の所属する第三三戦隊と同じ事と、戦力がこちらよりはるかに強力で数も多い、と言う事だけは分かっていた。

「ところで『しだか』はこれからどうするんだろ」

「青葉が聞いた話だと帰るって、日本に」

「……まあ、そうなるよね」

「そうだよ。赤城さん達の航空戦力は損耗が酷しいし、青葉たち水上部隊もボロボロだもん。あ、そう言えばさ話変わるけど古鷹、加古、熊野、鈴谷は大丈夫なの?」

「大丈夫、みんなすぐ治るって。修復剤使えば一時間で済むくらいって」

修復剤、愛鷹さんが嫌いなモノだったな……父島の病院で修復剤を否定するあの発言と顔を思い浮かべた。

時間をかけて自然に治癒させず、人工的に早める事を嫌うあの姿。

何処か人間味が無いようで実際は愛鷹こそ一番人間らしい気がしてきた。

感情を大きく表に出さない代わりにその胸の内は人間として生まれた事を誇りに思っている感情の豊かな性格、そう想像することも出来た。

しかし、そこまでして何故押し込めるのだろうと言う素朴な疑問も湧くが、人それぞれと言う事でここは割り切っておくべきだろう。

引き際を間違えると今度は絞め殺されるかもしれない。パパラッチ行為をするとはいってもそれなりに足を踏み込んでいい所の上限は心得ているつもりだ。

部屋のドアがノックされた。青葉が「だれですかー?」と聞くと「私です」と蒼月の声が返された。

「青葉さん、谷田川副司令が支援部隊の時の状況報告書を書いて欲しい、と言ってたのでお伝えに来ました」

「了解です。なるべく早くに書き上げておきます」

蒼月の足音が遠ざかった時、衣笠が少し不思議そうな顔をして青葉に聞いた。

「なんで青葉が支援部隊の報告書書かなきゃいけないのよ」

「そりゃあ、青葉は第三三戦隊の次席指揮官だから立場的には結構エライんだよ。愛鷹さんもガングートさんも入院しているから書けないし」

「ふーん」

速めに書いておこうとデスクの席に座ってパソコンを立ち上げ、書類作成を始めた時衣笠が呟いた。

「なんか……青葉変わったね」

「そうかなあ」

「変わったよ。どっか……私もよく分からないけど、青葉何か変わったと思うよ」

そう言って衣笠はベッドに横になった。

自分がいったい何がどう変わったように見えたのか。青葉自身気になるところだが、今は報告書作成が先と判断してキーボードに指を走らせた。

対空戦闘時の支援部隊の戦闘状況、損害、確認できた敵機の撃墜数などを纏めていく。青葉だけでは分からない所もあるので、後で聞き取りを行って情報を集める必要もある。聞き取りなどは得意分野だ。

書類作成をしているとベッドから衣笠の寝息が聞こえて来た。ベッドを見やると衣笠は寝間着に着替えずそのまま寝ていた。

「お疲れさん、ガサ。おやすみ」

青葉は席を立ってすやすやと眠る衣笠の体に毛布を掛けた。

 

 

「随分派手にやられちゃったわね」

損傷した多数の艤装を見ながら夕張が溜息を吐いた。

全くよ、と明石は両手を腰に当てて頷いた。

「金剛さんのは修復不能ね。主電源ケーブルはみんな黒焦げだし、主砲は全部お釈迦、揚弾装置は滅茶苦茶で話にもならない。機関部に至っちゃあ浮力がかろうじて出せていた程度だもの。

ガングートさんのはまた希望はある方ね。主機は部品の九割を入れ替えないといけないけど。主砲は二基がお陀仏。機銃は全部だめ。

瑞鳳さんのは弦を張り替えないと弓は使えないわ。右足の主機は爆発の衝撃で浮力発生装置が訳の分からないことになっちゃってて、左足のスタビライザーまで死んでいたら沈んじゃってたわよ」

「他は?」

「駆逐艦の子はみんな防護機能の回路がショート。バッテリーもはじけちゃってて液漏れも起きている子もいたわ。

駆逐艦の子だけでも平均で修理に三時間ってとこね。死ねるわ」

「そりゃ、どんまいなお話で」

「一人では死なないわよ。あんたも一緒に道連れだから」

「あたしは生憎戦う艦娘でもありまして」

皮肉っぽい笑みを浮かべる夕張に明石はじろりと睨む。

修理と言っても別に二人だけでやる訳ではなく、修理工場の技師たちも加わるし、明石の部下の妖精さんもいる。

今回の作戦では戦艦七隻、超甲巡一隻、装甲艦一隻、空母二、重巡二、軽巡三、駆逐艦八の計二四隻が戦闘で中破以上の損傷を受けていた。

そして重巡スプリングフィールドが戦死していた。

「愛鷹さんの艤装は?」

「ここでは修理できないわ。右側の艤装はごっそりなくなっちゃているし、第三主砲は何があったのか知らないけど無くなっちゃっているし。トリガーのコードはすぐに作り直せるけど」

「第三主砲なら、確か防御に使ってた気が。ス級の砲撃に向かって投げつけてたはず」

「リアクティブアーマーの要領か。データログにあったけど防護機能の一点集中やったみたいね。博打打が凄いわ」

「それくらいの豪胆さと言うか大胆なことを一発でやれるだけでも凄いわよ」

「まあ、ね。今回の損傷した艤装の修理予算見た提督の顔、ちょっと楽しみ……払えないのもあるけど」

払えないと言うのはスプリングフィールドの命だ。どれほどの金を積んでも人の命は買う事も支払う事で許されるものではない。

今に始まった事ではないが、誰かが戦死すると艦娘達への心理的なダメージは一時的、長期的問わず大きい。軍人であるがゆえに体験する出来事としては覚悟しなければならないが。

工作艦と言う前線で全く戦わない明石には戦闘での恐怖も緊張も知らない世界だが、帰投した艦娘達の壊れた艤装でどんな戦いだったかは想像できる。

ただ壊れただけではない。時には血糊がべったりついていることもある。

初めて血糊を見た時は食事がロクに喉を通らなかったものだった。何時からかそれに慣れてしまったが、人の生死に関して慣れると言う事は恐ろしいものだと誰かが言っていたのを思い出した。

「直せるものはとりあえず直しておかないと。あんたも手伝ってよ」

「勿論。その為に呼び出したんでしょ」

やろうか、と拳をこつんとぶつけた。

その後二人はオレンジのつなぎに着替えて、作業に取り掛かった。

 

 

浴場でひと汗流した深雪と蒼月は居住区に戻る途中区画の一角から誰かが泣くのが聞こえた。

「だれですかね」

「アメリカ艦娘さ。スプリングフィールドが戦死したからな……。軍人になったからには戦いで死ぬ覚悟を常にしておけっつわれても、やっぱ仲間が逝くとつれえよ」

「前線に出るとこういう事は当たり前ですか」

「当たり前って訳じゃないけど、ガチで怖いのは確かだなあ。人に寄りけりだけど」

慣れてしまうと誰かが逝っても打ちのめされるのは人によっては一週間もしない内に立ち直ってしまう。

ただそれは忘れたという訳ではない。仇を打つと言う為に自分を奮い立たせた結果だ。慣れると精神的な立ち直りも早くなる。

ただそれは仲間が次々に戦死・行方不明になる中生き残って来た、という決して愉快ではない。

むしろ強い罪悪感を常に背負い続けながら生きて来たと言う意味でもあり、それから来る精神的なダメージは計り知れない。艦娘のPTSD患者の多くは仲間が倒れて行くなか生き残り続けた、と言う理由が圧倒的に多い。

痛まれない気持ちでいると二人の耳に歌声が聞こえて来た。震え声だ。

「悲しみの歌か?」

「いえ、平和を願った歌ですね。ずいぶん昔に戦争で命を落とした人びとを偲ぶ歌のフレーズですよ」

「なんて歌っているかわかるのか?」

深雪に聞かれた蒼月は頷いた。

分かるだけに聞いているだけで、蒼月の目に涙が溢れた。

歌のフレーズは人間同士の戦争を悔い、二度と繰り返さないと誓うものだった。人外同然の深海棲艦との戦争で使うのは少しずれていなくもないが、平和を祈る歌として間違っている事ではない。因みに歌は日本の歌手が英語歌詞で作曲したもので、英語と言う世界でも通じる言語で広く知ってほしいと言う意味で書かれたものだ。

涙を流す蒼月を見て、無言で深雪はその手を引いて歩き出した。

あたしは涙を流さなくなってどれくらいたつのかな、と自問自答しながら。

そして、涙を流さないってことはあたしも人の生死に慣れちまったって事かな、と虚しい思いしか湧かない事も考えていた。

慣れちゃいけねえよ、人が死ぬ事によ。

 

 

出撃のたびにボロボロになるのね、私は……。

ギプスをして包帯で吊り下げられている右腕を見て愛鷹は溜息を吐いた。

撃たれるとやはり痛い。脳天を突き刺すような痛みは訓練で慣れさせる特訓を受けても耐えるにはやはり限界があった。

痛みを感じるのは生きていると言う実感をわかせてくれるものだから決して悪い事ばかりでもないが、痛いモノは痛いし気持ちのいいモノではない。

人の生死に慣れるのはよくないと言うのと同時に、痛みに慣れるのもよくない、と愛鷹は思っていた。

痛みに慣れたら人は人でなくなってしまう。人をやめてしまったらその人にはいったい何が残されるのだろう。

フィクションで悪に落ちたキャラは「私は人間であることをやめたんだ」と語るのを見たことがあったが、結局はそのキャラ程人間であることを誰よりも願っていたものだ。だから最後、元に戻る時人間であることに喜びを感じていた。

自分にある人間らしさって何だろう、と愛鷹が思った時部屋のドアを誰かがノックした。愛鷹の病床は個室だ。

「はい」

誰だろうと思っていると「入ってもいいですか?」と遠慮がちに問いかける声が聞こえた。

大和だ。

何の用だ、と思いしばし迷ってから「どうぞ……」と言った。

包帯を巻いてはいるが自分程酷いけがではない様子の大和を見ると、自分が酷く劣って見えた。

「怪我の具合は?」

「生きています」

ガラではないながら素っ気ない答えになる。

そんな答え方を気にした様子もなく大和は続けた。

「あの、昨日は御免なさい。あなたの忠告を頭に入れたうえでの判断のつもりだったのだけど」

「……」

「……ごめんね」

「私に謝らないでよ」

急に愛鷹の口調が変わった。普段の丁寧口調がとげとげしいモノへと変わる。

無言で見てくる大和を愛鷹は睨みつけた。

「変わらないのね、大和は。名声に溺れて、取り返しのつかない事を犯して更生したと思っていたのに」

「……許してくれなんて言わないわ」

呟く様に言った大和の言葉が愛鷹の何かに火をつけた。

「許すわけないでしょ、あなたなんか!」

激昂した愛鷹の口から怒声が吐き出された。

睨みつけてくる愛鷹の憎悪に満ちた目を、大和はそらすことなく受け止めた。

それがかえって愛鷹を怒り狂わせた。

なぜ、この女はこんな目で私を見る? 許すとでも思っているのか?

金輪際そんな事は無い。こいつのせいだ、何もかもこいつのせいで私は大きな代償を払わされて生きている。

何と言えばいいのか分からないまま立ち尽くす大和に愛鷹は吼えた。

「帰ってよ! 出て行って、出て行け! 私の前から消えろ!」

その時、体に激痛が走った。激昂したせいで弱り切っている体に無理が来たらしい。

おまけに咽込み始め、苦しいと思った時ぷつりと言う音を立てて愛鷹は気を失った。

 

 

部屋から愛鷹の怒声が聞こえたのに驚いた瑞鳳は松葉杖を突きながら病室のドアに寄った。

誰かに向かって激しくなじる声を叩きつけていた。

見たこともない剣幕だったので瑞鳳は恐ろしさと同時に興味も沸いた。なぜ愛鷹がそこまで激昂しているのかと。

ドアを少しだけ開けて中を覗き込んだ時、激しく咽込む声が聞こえ、慌てて駆け寄る足音が響いた。

大変だ、と瑞鳳もドアを開けて助けに入ろうとしたが、部屋の中の光景を見て頭が真っ白になった。

理解できなかった。いきなりこの現実を見せられても瑞鳳にとってそれをどう理解したらいいのか、全く分からない。

ただ一つ確かだったのは、気を失ってぐったりしている愛鷹を抱きかかえながら涙を流している大和と、その腕の中に抱かれている愛鷹の顔が瓜二つである事だった。

 




ス級の以上に強い火力も絶対という訳ではありません。何かしら弱点はあります。かつての浮沈艦とたたえられた戦艦大和もしかり。
今回かなり愛鷹くんには無茶苦茶なことをさせてしまいました。
彼女とス級の戦いは海戦と言うより海上白兵戦に似たものと化していますが、艦これの海戦は個人的に海上での白兵戦に似た物じゃないかな? と解釈しています。
それを見極めてどう火力の低い愛鷹くんが攻略するか、それが見どころでもあり、書き手としての楽しみです。

指揮官として部下を一人でも失う事に苦悩する武本は、かつて多くの仲間を失っただけにかなり響くものです。

ズタボロになってしまった金剛くんですが、これは改二丙への改装の為にしてしまった私の凶行の様なものです。
金剛くんには悪い事をしましたが彼女はこの後パワーアップして戻ってきます。
改二丙の改修内容を聞く限りパワーアップと言うよりはマイナーチェンジのようですが。

第一五話執筆中に青葉くんの独自改二仕様の検討を考えるために史実の青葉について調べると、空爆で損傷した青葉を高速補給艦や航空巡洋艦へと改装する計画があったのを知りました。
公式が改二の「か」も「K」すら言わないので何とも言えませんが、青葉くんも本作中に改二(または私オリジナル改二)にパワーアップすることをここで予告しておきます。

ラストの愛鷹くんと大和くんとの確執と初めてわかる愛鷹くんの容姿についてですが、この原因についてはまだここでは詳しくは話せません。
そんな「見てはいけないもの」を瑞鳳は偶然にも見てしまったわけでありますが……。(「瑞鳳、見ちゃいました!」ではありません)

「チョルト ヴァジミィー」はロシア語で「こんちくしょう、くそ」ですが、ロシア語の悪態は言い回しが中々なものなので、女性のガングートくんが言うには汚すぎると思い、「悪魔め!」と言うのが元義になる罵声となっています。

春イベントがいよいよスタートしますね。今作を読んで下さっている艦これ提督の方々のご健闘をお祈りします。
新登場のBiG7は誰なんでしょうね……。新登場艦娘には海防艦や未確認の軽巡もいるようですが。
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