艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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推敲とか、手直しに時間がかかり、今月一日アップ予定が狂いました(遅筆になりそうだなあ)
本作では艦娘にはいろいろ事情があっての設定描写や、ネタ話、そして喫煙シーンがあります。「わかば」繋がりの艦娘は見た目不相応の喫煙です。喫煙は成人を超えてもなるべくしない様に……




第二話 被る影

寮は木造である為、耐震性や防火性には不安が存在しているので、近々建て替えが行われる。

階段を上る愛鷹(あしたか)の靴音が意外と大きく響く。木造故の音の響だ。慣れれば問題はないが、流石にくたびれ始めている感は否めない。静かに歩くのもいれば、疲れているので床に響く靴音を立てながら歩く者もいる。

ただ足音は慣れるが、改二仕様の艤装を扱える歴戦の妙高型重巡艦娘の足柄の騒音は巡洋艦寮の者としてはため息が出た。合コンによく失敗するらしく、悔し紛れに自棄酒飲んで、何語だか分からないような喚きと床が抜けそうな足取りだけは流石に慣れない。

慣れないのは酔いつぶれが不定期で、あそこまで飲んだくれになれるのは姉妹艦の那智や飛鷹型空母の隼鷹、瑞鳳型の瑞鳳と少なくないが、あの足柄のレベルに行くにはこの基地に寄港したことがあるイタリア艦隊の重巡ポーラと英国艦隊所属のネルソンか……。

基盤の調子が悪かった機器の修理を終えた夕張は、なぜかまた愛鷹の靴音が頭に浮かんできた。聞き覚えがあるだけに、このまま「もやもや」として終わりなのが性に合わないのが夕張自身の性格だからか。

それとは別に艤装を見ようと思ったのは、ほかの艦娘の艤装点検のために工廠で明石型三人と工廠妖精さんと油まみれになりながら、艤装の使い方のクセなどを把握していくことへの好奇心だろう。

後片づけの後、オレンジのツナギに着替えて工廠に向かった。

基地防衛艦隊籍とは言え、水雷戦隊の指揮を執ったことはある夕張は前線で硝煙の匂いを嗅ぎ、至近弾の海水を浴び、時には負傷「損傷」もした。

「ぼっち艦」なだけに、小規模の哨戒艦隊を率いて北は幌筵基地、南はショートランド泊地(ただし、現在は深海棲艦の反攻作戦で補給線が危うくなり戦略的撤退を含めて放棄された。今は北米艦隊の空母サラトガ、サイパン、戦艦サウスダコタ、コロラドを中核とした複数の任務部隊による奪還作戦が予定されている)の哨戒線パトロールから対潜警戒、船団護衛から空母機動部隊の防空艦役とこれまでこなしてきた戦闘内容は多岐に渡る。

艤装の点検やら装備の改修作業、時には「調査」と何でもかんでもこなするだけに「器用貧乏」「何でも屋」として見られるし、夕張自身「水上艦艇の艦娘としてできる事なら、いろいろと出来る」と言っている。

だから知らずと艦娘のクセが頭に残る。航行時の推進音、水切り音、帰投時のビーチング、さらに軽巡は対潜水艦哨戒も行っている。その為軽巡には絶対音感の持ち主もいる。

対潜水艦戦は基本的に駆逐艦の艦娘が行う任務だ。

しかし軽巡は駆逐艦より防御力があり、駆逐艦より艤装の仕様が遠洋航海任務に向いているので軽巡が対潜哨戒、偵察などの他、長距離遠征時の護衛艦役に出ることは珍しくない。

夕張も絶対音感程ではないにしろ、音を聞き分ける能力は高い。

対潜水艦戦では撃沈確実四、共同二、不確定一のスコアがある。

人間には隠れている第六感があると言うが、夕張はその第六感が普通に出るタイプだ。

 

工廠に着くと、修理中または定期点検・検査中の艤装が多く並べられている。

誘導兵器の類は姿を消し、砲熕兵装主体と退行したような装備だが、造りは複雑なので整備はまめに行う必要がある。

また工廠の隣には「応急処置所」と言う医療部門の施設があり、任務から戻って来た艦娘の健康診断から、海域で負った傷の応急処置をさらに長持ちさせ、基地内の病院で本格的な医療処置を行う前のバイタル検査まで行っている。

クレーンがいくつか立っているが、これは艤装を自力で取り外せない艦娘(特に重巡以上の艤装など)に代わって外された艤装を収容するものだ。

 

艦娘は海の上を航行するときは、装着する艤装に「機関部」が組み込まれており、艦娘によって装着位置が異なるが大体は背中か臀部よりやや高いところに「機関部」を備えている。

「機関部」は艦娘が装備する艤装の動力源であり、敵弾、爆発した破片などから、生身の体へのダメージをある程度は防ぐ耐久性がある「防壁機能」がある。

損傷すると主砲の装弾機構と旋回、射撃照準計算など、艦娘が今狙っている攻撃目標を艦娘自身が音声入力や手動操作して着弾座標など、いろいろなところで手動制御になるので反応速度が低下する他、「防護機能」も落ちてしまう。

さらに戦艦クラスや重量が増えた艤装を備える駆逐艦や巡洋艦などとなると、艤装重量が大きくなるため、パワーアシストの面も担っている。

 

「機関部」はもともと艤装と一体型だったが、夕張が着任する少し前に緊急時の応急運転に備えて単一乾電池並みに小型化されている上、ユニット型になっているので「機関部」が破壊されても、回路に甚大な損傷がなければ「機関部」ユニットの交換で再始動可能だ。

また「機関部」への回路の再接続のための応急修理キットもあり、艦娘は自分の艤装が損傷した時の応急修理程度の知識を熟知しておかなければいけない。

 

近代化改修などではさらに高出力の「機関部」ユニットの搭載もあるため、改修時には「応急修理」の実技と座学も受けなければならない。

評価は零点か満点の二種類。

「機関部」がダメージを受けるとダメージ次第では「主機(もとき)」へ動力供給が低下、もしくは断たれるので、「機関部」が無いと「主機」への動力供給が出来ず、海の上を高速航行することはできないし、片肺運転、「防護機能」の低下が起きる。

片肺の状態は大体損傷の酷さでただの重荷になっただけの「主機」の解除、または靴自体を脱ぎ捨てた時によくある。

 

「主機」は解除されると、鹵獲防止のため自爆システムが自動起動し海中内で爆発する。艦娘の中にはこれを応用した攻撃をする者もいる。

一応歩く、走るなどのことは「主機」だけでも出来るが、「機関部」が全損で応急修理不能となると艤装操作は不能になる他、パワーアシストも予備動力の補助で一定時間は維持可能だが、補助動力のタイムリミットになるとただの重荷だ。

このためこちらも解除可能で「自爆システム」も存在する。

「自爆システム」には二重三重の安全機構が備えられている。

「主機」には艦娘の靴底に主機と舵を付けて航行する「外装型」と、靴自体が「主機」と一体化した内装型と呼ばれるものの二種類が存在する。

外装型がどちらかと言うとメジャーだが、内装型はヒールが舵になっており形状はハイヒールのようになる。

 

ちなみに駆逐艦、空母、重・軽の巡洋艦、戦艦と艦娘は分類されている艦種によって制服が異なるだけでなく、姉妹艦でも制服が異なる艦娘は珍しくなく、統一制服を着ていることはまずない(ただし、礼服として一応支給されている)。

一方で夕雲型や大型艦艇の艦娘では統一化されている。

もっとも制服と言うよりは艦娘の個性が出ている普段着、の面が強い。

海中が主な戦場となる潜水艦は音が重要なので、普段からビーチサンダル履きが多く、動きやすさのために着ているスクール水着の上にセーラー服の上着を羽織っているのが陸での普段着であることが多い。

潜水艦艦娘の艤装の対弾性では駆逐艦以下だが重量面ではもっとも軽量だ。

海中内での気圧変化や酸素ボンベ内の酸素残量が少なくなった時の呼吸調整、自身に何が起きているかを冷静に考えるなど、メンタルと体力面ではかなり優れている。

 

そんな艦娘らの艤装を数多く見て来た夕張は駆逐艦、巡洋艦、戦艦、空母、潜水艦などの艤装やクセが夕張の頭に自然と入って来るので、目をつむって考えてみると愛鷹の足音は……。

と考えているうちに工廠内に入っていた夕張は、工廠内の作業音を聞いて愛鷹さんの事は後でにしようと頭の中で考える事を替えた。

「夕張さーん。新しい艦娘が来たみたいっすよー」

明石型工作艦の艦娘で明石型の末っ子の桃取が夕張を呼んだ。

新しい艦娘と言えば愛鷹の事だろう。

「愛鷹さんの艤装の事?」

「はい。でもちょっと変わった代物っす」

変わり物の艤装と聞いて夕張のメカ好きの興味がそそられる事は当然と言えば当然だ。

見に行くと、明石型の明石が愛鷹の艤装の仕様書の分厚いファイルを読み、三原が工具類でいろいろと見ている。

周りには黄色いヘルメットを被った妖精さんが艤装のアクセスハッチを開けて、仲間と共に覗き込んでいたり、金槌で叩いて音響検査までしているいる。

「こんにちは。随分分厚い仕様書ね」

「ええ、結構最新の技術や試作段階の最新装備がてんこ盛り。

これ、量産するのはお金が結構かかるよ」

「主砲はどんな感じ?」

仕様書を読む明石に代わって、三原が答えた。

「三一センチ三連装砲三基。金剛型改二よりも連射速度は高いです。

複雑なメカニズムです。弾種切り替え装置はともかく、五〇口径の三一センチ砲は砲身摩耗除けか自動冷却装置を備えていますね」

「自動冷却装置?」

聞かない名前だ。

 

主砲が三一センチとは……同口径の主砲はロシア太平洋艦隊に配備された戦艦「ガングート」と同じくらいだ。

一応ドイツ艦隊にはシャルンホルスト級戦艦、リュッツオウ級装甲艦(世界的には重巡扱い)などは三連装二八センチ砲を使用していると言う事があったが、シャルンホルスト級は打撃力強化のために三八センチ砲に換装されている。

三一センチ砲では速度重視、装甲犠牲の高速戦艦タ級ですら相手取ることが出来るかどうか……重巡相手ならリ級後期型やネ級、ネ級改相手に不足無しの方ではあるが、軽巡以下を相手するには火力が過剰だ。

 

明石から受け取った仕様書では確かに、量産性に向いた構造とは程遠い。

主砲につけられている自動冷却装置は、発砲するごとに過熱化していく主砲砲身を冷却用の水で冷やす、と言うシステムで砲身摩耗の軽減も兼ねてはいる。

ただ今のところ試作品が少数製造されて性能テストをしている、とまだ実戦投入されていないと聞いていた。

さらに電探(レーダー)は対水上、対空用の捜索用の二つと、射撃に使うものが複数装備されている。

また水偵発射用のオートマチック拳銃型発射機まである。

「凄いわね。なんだか、オーパーツみたいで……」

仕様書を閉じた明石がため息交じりに言う。

「でも、結構面白くないっスか? 長一〇センチ砲とか蒼月ちゃん並みかも」

「モールスと音声の両方が使える通信ヘッドセット。自動の暗号解読、作成機能はすごく便利です」

子供のようにはしゃぐ三原と桃取に明石は苦笑を浮かべると、夕張も思わずつられる形で笑った。

その時、工廠の扉が開いて誰かが入って来た。

「ども、恐縮です、青葉です! 凄い艤装が入ったと聞いたので取材に着ました」

「アシスタントの衣笠でーす」

扉に青葉型重巡の青葉と衣笠がニコニコ顔で立っている。

うわー、なんか面倒な気もしなくはない二人組が来た、と明石と夕張は胸中で呟いた。

青葉はいつもの自前カメラとペン、手帳、衣笠はハンドカメラを持っての登場だ。

しかし、はしゃぐ三原と桃取は青葉と衣笠の事には気が付いていない。

当然はしゃぐ二人の様子を青葉が見過ごすはずがない。

「お⁉ 何々、何の話ですかー?」

青葉が三原、桃取のところへと駆けていく。衣笠も追いかける。

工廠内では「駆け足禁止」だ。

そこいらじゅうに精密機器やケーブルが置かれているから足を引っかけて壊す、転倒すると艦娘は元より艤装類などを壊すと明石にこってり絞られる。

しかし青葉型の二人は、大丈夫精神で駆けていく。

駆けだした二人に踏みつぶされまいと慌てて妖精さんが道を開ける。

が、衣笠はサンダルのヒール部分を電源ケーブルに引っ掛け、転倒した。

痛いと転倒した妹を起こしに青葉がいったん戻ってから、愛鷹の艤装取材が始まった。

仕様書などは機密事項が多いので、青葉でも隠すところは隠すとわきまえている。艤装関連の機密事項に触れると、長門の検閲に引っ掛かって削除される。

青葉の取材に三原、桃取は興奮した表情で熱く語っている。

その様子を衣笠がハンドカメラで収録している。

そう言えば、青葉も第三三戦隊の一員だったわね、と夕張は今度組み込まれる艦隊の一人に青葉がいるのを思い出した。

 

普段から明るく、お惚けキャラ、やらかし系の青葉だが、出撃時は「カメラ持って行けたらなあー」と言いつつもいざ交戦すれば、的確な砲撃と雷撃で敵を倒していく。

艤装にはやや形式が古いものの電探(レーダー)が装備されており、夜目もきくので夜戦での功績も多い。

ただ、艤装の改良が行われていない為に燃料消費がやや悪く、弾薬類も、砲弾発射時の装薬が減装薬でないと砲身の摩耗や負担が大きい、電探、水中探信儀の性能が改修前の駆逐艦陽炎型並みなどの旧式感が否めない。

その代わり、戦闘時の練度は高く(過去の失態もあり)、頭もよく回るので装備の優劣で青葉の性能(戦闘経験)を決めるのは早計だ。

現に揶揄だった足柄の「餓えた狼」とは違い、功績などで上げた「ソロモンの狼」の二つ名は伊達ではない。最も足柄は青葉型より艤装性能が元々高く、姉妹全員が改二になっている妙高型重巡なので「餓えた狼」も次第に「本当の意味で」当てはまり始めている。

欠点と言えば「残念美人」と言う青葉型の二人以上の「やらかし」があるところ言う事だろう。

 

衣笠は二つ名こそないが、青葉とは明るいところは同じでも、どちらかと言えばしっかり者タイプだ。

青葉のアシスタント役をやるようになる前に「衣笠型重巡一番艦衣笠」と周囲から言われていたことがある。

世話好きなところが多いので武本から「それくらい自分でもやれる」と溜息を吐かれるほどだ。

「衣笠さんにお任せ」が口癖である。

 

夕張は軽くため息を吐いて、明石に「チェックがいる艤装ってある?」と問い、矢矧(阿賀野型軽巡)の艤装の反応速度が遅いと言う苦情対応に付き合ってほしいと矢矧の艤装を見に行った。

新鋭の阿賀野型軽巡の矢矧はデスクワークがやや苦手だが、戦闘となれば重巡並みに立ち回れるほか、阿賀野型四人の中で武功が多く、損傷負傷の回数も比較的少ない。

矢矧の艤装には既に妖精さんたちが乗って、聞こえない声で指示を出したり、頭を抱えていたり、工具類を持って走り回っている。

「チフちゃん、調子は?」

作業用グローブを手にはめながら明石は「チフちゃん」と呼ばれる妖精さんに尋ねた。

黄色いヘルメットに「ちーふ」と書かれた妖精さんが、明石の元に向かうとしゃがみ込んだ明石に作業の進捗具合を報告した。

チフちゃんは工廠の妖精さんのリーダー格でまとめ役だ。

妖精さんたちは特に名前などを持っていないらしく、それぞれが勝手に思いついた名前で呼び合っている。

本当にしゃがまないと聞き取りにくい声でチフちゃんが、「もう、これ以上は無理」や「配線を取り換えたばかりなのにもう交換時」と、半ば苦情めいたことを身振りも交えて伝えてきた。

チフちゃんは夕張にも顔を向けると、「燃費悪すぎ」「もっと低コストにして」「いったい幾らするか解ってる?」と夕張特製艤装への苦情を出してきた。

ごめんごめん、と夕張が謝ると「愛鷹のと比べたら、まあ、まだマシです」とチフちゃんが腰に手を当てて愛鷹の艤装に視線を向けた。

「やっぱり、難しい構造なのね」

その通りだ、と腕を組んで首を縦に振るチフちゃんは「艤装のマニュアルが届いたのが今朝だったので、習熟するのに苦労した」とも訴えてきた。

いろいろな艤装の整備、点検、修理に携わるだけに、艤装改良、特に改二となると妖精さんたちはマニュアルに目を通し、頭に叩き込む苦労は艦娘以上かもしれない。

 

どんな形で生まれてくるのか、それとも作られているのかは分からない妖精さんは、結構な重量物を抱えて運ぶ、飲食するところが見られない、と艦娘とは非常に関係が深い割にはかなり謎が多い存在だ。

たださぼり寝や仮眠をとる所は見受けられるし、非番の妖精さんは艤装で遊んでいたり、運動場で長距離走や短距離走と、妖精さんなりに自由気ままにやっている。

多種多様な性格の持ち主達でもある。

チフちゃん達まで苦労する艤装作る上の人たち……ちょっとは配慮してよ、と夕張は胸中でぼやいたが、自作の艤装と主機で迷惑をかけた自分も同じか、と思い至り苦笑を浮かべた。

 

 

「あー、やっと着いたよ、みんな。愛しの我が家だ」

陽炎型駆逐艦の長女陽炎は、続航する第一八駆逐隊の不知火、霞、霰と第八駆逐隊の朝潮、大潮、満潮、荒潮、第一九駆逐隊の磯波、浦波、綾波、敷波に、室蘭基地での対潜掃海任務遠征を終えて、へとへとになって戻って来た基地の姿を見て、安堵のため息を吐いた。

大潮は疲労からか半ば寝ておりあきれ顔の満潮、荒潮に支えられながら航行している。

室蘭基地では深海棲艦の潜水艦隊、それも強力なヨ級が一度に六隻も出現して対処に精神を削られる日がある程だった。

最近は厄介なことにヨ級だけでなく、カ級の機雷敷設型まで出て来ているのだ。

 

対潜水艦戦闘ではソナー(音響探信儀)による聴音を頼りに静かに航行し、発見次第爆雷を叩き込むのだが、爆雷の爆音でソナーは一時的に使えなくなる。ソナーでの聴音が可能なほど静かになるまで待っていたら逆に魚雷を撃ち込まれてしまう事は珍しくない。

室蘭基地からの掃海・対潜水艦掃討の協力要請を受けて武本は第八、一八、一九駆逐隊を送りだした。

現地には海防艦の艦娘らで結成された対潜装備が充実した部隊がいたものの、速力や艤装の航続距離(稼働可能な時間)が陽炎型や朝潮型、特型駆逐艦より劣っている。

 

三つの駆逐隊の総まとめ役は陽炎が担った。

高いリーダーシップと人当たりのいい明朗快活な性格、豊富な実戦経験、一時的にだが特別混成部隊である第一四駆逐隊の嚮導駆逐艦の任務に就いたこともあり、その素質を前任の司令官に高く買われたからだ。

実績の豊富さから改二への改装許可が下りたが、改装工事の時間が長かったため、許可を出してくれた前任の司令官の定年退職まで改装が間に合わなかったが陽炎として少し気残りである。

退職した前任の司令官は基地近くの山の中で隠居生活していると聞いているので、時間があれば合って報告しようと思っている。

室蘭基地到着後掃海具で機雷を撤去、ヨ級への対処に当たったが、磯波が全方位からの魚雷攻撃を受ける、掃海具が足りなくなるなどのハプニングが続き、さらに連日の出撃の合間の少しだけの息抜き中での出撃は、流石に改二になったとは言え、体力面、精神面でストレスが溜まる。

室蘭基地司令は人当たりのいい沖山と言う准将が勤めており、サポートのためにいろいろと世話を焼いてくれた。

事態の深刻さに武本はさらに第六、第七駆逐隊や室蘭基地の海防艦とは違う海防艦などの対潜・掃海で実力のある援軍を送り出したが、陽炎たちの疲労も増して限界近くなっていた。

だから帰投命令が出た時は、我が家に帰れると喜んだ。

 

ところが帰りは鉄道かと思いきや、日本艦隊統合基地に「太平洋沿岸部を通っての洋上航行帰投」と言う事には幻滅した。

こればかりは酷だ、と電話で武本に陸路での帰投許可を直談判すると、「上からの命令」と言う武本自身もひどく幻滅した声で返してきた。

それでも陽炎たちが洋上航行での基地帰投に首を縦に振ったのは、武本自身も受話器越しでもわかるほど疲労がたまった声だったからだ。

 

沖山准将が仕入れてきた話では、どうも別方面での遠征に出ていた友軍艦隊が壊滅し、さらに北米艦隊と日本艦隊合同でのラバウル基地に空爆を行った深海棲艦機動部隊追撃戦で、参戦した一航戦こと第一航空戦隊と、雲龍型空母艦娘四人(四隻)からなる第六航空戦隊は、深海棲艦機動部隊の波状攻撃を受け、撃沈は出なかったものの空母赤城、鞍馬、生駒が大破。

北米艦隊も空母レプライザル、軽空母プリンストン、戦艦マサチューセッツを含め多数が大破、中破と敵艦隊の壊滅には成功したものの事実上の引き分けとなる艦隊戦が起き、武本はその後処理のために複数の関係者と共に奔走していたのだ。

入渠(治療)、艤装の修理、損耗した空母艦上機部隊の補充と再編、戦闘経過報告書作成と「国連軍」高官からの無茶な要求やらに追われたらしく、仮眠全てを合わせても二時間にも満たない激務で、武本自身も疲労困憊だったのだ。

武本がダウンしかけていると言う事は、長門や陸奥らも苦労しているのは簡単に予想がつく。

それでも「睡眠と食事はとれているか?」「すまないな、無理をさせてしまって。有給休暇とか休養スケジュールを可能な限り確保させるから」「みんな無事かい?」と気遣ってくれるのだ。

ところが青函トンネルが深海棲艦の艦砲射撃で排水施設や変電所が破壊されたため、当面使用不能になったという連絡は陽炎たちにはやはり酷な話だった。

 

「流石に疲れましたね」

続航する相棒の不知火が疲労を滲ませた声で言った。

「でもま、全員で帰って来たんだし、いいんじゃないの。

武本には一発ぶちこみたいけどね」

「ダメです、霞。腹いせに司令官を殴るなんて、とんでもありません」

むっつり顔の霞の言葉に朝潮が窘める。

霞は「周りに喧嘩を売り歩いている」と言われる程、他人(艦娘も)に対し良くも悪くも暴言を吐いたりすることがある。

朝潮はそんな霞をいさめる朝潮型一番艦だが、長女の朝潮にも霞は説教口調で話す。

武本に対しても敬語を使う事は殆どないが、武本は「自分の考えを正直に相手にぶつける。彼女からすれば反論されることで自身の求めている何かを探しているのだろう」と謝罪に来た朝潮に言っていた。

武本が着任する少し前に改二改装がなされたが、常に尖った性格だ。

しかし改二から改二乙への改装許可を出してくれたり、艦娘への武本の接し方を見ていく中で少し考えが変わってきている様で、姉妹艦の荒潮曰く武本に対し何かしらの恩義は感じているようだ。

一方朝潮は「忠犬」と揶揄される程、司令官(提督)に忠誠を誓う駆逐艦の艦娘だ。

特に武本への忠誠心はかなり高い。

ただ命令によっては「イエスマン」姿勢ではなくなるし、改装しても艦娘特有の体躯の発育が止まった為身長が低い事を気にする、など多少のコンプレックスを抱えているらしい。

 

「帰ったら、とりあえず寝たいなあ」

敷波が欠伸を漏らす。マイペースそうに見えれば、尖ったところもあるなど霞とは違って、自身の気持ちを表に出すのがうまくできないのが敷波だ。

実戦経験は豊富だがどちらかと言うと、「何も起きないで終わってほしいな」と傍観者視点とも取れる発言が多い。

「提督、また迎えに来ているのでしょうか……」

「来ていると思うよ。あの人の事だし」

「でも、お茶入れは綾波さんじゃなくて提督がするでしょうね」

袖から延びる腕や頬に絆創膏を張った磯波が少し恥ずかし気に呟くと、第一九駆逐隊では唯一の改二になった綾波が元気だして、と笑顔で言い、それに浦波が茶化すように付け加える。

 

綾波は気を抜ける非番のとき、よく茶を入れるのが好きだ。司令官にも振舞っており、高評価を得ている。

英国生まれで帰国子女の金剛型戦艦金剛とはお茶についての話で盛り上がることもある。

以前英国所属の戦艦ウォースパイトが来たときは紅茶に興味を示している。

磯波は蒼月ほどではないが、自分に自信を持つことが上手く出来ない。

体の発育が止まっている事にも気にしており、消極的な性格だ。

しかし海戦では結構な粘り強さと幸運の持ち主で「努力すればいつかきっと報われる」と言う持論持ちでもある。

ただし自信が持てない所だけは入隊から今になっても変わることがない。

浦波は磯波に似た容姿だが積極性や戦闘時の姿勢、肝が据わっている。

ただ必要なことしか言わないことが多々あって誤解を招き、苦労する羽目になることがある。

掃海作業中に至近距離での機雷の爆発を何とか凌いだことがあるが、その際でも「大丈夫」としか言わないので陽炎たちから心配されている。

 

くたびれた三個駆逐隊の緊張が弛緩している中、陽炎は指揮官として気を抜けない、と母港を目前にしながらも気を抜いた時に撃たれる、とソナーやレーダーの反応を確認するが今のところ何もない。

陽炎に続航する相棒の不知火は非常に慎重深いので、疲労を滲ませながらも対潜警戒をしていた。

海戦時に自身に直撃を与える、至近弾を浴びせる相手には情け容赦がないので「駆逐艦では本気で怒らせたら何するか分からない」と評されている。

深海棲艦は滅ぼすべき対象と見ているので、「深海棲艦への理解」を見せる武本とは噛み合わないところがある。

それもあってか、英国艦との共同作戦時に不知火に付けられたあだ名は「ブラッディ・シラヌイ」だ。

 

と、陽炎のブレザーベストの胸ポケットから電子音が鳴った。

艦娘が出撃時に必ず必要とする「羅針盤」だ。

航路計算やソナー、レーダーの反応表示が出来る優れもの。

この「羅針盤」は夕張が自作して試験運用したデータを日本艦隊司令部を通して「国連軍」に提案した所、即効で正式採用された珍しい装備の一つだ。

この時夕張は大尉へ昇進している。もっとも夕張にとっては階級より給料が多少上がった事の方が嬉しかった。

電子音から対空レーダー反応の様だ。

機影は一機のみ。

この日本艦隊統合基地の対潜哨戒担当する哨戒機東海の様だ。

速度は遅いものの対潜哨戒機としての性能に問題はない。

しばらくすると東海が陽炎たちを見つけ、翼を振るバンクをした後哨戒任務のために別の方向へと転進し去っていった。

「あれ?」

ふと基地の近くにある見晴らしのいい崖の上に人影がいるのを陽炎は見つけた。

コートを着て海軍佐官制帽を目深にかぶった背の高い女性が腕を組んで水平線の彼方を見つめている。

視力は結構高い陽炎から見た感じは女性将校にしか見えない。

ただ提督ですら常備していない刀を左腰に差している。

誰だかは分からないが、ポニーテイルとコートを海から吹く風になびかせているその姿に何かが被る。

誰だろう、と疑問を抱きながらも第八、一八、一九駆逐隊の面々は基地へ帰投した。

 

 

オレンジ色の彗星が、一二・七センチ連装砲が撃ち放った対空弾の散弾を辛うじて躱し、跳躍爆弾攻撃(爆弾を水切り投げの容量で投下して攻撃すること、スキップ・ボミングとも)の攻撃コースに入った。

直ぐに主砲を彗星に向けて構えるが、彗星は模擬弾とは言え機首の機銃で牽制射撃をしてくる。

細かくステップで当たると結構痛い模擬弾の火箭をかわしながら特型駆逐艦深雪は「落ち着け、冷静に、氷の様に……」と呟きながら、主砲の射角を修正し、爆弾倉を開きかけている彗星に照準を定めた。

「てぇーッ!」

五〇〇キロ爆弾が彗星から投下される寸前に、深雪の一二・七センチ連装砲の砲口から爆炎と黒煙が吹き出し、対空弾二発がオレンジ色の彗星の近くで炸裂する。

ぐらりと彗星は姿勢をずらし、危うく海面に突っ込みかける。

どうにか機首を上げ、スロットルを上げながら爆弾投下をやり直そうとするが、深雪はすでに第二射を撃っていた。

一発は機首の目の前で炸裂してプロペラをもぎ取り、一発は右翼に直撃して信管を起爆させた。

爆散し、破片を海面に撒き散らした彗星を見て深雪は「次!」と今度は二機の彗星を見る。

二機の彗星は二手に分かれて今度は急降下爆撃のコースをとる。

「交互撃ち方、三式弾改二信管VT、右の彗星」

右手から来る彗星へ向けて、深雪は主砲を構え、上昇する彗星の先に照準をわせる。

「てぇーっ!」

深雪の主砲が右と左の主砲を交互に撃って、対空弾を連射する。

上昇する彗星の周りで対空弾が炸裂するが、彗星は紙飛行機ではないし装甲が薄っぺらではないからそう容易には落ちてくれない。

今はまだ攻撃してきていない左手の彗星の動きをちらちらと確認しながらの対空射撃だ。

と一発が彗星の直上で近接信管を作動させた。

機体がぐらりと姿勢を崩す。なんとか立て直そうとした時に今度は真下で炸裂した対空弾で彗星は跳ね飛ばされ、火の玉へと変わった。

破片が黒煙を引きながら落ちていく。

すぐさま左手の彗星に照準を付けようと向きを変えるが、エンジン音は聞こえても姿が確認できない。

ただ、急降下爆撃時のダイブブレーキの音がしないから爆撃のチャンスをうかがっているか、跳躍爆弾攻撃のためいったん離脱して攻撃ポイントを探っているか。

「奴はどこ行ったんだ? 太陽を盾にしているか?」

太陽を背に急降下爆撃されること程、応戦しにくい爆撃だ。

深雪の艤装にも対空レーダーはあるが、今は「電探カット」条件での対空射撃演習だ。

深雪の目は海と空を目と耳の間隔をフル動員して彗星を探す。

エンジン音は頭の方、つまり頭上だ。

ほんの一瞬、右手視界の端にきらりと何かが光ったかと思うと、エンジン音が高まり始めた。

「そこか!」

彗星は深雪の背後をとっている。

その場回頭で向きを変え、同時に艤装に「機関後進全速」と主機の推力を前進から後進に変える。

投弾態勢に入った彗星がダイブブレーキの音を立て始めているのが聞こえてきた。

完全に深雪は彗星に捕捉されている。

対空弾を撃ち続けながら、落ちろ、落ちろ、落ちろと胸中で喚く。

すぐ周りで対空弾が炸裂しているが、彗星は被弾した様子も怯む様子もなく降下を続け、爆弾倉を開いた。

プロペラとの接触を防ぐための誘導桿が爆弾倉から五〇〇キロ爆弾とともに姿を現し始めたが、深雪の放った砲弾が二発立て続けに命中した。

近接信管作動による散弾を浴びての被弾ではなく、二発の対空弾の直撃だった。

彗星は大爆発を起こして木っ端微塵になって果てた。

見事な射撃での撃墜だったが、深雪は苦り切った顔で「くっそー……」と呟いた。

「一二機の艦爆(艦上爆撃機)相手に六機だけかー……八機くらいは行きたかったんだけどな」

至近弾や撃墜した朱色塗装の彗星の無人標的機の爆炎を浴びて降りかかった頬の煤をこすりながら、急降下爆撃機一二機との教練対空戦闘(対空戦闘訓練)での撃墜スコアに深雪は思ったほどの戦果が出せず、悔しい気分で一杯だった。

さっきの艦攻(艦上攻撃機)の模擬弾頭魚雷攻撃への対空演習では、一〇機中六機を撃墜したが、艦爆は少し難しい。

特に直上から突っ込んでくる急降下爆撃は、回避後や爆撃アプローチに入る時が一番のカモだ。

跳躍となると距離を正確に測らないと爆弾投下を許してしまうし、単独だと急降下爆撃されたら「躱す」か「落とす」、もしくは「被弾する」かだ。

深雪の様な駆逐艦では急降下爆撃一発程度で大破ないし撃沈されてしまう。

 

「まだやるー?」

演習のために呼び出すと、快諾して来てくれた軽空母瑞鳳の言葉に「勿論!」と返した深雪は、構えている一二・七センチ連装砲の対空弾の残弾を見て表情を曇らせた。

対空弾の消費が少し多い。

「下手な鉄砲数撃てば当たる」とは言え、深雪にはやはり納得いく記録とは言えない。

「吹雪には負けらんねーな。初雪とか白雪並みだな……まあ、白雪は弾幕派だけど」

改二への改装はまだだが、特型駆逐艦一番艦の長女の吹雪には改二が出来てあたしには出来ない訳がない。

日々の鍛錬あるのみ、深雪が胸中でそう呟いた。

瑞鳳はと言うと艦爆の標的機用の矢を矢筒から出して弓にかけた。

「あ、あの二人ともちょっと……」

さてやろうか、と構えていた二人に控えめな口調で声をかけたのは蒼月だった。

ハイヒールをコツコツと鳴らしながら走って来る蒼月は、髪型が深雪の長女の吹雪と妹格の磯波とほとんど同じで、顔立ちは磯波に似たところがあるが髪の毛の色が明るい茶髪なので、髪の色で磯波との識別がしやすい。

秋月型故なのかは分からないが背丈が高く、深雪、瑞鳳にとっては羨ましい程度に胸囲がある。

「なに、蒼月ちゃん」

「こっちは今教練対空戦闘中だから、手短にしてくれよ」

二人にそう言われた蒼月は三つの封筒を持っていた。

「二人に異動命令が来ているみたいなの……」

「異動命令?」

矢筒にいったん矢を戻した瑞鳳と、陸上に上がって足につけていた主機を外した深雪に蒼月は茶色い封筒を渡した。

「なんの異動命令だ? まあ、待機室で開けるか」

「そうね」

 

演習場の端にストーブや扇風機付きの平屋建ての訓練待機室がある。

三人はそこへ行った。

深雪と瑞鳳が装備を保管室に一旦置くと室内のベンチに腰掛けた。

季節から言ってムッとしてくるような暑さはないが、少し蒸し暑さを感じるので窓を開ける。

「今度はどこに行くのかな? 新入りしごきかな? それとも久々の遠征かな?」

封筒を開ける時に楽しみだと言う気持ちをそのまま顔に出している深雪が、封筒から出したのは蒼月の言う通り命令書だった。

深雪は第三三戦隊と言う武装偵察艦隊へ配属されることになったと書かれた命令書を見て、「艦隊任務か……」と口笛を吹いて命令書を読んだ。

「瑞鳳はどこに配属されんの?」

「武装偵察艦隊の第三三戦隊だって。偵察、防空、対潜哨戒を任された軽空母」

同じ部隊じゃんか、と深雪が言いかけた時に蒼月の方が驚きの声を上げていた。

「瑞鳳さんもですか?」

「んー、そう見たいね。その顔だと深雪ちゃんも?」

「ああ、あたしも第三三戦隊配属だと。初めてじゃないか? 三人同じ部隊って……ああ、もう一枚入ってた」

珍しいこともあるんだなあ、と自身と瑞鳳、蒼月が初めて揃っての部隊配備に驚きつつも、もう一枚あった命令書に目を通した。

 

艦隊編成だ。第三三戦隊は二つの小規模分艦隊からなっており、深雪は瑞鳳と共に重巡青葉率いる第二分艦隊、蒼月は夕張と「超甲型巡洋艦愛鷹」と第一分艦隊を組む。

 

愛鷹? ……ってこれなんて読むんだったっけ? 「あいたか」か?

 

「艦隊旗艦は『あしたか』って人がやるみたいね。私たちの艦隊に愛鷹なんて人はいたかな」

「確かに。私も初耳です。超甲型巡洋艦愛鷹って言われても重巡の新しい艦種名なのかどうか……」

首をひねる瑞鳳と蒼月と命令書に書かれている「愛鷹」が「あしたか」って読むんだ、と深雪は別の意味で愛鷹の読み方を覚えた。

たしか富士山のお隣にある山が愛鷹山って聞いた覚えがあったな……山岳名てことはやっぱ重巡だろうし、まあ巡洋艦なのは確かだな、と深雪は愛鷹について深く考えなかった。

命令書には愛鷹がどんな人物かは書かれていない。

「青葉さんと夕張さんも同じグループに配属されるんだ……」

「ええ。でも外洋艦隊ですよね、これ……?」

少し怯む様に言う蒼月に「大丈夫さ、何とかなるって」と深雪は肩を軽くたたきながらも、まあ外洋艦隊に組み込まれるのは蒼月には初めてだからな、と自分も外洋艦隊に初めて組み込まれたときは緊張したのを思い出す。

 

海軍入隊前、黒帯持ちの格闘技に強かったこともあり、深雪は外洋艦隊で場数を踏んでいくと近接砲戦時に重巡リ級を背負い投げし、海から飛び出してきた駆逐艦イ級に飛び蹴りを食らわせたのを思い出した。

電の誤射による怪我の復帰後はいろんな部署に配属されたが格闘技の腕は衰えてなかった。

それがいつの間にか「深雪スペシャル」と誰が言い出したのか、深雪自身も知らない内に定着していた。

第一一駆逐隊から除籍された深雪は護衛艦隊配備になった時、深度の浅いところを無音潜航中だった潜水艦カ級相手に爆雷を素手で叩きつけて撃沈するなど、除籍前も後も九割がた小破(軽傷)はしても、砲戦、雷戦だけでなく特技の格闘も生かした戦闘スタイルで戦う事にこだわりを持っていた。

ただ、流石に格闘戦は通用しなくなり始めている上、艤装に損傷を与えすぎていることが問題視されてきたので(明石や夕張らに怒られる、反省文を書くなどは流石に深雪にはつらい)、本来の兵装の一二・七センチ連装砲、三連装魚雷発射管を駆使して戦う事へとシフトを変え始めている。

暇さえあれば艤装を使った正確な射撃の演習に時間を割いている。

 

「ま、次の仕事先決まったし楽しみだぜ」

次の仕事場の事を考えると満面の笑みを見せてはしゃぐ深雪に、蒼月と瑞鳳は頼もしさをよく感じる。

射撃では圧倒的に蒼月が得意だが、意志の弱さは蒼月自身、自覚している。

一度「よく海軍に入って艦娘になれたな」と言われて「自分でも時々不思議になります」と返したことがあった。

それだけに霞や満潮、曙と言った同じ駆逐艦から「臆病者」と罵倒されることもある。

また瑞鳳も蒼月ほどではないが、配備されたての時はおっかなびっくりな性格ではあった。

しかし祥鳳、加賀、瑞鶴と言った仲間や先輩の指導を受けて腕を上げ、場数を踏んでいくうちに自身もつき、改二へと成長を果たしている。

「飲兵衛艦隊倶楽部」と言う酒飲み愛好家の艦娘が作ったモノにも入っている。

 

命令書を読んだ後、蒼月が深雪にアドバイスする形で教練対空戦闘演習は続き、夕暮れ時に今日はこれくらいにしようと言う事で三人は演習場を出ていった。

艤装を格納庫に戻した頃には日没の時間帯になっていた。

そろそろ夕食時だ。

基地の空が朱色になり、奇麗な夕焼けを見ることが出来た。

「明日は快晴」と三人揃って、見慣れている光景ながらも美しい夕焼けに見とれながら夕食はなんだろうかと基地施設に戻っていった。

 

 

その日の夜の食堂では、着任した超甲巡愛鷹の事の話が出回っており、どんな人物なのか関心が集まっていた。

しかし、愛鷹本人は食堂に来ることは無く、青葉と衣笠、明石型三人、夕張から艤装の性能を聞く事しかまともな情報が無かった。

通信員任務を練習巡洋艦鹿島と橿原に引き継いだ大淀と仁淀に聞く者もいたが、結局有力な情報を得ることは出来なかった。

誰だろう、どんな艦娘なんだろう、長門さんや陸奥さんなら知っているのでは、と言う話をした時に食堂に、ちょうど良く来た長門に愛鷹の事について聞こうとフレッチャー級駆逐艦フライシャー、駆逐艦レースキイらも含む艦娘の数名が聞きに行ったが帰ってきた返事は長門自身の困惑と、むしろこっちが知りたいと言う有様に終わった。

結局分からず仕舞いで終わったので、とりあえず「見ざる聞かざる」で今は治めておこう、と陽炎が言って冷めかけの食事に艦娘達は戻った。

聞きに言った艦娘が発育は止まってはいるが、素の精神的にはどう見ても子供としか言いようのない駆逐艦ばかりだ。

 

一方、同席していた見た目も中身も年上である海外艦のシュペー、アラバマ、ガングートはまた別の角度で愛鷹と言う人物への興味がわいていた。

シュペー、アラバマ、ガングートは尋ねに行くことは無かったものの、「そこまで正体を隠す艦娘が来るとは。どのような艦娘なのか」と好奇心とはまた別に、信頼できる人物なのか、仲間を率いるだけのリーダーシップを持っているのかが気になった。

三人とも艦隊旗艦(特にガングートはロシア太平洋艦隊の旗艦であり、立場上は長門と同じだ)を務めることがよくあるだけに、個人情報が一切不明な愛鷹にはわずかだが不信感も抱いていた。

旗艦が隠し事を多数持っていれば、その旗艦自身にはよけれど、行動を共にする者同士として、それが不安と懸念の素になり作戦の失敗、最悪命を落とす可能性が大きくなる。

 

「日本では『見ざる聞かざる』っていうのは今日オイゲンから教わったけど……」

少し納得がいかない感じが隠しきれないシュペーが言うと、アラバマが「同感」と答え、ガングートも「ああ」とかえした。

「機密事項だらけなど……かつてのロージナ(露語・祖国と言う意味)がソ連の頃であった訳ではあるまいし……」

軽くため息を吐きながらガングートはコーヒーカップに残っていたブラックコーヒーを飲んだ。

「隠し事はいい事もあるかもしれないけど、どんな人なりかは知りたいね」

「ウチのCIAにでも聞く? 何でも答えを出せる名探偵よ」

ジョークのつもりでアラバマが祖国アメリカの情報機関の名を口に出したが、シュペーもガングートも笑わず、アラバマの言葉は空回りに終わった。

「下らんアメリカンジョークだな。いやジョークとすら言えんな……」

ちょっとした冗談に笑ってくれず、駄目だしとばかりにコーヒーを飲みながら「下らん」「言えん」とストレートに言い放つガングートに、アラバマはムッとして頬を赤らめたが、シュペーに肩を叩かれて、笑えないし、いちいち怒る事じゃないよ、と諭されると鼻をフンと鳴らして自分の微糖コーヒーを飲んだ。

とは言え、やはり何者かは知りたいと言う気持ちだけは、平静さに見えるガングートの姿勢の内側で残っていた。

 

(旗艦にとって必要なのは、信頼と情報だ。開示しない情報は勿論軍事では当たり前ではあるが……。旗艦となるアシタカと言う輩には謎が多すぎる。

個人的なことを一切話さない奴と共闘するのは、別に無理ではない。

が、心の内が読めないのでは肝心な時に聞いても答えてくれない状況を作り出しかねないし、暗黙の了解も取りにくい……)

 

ガングートは個人プロフィールなどの書類上では「オクチャブルスカヤ・レボルチャ」(一〇月革命)と言う名前だが、長い上に発音になれていないと噛んでしまったり、間違った発音になるので、同郷の艦娘以外からは専らガングートと呼ばれているし、自身もそれで構わないと思っている。

艤装は愛鷹と同じ口径の主砲がメインだが、強化炸薬、主砲を最新の長砲身に換装、大重量砲弾の採用などで、戦艦ル級を難なく倒すことは簡単だし、重巡リ級、ネ級相手にも不足はない。

それ以上となると手に負えないのは勿論だが。

因みにガングート、シュペー、アラバマの三人は結構な酒豪である。艦娘の中には酒好きは大勢おり、ガングートは故郷のロシアらしいウォッカ(ヴォトカ)好きで、シュペーはやはり国柄でビール好きだ。

アラバマは缶ビールでもウォッカでも酒類なら何でも飲める。

さらにガングートは愛煙家でもありパイプも持っている。

日本では駆逐艦若葉が市販品の銘柄が「わかば」と名前共通のモノも時々吸っている(同じ部屋の初霜は嫌煙家で若葉の喫煙は原則一週間に一回と定められている)し、日本艦娘の中でも辛い目に遭った時はストレス発散に煙草を吸っているところが何度か見られている。

若葉は見た目がどう見ても小学生か中学生程度で煙草を吸っていい年齢には全く見えないが、これはやはり発育の停止に伴うもので、若葉自身の中身はすでに二〇代を超えているので「自己責任」での喫煙だ。

見た目が未成年そのものなので、警備の海兵隊員や武本自身が代わりに買いに行くこともある。

肺癌、口臭の酷さの原因になるため、喫煙は禁じられてはいないが、「カッコつけ」と言う目で見られるので喫煙艦娘は日本では少数派だ。

国柄の違いか北米艦隊の中ではラッキーストライクを愛煙している戦艦娘や空母娘などは普通に居り、喫煙はそれほど珍しくない。

実は武本も喫煙するが、それは主に大規模作戦成功を祝っての葉巻が多い。

アラバマも煙草を吸うが、四人姉妹中吸っているのは彼女のみだ。

日本基地の酒保では煙草類は売っていないので欲しくなったら自分で、素性を偽装して買いに行くしかない。

偽装するのは艦娘が偶然親族に会ってしまった際に艦娘の心が揺らいで士気の低下に繋がる、と言う理由で禁止されている。

艦娘は終身軍人だから除隊はできない。

食事を食べ終えたガングートはタバコ吸って来る、とシュペー、アラバマに告げて食堂を出た。

 

 

夜の海は月光で照らされているだけに非常に静かで、美しかった。

風は強くなく、海も凪いでいる。

基地にある埠頭の一つに愛鷹がいた。いつものコート姿で。

海軍基地なので埠頭は複数あるが、適当に選んでいただけなので特に執着はない。

ただ埠頭で海を眺めている事が好きだった。

夜の海は月光の刺す時ほど美しい夜の海は無い。

 

口には葉巻を咥えている。

先端部からはうっすらとした煙が上がっている。

出自の関係上体には常にストレスがかかっている。

だから葉巻を吸っているとそのストレスが結構減るのだ。

体に悪い事は勿論承知している。承知した上で吸っているのだ。

「……『彼女』は今トラックにいるはず……」

煙をフッと吐きながらトラック基地に展開する日本艦隊の「彼女」の事を思い出すと、自分への忌々しさと共に「彼女」の忌々しさが沸き上がる。

「……許せない……けど、生きる事への道を選択した私が……一番憎い存在か……」

 

自嘲の笑みを口元に浮かべながら細めた目で海を見ていると、時々ではあるものの自分自身の存在が果たして本当に必要だったのか、分からなくなる。

「彼女」と「あの人物を含む連中」が自分を……。

期待された存在として生まれた自分。

しかし、その後の結果、自身が産声を上げるまでの経緯は考えるだけで「人間」と言う物の憎らしさが強くなる。

いっそ、自殺した方が自分には楽だったのではないか? そう思う事すらあった。

だが愛鷹は自ら「死」を選ぶより、「足掻く」ことを選んだ。

自殺は「今の自分に置かれた状況に耐えられなくなった臆病な人間がとる逃げ道」と愛鷹は捉えていた。

そうであるなら愛鷹は「逃げる」より「生きる」という事を選んだ。

「生きる」と言う事は自分との辛い戦いだが、その戦いの人生を選んだのは自らの意思だ。

たとえその「戦う」事が単なる「悪足掻き」だったとしても、この世に生まれて艦娘としての生を得て、今自分がここにいる理由は「自ら安易な死を選ぶ臆病者として最期を迎えるより、辛く苦しくても深海棲艦と自らと戦う修羅の道を歩くことを選んだ末に訪れる死を迎えたかった」からだ。

葉巻を吸い、海を眺めている時に「自分自身と『彼女』を忌み嫌い憎むくせに、生きることを選んだ自分」への存在に対する矛盾は自覚している。

「……まあ、足掻いてみせる……自分で選んだレールだから……」

艦娘の格言の様なものとして「暁の水平線に勝利を刻む」とあった。

そうなら自分は差し当たり「暁の水平線に自らの存在を刻む」だろう。

 

ふと葉巻を吸っていた時、何かが自分を見ていることに気がつた。

左足のつま先を一回、トン、と叩く。

「……隠れていても意味はないですよ、青葉さん……」

少し離れた茂みで愛鷹の写真を撮ろうとしていた青葉が驚くのが分かった。

愛鷹は基地に着任する前に、出会うことになる艦娘の戦闘スタイル、私生活、クセ、航行時の推進音から水切り音など全てを叩き込まれていた。

だから左足の靴の先端部に仕込まれたソナーで一回地面を叩けば、それがアクティブソナーの単信音として周囲にいる物が何かが大体わかる。

本来なら海上で使う代物だが、陸上でも一定範囲内なら聞こえる。

「よ、よく分かりましたねえ……」

冷や汗を浮かべながら、茂みから顔を出した青葉に愛鷹は答えなかった。

ちらりと視線を向けた程度だ。

「いつ頃から分かってました?」

「左足で地面をたたく一〇秒ほど前に」

「で、でもなぜ私だと?」

愛鷹はすぐに答えなかった。

靴の先端部のソナーの事を明かしていいか分からなかったのだ。

しかし、自分が率いる艦隊の同僚になるからにはあまり隠し事は出来ない。

葉巻の煙をふう、と吐いてから愛鷹は右手の人差し指で右耳を突っついた。

「ああ、耳がいいんですね」

そう言って青葉は茂みからカメラを持って埠頭に出てきた。

トン、と青葉の履くローファーが足音を立てる。

「えっと、明日からお世話になります、青葉型重巡の青葉です」

一応、青葉は敬礼をして愛鷹に自己紹介した。

海を一人で見ていたかったのに、と面倒に思いつつも無視するのは野暮ったいと思い、青葉に向き直って「愛鷹型超甲巡の愛鷹です。以後お見知りおきを」と敬礼と共に名乗った。

 

カメラを持っていると言う事は、取材か……。

青葉の趣味と言うべきか、艦娘としての役割なのか……。

週に一回配信される「艦隊新聞」の編集長兼記者だと言う事は知っていたし、最近では衣笠まで巻き込んで色々とネタを探している事も知らされている。

発刊停止回数が七回もある「艦隊新聞」は、艦娘同士でもゴシップ紙になることもあれば、大規模作戦の予告など取り扱っているジャンルは多いが、パパラッチ癖の青葉の無茶苦茶な取材記事で発刊停止を食らっている。

一番ひどい目に遭ったのは長門の私生活を書いたことだ。

冷静沈着で武人然としたイメージの長門が、休める時どうしているかを追跡取材して、可愛いもの好きと言う事が分かり、あの堅物に見える長門秘書艦が一転してロリコンだ! と青葉はその凄まじいまでのギャップに思わず我を忘れ、スクープとして掲載した。

二時間後、怒り狂った長門と基地内で鬼ごっこする羽目になった。

最終的には青葉がギブアップし、脳震盪を起こしそうになるほどの鉄拳制裁(私的)を一発喰らって伸びてしまった。

 

「取材ですか?」

無愛想に問いかけてきた愛鷹に青葉は「はい」と即答した。

「皆さん結構気にしてますよ、謎の艦娘新たに着任って」

「謎の……それはタイトルじゃないですか? 『艦隊新聞』の見出しに使う」

「まあ、そうなりますねえ……」

先取りされている? と青葉は苦笑を浮かべながらも愛鷹の読みの速さに少し驚いていた。

「そこでなんですが、皆さん結構気にかけているのでジャーナリストとして、『艦隊新聞』に愛鷹さんの事を紹介する記事を載せたいのです」

「教えられることなんて、殆どないです。

艤装を調べまわしたことを中心に記事を書けばいいのでは?」

「うーん、それだと只のスペック紹介みたいなので、皆さんの興味度があまり高くないんです。

愛鷹さんの人なりとか、趣味とか、こだわりとか……」

結構面倒な相手が来た、と愛鷹は顔には出さなかったが青葉と言う艦娘が少しだけだが鬱陶しい存在に思えた。

一応、公開出来ることなら幾つかはある。

もっとも着任したての時に、武本の執務室で長門たちに見せた自身のロックされた情報以外、応えられるものは殆どない。

答えられるものか……と愛鷹が考え込んでいるのを見抜いた青葉は、キュロットの右ポケットに入れていたメモ帳とボールペンを出していた。

「……その葉巻、どこのですか? 結構高いブランド品とか?」

「そんな贅沢なものではありません。安物です」

安物の葉巻と言う事はあながち間違っていないが、多少の拘りの様なものはあるから、葉巻としては安いがそれでも万単位の価値はある。

 

艦娘には給料を貯めて、非番の時に街に繰り出してショッピングする時、高値の物を購入する艦娘はそれなりにいる。

例えば自称艦娘イラストレーターの秋雲のノートパッドや、磯波の高級カメラ、航空巡洋艦の熊野の神戸牛、などが代表例だ。

艦娘も元はと言えば彼女らの母親が腹を痛めて産んだ人間。

艦娘としての適性があろうがなかろうがショッピングで盛り上がる素の女性らしいところを持つ艦娘は普通にいる。

単に愛鷹にはブランド商品などに興味がないし、物を買う時に安くても物持ちが良ければ自分はそちらを選ぶ。

別に節約家という訳でもなく、ただ単に高い金をかけてデリケート物を買うより、たとえ安い物でも信頼性が高い物であればそちらを買う方だ。

化粧なんて一度もしたことはないし、貯金悩みをしたことはない。

必要の無いモノに金をかけなければ、興味を持たないし、目もくれない。

質素ではないがその逆でもない。

 

その事だけ、一応明かしてもいいだろうと思って愛鷹は話した。

当然と言えば当然か、青葉にはネタとしての飛び抜けた所が無いので渋面を浮かべる。

「そろそろ、帰ってもいいですか?」

葉巻が吸える限界に近付いていたので青葉に尋ねた。

愛鷹の人物性が結局明らかになっている所にとどまるこの取材で、青葉が納得するはずがない。

「えー、もっと何か話してくださいよー。食べ物の好き嫌いとか、趣味とか」

「……」

そんなことを言われても、もう言える事などない。

食べ物への好き嫌いもないし、趣味と言えば海を眺めるか……言葉調べか……。実はジャズ鑑賞が好きだがそれは少し恥ずかしいので言えない。

すっていた葉巻をシガーレットケースに入れ、自分の部屋に戻ろうと向きを変えた時、青葉が愛鷹の顔を見て「何か」に気が付いたような顔になった。

「どこかで見たような……」

まただ、と若干苛立ちすら感じた時、青葉はメモ帳とペンをしまった。

終わりかな、と愛鷹は取材が終わったと思い、両手をコートのポケットに入れて寮へ戻ろうと歩き出した。

すると青葉が左のポケットに入れていたスマートフォンを出して、撮って来た写真が入っているアルバムを開いた。

「帰らせてもらいますよ。明日から仕事が始まりますから」

愛鷹が青葉とすれ違いざまに言った時、青葉が「やっぱり……」と呟いた。

視して歩を進めていた時、青葉は駆けだして愛鷹の前に立つと、スマートフォンに出した写真を愛鷹に見せた。

「何か、心当たりありませんか?」

 

写真を見せられた愛鷹は、初めて少し驚いた表情になった。そして(なるほど)と胸中で呟きながら青葉を見た。

普段からお惚けキャラ、やらかし屋エトセトラエトセトラとは言っても、歴戦の第六戦隊に所属して「ソロモンの狼」と言う二つ名を持ち、洞察力もいい青葉が自分の正体に少し感じるところがあるのは他の艦娘にはない所だ。

制帽を深めに被っている愛鷹は今日、基地で出会った艦娘達から「どこかで見たような」「?」と不思議な目で見られていたが、青葉は何かキーワードの様なモノを見つけることは出来たみたいだった。

「愛鷹さん、親族は?」

「……いない……」

無駄だと分かってはいたものの、一応はぐらかす様に愛鷹は答えたが、青葉の目は真剣だった。

「でも、この人には見おぼえがあるのでは? または何かあなたに関連するところがあるとか?」

取材の時の口調から一転、真実を追及するような口調になった青葉の顔は、非番の時でも、戦闘中の時でも、同じ部屋で寝起きする衣笠の前ですら、滅多に見せたことのない表情だった。

青葉の真顔を見ながら愛鷹は急に(貴女の様な、感のいい艦娘は好きだな)と思った。

「……キーワードを得たようですね。でも、それ以上探りは入れないほうがいいです」

フッと初めて感情のないような顔ばかりだった愛鷹は、口元を少し緩めた。

愛鷹が歩き出すと、青葉はスマートフォンを下ろし電源を切った。

眼付は変わらないがもう立ちふさがってでも聞こうと言う気はないらしい。

その青葉の脇を通る際に「たとえ『ソロモンの狼』と呼ばれる貴方でも……」と小さく残して巡洋艦寮に帰っていった。

 

立ち去る愛鷹の背中を見ながら、青葉は自分が感じ、頭の中に残ったキーワードを小さく呟いた。。

「第一艦隊に……かな」

感じたキーワードを呟いた青葉は寮へと戻る愛鷹の背中を見ながら、「たとえ『ソロモンの狼』と呼ばれる貴方でも」という意味深な発言に、何か自分は得体の知れない大きな謎に一歩近づいた気がした。

 

 

パイプの煙を燻らせていたガングートは慣れてきたとはいえ、まだ暑い夜空と海を眺めながら羽織っているコートのボタンを二つ締めて、飛ばされないようにした。

ふとコツコツと歩く靴音に気が付き、その音の方を見ると見慣れない女性が巡洋艦艦娘の寮へと歩いていくのを見かけた。

コートと目深にかぶった海軍制帽。

見覚えが無い。

この基地の司令官の武本はコートを着ることはあまりないし、ほかの男性幹部で今この季節中にコートを着用するものはいない。

「……誰だ? ……もしや、あれが噂の?」

 




いかがでしたでしょうか?
個人的には「盛り込みすぎたかな……」と思うところはありますが……。

戦闘シーンが無いとちょっと面白くないと思い、深雪に演習ではある物の対空戦闘演習シーンを少し入れました。
かなりの独自解釈描写になってますが、まあそこは……公式設定ないので……。

青葉はお気に入り艦娘でやらかし屋、お惚け、と明るい人物ですが実際に「ソロモンの狼」の異名の持ち主ですし、戦闘中に「迷言」をよく言っても「重巡洋艦」なだけに結構重宝してます。
やらかし屋、お惚けキャラですが、洞察力に優れた切れ者としての顔も個人的に考えてます。

*大幅な加筆修正を加えました。

では、また次の話でお会いしましょう。

*劇中、突然朝潮と荒潮が登場しているところがあるのを失念しており、加筆修正しております。
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